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トランプ新大統領(その15)米中会談(米中貿易戦争の激化は秋以降、北京はトランプ政権の“タフネス”を再認識した、トランプ大統領の「大芝居」に習主席は動じず、習近平「ぎこちない笑顔」の裏側) [世界情勢]

トランプ新大統領については、4月9日に取上げたが、今日は、(その15)米中会談(米中貿易戦争の激化は秋以降、北京はトランプ政権の“タフネス”を再認識した、トランプ大統領の「大芝居」に習主席は動じず、習近平「ぎこちない笑顔」の裏側) である。なお、タイトルから「誕生」は今さらなのでカットした。

先ずは、元経産省米州課長で中部大学特任教授の細川昌彦氏が4月10日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「米中貿易戦争の激化は秋以降、日本も巻き添えか トランプ大統領と習主席、共に具体策先送りの「必然」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米中首脳会談では共同声明も出されず、双方の発表内容にも違いがあった。トランプ大統領は国内政策での失点挽回、習主席は国内権力基盤の強化を狙い、具体策の先送りは「必然」。元経産省米州課長の細川昌彦氏(中部大学特任教授)は今秋以降、米中貿易戦争は激化し、日本も巻き込まれるリスクがあると分析する。
・共同声明も出されず、米中双方の発表内容の違いが今回の首脳会談の特徴を物語っている。 中国側発表を見れば、今回は米中の協調を演出して、大国として米国と対等であることを誇示するのが目的であったことが露骨に表れている。今秋予定の5年に一度の共産党大会で、自らの権力基盤を強固なものとしたい習近平主席が、わざわざこのタイミングで訪米を仕掛けた意図はそこにある。
・成果は新しい対話の枠組みを合意したことぐらいで、具体的取引は先送りにして、米国の圧力をかわそうとしている。これは常套手段で、2月の日米首脳会談での経済対話の合意も影響しているようだ。 また、米国に「相互尊重」を認めさせたことは、この概念が核心的利益の尊重を含みうるだけに、東シナ海、南シナ海問題での米国の圧力に弱腰ではなかったことを国内向けにアピールできるポイントだろう。
・他方、米国はどうであろうか。 トランプ政権にとってオバマケアの見直しなど国内政策の失点を外交で挽回して稼ぐ、いいチャンスであった。協調が最優先目標の中国相手に、米国は決裂させても強硬姿勢が国内的には支持されるというのは、明らかに交渉ポジションが強い。
・問題は政権内部だ。幹部人事が進んでいない結果、体制が整わず、対中スタンスも定まらない。強硬派と穏健派の綱引きもあって、政権内の力学も流動的だ。結果的に具体策にまで詰められず、立ち入れない。  具体策に立ち入らない中国、他方で立ち入れない米国。 結果は具体的合意がなく、具体策は先送りになって当然だった。
▽貿易不均衡是正、中国は秋まで米国とは事を構えない
・その中で米国がこの強い交渉ポジションを活かして唯一、明確に得点したのが、貿易不均衡是正の100日計画の策定だ。中国側の発表には一切これが出てこないので、米国が中国にねじ込んだのは明らかだ。  内容は、短期間に貿易不均衡を是正する具体的措置を求めるというものだ。中国としてみれば、今秋までは米国と事を構えず、なだめる作戦だろう。なだめる手法は1980年代の日本を参考にしている。当時米国から貿易不均衡是正の圧力を受けて日本が繰り出したのが、輸出自主規制、輸入拡大、現地生産の拡大の3点セットだった。
・米国としても今秋までの交渉ポジションの強いうちに、取れるものは取っておこうという算段だ。 中国は経済のパイが大きいこと、そして国有企業もあって、経済活動を国家がコントロールすることはお手の物であることを考えると、当時の日本と比較にならないくらい、やりやすいだろう。ただし、国内的に、米国に譲歩したとみられない工夫も必要になってくる。
▽米中貿易戦争の激化に日本も巻き込まれかねない
・むしろ問題なのは、日本への影響だ。 近々予定されている日米経済対話で、日本にも貿易不均衡是正の対策を要求してくる可能性が出てきた。かつて指摘したように、米国が「均衡のとれた経済関係」という、いわば結果主義を標榜していること自体が問題だが、中国はあっさりこれを認めてしまったことになる。
