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アメリカ大統領選挙(その7)(「トランプ大統領」がもたらす大混乱、ヒラリー・ショックに備えよ(前編)) [世界情勢]

アメリカ大統領選挙については、9月29日に取上げた。3回目のテレビ討論会も終了し、ヒラリー優位がはっきりしてきた今日は、(その7)(「トランプ大統領」がもたらす大混乱、ヒラリー・ショックに備えよ(前編)) である。

先ずは、元銀行のマーケット・エコノミストで信州大学教授の真壁昭夫氏が10月18日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「可能性ゼロではない「トランプ大統領」がもたらす大混乱」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽トランプ氏当選の可能性は完全に排除できない
・11月8日、米国大統領選挙の投票日を控え、トランプ、クリントン両候補の討論会などが注目されている。討論会は政策に関する議論よりも両者の中傷合戦になっており、有権者の評判はかなり悪いようだ。 一つ言えることは、どちらの候補者が勝っても保護主義的な通商政策が進む可能性が高く、世界経済にとってマイナスになることが懸念される。特に、トランプ氏が大統領になった暁には、かなり明確な米国中心主義になると見られる。
・IMFやWTOが世界の貿易量が減少傾向にあると指摘する中、各国の主要企業の業績も低迷気味だ。世界的に供給能力が需要を上回る状況が続いており、多くの国が自国産業の保護などを重視する傾向になっている。その極端な例が自由貿易協定などを真っ向から批判するトランプ候補だ。
・金融市場では、トランプ候補が勝利すれば、世界の貿易協定の枠組みが毀損され、経済活動に混乱が生じるとの懸念が強い。第1回の討論会後、カナダドルやメキシコペソが急騰したのは、トランプ氏の劣勢を受けて過度な保護主義への懸念が低下したからだ。
・ただ、選挙には想定外の結果がつきものであり、トランプ氏当選の可能性を完全に排除することはできない。同氏の度重なる暴言、スキャンダル、そして共和党首脳部からの決別宣言がなされた中でも、トランプ候補は一定の支持を得ている。そこには、政治家は経済の低迷による社会の閉塞感を打破できないという民衆の不満がある。
・経済のグローバル化が進み、企業が生産拠点を海外に移すにつれ、先進国内の雇用は増えづらい。その結果、民主主義を支える基盤である中流階級は遠心分離器にかけられたかのように、下層に向かう大多数と、一握りの上層階級に分かれる。経済格差が広がり、多くの民衆は既成政治に不満を向け始め、「自国第一」の世論が高まる。
・世界的に保護主義的な傾向が強まると、多くの資源を輸入に頼るわが国は厳しい状況に直面する。かつての1920~30年代の世界恐慌の時にも、自国優先の保護主義的な通商政策が世界に広まった。米国の大統領選挙を境に、徐々にそうした状況が進む可能性が懸念される。
▽世界的に保護主義が台頭する背景 新しい景気拡大の原動力が見当たらない
・世界各国で保護主義が台頭しているのは、各国の潜在成長率が低下気味になり、自国の産業育成・保護が重視されやすくなっているからだ。米国の大統領選挙でも、トランプ、クリントン両候補が米国第一の考えを重視している。
・その背景には、世界が大きなバブルを経験し、新しい景気拡大の原動力が見当たらないことがある。1990年代中盤以降、世界経済は3つのバブルを乗り継いできた。まず、1990年代中盤にはIT技術の進歩を背景に“ITバブル(株式バブル)”が米国で発生した。 2000年代初頭、米国ではITバブル崩壊を受けた利下げやブッシュ減税から、住宅市場に資金が流入し価格が高騰した。これが世界の不動産市況にも伝播し、“不動産バブル”が発生した。 さらに、リーマンショック後、2008年11月に中国が打ち出した4兆元の景気刺激策が世界の資源開発を加速させ、原油、鉄鉱石などの価格が高騰する“コモディティ(資源)バブル”が発生した。2014年年央以降、原油価格が急落したことを受けてコモディティバブルは崩壊に向かったと考えられる。
