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トランプ新大統領誕生(その9)(「経済政策チーム」の過激な顔ぶれ、トヨタに課す「仕向地法人税」は関税とどう違うか) [世界情勢]

トランプ新大統領誕生については、昨年12月19日に取上げた。就任式が終わった今日は、これまでの報道のうち注目される2つを、(その9)(「経済政策チーム」の過激な顔ぶれ、トヨタに課す「仕向地法人税」は関税とどう違うか) として取上げたい。

先ずは、米国先端政策研究所(CAP) 上級研究員のグレン・S・フクシマ氏が1月10日付け東洋経済オンラインに寄稿した「トランプ「経済政策チーム」の過激な顔ぶれ 一枚岩ではないが実力派揃い」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米国の貿易交渉を担う米通商代表(USTR)にロバート・ライトハイザーを指名したドナルド・トランプ次期大統領は、大統領経済諮問委員会の委員長と農務長官を除く経済政策チームの人選を完了させた。残りの人事も近いうちに発表されるだろう。
・トランプ政権の経済政策チームは、財務長官にゴールドマン・サックス元パートナーであるスティーブン・ムニューチン、商務長官に投資家で元銀行家のウィルバー・ロス、国家経済会議(NEC)委員長にゴールドマン・サックス社長兼最高執行責任者(COO)のゲイリー・コーン、新設される国家通商会議(NTC)の代表者にエコノミストのピーター・ナヴァロ、そして前述のライトハイザーで構成されることになる。
▽実は万人受けする経済政策
・大統領選中に、トランプが掲げた公約「Make America Great Again(米国を再び偉大にする)」が有権者にウケた理由のひとつは、共和党員と民主党員、そして富裕層と貧困層へと、それぞれに魅力的な政策を示したことだ。
・たとえば、富裕層や実業家に対しては、個人と企業の両方に対する大幅な減税を提示した。複雑な米国の税法を単純化することによって、個人に対してはそれぞれの収入に応じて12%、25%、33%を課税することを提案している。この施策の恩恵を最も受けるのは、所得上位1%に属するような富裕層である。トランプはまた、法人税についても、35%を15%に引き下げることを提唱している。ただし実現すれば、国家の歳入は今後5年間で9.5兆ドル減り、その後10年間でさらに15兆ドル減る可能性があると、税金の専門家たちは懸念を強めている。
・実業家に対しても思い切った規制撤廃を提示している。財務長官に指名されたムニューチンは、2008年の経済危機の際に起きたような経済破綻を防ぐことを目的として2010年に法制化された米金融規制改革法(ドット・フランク法)を大幅に緩和することを約束している。
・また、環境保護局(EPA)長官に指名されているオクラホマ州のスコット・プルイット司法長官は、気候変動に懐疑的で、現在の環境規制を大幅に緩和するとしている。エネルギー庁長官に指名されているリック・ペリー前テキサス州知事は、2011年に自身が廃止することを提案したポストに就くことになる。極めつけは、「乗っ取り屋」として名を馳せた投資家のカール・アイカーンが規制緩和特別顧問に就任することだ。
・トランプは、伝統的に共和党の最優先事項となっている減税と規制緩和を推し進める一方、米国の幹線道路、トンネル、橋、空港を整備するために、今後10年間で1兆ドルの投資を行うことも約束している。これは民主党が何年にもわたって提唱してきたことだが、この8年間、こうしたインフラ投資を「妨害」してきたのは何を隠そう共和党である。
・ただ、ここで気をつけなければいけないのは、このインフラ投資がどの程度、民主党が提案していたとおり公共財を提供するために政府によって行われ、共和党が提案するように企業に利益を与えるためにどの程度、民間部門によって行われるかである。
▽トランプ流の雇用流出対策
・一方、貿易・投資政策は、概して自由貿易を好む従来の共和党と、トランプが最も異にしているところだ。トランプは北米自由貿易協定(NAFTA)や環太平洋経済連携協定(TPP)に反対しており、こうした協定は米国人労働者から仕事を奪い、産業空洞化を加速させる「悲惨な合意」であると主張。多国間の貿易協定ではなく、2国間であれば米国に有利に交渉ができるとしている。
・大統領選中、トランプは不公正な取引慣行や通貨操作を行う国からの輸入品に20%の関税を課すと脅かしていた。中国に関しては、45%という関税額を示したこともある。さらに、日本が米国からの輸入牛肉に38.5%の関税をかけているので、米国が輸入する日本製の自動車にも同じ割合の関税をかけるべきだとも述べていた。
