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教育(その9)(奨学金が支える「Fランク大学」の葛藤と不安、なぜ東大は「世界大学ランキング」が低いのか) [社会]

教育については、昨年11月18日に取上げたが、今日は、(その9)(奨学金が支える「Fランク大学」の葛藤と不安、なぜ東大は「世界大学ランキング」が低いのか) である。

先ずは、やや古いが、昨年4月26日付け東洋経済オンライン「奨学金が支える「Fランク大学」の葛藤と不安 1300万円のハンデを負って通う価値はあるか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍晋三首相は3月29日、ついに給付型奨学金の導入を発表した。これまで、日本においては民間や大学によるものを除けば、純粋な給付型の奨学金は存在せず、長らく批判を受けてきた。文部科学省も検討チームを立ち上げて本腰を入れており、給付型の実現に向けて本格的に前進していくだろう。
・誰しもが経済的負担を感じることなく、自分の望むままに教育を受けられることは理想だ。しかし、もし高等教育を公費で賄うことを目指すなら、学費を売り上げとして計上している大学が、学生にどのような教育サービスをおこなっているのかを、改めて検討する必要があるだろう。
▽大学はATMが設置されたパチンコホール?
・しかし、「大学」と一口にいっても様々な形がある。教育現場の実態については、必ずしもよい話ばかりが聞こえてくるわけではない。今回、取材に協力してもらったのは、埼玉県上尾市にある聖学院大学。経済学部の柴田武男教授は、次のように話す。 「日本の大学経営が、奨学金という名の借金で支えられていることは、まぎれもない真実。パチンコホールにサラ金のATMが設置されて批判を浴びましたが、今の大学はこの状況と重なる部分がある。大学に進学したかったら奨学金を借りてこい、というのですから。何とも気が重いことです」
・柴田教授は、埼玉奨学金問題ネットワークの代表を務めており、これまでも奨学金問題に積極的に取り組んできた。大学とパチンコホール、奨学金とATMがパラレルで語られているというのは、一体どういうことなのだろうか。 不合格者が少なすぎるため、合格率50%となるボーダーが、どの偏差値帯においても存在しないことを、「BF(ボーダーフリー)」という。これに該当する大学は、いわゆる「Fランク」大学と呼ばれており、聖学院大学もこのランクに属する。聖学院大学では、入試方法もユニークだ。AO入試の中には、講義を受けたあとに学生がノートを清書し、それを元に面接をする方式など、多様な形がある。
・学費は、4年間で450万円。これに生活費が加わることで、学生は卒業までに約800万円程度を負担することになる。一般的な文系の私立大学なら、この程度の費用がかかることは普通だ。聖学院大学では、「面倒見のいい大学」であることを、大学の強みとしてプッシュしている。
・「"面倒見がいい"ことをウリにすると、面倒を見てあげないといけない学生ばっかり来てしまうんじゃないかという懸念もあり、実際その通りになっている面もある。正直なところ、本当は大学に来てる場合じゃなくて、働いた方がいいかもしれない、という子がいることは否定できない」(柴田教授)。
▽アルバイトを優先して留年も
・講義の出席率は、7割弱だという。文部科学省からの目も厳しく、最近は出席を取ることは当たり前で、講義に誰も来ないといった状況は起きていないようだ。しかし、学業以外のことに関心が向いている学生も少なくない。どのようなことに関心が向いているかというと、それは飲食など、サービス産業のアルバイト。もはや大学教育のライバルといっても過言ではない存在だ。
・「仕事があって、人間関係があって、面白いわけですよ。しかも、深夜だと賃金が25%割増になる。夜間のバイトの方がペイもいいし、使う方も『人手が足りないから、ぜひ来てくれ』となる。そんな学生は、4~5時までバイトを一生懸命やって、授業に出ていても寝ていることも多い。朝9時から元気に授業を受けるのは、厳しいのでしょう」(同)。
・目先のバイトを優先して講義に出ず、結局留年してしまうケースもあるという。奨学金を借りて大学に来ても、その時間をアルバイトに振り向け、年間の学費80万円を無駄にしていては本末転倒だが……。 「もちろん、アルバイトをしないと生活が難しい場合もあるし、それをこなした上で一生懸命勉強して、成果を出している人もいますよ。ただ、バイトを全力でやって月に20万稼げるとなると、就職活動から逃げてしまう人も……。『苦労して就職活動して、大学を卒業しなくても同じじゃないか。バイトでいいじゃないか』って、浅薄な判断になっている」(同)。
