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イタリア金融危機(その2)イタリア政府のモンテ・パスキ支援策 [金融]

イタリア金融危機については、8月6日に取上げた。政府の支援策が公表されたのを踏まえて、今日は、(その2)イタリア政府のモンテ・パスキ支援策 である。

先ずは、闇株新聞が本日付けで掲載した「モンテ・パスキは欧州金融界における「火薬庫のスイッチ」 その2」を紹介しよう。
・12月22日付け「同題記事」の続きですが、そのモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(以下、モンテ・パスキ)は22日が払込期限だった30億ユーロの新株払い込みがなく、完全に「お手上げ」となり取引所の株式売買も停止されました。 その前日の21日が期限だった20億ユーロの劣後債の株式化は個人投資家の申し込みで予定額に達していたのですが、肝心の機関投資家向け新株発行はカタール政府系ファンドが10億ユーロの払い込みを拒否した段階で失敗となりました。
・つまりモンテ・パスキは破綻に瀕しているわけで、まさに欧州金融界における「火薬庫のスイッチ」がONとなったはずでした。ここで「火薬庫」とは全体で3600億ユーロ(44兆円)の不良債権を抱えるイタリア銀行界のことであり、その中でも内容が飛び抜けて悪いモンテ・パスキが破綻すれば、まさにその「火薬庫にスイッチが入る」ことになります。
・ちなみにこの3600億ユーロとはイタリアGDPの22%に相当します。大雑把な比較ですが、1990年に弾けた日本のバブルの損失合計は約100兆円で、これは当時の日本の名目GDP・450兆円の22%が棄損したことになります。またリーマンショック時のMBSによる世界の損失合計は約2兆ドルで、これは当時の米国住宅ローン残高・12兆ドルの16%が棄損したことになります。
・つまりイタリアの銀行全体にある3600億ユーロの不良債権とは、過去の日本のバブルやリーマンショック時の米国住宅バブルと比較しても、十分に破壊力のある「火薬庫」となります。
・しかしいよいよ「火薬庫にスイッチが入った」と身構えたものの、その直後のイタリア政府の動きは珍しく電光石火で、早くも12月23日未明にジェンティローニ首相がモンテ・パスキの公的支援を閣議決定したと発表しました。 このジェンティローニ首相とは、12月4日に憲法改正を巡る国民投票に敗れて辞任したレンツィ前首相の後任で暫定首相のようなものです。そのレンツィ前首相が辞任した直後は、モンテ・パスキを含むイタリアの銀行支援体制に暗雲が立ちこめたと懸念されていたはずですが、あっさりと公的支援が決定されたことになります。
・おまけにイタリア政府の銀行セクターへの支援資金は当初の150億ユーロから200億ユーロ(2.4兆円)に拡大されましたが、イタリア議会が異議を挟んだ形跡もありません。さらに最大の難関であるEUによる再建策(公的支援策)承認まで「問題ない」と週末には報道されていました。 これをうけて先週末(12月23日)にかけて当のイタリア株式市場をはじめ、ほぼ世界中の株式市場が上昇していました。
・じゃあ今までこのモンテ・パスキの経営危機だの、欧州銀行監督機構(EBA)のストレステストだの(モンテ・パスキとアライド・アイリッシュが不合格)、ドイツバンクのデリバティブ残高だの、同じドイツバンクのMBS不正販売の巨額罰金だの(同じく先週末に72億ドルで和解しています)、何度も欧州の銀行を巡る不安材料が世界の株式市場を直撃していた「騒ぎ」はいったい何だったのだ?といいたくなります。 そんなに簡単に(どこからも文句が出ず)公的支援が行われるなら、今までも何の心配もなかったはずだからです。
・そう考えていたら本日(12月26日)になって、やはり問題が出てきたようです。 そもそもEUは、破綻に瀕した銀行の救済コストを納税者ではなく、その銀行の債権者(主に劣後債保有者)や株主に負担させる枠組み(Bail In Rule)でなければ承認しないことになっていますが、今回のモンテ・パスキの公的支援はそう見えません。 報道ではモンテ・パスキの債権者(主に劣後債保有者)のうち、機関投資家は25%をカットしたのち株式に転換するとなっていますが、その転換条件が不明です。つまり機関投資家は実際に救済コストを負担しているかどうかが不明です。
