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トランプ新大統領(その17)(FBI長官解任騒動でホワイトハウス組織は瓦解状態?) [世界情勢]

昨日に続いて、トランプ新大統領(その17)(FBI長官解任騒動でホワイトハウス組織は瓦解状態?) を取上げよう。

在米の作家の冷泉彰彦氏が5月13日付けメールマガジンJMMに掲載した949Sa]「FBI長官解任騒動でホワイトハウス組織は瓦解状態?」from911/USAレポートを紹介しよう。
・FBIのジム・コミー長官がトランプ大統領によって突如解任されたというニュースが流れたのは、5月9日(火)の夕刻でした。それ以来、アメリカの各メディアはずっとこのニュースを追いかけています。ある意味では、バカバカしいニュースとも言えるのですが、人間ドラマとして面白いのと、このまま追及を重ねていけば大統領の権力を突き崩すことができるかもしれない・・・そんな匂いが漂う中では、報道の側も見る側もこの話題から逃れられないようです。
・それにしても、どうにも真相は分からないわけで、ストーリーの全体がミステリーじみているわけですが、とりあえず出来るだけ整理してみようと思います。 まず最初は、「どうしてコミー長官は解任されたのか?」という理由です。3つの可能性があります。
・1番目は、メディア、そして民主党や共和党のかなりの部分が主張しているように「トランプ大統領は、FBIによる『ロシア癒着問題』への捜査を妨害するため」にコミー長官を解雇したという可能性です。 証拠としては、まず他でもない大統領自身がコミー長官宛に突きつけた9日付の「解任通告」書簡の中に、「私が捜査対象になったかもしれない機会において、貴官は三度にわたって自分を捜査対象としなかったことは賞賛する」という文言が入っているということが挙げられます。 解任通告をする際には全く必要のない話ですが、慌てて文書を側近にタイプさせる中で「ポロッとホンネが」出てしまったのかもしれません。つまり大統領としては「ロシア疑惑」の捜査が自分にまで及ぶのを恐れていたということになります。
・ちなみに、11日に流れたNBCのベテランのニュース・キャスターである、レスター・ホルトが大統領に単独でインタビューした内容によると、この3回というのは、「1回はトランプがコミー長官と2人で会食した時」であり、「後の2回は電話」だったそうですが、とにかく大統領としては「自分の身に捜査が及ぶのを恐れて3回もFBI長官に確認をした」ということは事実のようです。
・その他にも、既に辞任している元ホワイトハウス安全保障補佐官のマイケル・フリンが、5月9日の時点で上院の情報委員会(強い権限を持つ国家機密に関する立法府のマネジメント機関)から書類提出の召喚状を出されていたとか、コミー長官自身が「ホワイトハウスのロシア癒着問題の捜査を本格化するため」に追加の予算を要求していたという話もあります。タイミングという点から見ても状況証拠はあるわけです。
・2番目は、FBIがヒラリー・クリントンの「電子メール問題」について、誤った対応をしたからという理由です。例えば、5月9日付の「電撃解雇」が報じられると、アメリカ国内でも、また国外でも「ヒラリー・クリントンのメール問題に関する対応を理由に解雇」という報じられ方をしましたし、そう言われると「色々と疑惑があったのにヒラリーを起訴しなかった」ことに対してトランプ大統領は不満を持っているのだろう、という印象を誰もが持つわけです。
・ところが、詳細に証拠を見てみると、どうも違うのです。まず、自身が署名した解雇通知文書の中でトランプ大統領は、セッションズ司法長官並びに、ローゼンスタイン司法副長官が「コミー氏解任を進言した書簡を送ってきた」から解任したとハッキリ述べています。
・そのローゼンスタイン司法副長官というのどういう人物かというと、トランプ大統領が就任直後に出した「入国禁止令」が違法だから「無効」だと言われて、怒って更迭したイエイツ司法副長官(司法長官代行)の事実上の後任として、トランプ大統領が指名して就任した人物で共和党支持者です。 トランプ氏が指名した共和党系の人物ということは、ローゼンスタイン氏は「ヒラリーを最終的に不起訴とした」から「ダメだ、解雇せよ」と言っていそうに見えます。
・ところが、肝心の書簡の中身を読んでみると、これが違うのです。解雇を勧告した理由の、主要な部分については「10月28日の第二次メール疑惑」に関するものです。 ここでローゼンスタイン副長官は、「新たな証拠(ヒラリー側近の夫のPC)」が出た時点で、コミー長官は新証拠問題を「発表(speak)」するか「隠蔽(conceal)」するか迷ったと証言しているが、これはおかしいとして、「隠蔽はせずに粛々と捜査を再開すればよかった」としているのです。
・これは5月3日にコミー氏が議会で証言した際にあった「本当にヒドい(reallybad)」選択か「壊滅的な(catastrophic)」選択という(大変に有名になった)表現を、言い換えたものと言えます。コミー長官は、この際に議員たちから「選挙を歪めた」という批判を受けたのですが、それに対する反論としてこういうことを言っています。
