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日銀の異次元緩和政策(その22)(長期金利ターゲット政策の出口、日銀のETF買いの問題)

日銀の異次元緩和政策については、昨年10月6日に取上げた。今日は、(その22)(長期金利ターゲット政策の出口、日銀のETF買いの問題) である。

先ずは、みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミストの高田 創氏が昨年11月2日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「長期金利ターゲット政策に踏み出した日銀に出口の不安」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽日銀はいつもフロントランナー 長期金利ターゲットは世界に波及するか
・日本銀行は9月21日に、注目されていた総括的検証を発表するとともに「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を発表し、事実上、長期金利ターゲッティングに転じる新たな第一歩を踏み出した。これは、世界に先駆けて新たなフロンティアに踏み出したことを意味する。
・ただし、こうした先駆的な動きは今回が初めてではない。以下の図表1は日米欧の中央銀行が非伝統的金融政策とされる「ゼロ金利政策」、「量的緩和」、「マイナス金利政策」をいつから始めたかを示したものだ。「ゼロ金利政策」、「量的緩和」は日銀が初めて行ったものであり、今回、それに加えて「長期金利ターゲット」が加わったことになる。
・筆者もBOJウォッチャーの一人として日銀の金融政策を1990年代から見続けてきたが、先述の「ゼロ金利政策」、「量的緩和」は、当初、日本固有の対応として意識してきた。その後、2008年以降の世界的な金融危機に対処し、欧米の中央銀行も日銀の後を追うような恰好になった。 今後、長期金利ターゲットを他の中央銀行が追うかどうかはまだ判断が難しい。
・米国は既に政策金利を引き上げる段階にあるだけに、いまや長期金利ターゲットの次元ではない。もちろん、米国の景気が腰折れすれば、追加的金融緩和がありうるが、その場合は、金利引き下げ・量的緩和等、日米欧のなかでは最も追加策の余地を有している。足元、米国は12月に向けた利上げが予想されるだけに、円安・ドル高バイアスにある。ただし、日米の金融政策余地を比較すれば、中長期的に見て円高・ドル安のリスクを秘めていることには留意が必要だ。
・一方、欧州は量的緩和の限界を意識する段階にあるだけに、日本と類似した国債購入の量への限界への不安を共有する。そのため、次にありうる選択肢は欧州の「長期金利ターゲット」だ。ただし、欧州の場合、どこの国の長期金利をターゲットにする等の技術的難点はかなり大きいだろう。
▽40年代の米国に似た「日本版ペギング」
・今回の日銀の長期金利ターゲットは「日本版ペギング」とも言える。 「ペギング」とは国債価格維持政策のことで、1940年代の米国で、1951年に米連邦準備理事会(FRB)と米財務省がアコード(政策協定)締結するまでの時期、中央銀行とFRBの間の暗黙裡のコミットメントで長期金利の天井が2.5%であるとのコンセンサスで長期金利を安定させた局面を指す。筆者も著作等を通じ過去20年近く問題意識をもって取り組んできたテーマだったが(*1)、実際に日本で行われだしたことを感慨深く思っている。
・図表2は、今回のイールドカーブのコントロールのイメージである。イールドカーブのなかで、起点となる政策金利のマイナスと、10年の長期金利を「ゼロ%程度」とする、2時点をベースにしたコントロールである。 10年ゾーンについては、米国の「ペギング」のような厳格な釘付けではなく、「▲0.1-0%」程度を想定していると考えられる。従って、その水準から離れそうな状況になれば、国債の購入のオペの額を増減させて対応したり、場合によっては「指し値オペ」によって具体的な水準を示すと考えられる。
▽「犬の躾」と「市場との対話」