・さらに4万人もいる個人の劣後債保有者は(21日までに株式化を申し込んだ保有者もその劣後債が返却されています)、複雑な仕組みとなっていますが要するにまるまる政府が買い取ることになっています。その理由は「個人投資家はリスクを意識せずに劣後債を購入していたから」だそうです。まあその通りなのかもしれませんが明らかな詭弁です。
・つまり債権者(劣後債保有者)は全く救済コストを負担しない可能性が強く、イタリア政府は明らかに「どさくさに紛れてEUの承認を取り付け、すべて公的資金で(つまり税金で)処理してしまおう」と考えていたようです。 だから週末を挟んで電光石火で片づけようとしていたわけです。しかしEUにバレてしまうのは時間の問題でしょう。
・最初から直感的に年末年始最大の「イベント」と考えていましたが、早急に続編を書くことになりそうです。
http://yamikabu.blog136.fc2.com/blog-entry-1902.html

次に、同じく本日付けのロイターにNeil Unmack氏が寄稿した「コラム:伊政府のモンテ・パスキ支援策、実体は「ベイルアウト」」を紹介しよう。
・イタリア大手銀行モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)への公的支援は債権者が損失を負担する「ベイルイン」を装っているが、実体は納税者が負担を負う「ベイルアウト」だ。
・欧州連合(EU)の規則は、加盟国政府が銀行を救済する場合には債権者に損失負担を強いるよう定めている。イタリア政府はモンテパスキ救済でこの規則に従ったが、金融工学のにおいのする筋の通らない手段を講じることで、今回の支援を2008年以降に行われたベイルアウトと同じものにしてしまった。
・23日に発表されたモンテパスキ支援は一見するとEU規則に完全に沿った申請にみえる。モンテパスキはストレステスト(健全性審査)で露呈した自己資本不足を穴埋めするための50億ユーロが調達できなかった。故にEU銀行再建・破綻処理指令32条に基づき、政府が支援に動くことは可能だ。救済規則の下でモンテパスキの40億ユーロ強の劣後債は株式への転換が義務付けられている。
・しかしイタリア政府は別の手も打っている。モンテパスキは小口投資家が劣後債との交換で手にした株式を債務不履行のリスクがほとんどないシニア債と交換する。その後政府はこの株式を銀行から買い上げる予定だ。経済学的にみれば、政府が単に小口債権者から株式を直接買うのと変わらないようにみえる。
・詳細にはまだはっきりしていない部分がある。株式と交換されるシニア債の発行条件や政府が株式を買い上げる際の価格は、いずれも額面となる公算が大きいとはいえ、不明。どの程度の数の株式に今回の手法が適用されるのかも曖昧だ。これまでの発表では、小口投資家が保有するすべての債券に適用されるようだ。
・イタリアは小口投資家が経営状態の悪い銀行の債券を保有するという難しい問題を抱えており、こうした複雑な対処法になるのだろう。政府はぜい弱で、新興政党の五つ星運動は支持率を伸ばしており、来年に総選挙が行われる公算が大きい状況下で債権者に実際に損失を負わせるのは政治的に好ましくないと判断したとみられる。
・しかしこの手法がすべての小口投資家に対して額面で適用されれば、納税者負担によるベイルアウトと変わらない。欧州政策研究センターによると、個人向けに発行された債券はイタリアの家計の上位10%の富裕層が保有している。
・今回の茶番劇でイタリアの体力のない銀行の間で事業再編が加速すると予想されるのは朗報といえる。一方、EU規則は政治目的のために簡単に曲げられることが明らかになったのは困ったことだ。 ●背景となるニュース(省略)
http://jp.reuters.com/article/column-italy-bank-bailout-idJPKBN14F0EC?pageNumber=2&sp=true