・こうして世界の需要が低迷し、潜在成長率が低下する中、世界経済は過剰な生産能力の解消に迫られている。本来なら構造改革が必要だが、失業の増加などが社会の不満につながるため改革は遅れ気味だ。そして、各国政府、政治家は賃金が伸びづらい経済への不満を抑えることを優先しつつある。それが保護主義の温床だ。米大統領選挙で両候補がTPPに反対しているのは、その一例である。
・TPPは経済連携の強化、ルール統一を通して環太平洋地域の連携を目指す取り組みだ。それは、米国を中心に環太平洋地域の国が協力し、対中包囲網を築くことでもある。米国がTPPに反対することは、世界経済の不安定化につながる危険な動きだ。わが国のように資源や農産物を輸入に依存する国にとって、厳しい状況が到来することも想定される。
▽もしトランプ大統領が実現したら? 世界情勢は大きく不安定化する可能性
・トランプ候補が、大統領に当選すれば世界経済にはどういう影響があるだろう。恐らく、今よりもはるかに自国優先の保護主義的な政策運営が中心になるだろう。 トランプ候補は、「米国第一、米国は自国民の利益のみを考えればよい」と主張してきた。トランプ大統領が誕生すると、米国が保護主義的な通商政策をとることは間違いない。米国経済と関係の強いメキシコ、カナダを筆頭に、世界経済にマイナスの影響が出るはずだ。
・具体的にトランプ候補の政策を見ると、通商面では北米自由貿易協定(NAFTA)をはじめ、あらゆる貿易協定に反対している。トランプ氏はNAFTAの再交渉が実現しない場合、脱退すると明言し、貿易相手国には高い関税をかけると主張してきた。 これが実現すると、メキシコなどは米国を提訴し、国際的な通商摩擦が起きるかもしれない。米国の消費者からみても、欲しいものを安く手に入れることが難しくなるだろう。GDPの7割程度を個人消費が占める消費大国の米国が、そうした状況に耐えられるかは疑問の余地がある。
・米国財政への懸念も高まる。トランプ氏はこれまでに4回の破産申請を行っているが、その発想は、返せないなら破産すればいいというものに近かった。トランプ氏は大規模減税、インフラ投資などを重視し、それが実行されると財政悪化は避けられない。 もし議会が債務上限の引き上げに協力しない場合、米国債価格が暴落し、各国の外貨準備資産の価値が目減りする恐れもある。
・世界の安全保障に関しても、トランプ候補は北大西洋条約機構加盟国(NATO)が攻撃されても助けないなど、極端な考えを示した。当選した際にはNATO加盟国との溝が深まり、米国を中心とする国際安全保障に亀裂が生じる恐れがある。そうなると、クリミア半島や中東地域へのロシアの関与が強まる、南シナ海での中国の進出が加速するなど、世界情勢は大きく不安定化する可能性は高い。
▽今後の展開とわが国が取るべき政策 外交下手を返上し大人の交渉術を発揮せよ
・ヒラリー、トランプ両候補がTPPに反対しているように、どちらの候補が勝っても米国は保護主義的な通商政策を進める可能性が高い。そして、世界的にも保護主義への傾倒が進みつつある。
・10月2日、英国のメイ首相は、2017年3月末までにEU離脱の意思を通告すると表明した。メイ首相はEU単一市場へのアクセスを最大限確保すると述べはしたが、本心では移民や難民の流入制限を優先しているようだ。 独仏などEUの有力国が、一切の妥協を排して離脱交渉を進める姿勢を示していることを踏まえると、英国が単一市場へのアクセスを喪失しEuから離脱する“ハードブレグジット”のリスクがある。
・ハードブレグジットの実現は、EU各国にとって移民流入への批判が強いことを再確認する機会になるだろう。それは、各国の右派政党への支持拡大につながり、EU加盟国間の結束、単一市場の機能低下につながるだろう。その結果、欧州でも保護主義的な通商政策への要請が高まり、自由貿易や経済連携の強化にブレーキがかかりやすくなる。
