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ポピュリズムの台頭(その3)(英メディアのポピュリズム批判は生ぬるい、EUは「極右ポピュリズム」のドミノ倒しは防げたか) [世界情勢]

ポピュリズムの台頭については、1月8日に取上げたが、今日は、(その3)(英メディアのポピュリズム批判は生ぬるい、EUは「極右ポピュリズム」のドミノ倒しは防げたか) である。

先ずは、元英国の香港総督でオックスフォード大学総長のクリス・パッテン氏が3月13日付け東洋経済オンラインに寄稿した「英メディアのポピュリズム批判は生ぬるい トランブと戦い続ける米メディアと雲泥の差」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・筆者はポピュリズムがもてはやされていなかった時代を覚えている。その頃、移民排斥主義はどんな形であれ、政治的に支持はされなかったし、経済面での保護主義を唱える者が選挙で勝つこともなかった。有権者は、移民問題について憂慮している者でさえ、経済と福祉の問題を基準にして投票を行っていた。
・だが現在、政治状況は異なった方向にあるようだ。その最たる例は英国民投票でのEU(欧州連合)離脱派の勝利と、ドナルド・トランプ氏の米大統領当選だ。ポーランドとハンガリーの両国でも、ナショナリストやポピュリストが勢いを増している。
・もちろん、権威主義国家と民主主義国家とでは、ナショナリズムの意味合いは異なっている。中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領は西側同様、国民の支持を集めるのにナショナリズムを利用しているが、民主的な制約を受けず、法の支配を無視することもできている。
▽ロシアや中国とはさすがに違うものの...
・習近平主席は反対勢力を逮捕しており、反プーチン主義者には殺害の憂き目を見ている者がいる。だが、米国の大統領はある程度は憲法や特定の価値観の制約を受けており、反対派を殺すことはできない。トランプ氏はそうした制度を嫌っているかもしれないが、その制約からは逃れられない。 もちろん、トランプ氏が法の支配を逃れようとしていないわけではない。可能な範囲内で、自身に従おうとしない者を解任したほか、執拗な攻撃を通じて反対派の信用を傷つけたり、弱体化させようとしてきた。たとえば、イスラム圏7カ国からの入国を禁止した大統領令の一時差し止めを命じた判事や裁判所を繰り返し批判した。
・トランプ氏はメディアにも宣戦布告した。首席戦略官のスティーブン・バノン氏はメディアを「野党」と呼ぶ。トランプ氏は、政権や政策に関する否定的で批判的な報道はすベて「うそのニュース」で、ジャーナリストは「地球上で最も不誠実な人間の類い」だと主張。トランプ氏支持者は集会で、記者をリンチにかける意志を示すかのように「ロープ、木、ジャーナリスト」と書かれたTシャツを着用している。
・こうしたやり方はトランプ氏だけではない。ポーランドとハンガリーの政府は、メディアによる当局者への取材を制限するなどして、報道の自由を脅かすようになった。権威主義的および準権威主義的な制度の下では、メディアは常に抑圧の対象ではないにしても、当局にとって脅威だとみなされるのだ。
・だが、米国のメディアはトランプ氏に屈していない。実際のところ、ルパート・マードック氏率いるFOXニュースなどを除けば、プレスの多くは自由を支える機関や価値を擁護し続けている。彼らは、健全で機能する民主主義には、知識や真理などを尊重する市民の対話が不可欠だとの信念を持ち続けている。
・ジャーナリストは真実の追求を続ける職務を全うせねばならない。アウシュビッツ強制収容所から生還したイタリアの作家プリーモ・レーヴィ氏が反ファシズムの立場を貫き通したように、今日のジャーナリストは執拗な政治的攻撃を耐え忍ばなければならない。
▽英国メディアの惨状、極まれり
・この点で、英国のジャーナリストは、米国の仲間から多くのことを学ぶ必要がある。国民投票でEU離脱派が勝利して以降、英国のマスコミの大半が時流に流されずに民主主義のために戦い続けてきたかどうかについては、大いに疑問だ。
・一方で、米国のFOXニュースと同様、減ったとはいえ依然として400万部を超える発行部数を持つタブロイド紙は、ポピュリストが振りまく偏見を擁護してきた。敗れたとはいえ投票者の48%もがEU残留を支持した事実は忘れられがちだ。
