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社会問題(「ひきこもり実態調査」、自殺問題) [社会]

今日は、社会問題(「ひきこもり実態調査」、自殺問題) を取上げよう。

先ずは、9月8日付けダイヤモンド・オンライン「内閣府「ひきこもり実態調査」、40歳以上は無視の杜撰」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・一言で言うと、誰のためなのか、何のためなのかが見えてこない調査だった。 内閣府は7日、15~39歳を対象にした「ひきこもり」実態調査の結果を公表した。6年前に行われた同調査と比較して、「39歳以下の“ひきこもり”群が15万人余り減少した」という今回のデータ。ただ、この間、指摘されてきた同調査についての様々な瑕疵については、まったく反映されない内容だった。
・<内閣府は「ひきこもりの人への支援がある程度効いたのではないか」という能天気な成果ばかりを強調。今のひきこもりの実態とは、かなりかけ離れています> このように、さっそく引きこもり当事者が800人以上登録しているフェイスブックグループページに書き込んだ当事者もいる。
▽40歳以上、主婦などの女性を排除 実態とかけ離れた“実態調査”
・「ひきこもり」実態調査の結果を盛り込んだ『若者の生活に関する調査報告書』(内閣府政策統括官)によると、「ひきこもり」群の出現率は1.57%、全国で推計約54万1000人。前回調査した2010年の推計69万6000人(出現率1.79%)に比べて15万5000人ほど減少していたという。 調査は、15歳以上39歳以下限定の5000人と、同居する成人家族を対象に行われた。
・ただ、「ひきこもり」層の高年齢化によって、すでに地方自治体の調査で半数を超えている40歳以上については、今回も調査対象から除外された。その一方で、同居する家族が新たに加えられた。
・「ひきこもり」群の定義は、6ヵ月以上にわたって<趣味の用事のときだけ外出する><近所のコンビニなどには出かける><自室からは出るが、家からは出ない><自室からはほとんど出ない>状態で、前回時と同じだった。 一方で<統合失調症または身体的な病気>のほか、<専業主婦・主夫または家事手伝い>や<家事・育児をする>なども対象から外されている。
・こうして「家事手伝い」や「主婦」という蓑に隠された引きこもる女性の存在もデータに反映されなかった。そのため、男女比は、「男性」63.3%、「女性」36.7%と、前回とほぼ同様の割合で男性が占め、性別で「セクシュアルマイノリティ」などを想定した男女以外の項目も設けられていなかった。 また、前回155万人と推計した「ひきこもり親和群」についても、今回は算出しなかった。
・ちなみに、今回は「本人の回答のみで除外できない」「除外することが必須とも言えない」として、「統合失調症」と回答した者も含めた推計56万3000人も併記された。
▽「40歳以上は厚労省の仕事」 驚くべき内閣府の言い訳
・「少子化による該当年齢人口の減少や統計上の誤差があるため、明らかにひきこもりの数が減少したとは断言できないが、人数的には改善があったように思われる」 会見した内閣府政策統括官の石田徹参事官(共生社会政策担当)は、そう強調した。
・そこで、前回の調査で「ひきこもり」層に占める割合が23.7%と最も多かった35~39歳層について、どうとらえているのか?を尋ねると、こう答えた。 「そこは、調査対象から外れていますので、正直言ってわかりません」 結局、6年前の35~39歳の人たちは、どこかに消えてしまったということになる。
・当時から指摘されてきた「対象から40歳以上が抜け落ちている」という瑕疵に加え、2回目の調査であるにもかかわらず、追跡データにもなっていなくて、比較する材料がない。「ひきこもり」層の実態を表す調査ともいえないとなると、いったいどんな意味があったのだろうか。
