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日銀の異次元緩和政策(その23)(「物価水準の財政理論」(FTPL)) [経済政策]

日銀の異次元緩和政策を昨日に続いて取り上げるが、今日は、(その23)(「物価水準の財政理論」(FTPL)) である。

先ずは、内閣官房参与・エール大学名誉教授の浜田 宏一氏が、1月6日付けJBPressに寄稿した「物価水準の財政理論~ケインズ経済学の再来か? 十分に味わう価値のある「新しい皮袋に入った古い酒」」を、阿修羅が転載したものを紹介しよう(▽は小見出し)。
・ 4世紀の日本、仁徳天皇は宮殿の近くの小高い丘から国を視察した。天皇は臣民の台所から立ち上る煙がほとんど見当たらないことに気づいた。大部分が百姓であった臣民が厳しい経済状況にあることを知ったのである。 そこで彼は3年間、臣民からの税の取り立てを免除した。宮殿の石垣が荒廃し、宮殿の屋根の隙間から星が輝いて見える状況にありながらも、国民への税金の取り立てをやめたのである。
・3年後、彼はまた丘に登り、民家から煙がもくもくと立ち上がるの見て、彼はその徳政令の政策に大いに満足した。国民も宮殿を修復するためにボランティアに集まったという。彼が仁徳天皇と呼ばれたのも不思議ではない。
・それから約2000年後、現在の日本経済は、2014年に行われた大幅な消費税の引き上げと、今後見込まれる追加的な引き上げのために、消費需要が沈滞している。日本の民間部門は、政府の収支を心配するあまり、消費そして投資への意欲を失っている。 ここに仁徳天皇の物語が思いおこされる。人々の支出は自分の富に依存し、政府の富には依存しないからだ。
・日本だけでなく、世界中の政策当局者が政府の台所の収支ばかりで頭がいっぱいである。政策は常に収支均衡の予算が守られることを理想としている。米国ではこの教義を信じた共和党のティーパーティーが、米国の地方自治体や州政府の多くの正常な機能を妨げることすらあった。ユーロ圏の基本的な問題点は、単一通貨ユーロの採用により、各加盟国が独立した金融政策を行えないことにあるが、加盟国の赤字/GDP比を制限する厳しい財政ルールによって困難が倍加している。
・さて、マクロ経済学の新しい波、FTPL(Fiscal Theory of Price Level:物価水準の財政理論)が勢いを増している。昨年の夏、有名なジャクソンホール会議で、FTPLのリーダーでプリンストン大教授のクリストファー・シムズが、他の人には難解なFTPLを一般にも分かるような形で基調講演を行った。
・人々の総支出、すなわち消費および投資支出は、現在および将来のバランスシートの下での民間主体の選択によって決定される。民間の資産は、国内の実質資産と海外純資産との和にハイパワード・マネーと公的債務を加えたものである。すなわち、民間支出は、国の純資産と日本銀行と政府の両者の負債の和で決まる。
・興味深いことに、シムズは日本経済の問題点をはっきり指摘している。 第1に、量的緩和(QE)、すなわちお金とその代替物であるゼロ金利債券の単なる交換は、総需要への刺激としての効果は次第に小さくなる。 第2に、欧州のようなマイナス金利政策(NIRP)は、イールドカーブを下にシフトさせることによって市場金利をマイナス圏に導く手段としてはうまく機能した。しかし、この政策は実際には金融機関への増税であるため、民間部門のバランスシートに悪影響を与える。 日本においてマイナス金利のマクロ効果が今ひとつなのは、このような理由による。
・民間のバランスシートが政府の債務に左右されるというFTPLの論理を念頭に置いて、政府債務については均衡財政論者より柔軟な見方をする必要がある。 インフレ状況下では、大量の公債を発行して政府が資源を浪費する誘惑が生ずる。シニョレッジ権の1つであるこの権限は君主制の時代から濫用され、インフレを起こして資産所有者に一律のインフレ税を課すことになった。一定の実質の政府支出調達するためにより高い税率が必要となるため、多額の公債残高は財政の効率を損なう。