・英国のポピュリスト寄りメディアは、法の支配を荒らしている。英国政府は正当な法的手続きに沿ってEU離脱を進めるべきだと主張した最高裁判事の一人を「国民の敵」だと非難した。この言葉はトランプ氏自身も最近、米国のメディアを批判する際にツイッターで使った。
・メディアはこうした批判を、市民社会をポピュリズムから守るため努力している証しとして、誇りに思うべきだ。しかし、残念ながら英国では、報道機関が民主主義の健康と活力を支えることを長く怠ってきたため、先行きはあまり明るくはなさそうだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/160598

次に、元日経新聞論説主幹で明治大学 研究・知財戦略機構 国際総合研究所 フェローの岡部 直明氏が
3月22日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「EUは危機打開の第1関門を通過したけれど 「極右ポピュリズム」のドミノ倒しは防げたか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・欧州連合(EU)の行方を左右すると見られていたオランダの下院選は、ウィルダース党首率いる極右ポピュリズム(大衆迎合主義)政党、自由党が伸び悩み、ルッテ首相率いる中道右派の自由民主党が第1党を維持した。
・英国のEU離脱、米国のトランプ大統領の登場で、世界にポピュリズムが蔓延するなかで、EUはともかく危機打開の第1関門は通過した。しかし、反EUの排外主義はEU全域に浸透しており、フランスの大統領選挙はなお予断を許さない。EUが危機打開できるかどうかは、EU自身が大胆な改革に踏み出せるかどうかにかかっている。
▽反面教師になったトランプ流排外主義
・「オランダ国民は誤ったポピュリズムに待ったをかけた」。ルッテ首相はこう勝利宣言をした。自民党は議席を40から33に減らしたが、ともかく反イスラムを鮮明にする極右ポピュリズム政党・自由党の台頭に歯止めをかけたのは、勝利だったと言えるのだろう。英国のEU離脱、トランプ米大統領の誕生に連鎖する形で、オランダで極右ポピュリズム政党が第1党になれば、フランスの極右「国民戦線」を勢いづかせる恐れがあった。それはEUの今後に深刻な打撃を与えかねないところだった。投票率が80%を上回ったのをみても、オランダ国民の間に極右台頭への警戒感が強かったことを示している。
・その背景にあったのは、トランプ米大統領が実践する排外主義をめぐる大混乱だろう。大統領令による移民排斥、難民受け入れ停止など保護主義を超えた排外主義は、米国の分裂を招いただけでなく、国際社会の批判にさらされた。そんななかで、「オランダのトランプ」と言われるウィルダース氏率いる自由党が第1党の座に就く危うさを、オランダ国民は感じていたのだろう。ウィルダース氏をはじめ欧州の極右勢力はトランプ大統領の登場を「次はわれわれの番だ」と大歓迎したが、トランプ流排外主義はオランダ国民にとって「反面教師」になったのである。
▽オランダの選択は時代の流れを変えるか
・では、オランダ国民の選択はポピュリズムの世界的潮流を変えられるだろうか。小さな国ではあるが、先進国のオランダが時代の流れを変えたことはある。冷戦末期の1980年代はじめ、米ソ間の軍拡競争はピークに達していた。旧ソ連の中距離核ミサイルSS20配備に対抗して、米国の核ミサイルが西欧諸国に配備されるなかで、西欧には核危機への不安が高まっていた。西欧に反核運動が広がるなかで、オランダ政府は米核ミサイルの配備延期を決断する。
・それは北大西洋条約機構(NATO)の一員として苦渋の決断だった。当時のルベルス・オランダ首相にインタビューしたが、狭い首相執務室で頭をかきむしる若き首相の姿をいまも思い浮かべる。 NATOの結束を乱す決断に西側で一時批判が高まったが、この小さな国の選択は世界を動かすことになる。米ソ緊張から米ソ・デタント(緊張緩和)へ、そして冷戦の終結へと時代は大きく転換することになる。
・世界に蔓延するポピュリズムに対するオランダの選択もまた時代の流れを変えることになるだろうか。オランダ国民の選択がそれに続く仏独の国政選挙にどんな影響を及ぼすかにかかっている。
▽仏大統領選にどう響くか
