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ソーシャルメディアや偽(フェイク)ニュースによる世論操作 [メディア]

今日は、ソーシャルメディアや偽(フェイク)ニュースによる世論操作 を取上げよう。この問題は、英国のEU離脱やトランプ大統領誕生に大きな力を発揮したとして、注目を浴びている。さらに、トランプ大統領が記者会見で、CNNなどのまともなメディアに対し、偽(フェイク)ニュースとして臆面になく非難した場面も記憶に新しいところだ。

先ずは、フリージャーナリストの福田 直子氏が1月25日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「トランプ勝利の影にあった「心理広告戦略」 続く選挙を前に欧米メディアが懸念する「CA社」の動き」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・2016年は2つの大きな政治イベントが大方の予想に反して「ポピュリズムの勝利」という結果となった。英国のEU離脱の是非を問う国民投票と、米国の大統領選だ。反移民および反エスタブリッシュメントに訴え、事実に反するスローガンを織り交ぜたキャンペーンは、「理屈」より「情感」に訴え、成功したといえる。国を二分するようなプロパガンダによって誕生したトランプ新政権は、国際政治に何をもたらすのであろうか、未知数だ。
・英国のEU離脱キャンペーンと米国の大統領選挙、英米で展開されたこの2つのキャンペーンには多くの共通点が見られた。その1つが、両方のキャンペーンにあるITデータ会社が関与していたということだ。欧米のメディアではこのことが大きく取り上げられた。
▽心理分析に基づく広告手法
・テクノロジーの進化は、選挙戦略に変革をもたらしている。1996年の米国大統領選では候補者のホームページができ、2004年にはネットで選挙キャンペーンのイベントが公示されるようになった。2008年はソーシャルメディアが活用され、候補者が大勢の有権者たちと意見を交換し、小口の献金が容易にできるようになった。そして、2012年のオバマの選挙戦ではスマートフォンが普及、ビッグデータを使った最初の選挙ともなった。
・4年前のオバマの選挙戦略と、今回のトランプの選挙戦略で決定的に違ったのは、トランプ陣営がビッグデータに心理分析を加え、迷っている有権者たちに、心理分析に基づく個別のマイクロ広告が送られたことだ。その手法が「発見」されたのは、5年前のことであった。
・2012年、英ケンブリッジ大学の研究チームがある研究発表をした。研究はフェイスブックの「いいね!」ボタンの結果を68個ほど分析すれば、その人のプロフィールが大体浮かび上がるという内容のものだ。人種、同性愛者であるか否か、民主党か共和党かなど、どれも高い確率で確定することができる。しかし、分析はそこで終わらない。
・「いいね!」ボタンを150個、300個と重ねて分析していくと、学歴、知能程度、宗教、酒やたばこを好むか、麻薬を使っているかということから、21歳までに両親が離婚しているかどうか、といったことさえわかるという。 さらには、誰と恋愛関係にあるか、誰が結婚相手であるかということも判明し、カップルの共通の友人関係やスマホでの電話記録、テキストメッセージやソーシャルメディアでの発信内容などを分析すれば、2カ月以内に2人が別れる確率も50%の的中率で予想できるというのだ。
・分析の基本は、5つの要素による人格分析である。その5つとは、開放性、誠実性、外向性、同調性、神経症傾向、いわゆる心理学でいう“ビッグ5”(あるいはOCEAN)を基準とした心理統計学(サイコメトリックス)で、コンピューターを用いて分析するものだ。つまり人間の心理、性格を数値化するものだ。
・心理学でいうビッグ5は決して新しいものではなく、1980年代からコンピューターによる分析が進められている。1999年から2006年までの間だけでもビッグ5に関する2000以上の研究が報告されてきたが、ケンブリッジ大学の研究は、フェイスブックのデータに注目したところが目新しい。
・この研究が発表されると、研究所のメンバーに英国のあるIT企業から協力要請があった。 その会社はSCL社という「情報コミュニケーション企業」だった。会社名を検索してみると、得意分野が「心理分析による選挙キャンペーン」とあり、親会社が軍需産業のひとつとして、イラクやアフガニスタンでサイオップ(心理学を応用した作戦)を使う「IT情報企業」だという。