・その中で、わが国は不利な状況に陥らないよう立ち振る舞わなければならない。これまでわが国は、米国からの市場開放などに対して正直一辺倒に対応してきた。徐々に、時にしたたかに、自国の利益を確保すべく強硬な路線を選ぶなど大人の振る舞いが必要だ。
・。TPPに関しては米国以外の参加国との協議を進め、環太平洋地域の連携強化のイニシアチブをとるべきだろう。言い換えれば、結果的に米国も無視できない経済連携の枠組みを、わが国が中心になって整備するのである
・TPP交渉で、わが国は過去に例をみないほど確たるメリットを確保したといわれている。それは米国以外の参加国との利害調整を図り、それを米国に提示した成果だ。従来わが国は外交下手といわれてきたが、徐々に、他国との連携などを含めた"数の論理"を使い、自国の利益確保を真剣に考えることが必要になる。
・わが国はこれまでの外交下手を返上し、世界の主要国と膝をつき合わせて大人の交渉術を発揮することが求められる。それが容易でないことは理解するが、そろそろそうしたテクニックを身に着ける段階に来ている。
http://diamond.jp/articles/-/104690

次に、在米の作家の冷泉彰彦氏が10月22日付けのメールマガジンJMMに掲載した「ヒラリー・ショックに備えよ(前編)」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・大統領選に関してはこの2週間の間に激しく動きました。まず、トランプの「女性視発言」と「連邦税回避疑惑」がありました。これを受けて10月9日の第2回のTV討論でトランプは防戦一方となっています。また、10月19日の第3回の討論では、「敗北の場合はそれを認めない」という「選挙制度への不信」を口にしたために、メディアからは総スカンを食らうことになりました。
・この結果として、現時点での選挙戦はほぼ一方的な格好となっています。共和党の主要な議員たちは改めてトランプ候補への不支持を表明しており、トランプ候補はこれに対しても口汚い罵倒を続けています。そんな中で、大手のメディアは「バランスを取るために出演させている」トランプ支持者以外は、ほとんどのキャスターがトランプ批判を口にするのが日常的な光景になりました。
・ヒラリー・クリントン候補は、このような異常な雰囲気の中で、日一日と「次期大統領」の座へと接近しているというのは間違いないでしょう。ちなみに、最新の支持率を確認することにしておきますと、以下のようになっています。前回・前々回同様に政治サイト「リアル・クリアー・ポリティクス」による、最新の「世論調査の全国平均」です。まず支持率の単純平均値は、 ヒラリー・クリントン・・・48.1%(▼0.2%)  ドナルド・トランプ・・・・41.9%(▼1.9%) となっており、差は6%を超えてきています。(カッコ内は2週間前との差) 
・更に、現時点での情勢を踏まえての「選挙人(エレクトラル・カレッジ)数」を予測して集計を行った数字ですが、こちらもこうした動向を踏まえています。 ヒラリー・クリントン・・・333人(△11) ドナルド・トランプ・・・・205人(▼11)  この選挙人数ですが、総数が538ですから270取れば当選ということになります。あくまで現時点での世論調査の通りに有権者が投票をしたらという仮定の話ですが、このままで行けばヒラリーの圧勝ということになります。
・実はこの「選挙人数」の集計に関しては、単純に州ごとに「どちらが優勢か?」を判定して決めているのですが、もう一つの集計方法として「僅差のばあいは未確定(トスアップ)として外しておく」という方法があります。つまり、どちらかが優勢となった州の獲得選挙人数だけを集計するという方法です。
・この「トスアップあり」の集計というのは、例えばですが両陣営が現在どこで争っているかを見極めるには便利ですし、また「トスアップ(僅差)」の州を除いて大勢が固まりつつある州の選挙人数を集計すれば、選挙戦の実際の大きな概観がつかめるというわけです。では、同じ「リアル・クリアー・ポリティクス」の「トスアップあ
り」はどうなっているのでしょうか?