・オランダの選挙結果に、仏独を中心に欧州の首脳たちは祝意を表明した。メルケル独首相は「欧州人として協力を続けられるのが楽しみだ」と民主主義の勝利を素直に喜んだ。フランスのオランド大統領は「過激主義に対する明白な勝利だ」と述べた。国政選挙を控えて、極右ポピュリズムへの防波堤になってくれたことを歓迎した。
・最大の焦点は、フランスの大統領選挙である。4月23日に第1回投票、5月7日に決選投票が実施されるが、いまのところ極右・国民戦線のルペン党首が先頭を走り、無所属でリベラル派のマクロン前経済相が追い上げる展開になっている。一方で、当初は有力とみられていた共和党のフィヨン元首相は、家族の不透明な給与問題で苦戦を強いられている。決戦投票では、ルペン氏とマクロン氏の対決が予想されるが、極右大統領の誕生を食い止めるため左派と右派が連携できるかどうかが注目点だ。
・オランダ国民の選択がルペン陣営の足を引っ張るかどうかは別にして、ルペン陣営が隣国の極右政党の台頭という追い風を受けられなくなったのは間違いない。 もっとも、オランダ選挙でウィルダース氏率いる自由党は、第1党になれなかったとはいえ、議席を8から20に伸ばしている。当初の見積もりははずれたものの、議会で影響力を発揮できる地位を確保したともいえる。仏国民戦線のルペン党首は、この極右勢力の伸長に着目している。
・少なくともEU諸国で極右ポピュリズムはなお影響力をもっているとみておくべきだろう。移民問題などでオランダのルッテ首相はウィルダース氏の主張を一部受け入れることによって、第1党の座を維持した面はある。そこに政権に影響を及ぼすポピュリズムの本質がある。
・フランスの大統領選も英国のEU離脱とトランプ流排外主義の影響は大きいとみられる。トップを走るルペン候補が反EU、反ユーロを鮮明にしているだけに、英国のEU離脱交渉の展開は微妙な影響を及ぼすだろう。交渉の難航が避けられないうえに、スコットランドの独立機運など「英国の分裂」を招く事態になれば、仏国民も反EU、反ユーロの極右ポピュリズムを選択しにくくなるはずだ。
・トランプ米政権が排外主義を強め、地球温暖化防止のためのパリ協定を離脱する事態になれば、トランプ大統領を歓迎してきたルペン候補の足を引っ張る可能性もある。
▽メルケル首相は4期目に入れるか
・ドイツでも右派「ドイツのための選択肢」が勢力を拡大している。といっても、ドイツの場合、右派が政権の座に近づく可能性は皆無である。秋の総選挙でEUの盟主といえるメルケル首相が4期目を迎えられるかどうかが焦点である。
・対抗馬と目されるのは連立を組む社会民主党の新党首、シュルツ前欧州議会議長である。ここにきて急速に支持率を高めている。メルケル、シュルツ氏ともに筋金入りのEU主義者だけに、EUを主導する姿勢には変わりはないだろう。シュルツ氏は内政経験がないのがアキレス腱だが、社民党が前に出れば、財政規律より成長戦略という現実路線が期待できるという見方もある。
・しかし、英国のEU離脱とトランプ米大統領の排外主義のもとでEUを運営するには強力なリーダーシップが求められる。メルケル首相4選への期待は高まるだろう。
▽「2速度方式」でEUは再生できるか
・EUは反EUのポピュリズムを乗り越えて統合を進化させられるかが問われている。ユンケルEU委員長は、英国のEU離脱を受けて2025年に向けての「欧州の将来に関する白書」を公表した。そこには統合をどう進化させるか5つのシナリオを提示している。第1は現状維持、第2は単一市場の完成、第3はEU域外の国境警備などに限定・集中、第4は2速度方式(統合を進めるのに熱心な加盟国はどんどん統合を進め、熱心でない国や現状では困難な国はゆっくりで構わないという方式)、第5は連邦主義的統合、である。
・現状維持から「欧州合衆国」までかなり広い視野で統合を推進する姿勢である。EUの究極の目標であるはずの「欧州合衆国」構想を1つのシナリオと位置付けているのは、危機のなかで、EUも現実的選択を模索せざるをえなくなったことを示している。
・この5つのシナリオのうち、ユンケルEU委員長やメルケル独首相はじめEU主要国の首脳が推しているのが2速度方式である。防衛、治安対策、税制などでの統合推進を念頭に置いている。 EUはもともと原加盟国と後発国、ユーロ加盟国と非加盟国、移動の自由を求めるシェンゲン協定加盟国と非加盟国など、2速度方式で運営されてきているが、これをさらに広げ徹底しようというものだ。