・研究チームのリーダーだったミケル・コジンスキーは悪い予感がし、研究所の所長に相談した。コジンスキーが一番懸念したことは、自分たちの研究が何らかの形で「悪用される」ことであった。懸念は現実のものとなり、この時点ですでに大学の同僚がコジンスキーの研究を「コピー」し、SCL社に売っていた疑いが、のちに判明した。
・コジンスキーは研究所を辞職し、カリフォルニアの大学に移籍した。ところが移籍の1年後、トランプが大統領選で勝利したことで、コジンスキーに対する非難が殺到した。彼の研究をもとにしたと思われるデジタル戦略が、英国のEU離脱と米大統領選挙キャンペーンで“利用された”と指摘する専門家が何人もいたからだ(スイスの雑誌、Das Magazin,2016年12月5日号より)。
・▽「ケンブリッジ・アナリティカ社」としてトランプ陣営に
・トランプの勝利後、大統領選挙キャンペーンで注目されたのは、ケンブリッジ・アナリティカ(CA)社の存在だった。CNNをはじめ、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナル、CBS、ABCテレビなど、米国のメジャーなメディアが一斉に、心理分析にビッグデータを応用したIT企業が、トランプの選挙キャンペーンに参加していたことを取り上げた。
・前述のSCL社はその後、社名をケンブリッジ・アナリティカ(CA)社と変更していた。なお、ケンブリッジ大学とは関係がない。 コジンスキーは、現在も、自身がケンブリッジ大学に在籍中に発表した研究が、CA社によって無断でコピーされたと主張している。しかし、CA社はコジンスキーの主張を否定し、独自に有権者の心理分析方法を開発したと述べている。
▽個人の心理分析が選挙でも利用された
・すでに広告の世界では、ビッグデータによる消費行動の予測が研究され、実用化されてきた。 いまや金融、保険、マーケティングだけでなく、政治や犯罪捜査に欠かせないツールだ。日々、進化しているビッグデータは、データ量が多いほど正確になり、予想的中率が高まる。
・現金利用が少なくなり、消費活動がネット注文、クレジットカードやメンバーカードで行われることが多くなった米国では、消費者の行動を追跡・集積しやすくなった。消費者保護を専門とするある弁護士によると、米国のデータブローカーの大手、アクシオム社は、世界中で7億人分のデータ、年間500兆件の消費活動データを保有しているといわれている。
・消費者の行動を先読みすることをある程度可能にするのがビッグデータであるとすれば、有権者の行動も消費者と同様にとらえることも可能だ。どのようなテーマに関心を持ち、どういうことに対して不満を持っているか、宗教は何か、また信心深いか、友人はどういった人か、銃を所有しているか、不動産を持っているか、移民が増えることに対して不安は持っていないか、精神状態は安定しているのか、家族生活はどうかといったことだ。こういった個人の心理を分析することが、トランプの選挙キャンペーンで応用されたのである。
・なによりも選挙チームにとって有効なのは、心理分析を加えることで「どういうグループが説得されやすいか」がわかるようになったことだ。心理分析を取り込んだビッグデータは、「特定の人格を持った人の検索」を可能にした。
▽大統領選の3カ月前からCA社が参画
・近年の選挙では、2人の対立候補への支持者がほぼ均等に分かれ、僅差で決まることが多い。米国の有権者も、選挙ごとに投票する党を変える「スイング・ヴォーター」をめぐり、選挙の最終段階ではどちらにでも移行する可能性がある票を獲得しようと熾烈な戦いとなっている。
・米国では大統領選挙を3カ月後に控えた時点で、共和党選挙対策本部で3つのデータ企業が対策を練っていた。そこに、新たにCA社のデータ専門家が加わった。 9月から選挙キャンペーンが本格化すると、選挙チームはトランプの選挙サイトや広告を10万種類用意した。ターゲットにしたのはミシガン州やオハイオ州など、自動車産業や鉄鋼業が衰退している「ラスト・ベルト」と呼ばれる地域。選挙ごとに票を投じる党が代わる浮動票が多い、非都市部白人の有権者たちに注目した。
・さらに力を入れたのが、どちらの候補に入れようか迷っていると思われる、女性や黒人などの有権者たちに対する「投票抑圧オペレーション」だった。例えばヒラリーに対して好意的でなかった人々をビッグデータを使って「検索」。電子メールなどで、そういった人々に、投票の棄権を後押しするようなメッセージやマイクロ広告を送った。 また、選挙チームは心理分析のデータに応じて、数種類の「投票抑圧広告」を用意することで、選挙キャンペーンにうんざりした有権者が投票に行く意欲をそぐ方法を用意していた。
