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天皇陛下生前退位問題(その2)(おことば表明の背景、日本の「保守主義」の矛盾、皇室典範改正を見据え生前退位の環境整備を急げ) [国内政治]

天皇陛下生前退位問題については、9月2日に取上げたが、今日は、(その2)(おことば表明の背景、日本の「保守主義」の矛盾、皇室典範改正を見据え生前退位の環境整備を急げ) である。

先ずは、9月7日付け毎日新聞「おことば表明1カ月 政府、今春「退位は困難」 宮内庁に「摂政で」回答 陛下の本気度伝わらず」を紹介しよう。
・天皇陛下が生前退位の意向がにじむおことばを表明されてから8日で1カ月を迎える。関係者の証言を基に振り返った。 生前退位ができるか検討したが、やはり難しい」。今年春ごろ、首相官邸の極秘チームで検討していた杉田和博内閣官房副長官は宮内庁にこう返答した。
・天皇陛下は昨年12月18日、82歳の誕生日にあわせた記者会見で「行事の時に間違えることもありました」と述べた。昨夏の戦没者追悼式で手順を誤ったことなどを指す発言とみられている。宮内庁は官邸に「8月15日に段取りを間違えて陛下は退位の思いを強くされた。おことばを言いたいという強い思いがある」と伝えた。「陛下は摂政には否定的だ」という条件もついていた。
・官邸は水面下で検討を始め、杉田氏のもとにチームが結成された。総務、厚生労働両省、警察庁などから数人程度が出向し、内閣官房皇室典範改正準備室の別動隊という位置付けだったが、準備室のメンバーさえ存在を知らない「闇チーム」(政府関係者)だった。 チームの結論は、「摂政に否定的」という陛下の意向を踏まえたうえでなお、「退位ではなく摂政で対応すべきだ」だった。結論は宮内庁に伝えられ、官邸は問題はいったん落ち着いたと考えた。陛下の意向が公になった7月13日の報道も寝耳に水だった。
・陛下がおことばを表明する数日前、宮内庁から届いた原稿案を見た官邸関係者は、摂政に否定的な表現が入っていることに驚いた。官邸内には「摂政を落としどころにできないか」との声が依然強かった。安倍晋三首相と打ち合わせた官邸関係者は、「陛下のお気持ちと文言が強すぎる。誰も止められない」と周辺に漏らした。官邸と宮内庁で原稿案のやりとりを数回したが、摂政に否定的な表現は最後まで残った。
・陛下は2010年夏ごろから退位の意向を周辺に示されていた。12年春ごろ、陛下から意向を直接聞いた宮内庁幹部はその場で思わず「摂政ではだめですか」と聞き返した。しかし陛下は象徴天皇としてのあり方について話し、摂政には否定的な考えを示したという。 皇室典範は退位を想定しておらず、政府はこれまで国会答弁で否定してきた。複数の官邸関係者は「宮内庁から官邸に陛下の本気度が伝わっていなかった」と証言。「だからおことばに踏み切らざるを得なかったのだろう」との見方を示す。
・政府にできたことは、表現を和らげることだけだった。首相周辺は「最初の原稿案は、より強くてストレートな表現だった」と話す。おことばは「天皇という立場上、現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら」と断り、「私が個人として」話すとしている。天皇が政治に関与できない憲法の規定を踏まえ、整合性を取ったとみられる。
・おことばには「象徴天皇の務めが安定的に続いていくことを念じ」ともあり、典範改正を望むようにも読み取れる。政府は、退位の条件などを制度化するのは議論に時間がかかるとして、特別立法を軸に検討している。
http://mainichi.jp/articles/20160907/ddm/001/040/197000c