・他方、景気後退や停滞の状況下では、公的債務の存在は経済を回復させるのに役立つ。政権が安定している限り、追加の利払いは経済に負担をかけるが、国民の負担を先延ばしして需要不足を救うことができるからである。公債をいわば「見せ金」として国民に持たせることにより、経済を完全雇用水準に保つこと可能となりうるのである。(ネオ・リカード派は、公債の背後には将来の世代の税負担が隠されているため、人々の手にする公債は無価値だと主張するだろうが、リカード自身が認めていたように人々はそこまで賢くない。)
・積極的な財政政策の根拠とされていたケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』は1936年に出版された。ほぼ40年後、同書は、反ケインズ革命という形で合理的期待形成論者によって激しく批判された。 そして80年後の今、ケインズの考えは、世代を越えた消費の選択など一般均衡論の洗練された形に扮してFTPLとして戻ってきたといえよう。これは確かに新しい皮袋に入った古い酒であるが、十分に味わう価値のある酒である。
http://www.asyura2.com/16/hasan117/msg/515.html

次に、財務省出身で慶応義塾大学准教授の小幡績氏が、NEWSWEEK日本版に3回にわたり連載した記事を紹介しよう(▽は小見出し)。
1回目:1月11日付け「経済政策論争の退歩 <経済政策はケインズ以前に逆戻りしてしまった。流行りの「物価水準の財政理論」を政治利用する輩に経済を殺させないための方法を探る。シリーズ第1回>」
・現在の政策論争は、ケインズ以前の19世紀に逆戻りしてしまった。 要因は、欲望と知性の堕落だ。 こうして社会は退歩していくのだ。 我々は、その生き証人として有意義な人生を送ることになるだろう。
・一昨年までは、経済政策論争といえば、金融政策だった。量的緩和を中心とした非伝統的な金融政策の是非が焦点だった。 しかし昨年から流れが変わり、金融政策から財政政策へ、焦点はシフトしてきた。 【参考記事】日銀は死んだ 
・これには、いくつかの背景がある。 第一に、FED(米連邦準備理事会)がプラス金利に戻ったことで、0から1への変化ではなく、1から2への変化になったから、金融政策の意味が小さくなったこと。  第二に、失業率は低下しほぼボトムで、景気循環としても順調であり、いわゆる単純な景気対策、需要刺激の必要性はなくなったこと。 第三に、それにもかかわらず、金融危機(リーマンショック)以前の状態に経済が戻らず、長期の成長力が落ちてきたこと。
▽原因は供給か需要か
・第四に、これが長期停滞論を喚起したこと。一方にはイノベーションが従来の産業革命ほど進んでいないからサプライサイドの長期の供給力が落ちてきたとするノースウェスタン大学のロバート・ゴードン教授のような考え方があり、他方には、ローレンス・サマーズ元米財務長官に代表されるように有効需要の不足により長期の供給力もスパイラル的に落ちてきて成長力の低下をもたらしているという考え方がある。そして今は、サマーズの長期停滞論が論壇を席巻している。
・これらの要因により、金融政策から財政政策へ議論の中心はシフトした。 【参考記事】アベノミクス論争は無駄である 
・金融市場即ちインフレーションから、実体経済における長期成長力という実物へ問題が移ったのであれば、政策手段もマネーから実物の財政出動に移るのも自然だ。 その一方で、依然としてインフレにならないことの問題が、金融政策論争の残り火としてくすぶっており、それに火をつけたのが、夏の恒例のジャクソンホール(米ワイオミング州)で行われた中央銀行関係者の集まりにおけるノーベル賞経済学者クリストファー・シムズの講演であった。これが、FTPL(Fiscal Theory of Price Level:物価水準の財政理論)のブーム再来に火をつけた。
・浜田宏一内閣官房参与が目から鱗、新しい波と書いているが、これはなんら新しい議論ではなく、1990年代半ばに登場してちょっとしたブームになったものであり、ここにきて再び脚光を浴びているだけだ。 議論の中身と言うよりは、金融緩和を狂ったようにやってもインフレにならない、という現在の状況が再ブームを招いたのであり、困り果てた金融政策論者が飛びついただけである。