・トランプはまた、株主の利益を最大化するために企業が自由に活動することを優先する大抵の共和党議員と異なり、米国外に仕事が「流出」するのをやめるよう、米企業に圧力をかけている。実際、米国から生産拠点を移し、海外で生産を行う米企業が販売する製品に35%の関税をかけると脅したこともある。
・米空調大手キヤリアは先月、インディアナ州にある工場をメキシコに移す計画をトランプの”説得”によって撤回し、同州内で800人の雇用を維持することを約束したが、トランプはこれを自らの成果だと豪語している。もっとも、この背景には、同州に雇用をとどめる見返りとしてインディアナ州が行うキヤリアに対しての今後10年にわたる700万ドル以上の税制上の優遇措置があるのだ。
・トランプはまた、キヤリアの親会社であるユナイテッド・テクノロジーズに対しても、「雇用を海外へ移せば、米国防総省と同社の軍事部門との契約に悪影響が出るかもしれない」と伝えたと言われている。共和党主流派の中にはこれを、「政府の不当な市場介入」であると批判する議員もいるが、これはトランプがいかにしてブルーカラー有権者の支持を得ているかというよい例だろう。こうした労働者の多くは労働組合に入っており、これまでは米国の製造業の雇用を取り戻すと約束していた民主党を支持していた。
・トランプの経済政策チームも、一枚岩ではない。財務省長官になる予定のムニューチンと、NECを担当するコーンは2人とも前述のとおり、ゴールドマン・サックス出身の投資銀行家であることから、サービス業を重視し、グローバリゼーションを推進することが予想される。一方、NTCを担当するナヴァロと、貿易問題専門の弁護士であるUSTRのライトハイザーは、反自由貿易の色彩が強い。
・ハーバード大学で経済学の博士号を取得し、カリフォルニア州立大学アーバイン校の元教授であるナヴァロは中国の経済政策を激しく批判し続けており、「対中国貿易政策の強硬派」と呼ばれてきた。彼は著書『中国は世界に復讐する(The Coming China Wars)』や映画にもなった『デス・バイ・チャイナ』などで、中国が世界の貿易体制にもたらす危険性について警告している。
▽レーガンを賞賛するライトハイザー
・私がUSTRに務めていた1980年代に次席通商の一人だったライトハイザーは、鉄鋼業を中心に日本や中国に脅かされてきた米企業の代理人を務めてきた弁護士である。彼は「米国の輸出を促進すると同時に、不公正な輸入を防ぐ貿易政策を実施することで、米国内の産業を支えているのは共和党にほかならない」とする論文を数多く執筆している。
・彼が賞賛しているのは、鉄鋼の米国への輸入量に品目別・国別の割り当てを課し、日本メーカーとの競争からハーレー・ダビッドソンを守り、米国の半導体や自動車メーカー守るために日本からの輸入を制限したことで知られる1980年代のレーガン政権だ。
・こうした問題に関して、商務長官に指名されたロスがどう対処するのかは興味深い。彼は日本を含む世界中で(財務危機に陥った企業の株式や債券など)ディストレスト資産に投資することによって、巨万の富を得た銀行家だ。 1997年以来の日本での投資経験がある彼の最も注目すべき成果は、破綻した大阪の幸福銀行を買収し、関西さわやか銀行に再編した後、最終的に三井住友銀行の子会社、関西銀行に吸収合併させたことだ。2010年からニューヨークにあるジャパン・ソサエティ(日米協会)の会長を務めているほか、2014年には日米の経済関係に貢献したとして日本政府から表彰されている。
▽「トランポノミクス」がはらむ危険性
・個人と企業への大幅な減税、思い切った規制撤廃、多額のインフラ投資、保護主義の貿易・投資政策という珍しい組み合わせは、すべての米国人に何かしらを与えようとしている。この公約の組み合わせがうまくいけば、トランプは実際に「米国を再び偉大にした」という功績を残すことができるだろう。政権を引き継ぐうえで、現在の経済状況が好調なのは、実に彼にとって幸運なことだ。これは、バラク・オバマ大統領がその前任者であるジョージ・W・ブッシュ前大統領から引き継いだときの、恐慌寸前にあった経済状況とは対照的だ。
・しかし、トランプが自らの公約に基づいて行動するならば、そこには大きな危険性がある。彼が提案する減税案は財政赤字を拡大し、所得と富の格差をさらに拡大させることになるだろう。行き過ぎた規制撤廃は、結果的に反競争的企業行動と企業破綻とそのための救済措置、消費者への損害、環境悪化、地球温暖化をもたらす可能性が高い。
・貿易や投資政策についても、米国の製造業者と消費者に損害をもたらす貿易戦争を引き起こしかねない。米企業による雇用流出を防ぐ施策が、必ずしも雇用維持につながるともかぎらない。さらに、製品やサービスの自由貿易を制限する試みによって、米国は「鎖国」状態となり、米企業の競争力が一段と低下するかもしれない。