・ターゲットにされた「説得される可能性がある」有権者のグループが多く住む地域では、人気テレビ番組の間に選挙広告を織り込んだ。それは、「トランプに投票してください」とあからさまに訴える広告ではなく、対立候補のヒラリーへの偏見を高めるような心理広告だ。ネット上のニュースフィードでも同じような動画広告を送り続けた。
・例えば、あるビデオ広告はこうだ。ヒラリーの選挙広告の撮影現場で登場する女性の黒人が「ヒラリーは、正直で信用できる……ちょっと待ってよ、こんなこと言えない」と言う。それに対して「だって君は女優じゃないの」と言う声がすると「でも信じてないことなど言えない」とその女性は席を立ち、「ヒラリーが正直で信用できるなんて、いいかげんにしてよ」と言う。こういった広告を黒人女性の有権者に送るのだ。
・ダイレクトメール、テレビ広告、スマホ向けのメッセージなど、有権者へのアプローチの方法を決めるにもビッグデータと心理分析が役立だった。 訪問勧誘の際は、独自に開発されたアプリであらかじめ訪問先の人物プロフィールを見て、どう話を進めるかなど、有権者のタイプ別に、セリフも用意されていた。
・トランプ勝利後、CA社のアレクサンダー・ニックス社長は、独ハンデルスブラット紙のインタビューで、「CA社は米国人有権者2億3000万人に関するデータを持っている」と豪語し、「プロパガンダはいつの時代もあった。2億人の有権者を説得するのは難しいが、接戦では少人数をターゲットにしたマイクロ広告の効果がある」と語った。
▽大統領選など控える欧州は「警戒」
・2つの選挙キャンペーンでポピュリズムが勝利し、その背景にCA社のような会社の影響があったことに対し、ドイツの公共放送ARDやフランクフルターアルゲマイネ紙(FAZ)など主要メディアは「フェイスブックをもとにした心理学分析によるプロパガンダ」がドイツでも行われる恐れがある、と大々的に報道した。 ニックス社長は、「選挙キャンペーンの専門家、データサイエンティスト、そして心理学者を備えた戦略は、これからの選挙キャンペーンに欠かせない、請われればどこへでも参じる」とハンデルスブラット紙で語っている。
・2017年はフランス、オランダ、ドイツと、EUの中核を成す国々の総選挙が控えている。この3国では、民主主義の脅威となるポピュリズムが選挙結果に影響を及ぼすのではないかと警戒されている。 ドイツのメルケル首相も9月の連邦選挙に向けて「偽ニュースやソーシャルメディアにおける操作」に対して警告している。ロシアによるソーシャルメディア操作、ハッキングも懸念され、個人データ保護が強化されるよう、ドイツ政府はEUにも働きかけている。
・フェイスブックに対しては、昨年、ヘイト・スピーチと思われる発言や偽ニュースが流布したということで、ドイツ人の連邦議員やシリア難民が訴訟を起こしている。このことを受け、フェイスブックをはじめとするソーシャルメディアに対し、偽ニュースと判断された書き込みやシェアは、24時間以内に消去しなければならないという義務が、EU指令によって課せられることになった。
・CA社は、フランスの右翼マリーヌ・ルペン、ドイツで急躍進しているドイツのための選択肢(AfD)党など、大衆操作を狙った右派ポピュリストの選挙キャンペーンに加担する可能性があると指摘されている。有権者の心理的な弱点や不満を利用するとも指摘されているのが、CA社の得意な手法の一つだからだ。 AfDは、党の支持者が実際より多く見せるための操作も行っていると言われている。それは、ボットによるコメント増、少数の人間が複数のフェイスブック・プロフィールを使ってAfDのメッセージを増やしているといったことだけではない。フェイスブックの「いいね!」ボタンを仲介業者から「買っている」という疑いもある。
・フェイスブックの「いいね!」ボタン、ツイッターのコメント、ユーチューブのアクセスクリック数など、「ソーシャルメディア対策」として、ファン数を増やすため、例えば、「いいね!」ボタンを数日のうちに1000個売る「IT業者」がいるのである(ドイツの公共テレビ局、ZDFのドキュメンタリーより)。
・AfDの「いいね!」ボタンやコメントなどを分析したある研究者は、シェアリンクや書き込みが、米国で行われているものだと指摘している。その背後にはトランプ支持者も多く、右翼の支持者は他国の右翼も支援するという、まさにポピュリズム・インターナショナル的な動きが認められるという。
・フランスとドイツは個人情報保護が米国より厳しい。特にドイツはメディア操作とプロパガンダによる選挙で独裁政権が成立したという苦い歴史の経験を忘れていない。ドイツではヘイト・スピーチに対する法律も厳しく、公の場で右手を高く上げるヒットラー敬礼は、民衆を扇動しているということで、刑法上、罰せられる対象となる。