・「若者の生活に関する調査ということで、私どもの施策の若者の範囲が40歳以上ではない。厚労省のほうの仕事です」 石田参事官は、そう繰り返した。 厚労省が40歳以上を管轄するのであれば、「ひきこもり」実態調査もその施策も、厚労省に一元化すればいい。内閣府が手掛けるのは、若者施策だけなのだから。
・とはいえ、内閣府の出した数字は1人歩きする。これまでも各自治体が2010年の内閣府調査を基に人口比で「ひきこもり」者数を推計してきた。 今回の調査にかかった費用は約2000万円という。これだけの予算を使って、このような中途半端な調査を行うのは、ひきこもる当事者や家族たちにとっても迷惑な話といえる。
・対象年齢などについては、有識者4人による「若者の生活に関する調査企画分析会議」(座長・門田光司久留米大学文学部教授)における話し合いで行われてきたという。 しかし、この日の会見に、門田座長は出席しなかった。 なぜ、こういう調査が行われたのか。なぜ、こういう分析結果になったのか。 同会議の事務局には、内閣府だけでなく、厚労省にもオブザーバーで入ってもらっていたという。
・「40歳以上は厚労省の仕事」だとする中途半端な調査に税金をかけるのなら、内閣府には“二重行政”の疑いのある「ひきこもり」施策からの撤退を考えてもらいたいものであり、厚労省や他省庁との一元化した取り組みによって、改めて高齢化する現実に則した詳細な調査や検証が早急に望まれるのではないか。
http://diamond.jp/articles/-/101238

次に、9月16日付けダイヤモンド・オンライン「自殺が日本の若年層で高止まり、死因1位の深刻実態」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・2006年6月に自殺対策基本法が成立して10年が経過した。景気回復や国をあげての自殺対策もあり、一時期の総自殺者数が毎年3万人超という未曾有の事態からは脱却し、中高年・高齢者層の自殺者は減少に転じた。ところが、10~30代の若年層の自殺者はつい数年前まで増加し続け、現在も高止まりしている。折しも、今週16日までは自殺予防週間である。現在の自殺の現状や課題などを考えてみたい。(医学ライター井手ゆきえ)
・「けれど午前3時になると、忘れてきた荷物のことすら死刑の宣告のように思えてくる。慰めの甲斐もなく──、そして魂の闇夜では、時刻は来る日も来る日も、いつも午前3時なのだ (崩壊1936)」。ちょうど80年前、ジャズ・エイジの旗手、スコット・フィッツジェラルドは、そう書き記した。 そして、21世紀日本の思春期・若年成人にとっての「魂の午前3時」、つまり、絶望の時間は真夜中だ。
▽午前0時に一つの山 思春期・若年成人の自殺数がピークに
・自殺は明け方が多いといわれるが、曜日別、時間帯別の自殺者数を年代別に比較すると、思春期・若年成人(Adolescents and young adults)※の男性は午前0時台にはっきりとしたピークがある(図1)。女性は午後から夕方にかけて第一の波があるものの、やはり午前0時台の自殺者数は多い(図2)。なぜ、午前0時なのか、理由はわからない。
・「自殺」「死にたい」などの検索語に連動して検索エンジンに広告が表示され、「無料で相談を受け付ける」サイトに誘導する「インターネット・ゲートキーパー」システムを開発したNPO法人OVA(オーヴァ)の伊藤次郎代表理事は「昼間は学校や会社で社会的な生活を営んでいますから、一人になった時間帯に実行する傾向があるのかもしれません。女性は社会生活と家庭生活の両方の影響があると思います」と指摘する。 女性の場合、家族を外に送り出して自宅で一人きりになった昼間の時間帯が「魂の午前3時」になる可能性があるのだ。
