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東芝不正会計問題(その29)(東芝の経営危機は「第2のココム事件」か、東芝が「紙クズ同然の決算書」を公表した本当の狙い、アメリカの圧力が東芝メモリを転落へと導く理由) [企業経営]

東芝不正会計問題については、3月17日に取上げたが、今日は、(その29)(東芝の経営危機は「第2のココム事件」か、東芝が「紙クズ同然の決算書」を公表した本当の狙い、アメリカの圧力が東芝メモリを転落へと導く理由) である。

先ずは、NHK出身のジャーナリストの池田信夫氏が、3月31日付けJBPressに寄稿した「東芝の経営危機は「第2のココム事件」か 不可解な巨額損失の影に見える軍事技術の競争」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・経営危機に陥っている東芝は3月30日、臨時株主総会を開いて半導体部門の「分社化」を決議した。これに先立って日本時間29日には、東芝の子会社であるアメリカの原子炉メーカー、ウエスチングハウス社(WH)が連邦破産法の適用を申請し、東芝は今年3月期の連結決算で約1兆円の最終損失を計上する見通しとなった。
・東芝の綱川智社長は「これで原子力事業のリスクを遮断して損失が確定した」とコメントしたが、東芝はWHに6500億円の債務保証をしており、今後も電力会社などからの訴訟リスクが残る。最大の謎は、なぜ昨年末から急に東芝の損失がふくらんだのかということである。
▽原子力部門の抱える1兆円の「謎の損失」
・東芝の「不正会計」の疑惑が浮上したのは、2015年2月に証券取引等監視委員会が東芝に立ち入り検査を行ったときだ。これは東芝社員の内部告発を受けたものとされるが、それが何者かは今も分からない。その後、半導体やコンピュータ部門で「バイセル取引」などの疑惑が取り沙汰されたが、決定的な証拠が出ず、検察も起訴しなかった。
・ところが2016年12月末になって「原子力関連の損失は数千億円」という数字が発表され、9月期決算の発表が2度にわたって延期されたまま、1兆円を超える赤字が出ることになった。正式の四半期決算がまだ出てこないので、その内容も真偽も不明だ。これは東証一部上場企業としては異例の状況である。 東芝関係者の話を総合すると、問題の本丸は原子力部門に生じた巨額の偶発債務で、電機製品部門の「不正会計」はそこから派生したものだという。いまだに損失が確定しないのも、原子力部門に未解決の要因があるためと思われる。
・その1つの原因は、いうまでもなく2011年3月11日の福島第一原発事故だが、東芝の経営陣はその直後には強気の発言をしていた。当時の佐々木則夫社長は「福島事故の影響は日本に限定され、世界の原子炉市場は成長している」と発言し、「2015年までに全世界で39基、原子力の売り上げは年間1兆円」という目標を変えなかった。 ところが世界各国の規制当局が福島事故を受けて規制を強化し、アメリカでは4基の原発の工事が止まってしまった。それが東芝の巨額損失の原因だといわれているが、そこにはもっと大きな問題が隠されているのではないか。
▽ベストセラー原子炉「AP1000」をめぐる闘い
・この背景には、東芝が原子力部門の目玉商品と位置づけていた加圧水型(PWR)原子炉「AP1000」の問題がある、というのが関係者の一致した見方だ。東芝が最後までAP1000を手放そうとしなかったのには、それなりの理由があるはずだ。 原発はビッグビジネスである。1基3000億~5000億円だから、3基受注すれば1兆円の売り上げが立つ。その後も保守や燃料で多くの利益が見込めるので、東芝がWHを手放さなかったのも無理はない。
・特に中国は大きな市場で、各国の企業がその争奪戦を繰り広げたが、フランス政府はアレバ(国営)の売り込みを禁止した。原子炉技術が核兵器に転用できるからだ。ところが東芝がWHを買収した直後の2006年12月に、中国政府はWHから原子炉を輸入することでアメリカ政府と合意した。
・中国の国営企業は2007年7月にWHからAP1000を4基、輸入する契約を結び、中国は今後10年で、AP1000を60基建設するといわれている。これだけで20兆円以上の巨大な市場だ。その後、WHと中国企業の業務提携は合弁事業に発展し、この契約は2009年にライセンス供与に切り替えられた。 これによって中国の国営企業は原子力技術を「国産化」するばかりか、世界にAP1000を売り込み始めた。イラン政府は2015年に、中国企業がイランの原発2基を建設することを明らかにし、南アフリカやトルコでも中国企業とWHが原子炉を受注する見通しが強まっている。特にイランの原子炉は核兵器開発とからんでいる可能性があるが、東芝の経営陣はWHの動きをほとんど把握していなかったようだ。