・同サイトによれば、 ヒラリー・クリントン・・・262人(当選ラインまで残り8) ドナルド・トランプ・・・・164人(当選ラインまで残り106)  ということで、現在僅差となっている「トスアップ」は112となっています。この中には、有名な「中道州(スイング・ステート)」であるフロリダ(選挙人数29)、オハイオ(同18)が含まれており、現在はここが焦点になっている・・・と言っても、仮にヒラリーが262まで固めているのであれば、それ以前にミネソタ(10)ノースカロライナ(15)アリゾナ(11)の中のどれか1つを取ればもう当選ラインの270は越えてしまうわけです。  反対にトランプの場合は、この「トスアップ州」を全部取るしかない一方で、ヒラリー優勢と言われるペンシルベニア(20)コロラド(9)を何とかひっくり返せないかと躍起になって遊説をしているようですが、大勢はほぼ決した感があります。
・そんな中、ニューヨークの「タブロイド紙」である「ニューヨーク・デイリーニュース」が21日の金曜日付の紙面で『トランプを地滑りの中に埋めてしまえ』という過激なタイトルで、トランプへの訣別宣言をしています。
http://interactive.nydailynews.com/2016/10/daily-news-editorial-bury-trump-in-landslide/ 14項目に渡った「決別状」にはそれぞれに風刺画が描かれており、特に13番目の「トランプは女性蔑視主義者である」というところでは、自由の女神を見て「ケチな胸だ」とトランプに言わせ、最後の14番目の「トランプは民主主義の敵である」という項目では、トランプが自由の女神の首を切っている絵が描かれています。極めて下品ですが、全体としてはよくできていて、それなりに浸透しているようです。
・この「地滑りの中に埋めよ」というのは、要するにヒラリーの「地滑り的勝利」によって「トランプ的なるもの」との訣別をしようというわけです。ここまで見てきたように、各州ごとの勝負を積み上げていけば、270という当選ラインは軽く越えて、恐らくは330とか350あるいはそれ以上まで行くかもしれません。そうなれば、確かに「地滑り的勝利」になります。
・ 比較の上で出してみますと、 2012年のオバマ・・・・・・・332 2008年のオバマ・・・・・・・365 2004年のG・W・ブッシュ・・286 2000年のブッシュ・・・・・・271 1996年のビル・クリントン・・379 1992年のビル・クリントン・・370 1988年のG・H・ブッシュ・・426 1984年のレーガン・・・・・・525 1980年のレーガン・・・・・・489 ということで、本当の「地滑り的勝利」というのは昔は400以上だったわけです。 ただ、90年代以降は「レッドステート(保守州)」と「ブルーステート(リベラル州)」の色分けが濃厚になっており、そこを突き破って400台を取るのは難しくなっているということは言えます。ですから、とりあえずヒラリーの目標としては、夫のビルが一期目に確保した370、あるいはオバマが初当選した際の365という数字を意識しつつ、370から380を越えていくということを狙っているのだと思われます。
・さて、ここからが本論なのですが、では仮に選挙人数で380を取って、ビルやオバマよりも上の数字を確保したとして、それで政権が「好スタート」を切れるのかという問題があります。  この政権のスタートに関係するのが、「政治的資産(ポリティカル・アセット)」という考え方です。一種の「権威と権力の貯金」ということですが、要するに支持率とその中身を含めた総合的な「政権への委任度」に近いものです。
・この政治的資産は、選挙で大勝すれば増えます。辛勝であれば減ります。(勿論、負けて下野すればゼロですが)また、大きな功績を上げれば上がります。大きな失策を犯せば下がります。政治的資産が少ない場合は、世論に対して不人気な政策は取れません。そうすれば資産が底をついて政権が失速するからです。一方で、政治的な資産が多ければ、多少の無理が利きます。
