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企業不祥事(その7)電通(過大請求、新入社員過労自殺) [企業経営]

企業不祥事については、10月17日に取上げたが、今日は、(その7)電通(過大請求、新入社員過労自殺) である。

先ずは、9月24日付け東洋経済オンライン「電通、デジタル広告で"不適切取引"の裏事情 顧客トヨタの指摘で発覚、広告の未掲出も」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・金額は大きなものではなかった。だが、電通にとってはかなりの痛手となりそうだ。 9月23日、広告代理店大手の電通は東京証券取引所で会見を開き、デジタル広告サービスについて不適切な取引があったことを発表した。広告の掲載期間がずれていたり、広告が掲載されていなかったというものだ。
・不適切な疑いのある案件は633件、111社にのぼり、金額は合計2億3000万円。そのうち未掲載にもかかわらず、広告主に請求した額は320万円だった。中本〓一副社長らは会見の冒頭、「広告主、関係者、株主の皆様に多大な迷惑をお掛けしました」と謝罪した。現時点で、業績に与える大きな影響はないという。
▽「効果が出ていない」、広告主の指摘で発覚
・一連の不正が発覚したきっかけは、広告主であるトヨタ自動車の指摘(7月)だったという。「広告を出稿したにも関わらず、その効果が出ていない」といった指摘を受けて電通が調査すると、故意もしくは人為的なミスにより、間違った時期に広告が掲載されていたり、掲載されていなかったり、広告の運用状況に虚偽の報告が含まれていることがわかったという。 電通は8月に中本副社長をトップとする社内調査チームを立ち上げ、現在も調査を進めている。広告主には個別の結果がまとまり次第報告し、すべての調査は年末までに終える見通しだ。
・今回の焦点となったデジタル広告には、グーグルなどの検索エンジンで検索した際に、そのキーワードに連動して表示される「検索連動型広告」や、広告主が狙ったユーザーに広告を表示すると同時に、その効果に見合った金額で出稿できる仕組みなどが挙げられる。 デジタル広告はテレビや新聞のようにマス層に向けてアピールするものではないが、より広告を見てほしいユーザーに効率的に届けられるため、広告主のニーズは年々高まっている。「毎年2ケタ増のペースで売上高を伸ばしている」(電通・デジタルプラットフォームセンターの榑谷典洋局長)。
・ただ、急成長しているだけに現場の負担は大きく、人員も十分ではなかったという。電通側は成果を出すことに対してプレッシャーがあったのではないかと説明したが、金額からして、現段階では特段、過大な請求をしたわけではなさそうだ。不正は今回の発表内容にとどまるのか。それとも氷山の一角なのか。背景について、さらに調査を進めていくとしている。
▽デジタル強化が裏目に出たのか?
・デジタル分野は現在の電通にとって最重要の分野だ。国内では今年7月、デジタルマーケティングの専門会社「電通デジタル」を設立したばかり。ITコンサルやビックデータの活用、eコマースなどに力を入れてきた。海外でも、米国のデータマーケティング会社を買収するなど、年間400~500億円程度の枠を設け、デジタル関連の会社の買収を進めている。
・会見では、「デジタル戦略を強化してきたことが、こうした不正につながったのではないか」との質問も出た。これに対し、中本副社長は「広告主のニーズに応えていく。きちんとした再発防止の対策を講じつつ、伸ばしていきたい」と語った。 9月からはデジタル広告の内容確認の業務について、独立性の高い部署に移すなどの措置を取っているというが、これまでのようにデジタル分野を伸ばすことができるのだろうか。明確だったはずの成長戦略に、自ら水を差してしまったようだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/137379

