共謀罪(その4)(共謀罪「当時は通すつもりなかった」 杉浦元法相に聞く、警察と司法はかくもデタラメ、「国連の総意じゃない」 猛反論で無知をさらした安倍政権) [国内政治]
共謀罪については、5月1日に取上げた。衆議院通過を踏まえた今日は、(その4)(共謀罪「当時は通すつもりなかった」 杉浦元法相に聞く、警察と司法はかくもデタラメ、「国連の総意じゃない」 猛反論で無知をさらした安倍政権) である。
先ずは、5月5日付け朝日新聞「共謀罪「当時は通すつもりなかった」 杉浦元法相に聞く」を紹介しよう(Qは聞き手の質問、Aは杉浦氏の回答)。
・「共謀罪」法案は小泉政権時代から3度の廃案を経て、足かけ十数年にわたり議論されてきた。なぜ成立しなかったのか。衆院法務委員会で採決寸前まで行った2006年の通常国会当時に法相を務めていた元衆院議員の杉浦正健弁護士(82)に聞いた。
Q:「共謀罪」を創設する法案は3度の廃案を繰り返し、2000年代から足かけ10年以上にわたって審議された。なぜ、ここまで時間がかかったか。
A:外務省が00年に国際組織犯罪防止条約に署名し、「加盟するには共謀罪の創設が必要だから」と主張しているのを聞いた時は、「なにを言っているんだ」と思いましたね。 日本には共謀共同正犯の判例理論が確立していて、幅広く共犯を処罰できる。創設せずに対応できるとして「留保」を付けて加入する選択肢もあっただろうと。対象犯罪が600以上というのも「多すぎる」というのが、当時の素朴な感覚でした。
Q:とはいえ、当時の国会審議や会見では、法案に理解を求める発言をした。
A:政府提出法案だから、大臣として必要な答弁はしたが、正直、本気で通すつもりはなかったですね。
Q:法務大臣を務めていた06年通常国会では、衆院法務委員会で採決寸前まで行った。
A:その時も、成立まで行き着く状況にはなかった。当時は野党だけでなく、公明党や自民党にも法律家の議員を中心に慎重論が根強く、尊重するべき意見も多く出ていた。 刑罰法規を新しくつくる時には、立法府は抑制的であるべきだと思うし、実際にそうだったのでしょう。
Q:今回の「共謀罪」法案についてはどう考えるか。
A:当時から国際的なテロや薬物犯罪などは世界的な課題で、国際協力や情報共有の態勢を整える必要性はよく理解できた。 テロは着手されたらおしまいだ。共謀はもとより、何らかの準備行為があっても、従来の「予備罪」は成立しない。そんな「すれすれ」の部分に絞り、何らかの立法化を図る必要はあると考えていました。 それが、「共謀罪」が議論になってからのこの十数年の経過に表れているのではないでしょうか。
Q:今国会で法案が再び提出された時はどのように感じましたか。
A:「その時が来たか」と思いましたね。処罰対象を「組織的犯罪集団」に絞り、犯行現場の下見などの具体的な「準備行為」を要件に加えた。東京五輪が迫る中で、国際協力という観点を考えても、「これならいいんじゃないか」という内容だろうと。
Q:「組織的犯罪集団」や「準備行為」の定義はあいまいで、拡大解釈される恐れがある、などの懸念が指摘されている。
A:刑事法制を変えるのだから、懸念が出るのは当然でしょう。「準備行為の定義があいまいだ」として様々な議論が出ているのも、必要なプロセスだ。国会で具体的な事例を一つひとつ挙げて、質問と答弁を積み重ねることでクリアにしていく。それが立法府のつとめだと思います。徹底した国会審議を望んでいます。
(杉浦氏の略歴省略)
■取材後記 元法相が当時の法案に批判的だったのは印象的だった。「今だから言える」とはいえ、「留保を付けて条約を批准する」という考え方は、主に反対派が主張していた。確かに当時の衆院法務委員会では、野党が次々に法案の問題点を指摘。自民や公明も法律家を中心に慎重論が根強かった。 杉浦氏は今回の法案は一定の評価をし、拡大解釈などの懸念は「国会審議で事例を積み重ねてクリアにしていける」との立場だ。だが、果たしていまの立法府にその役割は期待できるのか。杉浦氏は「現役でないので」と発言を控えた。