・これは推測だが、今回の問題がこじれた原因はこう考えられる──WHは世界にAP1000を売り込む予定で、東芝はその将来性を見込んで買収したが、WHは中国の国営企業にライセンス供与して技術を渡してしまった。その結果、中国が世界にAP1000の技術を売り込み始めた。これに怒ったアメリカ政府がWHを東芝から切り離し、中国の暴走を止めようとしたのではないか。
・中国が原子炉をブラックボックスで輸入するのと、ライセンスを受けて「国産」で建設するのは大きな違いがある。中国政府は核武装を強化するために、プルトニウムを製造する軽水炉の技術が欲しいはずだ。東芝の「減損」のほとんどは規制当局の裁量によるもので、アメリカ政府の意向が働いていることは十分考えられる。
▽原子力政策の見直しが必要だ
・原子炉は発電技術であるだけでなく、軍事技術である。軽水炉でウランを燃やしてできるプルトニウムがあれば原爆がつくれるので、冷戦期にはココム(対共産圏輸出統制委員会)できびしく規制していた。今も核拡散防止条約で、非核保有国は使用ずみ核燃料を再処理してプルトニウムを製造することが禁じられている。日本はその唯一の例外である。
・東芝は1987年に、工作機械の輸出がココム違反だとしてアメリカ政府に摘発され、警視庁は東芝機械の幹部を逮捕した。これが東芝機械ココム違反事件である。当時は日米貿易摩擦の最中で、これを理由にして連邦議会は日本の「不公正貿易」を指弾し、議員が東芝製のラジカセやTVをハンマーで壊す事件もあった。
・東芝の経営危機が、技術ナショナリズムを掲げるトランプ大統領の当選直後の2016年12月に表面化したのも、偶然とは思えない。80年代に東芝が日米貿易摩擦のいけにえにされたように、トランプ政権が東芝を犠牲にしてアメリカの原子力技術を守ろうと考えたとしても不思議はない。
・来年、日本だけに使用ずみ核燃料の再処理を認めた日米原子力協定が切れる。日本政府はアメリカが延長してくれると思っているが、プルトニウムを消費する高速増殖炉「もんじゅ」は事実上、廃炉になり、青森県六ヶ所村の再処理工場は行き詰まっている。プルトニウムをウランと混合して燃やすMOX燃料は、コストがかかるだけで意味がない。
・唯一の理由は再処理すると使用ずみ核燃料の体積が小さくなることだが、これは意味がない。六ヶ所村には、300年分の使用ずみ核燃料を「中間貯蔵」できる場所があるからだ。日本の保有している48トン(原爆6000発分)のプルトニウムは、原子力協定が延長されなかったら宙に浮いてしまう。日本政府が核武装を決意しない限り、全量再処理という方針は見直すしかない。
(以下のリンクは2頁目以降は有料会員限定)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49602

次に、経済ジャーナリストの町田徹氏が4月18日付け現代ビジネスに寄稿した「東芝が「紙クズ同然の決算書」を公表した本当の狙い やっぱり「粉飾疑惑」は拭えない…」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽上場維持が狙い」ではないハズ
・監査法人のお墨付きがないまま、東芝は先週(4月11日)、会社の独断で2016年度第3四半期(4~12月累計)決算を公表した。 結果的に、異例の3度目の決算発表延期を回避したことから、メディアではこれ以上の決算発表の遅延が市場の混乱を招いて「上場廃止」処分を招くことを狙ったなどとする解説が目立った。  東芝の綱川智社長が記者会見で「上場維持に向けて最大限努力する」と述べて、そうした見方を半ば肯定したことを受けた報道だったのだろう。
・しかし、本当に上場維持が東芝の狙いだったのだろうか。 というのは、会社法や金融商品取引法が定める外部監査人による会計監査で「適正」のお墨付きを得られなかった決算を発表したこと自体が、上場維持に不可欠な経営体制(内部統制)の再構築が未だにできていないことの証左として、上場廃止を現実の問題にしかねない側面を持つからだ。
・実際には、上場維持以外に強い動機があったとみた方が自然だろう。筆者の目には、むしろ、東芝が一昨年に続き、再び粉飾決算疑惑が高まりかねない事態に直面しており、強引に幕引きを図ったように映る。  今週は、東芝があえて、紙クズ同然の決算書を公表したことの意味を考えてみよう
▽「意見不表明」の意味