・伊藤代表理事は「むしろ“真夜中”“夏休み明け9月1日”など話題になりそうな特定の時間、特定の場所を取り上げ、大げさに強調するべきではありません。特に若年層はマスコミ報道の影響を受けやすい。情報を発信する側も心がけてほしい」という。  ※思春期・若年成人世代(AYA世代):一般に15~39歳の年代を指す。もとはがん医療で使われる言葉。この世代のがん患者はその他の世代とは違う課題があり、異なる配慮が必要なことから、近年注目されている。実は、医療や社会福祉の手が届きにくい「空白」の世代でもある。置かれた状況が重なることから、この稿であえて使用した。
▽中高年・高齢者層は減少に転じたが 若い世代の自殺は深刻な状況
・毎年、9月10日の「世界自殺予防デー」から始まる1週間は、自殺予防週間だ(今年は~16日)。手元に届いた「平成28年版自殺対策白書(厚生労働省刊)」を開くと、総自殺者数が最悪の3万4427人を記録した2003年以降、景気回復や国をあげての自殺対策もあり、中高年・高齢者層の自殺者は減少に転じた。ところが10~30代の思春期・若年成人の自殺者は一貫して増加。ようやく減少し始めたのは2011年以降のことだ。
・この変化に2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響を認めるのは無理ではない。自分よりも悲惨な状況におかれた現実の人間のことを考える──遠いアフリカや中東の悲劇ではなく、ここ日本の被災者を思いやると同時に、自分の幸せをうしろめたく噛み締めてしまうのは人の心情だ。若い人たちがボランティアとして被災地に向かう姿には、生きることを体で確かめたい気持ちが滲んでいたように思う。
・ただし、白書の記載は楽観視を許さない。「我が国における若い世代の自殺は深刻な状況にある。年代別の死因順位をみると15~39歳の各年代の死因の第1位は自殺となっており(後略)」──この表現はここ5年間、全く変わっていない。日本を除くG7諸国では、この年代の死因の第1位は足並みをそろえて「事故」。自殺者は事故死の半分~3分の1にとどまる。逆に、日本の自殺者は事故死の3倍だ。事故を奨励するわけではないが、荒れようともせず(許されず)、ひっそりと自殺を選ぶ日本の若者を思うとやりきれなさが募る。
▽対策が手薄で実態が見えにくい 思春期・若年成人の自殺
・事実、思春期・若年成人の自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)は、依然として自殺死亡率が最も低かった1990年の水準を上回り続けている。2015年の20歳未満、20代、30代の合計自殺者数は5993人。1990年合計の1.25倍に相当する。一方、65歳以上の高齢者層の自殺死亡率は大幅に低下し、バブル崩壊以前の最低水準まで回復した。
・日本の自殺をめぐる状況は一時期の毎年3万人超が自ら命を絶つ未曾有の事態からは脱却したものの、新たに思春期・若年成人層の自殺死亡率という課題を突きつけられているのだといえる。 背景として「自殺対策基本法が成立してからの10年は、自殺者の7割を占める40代以上に対する自殺対策が次々に施行されてきた一方で、若年層の自殺対策が手薄だった」(伊藤代表理事)ことは否定できない。この世代を対象とした実態調査も乏しく、思春期・若年成人世代の自殺者の実像はあいまいなままだ。
・白書では思春期・若年成人層の自殺死亡率を押し上げる要因として「職場の人間関係」や「職場環境の変化」などの「勤務問題」と「学校問題」を特に取り上げ、対策を説いている。しかし、誰にでも起こりうる問題から自殺に至るプロセスには、さまざまな要因が二重三重に絡み合う。いじめ問題、勤労問題など単純なキーワードで切り分けず、複合的な視点で向き合わなければ価値観や生活環境が激変している今の思春期・若年成人世代を支える効果的な対策は難しい。
▽「助けを求める」能力を育てることが自殺予防につながる
・こうした不透明さもあって、最近は思春期・若年成人の自殺予防対策として「子どものうちから援助要請行動(Help-seeking behavior)を起こす能力を育てる」ことに重点がおかれ始めている。今年改正された「自殺対策基本法」にも学校での援助要請行動教育が努力義務として明記された。いわば、自殺の0次予防教育だ。