・理論自体は、愚かであろうが愚かでなかろうが、学者の世界の流行に乗るかどうか、時流に乗るかどうか、という問題だから、実害はない。学者には遊ばせておけばよいのである。 問題なのは政治である。政治がこれに飛びついたのが最悪なのだ。
・偉大なサマーズの長期停滞論から、公共事業を中心とした財政出動の推奨と、インフレを起こす最終手段としての財政赤字(シムズは日本については消費税引き上げをインフレが2%になるまでしないことを提案している、いわばインフレーションターゲット減税だ)の二つを、政治が都合よく利用しようとしている。 サマーズもシムズも浜田氏も政治利用されているだけなのだ。
・政治的には、金融政策はしゃぶりつくした。もう使いすぎて、シャブ中ならぬ金融緩和中毒に市場と経済はなってしまったから、次は、財政をしゃぶり尽くす、それだけのことなのだ。
・学者たちがしゃぶりつくされるのは自業自得だが、経済自体、社会が政治にしゃぶられ、中毒になり、安楽死へ向かうのは放っては置けない。 なんとしても全力で止めなくてはならない。 これからのシリーズで、これらの誤りを議論し、経済の現状、あるべき政策、経済のために真に必要な政策について議論していきたい。
http://www.newsweekjapan.jp/obata/2017/01/post-12_1.php

2回目:1月23日付け「「物価水準の財政理論」は正しいが不適切 <話題の「物価水準の財政理論」が様々に解釈されて出回っているが、どれも間違っている。今の日本であるべき経済政策の本質に斬り込むシリーズ第2回>」
・第1回「経済政策論争の退歩」(ノーベル賞経済学者でプリンストン大学教授のクリストファー・シムズの「物価水準の財政理論」が難しいとか、結論が革命的で、目からうろこだとか、ケインズの再来だとか、言っている専門家もいるが、現実の経済政策へのメッセージという点に関して言えば、それらはすべて間違っている。
・少なくともミスリードだ。 現実へのメッセージは当たり前のことを言っているに過ぎない。 そして、それはとても基本的で、重要なことだ。 
・第一に、物価水準は金融政策だけでは決まらず、金融政策と財政政策の両方により決定される。
・第二に、金利引き下げが不可能な場合には、金融緩和による物価の上昇の影響は弱まるから、物価上昇のためには、とりわけ財政政策、財政赤字の拡大が必要である。
・第三に、量的緩和政策またはバランスシートポリシーと呼ばれる、中央銀行が保有リスク資産を大幅に拡大することによって物価水準を上昇させようとする政策は、将来の物価上昇つまり名目金利上昇により、損失が非常に大きくなり、この財政的な影響を考慮する必要があるが、財政面を考慮に入れない緩和拡大策はリスクが非常に大きい。そして、これは現実に十分に認識されていない。
・第四に、そうなると、効果がなく、リスクが大きい量的緩和政策をやみくもに拡大するのは最も不適切な政策であり、量的緩和は止めて、財政赤字の拡大が長期に継続すると人々が信じるような政策を取ることが望ましい。
・第五に、財政赤字の拡大が長期に継続する、と人々が信じることが重要であり、そうでないと、将来の増税を予期して、現在の消費の拡大は起きない。
・これが、物価水準の財政理論の、現在の日本などへの政策的メッセージだ。 これに対し、賛否両論ある、と思われているが、それも誤りだ。 このメッセージは、誤りであり得ようがない。 絶対的に正しい。理論的には誰も否定できないはずだ。
▽量的緩和は残したまま
・かつてリフレ派と呼ばれた人々(それも専門家と一般に思われている人々)が、日本では、この理論の強力な支持者になっているようだが、彼らが明らかに間違っているのは(おそらく確信犯的に)、量的緩和は縮小すべき、というところを排除していることだ。
・物価はマネタリーな現象ではなかった、と反省するところまではいいが、それなら、量的緩和は止めなければならず、縮小が必要なはずだ。そこには、触れず、異次元の金融緩和は残したまま、次は財政赤字拡大、というところだけ取る。 【参考記事】浜田宏一内閣官房参与に「金融政策の誤り」を認めさせたがる困った人たち  【参考記事】経済政策論争の退歩
・これはリフレ派とはポピュリストだ、というだけのことだ、という事実を踏まえれば何の驚きもないが、しかし、現実経済への副作用としては甚大な被害を引き起こす。