次に、作家の橘玲氏が10月11日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日本の「保守主義」は、天皇の「人権」を認めていない[橘玲の日々刻々]」を紹介しよう。
・今上天皇が生前退位を希望していることが明らかになり、政府は一代限りの特別措置法の検討をはじめましたが、この出来事は同時に、日本における「保守主義」の本質をくっきりと描き出しました。
・世論調査では9割以上の国民が退位に賛成しているように、天皇が「お気持ち」を表明した以上、それを尊重するのは当然というのが圧倒的多数派であるのは間違いありません。それに真っ向から反対し、「天皇は退位できない」と主張するのが保守主義者です。
・そもそも天皇というのは「身分」ですから、身分制を廃した憲法の理念に反しますし、天皇・皇族には職業選択の自由もありません。かつてのリベラル派は天皇制を戦争責任で批判しましたが、最近は「天皇は国家によって基本的人権を奪われている」との論調に変わってきています。これはたしかにそのとおりですが、ヨーロッパの民主国家にも立憲君主制の国はあり、「人権侵害」だけで天皇制を否定するのは説得力がありません。
・とはいえ、オランダの王室では3代つづけて国王が自らの意思で退位したように、「自己決定権」の原則は皇室にも及ぶことが当然とされています。イギリスのエドワード8世は離婚歴のある平民のアメリカ女性と結婚するために1年に満たない在任期間で王位を放棄しましたが、これは「皇室から離脱する権利」です。王の条件は「身分」でもそれを選択するのは本人の自由、というのが「リベラルな皇室」の価値観で、「やりたくない」というのを無理にやらせるのでは、天皇制廃止論者が主張する「天皇こそが“現代の奴隷”」を認めることになってしまいます。
・しかし保守主義者は、この論理を受け入れることができません。じつは彼らの主張にも一理あって、ヨーロッパには皇族のネットワークがあり、跡継ぎを他国の皇室から迎えることもできますが(よく知られているようにイギリス王室のハノーヴァー家はドイツの皇族です)、日本の皇室ではこのようなことができるはずもありません。海外を見れば皇統の断絶はいくらでもあるのですから、「万世一系」は風前のともしびというのが保守主義者に共通の危機感なのです。
・保守派の論客のうち、八木秀次氏は「日本の国柄の根幹をなす天皇制度の終わりの始まりになってしまう」と退位を明確に否定し、桜井よしこ氏は「(高齢で公務がつらくなったのは)何とかして差し上げるべきだが、国家の基本は何百年先のことまで考えて作らなければならない」と述べます。さらに日本会議代表委員で外交評論家の加瀬英明氏は、「畏れ多くも、陛下はご存在事態が尊いというお役目を理解されていないのではないか」とまで述べています(いずれも朝日新聞9月10日/11日朝刊より)。
・これらの発言からわかるのは、保守主義者にとって重要なのは天皇制という伝統(国体)であって天皇個人ではない、ということです。これは批判ではなく、保守主義では伝統は人権に優先するのですから、当たり前の話です。 しかしこうした古色蒼然の政治的立場は、もはやひとびとの共感を集めることはないでしょう。戦後の日本社会は、天皇の「人権」を常識として認めるところまで成熟したのです。
http://diamond.jp/articles/-/104372