・援助要請行動とは平たくいうと、「助けを求める」能力のこと。なんだ、そんなこと? と思いそうだが、自分では解決できない問題に直面した個人が助けを求める行動を起こすには、情けなさ、拒絶への恐れ、弱い自分をさらすことへの抵抗など、相当の負担がある。特に男性は「弱みを見せるのは恥」「感情的になってはいけない」という根強い社会通念があり、その傾向に拍車がかかる。まして、他者との関係のなかで生まれたばかりの自尊心を保っている若い世代ではなおさらだ。
・実際、OVAの相談サイトにアクセスするクライエントのほとんどはツールの特性上、20代、30代で、その約65%は女性だ。現実の自殺者の男女比率からすれば逆転してしかるべきだが、男性はインターネットという匿名性に守られていても援助要請をためらうらしい。伊藤代表理事は「ジェンダーが相当、影響していると思う」と懸念したうえで、「援助要請行動は別の側面から見ると、他者のリソースを活用して自分の問題を解決するビジネススキルに通じる能力だともいえる」と発想の転換を促す。自治体の相談支援窓口や病院などの専門機関を「利用」することは、むしろポジティブな行動なのだ。
・今後は社会全体で「相談=弱い」「弱さ=悪・罪」というガチガチの認知を変えていく必要がありそうだ。さらに、受け皿として思春期・若年成人のみを対象とした相談窓口の開設や同世代と親和性が高いツールを活用したOVAのようなシステムの充実が望まれる。6年連続して「若い世代の自殺は深刻な状況にある」という記載は見たくない。
http://diamond.jp/articles/-/102082

第三に、山形大学准教授の貞包 英之氏が11月18日付け現代ビジネスに寄稿した「地方で自殺が急増した「意外な理由」?日本社会の隠れたタブー 保険と自殺のキケンな関係」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽「自殺の時代」は終わったのか
・今から振り返ると、20世紀の終わりから21世紀初めにかけては「自殺の時代」としてあったことが分かる。  2万人台前半で長い間推移していた自殺者数が、1998年、突如として3万人を超える。以後、警察庁の統計では2003年に3万4427人と統計上最多を記録するなど、15年近く、自殺者数は高止まりを続けた。
・そうした自殺はなぜ起こったのかを探っていくと、日本経済の闇と、それと強く結び付いた地方の闇がみえてくる。 たしかに2012年以降、3万人を割り込むなど、自殺問題は一定の落ち着きを取り戻している。しかしそれで全て解決されたわけではない。かつて自殺を増加させたこの社会の闇は、かたちを変えながら、より深く、私たちを取り囲んでいる可能性が高いのである。
▽増加の理由は経済的問題?
・ではなぜ20世紀末以降、自殺は多発したのか。 その理由は様々に説明されているが、なお充分とはいえない。表面的には妥当な説もある一方で、なぜそうした状況が生まれたのかは、必ずしもあきらかにされていないからである。 たとえば経済的な不況が自殺を引き起こしたという指摘は、たしかに重要になる。98年頃から悪化したバブル崩壊の影響で、失業や倒産、非正規職員が増加し、それがストレスとなり、「うつ」につながることで、自殺が急増したとしたり顔でしばしば説明される。
・警察の自殺の動機調査は、それを裏付ける。1997年から98年にかけて「経済・生活問題」で死んだ自殺者は、3556人から6058人へと、1.7倍に急増した。 この意味では、自殺の急増が経済的貧困によって引き起こされたとすることには説得力があるが、ただしそれで全てが解決されるわけではない。問題は、貧困がいつの時代にも、自殺に直結してきたわけではないことである。
・たとえば長期的にみれば、貧困は自殺の主因だったわけではない。戦前では、経済的問題はむしろマイナーな自殺原因に留まり、また徐々に減少していた。 それが一転するのは、高度成長期以後のことである。この時期以降に、経済問題が自殺の原因として増加し始める(図1)。
