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アベノミクス(その15)「働き方改革」2(緊急調査で6割が「サービス残業」、過労死の陰にパワハラあり、「同一労働同一賃金」はなぜ実現しないのか) [経済政策]

アベノミクスについては、8月27日に取上げたが、今日は、(その15)「働き方改革」2(緊急調査で6割が「サービス残業」、過労死の陰にパワハラあり、「同一労働同一賃金」はなぜ実現しないのか) である。

先ずは、10月20日付け日経ビジネスオンライン「6割が「サービス残業」、緊急調査で浮き彫りに 電通女性社員の過労自殺が示す日本の病巣」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・電通の女性新入社員(当時24歳)が昨年12月25日、過労により自ら死を選んだ。女性社員は月105時間の残業をしていたと認められた。電通と労働組合が結んだ「36協定」で定めた残業時間を上回る長時間労働だ。三田労働基準監督署は女性新入社員がうつ病を発症していたと判断し、労災を認定している。
・東京労働局などは10月14日から電通の本社、支社、子会社に立ち入り調査を実施している。一社に対して、この規模の一斉調査は異例だ。塩崎恭久厚生労働相は「実態を徹底的に究明したい」と述べる。 電通では1991年にも24歳の男性社員が過労により自殺した。遺族と電通の間で争われ、2000年に最高裁が会社側の責任を認定。企業の安全配慮義務違反を理由とした損害賠償を認めた最初の判例として、その後の司法判断に大きな影響を及ぼしている。
・過労死という悲劇は、日本企業の中で何度も繰り返され、「KAROSHI」と英語でもそのまま通じるほどだ。厚生労働省が10月7日に初めて発表した「過労死等防止対策白書」は、その実情を詳しくまとめている。  過労死の最大の原因は長時間労働という悪弊だ。労働基準法では、労働時間の上限を週40時間までと定めている。ただし、労使で結ぶ「36協定」で別途上限を定められるため、規制が十分に機能していないとの指摘は多い。
・電通の女性社員のケースでは、この36協定による上限すら守られず、労働時間は過少申告されていた。実際は働いているのに、出勤簿では働いていないことになっている「サービス残業」は日本企業においてはよくある現象といわれる。だが、その性質上、実態は公的調査からはなかなか明らかにならなかった。
・日経ビジネスでは10月14~17日、「働き方に関するアンケート」(日経BPコンサルティングを通じインターネット調査)を実施。1343人のビジネスパーソンが回答や意見をよせた。まず目についたのは、長時間労働の弊害を嘆くコメントの数々だ。
・「残業(できない)しない人は何かの折に順に首を切られるか飛ばされる感じになる。会社が満足するほど残業している人は病気になるか、家庭が崩壊している」 「残業代分のアウトプットが出せていないのにカネを貰う気かという論法が横行」 「10日間で50時間残業を強いられ業務中に倒れた」 「深夜にミーティング設定があり、結局始まったのが翌日」 「長時間労働により、医者への通院ができなくなり、病気が悪化し、亡くなった方がいる(女性で30代でした)」 「うつ病の休職、突然死が毎年いる」
▽6割が「サービス残業」
・調査では6割以上の人が出勤簿につけていない、時間外労働時間があると回答。「サービス残業」が横行していることが浮き彫りになった。中には月間120時間以上を出勤簿につけていないケースまであった。残業をしているのに残業代を支払わない「サービス残業」は違法行為だし、労働時間をきちんと管理しなければ企業として安全配慮義務を怠っていることにもなる。
・労働者側が「空気」を読んで、残業を申請しないケースもあるだろう。だが、残業を出勤簿につけようとしたが、明確に拒否された人も25.7%いる。 会社はどのような理由で拒否したのか。その問いに対する答えには、目を疑うような上司のセリフが溢れていた。 「残業をつけるならば、評価を下げる」 「価値が出せたと思う分だけつけて」 「残業とかじゃなくて自主勉強時間だよね」 「会社が残業代を払える状況にない」――。