・難民の流入やテロの危険を利用した偽ニュースやプロパガンダ、ヘイト・スピーチによる大衆操作に対してどう対応するべきか、民主主義が最大限に試される選挙となることであろう。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/012000544/?P=1

次に、2月6日付けNHKクローズアップ現代「フェイクニュース特集 “トランプの時代” 真実はどこへ」を紹介しよう(▽は小見出し、──は司会者)。
・「300万人の不法移民が不正投票した」、「オバマ政権はオーストラリアから不法移民を受け入れた」米トランプ大統領が連日のように発信するツイッターのメッセージ。テレビ局や新聞は証拠が曖昧で一方的だと指摘。トランプ大統領はメディアを「フェイクニュースだ」と批判する異例の事態が続いている。 「真実とは何か」をめぐって社会に大きな亀裂が生じているアメリカ社会の現実を見つめ、人々が信じたいものだけ信じる時代がなぜいま生まれているのかを読み解く。
▽ウソ?真実? 混迷するアメリカ
・去年(2016年)のアメリカ大統領選挙では、「フェイクニュース」と呼ばれる偽の情報がインターネット上にあふれ、人々を惑わせた。 “ローマ法王もトランプ氏を支持” “クリントン氏を捜査するFBI捜査官が無理心中” フェイクニュースをきっかけに銃撃事件まで。クリントン氏が児童売春組織に関与しているという偽のニュースを信じた男が、拠点とされたレストランを襲撃した。 フェイクニュースは、なぜ、どのようにして生まれるのか。 社会はどこへ向かうのか 特集シリーズで迫る。
▽“トランプの時代” 真実はどこへ
・ゲスト デーブ・スペクターさん(放送プロデューサー) ゲスト 池上彰さん(ジャーナリスト)
── フェイクニュースによって今、アメリカが大変な混乱に陥っているように見えるが? 
デーブさん:しゃれで済ませられないですね。 特に去年から、実際に選挙に影響を与えたわけですから、結果までかどうかは別として、恐ろしいと思うんですよ。 前だったら、おもしろくて見てたようなものを作って、パロディーとか、それだったらよかったんですけども、今回のものは違いますね、悪意です。
池上さん:だって、デーブ・スペクターさんが言っていることは冗談だなと思っていた人が多かったのに、本当だと思う人が出てきたんじゃないですか。
デーブさん:今日、僕が呼ばれて、果たして説得力があるかどうか。
── 池上さんは、これだけフェイクニュースがまん延して、それが社会を動かすまでになっている、この状況をどう見る?
池上さん:去年の英語圏のいわゆる流行語として選ばれたのが「ポスト・トゥルース」。要するに、人は真実ではなくて、とにかく感情的に心が揺さぶられれば、それでいいと。 真実は二の次だというようなことが広がっている、これが去年の流行語に選ばれた。もはや、そういう時代になっているのかということですよ。
── 今回、アメリカ大統領選のさなかにフェイクニュースを発信し続けたサイトの制作者が取材に応じました。 そのサイトの名前は皮肉にも、「リアル・トゥルー・ニュース(本当の真実のニュース)」というんです。
▽偽のニュースサイト 発信者を直撃
・面会の場所に指定されたのは、地元の人でにぎわう、バー。 フェイクニュースを作っているという男性だ。 このバーから発信しているのだという。マルコ・チャコンさん。ふだんは金融機関の重役を務めているという。 チャコンさんが仕事の合間を縫って、運営するサイト「リアル・トゥルー・ニュース」。友達にジョークを楽しんでもらう目的で、3年前に開設した。 これまでに書いた数百本の記事すべてが、フェイクニュースだ。 今では、1本の記事に2万回以上のアクセスがあるという。
フェイクニュース制作者 マルコ・チャコンさん「ニュースの見出しだけ見て読みもしないで拡散する人が結構いるんだ。こうしてフェイクニュースが広がっていくんだ。」
・例えば、「秘密の世論調査でトランプ氏がリード」という去年8月の記事。メディアは隠しているが、トランプ氏が圧倒的に有利だと、明らかな、うそを伝えた。 当時、大手メディアは、クリントン氏がトランプ氏をリードしていると報じていた。ところが、このフェイクニュースは数万アクセスを記録した。
フェイクニュース制作者 マルコ・チャコンさん「明らかにバカみたいな、トランプ氏有利の記事を載せたら、保守層は半信半疑で揺れ動くだろ。それを狙ったんだよ。」
