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英国EU離脱問題(その11)(高まる英国の分裂リスク) [世界情勢]

英国EU離脱問題については、2月28日に取上げた。3月29日に英国がEUに正式に離脱通告をしたことを踏まえた今日は、(その11)(高まる英国の分裂リスク) である。

先ずは、元銀行のマーケットエコノミストで信州大学教授の真壁昭夫氏が3月28日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「スコットランドがEU残留を望み独立すれば連合王国は空中分解する」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽スコットランドの独立気運高まる 連合王国は崩壊の危機!?
・英国のメイ首相は3月29日にEU基本条約(リスボン条約)の第50条を発動し、正式にEU離脱(ブレグジット)の通告を行うことを決めた。この通告をもって、英国とEUは離脱後の関係を決める2年間の交渉に入る。
・離脱後の英国とEUが新条約を締結するとなれば、それに関する交渉は複雑になるだろう。また、新条約発効のためには、EU各国の議会承認が必要となる可能性が高い。議会承認などのための時間を考慮すると、ブレグジットの交渉期間は正味2年かからないことになるだろう。短期間のうちにかなり厳しい交渉を行うことは避けられない。
・今後、どのようにブレグジット交渉が進展するかはかなり不透明だ。英国はEUの単一市場へのアクセスを放棄し、代わりに厳密な国境管理を優先する考えを示した。この影響は大きい。 すでに大手の金融機関は、現在、ロンドンにある欧州拠点を大陸に移すことを真剣に検討し始めた。またEUが離脱後の英国との貿易に関税をかけるなら、多くの企業が英国から離れるだろう。それは英国経済に無視できない影響を与える。
・さらに英国にとって重要なのは、ブレグジットはイングランド、スコットランド、ウエールズ、北アイルランドからなる“連合王国”の崩壊につながる可能性もはらんでいる点だ。 すでにスコットランドのスタージョン行政府首相は、2019年までに住民投票を実施し、英国からの独立を問う方針を表明した。
・前回、2014年9月のスコットランドの国民投票では独立は否決されたが、EU離脱は単一市場へのアクセス喪失という経済損失をスコットランドにもたらす。前回の住民投票には有権者の85%が投票に参加した。英国への反抗心は強く、それがスコットランドの独立を目指す原動力になっている。ブレグジットをきっかけに、スコットランド世論が連合王国からの独立に傾き、投票結果が覆る展開も考えられる。それが今後の国際社会にどういった影響を与えるか、大局的な見方が重要だ。
▽イングランドに支配されてきた連合王国の歴史
・英国の国旗は“ユニオンジャック”と呼ばれる。この呼び方は、英国の国旗の中にイングランド、スコットランド、そしてアイルランドの国旗が組み合わされていることを示している。 連合王国とは呼ばれているものの、歴史的にスコットランドと北アイルランド、ウエールズは英国からの独立意識が強い。それは英国=イングランドの支配力が強かったことの裏返しだ。1707年にイングランド王国に統合されてグレートブリテン連合王国が成立したことに関して、スコットランドの住民の中には自分たちの国がイングランドに侵略され併合されたと考える人もいる。こうした民意がスコットランドの自治権獲得につながった。
・1999年、ブレア政権時の英国政府は、スコットランドの独立機運をなだめるために権限を委譲した。この決定に基づき、スコットランド議会と自治政府が創設された。そして、スコットランド議会には憲法、外交などを除く広範な分野で直接の立法権(一次立法権)が認められた。その行政を自治政府が担っている。
・ただ、英国のEU離脱は、あくまでも、イングランドの主導により決定され、実際の交渉が進められる。スコットランドはEU離脱に反対したが、連合王国の決定権は英国政府と議会にある。スコットランドの自治権でそれを覆すことはできない。この状況に不満を感じるスコットランド人は多い。
・実際、ブレグジット交渉は困難なプロセスになるだろう。英国のメイ首相はEU単一市場からの完全撤退を離脱の方針に掲げつつ、時間的猶予を確保しながら交渉を進めようとしている。そうした英国の交渉姿勢に対して、EUも相当に厳しい姿勢で臨むと考えられる。
・先行き不透明な状況と、自治回復を重視してきた歴史を重ね合わせると、ブレグジット交渉の進展次第でスコットランドの独立機運は、今後、一段と盛り上がる可能性はある。メイ首相がそうした動きを制することはそれほど容易なことではないだろう。
