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アベノミクス(その18)「働き方改革」4(焦点が定まらない「働き方改革」は前途多難、「残業規制100時間」で過労死合法化へ進む日本) [経済政策]

アベノミクス(その18)「働き方改革」については、1月17日に取上げた。「働き方改革」の骨格が決まった今日は、 (その18)「働き方改革」4(焦点が定まらない「働き方改革」は前途多難、「残業規制100時間」で過労死合法化へ進む日本) である。

先ずは、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰成氏が3月21日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「焦点が定まらない「働き方改革」は前途多難 安倍首相は「人口動態に全く懸念なし」と明言」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍内閣は現在、成長戦略の重要な柱の一つとして、国民の多くにとり身近なテーマである「働き方改革」に注力している。 ややトリビアめいてしまうが、この「働き方改革」という言葉が全国紙に初めて登場したのは今から13年半ほど前、2003年11月中旬のことである。4道府県(北海道・千葉・大阪・熊本)の女性知事が国に対し、男女共同参画に向けた働き方改革などを提言した時だった。そもそもは、女性の視点から出てきたスローガンだったわけである。
▽元々は「ホワイトカラー・エグゼンプション」がテーマだった
・しかし、その3~4年後の「働き方改革」の議論において焦点になったのは、会社員の一部を労働時間規制から外す「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」を労働基準法の改正で実現させるかどうかだった。今度は企業経営者の側から、ホワイトカラーの労働時間規制はもはや実態に合わなくなっているから改革(法改正)が必要だという主張が展開されたわけである。
・働いた時間の長さではなく、働いたことによる成果の有無・大小で、労働の価値を判断して給料を支払う。この考え方は、ホワイトカラーの場合は合理性がある。なぜなら、ただ単純に時間と比例して残業代を払う場合、仕事を進めるペースをあえて落としてより長い時間働くことによって受け取るお金を増やそうというインセンティブが働いてしまうからである。生産性の高い働き方を実行した人は、より少ない労働時間で従来と同じ給与を受け取ることができる(はずである)。その場合、増えた余暇をさまざまな活動にあてることができ、「ワークライフバランス」改善にもつながってくる。
▽「残業代ゼロ」横行の懸念から、今も導入に至らず
・ただ、上記の方針を貫徹しようとする場合、現実には問題点がいくつもある。たとえば、①「成果」を公平かつ客観的に評価して給与の大小に結びつける仕組みを作ることはどこまで可能か、②制度が悪用されて「残業代ゼロ」が横行してしまう労働者が不利益を被ることにならないか、といった点である。この②のリスクをもっぱら前面に出して、労働組合の側は「ホワイトカラー・エグゼンプション」に強く反対している。
・2014年6月の成長戦略に「成果で評価される働き方改革」が盛り込まれるなど、時間ではなく成果により評価する「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を目指す政府の取り組みは、現在に至るまで続いている。
・この間、2013年には、少子化対策の一環で「働き方改革」が注目された。政府の有識者会議「少子化危機突破タスクフォース」は同年5月の提言で、出生率回復に向けた「3本の矢」として、子育て支援、結婚・妊娠・出産支援に加え、働き方改革を挙げた。これをうけて、政府は6月に「少子化危機突破のための緊急対策」を決定。具体的には、子どもが3歳になるまで育児休暇取得や短時間勤務をしやすくするよう企業に働きかけることなどがうたわれた。
▽そして現在の最大のテーマは、残業時間の法定上限見直し
・そして現在、「働き方改革」の最大のテーマになっているのは、周知の通り、残業時間の法定上限見直しである。政府は年720時間(月平均60時間)を基本的な上限とし、繁忙期は例外として「月100時間未満」まで認める労働基準法改正案を年内に国会に提出して、2019年度にも残業の上限規制を導入する構えである。