・今、東芝問題で、筆者が最も注目しているのが、問題の決算発表の翌々日(4月13日)に、東芝が関東財務局長に提出した「四半期報告書」に盛り込まれた「独立監査人の四半期レビュー報告書」という文書だ。  会計監査人(監査法人)には医師や弁護士とよく似た守秘義務がある。このため、企業決算が公正で妥当な会計ルールに則って作成され、経営内容を正確に反映しているかを判定する立場にありながら、監査法人自身は監査の内容や下した判断について、マスメディアを含む一般に向けて説明することを禁じられている。
・それゆえ、今回の東芝の第3四半期決算では、会社と監査法人の間に大きな見解の相違があったにもかかわらず、マスメディアは東芝の説明に依存して、その内容を報じた。つまり、裏付けのないまま、東芝寄りの報道が氾濫した可能性が否定できない。
・そうした中で、唯一、外部から実情を伺う手掛かりになり得るのが、企業の有価証券報告書や四半期報告書の信頼性を保証する形で添付される、監査法人作成の「レビュー報告書」だ。今回もわずか3ページと情報量は決して多くないが、監査法人の本音が垣間見えることもあり得ると注目していた。
・話を進める前におさらいすると、今回、東芝の決算を監査したPwCあらた監査法人は、監査意見として「意見不表明」という立場をとった。 「意見不表明」は、4ランクある監査意見のうち下から2番目で、上場企業決算に対する監査意見としては異例の低い評価である。 上場企業の決算では、4ランクのうち最上級の「無限定適正(意見)」が付くのが普通だ。よほどきわどい場合でも、「限定(条件)付き適正(意見)」でとどまり、「意見不表明」は極めて稀である。
・このランクは、監査法人として適正な決算処理が行われたと保証できない、つまり粉飾決算があった可能性も否定できないという異常事態を示すランクだからだ。 最下級ランクの「不適正(意見)」は、監査法人も訴訟並みの立証をする必要が出て来るので、まず付くことはない。筆者が良く知る公認会計士たちは「あえて不適正を付けなくても、意見不表明で十分に事態の深刻さを表せて事足りる」と口を揃える。
▽監査法人が示した「二つの懸念」
・東芝の監査を担当したあらた監査法人の今回の四半期レビューは、「当監査法人は、(監査意見の)結論の表明の基礎となる証拠を入手することができなかった」と明かし、真っ向から東芝の決算に疑問を呈した。 具体的に言うと、東芝の米原子力子会社ウエスチングハウスエレクトリックカンパニー(WEC)による建設会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター社(S&W)の買収に関連して二つの懸念を示したのだ。
・一つは、「一部経営者による(S&Wへの)不適切なプレッシャー」があり、正確な会計処理が行われなかった可能性が依然として残っていることである。 もう一つは、S&Wの買収が2015年12月末に完了していたにもかかわらず、それから1年が経過した2016年度第3四半期決算期になって、東芝が突然、買収時に「635,763百万円の工事損失引当金」が必要だったことが判明し、これを根拠に「(工事損失引当金の)当四半期末残高は495,859百万円」だと主張し始めた問題だ。
・この引当金の確定は、S&Wの取得価格の特定やのれん代の算定に不可欠な要素であるため、あらた監査法人は、「当該損失を認識すべき時期」を問題にした。 「いつであったかを判断するための調査に対する当監査法人の評価も(継続中の評価の対象事項に)含まれている」といい、本来ならばもっと前に会計処理すべきだったのではないかとの疑問を示唆したのだ。 そのうえで、どちらの問題に関しても、現在までの東芝の調査は不十分であり、疑惑が晴れないと結論付けた。
・わかり易く言うと、あらた監査法人は、東芝かWECの一部経営者が2015年度第3四半期や2015年度通期に発生した原子力部門の巨額損失を、意図的に隠させた可能性が否定できないとみており、2015年春に露呈したケースに続いて、東芝がまたも粉飾決算を犯した可能性を憂慮している可能性が高いのだ。
・さらに、あらた監査法人は「その他の事項」というタイトルを付けて、粉飾の可能性が残る2015年度第3四半期や2015年度通期の決算を監査したのが、いずれも「前任監査人」(筆者注、新日本監査法人のこと。1昨年春に露呈した粉飾決算を見抜けなかったとして、東芝に解任された経緯がある。)であり、それらの決算に「無限定適正意見」のお墨付きをあたえていたとも指摘した。 あらた監査法人は、就任前のこうした監査に責任を持てないことを明確にしたのである。