・日本の場合、対米貿易黒字はかつてのような規模ではないものの、中国のように国家が経済活動を直接的にコントロールできる国ではない。そして効果がないことは過去の経験が実証している。日本は難しい対応を迫られそうだ。
・また今秋の党大会を終えて以降、米中の貿易戦争が激化することが予想される。中国が対外的に強硬路線を採りやすく、米国は来年の中間選挙に向けてアピールできるものが欲しくて強硬に出る。しかし、米国は80年代のような一方的措置をちらつかせているものの、当時の日本が相手の時とはまるで事情が違うことは要注意だ。
・中国は安全保障で米国に依存しているわけでもなく、巨大な中国市場というレバレッジを持っている。米国への報復措置も航空機など様々有効な手立てを繰り出すことができる。 あり得るシナリオとして、米国はアンチダンピングを頻繁に活用する事態になるのではないだろうか。
・いずれにしても、日本が中国の対米経済問題に巻き込まれるリスクが大きいだけに注意が必要だ。 米国から見れば、中国と日本を同列に並べて攻めていく構図ではない。そのため、日本としては、米国と連携して中国が抱える問題に対処していく構図に持ち込めるかどうかが、来るべき日米経済対話での戦略のポイントとなる。
▽米中で食い違う北朝鮮問題の「時間軸」
・協調の演出と引き換えに中国が重い宿題を負わされた、もう一つの問題が北朝鮮問題だ。 北朝鮮問題については、まず米中の間で時間軸が違うことがポイントだ。 米国にとっては、北朝鮮による米国本土を射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発が迫る中、これを阻止するのが当面の差し迫った最大目標だ。事態は緊迫しており、時間との勝負である。
・他方、中国にとっての北朝鮮問題は、できれば触りたくない問題で、今秋の共産党大会までは国内からの批判を恐れてなかなか思い切った手を打てない。この時期、人民解放軍、とりわけ東北部の陸軍に不満を持たせないことは、権力基盤の安定化の上で大事だ。 来月予定の韓国大統領選も大きく影響する。反米、対北融和の大統領が選出される可能性もあるからだ。
・中国としては米国を揺さぶるうえでも、そういう事態をじっくり待ちたい。逆に米国はそうならないうちに中国を具体的行動に追い込んでいきたい。また、反米、対北融和の韓国大統領が誕生すれば、米国は北朝鮮への軍事行動の前提になる諜報活動を韓国に大きく依存していることから、影響が出てくる恐れもある。そういう綱引きが米中間で行われている。 今回の米国によるシリア空爆および米国の単独行動も辞さずの姿勢は、中国に対する強烈な圧力になっているようだ。さらに米国は中国に対して波状攻撃で圧力をかけてこよう。
▽日本は「平和ボケ」の状況から一刻も早く抜け出すべき
・こうした米中の駆け引きの中で、日本はどうするべきか。 日本としては短期的には、米国の言う「あらゆるオプション」への備えに怠りないようにすべきだろう。ミサイル防衛の強化に一刻の猶予も許されない。北朝鮮が日本射程の弾道ミサイルを100発近く保有しているという現実を直視して、平和ボケから脱するべきだ。
・中長期的には、朝鮮半島の将来像をどう描くかという、本質的な問題に米中は向き合うことになるだろう。仮に反米的な韓国大統領が誕生した場合、米中それぞれ扱いにくい子供を抱えて、朝鮮半島を統一して非核化、中立化する考えが出てきてもおかしくない。その時もっとも深刻な影響を受けるのが日本である。米中のグランドデザインが共有されたとき、想定外ということにならないようにしたいものだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/040900656/?P=1

次に、4月10日付け日経ビジネスオンライン「北京はトランプ政権の“タフネス”を再認識した 元NSCアジア上級部長のデニス・ワイルダー氏に聞く」を紹介しよう(――は聞き手の質問、+は段落)。
・トランプ大統領の別荘、「マール・ア・ラゴ」で4月6、7日に開催されていた米中首脳会談が終了した。米中の貿易不均衡や北朝鮮の核開発問題が争点だったが、シリア・アサド政権が化学兵器を使用した報復措置としてミサイル攻撃を命令、首脳会談の最中にミサイル攻撃が敢行されるという異例の展開になった。今回の米中首脳会談をどう見たか、専門家に聞いた。(ニューヨーク支局、篠原匡)
――米中首脳会談が終了した。今回の会談に当たって、それぞれが獲得を目指した目標は何だったと思うか。