・豊かになりゆく社会のなかで、経済的問題はますます多くの自殺の原因になり、20世紀末に自殺は急増したのも、あくまでその延長線上でのことである。 だとすれば経済的困難が自殺を増加させるという状況そのものが、なぜ生まれたのかをもう一度検討する必要があるだろう。
▽自殺が多発した地方を読み解く
・その際、注目されるのは、20世紀末の自殺の急増が、地方を中心としていたことである。 実際、自殺がもっとも増えた03年とその直前の97年を較べると、1.67倍の福井を筆頭に福島、三重、福島、長崎、石川、青森、熊本、香川、岩手、秋田が増加の激しかった10都道府県として続く(図2)。
・東京都の1.31倍など、大都市でもそれなりの増加はみられた。だが1995年以降ワースト1位の座を19年維持した秋田を代表に、地理的に列島の周辺に位置するこれらの地域の多くでそもそも自殺率が高かったという意味で、20世紀末から21世紀初めにかけて地方における自殺率の悪化はしばしば記録的なものとなったのである。
・ではこの地方における自殺率増加の原因を、厳しい自然環境や、伝統的な人間関係のせいにできるかといえば、それはむずかしい。 そもそも高度成長以前、自殺は都市部で目立ち、たとえば1965年の自殺率の上位10都道府県には、東京、大阪、京都、兵庫などの人口集積地が顔を出している。その意味で、地方で自殺が多いのは、昔からの風習や自然環境に基づいているという見方は妥当しない。
・ではなぜ高度成長期以後、地方で自殺が目立ち始めたのかといえば、そのもっとも大きな理由は、高齢化である。高齢者の自殺率は相対的に高く、だからこそ高齢化の進む地方で自殺は多発した。 ただしそれだけでは20世紀末の自殺の急増は理解できない。その時期とくに目立ったのが、高齢者ではなく、中高年男性の自殺だったからである。1997年と2003年の自殺率を性別・年齢階層別に較べると、40~49歳の男性が1.68倍と最も増加し、50~59歳の男性が1.55倍でそれに次ぐ(『自殺対策白書』)。
・それは地方においても同じである。たとえば自殺率も自殺増加率も高かった秋田県でも、1993~1997年から1998~2002年での自殺率の増加は、45~54歳と55~64歳男性でそれぞれ1.68倍、1.62倍と性別年齢階層のなかで1、2位を占めている(自殺予防総合対策センター「自殺対策のための自殺死亡の地域統計1983-2012」)。
・この意味で20世紀末の自殺の急増を考えるためには、地方の中高年男性の動向に注目する必要がある。なぜ彼らがその時期、数多く自殺を選んでいくことになったのか。その謎を解くことが「自殺の時代」のあり方を理解するキーになるのである。
▽生命保険と自殺の関係
・多くの中高年の男性が、地方で経済的問題を苦に自殺していく理由の詳細な分析は筆者の共著(『自殺の歴史社会学:「意志」のゆくえ』)を参照していただくことにして、端的に結論を述べれば、そうした自殺の構造的土台として無視できないのが、20世紀後半における生命保険の普及である。 とくに高度成長期以後、中高年男性を中心に生命保険の普及が進む。戦前にも生命保険はマイナーではなかったが、この場合の保険は、死亡時にもらえる保険金の倍率が低い貯蓄的性格の強いものだった。対して戦後には、死亡時に掛け金の数十倍もの保険金を払う定期付養老保険という特殊な商品が一般化していく。
・それを買ったのは、まず当時増加した核家族である。夫の給与に依存し、親族や近隣の人びとから孤立した核家族が、まさかの時に備え生命保険に加入する。それを安心の材料として、先取りした消費もおこなわれる。たとえば団体生命保険に入ることを前提に、資金を持たない核家族も、住宅を購入できるようになったのである。
