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福祉問題(「生活保護なめんな」ジャンパーが冒涜したもの、小田原市の福祉不毛地帯ぶり)  [経済政策]

今日は、福祉問題(「生活保護なめんな」ジャンパーが冒涜したもの、小田原市の福祉不毛地帯ぶり) を取上げよう。

先ずは、NPO法人もやい理事長の大西 連氏が1月20日付け現代ビジネスに寄稿した「「生活保護なめんな」ジャンパーが冒涜したもの 何が問題か。そもそも不正受給は多いのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽「生活保護なめんな」ジャンパーの衝撃
・1月17日に小田原市の生活保護の担当職員が「生活保護なめんな」と書かれたジャンパーを着て、生活保護を利用している人の家を訪問などしていたことが明らかになった。 ジャンパーの背面には「我々は正義だ」「不当な利益を得るために我々をだまそうとするならば、あえて言おう。クズである」などの文章が英語で書かれているそうだ。
・報道によれば、いまから10年前の2007年に、小田原市で生活保護費の支給を打ち切られた男が市職員3人を杖やカッターナイフで負傷させる事件があり、当時の生活保護担当職員らが事件後、不正受給を許さないというメッセージを盛り込み、このジャンパーを作った。その後、担当になった職員らが自費で購入。これまで64人が購入し、現在は在職中の28人が所有しているという。
・新聞、ネット記事だけではなく、NHKなどのニュースでも取り上げられたこの小田原市の「生活保護なめんなジャンパー」だが、筆者もこの問題について、市職員がこういったジャンパーを着て生活保護家庭に訪問していたことなどを批判するツイートしたところ、 「不正受給を許さないのは当たり前」 「ジャンパー以上に許せないのは不正受給者」 「本当に困っている人を守ろうとしてやったこと」 などの反応があった。
・ひどすぎて言葉を失った。このような職員に支援される生活保護利用者のことを思うと許せない。しかも、小田原市生活保護担当職員の大半がこのジャンパーを持っているとは。。。  
・ちなみに、ここでの論点は「不正受給がいいか・よくないか」ではない。当然ながら、不正受給は違法行為であり、内容によっては詐欺罪などに問われることもある。なので、不正受給はよくないし、なくさなければならないものだ。これは大前提の話である。
・ここで重要なのは、①小田原市の職員が10年前に職場の連帯感を高めるために(報道によれば)、職員が自主的に製作し、着用していたということ。そして、②そのメッセージがはいったジャンパーを着て、実際に地域で生活している生活保護利用者の自宅を訪問していた、ということである。 このことの一体何が問題なのか。
▽不正受給は本当に多いのか
・まず、①に関しては、例えば、エンブレムも某国の有名サッカークラブのものをパクったようなものだし(筆者はそのクラブのファンなので憤慨している)、背面に書かれた文言も某有名アニメにでてくる悪役のセリフをもじったような内容のものであることなど、そもそもこういったジャンパーを職場の内輪のノリで作製したということ自体、正直かなりダサい。
・以前に問題視された「福祉川柳事件」を思い出す。 ※福祉川柳事件とは、1993年に生活保護を担当する職員などで組織された「公的扶助研究全国連絡会」の機関誌で、生活保護担当職員などの川柳を掲載したが、その内容が生活保護利用者への悪感情をうたったものもあり批判を受けた事件
・そして、②については、多くの生活保護利用者が地域で生活しているなかで、そのジャンパーで訪問することの意味、である。生活保護制度は、誰でも困ったら利用できる制度ではあるものの、あまりいいイメージで語られることは少ない。 メディアやネットなどでも、必要な人を支援している制度として認識されている一方、「怠けている人がいる」「税金で養っている」などの心ない意見が出されることも多い。
・後述するが、多くの人が望まずに、やむにやまれぬ事情を抱え、生活保護制度を利用しており、そういった誤解や偏見の目を恐れて、また、自ら生活保護を利用していることを恥ずかしく思ってしまい(スティグマ性=恥の意識、負の烙印などとも言う)、周囲の目を気にしている人も多い。 そういった状況で、このジャンパーを着て訪問すれば、近所の人に生活保護利用者であるとわかってしまう恐れもあり、プライバシーの配慮がない行為だと言える。