・東芝の綱川社長は4月11日の記者会見で、「当社としては独立監査人の理解を得るべく最善を尽くした」とか「調査は完了している」などと繰り返した。 社外取締役の佐藤良二監査委員会委員長(公認会計士、元監査法人トーマツCEO)も、「損失認識時期が問題となる証拠は発見されておりません」とか「(一部経営者による)不適切なプレッシャーと見なされ得る言動は認められたものの、当社及びWECの内部統制は有効に機能しており、財務諸表に影響を与えなかった」と釈明した。
・換言すれば、2人は、決算のお墨付きを得られなかった原因が、あらた監査法人の判断の遅さにあるかのような印象を与える説明に終始したのである。 しかし、意見不表明とした理由について、前述のように、あらた監査法人は明確に「結論の表明の基礎となる証拠を入手することができなかった」と断じている。これは、東芝が非協力的だったことを示唆したとみなしてもいい文言だ。決して、あらた監査法人は自らの単純な手続きや判断の遅さに問題があったとはしていない。
▽不自然な動き
・そこで改めて検証が求められるのが、なぜ一昨年暮れのS&W買収時に、同社をゼロ円という安値で買収できるのか、会計上できちんと認識しなかったことの不自然さである。 当時、東芝は原子力分野を成長産業と広言しており、S&Wの買収はWECを含む東芝グループの成長に役立つとしていた。そんな会社がゼロ円で取得できるという、旨過ぎる話が不可解でなかったはずがない。
・まともな企業経営者ならば、S&Wの実態が傷物で、巨額の含み損があるから安く買えることに気付くはずである。仮に取得価額をゼロ円とする会計上で処理するならば、S&W社の債務を肩代わりするために巨額の損失引当金の計上を行うというような会計処理が必要なことに気付くべきなのだ。
・ところが、昨年暮れの内部通報によって「不適切なプレッシャー」の存在が露呈するまで、東芝はこの問題を自ら補正しようとしなかった。これほど不可解なことはないだろう。 
・さらに、S&Wを買収した期の四半期報告書や通期の有価証券報告書に、東芝はS&Wの取得価額について注書きしている。 そこには、「当報告書提出日現在では、取得価額の配分は完了していません」「当期間においてS&W社取得時の正確な財務数値の取得が困難である」ため「会計処理は最善の見積もりに基づき行っています」などとも述べている。
・百歩譲って、S&Wなどとの訴訟の影響が残り、2015年度第3四半期末に本当に必要なデータを入手できかったのだとしても、速やかに財務数値を把握したうえで、それが2015年度末に間に合わなかったのならば、2016年度に自ら遡って当該決算の訂正報告を提出する必要があったはずである。 決算への影響の大きさを「重要性の原則」に照らせば、そうした検証や訂正を怠ったこと自体が、東芝という企業の経営姿勢に対する疑念を生みかねない。
・「合理的な疑いを持つ」ことは、会計監査に従事する者の使命だ。あらた監査法人が、東芝には何か隠したいことがあって、最近まで意図的に放置したのではないかとの疑念を抱き、前述した「当該損失を認識すべき時期」を問題にしているのだとすれば、まさに理に適った対応に映る。
・そもそも、東芝は同社やWECの決算にS&Wの問題を波及させるなというプレッシャーをかける行為があったことを認めているが、その行為はS&Wの巨額損失の実態を把握していたからこそとられたはずである。  何も知らなければ、プレッシャーをかけることなどなかっただろう。この場合、問題はプレッシャーの行為後だけでなく、行為前の調査も重要だ。調査が買収時以前に遡るのも当たり前のことである。
・ここは、前回の粉飾決算劇でも刑事処分を求めたとされる証券取引等監視委員会や、当時は証拠不十分として事件化を拒んだとされる検察当局の出番である。もはや、強制的な調査や捜査をできない監査法人の手に負える話ではない。
・東芝に粉飾決算隠しがあり、それを許すようなことになれば、日本の経済・企業社会全体にモラルハザードが蔓延しかねない。しっかりとした真相の究明とけじめが求められている。 今回公表した決算で、東芝は前年同期を上回る巨額の赤字を計上し、事実上の経営破たんである債務超過状態に転落した。この決算書に、初めて、会社自らが期中の経営破たんの可能性を認める「継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)に関する注記」も記載された。東芝の経営危機は深刻である。
・その一方で、生き残りに必要な半導体メモリー会社の売却などの対応策は、どれも手探りの段階で、迷走の感が強い。 次回は、東芝の決算が示した深刻な経営・収益・財務状況と、その原因、そして隘路のような打開策について考えてみたい。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51495