http://www.asahi.com/articles/ASK5242NDK52UHMC001.html
次に、5月25日付け日刊ゲンダイ「だから共謀罪はダメなのだ 警察と司法はかくもデタラメ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「果たして先進国の姿なのか」。さすがに驚いたに違いない。国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が、安倍首相あてに送った書簡で共謀罪法案の問題点をこう指摘していた。
・〈警察や公安や情報機関の活動が、民主的な社会に準じたものか。必要でも妥当でもない程度までプライバシー権を侵害しているかどうかについて懸念がある。この懸念には、GPSや電子機器などの監視手法を警察が裁判所に要請した際の裁判所の力量も含まれる〉 〈警察に容疑者情報を得るための令状を求める広範な機会を法案が与えれば、プライバシー権への影響が懸念される〉 〈日本の裁判所は令状要請に容易に応じる傾向があるとされる。2015年に警察が申請した通信傍受の請求はすべて裁判所によって認められた(却下は3%以下)との情報がある〉
・ケナタッチ氏は国連人権理事会に任命されたプライバシーの権利に関する専門家だ。そのケナタッチ氏が共謀罪法案について何よりも強い懸念を示したのが、警察や裁判所による“乱用”だった。 「正鵠を射た指摘です。共謀罪が成立すれば当局が任意捜査の段階から対象者の尾行、監視を日常的に行う可能性が高い。しかも是非の判断は当局であって、乱用をチェックする仕組みは何もありません。このため、恣意的に運用され、プライバシーが侵害される恐れがあるのではないか、と懸念したのです」(日弁連共謀罪法案対策本部事務局長の山下幸夫弁護士)
▽デタラメ司法に新たな武器を与えるな
・ケナタッチ氏が捜査機関の乱用を危惧したのもムリはない。すでに今の日本では、全国あちこちで人権を無視した警察の暴挙が繰り広げられているからだ。例えば、米軍普天間基地の辺野古移設に反対する住民のリーダー、山城博治氏を器物損壊容疑などで逮捕した沖縄県警は、微罪にもかかわらず、山城氏を接見禁止のまま5カ月間も勾留した。自白を強要し、否認を続けると長期勾留する――という悪しき「人質司法」の典型だ。
・違法捜査も日常茶飯事だ。大分県警は昨夏の参院選で、野党候補を支援する団体が入居する建物の敷地内に無断侵入し、出入りする人や車をビデオカメラで隠し撮りしていたし、最高裁で違法判決が出た令状ナシのGPS捜査をめぐる訴訟は全国各地で相次いでいる。
・捜査対象は恣意的で、摘発する、しないは警察・検察の胸三寸。自由党の小沢一郎代表の政治団体をめぐる不動産取得の期ズレ問題では、地検特捜部が調書を捏造してでも立件しようと血道を上げていたことがバレたが、片や昼間の大臣室でカネを受け取っていた甘利明前経再相の口利き事件や、ドリルでパソコンのハードディスクを破壊して証拠隠滅を図った小渕優子元経産相の政治資金規正法違反事件は、警察・検察も揃ってダンマリを決め込んだ。検察が掲げる「秋霜烈日」なんて嘘っぱちで、今の捜査機関は政権・与党の走狗に成り下がり、もっぱら“政敵潰し”のための国策捜査に躍起になっているのが実相だ。
・それでいて、身内の犯罪には大アマ。痴漢、ワイセツ、窃盗、公金着服……。警官の不祥事は毎日のように報じられているが、いつの間にやら不起訴処分や依願退職扱いになっているケースが少なくない。先日も、広島県警広島中央署で証拠品の現金8500万円の盗難事件が発覚したが、どう見たって内部犯行は明らかなのに、いまだにダラダラと捜査が続いている。恐らく、ほとぼりが冷めれば世間の関心も薄れるとタカをくくっているのだろう。国民をなめきっている証左だ。こんな緩み切った捜査機関に「共謀罪」なんて新たな武器を与えたら、大変な事態になるのは目に見えているではないか。
▽警察・検察はやりたい放題、裁判所は追認の暗黒司法が進む