次に、ジャーナリストの池田信夫氏が10月14日付けJBPressに寄稿した「電通「過労自殺」事件の原因は長時間労働だけではない 問題は「ブラック企業」ではなく日本社会にある」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・2015年12月、電通の新入社員だった高橋まつりさん(享年24歳)が自殺した。これは長時間労働による精神障害が原因だったとして、労災が認定された。彼女はインターネット広告部門に所属し、残業が月100時間を超えたこともある。 この事件が注目されたのは、彼女が東大卒の美人で、自殺する直前までツイッターで苛酷な勤務の苦痛を訴えていたためだ。ネットから反響が広がり、マスコミも「長時間労働が原因だ」とか「電通はブラック企業だ」とか騒いでいるが、本当だろうか。
▽日本の会社はほとんど「ブラック企業」
・高橋さんのツイッターアカウントは今は閉鎖されているが、ネット上で拡散したのは次のようなツイートだ。彼女は「死にたい」というシグナルを何度も出していたのに、上司は気づかなかったのだろうか。
・休日返上で作った資料をボロくそに言われた。もう体も心もズタズタだ。 もう4時だ体が震えるよ…しぬ。もう無理そう。つかれた。 土日も出勤しなければならないことがまた決定し、本気で死んでしまいたい。 はたらきたくない。1日の睡眠時間2時間はレベル高すぎる。 死ぬ前に送る遺書メールのCCに誰を入れるのがベストな布陣かを考えてた。
・確かに悲惨な労働環境だが、労働基準監督署が認定した彼女の10月の残業は105時間、11月は99時間だった。これは公式の数字なので、実態はもっとひどかったと思われるが、100時間程度の残業は私も経験したことがある。この程度は、多くのサラリーマンが経験しただろう。
・もちろん私は長時間労働を正当化しているわけではない。電通が違法行為をやっていたら労基署が是正すればいいし、合法なら責任は問えない。それを「ブラック企業」という卑怯な呼び方で呼ぶなら、日本の企業はほとんどブラックだ。最悪のブラック企業は、夜討ち朝駆けで毎月200時間ぐらい残業しているマスコミだろう。
▽ストレスの原因は不正請求事件か
・過労死や過労自殺をめぐる労災事件では、因果関係の認定が焦点だ。労基署は労働者の救済のため幅広く認定するが、民事訴訟ではそれより厳格に因果関係をみる。この事件では、労働時間だけで電通の雇用者責任を問うことは難しい。 自殺の直接の原因は、労基署も認定したように精神障害(鬱病)だと思われる。過労自殺は、年をとってやり直せない中高年に多い。若くて高学歴の彼女なら、電通を辞めても他の会社に入ることは容易だったはずだが、鬱病になるとそういう合理的な思考もできない。
・問題は、鬱病になるほど強いストレスとは何だったのかということだ。詳しい労働実態は分からないが、彼女は入社1年目で、休日出勤して明け方の4時まで「資料」を作っていたことがうかがえる。 この時期に電通は、111社に633件のネット広告料の不正請求(合計2億3000万円)を行っていたことが今年9月に発表された。トヨタが7月に指摘したことが発端だが、彼女のいたデジタル・アカウント部には、それまでにもクライアントから苦情が来ていたと思われる。
・インターネット広告はアクセスに比例して課金するので、この資料はページビューなどを証明するデータだろう。普通は新入社員にこんな難しい仕事はまかせないが、東大文学部卒の彼女は期待されていたのだろう。
・会議も深夜まで開かれ、上司のパワハラもあったことがうかがえる。これも推測だが、彼女のストレスの原因になったのは長時間労働そのものより、上司のパワハラや、不正請求の資料づくりという異常な仕事だったのではないか。
・入社して半年余りの彼女にとって、会社がクライアントに嘘をついた尻ぬぐいを深夜早朝まで毎日やる心の負担は大きかっただろう。無意味な(あるいは反社会的な)仕事を100時間やらされる苦痛は、創造的な仕事を200時間するより大きい。
▽日本の労働生産性はなぜこんなに低いのか