・こうした金利コントロールの状況は「犬の躾」にたとえられる。すなわち、犬を躾ける際に、超えてはいけないラインにまず柵を設けるが、そのラインを超えると鞭で打つような躾を繰り返すと、柵を取り外しても犬はそれより先に行かなくなってしまう。同様に、今後の長期金利の安定も、市場との対話のなかで次第に効果が浸透すると展望される。
・今後、先に想定したレンジよりも上回る時と下回る時の両方の可能性に対処した方策が考えられる。上回れば、オペを増額したり、指し値オペで行き過ぎを示すことが基本だ。逆に、下回れば、オペを減額したり、指し値オペで水準を示すことも考えられる。
・今後を展望すれば、円高が進行した場合を中心に、下回る可能性の方が大きいだろう。ただし、一度、日銀の意思が明示された以上、市場の動きは低下し、まるで「犬が馴らされる」ように安定化に向かうのではないか。短期的には、長期金利が固定相場化し、長期金利の価格発見機能の喪失、さながら「生体反応」が低下する不安が生じやすい。
▽不安は出口にあるが 深刻な不安は「永遠のゼロ」
・ただし、問題があるとすれば、将来的にインフレが上昇し、出口に向かう場合である。こうした事例は、米国が「ペギング」を行ってきた段階の終盤、1940年代後半に顕現化した。長期金利に上昇圧力がかかるなかでそれを固定化すれば、益々インフレ圧力がかかりやすくなるからだ。 今回、日銀はオーバーシュート型コミットメントで時間軸政策を強化したが、マイナス金利のコミットとはしなかったのは、出口の不安も視野に含んだからだろう。こうした対応策については、依然、課題も多く、日銀も完全なシナリオを描く段階ではない。
・ただし、むしろ、日銀の本音としては、そうしたインフレに悩むような局面に早くなってほしいというものではないか。すなわち、そうした状況は、実体経済の改善等、環境が良い方向に向かっていることを意味するからだ。  今日の真の問題は、環境が好転しないなか、長期金利ゼロ近傍の状況が長期化して出口を展望できない、「永遠のゼロ」が続く怖さにある。
▽銀行は生き残りをかけた「水中生活」に
・ここで、金融機関のファンディング構造を勘案すれば、預金を中心に短期調達中心の銀行業界は概ね10年ゾーンまでの世界が活動領域となり、対して10年以上の長期の負債構造をもつ生保・年金分野は10年以上の超長期分野が活動分野の中心になる。 次の図表3に示されたように、銀行はさながら活動領域が水中に沈んだような状況で、「水中生活」を強いられる。一方、保険・年金は総括的検証で一定の超長期分野の水準が確保されたが、彼らの予定利回りとの関係をみると逆鞘リスクの不安を抱える。
・一般的に銀行の収支の源は長短金利差にある。以下の図でみて、確かに「水中」のなかでは一定の長短金利差は存在する。仮にマイナス金利の深掘りがあれば、更なる長短金利差拡大となる。しかし、銀行の調達手段である預金金利のマイナス化が事実上困難ななか、「水中生活」ではほとんど長短金利差の確保が困難だ。
・「水中生活」は日本だけでなく、欧州でも見られる状況だ。ただし、今日、世界全体で約18兆ドルの債券が水没しているが、そのうち、日本が占めるのは約8兆ドルと世界全体の半分近い状況にある。それだけに、水中生活の深刻度は日本に顕著という認識が必要だ。
・「水中生活」でも呼吸ができる「エラ」のない銀行だけに、今年度から銀行は生き残りをかけた進化への覚悟が問われることになる。
http://diamond.jp/articles/-/106485

次に、経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏が昨年12月7日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日銀がETF買いで「日本企業の大株主」になることの大問題」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽日銀の株式保有額は10兆円超 GPIFに次ぐ大株主に
・日銀は、ETFによる株式購入をもう止めた方がいいのではないか。本稿では、率直にそう申し上げたい。
・「週刊ダイヤモンド」の直近発売号(12月10日号)に、「日銀“大株主化”のいびつ1年後を初試算!保有率上位30社」という記事が載っている(ダイヤモンド・オンラインにも転載)。ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフアナリストが試算した、1年後の株主比率上位30銘柄の表が載っている。