・トランプに票を投じた人々は、「劇的な変革」を望んでいた。彼らは、トランプが危険要因になることはわかっていながら彼に投票した。なぜなら、ヒラリー・クリントンがより経験豊富かつ実績があり、予測可能であるものの、彼女はエスタブリッシュメントと現体制の象徴であり、変革をもたらす候補者ではないと考えたからだ。はたしてトランプの変革は、米国民が期待するような結果をもたらすことができるのか。非常に興味深い政権が始まろうとしている。
http://toyokeizai.net/articles/-/152566

次に、財務省出身で中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員の森信茂樹氏が1月11日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプがトヨタに課す「仕向地法人税」は関税とどう違うか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「NO WAY! Build plant in U.S. or pay big border tax.」 新年早々トランプ次期大統領が、トヨタ自動車が新設する工場について、そうツイートすると、トヨタの株価は3%下がった。 ツイートだけで企業の巨額の時価総額が変動するという方法は、あまりにも未熟で品がなく、これからの世界経済へのリスク、不確実性を高めるもので大統領就任後は自粛すべき方法だ。
・ところでこの「pay big border tax」発言を、日本経済新聞(1月6日夕刊一面)や朝日新聞などは「関税を払え」と訳していたが、それは「誤訳」だ。関税の英語は、custom duty、import duty、tariffで、“border tax” ではない。 実はこの税制こそ、第126回の本欄で紹介した、「仕向地課税(最終消費地課税)法人税」である。
▽米国には消費税(VAT)のような国境調整ができる税制がない
・改めて確認しておくと、わが国にも“border tax”は存在している。それは消費税(VAT)である。米国からわが国に国境を超えて輸入される米国車には、輸入業者が8%の消費税を払わなければならない。もちろんトヨタ車がわが国で販売される際にも8%の消費税が課せられるので、わが国内では米国車と国産車の間の税制上の不公平は存在しない。
・さらに、トヨタが米国に輸出する際には、わが国の消費税8%分が還付される。このように、輸入には輸入時点で課税され、輸出には輸出時に還付する仕組みを、国境調整(border adjustment)という。 これは、消費税(VAT)が仕向け地課税という国際的なルールの下で実行されているからである。
・トランプが、あるいはこれまで米国共和党が問題にしてきたのは、「トヨタやベンツが米国に輸出する際には、輸出国で消費税(VAT)相当分が還付される」ということである。そして、「米国にはVATがないので、このような国境調整ができず、その分、米国企業の競争条件が不利になっている」ということである。 この点については、拙著『税で日本はよみがえる」(日本経済新聞出版)の305ページ以降に詳細に記述してあるので、参照されたい。
・以上を要約すると、以下のようになる。
 第1に、わが国や欧州は、消費税(VAT)という、国境調整ができる税制(“border tax”)を持っているので、輸出時には税が還付され、外国から輸入される際には課税できる。
 第2に、米国には、消費税(VAT)のような国境調整ができる税制がないことが、米国の国際競争力を低下させる原因となっているので、それを導入すべきだ。そうすれば、トヨタやベンツが米国に自動車を輸入する際には課税でき、米国車が輸出する際には還付できる。
 第3に、いまさら消費税(VAT)を導入することは困難なので、法人税の中身を消費課税・仕向地課税にして対応すべきだ。 というのがトランプ政権の考え方である。
▽仕向地法人税の メリットとデメリット
・問題は、このような税制は、トランプ政権の思い付きではなく、英国シンクタンクIFSが世界最高水準の経済学者を総動員して作成した「マーリーズ・レビュー」の中で、最も効率的な税制として提言されているということである。 「マーリーズ・レビュー」報告書については、筆者が主催するジャパン・タックス・インスティチュートのホームページに要約を掲載している(第2部、一橋大学佐藤主光教授の論文参照)。 そのメリット・デメリットについては、第126回で述べたが、簡単に要約すると次のとおりである。
・メリットは、
 第1は、法人税率が企業の立地選択に影響しないことである。共和党のブループリントでは、「この税制の結果、米国企業は、消費地に最も近いところで生産するようになる」つまり米国企業の米国回帰が始まるとしている。
 第2に、企業が価格操作による利益移転をする必要がなくなるので、タックスヘイブン対策税制などが大幅に簡素になり、税制がシンプルになる。