・しかし、一方、物価水準の財政理論を非現実的だ、と非難する人々は、その多くは、財務省派と一般にみなされているが、実のところは、財務省派というよりは、アンチポピュリズムということであって、実は財務省の本質もアンチポピュリズムであるから、財務省的だ、という認識は正しいのだが、財務省派ではない。 それはいいとして、彼らの議論も間違っている。
▽理論を悪用する者たち
・物価水準の財政理論は、理論的にも、そして現実的にもどこも間違っていない。 現状でインフレを起こすためには、金融緩和では無理で、金融緩和は資産インフレだけを起こすのであり、資産バブルは起こせるが、実体経済の実物財のインフレを起こすことはできない。これは、実物への支出が増えなくてはインフレにならない。金利効果が現状の金融政策にない以上、それは政策で言えば、財政政策で行うしかない。そして、財政赤字の拡大が持続的であると信じられない場合には、消費の拡大が起きないのも当然だ。
・ポピュリストを論破するのは重要であるが、ポピュリストたちが利用している理論を攻撃するのは間違っている。批判は、ポピュリストたち、しかも、学者だったりエコノミストだったり、さらには政権のブレーンだったり、人々および首相などに知的に正しいことを言っていると思われている人々が、確信犯的に、政権やメディア、人々に受けたいからという理由で、理論を利用していることを徹底的に批判すべきなのだ。  【参考記事】トランプおよびその他ポピュリストたちの罪を深くしているのは誰か 
・物価水準の財政理論自体に誤りはない。メッセージも正しい。 しかし、物価水準の財政理論を主張する人々、例えば、シムズの提言する政策を実行すべきではない。 なぜなら、彼らの理論とメッセージは正しいが、正しいからこそ、経済を悪くするからだ。 経済を明らかに悪くする政策である以上、それを実行してはいけない。
・彼らの理論が間違っているのは、理論やロジックそのものではない。 その議論の前提が間違っているのだ。 経済理論の現実社会への提言の誤りは、すべてここからくる。 間違っているのは、すべてのコストを払ってでも物価を上げる、そのためには財政赤字拡大しかない、と言っているところだ。
・すべてのコストを払って、なぜ物価を上げる必要があるのか。 ケインズが穴を掘って、それを埋めてもやる必要がある、と言ったのは、25%の失業率、実質的な失業率は50%を越えており、実際の物価は半分以下に下落するような危機的な状況においては、どんな犠牲を払っても、これをとめる必要があった。そのためには、一見無駄な公共事業でもやったほうがいいのである。だから、役に立つ公共事業を財政赤字を気にせずやれば、経済は必ずよくなったのである。
・現在は、失業はほば解消、実質完全雇用、むしろ人手不足、需要不足ではなく、経済の問題点があるとすれば、長期的な成長力低下、そのためには供給サイドか、需要サイドか、という議論はあるが、需要サイドにあるにしても、すべての犠牲を払って物価を上げる必要があるということはあり得ない。
・名目金利がゼロになってしまい、完全雇用、あるいは中立的な実質金利と言われる望ましい実質金利がたとえマイナスに低下していたとしても(これ自体議論が大きく分かれるところだが)、実質金利をマイナスにするにはインフレにするしかないから、すべての犠牲を払ってインフレにするべきかどうかは自明ではない。
・正確に言えば、すべての犠牲を払うのはほぼ常に間違っているから、実質金利をマイナスにすることによるメリットと、財政赤字が拡大することのデメリットを比較して決めないといけない。 そのためには、中立実質金利がマイナスであるかどうかを議論する必要があるし、そもそもインフレ率が2%というのが最も望ましい水準であるかどうか、現在の経済では確かではなく、また、2%ではなく1%であることのデメリットが、財政赤字の恒久的な拡大のデメリットとどちらが大きいか、比較考量は絶対に必要である。
▽財政支出より減税を
・さらに、マクロだけでなく、ミクロの効率性も重要で、ほとんどのエコノミストは政府の効率性に懐疑的なのだから、財政支出を増やすことは無駄であると考えているはずで、やるなら減税であり、しかし、減税をやるのであれば、どのような減税にすべきか、それが将来の年金不安などをもたらさないようにはどうするか、考える必要がある。