・だから事件の根本的な原因は長時間労働より、広告代理店という非生産的な仕事にある。これはマクロ経済的にみると、日本の労働生産性につながる。日本の労働生産性はG7(先進主要7カ国)でも最低で、あのイタリアより低い。 これは1990年代から一貫してみられる現象で、個々の日本人はまじめで長時間労働しているのに、成長率も平均以下だ。部門別にみると、自動車の生産性は世界のトップだが、サービス業はアメリカの7割ぐらいだ。
・このような非効率性をもたらす最大の原因は、労働の流動性の不足だ。日本企業では指名解雇は不可能で、たとえ労働基準法が改正されて解雇が自由になっても、大企業は解雇しないだろう。それを妨げているのは規制ではなく、それを「ブラック企業」と呼ぶマスコミの評判で新卒が採用できなくなる損失だ。
・こうした硬直性と非効率性を代表しているのが広告代理店だ。世界的にみると、テレビや新聞の広告はインターネットに抜かれ、グーグル(持株会社アルファベット)の時価総額は55兆円だが、電通は1.5兆円だ。  グーグルが全世界に置いたコンピュータとインターネットで電通の35倍以上の価値を創造しているのに、電通は新入社員を明け方まで残業させて資料を作っている。この状態では、社員だけでなく会社もそのうち倒れる。仕事のやり方が根本的に間違っているからだ。
・これを労基法の改正で是正することはできない。労働問題は日本の組織の歪みの結果であって原因ではないので、「正社員化を促進する」と称して規制を強化しても、非正社員が増えるだけだ。 広告代理店やマスコミのような古い会社がいつまでも淘汰されず、若者に非生産的な労働を強制することに問題がある。その最大の原因は、日本の資本市場や労働市場が機能しないため、新陳代謝がきかないことだ。
・東大を出た優秀な人材が起業しないで、電通のような終わった会社に就職し、所得や社会的地位は高いが人生を無駄に過ごす。それは彼女にとって不幸であるばかりでなく、社会にとっても損失だ。 問題は労働時間ではなく、会社を辞めるオプションがないことだ。「この会社はブラックだ」と思うなら辞めればいい。それを妨げているのは、高橋さんの頭にも深く焼き付けられていた日本社会の「空気」なのだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48130

第三に、[ソーシャルビジネス・プランナー&CSRコンサルタントの竹井善昭氏が10月18日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「電通女性社員自殺」を単なる過労死にすべきでない理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・東大卒の電通女性新入社員が自殺した件。この女性社員が美人だったこともあってか、ネットでも大きな話題になっているが、報道でのこの件の取り上げ方に対して、僕は大きな疑問点や違和感を抱いている。
・そもそも今回の件が大きなニュースになったのは、労基署が労災認定したことがきっかけで、マスメディアでもネットでも「過労死」事件として論じられている。しかし、彼女の自殺は本当に過労死だったのか――。これを過労死としてしまうことで、もっと大きな自殺の真の原因とも言うべき「本質」が見過ごされてしまうのではないか、むしろその本質は日本の企業体質に残っている「女性問題」ではないか、と僕は見ている。今回はそのことについて語りたい。
▽メディアが報道しない矛盾
・まずは、過労死と報道されることへの疑問点について。自殺した彼女が、たんに仕事が多いから、残業が多すぎたから自殺したという捉え方は、間違っているのではないだろうか。というのも僕自身、電通とは30年以上付き合ってきたから感じるのだが、いまの電通は社員が過労死するような体質ではない。これは僕だけでなく、電通と長い付き合いのある人間に共通の感想だ。実際に最近では、電通の本社オフィスで打ち合わせをしていると、夜の8時くらいに強制的に蛍光灯が消されるなど、会社としてはとにかく社員に早く家に帰れというメッセージを日常的に送っている。