第三に、 微細加工研究所 所長の湯之上 隆氏が4月26日付けJBPressに寄稿した「アメリカの圧力が東芝メモリを転落へと導く理由 なぜ米WDは突然「他社への売却を認めない」と言い出したのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽東芝メモリの第2入札を目指す4陣営
・5月中旬に実施される東芝メモリの2次入札を巡って、応札しようとする企業やファンドなどの動きがあわただしくなっている。何がどうなっているのか、もつれにもつれていて、実態を把握するのが正直言って困難なほどである。
・筆者が認識している限りでは、下の表のように4つの陣営が形成されつつあると思われる(表1)。 第1陣営は、東芝メモリとNANDフラッシュを共同開発し、製造している米ウエスタンデジタル(WD)を中心としたグループである。WDの問題は独占禁止法に触れることと資金不足の2点である。そこで、WDは、投資資金が豊富な米ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と連携しようとしている。さらに、KKRは、日本の官民ファンドの産業革新機構と共同応札を行う動きを見せている。その革新機構に、日本政策投資銀行と、経済産業省が主導して結成しようとしている日本企業連合が加わろうとしている。
・第2陣営は、東芝と新メモリMRAMの共同開発を行っている韓国SKハイニックス(SK Hynix)のグループである。SKハイニックスの問題はWDと同じで、独禁法に触れることと資金不足にある。SKハイニックスは、いっとき政策銀や革新機構との連携を模索していたが、それは断念し、現在は米投資ファンドのベインキャピタルと連携しようとしている。
・第3陣営は、1次応札で3兆円の高値をつけた辣腕の郭台銘会長率いるホンハイ(鴻海)のグループである。ホンハイの問題点は、日本政府が持ち出した外為法に違反することである。ホンハイは、この問題を解決すべく、シャープと連携し、米アップルに協力を要請、さらにソフトバンクにも支援を求めている。そして、トランプ大統領に好印象を与える目的のためか、米国にNAND工場を建設する意向をちらつかせている。
・第4陣営は、通信半導体の設計を主力事業とするファブレスの米ブロードコムのグループである。ブロードコムには、東芝メモリ買収の障害は特にないが、その目的が不明である。というのは、通信用半導体とNANDの関係がほとんど見当たらないからである。ブロードコムには、米投資ファンドのシルバーレイク・パートナーズが連携する。
・この4陣営による東芝メモリの買収を、よりややこしくしているのが、4月9日に突如、WDが東芝とのNAND事業の合弁契約を盾に、「東芝メモリの分社化は違法」であり、そして「他社への売却は認めない」と言い出したことである。 東芝メモリの分社化と売却は、1月中旬あたりから既定路線になっており、3月29日には、1次入札が行われ、4月1には東芝メモリ株式会社が設立された。にもかかわらず、この期に及んで、なぜ今さら「分社化は違法」だの「売却は認めない」などと言いだしたのか?本稿では、WDの意図がどこにあるのか分析を試みる。
▽事態を混乱させているWDの行動
・WDは、HDDの売上高1位の企業である。ところが、HDDがSSD(Solid State Drive:ソリッドステートドライブ )に駆逐され始めたことに危機感を持ち、SSDの基幹部品であるNANDを製造していた米サンディスクを2016年に約190億ドルで買収した。 WD傘下になったサンディスクは、2000年から東芝とNANDを共同で開発し、製造してきたメモリメーカーである。サンディスクと東芝は、設備投資を折半し、開発や製造の技術者もほぼ同数在籍させて、共存共栄の関係を築いてきた。それゆえ、WD(サンディスク)と東芝が「もはや離婚できない関係」であるということは理解できる。
・しかしそれならば、東芝メモリが分社化し、売却されることが避けられない事態となった1月中旬に、それは違反であり認められないということを通告すべきであろう。それなのに、3月29日に1次入札が行われ、4月1日に東芝メモリが設立されるまで、何も言わなかったというのは理解しがたい態度である。いたずらに事態を混乱させているとしか思えないではないか。 そして、そのような行動をとった背後には、何らかの策略があると考えざるを得ない。その策略とは、どんなものか?
