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トランプ新大統領誕生(その7)(小田嶋氏の受止め方) [世界情勢]

昨日、一昨日に続いて、トランプ新大統領誕生(その7)(小田嶋氏の受止め方) を取上げよう。「またか」と受け止める方もいるかも知れないが、それだけ重要な問題ということで、ご理解頂きたい。

コラムニストの小田嶋隆氏が11月11日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「ジョーカー、戴冠へ」を紹介しよう。
・米国の大統領選挙は、ご案内の通り、ドナルド・トランプ氏の勝利で決着した。 お恥ずかしい話だが、私はこの結果を、ほとんどまったく予期していなかった。
・3カ月ほど前までは、トランプ氏が大統領の椅子に辿り着く可能性を、多少は勘定に入れていた。 が、10月の最終段階のテレビ討論会を見て、私はトランプを見限った。 この様子では、仮にクリントンの側が多少のスキャンダルに見舞われたとしても、逆転することは不可能だと判断した。 両候補の間にある実力差は、私の目には、メジャーリーガーと甲子園球児の間にあるそれと比べても遜色ないほど明らかに見えた。
・対外的に話をするケースでは、発言の語尾に一応の含みを残すことを心がけていたものの、それも、言ってみれば、断定を避けるものの言い方を通じて自分の知的さをアピールしていただけの話で、内心では100パーセント、ヒラリー・クリントン氏の勝利で鉄板だと確信していた。
・それが、フタを開けてみれば、こういう結果になっているのだから、世の中はわからない。私は、民主主義への信頼を撤回するか、でなければ、自分の脳みそを信用することをやめるべきなのかもしれない。 いずれにせよ、こういう時は、何かを改めなければならない。 でないと、先に進むことができない。
・8月30日の夕刻、私はツイッターに以下のようなコメントを書き込んでいる。 《ここへ来てのトランプ候補の自滅っぷりを見るに、アメリカは、大統領選挙の手順の複雑さ(というか、約一年に及ぶ慎重な選出過程)に救われているように見える。大統領選出レースが、もっと単純な一発勝負の人気投票だったら、ずっと早い段階でトランプが勝利してしまう結果もあり得たと思う。》(こちら)
・この見方は、つい昨日まで変わらなかった。 私は、米国の大統領選挙の選出過程の複雑さを高く評価していた。 というのも、候補者として全国を遊説する政治家を、全米各州に住む国民が、順次、長い時間をかけて検分する大統領選挙のレギュレーションは、投票の結果が、一時的な勢いや、感情に走った判断に流れる危険を最小限にとどめる意味で賢明な手法であると、ほとほと感心していたからだ。
・このお話を、私は、今年にはいってから、いくつかの場所で、繰り返し強調している。 都知事選をはじめとするわが国の首長選挙が、一発勝負の直接投票で当選者を選出しているやり方に比べて、アメリカの大統領選挙は、およそ1年の年月をかけて、全米の各地で、政党別の指名候補者選びと予備選挙を繰り返し、最終的には各州ごとに人口比に沿って割り当てられた選挙人を選ぶ間接的な過程を通じて大統領を選出している。 このため、近年、うちの国の首長選挙が、毎回のように間違った人間を自治体の頂点に祭り上げる結果をもたらしていることに比して、かの国では、不適切な人物をホワイトハウスに送り込むリスクを常に最小限にコントロールしている……てなお話を、私はしたり顔で力説しておったわけです。
・それが、こういう結果に立ち至っている。 優れているはずのアメリカ大統領選挙は、私自身が何度も「間違った人物」として名指しで批判していたその当の候補者であるトランプ氏を選出した。 正直な話、自分が半年かけて張り巡らしてきた伏線を、どうやって回収して良いのやら見当がつかない。 それほど、私は混乱している。
・大統領選挙のレギュレーションについては、とりあえず、いまのところは、これまで何度か明らかにしてきた見方を撤回するつもりはない。あれは、候補者の人柄と政治的なスタンスを隅々まで明らかにする上で、実に効果的なステージだし、事実として、見事に運用されていると思う。
・ただ、制度に欠陥が無いのだとすると、今回の結果について、私は、その責任を、アメリカ国民の判断力の質の低さに求めるのか、でなければ、自分自身のアタマの悪さによる見通しの甘さの結果として説明せねばならない。
・なんとも憂鬱な仕事だ。 トランプ氏がアメリカ国民の支持を勝ち取った原因については、すでに、内外の専門家や各種コメンテーターの皆さんが、硬軟取り混ぜた様々な仮説を開陳しはじめている。 その中には、昨日まで自分が繰り広げていた説明をものの見事に翻した手のひら返し立論も多々含まれている。 やれ、長きにわたってポリティカル・コレクトネスに気を使わねばならない「社会的強者」として扱われることに疲れた白人がはじめて一致団結した投票行動を示したであるとか、ワシントンのエスタブリッシュメントを信用しない中流以下の米国人が、富裕層の利益代表でしかなくなったリベラルに愛想を尽かしたであるとか、世界の警察ごっこに飽き果てた中学二年生がようやく中学三年生の判断に到達したであるとか、グローバリズムに脳みそをぶっこわされた起業家ワナビーがやけを起こしただとか、言葉の通じない移民とあいさつすることにうんざりしたダイナーのおばちゃんがヒステリーを起こしただとか、そういったもっともらしいご説明のすべてがまるっきりのデタラメだと申し上げるつもりはない。
・いくつかの仮説は、トランプ現象の基礎的な部分を過不足なく説明しているとも思っている。 でも、それで私が納得できているのかというと、そういうふうには話は進まない。 この度の出来事は、とてもではないが、簡単に納得できるお話ではないからだ。 1年かけて考えてきた考えが瓦解した時には、やはり1年ぐらいかけて、その考えの欠陥を見つめ直さなければならないはずだ。
・その意味で、これまで展開してきたお話とまったく別次元の、予想すらしていなかった状況に直面した人間が、結果が出た昨日の今日になって、いきなり別の説明を並べ立てにかかる態度を、私は、その理屈の出来不出来はともかくとして、人間の振る舞い方として信用することができない。
・ただ、事態が落着した時点から振り返ってみてはじめて気付くことは、今回の場合も、やはりいくつかある。結果からさかのぼって考えると、事態はびっくりするほど明快に見えるものだからだ。 ただし、結果が出た後になって、事態が明確に見通せたからといって、それが何かの役に立つわけではない。 後知恵の段階では誰もが賢人だというそれだけの話だ。
・政治についての見通しは、事前にわかっていないと何の意味もない。レースの後に当たり馬券がわかったところで、配当金は貰えないし、勝因だの敗因だのの説教は退屈しのぎにさえならない。 試合後に敗因を説明できたからといって、その敗因を克服する手立てがただちに発見できるわけではないし、仮に発見できたのだとしても、それを実行できるとは限らない。いずれにしても、次の試合で勝てる保証はない。
・とはいえ、トランプ氏が勝利する可能性は、こうなってしまった現時点からあらためて振り返ってみると、昨年来、何度も何度も、あらゆる機会を通じて示唆され続けていた。 そのことに、私はいま初めて気づいている。 なんと間抜けな話ではないか。 それらの明らかな予兆を、内外の専門家を含む多くのメディア関係者が、さらりと看過していたのは、つまるところただひとつ、われわれが「トランプ大統領誕生の近未来」を想像したくなかったからだ。
・私たちは、見えていたはずの可能性に目を塞いでいた。 まるで、暗闇の先に現れるかもしれない幽霊を恐れるあまり、目をつぶりながら野外トイレに続く砂利道を歩いている怖がりの小学生の歩き方そのままだ。 改めるべきは何だろうか。 せめて、ここから先は、どんなに怖くても目を見開いて前に進まねばならない。  でないと、またしても穴に落ちる。(以下省略)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/111000069/?P=1