・また、実際に訪問される生活保護利用者の立場になったらどう思うだろうか。 例えば、税務署の職員が「税務署なめんな!」「不当な利益を得るために我々をだまそうとするならば、あえて言おう。クズである」と書かれたジャンパーを着て、自宅や会社に訪問にきたらどうだろう。 もちろん、百歩譲って、脱税の疑いがあるところへの訪問ならまだわかるが、確定申告しただけの各家庭への訪問だったら──。
・生活保護利用者は法律で最低でも半年に一度は訪問を受けることになっており、何ら後ろめたい事情がない生活保護利用者もこのジャンパーを着た職員の訪問を受けるのである。 税務署でなく労基署などほかの官公署でもかまわないわけだが、行政職員が日常的にこのようなメッセージがかかれた恰好をして、しかも自宅訪問をする。そして、そのことを周囲の人に「見られる」可能性があるというのは、あまりにも配慮不足と言える。
・このような、①、②ともに、福祉行政に携わる立場としては、あまりにも当事者の権利やプライバシーに対しての配慮が欠けたことであると言えよう。 そのことだけでも、この小田原市のジャンパーについては、すぐさま市長が謝罪したように、不適切な行為だったと言える。
・とはいえ、多くの人は、ここまでの内容を読んでも「そうはいっても、言葉は悪かったかもしれないが、『不正受給はよくない』ではないか」と思うかもしれない。 もちろん、「不正受給」は違法行為なので、なくしていかないといけない。しかし、その「不正受給」の実態については、言葉以上にはあまり知られていない。 生活保護の「不正受給」は本当に多いのか、以下解説したい。
▽そもそも「不正受給」とはなにか
・さて、そもそも生活保護の「不正受給」とは何なのであろうか。 生活保護では、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせたもの」があったときの費用徴収や罰則の規定を定めている(生活保護法78条)。 生活保護制度は、収入や資産が生活保護基準を下回った場合に利用できる制度である。なので、当然ながら、実際に収入の多寡や資産の有無などについて詳細を福祉事務所(各自治体の担当窓口)に申告し、福祉事務所はそれを調査して、保護の可否を判断する。
・そして、生活保護利用中に就職が決まるなど、収入の変化があれば、それをその都度、福祉事務所に申告し、支給される金額や支援内容を福祉事務所が判断し、状況に合わせて自立に向けて支援していく。
・いわゆる「不正受給」とは、この福祉事務所への収入の申告や、資産の有無などについて虚偽の申告をすることを言う。悪質な場合は、詐欺罪などに問われることもあるし、不正に受給した金品は返還を求められることはもちろん、1.4倍の金額まで徴収することも法律的には認めている(同78条)。 また、何らかの事情があり急迫な状態(緊急で一時的に)で資力(収入や資産)がある状態にもかかわらず生活保護を利用した場合は、こちらはいわゆる「不正受給」ではなく、費用の返還として扱われる(同法63条)。
・このように、法律の枠組みとしては明確に「不正受給」と「費用返還」にわかれている。虚偽の申告をした場合は「不正受給」。収入や資産はあるが事情により保護を利用した場合は「費用返還」。 しかし、この実際の現場での運用は、明確に見極められないものも多い。
▽不正受給の実態──申告と無申告のあいだ
・総務省が平成26年8月に発表した「生活保護に関する実態調査」報告書によれば、2011年度の不正受給の総額は約173億円である。173億円と聞くと多いように思うかもしれない。しかし、生活保護費全体は約3兆7000億円なので、金額ベースでは0.47%である。
・では、「不正受給」の内容はどのようなものだろうか。 同報告書によれば、2012年で「稼働収入の無申告」が46.9%、「稼働収入の過少申告」が10.6%、「各種年金等の無申告」が20.8%となっている。要するに、働いた金額をちゃんと申告しなかった事案が約6割、年金等をもらえるのに申告しなかった事案が約2割、ということである。 そして、保護開始の月に不正受給があったのは11.4%であることから、生活保護を利用中に収入の増加があったが適切に申告しなかった、といった内容が約9割にのぼることがわかる。
・また、「不正受給」が発見された契機の統計をみると、担当職員の「関係機関への照会・調査」が88.9%、「通報・投書」が5.6%であり、そのほとんどが担当職員からの「関係機関への照会・調査」であることがわかる。そして、稼働収入に関しては課税調査、年金などの調査は担当職員による発見が最も多いことも明らかになっている。