・22歳の時点では、どのような形で働いても、それなりの金額を稼ぐことはできる。しかし、短くない人生。定年といわれる年齢まで、継続して稼ぐことは簡単ではない。聖学院大学における、正規社員としての就職率は7割程度で、2割強はいわゆる非正規雇用としてのフリーターだ。このランクの大学だと、どこも似たような数字になる傾向が強いという。学生が在学中から、自分の将来や先々の見通しをイメージすることもまた、簡単ではないようだ。
・こうした現実をみる中で、柴田教授は、学生が奨学金で借金をすることに、唯一希望を感じる点があったと語る。それは、人生に計画性を持たせるきっかけになる、ということだ。 「借金というのは辛くて、もちろんないほうがよいに決まっている。しかし、学生にただ漠然と『進路を考えなさい』と言っても無理。借金問題で考えるきっかけが出てきた時に、ぐっと捕まえて意識させないと考えてくれない」。
・そこで聖学院大学では、高校生向けに「進学にまつわるお金の話」を作成し、高校や学内で無料配布している。このパンフレット、ただ単に奨学金の制度を説明し、大学入学を促すものとは違う。同冊子では「そもそも、なぜ大学に進学するのか」から問い直して、進学の是非について家族で話し合うことを提言している。
▽大学進学と高卒就職の差は、1300万円
・具体的な内容はどうなっているのか。大学に進学すれば、4年間で約500万円の学費がかかること。高校を卒業して働けば、年間約200万円、4年間で800万円稼げること。大学卒業の22歳の時点で、実に1300万円の差が生じることになること。こうした現実を、具体的な数字を出して伝えている。
・また、多くの企業が、「求める人材大卒以上」としており、大卒資格がないと求人の応募もできないということを指摘しつつも、「大卒学歴の有利さを発揮できるのはどんな大学生活を送ったのかという本人の努力も大切なことです。大卒であれば、誰でも安定して高賃金の職につけるわけではありません」と明言している。
・奨学金の貸与事業を行う、日本学生支援機構の遠藤勝裕理事長も、「最近の学生やその親御さんは、大学を出さえすれば、社会人としても幸せになれる、という形に発想が逆転しているのではないか」と指摘していたが、この文面を見る限り、同じような懸念を大学としても持っているということだろう。
・「もちろん、大学教育を金銭的な面だけでとらえるのは間違い。しかし、お金の問題として考えることは、分かりやすく具体的であることがメリット」と柴田教授は言う。 学資金や進学にまつわる費用について考えることは、単に家計の問題だけでなく、受験生が自分の志望理由をはっきりさせる過程にもつながる。結果として、教育選択のミスマッチを防ぐことにもなるだろう。聖学院大学は、成功例を作り、他の大学でも取り入れることのできる、ロールモデルになることを目指している。
・「学生と一緒に奨学金の返済計画を立てたり、われわれも指導できればと思っている。入学した学生に対して、きちんと見通しを与えなければ、教育機関として責任を果たしたとはいえない。他の大学ではこうした指導について手をつけられないところがほとんどではないでしょうか」(同)。 また、この冊子は、進学を検討している家庭及び学生と、進路指導の高校教員を対象にしているのはもちろんだが、それだけではない。大学から給与を受け取っている、大学教員に対するメッセージでもあるという。
▽4年間450万円に見合った講義をしているか?
・「4年間で450万円、初年次納付金で130万円。進学するご家庭は、大変な思いで学費を納めています。それを理解すれば、いいかげんな講義はできません。教員にも、というより教員にこそ読んでほしいものなのです。『あなたは、4年間450万円に見合った講義をしているのですか?われわれは、それだけの講義を提供しているのですか?』という問いかけです」(同)。
・親の経済的格差によって教育の機会に差が出ることは不条理だ。教育費は公費で負担して、無償とするべきという考え方があることも十分理解できる。可能なら、やはり誰もが負担なく教育を受けられることが理想だろう。 ただ、現段階では、「大学進学」という選択肢にこれだけの金銭的負担がかかることが現実。大学をビジネスという観点からみてみると、大学教員という高賃金が必要とされる人材を使った人件費比率の高いモデルであり、これを簡単に減らすことはできない。どのようなレベルの大学でも、学費の下限に大きな差はつかないといえる。
・目先の経営を考えれば、地方の小規模大学は、とにかく学生を一人でも多く集める必要があるだろう。ましてや、偏差値として「BF(ボーダーフリー)」に位置していれば、なおさらだ。それでも、450万円という金額、4年間という時間を投資して見合った成果を得られるのかを、学生にも、教師にも、考えて欲しいという。進学について一歩立ち止まって考える機会をうながす情報発信をあえてしていることは、貴重な事例ともいえる。奨学金を受け取る「Fランク」大学の葛藤が、滲み出ていた。 柴田教授には、Fランク大学の存在意義について、大いに語ってもらった。次回は、そのインタビューを掲載する。