▽スコットランド、北アイルランドがEU残留を選ぶ理由
・2014年の住民投票で英国からの独立が否決されたのは、スコットランド人の多くが英国との経済的な関係を重視したからだといわれている。それは、スコットランドと英国の2ヵ国間の経済的な関係以上に、英国のEU加盟から得られるメリットが大きかったからだ。
・スコットランドの経済は北海油田から得られる石油と、金融関連分野に支えられている。経済状況のすそ野を広げていくためには、海外企業の進出を受け入れ、EU向けの輸出などを増やしていくことが必要だ。英国とともに孤立の道を歩むより、税負担や人々の流れを考えるとEUに残留する方がメリットは多い。
・同じことが北アイルランドにもいえる。北アイルランドの隣国であるアイルランドでは法人税率を12.5%とEU内でも低い水準に設定し、グーグルやアップルなど多くの多国籍企業の進出を受け入れてきた。 その結果、首都ダブリンには多くの国の企業が拠点を構えている。リーマンショック後、財政危機に陥った局面もあったがアイルランド経済の回復は欧州各国に比べて早い。これはEUに加盟し、ヒト・モノ・カネの自由な移動を重視した結果だ。こうした経緯を踏まえると、北アイルランドが連合王国から離れてEU残留を重視するのは、現実的な発想といえる。
・昨年6月の英国国民投票以降、アイルランドと北アイルランドの統一を目指す考えも増えている。国民投票でEU離脱が決定されたことを受けて、北アイルランドのシン・フェイン党(カトリック系民族主義政党)は統一に向けた議論を進めるとの考えを表明した。
・最近、北アイルランドの議会選でシン・フェイン党が議席を伸ばした。これを受けて、共同自治が行き詰まり、英国の直接統治に逆戻りする可能性も高まっている。北アイルランドでもイングランドへの反感が強いことを考えると、ブレグジット交渉が視野に入る中でアイルランド統一に向けた動きは加速しやすい。このように、連合王国は崩壊の危機に瀕している。
▽無視できない連合王国崩壊の影響
・英国の国民投票で残留派が過半数を占めたスコットランド、北アイルランドに加え、EU離脱に賛成したウェールズでも地域政党が独立運動を加速させる動きが出ている。実際にスコットランドが独立を問う住民投票を実施すれば、他の地域にも影響は波及するだろう。
・今後、連合王国が崩れる可能性も排除できない。連合王国が崩れることは、今ある英国の国の形が変わることを意味する。大局的に考えると、この動きは米英を中心とするアングロサクソン型の政治・経済運営の影響力低下につながる可能性がある。
・まず、EU離脱によって英国は世界最大の政治・経済の共同体から切り離され、その発言力は低下する。それに加えて連合王国が崩壊すると、国際社会における英国の存在感は大きく低下するはずだ。そのリスクを避けるためメイ首相は米国にすり寄ろうとしている。
・米国では、異色のトランプ大統領の自国第一主義がさまざまな軋轢を生んでいる。この自国第一の考えは更に強くなり、米国が国際社会の中で孤立する恐れもある。その結果、欧州の中でも長い民主主義の歴史を持つ英国、世界の基軸国家としての役割を担ってきた米国の地位は低下し、アングロサクソンによる政治・経済の影響力が弱まるだろう。
・これは、世界の政治・経済を多極化に向かわせる。これまでのアングロサクソン支配に代わって、ドイツ、中国が台頭し政治・経済のさまざまな場面で発言力を増す可能性がある。米国から離れて中国に近づく国が増え、世界の勢力分布、パワーバランスが大きく変化するかもしれない。
・そうした情勢下で、わが国はこれまで以上に自国の立場を明確にし、多国間の経済連携などの是は是、保護主義などの非は非のスタンスをはっきりと示すことが必要だ。その上で主体的かつ能動的に行動し、アジア新興国などとの関係を強化することが欠かせない。
・逆に考えれば、先行き不透明感が高まる状況は、わが国が自らの意志で行動する大きなきっかけになるかもしれない。それができるかどうかが、不透明かつ不確実さの増す国際情勢の中で、わが国が存在感を示すことにつながるはずだ。
http://diamond.jp/articles/-/122619

次に、3月31日付け日経ビジネスオンライン「EU離脱交渉以上に深刻、英国内の分裂リスク」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・離脱に向けたカウントダウンが、ついに始まった。 3月29日、英国はEU(欧州連合)に対して正式に離脱を通知した。同日から原則2年の交渉期間を経て、英国は44年にわたって加盟してきたEUから離脱する。 この日午後1時過ぎ、ベルギーのブリュッセルで、英国のティム・バロー駐EU大使が、ドナルド・トゥスクEU大統領の元に向かった。同氏が手にする黒革のカバンには、前日にテリーザ・メイ英首相がサインした、離脱する旨を明記した6ページの書簡が入っている。