・どれ1つとっても正当性が感じられない。コンプライアンス上の問題を抱えている企業が少なくない、危うい現状が浮き彫りになる。 日本に巣食う長時間労働問題。だが残業時間の削減は、実は経営から見てもっとも手をつけやすい分野だ。抵抗勢力が「ほとんど」いないからだ。
・長時間労働が横行していることで知られるIT業界に、お手本となる企業がある。SCSKだ。残業時間を大幅に減らしながら、2015年度まで6期連続で増収増益を達成した。 2009年に住友商事からSCSKトップに転じ、働き方改革を主導したのは中井戸信英氏(現在は相談役)。社員の労働状況の過酷さに驚いて、残業時間削減を決意した。「残業代を減らした分は、すべて社員に戻す」と宣言し、実際に賞与などの形で部門ごとに達成度合いに応じて還元した。(参考記事:残業しない人に残業代を払う会社)
・さきほど「ほとんど」と書いたのは、時として社員が抵抗勢力になる場合があるからだ。長時間労働が常態化した企業では、残業代が事実上の生活給になっているためだ。その現実を踏まえた中井戸氏の施策は社員の心を捉え、全社が一丸となって残業時間削減に向かう流れを生んだ。立ち会議やムダな資料作りや会議をなくすといったアイデアが現場から次々に生まれてきたという。
・一方、残業削減をトップダウンで目標に掲げれば、かえってサービス残業として「地下に潜る」リスクがある。そこでSCSKは全社員を対象に「サービス残業アンケート」を実施。サービス残業を強いられていないか、暗黙のうちに付け控えを奨励するような雰囲気になっていないかなどを問い、問題がありそうな部署には社員から部門長まで人事からヒアリングをかけた。同時に入退室記録も照合し、サービス残業が判明したら必ず遡及して残業代を支給した。
▽目指すべき方向は1つ
・さて、こうした施策によるメリットとデメリットを天秤にかけるとどうなるのだろうか。 売上高や利益の目標を妥協しているわけではない。会社が負担する人件費は、これまでも残業代が発生していたのだから理屈の上では横ばいだ。首尾よく残業が減れば光熱費なども削減できる。社員の健康増進にも寄与するし、活気ある働き方をしてくれる可能性が高い。短時間で効率よく働ける職場環境を作れば、育児や介護を抱えた社員の退職も抑制できる。
・デメリットとしては、サービス残業の実態が明るみに出ることによって、一時的に人件費が増える可能性があることか。だが、そもそもコンプライアンス問題を抱えている状況を放置するよりはマシなのではないか。何より、社員も経営者も鬱々とした気持ちで働く企業に、未来があるとは思えない。
・もっとも現実は複雑だ。すべてが上記のような理屈で割り切れるものではないだろう。だが、働き方の問題に関して、どの企業も目指すべき大きな方向性は同じはず。あなたの会社はどちらの道を選択するだろうか。
・最後に、アンケートに寄せられたコメントを1つ紹介したい。 「長時間残業をしていた頃、子供の運動会を見に行ったが、疲れていて校庭の隅でずっと寝ていた。ああいう生活には戻りたくないし、誰にもあんな風にはなってもらいたくない」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/101700076/101900003/?P=1

次に、12月7日付けダイヤモンド・オンラインに掲載された作家の江上剛氏へのインタビュー記事「過労死の陰にパワハラあり。江上剛氏が指摘する職場の病」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは江上氏の回答、+は回答のなかの段落)。
・ダイヤモンド・オンラインでコラムを連載していた作家の江上剛氏が、このほど『働き方という病』という本を上梓した。全6章から構成され、「上司とそりが合わなかったら?」「天職を見つけるには?」「不正を見つけてしまったら?」など、およそビジネスパーソンが出合うであろう悩みや試練46ケースに江上流で応えている。そのベースにあるのは「論語」に代表される中国の古典だ。江上氏がこの本に寄せた思いとは?(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集委員原 英次郎)