・安倍首相は2016年3月25日、第6回一億総活躍国民会議で、「働き方改革」について、次のように発言した。 第一に、長時間労働の是正であります。長時間労働は、仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や女性の活躍を阻む原因となっています。戦後の高度経済成長期以来浸透してきた『睡眠時間が少ないことを自慢し、超多忙なことが生産的だ』といった価値観でありますが、これは段々ですが、そうでもない、生産性もないという雰囲気が、この3年間で大分変わり始めているのではないかと思います。私はまだ若いサラリーマンの頃、こういう価値観があって、8時くらいに帰ろうとするともう帰るの、という雰囲気があったわけですが、企業側に聞いたところ、政府が全体の労働時間の抑制や働き方を変えていくことについて、旗振り役を期待しているかということについて期待している人が90%ということは、皆帰るのだったら帰りたいということに変わり始めている。やっとそういう雰囲気に変わり始めたので、ここは、正に我々が更に背中を押していくことが大切であろうと思います。 (官邸のウェブサイト 2016年3月25日「一億総活躍国民会議」)
・そして、同年6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」には、次のくだりがある。 (長時間労働の是正) 長時間労働は、仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参画を阻む原因となっている。戦後の高度経済成長期以来浸透してきた「睡眠時間が少ないことを自慢し、超多忙なことが生産的だ」といった価値観が、この3年間で変わり始めている。長時間労働の是正は、労働の質を高めることにより、多様なライフスタイルを可能にし、ひいては生産性の向上につながる。今こそ、長時間労働の是正に向けて背中を押していくことが重要である。 (官邸のウェブサイト内PDF資料「働き方改革に関する総理発言・閣議決定」)
▽悪しき慣行の見直しに取り組む首相のメッセージに共感
・「長時間労働が当たり前」「長時間働くのが美徳」「早く帰るのは会社の組織風土の中では異端だ」といった、筆者も見聞きすることがあった日本の悪しき慣行の見直しに取り組もうという安倍首相のメッセージに、筆者は強い共感を覚える(付言すると、日銀の金融緩和への過大な期待など、経済政策の面で意見が異なることが多い筆者の場合、これは珍しいことである)。
・しかし、この「働き方改革」は、前途多難だと言わざるを得ない。 まず、この改革は、視点(主たる狙い)が定まっていない。 すでに述べた経緯などから浮かび上がるように、今回の働き方改革は、①少子化対策および女性の社会進出を推進することに主たる狙いがあるのか、それとも、②社会問題と化している非正規雇用の待遇改善(同一労働同一賃金の実現)が最重要なのか、あるいは、③過労死事件の発生でやはり社会問題となっている長時間労働の是正(残業規制強化)が最大の目玉なのか、それとも、④経営サイドから要望が根強い「ホワイトカラー・エグゼンプション」など賃金制度の抜本見直しが実は最大の主役なのか。
▽生産性が向上しないと、「仕事が回らない」事態も
・さらに、仮に上記③が早期に実行に移される場合、労働者の業務遂行において生産性がにわかに向上しないと、労働時間の制約から半ば強制的に退社させられて、いわゆる「仕事が回らない」事態に陥ってしまうケースも考えられる。これは当面の経済活動にとり、ネガティブとなる可能性が高い。また、エコノミストの間では、残業代の支払い額がマクロで顕著に減少した場合、個人消費に下押し圧力がかかるのではと危ぶむ声もあがっている。
・もう一つ、筆者が危惧しているのは、女性・高齢者の積極活用や「働き方改革」に政府が注力するあまり、日本経済の長期停滞さらには衰退に結びつく可能性が高い人口減・少子高齢化の着実な進行という問題への取り組みがおろそかになってしまわないかという点である。
▽おろそかになる人口減・少子高齢化対策
・安倍首相は2016年9月21日にニューヨークで講演した際に、次のように述べた。 最後に、良いニュースをお伝えして、スピーチを締めくくりたいと思います。私は、日本の人口動態に全く懸念を持っていません。日本では、この3年で生産年齢人口が300万人減少しました。しかし、名目GDPは成長しました。 今を嘆くより、未来を見つめましょう。日本は高齢化しているかもしれません。日本は人口が減少しているかもしれません。しかし、この現状が、我々に改革のインセンティブを与えます。我々は、生産性を高めようとし続けます。ロボットからワイヤレスセンサー、ビッグデータからAIまで、全てのデジタル技術、新しいものを活用しようと思い続けます。ですから日本の人口動態は、逆説的ですが、重荷ではなく、ボーナスなのです。 (官邸のウェブサイト 2016年9月21日「安倍総理と金融関係者との対話」)
・この発言、特に「日本の人口動態に全く懸念を持っていない」というくだりに、筆者はどうしても賛同できない。 「人あっての経済」というのが、筆者の根本的な考えである。労働生産性さえ向上すれば生産年齢人口が減少しても乗り切れるはずだという主張もあるが、では、具体的にどういったタイムスパンで何をどうやれば生産性が上昇するのか。テクノロジー先進国の米国でさえ、労働生産性の伸びの停滞に頭を悩ませているのが現在の状況である。