・これをローゼンスタイン副長官は自分なりの解釈を加えて、「仮にヒラリー側近のPCという証拠が出たとして、そのことを10月28日という投票日直前に選挙に大きな影響を与える形で発表する必要があったのか?」そして「それに代わるチョイスとしては、捜査を再開したことを隠蔽して進め、仮にヒラリー氏がクロとなった場合に、ヒラリー氏が当選していたら大統領制や民意を踏みにじることになるという壊滅的な選択しかなかったのか?」という「二者択一」の議論をコミー長官は行っている。 これがFBIとして司法省として著しく不適切だった、そう指摘しているのです。
・そしてローゼンスタイン副長官は「沈黙(silence)は隠蔽とは違う」などと記しています。つまり「10月28日の時点でヒラリー氏の電子メール関係で新証拠の出る可能性が発生した」として「捜査はすべきだった」が、「実際にコミー長官がやったように、議会に書簡を送ったり騒ぎを起こして選挙を歪める必要はない」し「隠蔽して仮にクロの場合に大変なことになると思い詰める必要もなかった」のであって「粛々と捜査を進めて黙っていれば良かった」という不思議なことを言っています。 その上で、5月3日の議会証言を見て、これはFBIの組織的な危機だと思い詰めて「解任勧告を行った」としています。
・とにかく、意味不明としか言いようがありません。トランプ陣営からすれば、昨年の10月28日にコミー氏が「ヒラリーのメール疑惑の蒸し返し」をしてくれたから、自分たちは勝利したという認識をしています。共和党にしても、あの事件があったからこそ「勝ちに行った」わけで、上下両院も大統領も取ったと言っても過言ではないでしょう。大統領自身も再三そんな発言をしており、その延長でコミー氏を賞賛したことも何度もあります。
・にも関わらず、そのトランプ大統領は、その10月末のコミー氏の言動を批判して解任を提案したローゼンスタイン書簡を根拠に、コミー氏を解任しているのです。その証拠に、大統領の署名したコミー氏宛の「解任通告」書簡には、ローゼンスタイン氏の書簡が「添付」されています。
・3つ目の可能性は、ロシア問題もヒラリーのメール問題も含めて「大統領がとにかくコミー長官を嫌って感情的に解雇した」というストーリーです。NYタイムスの記事によれば、5月3日のコミー長官の議会証言について、トランプ大統領は5月7日(日)午前中の政治討論番組で、コミー長官の発言に「カチン」と来て、いわば「ブチ切れた」という情報があります。ホワイトハウス筋の話というのです。
・その「カチンと来た箇所」というのは、コミー長官が、結果的に「選挙に影響を与えたことを考えると反吐が出るようだ」と述べた場所だというのです。つまり、見方によっては、コミー長官は「ホンネはヒラリー支持」という印象を大統領は持った、そこで「ブチ切れ」たというのです。
・一方で、11日に流れたレスター・ホルトの大統領インタビューで明らかになった、「就任直後の大統領とコミー長官の一対一での会食」についても、色々なことが言われています。コミー長官の周辺からは、「大統領はコミー長官に自分への忠誠を誓うように迫った」が、長官は拒否したという話が漏れてきていますが、FBIの独立性を守るのが長官の任務ですから、全く驚くことではありません。ですが、大統領が気分を害したということはあるのでしょう。
・ちなみに、12日(金)になって大統領は謎のツイートをしています。コミー長官に対して、その会食時の会話について "James Comey better hope that there are no 'tapes' of our conversations before he starts leaking to the press!" (筆者意訳:ジェイムズ・コミーはどうせ会食時の内容をメディアに喋るだろうが、あるコトないコト言う前に、せいぜい録音されていないことを祈ったらどうなんだ)と言っているのです。一種の脅迫です。
・勿論、合衆国大統領の発言として、これでは品格もなにもあったものではありません。歴史的に見れば、ウォーター・ゲートで辞任に追い込まれたニクソンが世論の支持を失った大きな契機となったものとして、「ホワイトハウスの中の会話を録音」していた中での大統領自身が「F言葉など」の汚い言葉を使っていたことが露見したという事件があります。ですが、今回の「婉曲で下品な脅迫」というのは、同様に大統領制を傷つけるものだという議論が出ていますが、確かにそう言われてもおかしくありません。
・そんな中で、一番の問題はホワイトハウスの中の組織がボロボロになっているということです。例えば、同じく12日のツイートで大統領は、"As a very active President with lots of things happening, it is not possible for my surrogates to stand at podium with perfect accuracy!...." などという放言もしています。上記と同様に意訳してみますと「俺様は独断専行だし、事態は急展開するし、側近連中にしたら演壇に立たされても100%正確なことを喋るのは無理ってもんだ」ということです。