http://toyokeizai.net/articles/-/114808

次に、昨年10月23日付け東洋経済オンライン「なぜ東大は「世界大学ランキング」が低いのか 人文系学部「廃止騒動」は世界に逆行している」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「今後10年間で世界大学ランキングトップ100に、わが国の大学が10校以上入ることを目指す」――。2013年に閣議決定された政府の成長戦略の中で、この目標が掲げられてから3年が経過した。ただ、今年も目標達成にはほど遠い状況だ。
・主要な世界大学ランキングはいくつかあるが、最も著名なのが英タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(以下THE)社によるランキングだ。THEは英国の有名な日刊紙『Times』が発行している教育の専門誌。特に毎年秋に発表している「世界大学ランキング」の影響力は大きく、日本政府も指標の一つとしている。
▽日本の大学が抱える課題
・日本ではベネッセコーポレーションが同社と提携するパートナー企業だ。今回、THE社は日本に特化した大学ランキングを2017年3月にも公表すると発表。そのためにマネージングディレクターであるトレバー・バラット氏、および編集長のフィル・ベイティ氏が来日。会見後、日本の大学が抱える課題を聞いた。
・同社によれば総合ランキングは、①教育力(アンケートによる評判、教員あたりの博士学位授与数など)、②研究力(アンケートによる評判、研究者1人あたりの研究費収入・論文数)、③研究の影響力(論文の引用数)、④国際性(海外留学生や外国籍教員数の割合、国際共著論文の数)、⑤産業界からの収入(研究者1人あたりの産業界からの研究費収入)の5領域・13項目で算出される。
・先月、発表した2016年版の世界大学ランキングでは、首位は英オックスフォード大学。2位は米カリフォルニア工科大学、3位は米スタンフォード大学と、9位のスイス連邦工科大学を除き、英米の大学が上位に名を連ねる。アジアでトップは24位のシンガポール国立大学。アジアで2位は29位の中国北京大学、3位は35位の中国清華大学となり、日本の東京大学はアジア4位(世界39位)だった。
・東大には何が足りないのか。編集長のベイティ氏は「アジアの上位3大学に共通するのは、潤沢な資金力。国が大学への投資を増やしていることだ」と指摘する。 国土が狭いシンガポールは、人的資源としての大学への投資を重視してきた。中国も1990年代以降、大学への大規模な投資を何度も行ってきた。ベイティ氏によれば「その総額は約130億米ドル。米国などで研鑽を積んだ中国の研究者を呼び戻し、研究の環境を整えたほか、国際的なパートナーシップ作りにも力を入れた」という。
・一方の東大はアンケートによる評判、教員と学生の比率など、教育力は他大学よりもはるかに高かったものの「国際性のスコアがきわめて低かった」(マネージングディレクターのバラット氏)。その他、日本勢では京都大学が94位に入ったぐらい。あとは軒並み200位以下となっている。
▽日本の大学の厳しい現状
・日本の大学が置かれている状況は厳しい。18歳人口は2018年から徐々に減少し、2020年以降は減少ペースに拍車がかかる。 一方、日本の大学数は国公立・私立あわせて775校(2016年4月1日時点)にのぼる。日本私立学校振興・共済事業団によれば、2016年度は私立大学の44.5%が定員割れの状況だった。
・ベネッセを含めこれまでの日本の大学ランキングは、入試の難易度や就職率に基づくものが一般的だった。大学が“就職予備校”となっているのではないかとの指摘も根強い。 大学のランキング化については、慎重な声が上がるのも事実だ。東京大学や京都大学など11大学で構成される「学術研究懇親会」は今年7月、「本来多種多様な価値が集積する大学をランキングという1つの順位指標で評価すること自体がそもそも無理なことであるといわざるをえない」との見解を公表している。
・たとえば論文の引用数については、「身近な研究者集団の中では互いの研究成果の情報交換も速やかに行われ、その結果、被引用数が増加しやすいのは当然である。(中略)日本の研究者は欧米の研究者に比べると地理的/言語的にハンディを背負っている」という。
・こうした背景も踏まえ、THE社は提携するベネッセコーポレーションとともに、日本版の大学ランキングを策定中だ。ベイティ氏は、「われわれが目指すのは、従来のランキングでは見えてこなかった、すばらしい教育を行っている大学を見つけ出すこと」という。
・ただ、「研究力や教育力が弱く、学生に十分な成果を提供できない大学は、私立大学ならば合理化や淘汰の対象になるかもしれない。その場合もデータは(合併や閉鎖などの)判断の根拠になる」と話す。