・たしかにかつての電通は、過労死が出てもおかしくないほど、極端なハードワークが強いられる会社だったと思う。しかしそれは電通だけでなく、日本企業全体がそうだった。バブルの頃には、月100時間や200時間の残業は当たりまえ。300時間を超えてようやく「ちょっと働き過ぎ」と言われた。そんな時代もあったのだ。広告代理店、商社、コンサルを筆頭に、そんな働き方をしていた企業は数多い。
・しかし、まさにバブルが崩壊した1991年、電通の若手男性社員が過労を苦に自殺。これが過労死認定され、大きなニュースになった。そのことへの反省から、90年代後半からは大手企業は社員の残業を減らすことに躍起になっている。最近は、若手社員から「もっと仕事をしたいのに、会社がそれを許してくれない」という不満が聞こえてくるほどだ。
・もちろん、労働環境は企業や部署によって違うし、自殺した彼女の部署は特殊だったのかもしれない。いまでもITベンチャーやコンサルのように、まるでバブル時代のようなハードワークを続けている業界もある。しかし、今回の自殺した女性に関しては、自殺した直前1ヵ月の残業時間は105時間、その2ヵ月前の残業時間は40時間と労基署に認定されたと遺族代理人である弁護士が発表し、それを多くのマスメディアが報道している。
・一方、ネット上では、自殺した女性のtwitterが拡散されている。そのツイートによれば、彼女は朝の4時まで会社で仕事していて、土日も休日出勤、2時間くらいしか寝られず、とにかく睡眠がほしいと訴えていたという。これが事実だとすると、残業300時間ペースの働き方だ。仮に夕方5時が定時の退社時間だとして、明け方3時、4時まで仕事をしたとすれば、残業は10時間程度。さらに土日の休日出勤で10時間程度働くとすると、平日および休日を合わせた1ヵ月の残業時間は約300時間になる。ただしこれは、認定された約100時間とは大きな乖離がある。
・もちろん、実際には300時間残業をしていたが、労基署が認定したのが100時間ではないかという人もいるだろう。もしそうだとすれば、それだけの時間しか認めない労基署に対して弁護士は強く抗議すべきだし、メディアに対してもそう発表するはずだ。また、彼女自身もtwitterで、上司から「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」と言われたと投稿している。つまり会社側も、規定を上回る20時間分を含めて、彼女の残業時間は月100時間程度だと認識していたことになる。ここでもやはり、彼女がツイートした睡眠2時間という過酷な状況と、実際に認定された月100時間残業は乖離があるのだ。
・なぜマスメディアはこの矛盾を無視し、過労死報道に徹しているのか――それが一連の報道に対する僕の疑問点だ。これでは、本当は何があったのか、実態がどうだったのかがわからない。
▽「たんなる過労を超えた何か」が なかったか?
・そして、もうひとつ。これは疑問点と言うよりは違和感なのだが、今回はtwitterによって多くの彼女自身の「証言」が遺されている。そのなかには、今回の件が単なる過労死ではないと思わせるツイートもあるが、マスメディアの報道はほぼその点について無視している。一部、過労死問題と合わせて、パワハラ問題について言及している記事もあるが、パワハラがあったのではないかと言及している程度で、その背景や原因まで考察している記事は、僕が見た限り、ほとんどない。
・とくに彼女の自殺で僕が個人的に最も胸を痛めたのは、その自殺した日時だ。彼女は、昨年12月25日の朝6時に、母親に対して「仕事も人生も、とてもつらい。いままでありがとう」というメールを送っている。驚いた母親が電話して「死んではダメ」というと「うん、うん」と返事したと言うが、その数時間後に彼女は住んでいた寮の4階から飛び降りて自殺した。