・「支配層にとって際限なく権限を拡大し、弾圧する武器になる」 1942年に特高に治安維持法違反で逮捕され、連行された警察署で竹刀でめった打ちされて半殺しの目に遭った千葉・船橋市在住の杉浦正男氏は、共謀罪の怖さについて日刊ゲンダイのインタビューでこう語っていたが、治安維持法と共謀罪法案は恐ろしいほど似ている。
・〈抽象的文字を使わず具体的文字を使用しているので、解釈を誤ることはない〉〈決して思想にまで立ち入って圧迫するとか研究に干渉するということではない〉〈無辜の民にまで及ぼすという如きことのないよう十分研究考慮をいたしました〉 1925年の治安維持法制定の際、当時の若槻礼次郎内務大臣や小川平吉司法大臣はこう説明していたが、この内容は共謀罪法案に対する安倍の国会答弁とソックリだ。 〈解釈を恣意的にするより、しっかり明文的に法制度を確立する〉〈国民の思想や内心まで取り締まる懸念はまったく根拠がない〉〈一般の方々がその対象となることはあり得ないことがより明確になるように検討している〉(1月の参院本会議など
▽金田法相の「一般人は対象外」というウソ
・治安維持法は当初、一般人は対象にならない――と説明していたが、その後、適用対象がどんどん拡大。その結果、最終的には逮捕者数十万人、虐殺や拷問による獄中死は1600人以上に上ったとされる。金田勝年法相は、一般人について「何らかの団体に属しない方や、通常の団体に属して通常の社会生活を送っている方」とし、「捜査対象になることはあり得ない」と答弁しているが、法案に一般人の定義は書かれていない。
・共謀罪を適用するためには、罪を犯す前の相談や打ち合わせの監視が必要になる。結局、当局が捜査対象と判断するには、すべての国民=一般人を捜査対象に含めざるを得ないわけで、金田答弁はマヤカシに過ぎない。そして捜査対象とするのか否かを判断するのは当局であり、やはり、ここが問題なのだ。警察、検察、裁判所の癒着構造を指摘している元大阪高裁判事の生田暉雄弁護士はこう言う。 「共謀罪法案には『一般人は対象としない』と全く書かれておらず、成立すればどう運用されるのか分かりません。今以上に警察・検察はやりたい放題になり、それを裁判所は単に追認するだけ――という暗黒司法の時代が訪れることになる。恐ろしいことです」
・1942~45年にかけて、出版・言論関係者約60人が「共産主義を宣伝した」として治安維持法違反で逮捕された「横浜事件」。特高が「怪しい集団がよからぬ企みをした」という筋書きをデッチ上げた事件だが、今の警察・検察なら同じことをやりかねない。
・「おおっ」。共謀罪法案をめぐる23日の衆院本会議。ゼネコン汚職事件で逮捕、起訴された中村喜四郎議員が反対票を投じた際にどよめきが起こったが、実刑を食らって収監された“前科者”だけが共謀罪の本質を見抜いているなんてブラックジョークだ。
・治安維持法では、今の最高裁の前身とされる大審院が「治安維持法は違憲」との声を無視し、〈たとえ悪法でも臣民は従う義務がある〉と判示して拡大適用の片棒を担いだが、同じ轍を踏ませてはならない。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/206068/1
第三に、同じ5月25日付け日刊ゲンダイ「「国連の総意じゃない」 猛反論で無知をさらした安倍政権」を紹介しよう。
・これぞ“二枚舌”政権の正体見たりだ。国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が共謀罪法案の問題点を指摘する文書を安倍首相宛てに送ったことに対し、安倍首相と菅官房長官のコンビは「国連の総意じゃない」などと猛反論しているが、「無知」にもホドがある。
・G7サミットでイタリア南部、シチリア島を訪れた安倍首相は、27日に国連のグテレス事務総長と立ち話。グテレス氏から「(ケナタッチ氏の)主張は必ずしも国連の総意を示すものではない」との発言を引き出してニンマリ顔。22日の会見で菅官房長官が「特別報告者は個人の資格で調査報告を行う。国連の立場を反映するものではない」という“裏付け”を得て上機嫌だったのだろうが、全く分かっちゃいない。