 第3に、輸出還付の一方で、輸入課税するので、輸入超過の米国では増収になる。  これらメリットについては、共和党の選挙公約「A BETTER WAY」(2016.6.24)が参考になる。
・一方、筆者が考えるデメリットは以下のとおりである。
 第1に、輸出企業は巨額な還付を受けるので、国民から「優遇税制」との大きな批判を受ける可能性がある。
 第2に輸入産業(例えば中国から消費財を輸入するような小売業)は輸入に税がかかるのでビジネスに大きな打撃を与える。
 第3に、輸出入に大きな影響を及ぼすので、為替レートの不確実性が高まる。
 第4に、税務執行の問題だ。インボイスによって個々の取引ベースで課税・還付する消費税(VAT)と異なり法人税体系の中で執行するとなると、どう執行するのか。また、輸出還付を巡る不正が発生する可能性があり、IRAが反対することは目に見えている。
 最後にWTO(世界貿易機関)との関係(輸出補助金ではないかという問題)が生じる。しかしトランプにすれば、「仕向地主義の消費税(VAT)こそWTO違反だ」ということになり、事実上この問題は水掛け論になる可能性がある。
・いずれにしても、トランプ政権の考えている税は、「関税」ではない。わが国も導入している国境調整システムを法人税の中で行おうという話で、論理的には決して無茶な話ではない。 しかし執行の問題など多くの課題があり乗り越えるべきハードルも高く、実行可能性は低いのではないか。
http://diamond.jp/articles/-/113735

グレン・S・フクシマ氏は文中にもあるが、元USTRで対日交渉にハードネゴシエーターとして活躍した人物だけに、新チームの紹介も具体的だ。 『実は万人受けする経済政策』、というのは、トランプもなかなか巧みだ。 インフラ投資については、民間にやらせるPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ:公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法)を考えているのだろう。今度のUSTRは、相当、厳しい姿勢で日本にも当たってくると覚悟した方がよさそうだ。 『「トランポノミクス」がはらむ危険性』、にも十二分に注意したい。
トランプが考えている「仕向地法人税」は「トンデモ税制」だと思っていたら、森信氏が、『米国には消費税(VAT)のような国境調整ができる税制がない』ので、『英国シンクタンクIFSが世界最高水準の経済学者を総動員して作成した「マーリーズ・レビュー」の中で、最も効率的な税制として提言されている』、と専門的立場から論理的に説明してくれたので、税務執行の問題を孕みつつも、それなりに立派な税制だということが理解できた。日本のマスコミの程度の低さがまたもや露呈した恰好だ。
明日は、トランプ大統領に批判的な立場から、2つの記事を紹介するつもりである。
タグ:ドナルド・トランプ (その9)(「経済政策チーム」の過激な顔ぶれ、トヨタに課す「仕向地法人税」は関税とどう違うか) 劇的な変革 トランプ「経済政策チーム」の過激な顔ぶれ 一枚岩ではないが実力派揃い 実は万人受けする経済政策 共和党が提案するように企業に利益を与えるためにどの程度、民間部門によって行われるかである キヤリア トランプ新大統領誕生 森信茂樹 米国には消費税(VAT)のような国境調整ができる税制がない pay big border tax 米国外に仕事が「流出」するのをやめるよう、米企業に圧力 トランプがトヨタに課す「仕向地法人税」は関税とどう違うか 税務執行の問題 貿易戦争を引き起こしかねない この8年間、こうしたインフラ投資を「妨害」してきたのは何を隠そう共和党 東洋経済オンライン 多国間の貿易協定ではなく、2国間であれば米国に有利に交渉ができるとしている ロバート・ライトハイザー 米国は「鎖国」状態となり、米企業の競争力が一段と低下 英国シンクタンクIFSが世界最高水準の経済学者を総動員して作成した「マーリーズ・レビュー」の中で、最も効率的な税制として提言 米国にはVATがないので、このような国境調整ができず、その分、米国企業の競争条件が不利になっている 経済政策チームも、一枚岩ではない トランプ流の雇用流出対策 米通商代表(USTR) 今後10年間で1兆ドルの投資 ダイヤモンド・オンライン 仕向地課税(最終消費地課税)法人税 共和党員と民主党員、そして富裕層と貧困層へと、それぞれに魅力的な政策を示した グレン・S・フクシマ 財政赤字を拡大し、所得と富の格差をさらに拡大させることになるだろう 州にある工場をメキシコに移す計画をトランプの”説得”によって撤回し、同州内で800人の雇用を維持することを約束 レーガンを賞賛するライトハイザー 「トランポノミクス」がはらむ危険性 「関税を払え」と訳していたが、それは「誤訳」
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