▽WDの決定的な弱点
・冒頭で説明したように、WDの問題は、独占禁止法に抵触することと、資金不足であることである。 2016年第4四半期のNANDの売上高シェアでは、WDは3位(17.7%)、東芝は2位(18.3%)で、合計すると36.0%となり、1位のサムスン電子(37.1%)とほぼ並ぶ。したがって、WDが東芝メモリを買収する場合は、各国司法省の審査を受ける必要がある。すると、例えば韓国あたりが「No」を突きつけるかもしれない。
・そして、これよりも深刻なのが、資金不足の問題である。何しろ、2016年に約190億ドルでサンディスクを買収して、キャッシュをあらかた使い果たしてしまったからだ。 WDが東芝の取締役に送った意見書によれば、「2~3兆円の入札額は公正で支持可能な価格を大きく超えている」と主張している。それに加えて、東芝が「最低2兆円」とした事業価値も、「高い人件費や継続投資の必要性などを考えると公正な価格を大きく上回る」と言っている(日経新聞4月21日)。
・この主張はまったく理解し難い。というのは、WD自身が、2016年に約190億円(岩崎注:億ドルの誤り)出してサンディスクを買収しているのである。サンディスクと東芝は、設備を折半し、人員もほぼ同数いる。それなのに、サンディスクには約190億ドル(約2兆円)を出したにもかかわらず、東芝メモリの2兆円は公正でないというのである。これは明らかに矛盾している。
・その上、昨年来、本格的なビッグデータ時代を迎え、記憶装置にはHDDではなくSSDを使うオールフラッシストレージが予想を上回る速度で普及し始め、SSDの基幹部品であるNANDの需要が途轍もない勢いで急拡大している。このようなことを考えると、東芝メモリの買収価格は、1年前のサンディスクのそれよりも高くなければならないはずだ。
・それなのに、「東芝メモリの2兆円は高すぎる」と主張するWDは、よほどカネがないのだろうと思わざるを得ない。だが、WDはどうしても東芝メモリを他社に取られたくない。そこで、ある策略を思いついたのではないか。
▽WDと米政府の策略
・カネがないWDが頼ることができるのは、米政府しかない。そこで、WDは米政府に、「このままだと高値で応札する中国や台湾に、NANDの技術が漏洩してしまいます。NANDはSSDの基幹部品であり、そのSSDが(政府などにも導入される)サーバーに使われるため、安全保障上の問題が生じます」というように屁理屈をでっちあげ、「何とかしてくれ」と泣きついたのだろう。
・米政府は日本政府に貸しが1つある。それは、東芝が米原子力会社のウエスチングハウス(WH)について、米連邦破産法11条(日本の民事再生法)を申請したことである。ところが、米国はWHが建設中の4基の原発に83億ドルの債務保証を付けていたのだ。このことは3月9日に発覚した。つまり、東芝はWHを倒産させることにしたが、その尻拭いは米国がやることになったわけである。日本政府は、米政府に借りを作ってしまったのだ。
・そして、3月17日に世耕経産相が渡米して、米商務省長官およびエネルギー省長官と会談した直後から、事態は急変する。 同日、東芝メモリの買収に当初は否定的だった産業革新機構が政策銀とともに急遽浮上してくる。これは、米政府に圧力をかけられた日本政府の指示により、買収を検討することになったと思われる。
・3月24日には、日本政府が、外為法を持ち出してきた。これは、高値で応札することが予想される中国と台湾を排除するために、日本政府が考え出した奇策であろう(愚策とも言う)。
・4月1日に東芝メモリが設立されると、台湾マクロニクスが「東芝メモリのNANDが特許侵害をしている」と訴えてきた。これは明らかに不自然である。というのは、東芝メモリとWDは、共同でNANDを開発し、製造しており、そのNANDの構造はまったく同じであり、製造プロセスも同一のものだからだ。それなのに、マクロニクスはWDを訴えずに、東芝メモリだけを訴えたのだ。これは明らかに、「東芝メモリのNAND技術には問題がありますよ」と言うことを喧伝し、それによって東芝メモリの買収額の引き下げを狙ったものと思われる。
・なお、マクロニクスは台湾企業であるが、経営陣には米スタンフォード大学、米コロンビア大学、米カリフォルニア大学バークレー校、米ミシガン大学などの出身者がずらりと並び、米国との繋がりが極めて深い。つまり、東芝メモリへの特許訴訟は、米政府からの要請で行った可能性が高い。
・そして、このように外堀が埋まった段階で、4月9日にWDが契約を盾にして「他社への売却を認めない」と言い出したわけだ。 結局、3月17日に行われた世耕弘成経産相と米商務省長官およびエネルギー省長官との会談で、米政府に弱みを握られている日本が圧力をかけられ、WDが東芝メモリを買収しやすいように、便宜をはかったと推測される。