・加えてそれ以上に、生命保険の普及を底支えした集団として注目されるのが、中小企業の経営者である。 高度成長のなかで中小企業は、土地とさらに生命保険を担保として、銀行の融資を取り付けることが求められる。戦中・戦後の金融市場の転換によって、親族や投資家に資金を頼りづらくなった中小企業は、そうして銀行の融資を当てとして規模を拡大するか、事業を止めるのかの選択を迫られたのである。
・こうして「命」を賭金とした保険に入る人びとの増加が、全国的に自殺の増加を引き起こす構造的な土台になった可能性を否定できない。 生命保険加入を前提に住宅を購入し負債を抱えた核家族や、さらに生命保険に多重加入することで融資を繋いでいた経営者が、不況の際に借金を精算するために自殺は利用されただけではなく、残される貨幣が「後顧の憂い」を断つことで、自殺は増加していくのではあるまいか。
・それを一定の仕方で裏付けるのが、高度成長期以後、自殺総数に対して保険金支払い件数や金額が急増していくという事実である(図3)。 1999年には、同年の3万1413人の自殺者に対して12万270件という4倍にせまる保険金が自殺に対して払われている。それは単純にいえば、自殺者の多くが生命保険に、それも複数加入していたことを示している。
・そして、これが20世紀末に地方を中心として自殺が増加した理由もよく説明する。問題は、土地の信用力の弱い地方の経営者は、融資の担保として、複数の生命保険に加入することをなかば強制されていたことである。
・そこにバブルの崩壊が襲う。地方へのバブルの到来は遅れたにもかかわらず、その落ち込みはひどかった。この踏んだり蹴ったりの状況のなかで、とくに地方では中高年男性を中心とする多くの経営者が自殺を選択し、借金を精算することに追い込まれていったのではないか。
▽「意図」を隠さなければいけない自殺
・以上は大まかな見取り図であり、その詳細を確かめるには、さらに多くの分析が必要になる。 ただしひとつだけ留意しておくとすれば、矛盾するようだが、単純に個々の自殺者が保険金の支払いを目的として自殺したとは、実はいいがたいことに注意しておこう。
・保険金を目的として自殺がどれほど実行されているか。それにはもともと多くの議論がある。警察庁は2007年以降、保険金を目的としたとみられる自殺数を公表し始めるが、たとえばその年では男性で139件、女性で12件と全体の0.5%しか保険金を目的とした自殺は確認されなかった。 ただしそれだけで、生命保険と自殺のかかわりを全否定することもできない。
・問題は、自殺者に保険金の支払いという目的を隠すことが陰日向に求められるという社会的な仕組みである。 たとえば通常、契約後の免責期間(近年では3年)内に行われた自殺は、保険金を目的とした「不誠実」なものとして、保険会社はその支払いを拒否できる。 そのために自殺を引き伸ばすか、たとえばそれを事故に紛らわせることに誘導されるのであり、まただからこそ偽装の必要のない免責期間直後に自殺が急増するというデータもある。
・加えて免責期間後も、保険金の受取という目的を公言できるかといえばむずかしい。保険金目的が露骨な自殺に対する支払いの免責を近年、保険会社が法廷に訴え始めたからだけではなく、そもそも世間体がそれを許さないためである。
・単に体裁を守るために隠されるわけではない。より重要になるのは、自殺の意図を曖昧とする暗黙の習慣を土台として、自殺と生命保険のつながりが社会的にむしろ活用されてきたことである。 まさかのときには、みずから死を選ぶことで住宅ローンや、会社への融資が返されることは、たしかに公言されない。しかしだからこそそうした実践は道徳的な追及を受けることなく社会に受け入れられ、とくに住宅を売る側や、企業に融資をおこなう側に都合よく利用されてきた。
・生命保険にかかわる自殺では、意図を公言しないことがこうしてシステム的に求められる。その意味では先の警察のデータも、生命保険を目的とした自殺が少ないことをそのまま示すとはいえない。 より直接的には、それはむしろ保険金とのかかわりを認めることが、この社会でどれほどタブーになっているかを浮き彫りにするのである。
▽自殺問題は本当に解決されたのか?