デニス・ワイルダー氏(以下、ワイルダー):ティラーソン国務長官が語ったように、米中には過去40年の関係があり、現在は次の40年の関係を確立する時期だ。今回の首脳会談の目的は米中関係における新たな“パラメーター(変数)”をセットすることにあった。 もちろん、それぞれの国にも思惑があった。トランプ大統領は習近平国家主席に対して、自分がこれまでの大統領とは異なり、中国にタフだということを示したいと思っていた。一方の習近平国家主席も米国の新大統領と上手く関係を構築できるというところを示したかった。習近平国家主席のその目標は、達成することができたのではないだろうか。
――トランプ大統領は目的を達することができたか。
ワイルダー: トランプ大統領は果断で断固としたリーダーということを、米国が世界で最も力強く重要な国だということを示した。ミサイル攻撃がその後押しになったのは確かだ。習近平国家主席は(シリアへのミサイル攻撃という)トランプ大統領の大胆なアクションで少し影が薄くなったと感じたかもしれない。 中国はトランプ大統領が世間の注目を集めるために、あるいは有権者の支持を得るために、大げさなことを言いたがるという傾向を理解している。同様に、中国は(義理の息子の)クシュナ―上級顧問や(長女の)イバンカ氏と緊密な関係を築いており、大統領と直接のチャネルを得たと考えている。
+一方で、習近平国家主席は首脳会談の間、トランプ大統領のタフネスも学んだ。 中国は会談前に、北朝鮮に対する米国の単独行動について大統領がどれだけ深刻に考えているのか、知りたいと思っていただろう。だが、ティラーソン国務長官は首脳会談の後も単独行動を辞さない姿勢を繰り返している。しかも、トランプ大統領は首脳会談の最中にミサイル攻撃を命じた。ミサイル攻撃に対して、習近平国家主席がネガティブな反応をするというリスクもあったが、トランプ大統領はそのリスクを取った。彼は中国が考慮しなければならない米国のグローバル・パワーと適用範囲を明確に示した。中国は単独行動の脅威をより深刻に捉えるようになると思う。
▽米国の最大の成果は「貿易不均衡是正のための100日計画」
――トランプ政権は決して与しやすくない、と。
ワイルダー: ミサイル攻撃の後、北京がトランプ大統領との交渉をイージーだと考えることはないと思う。他方、トランプ大統領と彼のファミリーはマール・ア・ラゴに習近平国家主席を招待したことで、中国のリーダーに偉大なるリスペクトを示した。中国は恐らく、トランプ政権が強くタフだと認識している。同時に、トランプ大統領の発言を注意深く、真剣に考えなければならないと感じているだろう。断固とした行動を取る超大国のリーダーということを改めて認識したと思うよ。
――北朝鮮の核開発についてはどうか。
ワイルダー: 両国が互いの見方を表明したとは思うが、何かの合意を得たということはないと思う。新たに構築される安全保障にかかわる対話メカニズムが北朝鮮問題を前に進める上で重要になるだろう。
――北朝鮮の核開発問題と並び、貿易不均衡の是正も焦点の一つだった。
ワイルダー: 今回の最大の成果は恐らくそこだ。新たな包括的な経済対話のメカニズムは失敗しつつある米中戦略・経済対話をリセットすることにつながる。貿易不均衡是正のための100日計画がアナウンスされたことで、両国のリーダーはこの問題を前進させる方法を考えなければならなくなった。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/012700108/040900019/?P=1

第三に、丸紅(中国)有限公司・経済調査チーム総監の鈴木 貴元氏が4月10日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「トランプ大統領の「大芝居」に習主席は動じず 安全保障の不一致、経済協力で穴埋めどこまで?」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・4月6、7日の米中首脳会談では、開催前からトランプ米大統領は貿易赤字問題や北朝鮮問題などを通じて、習近平主席に対して様々な「大芝居」を打ってきた。だが、習主席は大きな土産を持参することはなかった。その背景を、丸紅中国・経済調査チーム総監の鈴木貴元氏が解説する。
・米国東部時間4月6日午後8時半頃、フロリダのパーム・スプリングス「マール・ア・ラーゴ」でトランプ大統領主催のディナーが終わったとき、トランプ大統領は中国の習近平主席に、米国のトマホーク第一弾がシリアに着弾したことを告げた。 発射命令がエアフォース・ワンで下されたのは、着弾から遡ること4時間半前の午後4時。機中、記者団には、米中首脳会談では北朝鮮情勢と巨額の対中貿易赤字への対応を迫ると述べていたが、その時、実はトランプ大統領はサプライズを抱えていたのだ。