・例えばトップのミツミ電機は1年後に日銀の株式保有比率(ETFを通じた間接的保有比率)が20.0%にも達すると試算されている。もっとも、同社は、今年の11月10日時点で14.7%も保有されているので、日銀による株式保有は、現時点ですでに「ひどく大きい」。
・一般的には、保有比率が5%を超えると、影響のある大株主として保有株式の増減について報告が求められることになっている。先の試算表の30位の東海カーボンを見るとしても、1年後には9.0%と計算されているし、11月10日時点で6.4%と5%を大きく超えている。 筆者は、株式市場の常識を代表するような偉い立場ではないが、率直に言って「ただごとではない」保有比率だ。
・記事にもある通り、日銀の株式保有額は10兆円を超えており、すでにGPIF(公的年金積立金管理運用独立行政法人)に次ぐ国内第2位の大株主だ。東京三菱UFJ銀行よりも、日本生命よりも大きい。 加えて、日銀は、ETFを年間約6兆円のペースで買う予定だ。先般、物価目標の「2%」(消費者物価上昇率、対前年比)をはっきり超えるまで、大規模な金融緩和を止めないことを約束したので、今後しばらく買い続ける可能性がある。現状では、2、3日に一度程度、七百数十億円の規模で買い出動しているようだ。上値を買い煽るような買い方はしていないようだが、海外の株価が下落して東証でも株価が下がるような日に、「下げ幅が小さく、買い支えが入っているようだ」と感じている市場参加者が多い。
・日銀が大株主であることの問題と、日銀の買いが株価形成に影響を与えていることの問題の大きく2点が考えるべき問題だ。
▽株主責任の空洞化と銀行株については利益相反も
・さて、日銀が日本の企業の大株主になることにどのような問題があるのだろうか。 日銀と同じく公的機関で大株主であるGPIFと比較すると分かりやすい。両者は共に個別企業に対して直接投資しているのではなく、運用会社を通じて株式を保有している。
・GPIFは、日本版スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードをよしとして、日本の企業の企業統治や経営に株主の利益の立場から関わることを決めたように見える。GPIFは資金運用を委託している運用会社を通じて最終的な株主としての議決権行使に関与しようとしている。 この方針に対しては、政府機関が株式保有を通じて民間企業の経営に介入しようとすることなので、賛否両論がありうる(筆者は「否」である)。
・しかし、日銀の場合は、自身が最終的な大株主であるにもかかわらず、議決権行使への関わりについて方針を明らかにしていない。何もしない、ということなら、議決権が空洞化することを意味する。 仮に、先のミツミ電機に対してTOBを仕掛ける投資家がいた場合、推計ベースで20%もの株式を保有する日銀がどのような態度に出るかが極めて重要だが、日銀は関与の方針を明らかにしていない。
・例えば、「日銀は株主の利益の立場から議決権行使に関与する」と決めることは可能だ。しかし、国内株式のETFのポートフォリオには銀行株が小さからぬ割合で含まれている。 日銀は、銀行に対して日銀考査等を通じて関わる監督者の立場でもあるが、株主として銀行の利益が上がることを望む立場にも立つ。日銀の立場に深刻な利益相反があることは明白だ。
・また、銀行以外の上場企業に対しても、株主としては自己資本をスリムにしてROE(自己資本利益率)を上げてほしいという利害を持つが、傘下の市中銀行にとっては、融資先の企業が自社株買いなどで自己資本を小さくするのは与信リスク上好ましいことではない。 これら複数の観点から、日銀が日本企業の大株主になることは好ましいとは言えない。
▽株価形成を歪め自然な株価が分からない
・日銀のETF買いについては、株価形成を歪めることの弊害も無視できない。 先述のように、日銀のETF買いが入ることによって、株価が下がりにくくなっていることは大方の市場関係者が感じているところだ。 日銀の買いによって株価が高止まりすることは、一応は消費や投資を喚起する資産効果につながると考えることができるが、このことによって、自然な株価形成とは異なる株価が形成されていることは、株式市場の関係者にとって不気味だ。