・だから、物価水準の財政理論からのメッセージを現在の経済に、とりわけ日本で実行するのは、間違っており、極めて危険なのである。 ただし、金融緩和よりも財政赤字拡大の方が物価上昇には効果がある、という点は正しく、物価を上げることが重要であれば、量的緩和の縮小が可能であれば、それとバランス可能な範囲で、減税、あるいは増税を先送り、縮小することが正しい、ということになろう。
・さらに、物価を上げることがそこまで重要でない、と考えれば、財政赤字拡大による国債市場の崩壊リスクを犯さずに、増税先送りで、量的緩和を淡々と縮小する、というのが現実的なポリシーミックスであり、実際の日銀はそれに近いところを目指しており、シムズの提案よりは、現在の日銀の政策の方がましであると思われる。
http://www.newsweekjapan.jp/obata/2017/01/post-14.php

3回目:1月25日付け「「物価水準の財政理論」 シムズはハイパーインフレを起こせとは言っていない <注目の「物価水準の財政理論」が現実の政策について示唆していることは何か。提唱者クリストファー・シムズの来日を控えてますます盛り上がる誤った政策論に筆者が物申す。シリーズ第3回>」であるが、長くなり過ぎるので、紹介は省略したい。
http://www.newsweekjapan.jp/obata/2017/01/post-15.php

第三に、肝心のシムズ教授本人が登場する2月10日付けダイヤモンド・オンライン「シムズ教授本人が解説、デフレ脱却の新手法「シムズ理論」 クリストファー・シムズ 米プリンストン大学教授インタビュー」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは教授の回答、+はその中の段落)。
・金融緩和の限界が明らかになった今、安倍政権の経済ブレインである浜田宏一・米イェール大学名誉教授が注目しているのが“シムズ理論”だ。日本は何をすべきか、クリストファー・シムズ・米プリンストン大学教授を直撃した。
Q:日本銀行が2%の物価目標を掲げて「量的質的緩和」を実施してきましたが、継続的な物価上昇は起こっていません。今、何をすべきなのでしょうか。
A:日本は、金融政策と併せて、財政政策を実施していくことこそが必要です。超低金利の状況において、中央銀行は財政拡大のサポートなしに、(量的金融緩和による)資産買い入れを遂行すべきではありません。中央銀行が財政政策の支えを求める際は、債務の大きさを判断の基準とするのではなく、インフレ(物価上昇)を条件とすることが欠かせません。言い換えれば、インフレ目標を達成するために、財政を拡大するということです。
Q:日本銀行が取ってきた量的質的緩和は効かなかったということですか。
A:金利がゼロ近傍になると、量的緩和だけでは、物価に影響を与えることはできないということです。
Q:日本国民にはインフレに対するアレルギーがあり、容易に理解が得られるとは思えません。
A:インフレとは、(預金者から最大の債務者である政府へ実質的に所得を移転させる意味で)税金です。ですから、本来的に人々にとって人気のあるものではありません。政府には国民に対して、政府債務の一部をインフレによって軽減させていく狙いがあるのだと、明確に示す政治的勇敢さが求められます。
+日本はデフレが続き、その影響に苦しめられてきたのですから、むしろ前向きに捉えるべきでしょう。 超低金利下では金利の下げ余地が小さく、金融政策の物価下落に対する効果は限られたものとなります。中央銀行だけでは、物価をコントロールできない可能性が出てきました。
+インフレが加速を始めるのは、財政拡大の動きがあってこそということです。人々が物価の急速な上昇を認識したときに、中央銀行や財務当局は物価過熱の抑制策を取ることが必要です。