・そして、1時間後の午後5時、トランプ大統領は笑顔と握手で、そして娘イバンカ氏の娘・息子による中国の民謡「茉莉花」の歌唱と「三字经(唐詩)」の朗読で習主席夫妻を迎えた。ディナー中に、「中国から全く何も得ていない」と不満を述べつつも、習主席とは「意気投合し、良好な友好関係を築いた」と語っていた。
▽習近平主席には「お土産」を持参するメリットなかった
・このような経過を経て、シリア攻撃の話を繰り出したわけであるから、トランプ大統領はかなりの芝居を打っていたように思える。4月2日のフィナンシャル・タイムズのインタビューで「中国が解決しなければ、我々がする」と、北朝鮮情勢について中国に圧力をかけていたこともあり、習近平主席としては、米国の武力行使への本気度とともに、ある種の戸惑いや不信感を感じたかもしれない。
・一方、トランプ政権は上層部もスタッフもまだ指名が終わっておらず、外交・通商政策の方針が依然として固まっていない、また、関税政策や為替操作国などの対中対抗策をはじめ、トランプ大統領が選挙時に掲げていた保護主義的・孤立主義的な政策は実現する可能性が低下しているため、習近平主席はそもそも大きなお土産を持ってくる必要も、中国の従来のスタンスを変更して米国にすり寄る態度をみせる必要もないと考えられていた。
・米中関係に関する中国内の論調は、以下のようなものだった。
 (1)米国と中国の経済は補完関係にあり、対立は互い利益がない。米国の輸出において、大豆の56%、ボーイング機の26%、自動車の16%、半導体の15%が中国向けであり、北米自由貿易協定(NAFTA)以外の地域で最も拡大が速い国である。直接投資においても、両国で年間170億ドルもの投資が実施されている。よって、協力こそが米中関係の在り方である 
 (2)中国は、自由貿易体制を支持しており、米国こそが現在の体制を否定している。中国は改革開放路線を変えていない(米国からはサービス部門の開放と、知的財産侵害・サイバーセキュリティー問題の改善が求められているが)
 (3)中国は一帯一路や二国間・多国間の自由貿易協定FTAを進めており、トランプ大統領に対する世界的な懸念に対して、中国は現在の自由貿易体制を支えている(実際、3月には環太平洋経済連携協定(TPP)参加国のオーストラリアやニュージーランドを李克強総理が訪問。ノーベル賞の問題で2014年以来、関係が悪化していたノルウェーとも関係を正常化している
▽「米中対立」回避は大きな成果だが…
・中国外交部と米国ホワイトハウスによると、今回の会談の成果は目立ったものはない。しかし、(1)米中関係を改善させることや、パートナーとしての協力を進めること、(2)トランプ大統領が年内に中国を訪問することや、密接な関係を保持すること、(3)「外交安全対話、経済対話、法執行とサイバーセキュリティーの対話、社会と人文対話」の4つの対話を新しく設立すること、(4)投資協力協定(BIT)に向けた交渉を進めることや、両国間の貿易・投資を進めること、インフラ建設やエネルギー領域での協力を進めることなどで、方向性の一致を確認している。
・具体的な成果と言えないかもしれないが、オバマ政権からトランプ政権に代わるにあたって最も懸念されることであった、両国間の対話の枠組みの維持とその在り方が4つの対話の設立ということで確認された。さらに、その延長線として、トランプ大統領の年内中国訪問が今後の取り組みに上ったことは、北朝鮮の問題でも大きな懸念材料となり得た「米中対立」を避けることができたという意味で大きな成果であった。
・一方、現在の重大な国際問題(シリアへの攻撃)や地域の問題(北朝鮮、南シナ海と考えられる)では一致をみることができなかった。習近平主席は「敏感な問題は適切に処理されるべき」と述べている。 米国のシリア攻撃については、中国は化学兵器の使用についてはっきりと反対の立場を表明しているが、ロシアのパートナーとなっていることが影響しているとみられる。また北朝鮮については、中国も石炭輸入停止など厳しい措置をとっているが、中国自身の安全保障に影響を及ぼす軍事行動による解決を受け入れることはないようだ。
・安全保障における不一致の大きさが拡大している中、経済協力がその穴をいつまで埋め合わせられるのか。現状、両国間の難しさは強まる方向にある。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/040900655/?P=1