▽政府も革新機構も大嘘つきだ
・元々、経済産業省も産業革新機構も、東芝を支援する動きはまったく見せていなかった。 1月20日に、米WHの損失額が最大7000億円となる可能性が大きくなり、2017年3月期に東芝が債務超過に陥ることは避けられない事態になったが、世耕経産相は、閣議後の会見で「経産省として支援策など対応を検討していない」と述べた(ロイター)。
・3月8日に、世耕経産相は衆院経済産業委員会で、民進党の近藤洋介衆院議員に、東芝に対する産業革新機構の関与を問われ、「一般論だが革新機構は『企業救済機構』ではない」と述べて否定的な考えを示した(日経新聞)。 3月13日に、革新機構の志賀会長が東洋経済のインタビューで、「産業革新機構は産業競争力強化法という法律に基づき設置されており、成長事業にしか投資できない」「少なくとも私が会長兼CEOをやっている限りは、そんな都合のいいお財布にはならない」と東芝メモリの買収を完全否定した(東洋経済)。 3月14日に、菅義偉官房長官は、東芝の経営再建について「支援策を政府として検討している事実はない」と語った(日経新聞)。
・ところが、3月17日に世耕経産相が渡米して米商務省長官およびエネルギー省長官と会談した直後、革新機構が東芝メモリの買収に急浮上し、日本政府が外為法違反で中国と台湾の買収は認めないと発表し、米国とつながりの深いマクロニクスが東芝メモリだけを特許侵害で訴え、そして満を持したようにWDが契約を盾に「他社への売却は認めない」と言い出したわけだ。 世耕経産相も、革新機構の志賀会長も、菅官房長官も、大嘘つきである。
▽頑張れ!ホンハイ
・米政府の圧力に屈した日本政府の便宜により、WD陣営が東芝メモリを買収した場合、どんなことになるのか?もう一度、表1をよく見てほしい。東芝メモリのボードメンバーには、WD、KKR、革新機構、政策銀、経産省が掻き集めた日本企業連合のお歴々が鎮座するわけだ。
・3月28日の本コラム(「東芝メモリ買収、政策銀や革新機構は出てくるな!」)で述べたことをもう一度繰り返す。「メモリビジネスで最も重要なことは、巨額な設備投資を、いつ、どこで行うか、という果断な決断をすることにかかっている。つまり、メモリビジネスとは、一種のバクチなのだ」。 そのバクチ的メモリビジネスを、上記の烏合の衆の合議によって行うわけだ。これほど悲惨なことがあるだろうか?
・目の前が真っ暗になる。頼むからやめてくれ。ホンハイの郭台銘会長殿、何とか頑張って東芝メモリを買ってくれ!
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49828

池田氏の記事にある 『WHと中国企業の業務提携は合弁事業に発展し、この契約は2009年にライセンス供与に切り替えられた。 これによって中国の国営企業は原子力技術を「国産化」するばかりか、世界にAP1000を売り込み始めた・・・東芝の経営陣はWHの動きをほとんど把握していなかったようだ』、というのは東芝のお粗末さもここに極まれりだ。 『中国が世界にAP1000の技術を売り込み始めた。これに怒ったアメリカ政府がWHを東芝から切り離し、中国の暴走を止めようとしたのではないか』、 『東芝の「減損」のほとんどは規制当局の裁量によるもので、アメリカ政府の意向が働いていることは十分考えられる』、などの憶測もあり得る話だ。
町田氏の記事で、 『「意見不表明」は、4ランクある監査意見のうち下から2番目で、上場企業決算に対する監査意見としては異例の低い評価』、との解説で事態の深刻さを改めて再認識した。 『事件化を拒んだとされる検察当局の出番である。もはや、強制的な調査や捜査をできない監査法人の手に負える話ではない。東芝に粉飾決算隠しがあり、それを許すようなことになれば、日本の経済・企業社会全体にモラルハザードが蔓延しかねない。しっかりとした真相の究明とけじめが求められている』、との指摘は正論である。
湯之上氏の記事で、WDや日本政府などの不可解な動きがようやく理解できた。 『WDと米政府の策略』、 『3月17日に世耕経産相が渡米して、米商務省長官およびエネルギー省長官と会談した直後から、事態は急変』、 『政府も革新機構も大嘘つきだ』、などの謎解きはさすがである。 『バクチ的メモリビジネスを、上記の烏合の衆の合議によって行うわけだ。これほど悲惨なことがあるだろうか』、というのもその通りだ。ただ、『頑張れ!ホンハイ』、については、私はホンハイが裏で中国とツーカーなのではと疑っているので、現段階では賛成しかねる。