モンテ・パスキは、闇株新聞の12月22日付けによれば、ルネサンス時代の1472年創業で、現在営業している世界最古の銀行とのことである。闇株新聞が指摘するように、イタリア全体の不良債権の規模は、かつての日本並みと深刻である(米国住宅バブルについての記述は、比較のし方がややおかしいので無視)。レンツィ前首相が辞任後の後任のジェンティローニ首相が、電光石火の早業でまとめたとは、イタリアらしからぬやり方だが、それだけ危機が深刻で、追い込まれていたためなのだろう。個人の劣後債保有者が4万人もいるのであれば、EUのBail In Ruleを適用すれば、イタリアは大混乱に陥り、反EUの五つ星運動がさらに勢いを増す恐れが強かった。こうしたなかでは、Neil Unmack氏が『実体は「ベイルアウト」』、とする支援策をイタリア政府が採らざるを得なかったのも理解できる。しかし、EUが実質的なルール破りをどう判断するかが、次の見物だ。ただ、Bail In Ruleといっても、最初に適用したのは、キプロスの金融危機。この時は、ギリシャの兄弟国であるキプロスの銀行が大量に抱えていたギリシャ国債の減価で危機に追い込まれたのであるが、大口預金の中心がロシアのアングラマネーだったこともあり、預金保険の限度10万ユーロを超える部分を40%カットすることで対応した。それでも全銀行が2週間休業し、キプロスは大混乱に陥ったとされる。これと違って、モンテ・パスキの場合は劣後債保有者が、『家計の上位10%の富裕層が保有』、ということであれば、いくら少数の金持ちとはいえ政治力は強い層を敵に回すことは不可能だろう。EUとしても、杓子定規なルール適用で、五つ星運動が勝利し、英国に続いてイタリアまでEU離脱、究極的にはEU崩壊などという悪夢は見たくないのではなかろうか。
なお、明日、明後日は更新を休むので、30日にご期待を!
タグ:モンテ・パスキ 金融危機 イタリア (その2)イタリア政府のモンテ・パスキ支援策 政府の銀行セクターへの支援資金は当初の150億ユーロから200億ユーロ(2.4兆円)に拡大 直後のイタリア政府の動きは珍しく電光石火で、早くも12月23日未明にジェンティローニ首相がモンテ・パスキの公的支援を閣議決定 3600億ユーロとはイタリアGDPの22%に相当します。大雑把な比較ですが、1990年に弾けた日本のバブルの損失合計は約100兆円で、これは当時の日本の名目GDP・450兆円の22%が棄損したことになります EU 最大の難関であるEUによる再建策(公的支援策)承認まで「問題ない」と週末には報道 破綻に瀕しているわけで、まさに欧州金融界における「火薬庫のスイッチ」がONとなったはずでした Bail In Rule 4万人もいる個人の劣後債保有者は(21日までに株式化を申し込んだ保有者もその劣後債が返却されています)、複雑な仕組みとなっていますが要するにまるまる政府が買い取ることになっています 闇株新聞 「火薬庫」とは全体で3600億ユーロ(44兆円)の不良債権を抱えるイタリア銀行界のことであり、その中でも内容が飛び抜けて悪いモンテ・パスキが破綻すれば、まさにその「火薬庫にスイッチが入る」ことになります 機関投資家は25%をカットしたのち株式に転換するとなっていますが、その転換条件が不明 EU規則は政治目的のために簡単に曲げられることが明らかになったのは困ったことだ 個人向けに発行された債券はイタリアの家計の上位10%の富裕層が保有している モンテ・パスキは欧州金融界における「火薬庫のスイッチ」 その2 納税者負担によるベイルアウトと変わらない 新興政党の五つ星運動は支持率を伸ばしており、来年に総選挙が行われる公算が大きい状況下で債権者に実際に損失を負わせるのは政治的に好ましくないと判断 経済学的にみれば、政府が単に小口債権者から株式を直接買うのと変わらないようにみえる モンテパスキは小口投資家が劣後債との交換で手にした株式を債務不履行のリスクがほとんどないシニア債と交換する。その後政府はこの株式を銀行から買い上げる予定 救済規則の下でモンテパスキの40億ユーロ強の劣後債は株式への転換が義務付けられている コラム:伊政府のモンテ・パスキ支援策、実体は「ベイルアウト」 Neil Unmack ロイター EUにバレてしまうのは時間の問題 債権者(劣後債保有者)は全く救済コストを負担しない可能性が強く、イタリア政府は明らかに「どさくさに紛れてEUの承認を取り付け、すべて公的資金で(つまり税金で)処理してしまおう」と考えていたようです
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