・結論をいえば、こうして生命保険を媒介に、自殺を多額の金で償う社会的に黙認されたシステムが、些細な経済的な不況に反応しとくに中高年男性を中心に自殺を頻発させる社会をつくりだしてきた。
・ただし現在、システムに対する問い直しが、進められていることも事実である。 生命保険各社は近年、自殺に対する支払いを退ける免責期間をかつての1年から延長し、さらに保険金を目的とした自殺の非道徳性を法廷に訴え始めている。加えて政府も連帯保証人制度を改め、少なくとも当事者以外の生命保険を担保とする融資の規制に乗り出している。
・一部にはこうした動きの成果として、自殺は減ったといえるのだろう。2012年以降、3万人を割り込むなど、自殺の減少が顕著である。なかでも経済問題を原因とした自殺は、2003年の8897件をピークとして、(2007年以降特定される動機が3つにまでに増えたにもかかわらず)2012年には4144件にまで急減している。  ただしそれが手放しで喜べるかといえば、そうではない。ひとつには生命保険にかかわる自殺が、みえない「暗数」になっている可能性が疑えるためである。
・免責期間を延長するなどした結果、自殺を「隠す」動機も強まっている。そのせいで自殺は、たとえば事故死に紛れ込まされているのではないか。それを実証することはたしかにむずかしいとしても、他方で自殺を「うつ」などの精神病の結果の「病死」として法廷に訴える事例が増加していることは事実である。
▽保障を欠いた生の増加
・さらにそれとは別の角度から、貨幣に替えることさえできない自殺が増加しているという深刻な問題が生まれている可能性もある。 生命保険の普及率は近年、減少しているが、それは貨幣的な保障を遺族や周囲の者に残さない自殺の増加に直結する。 それがとくに顕著なのが、①就職難や非正規労働化で生命保険加入が減っている若年層に加え、②バブル崩壊以後の経済の沈滞で自営業や企業経営そのものが低調な地方においてである。
・まず若者に関していえば、自殺が総体として減少している一方で自殺の下げ止まり、または増加がみられる。たとえば2003年から20012年まで20代の自殺は13.6%も増加しているが、問題はこの若年層で生命保険加入率が同時に下がっていることである。その結果、総体としてみると、貨幣的に償われる自殺は明らかに減っている。
・地方に関しても類似した事態がみられる。まず20世紀末に自殺が急増した多くの地域で、今度は自殺者の急減がみられた。 なかでも経済問題を原因とした自殺の減少が顕著で、たとえば2003年から12年まで38.1%減と全都道府県で三番目に自殺率が減少した秋田では、経済生活問題で自殺した人は、204人から31人に急減している。
・それは表面的には喜ばしくみえるとしても、裏面では地方のますますの貧困を意味している危険性がある。自営業的経済活動が停滞し、生命保険を担保とした融資が通用しなくなった/求められなくなった結果として、経済問題を原因とするとみられる自殺は減少しているのではないか。
・この意味では自殺の減少という総体としては望ましくみえる現象も、手放しで喜ぶ訳にはいかない。それは他方で、自殺によって貨幣を得ることさえできずに、既存の経済体制から弾かれ、「保障のない」裸の生を生きる若者や地方の人々の姿を浮かび上がらせもするためである。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50183

「ひきこもり実態調査」については、『厚労省が40歳以上を管轄するのであれば、・・・厚労省に一元化すればいい』、というのはその通りだ。『<専業主婦・主夫または家事手伝い>や<家事・育児をする>なども対象から外されている』、というのも納得性を欠く。こうした欠陥調査について責任を持つべき『有識者4人による「若者の生活に関する調査企画分析会議」』の座長が、記者発表を欠席したようだが、出席できないのであれば、分析会議の議事要旨でも公開すべきだ。記者も発表の場でもっと食い下がってもらいたいところだ。