・またtwitterによれば、彼女には恋人もいたようだ。恋人のいる若い女性が、クリスマスの朝、自ら命を絶つ。その自殺の数日前、彼女はこうツイートしている。 以下、twitterより引用 せっかく4ヵ月ぶりに彼氏に会えるのに、そのために仕事をめちゃめちゃ早く終わらせなきゃならないことと愚痴を言ってはいけないというプレッシャーで辛いったらないんだよな。社会人になるってことは、一時も気を抜けないってことなんだな。
・これをツイートした日付は、2015年12月20日、日曜日だ。彼女が4ヵ月ぶりに彼氏と会ったのがツイートした当日なのか、あるいは24日、25日のクリスマスの予定だったのかは不明だが、「恋人がサンタクロース」にならなかったのは残念だ。バブル世代の時代錯誤な郷愁だと嘲笑されるかもしれないが、やはり胸が痛む。
・ただ、いまの若者は僕らが若い頃とは違って、クリスマスにそれほど大きな価値を感じていない。クリスマスイブの夜に、若い美女のスケジュールが空いていることも普通にある。しかしそれでも、彼氏と数ヵ月ぶりに会える(もしくは会ったばかりの)クリスマスの朝に自殺するのは、やはり違和感がある。つまり、「たんなる過労を超えた何か」があったのではないか、と思ってしまうのだ。そこがわからなければ自殺の本当の理由がわからない、とも思う。
・さらに、上司のパワハラ発言についても気になる。これも彼女のツイートからだが、「髪ボサボサ。目が充血したままで出社するな」「男性上司から女子力がないと言われるの、笑いを取るためのいじりだとしても我慢の限界である」など、頻繁に女子としての尊厳を否定されていたことが伺える。しかし、この点に関しても大きな違和感がある。
・というのも、報道された写真やネットに流出している写真を見ても、彼女は結構な美人だ。学生時代の写真を見ても、決して女子力の低い女性だとは思えない。一般的にキレイな女性やカワイイ女の子はビジュアル的な自意識も強く、身なりをキレイにしているもの。過剰な労働によって女子力を落としていたのではと思うかもしれないが、一般的に美人のハイスペック女子は、残業100時間程度では「女子」を捨てない。
・それなのに彼女は、髪がボサボサのまま出社し、上司から女子力のなさを指摘されるほど、女子を捨てている。彼女のようなハイスペック美人が女子力をなくすのは、単なる過剰労働を超えた、本質的な問題があるのではないか――。この件を過労死問題とすることで、「本当の理由」が社会に認識されず、いわば死因が矮小化されてしまうのではないかという危惧を持たずにはいられないのだ。
▽人を死に至らしめるもの
・彼女の自殺の本当の理由はいったい何なのか――。それを推測できるいくつかのツイートがある。そのひとつがこれだ。 以下、twitterより引用 就活している学生に伝えたいこととは、仕事は楽しい遊びやバイトと違って一生続く「労働」であり、合わなかった場合は精神や体力が毎日摩耗していく可能性があるということ。
・このツイートのポイントは、仕事を「労働」と表現していることだ。一般的に大企業の社員は、自分の仕事を「労働」とは表現しない。しかし、ここでは「労働」と表現されている。まるで、人を使い捨てのリソースとしてしか考えていない、真性ブラック企業の非正規雇用の従業員が書くようなツイートだ。
・なぜ彼女が「労働」という言葉をあえて使ったのかはわからないが、少なくとも自分の仕事に失望していたことは確かだろう。失望していた理由のひとつに、自分の価値観や考え方が上司や部署、会社のそれと合わなかったことが考えられる。そしてその場合、いろいろな意味で「消耗」が激しくなる。残業100時間どころか、たとえ勤務時間が規定の時間内であっても、価値観が合わなければ疲弊する。たんに価値観が合わないだけならまだ我慢もできるが、往々にして企業は、価値観が合わない若手社員、部下の尊厳を傷つける。社員を(労働者を)死に至らしめるのは、実は労働時間ではなく、「尊厳を傷つけること」にあるのだ。