・このように、「不正受給」のないようが「稼働収入」にまつわるものであれば、課税調査をすれば発見でき、「年金」などにまつわるものであれば社会保険事務所など、担当職員が調査や照会をおこなえば発見できるものがほとんどなのだ。
▽ケースワーカーはこんなに多忙
・生活保護の担当職員は生活保護利用者の支援をおこなう司令塔の役割を担う。生活保護利用者はさまざまな困りごとを抱えている場合が多い。
・たとえば、生活保護世帯の約半分を占める「高齢世帯」では、医療機関と連携したり介護サービスを適切に利用できるような支援も必要だ。また、約3割の「傷病・障害世帯」に対しては、こちらも医療機関と連携したり、障害福祉サービスの活用について関係機関と調整する必要もある。 約6%~8%の「母子世帯」へは、親だけでなく子どもに対しても総合的に支援をおこなっていく必要があるし、16~18%の「その他世帯(働ける年齢層)」の人たちには就労支援を丁寧におこなっていくことが求められる。
・このように、まさに「支援の司令塔」として、金銭の給付の窓口であるという大きな責任と、各関係機関への調整など、総合的な役割を担うのである。非常に重要で、かつ、生活保護利用者にとってはまるで生殺与奪の権をもっているかのような重責なのである。
・しかし、だ。 厚生労働省は生活保護の担当職員のなかで支援を担当する「ケースワーカー」について社会福祉法で定める一人あたり80世帯を標準数としている。 つまり、一人のケースワーカーが80世帯を担当するのが「標準」である。高齢世帯、傷病・障がい世帯、母子家庭、就労支援を必要とする世帯を80世帯受け持つのである。しかも、法律上、半年に一度は訪問が必要だ。正直、かなりの激務であろう。
・そして、都市部などでは一人当たり120世帯以上を担当することもある。人を支援する仕事は、生身の人間同士のぶつかりあいであり、事務的にすまない感情のすれ違いや消耗もあるだろう。 また、ケースワーカーを担当するには、社会福祉法にもとづけば、社会福祉主事という資格(任用資格)をもたねばならないとされている。しかし、先述した総務省の報告書によれば、約26%が未取得で生活保護のケースワーカーを担っているという。
・もちろん、資格や担当世帯数で、実際の支援の質や内容が決まるわけではない。とはいえ、一つの目安としては、人の命を預かる仕事を専門の勉強をしていたわけではなく配置されて担当する職員が多いこと、また、どんなに優秀な職員でも120世帯以上の一人ひとりのさまざまなニーズにあった支援の調整ができるのか……
・やはり真剣に考えなければならない問題である。 せめて、担当世帯数が標準レベルまでにできるように、人員の増加をおこなうことが急務であろう。そして、福祉を専門とする職員の配置などもおこなっていくべきである。
・そして、先述したように、「不正受給」を防ぐこと、発見することも、ケースワーカーはじめ担当職員の役割である。 支援の質をあげること、人数を増加することは、実際の支援も手厚くなれば、不正をただすことにもつながっていく。
▽故意なのか過失なのか
・とはいえ、現在の生活保護行政が、職員数やケースワーカー業務の多忙さなどに問題があるにしても、今回のジャンパーの件などは言語道断と言えるだろう。 先ほどから紹介している「不正受給」だが、多くを占める「稼働収入の無申告・過少申告」「各種年金等の無申告」は、正直に言って、故意から申告しなかったのか、過失で申告しなかったのか、判断が難しい場合が多い。
・テレビなどで報道されるような悪質な事例は実際には例外的なものであり、不正受給と判断されたケースのなかにも、故意か過失かの判別がつかない場合も多い。 たとえば、「稼働収入の申告漏れ」に関しても、申告を間違えておこなってしまった事例や、生活保護制度の仕組みをきちんと理解しない状況で起きてしまった事例など、現場で支援に携わっているとさまざまなケースに立ち会うことがある。 いわゆる「不正受給」は、それこそニュースになるくらい珍しいものである、ということは間違いないだろう。
▽北風と太陽
・生活保護行政は「我々は正義だ」「不当な利益を得るために我々をだまそうとするならば、あえて言おう。クズである」というジャンパーを着ても、決してよくはならないだろう。 また、その感覚で支援をしても、生活保護利用者の信頼を得ることはできないだろう。そして、生活保護利用者の状況を想像する力もない人たちが、彼ら・彼女らの支援調整の責任者であったことにおそろしさすら感じる。