第四に、中国問題に詳しいジャーナリストの福島 香織氏が4月12日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「米中首脳会談、習近平「ぎこちない笑顔」の裏側 トランプ“はったり”攻勢の中、「新型大国関係」を確保」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・先週、習近平が米国フロリダ州パームビーチのトランプの別荘マールアラゴに招かれトランプと会談した。  米中首脳会談というと、習近平が国家主席になって3カ月目の2013年6月に同じくカリフォルニア州のパームスプリングスのオバマの別荘で行われた会談を思い出す。このとき、習近平は笑顔をほとんど見せぬ横柄な態度を貫き、しかも元CIA職員のスノーデンに米NSAによる国民の秘密監視計画「PRISM計画」の存在を暴露させ、米国側の中国のサイバー攻撃批判や人権問題批判を封じ込める“お土産”までつけた。おかげで、もともと親中派であったと見られていたオバマの態度はその後、180度転換、アジアリバランス政策に変わり、中国への包囲網を強めていくことになった。言ってみれば、このときの会談は、習近平が先に“はったり”をかましたわけだ。結果は、中国自身にとってプラスであったかどうかはさておき。 さて今回の米中首脳会談は、どのような意義、成果があったのだろう。
▽オバマ会談とは立場が逆に
・まず、会談の中味自体は大したものではなかったように思われる。 トランプが大統領になって3カ月も経たない時期での習近平の直接対面であり、その場での双方のパフォーマンス自体が重要な目的であったといえよう。習近平にとっては、さんざん中国を挑発してきたトランプの真意を測るのが第一目的であり、その次が米中の「新型大国関係」を印象づけることが狙いであった。これは秋の党大会に向けて、習近平の権力闘争や国内世論形成にも影響がある。
・だがオバマ会談とはまったく立場が逆になり、先に“はったり”をかましたのはトランプのほうで、しかもはったりは一発ではなかった。会談の始まる前から主導権を握ったのはトランプであり、それは会談後まで続いた。 “はったり”の一発目は、当然、会談前にトランプがフィナンシャルタイムズのインタビューで明らかにした、米国の北朝鮮に対する武力攻撃をにおわせる単独制裁の可能性への言及である。二発目はもはや、“はったり”ではなく、本気の恫喝、シリアへのミサイル攻撃だ。
▽北朝鮮、シリア、台湾、貿易戦争…
・会談中、習近平は、オバマに見せた横柄な態度は控え、“ぎこちない笑顔”を浮かべて対応したが、さすがシリアへの爆撃を行われたことへは、狼狽を隠せなかったようで、シリア攻撃にあいまいに「理解」を示して晩餐会はそそくさと切り上げて部屋に戻って対応を協議したもようだという。習近平が帰国したあと、中国の公式メディアは我に返ったのか、ようやくシリア攻撃について米国に批判的な報道を始めた。
・中国はISとは対決姿勢を示すが、アサド政権とは親密な関係にある。アサド政権が化学兵器を使用したことに対しての制裁として、習近平との会談に合わせて巡航ミサイル59発を発射したことは当然、習近平にしてみれば、メンツをつぶされたと感じただろうし、なにより、北朝鮮に対する先制攻撃が、口先だけのはったりではないというメッセージをきっちり中国に伝えることができただろう。
・だが、この米中会談が中国にとって悪いものであったか、というと実はそうでもないのではないだろうか。  トランプが大統領に就任して以来、中国に対して行った駆け引きを振り返ってみよう。
・最初に切った最大の切り札は、一中政策の変更をにおわせる台湾カードだった。ついで、中国からの輸入品に高額関税をかけ、為替操作国認定するという貿易戦争カード。中国は貿易戦争については、米国からの輸入農産物などの報復の高関税をかけるなど対抗手段もあれば、妥協の用意もあったが、台湾問題の揺さぶりをかけられたときには、非常に狼狽した。米国が本気で台湾と同盟関係を結び中国に対抗するようなことにでもなれば、つまり中台統一の可能性が完全に失われる事態になれば、おそらく習近平が失脚するどころか共産党政権の執政の正当性や権威が完全に失われ、体制が解体しかねない話だ。
・このため、楊潔篪や王毅、崔天凱ら外交官はあらゆる手を尽くして、トランプ政権の翻意を促す外交攻勢に出た。そのかいもあってか、2月になって、トランプは習近平との電話会談で、この台湾カードを引っ込め、一中政策の堅持を表明。中国もほっとした様子で、外交勝利だと喧伝した。だが、台湾カードを引っ込める代わりにトランプが求めてきたのは、北朝鮮に対する制裁強化、あるいは金正恩排除への協力である。