・人口の高齢化が急速かつ着実に進んでいるため社会のムードが沈滞しがちであり、しかも「外」からサプライサイドに刺激を受けること(海外からの「よそ者」受け入れによる社会経済の活性化)には依然として消極的な日本という国が、目覚ましい生産性の伸びによって人口減・少子高齢化の重しをこの先完全に跳ね返していけるとは、筆者にはどうしても思えない。
▽成長力への期待はかなり薄らいでいる
・2012年12月に「アベノミクス」が開始されてから4年以上の月日が経過した。その間、日本経済全体の中長期的なビューはどう変わったか。 家計の場合、2013年にかけて(マイナス圏の中ながら)いったん急上昇していた経済成長力DI(回答比率「より高い成長が見込める」-「より低い成長しか見込めない」)はその後、ジリ貧とでも言えそうな動きになっている<■図1>。 企業の場合、実質成長率の今後5年間の見通しは2011年度の調査で+1.5%まで上昇したものの、直近の2016年度調査では+1.0%に下がり、2008年度の水準に逆戻りした<■図2>。
・有効求人倍率など雇用関連の数字はきわめて良好だが、これは若年人口減少と過剰供給構造温存の組み合わせの中で起きている現象であり、経済の実力が上向いた兆候だとは、家計や企業は認識していない。人口対策の本格展開が引き続き待たれる。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/031600086/?P=1

次に、健康社会学者の河合薫氏が3月14日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「残業規制100時間」で過労死合法化へ進む日本 いったい、何人の命を奪えば気が済むのか?」を紹介しよう(▽は小見出し、+は段落)。
・全くもってワケがわからない。 意味不明。イミフだ。 これは「日本という病」?あるいは「経営者という病」というべきか。 しかも、感度が低い。なんなんでしょ。この感度の低さ。
・元・電通社員、高橋まつりさんが自殺に追い込まれた際に、 「月当たり残業時間が100時間を超えたくらいで過労死するのは情けない。会社の業務をこなすというより、自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない」と某大学教授がコメントし、世の中の人はいっせいに批判した(当人は、高橋さんの事件が報じられた同じ日に公表された過労死白書に対するコメントだったとしている)。 「過労自殺した女性を『情けない』と吐き捨てた」 「こういう人たちが労災被害者を生み出している」 「死者にむち打つ発言だ」と。
・そのとおり。こういう人たちが「労災被害者」を生み出しているのだ。 というのにどういうわけか、“今”「好きで長時間働いてなぜ悪い」「残業を規制するのはおかしい」という意見があちらこちらに飛びかっている。なるほど。あのときは炎上を恐れて言わなかったけど、「100時間超えたくらいで……そのとおりだよ~」と思った人たちが、かなりの数いたってことだ。
・ええ、そうです。残業規制を巡る問題である。 そもそも「残業の上限を規定して罰則を設ける=働き方改革」ではない。 厚生労働省によれば、 「『働き方改革』は、一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジであり、日本の企業や暮らし方の文化を変えるもの」 とある。
・長時間労働を日本の文化ととらえれば、一種の働き方改革になるのかもしれないけど、私には単なる法律上の問題としか思えない。 36協定を抜け道に残業を青天井にしてしまっている企業に、「言ってもわかんないんだったら、罰則をつけるぞ!」と言ってるだけ。
▽36協定はそもそも青天井ではない
・だいたい、36協定はあたかも「青天井」のように言われているけど、キチンと上限はある。 「1日」「1日を超えて3カ月以内の期間」「1年」のそれぞれについて、延長することができる協定の期間により、延長可能な時間の限度が定められているのだ(労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準<労働省告示第百五十四号>)。 労働時間の延長の限度
・しかしながら、この「基準」はいわゆる行政規則。法律や政令のような法的拘束力を有するものではないため、使用者の「任意の協力によって実現されるもの」(行政手続法32条)。つまり、強制できないという弱点がある。また、労使で特別条項を結んでしまえば、延長も可能。そのため、事実上青天井になってしまうというわけだ。
・それがゆえに 、 「んもう~~!経営者、ちゃんとやってよ~!!」と言ってるだけのこと。 「過労死」が後を絶たず、うつ病患者も増え続けているので、「言ってもわかなんなきゃ、お仕置きするぞ!」と。本来であれば先の表で定められた時間に関して罰則規定を追加すれば済むだけの話なのだ。
・いったいどこから「100時間」なんて数字が出てきたのか?  なぜ、経営者は自分の成功体験だけに頼るのか? なぜ、労働時間と健康、労働時間と生産性に関するエビデンスを全く注視しないのか? なぜ、痛ましい事件のときには口をつぐんでいた人が、ここぞとばかりに「残業規制はおかしい」と反撃するのか?