・「不正受給」は防ぐべきだし、撲滅していくべきだ。しかし、その一番の方法は、担当職員を増やし、専門性を高めていくことでもある。 生活保護利用者が地域の適切な行政サービス、支援機関で生活を支えてもらうことができるように、また、働ける状況の人が支援を利用して就職したり、経済的に自立できるように支援していくためにも、彼ら・彼女らを支える生活保護担当職員の責任や役割はとても大きく、かつ重い。
・そして、実際に、全国で熱心に、真摯に現場で生活保護利用者を支えている人はたくさんいる。今回のジャンパーをめぐるこのニュースは、彼ら・彼女らを冒涜することでもある。 生活保護の「不正受給」は金額ベースで約0.5%である。その割合をより小さくするためには、ジャンパーを着るのではなく、一人ひとりの生活保護担当職員がより丁寧な支援をおこなうこと、そういった職員の体制をより拡大していくことが必要だ。
・昨今、不正受給対策として警察官OBを窓口に配置する政策をとっている自治体もある。警察官OBの職員は窓口での威圧効果はあるかもしれないが、支援のプロではないし支援はできない。そして、紹介したように最初の窓口での不正受給は11.4%と少なく、結果的には警察官OBの天下り先にしかならず、効果は低い。
・「不正受給」への対策、生活保護行政について、これまで通りジャンパーのような「北風」でいくのか、より効果的な「太陽」でいくのか。これを機に、議論がより活発になることを願っている。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50761

次に、フリーランス・ライターのみわよしこ氏が2月10日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「生活保護なめんな」ジャンパーだけじゃない 小田原市の福祉不毛地帯ぶり」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽「保護なめんな」は氷山の一角? 「またか」と悪評高い小田原市の実態
・2017年1月17日に明らかになった、小田原市「保護なめんな」ジャンパー問題は、3週間が経過した現在も話題になり続けている。 これは、神奈川県小田原市の生活保護担当職員が、ローマ字および英文で「保護なめんな」「我々は正義だ」「(不正受給しようとする人々に)あえて言おう。クズであると」などと書かれた揃いのジャンパーを着て、生活保護受給者の自宅への訪問を含む業務を行っていたというものだ(参照:現代ビジネス/大西連氏記事『「生活保護なめんな」ジャンパーが冒涜したもの』)。
・その後、「ジャンパーは2007年からつくられていた」「当初は福祉事務所内だけで着用するつもりだった」「夏向けにTシャツもあった」「携帯ストラップもマグカップも」といった事実も明らかにされている。 翌1月18日、社会運動家の稲葉剛氏は、小田原市ホームページにあった生活保護制度の解説が誤っており、利用できない可能性ばかりが列挙されていて、違法性が高いことを自身のブログで指摘した。小田原市は、問題のあった記述を同日中に修正した。
・翌週の1月24日には、生活保護問題対策全国会議のメンバーら7名が小田原市役所を訪問し、事前に送付していた公開質問状に基づく申し入れと意見交換を行った(参照:ハフィントンポスト/雨宮処凛氏記事)。小田原市は、ホームページに「お詫び」を掲載した。また、1月24日の記者会見で、第三者も含めた検証・不足していたケースワーカーの増員を行う考えを明らかにした(参照:日経新聞記事)。
・検証委員会には、生活保護を必要とする人々の権利擁護に取り組んできた弁護士・森川清氏、および生活保護受給経験を持つ和久井みちる氏(参照記事)が参加する予定である(生活保護問題対策会議による)。当事者目線・当事者経験を持つ人々による生活保護制度運用の検証には、大いに期待できそうだ。
・それにしても、正直なところ「また?」という印象だった。小田原市に限らず全国で、生活保護の申請に行った人々や、生活保護を受給している人々から、「生活保護ケースワーカーや相談員に困らされ、泣かされ、屈辱を味わわされている」という話を、私はあまりにも度々耳にしているからだ。年に最低2回と定められている訪問調査のときに土足で上がりこまれたとか、ズカズカと屋内に入り込まれて冷蔵庫やタンスを勝手に開けられたとか、精神の不調を抱えている人が気絶するまで罵倒を続けたとか……。