▽IS・シリアを優先、中国はそのあと
・3月の米国務長官ティラーソン訪中のおりには、さらに強く北朝鮮制裁に関する米国への協力を求める代わりに、トランプ政権は中国に対して「新型大国関係」を認めるという大サービスをした。ティラーソンは習近平と会談し、新型大国関係という言葉こそ使わなかったが、「衝突せず、対抗せず、相互に尊重し、ウィンウィンを求める」というかつて、習近平がオバマに何度も提示した新型大国関係を定義する四句を繰り返した。オバマは習近平の求める新型大国関係をついぞ認めなかったが、トランプはそれを認めたわけだ。
・これは外交官としての経験を持たないティラーソンの失言ではないか、と当初疑われたのだが、のちの報道によれば、ティラーソンは国務省の用意した原稿を読み上げたにすぎないという。トランプ個人が、中国をどのように思っているかはさておき、当面の共和党政権としての方針が、米中新型大国関係を受け入れるものであるとは言えそうだ。
・さらに、トランプはフィナンシャルタイムズのインタビューで、北朝鮮に対する先制攻撃について、中国の協力がなくとも単独で行うことをほのめかせる一方で、関税問題については、4月の習近平訪問時に議題にしないとも語った。また、2月末に日本を含む11カ国の駐中国大使が、中国の人権派弁護士の拷問について第三者機関による調査を求める声明を連名で出したとき、米国大使はこれに参加しなかった。これもトランプ政権として、人権問題などで中国を非難しないというメッセージだろう。
・恫喝とリップサービスや配慮、硬軟織り交ぜて中国に発信したメッセージは、トランプ政権側に中国を揺さぶるカードが多様であること示すと同時に、北朝鮮問題に関して米国への譲歩、妥協があれば、当面は中国と正面から敵対するつもりはない、ということだろう。
・おそらく、トランプ政権の対外政策における優先度は一にIS・シリア問題であり、二に北朝鮮問題であろう。南シナ海問題や台湾問題、貿易問題などを使った中国との正面対決はそのあと、ということになる。 北朝鮮問題については、米国が本気で金正恩排除を目的とした経済・軍事制裁をとる場合、中国が北朝鮮を後方から支援しないことがその成否を決める。そのトランプからのメッセージの最後の仕上げが、シリアへの59発のトマホーク発射であったのだから、習近平の笑顔もぎこちなくなるわけだ。 しかし、それでも、中国国内ではこの会談を米中二強時代の到来を示す会談として、ポジティブに報じた。それは決して強がりばかりだとも言い難い。
▽とりあえず、秋までは
・まず、今回の首脳会談では「米中の非凡な友誼」が国際社会に喧伝された。とりあえず二人は18時間、会談し、三度握手し、二人でマールアラゴの芝生の上を寄り添いながら散歩もした。次に、トランプの年内訪中が約束され、少なくとも年内は、双方が顔を合わすのも気まずいような関係悪化はなさそうである。つまり党大会が終わる前に、台湾や南シナ海問題を持ち出して米中対立の先鋭化は起こらないという感触は得たようである。
・さらに、貿易不均衡是正のための百日計画を策定した。高関税をかけるようなやり方ではなく、中国が積極的に航空機や農産物などのお買い物をたくさんし、米国の貿易赤字を減らしていくということで、これはもともと中国側も妥協策として用意していたことでもある。
・つまり当初、トランプ政権がちらつかせていた対中強硬策はとりあえず棚上げされた。習近平としては新シルクロード構想「一帯一路」の枠組みに米国が参加するよう誘い、経貿、軍事、文化領域において米中が引き続き協力・交流を維持していくというトランプからの言質をとり、米国に逃亡している“汚職政治家・官僚”らの引き渡し問題について、中国側の反腐敗キャンペーンを支持するという姿勢を取り付けたので、とりあえず、秋までは背後の心配をせずに国内の権力闘争に専心できそうだ。
・ただ北朝鮮問題について、どのような譲歩を中国側がしたのか、しなかったのかはよくわかっていない。報道ベースでは、協力の深化で一応の一致をみたが、認識を共有するに至らなかったようだ。韓国に配備されたTHAADミサイルについて、両者の間でどのような応酬があったのか、それを含めて中国側がどのような妥協をしたのか、今回の首脳会談で中味があるとしたらその点だが、そのあたりはこの原稿の締め切り時点ではまだ不明である。