・バローEU大使の執務室がある建物からトゥスクEU大統領が居るEU本部までの距離は約200メートル。その途中には、EUの原点となったローマ条約の締結(1957年)から60年を記念する垂れ幕が掲げられている。  バロー大使は200メートルの道のりを、車で向かった。そして、1時25分ころ、トゥスクEU大統領に書簡を手渡した。この瞬間、リスボン条約50条が正式に発動された。
・「9カ月経ち、(ようやく)英国が送ってきた」  トゥスクEU大統領はこの直後、書簡を受け取ったことを自身のツイッターで写真と共に発信した。トゥスク大統領は、午後2時過ぎに記者会見を開き、「決してハッピーな日ではないが、これを機にEUの結束をより深め、ダメージを最小限にしたい」と述べた。3月31日までに英国を除くEU加盟27カ国に対して、基本的な交渉のガイドラインを示すことも明らかにした。
・EU加盟27カ国の首脳は3月25日に、欧州統合60年を記念する式典を開き、改めて結束を確認した。既に、英国との交渉に向けたスケジュールも固めている。まず3月31日と4月19日に、EU27カ国の事務スタッフが今後の交渉方針をすり合わせる。  その後、4月27日に大臣級の会合を開催。4月29日に開くEU27カ国の首脳会合で、交渉に向けた方針の最終承認を得る。交渉はEU側の責任者であるミシェル・バルニエ元仏外相に委ねられる。英国とEUが具体的な交渉のテーブルに付くのは、5月以降と見られている。
・バルニエ氏も、英国が離脱を通知した後、「我々は交渉の準備ができている」とツイッターで発信した。 英国とEUの間には、既に難題が山積している。3月15日の記事「英メイ首相のEU離脱通告は秒読み段階に」で報じた通り、EUは交渉に入る前に、約600億ユーロ(約7兆2600億円)の「手切れ金」の支払いを求めているほか、英国に在留するEU市民の権利を保証すると明確によう要求している。バルニエ氏は、「これらの問題の解決が、交渉開始の前提となる」と明言。
・一方の英国は、手切れ金について支払いを拒否する意向だ。EU市民の権利についても、明確な方針を明らかにしていない。むしろ、これらの点も離脱交渉に含めることで、難航が予想される貿易などの交渉材料にしようとする考えが透けて見える。期限とされる2年で交渉がまとまると見る関係者は少ない。
・バロー駐EU大使がトゥスクEU大統領に書簡を手渡したのとほぼ同時刻、メイ首相は英議会で演説し、「EUとは新しく、特別で深いパートナーシップを求める」と述べた。同時に、「EUとの交渉でベストの回答を得るために、英国民が一丸となって結束しなければならない」とも訴えた。
・「ただし、メイ首相の演説とは裏腹に、EUとの交渉に向けた英国国内の分裂が深刻な状況になっている。  離脱を通知する4日前の3月25日。  ロンドン都心部では、英国のEU離脱に反対する大規模なデモ行進に、数万人が参加した。参加者の中には、英元副首相のニック・クレッグ氏や、トニー・ブレア首相(当時)の報道官を務めたアラスター・キャンベル氏などの顔もあった。クレッグ元副首相は「メイ首相は英国経済を危機に陥れようとしている」と英国政府を改めて批難した。
・「離脱を支持した人々も、それがいかに愚かな考えだったかを認識し始めている。英国がEUに戻るために、残留派は結束しなければならない」。マンチェスターから参加した30代の若者は、こう語った。「EUと共に繁栄したいと考える人間が、英国には多くいることを示したい」と、ロンドン近郊から参加した20代の女性は言う。英国がEU離脱に向かう中で、その将来を憂慮する声は根強い。
▽スコットランドは再び住民投票を求める
・2014年に英国からの独立を目指したスコットランドも、再び揺れている。 「2度目の住民投票を実施したい」。スコットランド議会は3月28日、英国からの離脱の可否を問う住民投票の実施を英国議会と交渉する法案を、賛成多数で可決した。これは、スコットランド民族党のニコラ・スタージョン党首が3月13日に行なった演説を受けて提案されたものだ。同氏は、独立を巡る住民投票を2018年の秋から2019年の秋に向けて実施したいと表明した。
・メイ首相は、スコットランドの独立について、「今はその時ではない。スコットランドも含め、英国全体にとって最良の離脱条件を得るために団結すべきだ」と述べ、再実施に否定的な考えを示している。3月27日にはスコットランドを訪れ、スタージョン党首に連合王国の結束を訴えたが、分裂の火種は広がるばかりだ。