Q:今なぜ「働き方」というテーマを世に問いかけたいと思われたのですか。
A:やはり電通の過労死事件が大きいですね。私もサラリーマン時代、大変な時間外労働をしましたし、人事部にも在籍していましたから、働き方については絶えず考えてきたのです。また過労死の裁判に原告側で協力したことがきっかけで『企業戦士』(講談社文庫)という小説を出版しましたからね。
Q:安倍政権も「働き方改革」に取り組んでいます。今回の著書も「働き方の指針」を示したものですが、タイトルは「働き方という病」となっています。「病」に、どんな思いを込められたのですか。
A:働き方は同一労働同一賃金や時間外労働の削減など政策面でフォローすべき課題が多いのも確かです。しかしそれ以上に、働く人の精神が健康である必要があると思っています。電通は過労死事件の後、夜10時に全社消灯を実施しているようですが、あれを見て「ああ、病んでいるな」と思いました。あれでは根本的な解決にならないだろうと思ったのです。
+過労死は必ずパワハラがセットになっているからです。誤解を恐れずに言うと、人は残業時間が多くて自殺するのではないと思っています。私が協力した過労死裁判もそうでしたが、必ずパワハラが原因です。ではなぜパワハラが横行するのか?それは職場が病んでいるからです。その病を解決するヒントになればとの思いを込めて「病」とつけました。
▽人間の生き方の根本にシンプルに訴えかける古典
Q:働くことの意味や指針を考える際に、孔子の「論語」を中心とする中国の古典を引いておられますね。それはどうしてですか。また、どのようなきっかけで中国の古典に惹かれるようになったのですか。
A:古典というのは何千年も生き残ってきています。それは人間の生き方の根本にシンプルに訴えかけるからだと思います。中でも孔子は、乱れた世に弟子たちと飢え死にするほどの苦難に満ちた流転の中に生きてきました。世に受け入れられなかったからです。きっと本人は色々な恨み辛みがあったと思います。
+論語を読むとそんな孔子の思いがビンビンと伝わってきます。そんな人間的な、あまりにも人間的な生き方がサラリーマンであった私に力を与えてくれたのです。私がそうであったように論語は、サラリーマンや組織の中で多くのハラスメントに苦しむ人に生きる力を与えるのではないかと思っています。
Q:あとがきにもあるように、江上さん自身も、第一勧銀の総会屋事件の解決に取り組んだり、その後、銀行を退職して小説家になり、一方、取締役を務めていた日本振興銀行が破綻するなど、毀誉褒貶というか起伏の大きい人生でした。その時に当たって、どのような心構えで臨んできたのですか。その際、古典(論語)は、どのような形で自身の判断や行動のよりどころになりましたか。
A:私は論語の中で「徳は弧(こ)ならず必ず隣(となり)あり」(里仁)が大好きです。まっすぐさえ生きていれば、人は私を見捨てることなく支援してくれるというこの言葉を信じて生きてきました。どれだけ力になったかわかりません。実際、日本振興銀行の破綻処理などでは、死んだ方がどれだけ楽だろうかと思ったことさえありましたからね。
+ある事件で大変な苦境に立たされた友人がいて、彼にこの言葉を教えました。後日、彼に会った時、「江上さんから『徳は弧ならず必ず隣あり』の言葉を教えられ、念仏のように唱えていたら苦境を脱することができました」と晴れ晴れとした顔で言われました。古典というのはこんな偉大な力があるんです。
▽本田宗一郎さんの伝記は心から楽しくなる
Q:過去形でも現在形でも構いませんが、江上さんから見て、働き方という点で、ロールモデルになるような、経営者やビジネスパーソンがいたら、その理由も簡単に添えて、何人か挙げてください。
A:本田宗一郎さんですね。彼の伝記を読むと心から楽しくなります。彼は社員と一緒に仕事を楽しんでいます。仕事は本来楽しいものなんです。パワハラが横行するのは楽しくないからです。そして名参謀の藤沢武夫のアドバイスでスパッと引退するところなどは、老害がはびこる現代への警鐘ですよ。