・チャコンさんのフェイクニュースは、手の込んだものになっていく。 選挙戦を通して、若者からの支持の伸び悩みが課題となっていたクリントン氏。 そこでチャコンさんは、クリントン氏が非公開の講演で「若者は負け犬だ」と発言したという、うそのニュースを流したのだ。 このフェイクニュースを大手メディアがニュース番組で引用し、報道。 その後、うそが明らかとなり謝罪する事態にまで発展した。
・今も新たなフェイクニュースを発信し続けるチャコンさん。うそを真に受ける社会に問題があると語る。
フェイクニュース制作者 マルコ・チャコンさん「何が正しいかなんて彼らは気にしないんだ。この流れを止める方法はない。そういう時代なんだ。」
▽信じたいものだけ信じる危うさ
・フェイクニュースが広がる背景には、SNSを通して、自分が興味のある情報だけを受け取ろうとする人たちの増加がある。 東部・ニュージャージー州で非正規の仕事をしている、ジンジャー・ベルさん。ふだん、テレビや新聞は全く見ない。 常に持ち歩くスマートフォンが唯一の情報源になっている。
ジンジャー・ベルさん「SNSで情報を得ることが習慣になりすぎて、いつもチェックしてしまいます。 他の人たちも同じじゃないんでしょうか。」
・ベルさんのスマートフォンに入ってくるのは、関心があるリベラルな政治や環境問題のニュースがほとんど。
ジンジャー・ベルさん「トランプ大統領が国境に壁を作ると、自然が破壊され、動物たちが追いやられる、そういう記事です。」
・もともとフェイスブックを通じて、さまざまな立場の知人と情報のやり取りをしていたベルさん。しかし、自分の考えと異なる意見や見たくないニュースに煩わしさを感じるようになり、SNSの設定を変えて、情報が入らないようにした。 今、ベルさんは自分が好む情報だけを受け取るようにしている。
ジンジャー・ベルさん「フェイスブックの情報しか見ないので、自分と違う意見を知る機会はほとんどありません。」
・SNSに詳しい専門家は、同じ考えの人から流れてくる情報ばかりに触れていると、フェイクニュースが紛れ込んでも疑いを持たなくなると指摘する。 インディアナ大学 フィリッポ・メンツァー教授 「例えばあなたが友人に拡散すると、『信頼している人から来た』ということで、相手は信じやすくなります。 私たちはフェイクニュースの被害者にも加害者にもなりうるのです。」
▽フェイクニュース広がる アメリカ社会の現実
・ゲスト 藤代裕之さん(法政大学准教授)
── 取材に当たった藪内記者がニューヨークにいます。 フェイクニュースによって、アメリカ社会は、どう変わってしまっている?
薮内潤也記者(アメリカ総局) 「ひと言で言いますと、フェイクニュースによって、社会の分断がより深まっていると感じます。フェイクニュースは今も、日々、作られていまして、最近も『オバマ前大統領が任期が終わるのに、ホワイトハウスから離れるのを拒否すると述べた』などといった、うその情報が広まりました。 私も、どんな意図でフェイクニュースを作っているのかと、身構えて取材に臨んだんですが、実際には軽い気持ちで作られているという、その落差に驚きました。アメリカでは今、多くの人が真実が何かよりも、自分が信じたい情報を信じるようになっています。それぞれが自分の殻に閉じこもり、多様な意見が耳に入らなくなる、そんな状況に危うさを感じます。」
── アメリカ大統領選の時に盛んに発信されたのが、政治的意図を持ったフェイクニュースです。プロパガンダによって、多くの人に影響を及ぼしたり、移民に対する差別や排斥に利用されたりもしているということだが、フェイクニュースがこのようにして、まん延することは、社会にどういう作用がある?
池上さん:権力者というのは、何とか世論操作をしたいという思いがあって、例えば、事実を自分の都合のいいように解釈をちょっと変えることは、これまでやっていたんですけど、トランプ政権の場合はそもそも、うそを平然と言うと。例えば、大統領就任式に集まった人の数が実際よりずっと少ないのを多いと言ってみたりして、それはおかしいじゃないかって指摘されたら、それは「オルタナティブ・ファクト」、もう1つの別の事実だと。それって普通の言葉で言えば、うそなんですけど、うそと言わないで、オルタナティブ・ファクトと言い張るという、まさに今、トランプ政権のもとでこういう事態になっているということですよ。
── 実は今日、日本時間の9時過ぎに、トランプ大統領が「私に否定的な世論調査は、すべてフェイクニュースだ」というツイートをしました。
池上さん:なるほど。つまり、とにかく私に否定的なものは、すべてフェイクだと言い張るという。これは大変分かりやすいツイートですね。
── 今、私たちは一体どんな時代を生きているのか?