第二の記事で、『15~39歳の各年代の死因の第1位は自殺・・・日本を除くG7諸国では、この年代の死因の第1位は足並みをそろえて「事故」。自殺者は事故死の半分~3分の1にとどまる。逆に、日本の自殺者は事故死の3倍だ』、というのは少子化時代にもったいない話だ。『自殺者の7割を占める40代以上に対する自殺対策が次々に施行されてきた一方で、若年層の自殺対策が手薄だった」・・・この世代を対象とした実態調査も乏しく、思春期・若年成人世代の自殺者の実像はあいまいなままだ』、というのは、困ったことだ。カネがかかっても踏み込んだ実態調査で、要因を明確にしてもらいたいところだ。
貞包氏の『保険と自殺のキケンな関係』、の指摘は、言われてみればそういった面もありそうだ。2006に問題化した保険の悪用では、消費者金融業者が債務者に断りもなく生命保険にかけ、返済が困難になると自殺を強要するという極めて悪質なケースが横行していたとして問題になった。ここでは、それほど悪質ではなく、昔からある『保険金を目的とした自殺』、を取上げているが、『免責期間を延長するなどした結果、自殺を「隠す」動機も強まっている』、というのも当然出てくる動きで、困ったことではあるが、避けられない事態だ。それにしても自殺率は地方の方が高いというのは、高齢化があるにせよ、驚きの事実だった。ただ、『経済問題を原因とするとみられる自殺は減少しているのではないか』、というのはもっと率直に評価していいように思う。『自殺によって貨幣を得ることさえできずに、既存の経済体制から弾かれ、「保障のない」裸の生を生きる若者や地方の人々の姿を浮かび上がらせもするためである』、というのは、やや無理筋の印象を受ける。
タグ:20世紀の終わりから21世紀初めにかけては「自殺の時代」 2万人台前半で長い間推移していた自殺者数が、1998年、突如として3万人を超える。以後、警察庁の統計では2003年に3万4427人と統計上最多を記録するなど、15年近く、自殺者数は高止まりを続 免責期間を延長するなどした結果、自殺を「隠す」動機も強まっている 生命保険を媒介に、自殺を多額の金で償う社会的に黙認されたシステムが、些細な経済的な不況に反応しとくに中高年男性を中心に自殺を頻発させる社会をつくりだしてきた 「意図」を隠さなければいけない自殺 自殺総数に対して保険金支払い件数や金額が急増していくという事実 「命」を賭金とした保険に入る人びとの増加が、全国的に自殺の増加を引き起こす構造的な土台になった可能性を否定できない 生命保険と自殺の関係 地方の中高年男性の動向に注目する必要 方で自殺が目立ち始めたのかといえば、そのもっとも大きな理由は、高齢化である 20世紀末の自殺の急増が、地方を中心としていたことである 高度成長期以後のことである。この時期以降に、経済問題が自殺の原因として増加し始める 地方で自殺が急増した「意外な理由」〜日本社会の隠れたタブー 保険と自殺のキケンな関係 現代ビジネス 貞包 英之 日本を除くG7諸国では、この年代の死因の第1位は足並みをそろえて「事故」。自殺者は事故死の半分~3分の1にとどまる。逆に、日本の自殺者は事故死の3倍 15~39歳の各年代の死因の第1位は自殺 中高年・高齢者層は減少に転じたが 若い世代の自殺は深刻な状況 午前0時に一つの山 思春期・若年成人の自殺数がピークに 自殺が日本の若年層で高止まり、死因1位の深刻実態 厚労省が40歳以上を管轄するのであれば、「ひきこもり」実態調査もその施策も、厚労省に一元化すればいい 「40歳以上は厚労省の仕事」 驚くべき内閣府の言い訳 「家事手伝い」や「主婦」という蓑に隠された引きこもる女性の存在もデータに反映されなかった 40歳以上、主婦などの女性を排除 実態とかけ離れた“実態調査 今のひきこもりの実態とは、かなりかけ離れています 指摘されてきた同調査についての様々な瑕疵については、まったく反映されない内容 39歳以下の“ひきこもり”群が15万人余り減少 15~39歳を対象にした「ひきこもり」実態調査の結果を公表 内閣府「ひきこもり実態調査」、40歳以上は無視の杜撰 ダイヤモンド・オンライン (「ひきこもり実態調査」、自殺問題) 社会問題 長期的にみれば、貧困は自殺の主因だったわけではない
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