・【FTPLとは、物価動向を決める要因として、財政政策を重要視する考え方。政府が将来増税しないと約束し、財政支出を増やしていけば、人々が財政赤字拡大から、将来、インフレが起こると予測し、消費や投資を拡大する。それが物価上昇の圧力となり、インフレが発生して、デフレや低インフレ状態から脱し得ると説く。 財政支出の拡大で政府債務が拡大するが、FTPLではインフレで実質債務を圧縮するという考え方だ。】
▽物価目標実現が見えるまでは消費増税を延期
Q:日本は19年に消費増税の実施を予定していますが、消費増税については延期、凍結、実施のどれが望ましいのでしょうか。
A:日本で19年10月の消費増税の実施はすでに決定ずみとなっています。ただ、当局が過ちを犯したと思う点は、彼らが19年10月という具体的な時期を明文化したことです。なぜなら、財政拡大策と消費増税による財政緊縮策を同時に行うことは矛盾しているからです。人々は「将来に増税が待っている」と思えば、政府が財政支出を拡大しても、消費を拡大しないでしょう。
+もし目標のインフレ水準が達成されるまで「消費増税をしない」と言えば、人々に前向きな影響をもたらせたでしょう。その方針を続ける限り、人々はインフレを受け入れやすくなります。そうすれば彼らはお金を使うようになり、マネーの流れも活性化するに違いありません。
Q:FTPLを政策として実行した場合、成功すると思われますか。
A:それが成功するかどうかは、政策当局者が将来の民間の意識を変えられるかどうかに懸かっています。ただ、非常に難しいことであることは確かです。
Q:仮にインフレが発生した場合、物価上昇率が3%、4%などとターゲットより行き過ぎてしまう危険はないのでしょうか。
A:インフレ対策については、中央銀行も財政当局も経験があり、何をすべきか、知っているはずです。例えば、政策金利の引き上げや財政改革(歳出抑制など)です。 超低金利低インフレからいつまでも脱することができないというのも決していいことではありません。予期しない物価上昇などで急な調整を迫られたときに、打つ手がなくなるからです。
Q:FTPL自体は1990年代からあったにもかかわらず、昨夏の米ジャクソンホール会議で急速に注目を集めました。
A:日本においては、安倍晋三首相の存在が密接に関係しているでしょう。政治的な状況、ということです。 ただ、私の論文に対する強い反響がその他の多くの場所であったことには驚きました。 この理論(FTPL)の詳細な議論は、私の論文に引用したマイケル・ウッドフォード氏(米コロンビア大学教授)の長い論文に収められています。しかし、その内容には極めてテクニカルな議論が多く、マクロ経済の専門家向けに書かれたものでした。
+ジャクソンホールでの講演はランチタイムでした。スライドは使えないし、電源やコードもない状況でテクニカルな論文の説明をしなくてはなりません。私には30分間の講演を言葉だけで行う必要がありました。 そのために私は、何カ月も準備に費やしました。そうして過去に取られた政策を振り返ってみると、低インフレ時代の金融政策の限界を、FTPLから説明できるのではないかと考えました。 こうした取り組みが、インパクトをもたらす結果につながったのだと思います。
・【日本でシムズ教授がにわかに有名になったのは、「アベノミクス」の経済ブレインである浜田宏一・米イェール大学名誉教授(内閣官房参与)が金融緩和の限界を認め、「今後は財政の拡大が必要」とジャクソンホール会議での同教授の論文を紹介したため。浜田名誉教授は、“シムズ理論”を引用し、「金融緩和をしても財政を引き締めれば効果はなくなるため、消費増税は延期すべきだ」と提言している。】
Q:自身の考えが政治的に利用されることをどう感じますか。
A:政策が実行される際に、私の考えが政治家の目的に沿って使われるのであって、それぞれの政治家にとって役立つかどうかは気にすることではありません。 危険は常に、財政による刺激策が政治的なアピールに使われることにあります。私が主張しているのは、将来的な物価動向の行方がどうなるかを考えながら政策プランを策定することです。当局者は私が単純に支出を今すぐ増やせ、と言っているのだと誤解すべきではありません。
Q:ドナルド・トランプ米大統領は、減税やインフラ投資など財政拡大を掲げています。