・2017年1月20日(金)に仮にヒラリー・クリントンが大統領就任式に臨み、正式にヒラリー政権を発足させるとして、その際の政治的資産はどうなるのでしょうか?  私は、それほど多くの「貯金」を持たない出発になると見ています。もしかしたら、 11月の選挙でヒラリーは選挙人数で400を取るかもしれません。単純な投票の比率(ポピュラー・ヴォート)でも55%近くを取るかもしれません。ですが、そうした表面的な数字とは別に「政治的資産は少ない」つまりは「厳しいスタート」となることが考えられるのです。
・その兆候は、ここ数週間の世論調査にも現れています。現在の「全国平均の支持率」というのは、トランプの「租税回避疑惑」「女性蔑視発言疑惑」「女性への不適切行為疑惑」などを反映したものです。ですから、選挙人数の予測数字(トスアップなし)では、この2週間で322から333に上乗せしてきているのです。単純な支持率の差も拡大しています。 ですが、ヒラリーに対する「支持する」という数字の平均は48.3から48.1へ微妙に下がっているのです。つまり、トランプの支持は急落しているが、ヒラリーも支持を弱冠減らしているのです。また、ヒラリーに関する「好感度・嫌悪度調査」でも、好感は40%前後、嫌悪は50%強という数字がコンスタントに続いており、改善の兆候は余り出てきていません。
・これはオバマの2008年とは全く異なる状況です。オバマは選挙戦を通じて、政策やイデオロギーでは共和党のジョン・マケインと戦っていたわけで、その全国支持率は、最終の投票結果でも52.9%対45.7%となっています。ですが、個人的な好感度としては常に70%前後の人が「好感」と答えていたわけで、これが就任直後の65%以上という猛烈な支持率になり、正に「政治的な資産」を有しての政権スタートとなりました。
・ですが、ヒラリーの場合は全く異なります。勿論、「史上初の女性大統領」として胸を張って就任するのは間違いないでしょう。いきなり低姿勢になったり、庶民性を強調したりという「スタイル上の奇策」に出てくるとは考えられないからです。  問題は政策です。どんなに選挙人数を集めたとしても、低好感度、そして恐らくは比較的低い支持率でのスタートとなるヒラリー政権は最初から4つの束縛を受けることとなります。
・1つは、政治的資産を減らすような政策は取れないということです。具体的には、共和党が財政規律を優先する中で、公約に掲げたような「大きな政府論」の実行に走ることは難しいと思います。
・ 2つ目は、実行することで政治的資産が増えるような政策を行わなくてはならないということです。では、与党の民主党的な「大きな政府論」政策でカネを使うのではなく、共和党と妥協して財政規律を優先するなど、中道に走ればいいのかというと、それも違います。とにかく、難しいことですが、政治的資産を増やす、つまり世論と与野党の支持を受けることができて、なおかつ成果が得られ、それが大統領の得点になるような政策を行わなくてはなりません。
・3つ目は、「アメリカに取って悪いこと」を起こしてはならないということです。テロや天災はまだ事後の処置で求心力を維持することはできますが、例えば任期中に大きな景気の腰折れを起こしたり、軍事外交で明らかな屈服を強いられるような状況に陥ってはダメです。
・4つ目としては、この問題には期限があるということです。それは2018年11月の中間選挙という期限です。ここまでに「政治的資産」を増やしておかないと、選挙で与党が敗北してしまいます。そうすると、タダでさえ少ない政治的資産は一気に減ります。そんなことでは、とても2020年に再選を目指した選挙を戦うことはできません。 この4つの束縛を受ける中で、一体何ができるのでしょうか?