+それから大原總一郎さん。クラレの実質的創業者で、私は『天あり命あり』(PHP)で彼の生涯を描きましたが、「イノベーションなき経済成長は真の経済成長にあらず」など、高い理想を掲げて社員をひっぱりました。今もクラレの中には彼の精神が息づいています。このように社員をリードする「言葉」を持っている経営者が現在はどれほどいるでしょうか?ノルマや収益目標ばかりに捉われ「チャレンジ!」を連呼したって社員はついてきません。
http://diamond.jp/articles/-/110406

第三に、経済企画庁エコノミスト出身で昭和女子大学グローバルビジネス学部長・現在ビジネス研究所長の八代尚宏氏が12月26日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「働き方改革が目指す「同一労働同一賃金」はなぜ実現しないのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・働き方改革のコアとなる「同一労働同一賃金」のガイドラインが公表された。この目的は「非正社員の待遇改善を実現する方向性を示す」とされているが、いかにして正社員との賃金格差を欧州諸国並みに是正するかという、具体的なプロセスは示されていない。
・報告書では、(1)正社員と非正社員の賃金決定基準の明確化、(2)個人の職務や能力等と賃金との関係の明確化、(3)能力開発機械の均等化による生産性向上、等があげられている。いずれも当然の原則だが、仮にそれらが実現したとして、どのような道筋で賃金格差が是正されるのか。企業に対して明確化を求める割には、政府の意図は明確ではない。 このガイドラインの本来の目的を実現するためには、書かれている内容よりも、書かれていないことの方に大事なポイントがある。
・競争的な労働市場では、賃金の低い企業から高い企業へと労働者が移動することで、賃金格差は自然に解消される。同一労働同一賃金が実現しないのは、そうした労働移動を妨げる障壁があるためで、それが何かを示し、取り除くための処方箋を描くのが、本来のガイドラインの役割である。
・このカギとなるのが「雇用の流動化」である。しかし、この肝心の点が報告書ではほとんど触れられていない。これは、(1)賃金は正社員主体の労働組合と使用者との合意で決める、(2)労使協調をもたらす固定的な雇用慣行の堅持、(3)その範囲内で非正社員にできる範囲のことだけするという「労使自治の原則」が、暗黙の前提となっているためだ。
・そもそも、過去の高い経済成長期に普及した「正社員中心の働き方」という成功体験へのチャレンジが、本来の働き方改革の核心ではなかったのか。日本の働き方は、特定の企業内での円満な労使関係にもとづいている。その反面、企業の保護の外にある非正社員との格差は大きい。労働者の高齢化が進む中で、定年退職後に1年契約で働く高齢者数は急速に増えており、非正社員比率が4割を超すのは時間の問題である。
▽「雇用保障・年功賃金」をどう見直すかがカギ
・およそ病気の原因が分からなければ治療はできない。賃金格差の是正には、その要因についての共通理解が肝要である。日本の短時間労働者の時間当たり賃金はフルタイムの正社員の6割弱と、欧州主要国の8?9割と比べて大きい。これは主として若年層で小さく中高年層で大きい、正社員の年功賃金カーブから生じている。この年功賃金を所与として、どうすれば非正社員との賃金格差を縮小できるのだろうか(参考・2016年2月5日付記事「『同一労働同一賃金』実現は、正社員にも無縁ではない」)。
・仮に勤続年数の等しい非正社員に正社員と同じ年功賃金を適用しても大きな意味はない。有期雇用の非正社員にとって、年功賃金のメリットが生じる前に雇用が中断され易いからである。 むしろ正社員の賃金が、例えば40歳台で特定の職種に特化した「ジョブ型」に転換し、フラットな形へと変わる選択肢を広げれば、元々、特定の職種に就くことを前提に雇用される非正社員との賃金差は縮小する。