第三に、政治評論家の田原総一郎氏が10月13日付け日経Bpnetに寄稿した「皇室典範改正を見据え生前退位の環境整備を急げ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽ようやく開かれる有識者会議の初会合
・政府は10月17日、天皇陛下の生前退位を検討する「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の初会合を開く。 8月8日、天皇陛下がビデオメッセージで、国民に向けて生前退位の意向を表明されてから2カ月余りが過ぎた(過去記事「天皇陛下『生前退位』ビデオメッセージの真意」参照)。ようやく来週から議論が始まるわけだが、どうも政府は皇室典範の改正を行わず、特別措置法(特措法)での実現を目指しているようだ。
・政府が特措法として進めようとしていることには、理由がある。もし、皇室典範を正式に改正しようとすると、非常に時間がかかる。二年以上かかる可能性もある。下手をすれば、今上天皇がご存命のうちに成立が間に合わなくなるかもしれない。だから、早急に特措法で決めようというのだ。
・政府が特措法で進めたいもう一つの理由として、時間的な問題以上に、別の力学が働いている。それは皇室典範を俎上に乗せてしまうと、女性天皇、女系天皇、女性宮家の問題にまで議論が及ぶことになるからだ。安倍政権としては、こうした議論を避けたいという思惑があるのだろう。
▽頓挫した女性天皇・女系天皇・女性宮家の議論
・例えば、2000年代半ばの小泉純一郎内閣の当時、天皇陛下の孫の世代に皇位を継承する男子がいないことに危機感を持った政府は、女性天皇を容認しようとしていた。 05年11月、小泉内閣のもとに設置された「皇室典範に関する有識者会議」は女性天皇や、母方が天皇の血筋を引く女系天皇を認める最終報告書を提出した。 だが、男系を主張する保守派の強い反対があったことと、06年に秋篠宮文仁親王と同妃紀子さまの間に悠仁親王が誕生したことで、議論は中断されてしまった。
・民主党の野田佳彦内閣では、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保つ「女性宮家」の創設を検討した。僕も有識者の一人として審議に参加し、女性宮家に賛成の立場をとった。しかし、これも2012年に自民党の安倍晋三内閣へ政権が移ることで中断されてしまう(過去記事「『女性天皇』『女系天皇』についても侃々諤々と議論せよ」参照)。
▽なぜ右派勢力は男系男子にこだわるのか
・なぜ天皇を男系男子にこだわる勢力が多いのか。彼らが主張するのは「伝統」だ。神武天皇以来、2000年も男系の伝統が続いており、8人の女性天皇がいたが、すべて男系の女性天皇だった。 こうした伝統があるからこそ、鎌倉幕府、室町幕府、江戸幕府と実質的に政治を牛耳っていた武士社会の政権が交代していっても、天皇が尊重され、天皇を上に置いた。日本という国を統治するのにふさわしい存在として認められたのは、伝統のおかげで、それを支えているのが男系の天皇というわけだ。
・日本が戦争に負けた時も、この独特の価値観が利用されたことがあった。一般的には、戦争に負けると、国の最高責任者は裁判にかけられ、処刑されるか、追放された。 しかし、当時のアメリカ占領軍の最高司令官マッカーサーは、天皇を裁判にかけることはしなかった。ソ連などは、「天皇の責任を追及するために、軍事裁判にかけるべきだ」と主張したのだが、マッカーサーはこれを拒否して、象徴としての天皇制を維持した。
・天皇制を続ける方が、アメリカの占領政策がやりやすいと判断したからだ。つまり、天皇制を維持する方が、日本人が言うことを聞くと考えたわけだ。アメリカは、日本の「伝統」をうまく使ったと言える。いずれにしても国を治めるための重しとしての天皇制は重要なのだが、その要となるのが「伝統」で、その伝統は男系天皇だからこそ守られているというのが、右派の主張だ。
▽天皇陛下の思いを政府は重く受け止めるべき
・もっともこうした議論に、今上天皇を巻き込んでは、生前退位そのものの実現が難しくなってしまう。そこで、こうした議論はいったん置いておいて、今上天皇の生前退位の道を開こうというのが特措法での対応だ。
・8月のビデオメッセージで天皇陛下は以下のようにお言葉を述べられた。 「日本国憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を、日々模索しつつ過ごして来ました。(略)何年か前のことになりますが、2度の外科手術を受け、加えて高齢による体力の低下を覚えるようになった頃から、これから先、従来のように重い務めを果たすことが困難になった場合、どのように身を処していくことが、国にとり、国民にとり、また、私のあとを歩む皇族にとり良いことであるかにつき、考えるようになりました」
・おそらく宮内庁を通じて、何度も生前退位のご意向を打診してきたであろう天皇陛下が、やむにやまれずビデオメッセージで真意を国民にお伝えになったわけだ。  こうした思いを国民も、政府も重く受けとめなくてはならないだろう。では、現実的にはどのように進めていけばいいのか。
▽世論は皇室典範の改正を望んでいる
・これに関して、読売新聞が10月7~9日に実施した全国世論調査で、興味深い結果が出た。 現在は認められていない天皇陛下の「生前退位」について、「生前退位を認める必要はない」は3%しかなく、大多数の国民が今上天皇の生前退位を認めるべきと考えている。 ただし、政府が結論を「急ぐべきだ」と思う人は48%で、「慎重に検討すべきだ」の45%と、拮抗したという。つまり、「生前退位を急ぐべき」と考えている国民が、慎重派をやや上回る程度だった。
・生前退位に関する政府の対応は「今後のすべての天皇陛下に認める制度改正を行う」が65%、「今の天皇陛下だけに認める特例法をつくる」は26%という結果だった。さらに「生前退位を急ぐべき」と答えた人の69%が「皇室典範の改正」を望んでおり、「特例法で切り抜けるべき」と答えた29%を大きく上回った。 国民の多くは、正式に皇室典範の改正をすべきだと思っているのだ。
・僕は仮に今回は特措法で迅速に対応したとしても、きちんと天皇や皇室のあり方について議論を進め、皇室典範の改正に踏み切るべきだと思う。それこそが、天皇陛下が大変な思いでお伝えになった「お気持ち」を誠実に受け止めることになるからだ。
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/100463/101200086/?P=1

毎日の記事では、官邸の『チームの結論は、「摂政に否定的」という陛下の意向を踏まえたうえでなお、「退位ではなく摂政で対応すべきだ」だった』、というのは驚くべき無礼な対応だ。陛下としても、やむなくおことば表明に踏み切ったのだろう。しかし、官邸は典範改正には議論に時間がかかるのを口実に、特別立法で乗り切ろうとしているようだ。
橘氏は、『保守主義者にとって重要なのは天皇制という伝統(国体)であって天皇個人ではない、ということです。これは批判ではなく、保守主義では伝統は人権に優先するのですから、当たり前の話です』、と指摘している。結論部分では、『戦後の日本社会は、天皇の「人権」を常識として認めるところまで成熟したのです』、としているが、安部政権の姿勢は、そこまで「成熟」していないということのようだ。
田原氏の記事では、野田政権時代に、「女性宮家」の創設を含めた皇室典範改正にいま一歩のところまでたどり着きながら、安部政権がこれをつぶしたようだ。同氏は、『仮に今回は特措法で迅速に対応したとしても、きちんと天皇や皇室のあり方について議論を進め、皇室典範の改正に踏み切るべきだと思う』、と主張しているが、特措法で対応したら、それで止まってしまい、皇室典範改正などは棚上げになるのが安部政権のやり方なのではなかろうか。
いずれにせよ、陛下のおことば表明が、陛下や多くの国民が望んでいない形で決着が図られるとすれば、残念なことだ。
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