藤代さん:ニュースの流れが根本的に変わってしまったということを、まず自覚していく必要があると思います。 発信者と、拡散する人というのは別にいるんです。だからこそトランプ政権は、人々の拡散を力にして、オルタナティブ・ファクトを伝えることもできるようになっているという仕組み、インターネットの仕組みが、実はあるんです。
── フェイクニュースの意図はいろいろありますけれども、やはり拡散されることで大きな影響力を持つんです。アメリカ人を対象にした調査で、フェイクニュースを拡散させてしまったことがある人の割合は23%、5人に1人に上っている アメリカ人は、なぜフェイクニュースを拡散してしまう?
デーブさん:1つには、メールで来るものをよく転送したりして、よく見ないで送るんですよ。 知り合いの好みのニュースとかのものだったら、送っちゃうんですよ。あとで自分でも見たら、これはうそっぽいなと思うのが遅いんですけど、そういうところもあるんですよ。つまり、慌ただしくて、ネットのユーザー、スマートフォンもそうですけど、とにかく錯そうしている。 回転ずし状態で、好きなものをいっぱい取って、慌てて取るんですよ。ですから、冷静に見ていないんです。 前だったら、媒体の数がとても少なかったんですよ。 今は、もう数え切れない。どんどん新しいものが出来て、それはちゃんとした媒体かどうか確認せずに見ていると。 もう1つ情けないのは、訂正。 以前であれば、ちゃんとしたニュース媒体だったら「間違えました」と。 今は違います。 更新、アップデートですよ。 間違ったことを平気で許される許容範囲が大きくなったことも、また問題です。
── 拡散させてしまう理由のもう1つが、情報の受け手の状態を表す「フィルターバブル」という言葉があります。これは、インターネット上で、さまざまな友人、あるいは情報とつながっているようでも、実は利用者というのは、見えないバブル=泡に覆われていて、偏った情報に囲まれて、真実が見えなくなってしまう状態にあると。これが、フェイクニュースとどう関連する?
藤代さん:いろんな情報が世の中にありますよね。しかし、インターネットというのは、「アルゴリズム」というプログラミングの仕組みで、自分が「いいね」をしたり、見ているものばかりが表示されるようになるんです。かつ、例えばそれに「いいね」がつく、シェアされてくる。そして、シェアするというのがあると、それが正しいのかなと思い込んでしまう。それが、フィルターバブルだということなんです。
── いつのまにか、我々はフィルターバブルの中で情報を得ているという状況にある?
池上さん:結局、検索をしても、自分の見たいものだけを調べていく、見たいものだけを見る、信じたいものだけを信じるというふうに、ある種の、たこつぼ状況にみんな陥っているんじゃないか。インターネットが始まった時は、あらゆる情報を見ることができる、夢のように語られたんですが、今は、みんな信じたいことだけを見るということによって、本当に、個々にバラバラに分断されていると思います。
── こういった状況の中で、さらに新しい情報に基づいたニュースがフェイクニュースによって、事実が塗り替えられてしまうという深刻な事態も起きています。
▽衝撃 ウソが事実をねじ曲げる
・先月(1月)、1人のジャーナリストがツイッターを通じて助けを求めた。
ペーター・バンダーマンさんのツイッターより “事実がウソに塗り替えられてしまう。どうすればいいのか、誰か教えて下さい。” 投稿したのは、ドイツの地方新聞紙のベテラン記者、ペーター・バンダーマンさん。 去年の大みそか、バンダーマンさんは年越しを祝う人々の取材に向かった。
ルールニュース 記者 ペーター・バンダーマンさん「この広場に、よる11時半ごろから未明にかけて、1,000人ぐらいの人が集まっていました。」 バンダーマンさんが撮影した動画。
・花火や爆竹を鳴らして年越しを祝う市民たちに交じって、中東などからの移民が楽しむ姿も映っていた。 その夜、別の場所では、ぼや騒ぎも。 工事中の教会のネットに、花火の火がついたというものだ。
ルールニュース 記者 ペーター・バンダーマンさん「花火をあげて大騒ぎをするのは、毎年のことです。 火は10分ほどで消えました。 教会そのものに影響はありませんでした。」
・バンダーマンさんはインターネットに、年越しの様子の記事と動画を掲載。 ぼや騒ぎはあったものの、例年と変わらない光景だったと伝えた。 しかし、数時間後想像もしていなかった事態が。 自らの記事が異なる形で、オーストリアのニュースサイトに引用されていたのだ。 その記事には、シリア人が「アッラーは偉大なり」と叫び、教会に火がつくと、無関係な事柄を組み合わせ、彼らが放火したかのように描かれていた。 