・前置きが長くなった。というわけで、今回は「残業規制はなぜ、必要なのか?」「なぜ、いいじゃん、好きなだけ働いて~」と言えてしまうのか? について、脳内の“突っ込み隊”と一緒に考えてみようと思う。
・では、現段階で明らかになっている「時間外労働の上限をめぐる労使合意の原案」について。焦点となっているのは経団連が主張する「繁忙期月100時間案」を連合が認めるかどうかだが(3月13日夜、「上限100時間」で合意したとのニュースが流れた)、報道によれば、以下のような内容で調整が進められている。
 +罰則つきの時間外労働の上限については、「月45時間、年間360時間を原則的上限とする」とする
 +繁忙期など特別な事情があれば労使協定の下、年間の上限を「720時間(月平均60時間)」とし、その場合でも、「単月なら月100時間」「2カ月から6カ月間の平均80時間」までは認める
 +36協定を結ぶ際には、健康確保措置や時間外労働の削減に向けた労使の自主的な努力規定を設けることを義務づける
 +上限規制の在り方について、法改正から5年後に再検討することを、労働基準法の付則に明記する
 +退勤から次の勤務開始までに一定の休息時間を設ける勤務間インターバル制度は、普及に向けて事業主に導入の努力義務を課すことを法律などにも明記し、労使双方を含む検討会を立ち上げる
 +過労死対策については、メンタルヘルス対策などに関する新たな政府目標を検討する
 +職場でのパワーハラスメント防止に向けた対策を労使を交えた場で検討する
▽「月100時間」が争点って……
・フ~ッ……。経団連も経団連なら、連合も連合である……。 一方で、日本労働弁護団は2月28日緊急声明を発表(「時間外労働の上限規制に関する声明」)した。以下にその内容を要約する。 使用者団体が繁忙期に『月100時間』や『2カ月平均80時間』までの時間外労働を認めるよう要求し続けることは、多発する長時間労働による過労死・過労自死への反省を欠き、使用者としての責任を放棄するものであり、厳しく批判されなければならない。
・労働者の命と健康を守り、生活と仕事の調和を図ることができるような労働時間の上限規制がなされるべきである。
・裁判所も、月95時間分の時間外労働を義務付ける定額時間外手当の合意の効力が争われた事件(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件)で、「労基法36条の規定を無意味にし、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するおそれさえある」としている。 また、月83時間分のみなし残業手当の効力が争われた別の事件(穂波事件)では「月83時間の残業は、36協定で定める労働時間上限の月45時間の2倍近い長時間であり、公序良俗に違反するといわざるを得ず」との判決もある。
・日本医療労働組合連合会(医労連)も、 「夜勤交代制労働など業務は過重である。政府案はまさに過労死を容認するもので、断じて容認できない。月60時間が過労死ラインと主張する」との談話を発表。 医労連は昨年の3月7日にも記者会見を開き、「(労働時間の)上限規制と、(日勤と夜勤の)インターバル規制を法制化してもらいたい」と訴えた。背景には本コラムでも以前取り上げたとおり(「灰色の“自己啓発残業”へ誘う「過剰適応」の罠)、医師や看護師の過重労働の問題がある。
・残業規制の議論では一切考慮されていないが、同じ労働時間でも夜勤と日勤とでは身体にかかる負担は全く異なる。 例えば、くも膜下出血で死亡し、2008年に労災認定を受けた看護師の場合、発症前6カ月の平均時間外労働時間は「過労死ライン」と呼ばれる月80時間より短い約52時間だった。しかし、月5回ほどの夜勤の日は20時間近くの連続勤務。つまり、夜勤勤務の負担を考慮しての判決といえる。
・私たちは「労働者」である前に、「人」という霊長類の動物である。1日24時間で成り立つ睡眠や心身のリズムを壊す夜勤は、身体の負担になって当たり前だ。
・つい先日も、ハーバード大学などの共同研究グループが「看護師」の夜勤が心身に与える影響結果を発表した。この調査は、約7万5000人分というサンプル数の多さに加え、1988年から2010年まで22年間も縦断的に行われたもので、信頼性が極めて高い。 分析の結果、1988年から2010年の22年間に、対象者のうち約1万4000人が亡くなり、うち約3000人は心臓や血管の病気、約5400人はがんだった。