A:彼の政策では、何が実際に起きるのか、不透明です。(FTPLにのっとったものではなく)ただ、財政赤字を膨らませる政策のように見えます。 しかし、共和党内には、健全財政派の勢力もあり、トランプ氏の政策が全て実行されることにはならないでしょう。
Q:シムズ教授は、財政拡大はインフレターゲットを達成するまでのものであり、放漫財政を容認しているわけではないと言っているのですね。
A:“適度”な財政悪化がインフレを起こすのに必要と言っているだけで、健全財政を放棄してもいいわけではありません。プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化も重要だとは思いますが、デフレ脱却にはインフレターゲットを実現するまでは、財政拡大が有効だと言いたいのです。税収が増加すれば、プライマリーバランスも改善します。
・【記者の目】 財政拡大により消費が増えるか疑問   貨幣数量説に基づくマネタリーベース拡大、物価目標明示によるインフレ期待への働き掛けで物価上昇を狙った量的緩和の効果が表れない現状において、シムズ教授のFTPLは、財政政策でインフレを起こせる可能性を示し、デフレ脱却への処方箋として注目を集めている。
・ただし、日本における実効性については議論が分かれている。FTPLでは、「政府が財政赤字を増やすが、将来、一定程度の物価上昇が起きるまで増税されることはない」ということを国民が信じて、消費や投資を拡大することが前提になっている。 しかし、少子高齢社会の進展で将来の社会保障に不安があれば、インフレ目標達成まで増税しないと政府が宣言しても、消費者の財布のひもはなかなか緩まず、家計の消費拡大にはつながらない公算が大きい。
・日本の現状では、財政拡大によってインフレを引き起こすことができるかというと、疑問が残る。参考にすべき理論だが、処方箋になるかどうかについてはさらなる検証が必要だろう。
http://diamond.jp/articles/-/117435

冒頭の浜田氏の記事は、これまで「インフレ、デフレはマネタリー(貨幣的)な現象」であるとして、異次元緩和の理論的支柱となってきた立場を、かなぐり捨てて、FTPLに転向した際のものである。これだけでは、これまでの主張のどこが間違っていたのか、などといった理論的なものは何ら示されていないが、「気楽でいいかげん」で学者の風上にも置けない人物との印象をさらに深めた。
小幡績氏の解説は、『物価水準の財政理論自体に誤りはない。メッセージも正しい。 しかし、物価水準の財政理論を主張する人々、例えば、シムズの提言する政策を実行すべきではない。 なぜなら、彼らの理論とメッセージは正しいが、正しいからこそ、経済を悪くするからだ。 経済を明らかに悪くする政策である以上、それを実行してはいけない』、『現在は、失業はほば解消、実質完全雇用、むしろ人手不足、需要不足ではなく、経済の問題点があるとすれば、長期的な成長力低下、そのためには供給サイドか、需要サイドか、という議論はあるが、需要サイドにあるにしても、すべての犠牲を払って物価を上げる必要があるということはあり得ない』、との結論は妥当なところだ。
シムズ教授本人のQ&Aによる解説のうち、『インフレ対策については、中央銀行も財政当局も経験があり、何をすべきか、知っているはずです』、としているが、従来の経験が活かせるのであればその通りだが、今後は、すでに膨大なマネーを抱え、長期金利まで水没しているところから、急激な長期金利高騰、財政の破綻、日銀の債務超過転落、海外への資本逃避などが一気に発生するという全く新しい事態が生じるといった重大なリスクを度外視している。【記者の目】は記者なりの遠慮もあるためか、それほど手厳しくはないが、制約のなかで精一杯、批判している。
それにしても、小幡績氏のリスクを冒すよりは、現在程度のデフレであれば、甘受すべきとの考え方が、私には最もフィットするようだ。