・小田原市ジャンパー問題が明るみに出た頃、私の周辺ではそういう事例が同時多発的に持ち上がっていた。小田原市に行く時間を取れなかった私は、近所のスーパーでスイーツのデコレーションに使うチョコペンを購入し、毎日、おやつのクッキーや饅頭に「生活保護」と書き、「ナメたら甘い生活保護」を味わって一息ついていた。「保護なめんな」というジャンパーの文言へのささやかな抵抗だ。
・それにしても、小田原市の問題点は生活保護だけなのだろうか。生活保護で何か問題が起こる自治体は、福祉全般に問題を抱えていることが多い。そこで、神奈川県内・小田原市の近くにある精神科病院で、長年ソーシャルワーカーとして働く友人のカオル(47)に「小田原市って、どう?」と尋ねてみた。
▽あまりにも不親切な小田原市 ホームページの障害福祉情報
・カオルは「あの『保護なめんな』ジャンパーの報道を見たとき、『ああ、小田原だからなあ』と思ったよ」と、話を切り出した。 「小田原市は、いわゆる“福祉不毛地帯”なんだよ。入院している患者さんの住所が小田原市だとわかると、『ああ、残念だなあ』と思うよ。障害福祉も児童福祉もとにかく福祉が貧弱だから、退院してからが大変。実際、暮らしていけなくて、病状が悪化して、またすぐ入院しなきゃいけなかったりすることもあるし」
・その患者さんは、入院する前も「健康で文化的」と言える生活はできていなかったのだろう。しかし入院は、病院のスタッフの支援のもと、普段の生活を立て直すきっかけともなり得る。退院後の病状を安定させるためにも、何か異変や不調を感じたら気軽に医療機関を受診できることや、ヘルパー派遣などの支援を受けられることは重要だ。
・しかし、「でも小田原市は本当に、あれもない、これもないという、使えない感じなんだよ」とカオルは言う。そこで私は、改めて小田原市のホームページを確認してみた。 まず、「障害者支援」ページを見てみると、障害者福祉に関する各種メニューが列挙されているだけだ。誰が何を利用できるのか、さっぱりわからない。それでもメゲずに、目を皿のようにして「障害者支援」ページを見てみると、下の方に「障害福祉サービスについて」とある。ここを見れば良さそうだ。
・ところがクリックしてみると、「利用するまでの流れについては、厚生労働省監修のパンフレット(略)ご覧ください」「利用を希望される場合は、まず、障がい福祉課または相談支援事業者にご相談ください」と淡々と書かれているだけだ。
・「困ったときに頼ってほしい」と思っているのなら、情報提供ページをこんなつくりにはしないだろう。もしかすると、「ご相談」に行かざるを得ないようにウェブページをつくっておき、うかうか1人で「ご相談」に来た障害者や家族を、聞き取りや対話の中で、利用を断念せざるを得ない状況に追い込もうということなのかもしれない。
・小田原市が実際にはそうではないことを願いたいが、生活保護で「水際作戦」として知られる利用抑制・申請妨害は、障害者福祉にもある。周囲には経験者が少なからずいるし、私自身も経験した。少なくとも、このウェブページのつくりから、「小田原市では、障害福祉の“水際作戦““硫黄島作戦“はなさそうだ」と確信することはできない。
▽神奈川県内で堂々のブービー賞 「20万都市」精神保健福祉の貧しさ
・さて、精神障害者福祉に関する情報はどこだろうか。探しに探してやっと、「精神保健福祉ガイドブック」を発見できた。精神障害だけなら、このガイドブックで必要な情報が得られるかもしれない。でも重複障害の場合はどうか。まず、どこに相談に行けばいいのだろうか。 昨日まで障害者でも障害者家族でもなかった人々が、このどこまでも不親切な小田原市ホームページから、必要な障害者福祉情報にたどり着けるとは、とても思えない。
・では、小田原市の精神保健福祉は、実際のところどうなのだろうか。地域で生活する精神障害者の生活や病状の安定は、不調のときに病院に行くことができるかどうかで、大きく左右される。このため、貧困状態でも通院できるように、様々な助成制度が設けられている。精神疾患による通院であれば、国の制度である「自立支援医療」による医療費助成が受けられる。
・しかし、精神障害者が必要とする医療は、精神科だけで事足りるわけではない。虫歯にもなれば、インフルエンザにも罹る。精神障害者の精神疾患以外の病気をカバーするため、「重度障害者医療費助成制度」が存在し、都道府県単位で実施されている。ところが地域によっては、同じ障害でも適用対象となったりならなかったりするのだ。なんと東京都では、精神障害者が対象とされていない(参照:筆者記事)。