・連合王国を形成する北アイルランドでも、反英国政府の動きが広がっている。3月4日に実施された北アイルランド議会選挙では、英国政府による統治を支持する民主統一党(DUP)が1921年以来、初めて過半数を割り込んだ。 一方で、アイルランドとの統一を求めるシン・フェイン党が躍進し、DUPとの議席差を1に縮めた。シン・フェイン党は、統一を巡る住民投票をすると主張している。北アイルランドでも、連合王国である英国に残留するのか、アイルランドと一体化するのかという、帰属問題が再び表面化する可能性がある。
・さらに、EU離脱を受け、ウェールズでも英連合王国からの独立を目指す動きが活発化するなど遠心力が高まっている。メイ首相にとって、EU離脱交渉と並行して、国内の求心力をどう高めるかも大きな課題になる。
▽ロンドンから続々移転する企業
・英国政府には、企業がロンドンから逃避するのを阻止する方策も大きな課題としてのしかかる。 「英国政府がEU単一市場へのアクセスを保障しない以上、ここに拠点を置き続けるのはリスクが高い」。現在、英国に欧州の営業拠点を置く日本メーカーの担当者は言う。 同社は現在、スイスのチューリッヒ、オランダのアムステルダム、ドイツのフランクフルトなどを候補として選定を進めているという。日立製作所や日産自動車などは離脱後も残留する意向を示しているが、日本企業のロンドン離れは始まっている。
・既に、金融機関では、米ゴールドマンサックス、スイスのUBS、英HSBC、などが拠点の一部をEU加盟国に移転する計画を進めている。大和証券グループ本社がフランクフルトなどへの移転を検討していることも報道された。人材の募集も急激に減っている。人材会社のモーガン・マッキンリーによると、2017年2月の金融業界の求人は、前年同月比で17%下落。1月と比べると、23%下落した。
・ドイツ商工会議所のエリック・シュバイツァー会頭は、在英ドイツ企業の1割が投資を引き上げ、拠点も英国外に移転すると指摘した。 ポンド安の恩恵を受けてきた景気にも、副作用が見え始めている。石油価格の上昇に伴って、パソコンやタブレット端末の価格が上昇。食料価格も上がっている。政府統計局(ONS)が3月21日に発表した2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.3%上昇と、2013年9月以来の高水準となった。
・英中央銀行のイングランド銀行は、これまでインフレ率が2%の目標を超過する状況を容認する姿勢を示してきた。しかし、急激な物価上昇が続けば、「実質所得の低下につながり、景気が悪化する可能性がある」(大和総研の菅野泰夫・ロンドンリサーチセンター長)。
・3月22日に起きた、議会での襲撃事件は、英経済を支える観光産業に不安を与えた。今回の事件は、過激派テロ組織の関与は薄いと指摘する向きがあるものの、旅行会社のオンライン予約などを調査しているフォワードキーズのオリビア・ジャガーCEO(最高経営責任者)は、「旅行の予約に今後影響が出てくる可能性がある」と懸念する。
・メイ首相は議会の演説で、「英国は、もはや引き返せないところにまで来た」と語った。交渉が今後どう展開していくかは、誰も分からない。不安を抱えたまま、期限2年のカウントダウンが始まった。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/030900123/033000006/?P=1

予め予想されたこととはいえ、メイ首相が、 『EUの単一市場へのアクセスを放棄し、代わりに厳密な国境管理を優先する』、というハード・ブレクジット路線を選択したことで、スコットランド、北アイルランドなどが連合王国から離脱し、イングランドだけになってしまうリスクが浮上してきた。もっとも、両地域での国民投票には、英国議会の承認というハードルがある筈だ。これをクリアしたことを前提で考えると、北アイルランドの場合は、EUメンバーであるアイルランド共和国への統合すればいいだけなので、手続き的には比較的容易と思われる。しかし、スコットランドの場合は、まず独立した上で、EUの加盟申請することになる。EU内には、スペインのようにカタルーニャ州やバスク州などの独立運動を抱えた国もあり、分離独立した国の加盟申請を認めるかは微妙だ。EU本部があるベルギーも、同様の問題を抱えている。ウェールズについてはイングランドの支配が長いだけに、独立の機運はそれほど強くないと言われているが、スコットランド、北アイルランドが離脱するとなれば、機運が強まる可能性もあろう。
メイ首相は、トランプ大統領との会談時に、英国女王の名代として英国に国賓での招待をしたことで、反対運動が盛り上がるなどのミスもあった。スコットランド、北アイルランドなどの離脱への動きをどのように抑え込んでゆくのか、EUとの交渉と並ぶ難題への手綱さばきに注目したい。
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