・これは現実的選択にみえるが、この構想に後発組の旧東欧圏がはやくも強く反発している。27カ国の結束を維持しながら、統合を進化させられるかどうかが問われる。 とはいえ、EUが崩壊の危機にさらされているとみるのは悲観的すぎる。2度の世界大戦を経て創設され、冷戦終結で進化したこの平和の組織は簡単には崩壊しない。危機にあってこそEUの粘り強さに着目すべきだ。オランダ国民の選択は、そんなEU市民の粘り強さを示したといえる。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/071400054/032000020/?P=1

クリス・パッテン氏の記事で、 『トランプ氏支持者は集会で、記者をリンチにかける意志を示すかのように「ロープ、木、ジャーナリスト」と書かれたTシャツを着用している』、というのは薄気味悪い話だ。もっとも、アメリカのジャーナリストは、『健全で機能する民主主義には、知識や真理などを尊重する市民の対話が不可欠だとの信念を持ち続けている』、というのはさすがだ。 『英国のポピュリスト寄りメディアは、法の支配を荒らしている』、『残念ながら英国では、報道機関が民主主義の健康と活力を支えることを長く怠ってきたため、先行きはあまり明るくはなさそうだ』、としているが、私から見れば、英国のジャーナリズムは日本に比べれば、比較にならないほど健全と思う。パッテン氏の理想が高過ぎるのではなかろうか。
岡部氏が、『反面教師になったトランプ流排外主義』、と指摘しているのは、さもありなんだ。 『西欧に反核運動が広がるなかで、オランダ政府は米核ミサイルの配備延期を決断』、というのは思い出したが、オランダが流れを変える一石を投じたことは確かだ。EU統合進化についての、「2速度方式」は、『後発組の旧東欧圏がはやくも強く反発している』、とはいえ、やはり現実的な解決策なのではなかろうか。ただ、当面は、仏大統領選、ドイツの秋の総選挙などの行方を見守りたい。
タグ:「2速度方式」でEUは再生できるか メルケル首相は4期目に入れるか 移民問題などでオランダのルッテ首相はウィルダース氏の主張を一部受け入れることによって、第1党の座を維持した面はある。そこに政権に影響を及ぼすポピュリズムの本質がある 仏大統領選にどう響くか オランダ政府は米核ミサイルの配備延期を決断 、「オランダのトランプ」と言われるウィルダース氏率いる自由党が第1党の座に就く危うさを、オランダ国民は感じていたのだろう 反面教師になったトランプ流排外主義 EUが危機打開できるかどうかは、EU自身が大胆な改革に踏み出せるかどうかにかかっている EUはともかく危機打開の第1関門は通過 ルッテ首相率いる中道右派の自由民主党が第1党を維持 ウィルダース党首率いる極右ポピュリズム(大衆迎合主義)政党、自由党が伸び悩み オランダの下院選 EUは危機打開の第1関門を通過したけれど 「極右ポピュリズム」のドミノ倒しは防げたか 日経ビジネスオンライン 岡部 直明 残念ながら英国では、報道機関が民主主義の健康と活力を支えることを長く怠ってきたため、先行きはあまり明るくはなさそうだ 英国のポピュリスト寄りメディアは、法の支配を荒らしている タブロイド紙は、ポピュリストが振りまく偏見を擁護 英国メディアの惨状、極まれり プレスの多くは自由を支える機関や価値を擁護し続けている。彼らは、健全で機能する民主主義には、知識や真理などを尊重する市民の対話が不可欠だとの信念を持ち続けている 米国のメディアはトランプ氏に屈していない トランプ氏支持者は集会で、記者をリンチにかける意志を示すかのように「ロープ、木、ジャーナリスト」と書かれたTシャツを着用 トランプ氏は、政権や政策に関する否定的で批判的な報道はすベて「うそのニュース」で、ジャーナリストは「地球上で最も不誠実な人間の類い」だと主張 ・トランプ氏はメディアにも宣戦布告 権威主義国家と民主主義国家とでは、ナショナリズムの意味合いは異なっている ポーランドとハンガリーの両国でも、ナショナリストやポピュリストが勢いを増している ドナルド・トランプ氏の米大統領当選 英国民投票でのEU(欧州連合)離脱派の勝利 ポピュリズムがもてはやされていなかった時代 英メディアのポピュリズム批判は生ぬるい トランブと戦い続ける米メディアと雲泥の差 東洋経済オンライン クリス・パッテン (その3)(英メディアのポピュリズム批判は生ぬるい、EUは「極右ポピュリズム」のドミノ倒しは防げたか) ポピュリズムの台頭
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