・これは全くの私見ですが、常識的なことをやっていてはダメだと思います。ある意味で、国内外を「驚かせる」、つまり強烈なサプライズを演出して、大統領の強いリーダーシップを演出するようなことが必要です。 その点で言えば、ヒラリー政権が意識すべきなのは、1968年に就任した当時のニクソンになると思います。
・経済の地盤沈下によりドルの威信を喪失しつつあったアメリカ、そしてベトナム戦争は泥沼化して前任のジョンソンは再選出馬断念に追い込まれたという軍事面での苦境、これに加えて日本との通商摩擦、そして対中国外交と難問が山積する中での政権運営において、ニクソンはしばしば「サプライズ」を演出し「ショック」を起こし続けました。
・その一方で、経済に関してはビル・クリントン時代ではなく、その次のジョージ・W・ブッシュ時代を意識することになるでしょう。ビル・クリントンの時代は、経済が自然に回復するサイクルに乗れたわけで、特に二期目はグローバル経済が大きく花開く中で好調な経済を謳歌する事ができたわけです。これは、現在の米国経済の状況とは大きな差があります。 そうではなくて、テロや戦争といった混乱にも関わらず、様々な「副作用」を知りつつ、景気の大破綻を先送りしたブッシュ時代の手法、あるいは手法は真似しないにしても、その外部環境は意識せざるを得ないのではないかと思います。
・そこで、全く仮の話になりますが、2017年に発足する「ヒラリー政権」は、恐らくは「ヒラリー・ショック」とでも言うべき政策を取ってくるのではないか、そのような見立てに基づいて、今回から2回もしくは3回にわたって、議論をしてみたいと思います。
・今回は導入編として、概略を述べておこうと思います。私が現時点で考えている「ショック」は次の4つです。
・1つ目は中東政策です。ヒラリーは過去3回のTV討論を通じて、シリアのアレッポ危機、そしてイラクのモスル危機に関しての政策を述べています。その中身の延長として想像できるものとしては、「イランの無害化」  「それによるシーア派イラクの一層の安定化」 「イラクのクルド系、シリアのクルド系の支援」 「スンニ派であるクルド系を支援することでバランスを取り、シーア派との宗派間抗争を沈静化」 「クルド系を支援することでのトルコの現政権との摩擦は覚悟」 「シリアは分割の方向」 「アサド陣営との軍事衝突も覚悟」 「中東全域におけるロシアの影響力排除」 「これと並行してのヒズボラ、ハマスの無害化」 「特にハマスの無害化を通じたパレスチナ和平の仲介」 というようなストーリーです。これにリビア問題とサウジ、イエメン問題も絡めて「現在は混沌としている」中東情勢を、ヒラリーのアメリカが「仕切る」という計画を実行に移すのではないか、そのような可能性を検討すべきと思います。詳しくはモスル情勢を見極めながら、次回お話します。
・2つ目は、対中国政策です。ヒラリーという人は、中国の人権問題には長年警告を発してきた人物ですし、南シナ海の「航行の自由」問題も自分のスピーチを契機として中国との舌戦を開始した張本人でもあります。 ですが、一つの予想としては、中国とは「軍事的な確執は沈静化」させて、「経済的な紛争へ」シフトしていき、ちょうど、70年代から80年代の日本との通商摩擦のような、それこそ、品目別の政府間協議から始まって相互の構造改革論議に至るまで、かなり徹底的にやるのではないかと思います。
・軍事的な確執を緩和するというのは、その分だけ経済的な論戦を純粋にやりたいということもありますが、ロシアと中東で力比べとガマン比べをするのであれば、中国は「こっち側」に引き寄せておく、というのが定石だからでもあります。
・本丸は、中国が「過剰な生産設備」を償却・廃棄する一方で、経済をソフトランディングさせるということで、そこに米国経済の中期的な「巨大な利害」があるという認識でしょう。TPPをどうするのか、再交渉するのか、それとも名称変更するのか、2国間のFTAにバラして、最後は中国との交渉にまで持っていくのかは分かりませんが、この問題もトランプやサンダースの言うような「童話的な保護主義との比較論」ではなく、中国との厳しいケンカと共存の材料として正体を表してくるのではと思います。これも詳しくは次回以降で議論したいと思います。