・端的に言って、日銀の買いが止んだ後に形成される自然な株価がいくらなのかが分からない。 また、株価形成全般に対する影響の他に、日銀が買うETFの種類、さらに個々の銘柄の流動性の差などに基づく日銀買いの影響の差などがあって、個別銘柄の株価形成にも歪みをもたらしている。
・リスクとリターンの計算に基づいて参加するのではない市場参加者は、他の市場参加者にとっての「カモ」になり得るのではあるが、株価形成を攪乱する要因でもある。 日銀が株式市場に介入せずにデフレ脱却とマイルドなインフレの目標が達成できるなら、その方が遙かにいい。
▽株式を買うくらいなら素直に財政も使うべき
・率直に言って、日銀が民間企業の株式を買う政策は「筋が良くない」。日銀が民間企業の大株主になることも、日銀のETF買いが株価形成に影響を与えることも、「ない方がいい」ことに違いない。 しかし、仮に日銀が「手持ちのETFを売ります」と方針転換すると、株式市場に与える影響は甚大だろう。ETFの買いを縮小して、遠からず止めることにするのが現実的だろう。手元に積み上がったETFの売り方を考えるのは、その後だ。
・かつて、デフレ下にあって中央銀行は「ケチャップでも何でもいいから買え」と言ったのは確か前FRB(米連邦準備制度理事会)議長のバーナンキ氏だったが、マネーを市中に供給することが大事だとしても、買う対象が株式というのは弊害が大きい。ケチャップには議決権がないし、利益相反もない。
・ETF買いを止めるとした場合、日銀は何を買ってマネーを市中に供給するといいのだろうか。 端的に言うなら、財政の帳尻を赤字にすることに伴って発行される国債を引き受けるのがいい。付け加えるなら、財政の赤字は、公共事業などの「財政出動!」(=支出の拡大)ではなく、減税や給付金のような現金還元策がいい。日銀がマネーを供給し、政府が有効需要の拡大を通じて資金需要を作って、市中に出回るマネーを増やすのが素直なポリシーミックスだろう。
・一部では、国債を日銀が直接引き受けることは(借換債を除いて)「禁じ手」とされているらしいが、現在すでに国債は一時的に民間金融機関が持つだけで日銀が多額に買い取っている。 国債の日銀引き受けの弊害はインフレだ。現在はインフレが足りないことに困っているのだから、ほど良い規模で(少しずつ試しつつ)日銀が国債を引き受けてインフレを目指すのがいい。 日銀がやるべきことは、ETFを通じた日本株買いではない。
http://diamond.jp/articles/-/110407

高田氏が指摘するように、『日銀はいつもフロントランナー』、というのは、緩和局面ではその通りだ。ただ、米国ではすでに緩和局面は終了、欧州のECBも緩和の縮小を決定した。欧米が緩和局面からの「出口」に向かいつつあるなかで、このままでは日本だけが取り残される懸念が強い。『10年の長期金利・・・「▲0.1-0%」程度を想定』していたが、トランプ大統領登場で米国や欧州では長期金利が上昇、日本でも当初想定のゾーンを超えて、+0.1%までが出現し、日銀も抑え込みに四苦八苦しているようだ。ただ、この程度であれば、『長期金利ゼロ近傍の状況』のなかでの小波動といえるのかも知れない。『「水中生活」でも呼吸ができる「エラ」のない銀行だけに、今年度から銀行は生き残りをかけた進化への覚悟が問われることになる』、と逃げているが、こうしたマクロ環境の悪化は、ミクロの経営努力で乗り越えられる範囲を超えており、「進化」など不可能に近いのではなかろうか。
山崎氏が指摘する日銀のETF買いの問題は深刻だ。既に日銀の株式保有比率が15%もあり、1年後には20%に達する企業があるというのは、尋常ではない。ただ、『株式を買うくらいなら素直に財政も使うべき』(実質的なヘリコプターマネー論)、『ほど良い規模で(少しずつ試しつつ)日銀が国債を引き受けてインフレを目指すのがいい』、との指摘には賛成しかねる。というのも、一旦、インフレに向かい始めると、コントロールできずに、円の暴落、輸入インフレ加速、金融機関の破綻、などの破局的シナリオが実現するリスクが大きいからだ。むしろ、意味のない異次元緩和を終息させるべきだと思う。
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