タグ:東芝 町田徹 池田信夫 JBPRESS 現代ビジネス 日米原子力協定 不正会計問題 (その29)(東芝の経営危機は「第2のココム事件」か、東芝が「紙クズ同然の決算書」を公表した本当の狙い、アメリカの圧力が東芝メモリを転落へと導く理由) 東芝の経営危機は「第2のココム事件」か 不可解な巨額損失の影に見える軍事技術の競争 ウエスチングハウス社 連邦破産法の適用を申請 東芝は今年3月期の連結決算で約1兆円の最終損失を計上 WHに6500億円の債務保証をしており、今後も電力会社などからの訴訟リスクが残る 最大の謎は、なぜ昨年末から急に東芝の損失がふくらんだのかということである 原子力部門の抱える1兆円の「謎の損失」 ベストセラー原子炉「AP1000」をめぐる闘い 東芝がWHを買収した直後の2006年12月に、中国政府はWHから原子炉を輸入することでアメリカ政府と合意 WHと中国企業の業務提携は合弁事業に発展し、この契約は2009年にライセンス供与に切り替えられた。 これによって中国の国営企業は原子力技術を「国産化」するばかりか、世界にAP1000を売り込み始めた 東芝の経営陣はWHの動きをほとんど把握していなかったようだ WHは中国の国営企業にライセンス供与して技術を渡してしまった。その結果、中国が世界にAP1000の技術を売り込み始めた。これに怒ったアメリカ政府がWHを東芝から切り離し、中国の暴走を止めようとしたのではないか 、工作機械の輸出がココム違反 アメリカ政府に摘発 80年代に東芝が日米貿易摩擦のいけにえにされたように、トランプ政権が東芝を犠牲にしてアメリカの原子力技術を守ろうと考えたとしても不思議はない 東芝が「紙クズ同然の決算書」を公表した本当の狙い やっぱり「粉飾疑惑」は拭えない… 「意見不表明」は、4ランクある監査意見のうち下から2番目で、上場企業決算に対する監査意見としては異例の低い評価である。 上場企業の決算では、4ランクのうち最上級の「無限定適正(意見)」が付くのが普通だ。よほどきわどい場合でも、「限定(条件)付き適正(意見)」でとどまり、「意見不表明」は極めて稀である 監査法人が示した「二つの懸念」 一つは、「一部経営者による(S&Wへの)不適切なプレッシャー」があり、正確な会計処理が行われなかった可能性が依然として残っていることである もう一つは、S&Wの買収が2015年12月末に完了していたにもかかわらず、それから1年が経過した2016年度第3四半期決算期になって、東芝が突然、買収時に「635,763百万円の工事損失引当金」が必要だったことが判明し、これを根拠に「(工事損失引当金の)当四半期末残高は495,859百万円」だと主張し始めた問題 東芝かWECの一部経営者が2015年度第3四半期や2015年度通期に発生した原子力部門の巨額損失を、意図的に隠させた可能性が否定できないとみており、2015年春に露呈したケースに続いて、東芝がまたも粉飾決算を犯した可能性を憂慮している可能性が高いのだ 証券取引等監視委員会や、当時は証拠不十分として事件化を拒んだとされる検察当局の出番である 湯之上 隆 アメリカの圧力が東芝メモリを転落へと導く理由 なぜ米WDは突然「他社への売却を認めない」と言い出したのか 東芝メモリの第2入札を目指す4陣営 第1陣営は、東芝メモリとNANDフラッシュを共同開発し、製造している米ウエスタンデジタル(WD)を中心としたグループである 第2陣営は、東芝と新メモリMRAMの共同開発を行っている韓国SKハイニックス(SK Hynix)のグループである 第3陣営は、1次応札で3兆円の高値をつけた辣腕の郭台銘会長率いるホンハイ(鴻海)のグループ 第4陣営は、通信半導体の設計を主力事業とするファブレスの米ブロードコムのグループ 4月9日に突如、WDが東芝とのNAND事業の合弁契約を盾に、「東芝メモリの分社化は違法」であり、そして「他社への売却は認めない」と言い出したことである 米サンディスクを2016年に約190億ドルで買収 サンディスクと東芝は、設備投資を折半し、開発や製造の技術者もほぼ同数在籍させて、共存共栄の関係を築いてきた。それゆえ、WD(サンディスク)と東芝が「もはや離婚できない関係」であるということは理解できる。 WDと米政府の策略 安全保障上の問題 米国はWHが建設中の4基の原発に83億ドルの債務保証を付けていたのだ 東芝はWHを倒産させることにしたが、その尻拭いは米国がやることになったわけである。日本政府は、米政府に借りを作ってしまったのだ 3月17日に世耕経産相が渡米して、米商務省長官およびエネルギー省長官と会談した直後から、事態は急変 政府も革新機構も大嘘つきだ マクロニクス 米国との繋がりが極めて深い メモリビジネスで最も重要なことは、巨額な設備投資を、いつ、どこで行うか、という果断な決断をすることにかかっている メモリビジネスとは、一種のバクチなのだ」。 そのバクチ的メモリビジネスを、上記の烏合の衆の合議によって行うわけだ。これほど悲惨なことがあるだろうか?
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