タグ:田宏一内閣官房参与が目から鱗、新しい波と書いているが、これはなんら新しい議論ではなく、1990年代半ばに登場してちょっとしたブームになったものであり、ここにきて再び脚光を浴びているだけ 財政拡大により消費が増えるか疑問 長期停滞論を喚起 彼らの理論とメッセージは正しいが、正しいからこそ、経済を悪くするからだ。 経済を明らかに悪くする政策である以上、それを実行してはいけない 財政支出より減税を FTPL(Fiscal Theory of Price Level:物価水準の財政理論) 浜田 宏一 異次元緩和政策 政治的には、金融政策はしゃぶりつくした 昨年から流れが変わり、金融政策から財政政策へ、焦点はシフト 小幡績 政治がこれに飛びついたのが最悪 日銀 JBPRESS ケインズの考えは、世代を越えた消費の選択など一般均衡論の洗練された形に扮してFTPLとして戻ってきたといえよう 政府債務については均衡財政論者より柔軟な見方をする必要がある 金融政策から財政政策へ議論の中心はシフト 「物価水準の財政理論」 シムズはハイパーインフレを起こせとは言っていない <注目の「物価水準の財政理論」が現実の政策について示唆していることは何か。提唱者クリストファー・シムズの来日を控えてますます盛り上がる誤った政策論に筆者が物申す。シリーズ第3回> ダイヤモンド・オンライン シムズ教授本人が解説、デフレ脱却の新手法「シムズ理論」 クリストファー・シムズ 米プリンストン大学教授インタビュー 効果がなく、リスクが大きい量的緩和政策をやみくもに拡大するのは最も不適切な政策であり、量的緩和は止めて、財政赤字の拡大が長期に継続すると人々が信じるような政策を取ることが望ましい このメッセージは、誤りであり得ようがない。 絶対的に正しい。理論的には誰も否定できないはずだ ジャクソンホール会議 【記者の目】 理論を悪用する者たち クリストファー・シムズ 次は、財政をしゃぶり尽くす、それだけのことなのだ 現実経済への副作用としては甚大な被害を引き起こす 現在は、失業はほば解消、実質完全雇用、むしろ人手不足、需要不足ではなく、経済の問題点があるとすれば、長期的な成長力低下、そのためには供給サイドか、需要サイドか、という議論はあるが、需要サイドにあるにしても、すべての犠牲を払って物価を上げる必要があるということはあり得ない 「物価水準の財政理論」は正しいが不適切 <話題の「物価水準の財政理論」が様々に解釈されて出回っているが、どれも間違っている。今の日本であるべき経済政策の本質に斬り込むシリーズ第2回> 物価はマネタリーな現象ではなかった、と反省するところまではいい 量的緩和は止めなければならず、縮小が必要なはず 物価水準は金融政策だけでは決まらず、金融政策と財政政策の両方により決定 インフレ対策については、中央銀行も財政当局も経験があり、何をすべきか、知っているはずです FTPLとは、物価動向を決める要因として、財政政策を重要視する考え方。政府が将来増税しないと約束し、財政支出を増やしていけば、人々が財政赤字拡大から、将来、インフレが起こると予測し、消費や投資を拡大する。それが物価上昇の圧力となり、インフレが発生して、デフレや低インフレ状態から脱し得ると説く (その23)(「物価水準の財政理論」(FTPL)) リフレ派とはポピュリスト 経済自体、社会が政治にしゃぶられ、中毒になり、安楽死へ向かうのは放っては置けない。 なんとしても全力で止めなくてはならない 財政赤字の拡大が長期に継続する、と人々が信じることが重要であり、そうでないと、将来の増税を予期して、現在の消費の拡大は起きない 経済政策論争の退歩 <経済政策はケインズ以前に逆戻りしてしまった。流行りの「物価水準の財政理論」を政治利用する輩に経済を殺させないための方法を探る。シリーズ第1回> 阿修羅が転載 物価水準の財政理論~ケインズ経済学の再来か? 十分に味わう価値のある「新しい皮袋に入った古い酒」 Newsweek日本版 金利引き下げが不可能な場合には、金融緩和による物価の上昇の影響は弱まるから、物価上昇のためには、とりわけ財政政策、財政赤字の拡大が必要 量的緩和政策またはバランスシートポリシーと呼ばれる、中央銀行が保有リスク資産を大幅に拡大することによって物価水準を上昇させようとする政策は、将来の物価上昇つまり名目金利上昇により、損失が非常に大きくなり、この財政的な影響を考慮する必要があるが、財政面を考慮に入れない緩和拡大策はリスクが非常に大きい。そして、これは現実に十分に認識されていない
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