・かつてはブラジルの農場にも黒人奴隷がいた。彼らは奴隷として人間としての尊厳を奪われただけでなく、歌や踊りという娯楽まで奪われていた。そのような状況では、人は死んでしまう。奴隷として売られた黒人たちは、平均10年しか生きられなかったという。それでは余りに非効率だということで、農場主は歌や踊りを解禁した。すると、それだけのことで(労働条件はまったく変わらないのに)黒人奴隷たちの平均寿命が10年も延びたという。なぜなら、歌や踊りというものは、人間の生命の源泉に関わるもの。それを解禁するということは、(奴隷という本質はそのままにせよ)ほんの少しだけ、人間としての尊厳を回復させるこということだ。
・その意味で、自殺した女性が奪われていたものは、実は「時間」ではなく、「尊厳」だったのではないか。それが自殺の真の原因であり、そこに注視せずに、たんなる過労死とすることは、問題を矮小化することになるのではないのか――。
・彼女はこのようなツイートも残している。 以下、twitterより引用 いくら年功序列だ、役職に就いているんだって言ってもさ、常識を外れたことを言ったらだめだよね。人を意味なく傷つけるのはだめだよね。おじさんになっても気がつかないのは本当にだめだよね。だめなおじさんだらけ。
・僕はこのツイートにこそ、自殺の「本当の理由」があると見ている。このツイートから、自殺の背景にはパワハラがあったとする記事もあるが、それでは分析が甘い。問題は、そのパワハラの正体だ。僕はそれが、日本の大手企業全般にはびこる「ハイスペック女子問題」であり、そこにまで踏み込まなければ問題の本質にまでたどり着けない、と思っている。ハイスペック女子問題については、当連載でも何度か触れた。詳しくは以下の過去記事をご覧いただきたい。
・「ハイスペック女子」はなぜすぐに会社を辞めてしまうのか?  「ハイスペックな美女」はなぜモテないのか? このハイスペック女子シリーズ記事は、当のハイスペック女子、つまり高学歴・高キャリアの女性たちから大きな反響を呼び、facebookなどのSNSでも拡散され、多くのメッセージもいただいた。そのなかには、「出勤途中の電車のなかで竹井さんの記事を読んで、涙が出てきました」というものもある。何も朝から電車の中で泣かなくてもとも思うが、それほどまでに彼女たちは抑圧もされ、疲弊しているということだ。「よくぞ、男性がこんなことを書いてくれた」というメッセージもいただいた。
・いまの日本では、ハイスペック女子でかつ美人だとなかなかモテない。政府は女性活躍推進政策を取り、保育問題に取り組み、企業も産休・育休制度の拡充に努力している。しかし、ハイスペック女子からは、「モテなきゃ恋人もできないし結婚もできない。結婚できなければ子どもも産めないから、産休、育休など無意味」という恨み節が聞こえてくる。
▽日本企業で煙たがられる ハイスペック女子
・ハイスペック女子がモテないのは、日本人男性のなかに、「女性は自分より下」という意識がいまだにあるからだ。実際、「女性の三低」問題というものは昔からあり、モテるのは男性より「低学歴・低身長・低収入」という傾向がいまだに残っている。日本企業のなかでは、高学歴で優秀な女性が煙たがられている。
・表向きはそうではないが、若手男性社員にもそのような傾向がある。たとえば、ある海外の一流大学を卒業した女性は、東大や早慶を出た同世代の高学歴男性に対して、自分の出身大学を言えないという。彼らの前で、自分はハーバードやオックスブリッジを卒業したと言ったときの微妙な空気感が嫌だというのだ。なかには、あからさまにライバル心をむき出しにする若い男性もいるそう。つまり、自分より高学歴の女子に対しては引いてしまう。そのようなメンタリティがいまだに日本男子のなかにはある。
・また日本企業には、「新入社員のプライドをぶち壊すことが正しい社員教育だ」と考えているオヤジ上司もまだまだいる。もちろんそのようなやり方、考え方にも一理あるし、僕も全面的に否定するわけではない。問題なのはそのやり方だ。企業社会ではいまだに非論理的な文化が残っているが、非論理的なやり方や考え方では、とくにハイスペック女子はついてこないのも事実なのだ。