・交代制夜勤のある人は、全く夜勤の無い人よりも死亡率が11%高く、中でも夜勤を6~14年続けている女性は、心臓や血管の病気による死亡率が19%、15年以上続けている人は23%も高かったのである。 また、この調査では「肺がんによる死亡率が25%」高かったものの、がんと交代制夜勤との関連は確認されなかったと報告している(2007年にWHOの国際がん研究機関は「交代勤務は おそらく発がん性がある」と認定している)。
▽「そんなに簡単に人は死なないっつーの」
・今回の“働き方改革”で、睡眠を確保するためのインターバル規制が、「事業者に努力義務を課すよう法律に明記する」方向で議論が進んでいることは実に残念。罰則付きの法制度にするくらい重要な案件なのに、なぜ財界の声は重んじるのに、医療の現場の声は軽視するのか。 しかも「100時間」の攻防に終始するとは。情けない限りだ。これは「私たち」の健康であり、「私たち」の医療費の増加にもつながる足下の問題だからこそ、科学的な分析結果に基づいて議論すべき。
・国内外を含め多くの研究で長時間労働および深夜勤務と、脳血管疾患若しくは心臓疾患とは強く関連していることが明確に認められている(Liu Y, Tanaka H, The Fukuoka Heart Study Group (2002) ‵‵Overtime Work, Insufficient Sleep, and Risk of Non-fatal Acute Myocardial Infarction in Japanese Men" Occup Environ Med, 59, 447-451.)。
+睡眠不足は心身に直接的な影響を及ぼす。その境界線は「睡眠時間6時間未満」 「週労働60時間以上、睡眠6時間以上」群の心筋梗塞のリスクは1.4倍であるのに対し、 「週労働60時間未満、睡眠6時間未満」群では2.2倍  「週労働60時間以上、睡眠6時間未満」群では4.8倍
+1日の労働時間が11時間以上・睡眠時間6時間未満は超危険  「11時間超」労働群は「7~10時間」群に比べ、脳・心臓疾患を発症するリスクが2.7倍  心筋梗塞の男性患者195人と健康な男性331人を比較した調査では、「11時間超」群の方が心筋梗塞になるリスクが2.9倍。
・月に20日の労働に100時間の残業と仮定したら、1日5時間の残業になる。 定時勤務が9時~17時と仮定した場合、5時間の残業だと退社は22時。通勤に片道1時間。電車の待ち合わせや着替えの時間を加味し、6時間睡眠を確保すると下記のようになる。(図はリンク先)
・「自由時間」はたった1時間。そう、たった1時間だ。 人は疲れを取るために寝る。だが、寝て、食べれば疲れが取れるほど単純ではない。テレビをボーッとみたり、雑誌をパラパラめくったり、運動したり、話をしたり、心の休養も必要不可欠。おまけに「疲れは借金」と同じだ。
・完全に回復しないでいると、借金のごとく利子がついて、肩凝り、頭痛、腰痛、気分の落ち込みといった症状に代表される蓄積疲労になる。蓄積疲労はうつなどのメンタル不全につながる極めてゆゆしき状態である。 それを防ぐには「休む権利」が必要であり、「休ませる法律」を整備する必要がある。
・だというのに……、過労死基準を上回る「100時間」が争点になっているとは、いったいどこまで日本の経営者たちも連合も、残酷なんだ。 「エビデンスだのなんだのいうけど、所詮、確率の問題でしょ?そんなに簡単に人は死なないっつーの。だって、オレたちちゃ~んとやってきたも~~ん!」  こう考えているのだ。
▽やっかいなことに、ハイスペックな人ほど「元気」
・過労死遺族たちの「過労死をなくそう」という活動がやっと実を結び、2014年に「過労死等防止対策推進法」が制定された。同法により義務づけられた「過労死白書」が昨年初めて発行され、奇しくもその日、高橋まつりさんの事件が報じられ、先の「過労死情けない」発言が炎上した。
・そしていま「100時間を認めないと企業が立ちゆかない。現実的でない規制は足かせになる」とのたまうとは。本当にわけがわからない。過労死のリスクを容認する国っていったいナニ?