・では、神奈川県内の各市区町村ではどうなっているのだろうか。 「いい医療.com」の「重度障害者医療費助成制度市町村別一覧」を見てみると、市町村によって大きな差がある。まず神奈川県基準では、精神障害者保健福祉手帳1級(以下、精神障害1級)では通院のみ対象、精神障害2級では対象とならない。各自治体は、独自の判断で県基準の一部負担金をなくしたり、対象者を拡大したりするなど若干は充実させている。
・この内容を整理したのが以下の表だ。神奈川県基準よりも充実している部分を黄色で示し、「幸福の黄色いセル」が多い市町村を左側に、少ない市町村を右側に配置した。 並べて眺めてみると、精神障害者に対する医療費助成の充実ぶりには、若干は自治体の財政的体力が関係しているようだ。とはいえ、「自治体が豊かなら、精神障害者福祉も豊か」と言い切れるほど明確な関係性は見えない。財政体力の問題というよりは、取り組み姿勢が表れている観がある。小田原市は全12ランクのうち、充実している方から11ランク目、堂々のブービー賞だ。 県の基準に違反してはいないが……。
▽市町村裁量の「充実度」はほぼゼロ
・小田原市の精神障害者は、障害等級が1級なら精神疾患以外の病気でも通院だけは無料になる。しかし入院まではカバーされない。2級なら、通院を含めて精神疾患以外の病気に対する医療費助成が存在しない状態だ。また、在宅重度障害者等手当(年間6万円)も、小田原市の場合、精神障害だけでは対象にならない。重度身体障害との重複、重度知的障害との重複、身体+知的+精神の重複障害でないと対象にならないのだ。
・この現状にカオルは怒る。 「小田原市は、市町村裁量の部分がゼロに近いだけ。神奈川県の基準に違反しているわけではないんだけどさ、小さい町ならともかく小田原市レベルの中都市では、あ・り・え・ない!だよ」
・その現状は、どのような問題をもたらすだろうか。「小田原市では、入院が必要な人が入院できなかったりするんだよ。児童福祉も障害福祉も貧弱すぎ、社会資源が足りなさすぎるから」とカオルは言うが、どういうことだろうか。
▽全体が「残念」な小田原市の福祉
・何もかもが機能していないのか? 「小田原市は、障害があっても障害者手帳を持ってないとか、障害者手帳を持っててもヘルパー派遣などの支援を受けるための『障害支援区分』の認定を受けてないので利用できる制度がないとか、認定を受けてても期限が切れたままそれっきりとか、本当によくあるんだ。生活全般に支援が必要なお宅でも、支援を受けるために必要な前提となるものがないわけ」(カオル)
・それでは、生活が成り立たないではないか。 「精神障害などの障害があっても、ヘルパーさんに家事援助に入ってもらったり、相談支援(介護保険のケアマネに該当)の担当者に日常の金銭管理の相談に乗ってもらったりしていれば、それなりに暮らせるはずなんだよ。でも、病院に来た小田原市の患者さんが日常生活に困ってるから聞いてみたら、相談支援の担当者もいない状態でね。小田原市の福祉課に電話で問い合わせてみたら、福祉課はその患者さんの状況を把握してなかった」(カオル)
・その家庭に子どもがいたら、いったいどうなるのだろうか。 「もし、生活全体に支援が必要な家庭で、血縁者の協力が得られない状況だったら、親の病状が悪化したら、すぐ、子どもの生活全体に影響が出るからね。でも、障害者福祉と児童福祉とか他部署との連携、小田原市の場合は、こちらが言って初めてやってくれる感じ」(カオル)
・障害者福祉、児童福祉、生活保護。もちろん、小田原市にも、それぞれを担当する部署がある。県の児童相談所もある。でも、カオルによれば、小田原市役所内の連携は全くスムーズではないし、そもそも福祉に使える資源の総量が不足している感じだ。 「結局、社会資源があまりにも足りないと、ちょっとやそっとの周囲のフォローがあっても、どうにもならないね」(カオル)
・そうは言っても、地域には民生委員がいるだろう。困難を抱えた家庭や人々のSOSを何らかの形で行政に届ける方法は、ありそうな気がする。民生委員も福祉職員も含めて、小田原市では何もかも機能していないのだろうか。 「でもさ、『支援が必要だ』と発信する能力の低い世帯には、自治体福祉のシステムは介入できないからね。そこに介入するのが福祉課だと思うけど、そういうシステムになってないから、現場を責める気はしない。それに、行政のヒューマン・リソースも足りてないんじゃないかな」(カオル)
▽問題は人員の不足ではなく「気持ち」にあるのでは?