・これも、前回の第166回記事で書いたが、ハイスペック女子の思考は、男が考えている以上に論理的かつ合理的だ。僕も彼女たちの仕事への不満を聞くことが多いが、その不満を聞いていると、どう考えても上司が言っていることのほうが非合理的で論理的ではないことが多い。深夜スタートの飲み会への参加強要などまだマシで、なかには、主要クライアントの役員に気に入られたというだけの理由で叱責された、というケースもある。ほとんど意味不明だ。
・そもそも、企業の文化は男の文化で、それはつまり「オレの酒が飲めんのか!」的な文化だ。仕事のスキルとも成果とも何の関係もないところで、無理難題をふっかけて部下に従わせることで上司は己の力を誇示する、という文化がいまだに残っている。もちろんいまどきはそのような無理難題も度が過ぎればパワハラとなり、コンプライアンス室あたりがすっ飛んでくるが、それでも多くの大企業ではいまだにそうした文化が残っている。そして、このような非論理的な男社会の文化こそが、ハイスペック女子が最も嫌うものだ。
・「でも、企業ってそういうものでしょ?」と感じる人もいるかと思う。しかし、考えてみてほしいのだが、なぜ近年これほどまでにコンプライアンスがうるさくなったのか。それは、コンプライアンスがグローバルなビジネス社会のルールになったからだ。コンプライアンスができていないと国際社会では戦えない。人権意識の高いヨーロッパでは、市場から閉め出されることもある(欧州委員会の政策文書にもちゃんと「閉め出すぞ!」と書いている)。
・要するに、男社会に染まったオヤジ上司の非論理的な感覚より、論理性を優先するハイスペック女子の感覚のほうがグローバル社会のなかでは親和性が高く、通用するということ。いまや、ドメスティックなやり方や考え方で生き残れる大企業はない。そんな時代にオレ流のやり方や考え方を強いて、ハイスペック女子のやる気を殺ぎ、生きる活力も殺ぎ、命まで殺ぐ。それで企業も日本経済も成長できるわけがない。男たちがハイスペック女子の声に耳を傾ける必要があるのは、彼女たちのためだけではない。自分たちの生き残りのためでもあるのだ。
・今回の電通女子の悲劇をたんなる過労死にしてはならないと僕が思うのは、そうした理由もある。悲劇を繰り返さないためにも、日本企業が生き残るためにも、企業は「ハイスペック女子問題」に真摯に向き合うべきなのだ。
http://diamond.jp/articles/-/104894

第一の記事は、第二の記事で池田氏が、過大請求問題が1つの背景と指摘したためでもある。デジタル広告の効果は、分かり難いが、『一連の不正が発覚したきっかけは、広告主であるトヨタ自動車の指摘(7月)だった』、とトヨタ自動車がこれを指摘したというのはさすがである。
池田氏は、『ストレスの原因は不正請求事件』、と指摘しているが大いにありそうな話だ。ただ、日本の労働生産性は低い理由として、『仕事のやり方が根本的に間違っている』、との指摘には同意できるが、『日本の資本市場や労働市場が機能しないため、新陳代謝がきかないことだ』、としている点については、違和感を感じる。
第三の記事が主張している『「電通女性社員自殺」を単なる過労死にすべきでない』、『自殺した女性が奪われていたものは、実は「時間」ではなく、「尊厳」だったのではないか』、は鋭い指摘で、確かにその通りだ。「ハイスペック女子」が、日本企業で普通に受け入れられるまでには、まだかなりの年月を要すると思われるので、それまでの間に今回のような痛ましい犠牲を出さないためには、企業側の意識改革が必要なのではないだろうか。
東京労働局の過重労働撲滅特別対策班などは、電通に立ち入り調査に入ったようだが、第二、第三の記事が指摘するように、本件の本質は過労死ではないとはいっても、過労もうつ病の重要な一因となっていたと考えられるため、労働基準法上の措置も無駄ではないだろう。ただ、それで一件落着といかない難しさを日本の企業社会は背負っているといえよう。
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