▽何人の命を奪えば気が済むのか?
・だいたいハイスペックな人たちが「自分」を基準に考えるから、わけがわからなくなるのだよ。ハイスペックな人が経営者になり、経営者には「自由に決められる権利」があるのでハイスペックな結論になる。 しかも、やっかいなのは、ハイスペックな人ほど「元気」なこと。
・ホワイト・ホール・スタディー。 「トップは長生きする」という、興味深い結果が得たこの研究は、英ロンドン大学がストレスと死亡率の関係を解明する目的で1967年から継続して行っている疫学研究である。 このときの被験者は、ロンドンの官庁街で働く約2万8000人の公務員。官庁街がホワイト・ホールと呼ばれることから、ホワイト・ホール・スタディーと称された。
・「なぜ、トップは長生きなのか?」 そのメカニズムを解明するために1985年に始まったのが、冠状動脈疾患疫学の医師でもあるロンドン大学のM.マーモット教授らの第2期ホワイト・ホール・スタディー。そこで明らかになった一つのカギが、「自分の人生・暮らしを自分でコントロールすることができるかどうか」。つまり、トップが長生きする謎は、彼らが持つ「裁量権にある」としたのである。
・仕事の要求度が高くても裁量権があると、「要求度=モチベーション」となる。だが、裁量権のない状態では、要求度がそのままストレスとなり、心身の不調につながっていく。 裁量権には「休む自由」も含まれるので、休みを入れたり、集中したり、と自分の都合でギアチェンジできる。だが、その自由がない一般の社員にはムリ。だいたいトップや上司の都合で、コロコロ要求を変えられる一般の社員に、残業の自由度もなにもあったもんじゃない。
・おまけに「週50時間以上働くと労働生産性が下がり、63時間以上働くとむしろ仕事の成果が減る」というエビデンスを得たディスカッションペーパーも存在する(The Productivity of Working Hours .John Pencavel)。
・それでも100時間。100時間にこだわる。なぜ「100時間」にこだわるのか、そのエビデンスを示して欲しいくらいだ。 企業の生産性が低下したときの、アリバイ作りか?なんて疑念すら抱きたくなる。
・ハイスペックなスーパー仕事人が、60代で心筋梗塞などで突然死すると、 「好きな仕事していたのだから……。本人は幸せだったでしょ」 と家族は悲しみに折り合いをつけようとすることがある。 私の知人もそうだった。まだ、62歳。子どもが就職し、お嬢さんが結婚し、これからというときに突然亡くなった。直前までバリバリ仕事をしていたのに、亡くなった。やはり心筋梗塞だった。
・「長時間労働は命を削る悪しき働き方」「休息をとったほうが効率があがる」との常識が社会に浸透していたら、家庭人としての幸せが待っていたはずなのに。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/031000095/?P=1

上野氏の記事で、「ホワイトカラー・エグゼンプション」が最近話題にならなくなった理由が分かった。 『「働き方改革」は、前途多難だと言わざるを得ない。 まず、この改革は、視点(主たる狙い)が定まっていない』、というのはその通りだ。安倍首相の『2016年9月21日にニューヨークで講演』、は強がりにしか聞こえず、聴衆も苦笑いをしたことだろう。
河合氏の指摘は、いつも通り、遠慮のかけらもなく、手厳しい。 『そもそも「残業の上限を規定して罰則を設ける=働き方改革」ではない。 ・・・。(残業規制を巡る問題は)私には単なる法律上の問題としか思えない』
というのは、正論だ。何でも「働き方改革」に含めるやり方には、大いに違和感を感じる。 『「月100時間」が争点って……。経団連も経団連なら、連合も連合である……』、はその通りだ。いつものことながら、マスコミももっと突っ込んだ報道をして欲しいものだ。 『ハーバード大学などの共同研究グループが「看護師」の夜勤が心身に与える影響結果を発表』、さらに『国内外を含め多くの研究で長時間労働および深夜勤務と、脳血管疾患若しくは心臓疾患とは強く関連していることが明確に認められている』、の内容は驚くほど明確な関係を示している。 『やっかいなことに、ハイスペックな人ほど「元気」』、というのは、元の職場を振り返るとうなずかされる。『ホワイト・ホール・スタディー』、もなるほどと納得させられる。我が国の長時間労働は、根深い問題であるだけに、通り一遍の「働き方改革」で片付くようなものではない、ことだけは確かだ。