・3点目は、景気対策です。大統領選を受けて、FRBのイエレン議長が12月に利上げをするかが注目されていますが、その可否はひとまず置くとして、ヒラリーには「バブル膨張を恐れて景気をソフトランディングさせる」というような「中期的な正論」を実施する力はないと思います。反対に、バブルを作っても、多少のインフレも許容しながら現在の「危ない景気の均衡」を維持していくことになるのではないかと思うのです。この問題については、もう少し様子を見ながら検討して行かねばなりません。
・4点目は、ジェンダーを巡る文化戦争という問題です。女性初の大統領として、アメリカの「ガラスの天井」を壊し続けてきたヒラリーですが、世代的な問題もあって「史上初」だという熱気に囲まれての就任にはならないと思います。 そうではあるのですが、「女性大統領」としてのレガシーを作りたい、あるいは政権の初期にこのジェンダーの問題で実績を上げ、それを政治的な資産にしたいというのは、この人の野心の中に相当な優先度としてあると思います。
・ですが、今回のトランプ騒動で分かったように、国内の男尊女卑を追及しても、そこには限界があるわけです。ヒラリーが女性の権利向上で頑張れば頑張るほどに、それこそトランプのような古い層からの醜悪な「アンチ」が来てしまうわけで、本音としては、そんな連中は「どうしようもない人々」なわけですが、そんな正論を吠えても政治的資産は増えません。
・そこで出てくるのが、外国への「女性に関する人権外交」です。例えば、性的労働に従事させるためのトラフィッキング、未成年者の保護といった問題に徹底的に突っ込んでいく可能性は十分にあります。日本の場合は、下手に立ち回るとこの問題でのターゲットにされる可能性は残っており、先手を打って対処する必要があるように思います。
・いずれにしても、ヒラリー政権が「オバマの延長」だという見方はそろそろ改めないと行けないように思います。現時点では、ヒラリーの勝利は見えてきたと思います。そして、その数字は大勝に近いものとなる可能性もあります。ですが、残念ながら好感度、そして就任時点での支持率はあまり期待はできません。そんな中、政治的資産を消費するのではなく、積み上げるための「ショック」を様々な確度から繰り出してくる、国際社会としては、そのような可能性に備えるべきだと思います。

真壁氏が指摘する 『世界各国で保護主義が台頭しているのは、各国の潜在成長率が低下気味になり、自国の産業育成・保護が重視されやすくなっているからだ。米国の大統領選挙でも、トランプ、クリントン両候補が米国第一の考えを重視している』、というのは困った事態だ。『トランプ氏はこれまでに4回の破産申請を行っているが、その発想は、返せないなら破産すればいいというものに近かった。トランプ氏は大規模減税、インフラ投資などを重視し、それが実行されると財政悪化は避けられない』、というのも笑えないシナリオだ。ただ、『TPPに関しては・・・米国も無視できない経済連携の枠組みを、わが国が中心になって整備するのである』、と提案しているが、そのような魔法の枠組みがあるとも思えず、やや無責任な提案なのではなかろうか。
冷泉氏が指摘する、『(ヒラリーは選挙で圧勝しても)そうした表面的な数字とは別に「政治的資産は少ない」つまりは「厳しいスタート」となる』、とはその通りだろう。ニューヨーク・デイリーニュースが言うような『ヒラリーの「地滑り的勝利」によって「トランプ的なるもの」との訣別』、というわけにはいかないようだ。『ロシアと中東で力比べとガマン比べをするのであれば、中国は「こっち側」に引き寄せておく、というのが定石』、だとしても、中国に甘い顔をするようなマネはしないで欲しいものだ。『外国への「女性に関する人権外交」』については、女性や児童を性的搾取などのために取引するトラフィッキングでは、日本は、その摘発が少なく処罰も軽いと国際的に批判されてきただけに、一刻も早く法的手当をして、身ぎれいにしておくべきだろう。冷泉氏の続報はまた紹介するつもりである。
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