・そもそもケナタッチ氏の指摘が現時点で国連の総意でないのは当たり前のことだ。日本のプライバシー権の保護状況を調査する義務を負うケナタッチ氏の報告を基に、人権理事会が「問題あり」と判断し、採択されて初めて「総意」となるからだ。調査途上にあるケナタッチ氏の指摘は総理や閣僚が感情ムキ出しで反論するようなことではない。しかも、政府は昨年7月15日、「世界の人権保護促進への日本の参画」と題した文書を公表し、人権理事会の調査に協力姿勢を示している。文書には〈特別報告者との有意義かつ建設的な対話の実現のため、今後もしっかりと協力していく〉と明記されているのだ。特別報告者に協力する――と約束しながら、問題提起されると「個人」扱い。世界もア然ボー然だ。
・しかもだ。日本政府は今春、北朝鮮の日本人拉致などの人権問題解決に尽力し、16年まで特別報告者を務めていたインドネシア国籍のマルズキ・ダルスマン氏に旭日重光章を授与している。政権にとって都合のいい人物は絶賛するが、苦言を呈する人物はこき下ろす。まったくデタラメだ。
・「今回の対応は、分かりやすいダブルスタンダードで、安倍政権らしい考え方と言える。ケナタッチ氏は特別報告者として、日本社会を調査する権限を持っています。しかるべき立場の人物が調査のために送った『質問書』を『国連の総意ではない』と切り捨て、抗議するなど全くの見当外れです」(日弁連共謀罪法案対策本部事務局長の山下幸夫弁護士)
・安倍政権から抗議文を送りつけられたケナタッチ氏は、「(抗議文は)中身のあるものではなかった」と憤慨。いやはや、世界中に恥をさらすのはいい加減にしてほしい。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/206329
第一の記事で、杉浦氏が指摘している 『外務省が00年に国際組織犯罪防止条約に署名し、「加盟するには共謀罪の創設が必要だから」と主張しているのを聞いた時は、「なにを言っているんだ」と思いましたね。 日本には共謀共同正犯の判例理論が確立していて、幅広く共犯を処罰できる。創設せずに対応できるとして「留保」を付けて加入する選択肢もあっただろうと』、は重大だ。法務当局が、国際条約加盟を錦の御旗に不必要なまでに当局の権限拡大を図ったことになる。第二、第三の記事で見るように、国連人権理事会の特別報告者から警告を受けるとは、やり過ぎを如実に示している。それにしても、 『3度の廃案を繰り返し、2000年代から足かけ10年以上にわたって審議された』 ような問題含みの法案が、安部一強体制下で強行採決で成立しようとしているのは、恐ろしいことだ。
第二の記事での 国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏の指摘はもっともだ。 『警察・検察はやりたい放題、裁判所は追認の暗黒司法が進む』、 『治安維持法は当初、一般人は対象にならない――と説明していたが、その後、適用対象がどんどん拡大。その結果、最終的には逮捕者数十万人、虐殺や拷問による獄中死は1600人以上に上ったとされる』、などの指摘はその通りだ。
第三の記事は、ケナタッチ氏の指摘と、安部政権の泥縄的対応を批判しており、正論だ。ケナタッチ氏の報告をもとに、人権理事会が審議する際にには、日本政府は必死の反論を余儀なくされるが、それでも「問題あり」と判断した場合は、一体どうするのだろう。今後の展開が注目点だ。
先ずは、5月5日付け朝日新聞「共謀罪「当時は通すつもりなかった」 杉浦元法相に聞く」を紹介しよう(Qは聞き手の質問、Aは杉浦氏の回答)。
・「共謀罪」法案は小泉政権時代から3度の廃案を経て、足かけ十数年にわたり議論されてきた。なぜ成立しなかったのか。衆院法務委員会で採決寸前まで行った2006年の通常国会当時に法相を務めていた元衆院議員の杉浦正健弁護士(82)に聞いた。