タグ:仕事の要求度が高くても裁量権があると、「要求度=モチベーション」となる。だが、裁量権のない状態では、要求度がそのままストレスとなり、心身の不調につながっていく 「トップは長生きする」という、興味深い結果 ホワイト・ホール・スタディー やっかいなことに、ハイスペックな人ほど「元気」 国内外を含め多くの研究で長時間労働および深夜勤務と、脳血管疾患若しくは心臓疾患とは強く関連していることが明確に認められている なぜ財界の声は重んじるのに、医療の現場の声は軽視するのか 交代制夜勤のある人は、全く夜勤の無い人よりも死亡率が11%高く、中でも夜勤を6~14年続けている女性は、心臓や血管の病気による死亡率が19%、15年以上続けている人は23%も高かったのである ハーバード大学などの共同研究グループが「看護師」の夜勤が心身に与える影響結果を発表した 同じ労働時間でも夜勤と日勤とでは身体にかかる負担は全く異なる ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件)で、「労基法36条の規定を無意味にし、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するおそれさえある」としている 月83時間の残業は、36協定で定める労働時間上限の月45時間の2倍近い長時間であり、公序良俗に違反するといわざるを得ず」との判決 穂波事件 経団連も経団連なら、連合も連合である 「月100時間」が争点って…… 本来であれば先の表で定められた時間に関して罰則規定を追加すれば済むだけの話なのだ 36協定はそもそも青天井ではない 36協定を抜け道に残業を青天井にしてしまっている企業に、「言ってもわかんないんだったら、罰則をつけるぞ!」と言ってるだけ 厚生労働省によれば、 「『働き方改革』は、一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジであり、日本の企業や暮らし方の文化を変えるもの」 そもそも「残業の上限を規定して罰則を設ける=働き方改革」ではない 会社の業務をこなすというより、自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない」と某大学教授がコメント 高橋まつりさんが自殺に追い込まれた 「「残業規制100時間」で過労死合法化へ進む日本 いったい、何人の命を奪えば気が済むのか?」 河合薫 成長力への期待はかなり薄らいでいる 「日本の人口動態に全く懸念を持っていない」というくだりに、筆者はどうしても賛同できない おろそかになる人口減・少子高齢化対策 生産性が向上しないと、「仕事が回らない」事態も この改革は、視点(主たる狙い)が定まっていない 日本の悪しき慣行の見直しに取り組もうという 「長時間労働が当たり前」「長時間働くのが美徳」「早く帰るのは会社の組織風土の中では異端だ」 ニッポン一億総活躍プラン 一億総活躍国民会議 現在の最大のテーマは、残業時間の法定上限見直し 「残業代ゼロ」横行の懸念から、今も導入に至らず 元々は「ホワイトカラー・エグゼンプション」がテーマだった そもそもは、女性の視点から出てきたスローガンだった 男女共同参画 働き方改革 安倍内閣 成長戦略の重要な柱の一つとして 焦点が定まらない「働き方改革」は前途多難 安倍首相は「人口動態に全く懸念なし」と明言 日経ビジネスオンライン 上野泰成 (その18)「働き方改革」4(焦点が定まらない「働き方改革」は前途多難、「残業規制100時間」で過労死合法化へ進む日本) アベノミクス
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