ルールニュース 記者 ペーター・バンダーマンさん「大したこととは思いませんでした。よくある移民排斥のプロパガンダだと思ったのです。」
・しかし2日後、移民やイスラム教徒に排他的とされる、ブライトバートのロンドン支局も引用記事を掲載した。 タイトルは「1,000人の暴徒が警察を襲撃。ドイツ最古の教会に放火」。 移民たちが、イスラミックステートなどの過激派組織と関連しているかのような描写もあった。
・バンダーマンさんが取材した事実とは異なる2つの記事は世界中に拡散。 分析ソフトを使って検証すると、オーストリアの記事は、ヨーロッパを中心にSNSで2万5,000件ものシェアなどがあった。また、各国に読者を持つブライトバートでも2万件以上の反応があり、少なくとも世界28か国に広がっていった。バンダーマンさんのもとには、誤った記事を信じた人たちから1,000通を超える非難のメッセージが届いた。 なぜ、移民の放火事件を隠していたのか。 絞首台の画像まで送りつけられてきた。
ルールニュース 記者 ペーター・バンダーマンさん「私の記事が悪用され、移民への憎しみや、暴力を辞さない態度が人々の間に広がってしまいました。 正しい事実を伝えなければならないと思いました。」 
・社内で対応を協議した、バンダーマンさん。 反論記事を書いて、誤った情報を正していけば、事態は収まると考えた。  反論記事に書いたのは、移民が集まっていた広場と、ぼや騒ぎが起きた教会は別の場所であること。 「アッラーは偉大なり」という言葉は、イスラム教徒が日常的に使う言葉であることなど、詳細に説明する記事を掲載した。しかし、この反論記事に対する書き込みやシェアなどは国内を中心に、わずか500件余り。 世界に拡散された誤った情報を打ち消すことはできなかった。 事実をねじ曲げた記事は今も、さまざまな形で引用され続けている。
ルールニュース 記者 ペーター・バンダーマンさん「自分の目で見て取材をしたのは私です。フェイクニュースは移民への怒りをあおり、拡散しました。 事実はどこかへ、いってしまったのです。」
▽拡散するフェイクニュース 世界を覆う“危機”
──シリア人が教会に放火をしたという、このフェイクニュースを拡散させた、アメリカの保守系サイト「ブライトバート」なんですけれども、経営責任者だったのが、スティーブ・バノン氏。この人は現在、政権運営全般にわたって、トランプ大統領に助言する上級顧問の役にあるということなんです。
デーブさん:確信犯ですね。本来ならば、とんでもない人を閣僚に入れたんです。 トランプ大統領ならば、まだ何とか我慢しても、こういう人たちが背景にいるというのは、もう歩くヘイトスピーチに近いんですよね。今は、いろんなカモフラージュを使って、例えば「オルト・ライト」とか、いろんな表現を使っているんですけれども、基本的にやっていることは本当はとんでもないんです。
池上さん:今回、トランプ政権がイスラム圏の7万人を一時入国を拒否しましたね。その大統領令の下書きを書いたのが、この人だと言われています。事実が塗り替えられて、民族間、あるいは宗教間の負の感情を湧き起こさせられるとしたら、それは本当に問題になります。
──では、既存メディアは何ができる?
池上さん:これは本当に難しいことですよね。つまり、これまで通りのやり方では、だめだということです。ニューヨークタイムズも、それこそフェイクニュースだと、ずっと非難され続けました。ニューヨークタイムズも初期のころは、こういうことを述べた、でも、それは事実と違うという言い方をしていたんですが、最近は態度を変えまして、トランプ大統領がこういう、うそをついたというのを見出しに書くようになったんです。真っ向から対決するようになった。そうしたら、去年の10月から12月までの3か月間に、ニューヨークタイムズの電子版の購読者が、27万6,000人増えたんです。つまり、きちんと反論すると、それを見てくれる人もまたいるということです。
デーブさん:最終的に、メディアリテラシーですよ。見る側が判断できないならば、見る側の問題になるんです。先ほど、正しい情報を出したとしても、それがフェイクニュースの拡散のスピードに全く追いつかない現状もありました。
──一方で、ニューヨークタイムズをもう一回読もうという人も増えている 今、どういう状況にある?