Q:「共謀罪」を創設する法案は3度の廃案を繰り返し、2000年代から足かけ10年以上にわたって審議された。なぜ、ここまで時間がかかったか。
A:外務省が00年に国際組織犯罪防止条約に署名し、「加盟するには共謀罪の創設が必要だから」と主張しているのを聞いた時は、「なにを言っているんだ」と思いましたね。 日本には共謀共同正犯の判例理論が確立していて、幅広く共犯を処罰できる。創設せずに対応できるとして「留保」を付けて加入する選択肢もあっただろうと。対象犯罪が600以上というのも「多すぎる」というのが、当時の素朴な感覚でした。
Q:とはいえ、当時の国会審議や会見では、法案に理解を求める発言をした。
A:政府提出法案だから、大臣として必要な答弁はしたが、正直、本気で通すつもりはなかったですね。
Q:法務大臣を務めていた06年通常国会では、衆院法務委員会で採決寸前まで行った。
A:その時も、成立まで行き着く状況にはなかった。当時は野党だけでなく、公明党や自民党にも法律家の議員を中心に慎重論が根強く、尊重するべき意見も多く出ていた。 刑罰法規を新しくつくる時には、立法府は抑制的であるべきだと思うし、実際にそうだったのでしょう。
Q:今回の「共謀罪」法案についてはどう考えるか。
A:当時から国際的なテロや薬物犯罪などは世界的な課題で、国際協力や情報共有の態勢を整える必要性はよく理解できた。 テロは着手されたらおしまいだ。共謀はもとより、何らかの準備行為があっても、従来の「予備罪」は成立しない。そんな「すれすれ」の部分に絞り、何らかの立法化を図る必要はあると考えていました。 それが、「共謀罪」が議論になってからのこの十数年の経過に表れているのではないでしょうか。
Q:今国会で法案が再び提出された時はどのように感じましたか。
A:「その時が来たか」と思いましたね。処罰対象を「組織的犯罪集団」に絞り、犯行現場の下見などの具体的な「準備行為」を要件に加えた。東京五輪が迫る中で、国際協力という観点を考えても、「これならいいんじゃないか」という内容だろうと。
Q:「組織的犯罪集団」や「準備行為」の定義はあいまいで、拡大解釈される恐れがある、などの懸念が指摘されている。
A:刑事法制を変えるのだから、懸念が出るのは当然でしょう。「準備行為の定義があいまいだ」として様々な議論が出ているのも、必要なプロセスだ。国会で具体的な事例を一つひとつ挙げて、質問と答弁を積み重ねることでクリアにしていく。それが立法府のつとめだと思います。徹底した国会審議を望んでいます。
(杉浦氏の略歴省略)
■取材後記 元法相が当時の法案に批判的だったのは印象的だった。「今だから言える」とはいえ、「留保を付けて条約を批准する」という考え方は、主に反対派が主張していた。確かに当時の衆院法務委員会では、野党が次々に法案の問題点を指摘。自民や公明も法律家を中心に慎重論が根強かった。 杉浦氏は今回の法案は一定の評価をし、拡大解釈などの懸念は「国会審議で事例を積み重ねてクリアにしていける」との立場だ。だが、果たしていまの立法府にその役割は期待できるのか。杉浦氏は「現役でないので」と発言を控えた。
http://www.asahi.com/articles/ASK5242NDK52UHMC001.html
次に、5月25日付け日刊ゲンダイ「だから共謀罪はダメなのだ 警察と司法はかくもデタラメ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「果たして先進国の姿なのか」。さすがに驚いたに違いない。国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が、安倍首相あてに送った書簡で共謀罪法案の問題点をこう指摘していた。
・〈警察や公安や情報機関の活動が、民主的な社会に準じたものか。必要でも妥当でもない程度までプライバシー権を侵害しているかどうかについて懸念がある。この懸念には、GPSや電子機器などの監視手法を警察が裁判所に要請した際の裁判所の力量も含まれる〉 〈警察に容疑者情報を得るための令状を求める広範な機会を法案が与えれば、プライバシー権への影響が懸念される〉 〈日本の裁判所は令状要請に容易に応じる傾向があるとされる。2015年に警察が申請した通信傍受の請求はすべて裁判所によって認められた(却下は3%以下)との情報がある〉