・報告書では定年制には触れていない。定年制とは、本来は熟練労働者である高年齢者を、一律に解雇するという制度である。なぜ企業はそんなことをするのかというと、企業への貢献度を上回る年功賃金が大きな負担となるからだ。特定の職種について社員の賃金と生産性が見合っているジョブ型であれば、労働力不足時代に何歳になっても辞めてもらう必要性は乏しい。これは年齢にかかわらず働き続けたい多くの社員にとっても大きなメリットとなる。
・今回のガイドラインでは、過去の高い経済成長期に形成された「雇用保障・年功賃金」をどう見直すのかの基本的スタンスが曖昧なままである。これでは欧米の職種別労働市場を前提とした同一労働同一賃金の実現は極めて困難である。
▽労使自治の原則を巡る日米労働法の違い
・日本の労働法には、最低賃金と労働時間以外の規制は原則としてなく、労使自治の原則に委ねられている。同一労働同一賃金の法制化は、この大原則への侵害との批判がある。 米国の労働法も労使自治に基づいているが、「差別の禁止」という、より大きな原則があることが違いである。解雇は原則自由だが、人種や性別を理由とした解雇は厳しく罰せられる。これに「年齢による差別」も加えられ、日本のような一定の年齢に達したことだけをもって解雇する定年退職制は明確な違反行為である。
・最近、定年後再雇用されたトラック運転手が、定年前と全く同一の仕事にもかかわらず、賃金が大幅減になったことを不当として訴えた。これは社会常識に反した訴えと受け止められたが、米国なら同一労働同一賃金の論理どおりの要求と言える。 この本来の争点は、トラック運転手という典型的なジョブ型の職務にまで年功賃金を機械的に適用したことにある。熟練労働者を企業内に閉じ込めるための仕組みによって、定年による解雇が必要となるという矛盾が生じる。仮に、40歳頃からのフラット賃金であれば、会社も不足しているトラック運転手の賃金を下げる必然性はなくなる。
・報告書の「個人の職務や能力等と賃金との明確化」とは、こうしたジョブ型の働き方への移行という意味であろうが、それを明確化しなければ、ガイドラインの役割を果たせない。また、企業に要求するだけでなく、労働力が長期的に減少する今後の社会で、定年制という「年齢差別」を、いつまでも放置している政府の責任が問われるべきであろう。
▽低成長時代には見合わない年功昇進という過剰な制度
・ガイドラインでは、非正社員の業績・成果が正社員と等しければ同一賃金とされる。しかし、それには「特定の仕事に賃金が結び付く」職務給が大きな前提となる。現行の「特定の人に仕事をつける」年功昇進の仕組みのままでは無理である。もはや年功給が賃金の大きな割合を占めている企業は少ないであろうが、賃金の高いポストへの年功昇進に変化がなければ、年功的に決まる賃金の実態は変わらない。
・正社員と非正社員の間だけでなく、大企業と中小企業、男性社員と女性社員等の賃金格差の主因も、年功賃金カーブの差から生じている。この年功賃金の根拠として、労働者の生活費が年齢とともに高まることに見合った「生活給」という説明がある。しかし、これは労働者が「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」というもので、夢の世界の話である。
・より合理的な年功賃金の説明としては、企業内訓練を極度に重視する日本企業では、大企業の男性正社員ほど、頻繁な配置転換を通じて、より賃金の高い高度な業務に就けられる機会が多いことがある。その場合、年功賃金カーブの差は、個人の労働生産性の差に対応することになり、同一労働同一賃金と必ずしも矛盾するものではない。日本的雇用慣行を擁護する論者は、こうした暗黙の前提に立っているものとみられる。
・しかし、最近の日本経済における情報通信技術の発展等の下では、長期間にわたって企業内で形成された熟練が急速に陳腐化するリスクも大きい。企業内訓練は社員への投資であるが、現在の低成長期には過去の高成長期と比べた投資の収益率は平均的に低下している。これまでの社員の生涯を通じた企業内訓練は、現在では過剰投資の面も大きい。