藤代さん:やっぱり拡散部分というのが、社会に大きな影響を与えるようになってきているわけですよね。そこを担っているネット企業が情報に責任を持つ、そういうことも非常に重要になってくるんじゃないでしょうか。つまり、こういう情報を出しているインターネット企業に、どれぐらい責任があるのかと。
池上さん:あるいは、その情報をそもそも全部出している、いわゆる「プラットホーム」というんですけど、それぞれインターネット企業、情報を乗せている企業の責任ということも問われてくる。
──まさに、リテラシーの問題というのもありましたけれども、インターネットの問題はどうなのかということも考えていかなければいけないと。
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3929/1.html

第一の記事にある、『トランプ陣営がビッグデータに心理分析を加え、迷っている有権者たちに、心理分析に基づく個別のマイクロ広告が送られたことだ』、ということであれば、それ自体は選挙戦術の「高度化」であって、合法的に行われている限り、原則的には特に問題にする必要はないと思われる。ただ、『「投票抑圧広告」』のような不当な手段や、第二にある偽(フェイク)ニュースも利用しているとすれば、やはり大いに問題である。 『右翼の支持者は他国の右翼も支援するという、まさにポピュリズム・インターナショナル的な動きが認められるという』、のは恐ろしいことだ。かつては、インターナショナルといえば左翼運動の専売特許のようなものだったが、ポピュリズムにまで広がるとは時代も変わったものだ。
第二のNHKクローズアップ現代が伝える、『「ポスト・トゥルース」。要するに、人は真実ではなくて、とにかく感情的に心が揺さぶられれば、それでいいと。 真実は二の次だというようなことが広がっている』、『アメリカでは今、多くの人が真実が何かよりも、自分が信じたい情報を信じるようになっています。それぞれが自分の殻に閉じこもり、多様な意見が耳に入らなくなる、そんな状況に危うさを感じます』、というのは、我が国でもいつ起きてもおかしくないだけに、深刻な問題だ。『フェイクニュースを拡散させた、アメリカの保守系サイト「ブライトバート」なんですけれども、経営責任者だったのが、スティーブ・バノン氏』、というのはトランプ政権の恐ろしさを改めて示している。頼りないメディアリテラシーに頼るよりも、フェイクニュースを見つけて、叩くようなサイトがあってもいいような気がする(既に存在しているのかも知れないが)。
タグ:両方のキャンペーンにあるITデータ会社が関与 トランプ陣営がビッグデータに心理分析を加え、迷っている有権者たちに、心理分析に基づく個別のマイクロ広告が送られたことだ ソーシャルメディアや偽(フェイク)ニュースによる世論操作 英国のEU離脱 トランプ大統領誕生 リテラシーの問題 フィルターバブル トランプ政権 オルタナティブ・ファクト 多くの人が真実が何かよりも、自分が信じたい情報を信じるようになっています。それぞれが自分の殻に閉じこもり、多様な意見が耳に入らなくなる、そんな状況に危うさを感じます フェイクニュースによって、社会の分断がより深まっている フェイクニュースが広がる背景には、SNSを通して、自分が興味のある情報だけを受け取ろうとする人たちの増加がある 人は真実ではなくて、とにかく感情的に心が揺さぶられれば、それでいいと。 真実は二の次だというようなことが広がっている ポスト・トゥルース 「フェイクニュース」と呼ばれる偽の情報がインターネット上にあふれ、人々を惑わせた フェイクニュースだ フェイクニュース特集 “トランプの時代” 真実はどこへ NHKクローズアップ現代 フランスとドイツは個人情報保護が米国より厳しい ドイツのメルケル首相も9月の連邦選挙に向けて「偽ニュースやソーシャルメディアにおける操作」に対して警告 ビッグデータと心理分析 投票抑圧広告 自動車産業や鉄鋼業が衰退している「ラスト・ベルト」と呼ばれる地域。選挙ごとに票を投じる党が代わる浮動票が多い、非都市部白人の有権者たちに注目 個人の心理分析が選挙でも利用された ケンブリッジ・アナリティカ社 大学の同僚がコジンスキーの研究を「コピー」し、SCL社に売っていた疑いが、のちに判明 分析の基本は、5つの要素による人格分析 日経ビジネスオンライン 心理分析に基づく広告手法 福田 直子 ポピュリズムの勝利 「いいね!」ボタンを150個、300個と重ねて分析していくと、学歴、知能程度、宗教、酒やたばこを好むか、麻薬を使っているかということから、21歳までに両親が離婚しているかどうか、といったことさえわかるという。 ェイスブックの「いいね!」ボタンの結果を68個ほど分析すれば、その人のプロフィールが大体浮かび上がるという内容 トランプ勝利の影にあった「心理広告戦略」 続く選挙を前に欧米メディアが懸念する「CA社」の動き 英ケンブリッジ大学
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