・2015年6月には、文部科学省の国立大学向け通知に端を発する「文系廃止」騒動が注目を集めたが、ベイティ氏は「個人的な見解として、人文科学系学部の縮小や廃止は間違いだ」と断言する。 「世界的には、伝統的なリベラルアーツ(文系理系を区別しない幅広い教養)への回帰が見られる。英国でも、たとえば医学教育における人文科学(arts and humanities)が重視されている。骨折を治療できても、コミュニケーションや共感力が欠けていれば、よい医者とはいえないからだ」(同)
▽ランキングにくすぶる不満
・「米マサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学といった理工系に強い大学でも、人文・社会科学系の学部は優れた成績を収めている。たとえば気候変動のような問題に対処するには、科学だけでなく人間の行動に関する心理学なども重要な役割を担う。理系の学生も人文科学を学び、文系の学生も自然科学を学ぶべきだ。これが将来の不確実性に対処する強靱さを身につけることにつながる」(ベイティ氏)
・THE社と業務提携するベネッセは「すべての大学について同じルールでランキングがされるので、有利不利という概念はない。ただ、日本の大学にとって英語という言語の壁はあり、そこをどう克服していくかが問われているのは事実」としている。
・ランキング至上主義に陥ることは好ましくないとしても、THE社のランキングは海外から見た日本の大学の一側面を示しているとも言える。日本の18歳人口が減少する中、世界の留学生を呼び込むための努力は、ますます重要になるだろう。はたして、THE社が2017年3月にも公表する日本版大学ランキングはどの程度の影響をもたらすだろうか。
http://toyokeizai.net/articles/-/141598

第一の記事にある 『大学はATMが設置されたパチンコホール?』、との柴田教授の指摘は現在の大学制度に対する痛烈な批判だ。さすが、埼玉奨学金問題ネットワークの代表を務めているだけのことはある。聖学院大学は、「Fランク」大学ながら、『高校生向けに「進学にまつわるお金の話」を作成し、高校や学内で無料配布』、とのことだが、大学進学の意味を考えさせる、なかなかいい試みだ。さらに、『大学から給与を受け取っている、大学教員に対するメッセージでもあるという』、というのも付随効果とはいえ、大学教員の意識も喚起できる可能性もあるだろう。
第二の記事にある 「世界大学ランキング」での東大など日本の大学の低さは、 『「国際性のスコアがきわめて低かった」』、ことからすれば、やむを得ないだろう。ただ、『THE社は日本に特化した大学ランキングを2017年3月にも公表』、するらしいが、どのような結果が出てくるのか興味深い。 『ベイティ氏は「個人的な見解として、人文科学系学部の縮小や廃止は間違いだ」と断言する』、については、大筋では同意できるが、人文科学系学部での教育のあり方自体は見直すべきだろう。
タグ:世界的には、伝統的なリベラルアーツ(文系理系を区別しない幅広い教養)への回帰が見られる ベイティ氏は「個人的な見解として、人文科学系学部の縮小や廃止は間違いだ」と断言 本来多種多様な価値が集積する大学をランキングという1つの順位指標で評価すること自体がそもそも無理なことであるといわざるをえない 「国際性のスコアがきわめて低かった」 東京大学はアジア4位(世界39位) 今回、THE社は日本に特化した大学ランキングを2017年3月にも公表すると発表 ランキング The 教育 なぜ東大は「世界大学ランキング」が低いのか 人文系学部「廃止騒動」は世界に逆行している 4年間450万円に見合った講義をしているか 大学から給与を受け取っている、大学教員に対するメッセージでもあるという 大学進学と高卒就職の差は、1300万円 高校や学内で無料配布 「進学にまつわるお金の話」 アルバイトを優先して留年も 正直なところ、本当は大学に来てる場合じゃなくて、働いた方がいいかもしれない、という子がいることは否定できない 不合格者が少なすぎるため、合格率50%となるボーダーが、どの偏差値帯においても存在しないことを、「BF(ボーダーフリー)」 「Fランク」大学 奨学金が支える「Fランク大学」の葛藤と不安 1300万円のハンデを負って通う価値はあるか 柴田武男教授 (その9)(奨学金が支える「Fランク大学」の葛藤と不安、なぜ東大は「世界大学ランキング」が低いのか) 聖学院大学 日本の大学経営が、奨学金という名の借金で支えられていることは、まぎれもない真実 大学はATMが設置されたパチンコホール? 東洋経済オンライン 給付型奨学金の導入
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