大統領選出の方法を高く評価してきた小田嶋氏にとっては、今回の結果は確かに大きなショックだったのだろう。 『トランプ氏が勝利する可能性は・・・昨年来、何度も何度も、あらゆる機会を通じて示唆され続けていた。・・・それらの明らかな予兆を、内外の専門家を含む多くのメディア関係者が、さらりと看過していたのは、つまるところただひとつ、われわれが「トランプ大統領誕生の近未来」を想像したくなかったからだ』、というのは、最近の心理学でいうところの「楽観主義バイアス」が働いていたと解釈できるのかも知れない。 これは、われわれが、好ましい出来事が起きる確率を 過大評価し 好ましくない出来事が起きる確率を 過小評価する傾向にあることを指している。とはいうものの、先行きを予想するに際しては、「楽観主義バイアス」に囚われることのないように、気を付けねばならないのはいうまでもない。
「楽観主義バイアス」は、近代史でバブルが幾度となく発生しては崩壊したことにも通じるものだ。この楽観主義バイアスについては、TEDでタリー・シャーロットさんがやさしく解説しているので、ご興味のある方は以下を参考にされたい。
https://www.ted.com/talks/tali_sharot_the_optimism_bias/transcript?language=ja
明日の金曜日は更新を休むので、土曜日にご期待を!
タグ:好ましい出来事が起きる確率を 過大評価し 好ましくない出来事が起きる確率を 過小評価する傾向にある 楽観主義バイアス 心理学 優れているはずのアメリカ大統領選挙は、私自身が何度も「間違った人物」として名指しで批判していたその当の候補者であるトランプ氏を選出 それらの明らかな予兆を、内外の専門家を含む多くのメディア関係者が、さらりと看過していたのは、つまるところただひとつ、われわれが「トランプ大統領誕生の近未来」を想像したくなかったからだ トランプ氏が勝利する可能性は、こうなってしまった現時点からあらためて振り返ってみると、昨年来、何度も何度も、あらゆる機会を通じて示唆され続けていた 都知事選をはじめとするわが国の首長選挙が、一発勝負の直接投票で当選者を選出 投票の結果が、一時的な勢いや、感情に走った判断に流れる危険を最小限にとどめる意味で賢明な手法であると、ほとほと感心していたからだ 小田嶋隆 (その7)(小田嶋氏の受止め方) 私はこの結果を、ほとんどまったく予期していなかった 日経ビジネスオンライン 最終段階のテレビ討論会を見て、私はトランプを見限った ジョーカー、戴冠へ 私は、米国の大統領選挙の選出過程の複雑さを高く評価していた トランプ新大統領誕生
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