・中国側の党内世論としては、かりに米国が北朝鮮を攻撃しても、中国は再び北朝鮮を支援して軍事行動を行う必要はない、という意見が強い。なので、積極的に米国に協力することはないとしても、北朝鮮とともに米国と戦うという可能性はかなり低いだろう。経済制裁の強化には、譲歩の余地がある。妥協があるとすれば、そのあたりに落とし込むことはできそうだ。
・ただ、半島問題の本質は、北朝鮮の核問題というよりは、米国と中国の軍事プレゼンスの問題であり、半島での軍事プレゼンスが強い方が、アジア・太平洋地域の支配力が強くなるという意味では、米中の覇権争いの問題といえる。中国の本音をいえば、北朝鮮が、米軍が駐留する韓国と中国の間にいてくれる現在の状況は望ましいものであり、金正恩政権に対する中国のコントロール力が以前に比べて衰えたとしても、米軍に排除されて、そのあと、親米政権でもできるようであれば、非常に困る。もちろん、そんなことになるようであればロシアも黙っていない。
▽いずれにしても厄介な二大強国
・中国人民大学国際関係学米国研究センター主任の時殷弘が、ニューヨークタイムズに次のようにコメントしていたのが的を射ているだろう。 「習近平は(訪米前に北朝鮮問題で制裁強化などの)準備をすでにしている。おそらく、北朝鮮に対する圧力を強化していくだろう。しかし、中国としての戦略のボトムラインは堅持する。つまり北朝鮮は存続させる。米国の軍事パワーによる半島統一の潜在的可能性を許すわけにはいかない」
+
・米国が金正恩個人を排除するというだけなら、それに代わる政権が中国との同盟関係を維持する親中政権であるならば、中国としても許容範囲にとどまる。だいたいリビアもそうだったが、米国が軍事介入するとぐちゃぐちゃになることが多いので、ぐちゃぐちゃになってから、国連のメンバーとして介入することもできよう。そのときは、中ロが手を組む可能性が強い。
・シリア攻撃は中国にとってもメンツをつぶされた事件だが、良いことも一点ある。これで米ロ関係が悪化するということだ。おそらく今後、トランプ政権内の親ロ勢力は駆逐され、中国が当初懸念していた、米国がロシアを取り込み中ロ“蜜月”関係に楔をいれて、中国を孤立させるという戦略が立ち消えとなるとしたら、中国としては当面安心できる。
・そう考えるとトランプに挑発され翻弄されつづけた習近平であったが、結果的にはそれなりに満足のいった首脳会談になったのではないか。
・もっとも、習近平政権の本当の敵は、国の外にいるのではなくて内に存在する。この国内の敵、つまり政敵や党の権威に疑いを持ち始めた中産階級や社会不満を募らせる人民を抑えて、国内の団結を図るには、実のところトランプくらいわかりやすい“中国を挑発する敵”の存在はむしろありがたいかもしれない。そして日本にとっては、米中は関係が良すぎても、対立が深まっても、不安と懸念材料が増える一方の、厄介な二大強国なのである。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/041100096/

第一の記事で、 『米国がこの強い交渉ポジションを活かして唯一、明確に得点したのが、貿易不均衡是正の100日計画の策定だ。中国側の発表には一切これが出てこないので、米国が中国にねじ込んだのは明らかだ』、 『米中貿易戦争の激化に日本も巻き込まれかねない』、 『中国は安全保障で米国に依存しているわけでもなく、巨大な中国市場というレバレッジを持っている。米国への報復措置も航空機など様々有効な手立てを繰り出すことができる』、などの指摘からすると、日本は中国がいるからタマ避けに使うという訳にもいかないようだ。
第二の記事でも、『米国の最大の成果は「貿易不均衡是正のための100日計画」』、ということのようだ。
第三の記事にある 『トランプ政権は上層部もスタッフもまだ指名が終わっておらず、外交・通商政策の方針が依然として固まっていない、また、関税政策や為替操作国などの対中対抗策をはじめ、トランプ大統領が選挙時に掲げていた保護主義的・孤立主義的な政策は実現する可能性が低下しているため、習近平主席はそもそも大きなお土産を持ってくる必要も、中国の従来のスタンスを変更して米国にすり寄る態度をみせる必要もないと考えられていた』、 『(1)米国と中国の経済は補完関係にあり、対立は互い利益がない』、などの指摘は確かにその通りだろう。