・企業内訓練を通じた労働生産性の上昇は、年齢が高まるほど個人間のばらつきも拡大する。過去の高い成長期に大企業を中心に普及した年功賃金は、今日の低成長期には社員間の生産性に見合わない賃金格差の主因となる。日本企業でも個人の仕事の概念を明確化して、これまで避けてきた人事評価に本格的に取り組む時期に来ている。
▽正社員の賃金決定基準の明確化へ 求められる企業の説明責任
・ガイドラインの柱のひとつに「正社員の賃金決定基準の明確化」がある。これを実現するために有効な手段として、企業内で類似の業務の社員間の賃金格差の説明を企業に対して義務付けることが、当初案では盛り込まれていた。この「働き方改革」の数少ない目玉が、最終的に落ちてしまったことは残念である。
・これは企業にとって負担増となるという批判は近視眼的である。市場の需給関係で賃金が決まる非正社員に対して、企業内で決まる正社員の賃金決定の仕組みの合理化は、働き方の多様化が進むほど、その効率的な活用を図るために不可欠となる。
・欧米企業は社員の人事評価に多くの時間とコストをかけているが、これは多様な人種・国籍の社員からの「差別されている」という訴えに対抗するためでもある。日本企業も、人事評価に欧米並みのコストをかけることは、公平性の観点だけでなく、長期的には能力主義人事への道を開くことで、企業自体にも大きなメリットがある。
・今後の低成長期には、「黙って上司に従って働けば、長期的に損はない」という過去の経験が成り立たない。短期間内に、会社への貢献に見合った評価と処遇を求める部下を説得できるだけの高い仕事能力を管理職に求めれば、欧米型の「給与に応じて働く」仕組みに近づくことになる。
・今後、増え続ける中高年社員と減る一方の管理職ポストとのギャップが大きくなる下で、人事部による一方的な割当方式では、社員の不満を高めるだけである。管理職に昇進することが社員にとってメリットだけでなく、大きな負担にもなることが明確になれば、自分の本来の職務に専念できるジョブ型社員へのニーズも増えるであろう。
・企業の内部労働市場にも、管理職ポストの需給メカニズムを導入することが、本来の働き方改革の基本と言える。これは結果的に「非正社員という言葉をなくす」という安倍総理の思いに結び付くことにもなる。  
http://diamond.jp/articles/-/112527

第一の記事では、「サービス残業」を6割の人がしているとの調査結果に、驚いたフリをしているが、私自身はまあこんなものだろうと受け止めた。お手本となる企業として挙げられたSCSKでは、確かに上手くいったようであるが、各企業が置かれた状況は様々であり、一般的な処方箋はない。
江上氏が指摘する 『過労死は必ずパワハラがセットになっているからです。誤解を恐れずに言うと、人は残業時間が多くて自殺するのではないと思っています』、『なぜパワハラが横行するのか?それは職場が病んでいるからです』、はその通りだと思う。 『日本振興銀行の破綻処理などでは、死んだ方がどれだけ楽だろうかと思ったことさえありました』、と述懐しているが、これは同行創業者の木村剛に乗せられて社外取締役をしていた責任から、最後の処理をやらされたためで、「身から出たサビ」と言えなくもない。彼に乗せられたのは、竹中平蔵、元日銀総裁の福井氏など、他にも大勢いるが、社外取締役になっていたのでは、逃げようがない。
八代氏は、市場原理主義的なところがあるので、通常は余り引用しないが、今回のテーマでは、本質的な問題提起をしているので、取上げた次第である。ただ、「年功賃金」や「年功昇進」については、既に徐々に崩壊しつつあると思っていたので、やや違和感がある。まだ崩壊し切ってはいないという意味なのだろう。ただ、『正社員の賃金決定基準の明確化へ 求められる企業の説明責任』、については概ね同意できる。
いずれにしろ、「働き方改革」で政府がいくら旗を振っても、簡単に解決できる問題ではなさそうだ。
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