・このツイートも何ともヒドいものですが、具体的には何を指しているのかというと、一つにはFBI長官解任という事態の急展開に驚いたショーン・スパイサー報道官が、9日夕に報道陣の質問から「逃れようとした」失態を問われてホワイトハウスの定例記者会見から「外された」格好になっていた辺りのことを言っているのだと思います。
・この時点ではスパイサー氏は「ベンチに下げられた(公式的には予備役軍人として軍務を優先したことになっていました)」とか「今週一杯は出てこないだろう」と言われていたのですが、12日からは定例記者会見に復帰しています。だとすれば、スパイサー氏が「事態について行けなくなった」のを「仕方がないんだ、俺のせいだ」とかばっているようにも、それを「俺様的にふざけて」言っているようにも取れます。
・ですが、その一方で不気味なのはペンス副大統領と、スパイサー氏の代理で定例記者会見を仕切っていた、セラ・ハッカビー・サンダース女史(マイク・ハッカビーの娘でホワイトハウスの副報道官)の両名です。二人は、報道陣のツッコミに対して、全く動じないで「大統領は司法副長官からの解任勧告を受けて果断に判断しただけのこと」と淡々と述べているだけなのです。
・更に不気味なのは、先ほど紹介したローゼンスタイン司法副長官の「解雇勧告レター」です。これは「大統領の意向を汲んで解雇を進言」している一方で、「その理由については民主党系の人々にも理解できるような工作」が入っているという、何とも手の込んだことをやっているわけです。これは単独ではできない工作で、もしかしたら大統領を騙すためにもっと偉い人が噛んでいたのかもしれません。
・一方で、これはNYタイムスの記事でどこまで信憑性があるかは疑問ですが、大統領がコミー解任を決意しつつあった時に、「タイミングが悪い」として止めたのは側近の中ではスチーブ・バノンだけだったそうです。そう考えると、大統領が「自滅」していく可能性に危機感を持っていたのはバノンだけで、ペンスやハッカビー(娘)は黙って見ているだけの「腹黒い計算」をしているということも言えるのかもしれません。こうなると、まるでTVドラマですが、そもそもトランプ政権というのは「フィクションより奇なり」ということで、最初からずっと来ているわけですから、それも驚くには足らないのかもしれません。
・そんな中では、税制改正とか、シリア問題とかに腰を据えて取り組むなどということは、ほとんど不可能になってきているようです。また、来週にはトルコのエルドアン大統領が来米して大統領との首脳会談に臨むわけですが、トランプ政権として「クルド支持を明言してエルドアンを怒らせる」のもダメだし、「エルドアンの言うように亡命中のギュレン師を返す」などということをやってもダメで、その中間のどこかで妥協しなくてはいけないのですが、そんな高等なことが現在の大統領に可能なのかどうか、不安が募ります。
・一方で、北朝鮮危機は何とか抑え込んでいるわけですが、その「見返り」としてウィルバー・ロス商務長官は中国との通商問題で、かなり踏み込んだ宥和的合意をしようとしているようです。更に軍部としてはアフガン戦争への再度の増派を計画しているという問題もあります。とにかく、大統領が衝動的な言動を繰り返し、ホワイトハウスのスタッフが振り回され、メディアが面白がってそれを追いかける中で、深刻な危機が進行しているように思います。
・危機というのは2つあり、世界的な地政学面での危機対応が疎かになる危険性ということと、ここまで政治停滞が深まるとどこかで株と景気に大きな影が差してしまうという危険性です。そう考えると、バカバカしい人間喜劇のように見えても、とにかく政権がどうなっていくのか、注視するしかないようにも思えるのです。

今回のテーマのFBI長官解任騒動は、「ウォーターゲート以来」の出来事であるとして「ロシアゲート」、とも呼ばれる騒ぎになっている。私は、もともとコミー長官については、 『昨年の10月28日にコミー氏が「ヒラリーのメール疑惑の蒸し返し」』をし、ヒラリー敗北の引き金を引いたことで、FBI長官としての適格性には疑問を抱いていたので、理由はともかく、解任そのものは当然だと思っていた。ただ、複雑怪奇な問題を冷泉氏が解き明かしてくれたのは有難い。特に、 『ローゼンスタイン副長官は、・・・「隠蔽はせずに粛々と捜査を再開すればよかった」としているのです』、とのローゼンスタイン副長官の言い分はもっともだと思う。 『一番の問題はホワイトハウスの中の組織がボロボロになっているということです』、 『大統領がコミー解任を決意しつつあった時に、「タイミングが悪い」として止めたのは側近の中ではスチーブ・バノンだけだったそうです。そう考えると、大統領が「自滅」していく可能性に危機感を持っていたのはバノンだけで、ペンスやハッカビー(娘)は黙って見ているだけの「腹黒い計算」をしているということも言えるのかもしれません』、といったように面白い展開になってきたようだ。今週の 『トルコのエルドアン大統領が来米して大統領との首脳会談』、の結果をお手並み拝見と高見の見物といきたい。さらに、コミー長官解任騒動で、トランプ大統領弾劾の動きが早くも出てきたようなので、これも大いに注視していきたい。
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