・ジャンパー問題で、小田原市の生活保護ケースワーカーは若干不足していることが明らかになった。でも、それほど大きな不足ではない。問題は、人数ではないどこかにありそうだ。 「まだ、小田原市の生活保護担当とやりとりしたことはないけど、あのジャンパー着てた時点で『全体が残念な役所なんだろうな』と思った。障害者福祉が脆弱ってことは、もちろん生活保護とも連動するはずだからさ」(カオル)
・今、お住まいの自治体の福祉サービスを利用していないあなたが、明日障害者にならないという保障はない。そのときに初めて、「この地域では生きていけない」と気づいたら大変すぎる。もしも同時に生活保護を必要とする状態になったら、他自治体への転居も簡単にはできない。
・「自治体によって、『障害福祉は悪くないけど生活保護はイマイチ』とか、その逆とか、色々あるね。小さすぎる自治体で福祉が貧弱になるのは、内情を考えると無理もないし、担当者の当たり外れもあるし。でも公務員だったら、せめて最低レベルはクリアして欲しいよ」とカオルは言う。私も同感だ。どこに住んでも「大ハズレ」だけは引かないという安心は、私も欲しい。「そんな安心、別に欲しくない」という人はいないだろう。
・「保護なめんな」ジャンパーで話題になり、反省と方針転換を迫られている小田原市の福祉の今後に、「期待しすぎないように」と自分に言い聞かせながら、少しだけ期待したい。
http://diamond.jp/articles/-/117428

「生活保護なめんな」ジャンパーについては、日経新聞でもおおよそは報じられたが、第一の記事で詳しく知るにつけ、日本もここまでギスギスした社会になったのかと、暗澹たる気持ちになった。この問題が10年前に起きていながら、今回、初めて明るみになったというのも驚きだ。生活保護の「不正受給」については、自民党の片山さつき議員などが国会で取上げたが、一部の例外的事象を一般的であるかのような取上げ方には違和感を覚えたものだ。この記事を読んで、金額ベースでの割合は僅か0.5%と極めて小さいことや、ケースワーカーの仕事の大変さが理解できた。 『不正受給対策として警察官OBを窓口に配置する政策をとっている自治体もある』、というのには笑ってしまった。『警察官OBの天下り先にしかならず、効果は低い』、はその通りだろう。 ケースワーカーの仕事の大変さには、縦割り行政の壁も起因しているようだが、個人番号の普及で、そうした障害が軽減されるのではなかろうか。
第二の記事で、福祉は各地方自治体任せになっており、『小田原市の福祉不毛地帯ぶり』、がひどいことが理解できた。筆者のみわよしこ氏が言うように、 『どこに住んでも「大ハズレ」だけは引かないという安心は、私も欲しい』、には同感できる部分もあるが、福祉は国が一律にやるより、サービスを受ける人に近い地方自治体に任せるというのが、本来の役割分担だった筈だ。その意味では、小田原市民の選択の問題なのだろうが、地方自治がそこまで成熟してないのも事実である。大きな問題が起きる都度、解決してゆく他ないのかも知れない。
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