第四の記事で、『一中政策の変更・・・米国が本気で台湾と同盟関係を結び中国に対抗するようなことにでもなれば、つまり中台統一の可能性が完全に失われる事態になれば、おそらく習近平が失脚するどころか共産党政権の執政の正当性や権威が完全に失われ、体制が解体しかねない話だ』、との指摘は改めてその重大さを再認識させられた。 『貿易不均衡是正のための百日計画を策定した。高関税をかけるようなやり方ではなく、中国が積極的に航空機や農産物などのお買い物をたくさんし、米国の貿易赤字を減らしていくということで、これはもともと中国側も妥協策として用意していたことでもある』、ということであれば、秋以降もさほど米中間の争いは大きくならないのだろう。 『中国人民大学国際関係学米国研究センター主任の時殷弘が、ニューヨークタイムズに次のようにコメントしていたのが的を射ているだろう。 「習近平は(訪米前に北朝鮮問題で制裁強化などの)準備をすでにしている。おそらく、北朝鮮に対する圧力を強化していくだろう。しかし、中国としての戦略のボトムラインは堅持する。つまり北朝鮮は存続させる。米国の軍事パワーによる半島統一の潜在的可能性を許すわけにはいかない」』、とのコメントを信じれば、中国が北朝鮮に対する圧力を強化、米国に手を出す余地を縮小することになるのかも知れない。 『日本にとっては、米中は関係が良すぎても、対立が深まっても、不安と懸念材料が増える一方の、厄介な二大強国なのである』、との指摘は至言だ。
タグ:米中貿易戦争の激化は秋以降、日本も巻き添えか トランプ大統領と習主席、共に具体策先送りの「必然」 日経ビジネスオンライン 細川昌彦 (その15)米中会談(米中貿易戦争の激化は秋以降、北京はトランプ政権の“タフネス”を再認識した、トランプ大統領の「大芝居」に習主席は動じず、習近平「ぎこちない笑顔」の裏側) トランプ新大統領 日本にとっては、米中は関係が良すぎても、対立が深まっても、不安と懸念材料が増える一方の、厄介な二大強国なのである とりあえず、秋までは IS・シリアを優先、中国はそのあと 米国が本気で台湾と同盟関係を結び中国に対抗するようなことにでもなれば、つまり中台統一の可能性が完全に失われる事態になれば、おそらく習近平が失脚するどころか共産党政権の執政の正当性や権威が完全に失われ、体制が解体しかねない話 一中政策の変更をにおわせる台湾カード 北朝鮮、シリア、台湾、貿易戦争 米中首脳会談、習近平「ぎこちない笑顔」の裏側 トランプ“はったり”攻勢の中、「新型大国関係」を確保 福島 香織 現在の重大な国際問題(シリアへの攻撃)や地域の問題(北朝鮮、南シナ海と考えられる)では一致をみることができなかった 「米中対立」回避は大きな成果だが… 米国と中国の経済は補完関係にあり、対立は互い利益がない トランプ政権は上層部もスタッフもまだ指名が終わっておらず、外交・通商政策の方針が依然として固まっていない、また、関税政策や為替操作国などの対中対抗策をはじめ、トランプ大統領が選挙時に掲げていた保護主義的・孤立主義的な政策は実現する可能性が低下しているため、習近平主席はそもそも大きなお土産を持ってくる必要も、中国の従来のスタンスを変更して米国にすり寄る態度をみせる必要もないと考えられていた 習近平主席には「お土産」を持参するメリットなかった トランプ大統領の「大芝居」に習主席は動じず 安全保障の不一致、経済協力で穴埋めどこまで? 鈴木 貴元 米国の最大の成果は「貿易不均衡是正のための100日計画」 トランプ大統領は首脳会談の最中にミサイル攻撃を命じた。ミサイル攻撃に対して、習近平国家主席がネガティブな反応をするというリスクもあったが、トランプ大統領はそのリスクを取った。彼は中国が考慮しなければならない米国のグローバル・パワーと適用範囲を明確に示した。中国は単独行動の脅威をより深刻に捉えるようになると思う 北京はトランプ政権の“タフネス”を再認識した 元NSCアジア上級部長のデニス・ワイルダー氏に聞く 米中で食い違う北朝鮮問題の「時間軸」 中国は安全保障で米国に依存しているわけでもなく、巨大な中国市場というレバレッジを持っている。米国への報復措置も航空機など様々有効な手立てを繰り出すことができる 米中貿易戦争の激化に日本も巻き込まれかねない 貿易不均衡是正の100日計画の策定 貿易不均衡是正、中国は秋まで米国とは事を構えない オバマケアの見直しなど国内政策の失点を外交で挽回して稼ぐ、いいチャンスであった 成果は新しい対話の枠組みを合意したことぐらいで、具体的取引は先送りにして、米国の圧力をかわそうとしている 共同声明も出されず、米中双方の発表内容の違いが 米中首脳会談
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