・ケナタッチ氏は国連人権理事会に任命されたプライバシーの権利に関する専門家だ。そのケナタッチ氏が共謀罪法案について何よりも強い懸念を示したのが、警察や裁判所による“乱用”だった。 「正鵠を射た指摘です。共謀罪が成立すれば当局が任意捜査の段階から対象者の尾行、監視を日常的に行う可能性が高い。しかも是非の判断は当局であって、乱用をチェックする仕組みは何もありません。このため、恣意的に運用され、プライバシーが侵害される恐れがあるのではないか、と懸念したのです」(日弁連共謀罪法案対策本部事務局長の山下幸夫弁護士)
▽デタラメ司法に新たな武器を与えるな
・ケナタッチ氏が捜査機関の乱用を危惧したのもムリはない。すでに今の日本では、全国あちこちで人権を無視した警察の暴挙が繰り広げられているからだ。例えば、米軍普天間基地の辺野古移設に反対する住民のリーダー、山城博治氏を器物損壊容疑などで逮捕した沖縄県警は、微罪にもかかわらず、山城氏を接見禁止のまま5カ月間も勾留した。自白を強要し、否認を続けると長期勾留する――という悪しき「人質司法」の典型だ。
・違法捜査も日常茶飯事だ。大分県警は昨夏の参院選で、野党候補を支援する団体が入居する建物の敷地内に無断侵入し、出入りする人や車をビデオカメラで隠し撮りしていたし、最高裁で違法判決が出た令状ナシのGPS捜査をめぐる訴訟は全国各地で相次いでいる。
・捜査対象は恣意的で、摘発する、しないは警察・検察の胸三寸。自由党の小沢一郎代表の政治団体をめぐる不動産取得の期ズレ問題では、地検特捜部が調書を捏造してでも立件しようと血道を上げていたことがバレたが、片や昼間の大臣室でカネを受け取っていた甘利明前経再相の口利き事件や、ドリルでパソコンのハードディスクを破壊して証拠隠滅を図った小渕優子元経産相の政治資金規正法違反事件は、警察・検察も揃ってダンマリを決め込んだ。検察が掲げる「秋霜烈日」なんて嘘っぱちで、今の捜査機関は政権・与党の走狗に成り下がり、もっぱら“政敵潰し”のための国策捜査に躍起になっているのが実相だ。
・それでいて、身内の犯罪には大アマ。痴漢、ワイセツ、窃盗、公金着服……。警官の不祥事は毎日のように報じられているが、いつの間にやら不起訴処分や依願退職扱いになっているケースが少なくない。先日も、広島県警広島中央署で証拠品の現金8500万円の盗難事件が発覚したが、どう見たって内部犯行は明らかなのに、いまだにダラダラと捜査が続いている。恐らく、ほとぼりが冷めれば世間の関心も薄れるとタカをくくっているのだろう。国民をなめきっている証左だ。こんな緩み切った捜査機関に「共謀罪」なんて新たな武器を与えたら、大変な事態になるのは目に見えているではないか。
▽警察・検察はやりたい放題、裁判所は追認の暗黒司法が進む
・「支配層にとって際限なく権限を拡大し、弾圧する武器になる」 1942年に特高に治安維持法違反で逮捕され、連行された警察署で竹刀でめった打ちされて半殺しの目に遭った千葉・船橋市在住の杉浦正男氏は、共謀罪の怖さについて日刊ゲンダイのインタビューでこう語っていたが、治安維持法と共謀罪法案は恐ろしいほど似ている。
・〈抽象的文字を使わず具体的文字を使用しているので、解釈を誤ることはない〉〈決して思想にまで立ち入って圧迫するとか研究に干渉するということではない〉〈無辜の民にまで及ぼすという如きことのないよう十分研究考慮をいたしました〉 1925年の治安維持法制定の際、当時の若槻礼次郎内務大臣や小川平吉司法大臣はこう説明していたが、この内容は共謀罪法案に対する安倍の国会答弁とソックリだ。 〈解釈を恣意的にするより、しっかり明文的に法制度を確立する〉〈国民の思想や内心まで取り締まる懸念はまったく根拠がない〉〈一般の方々がその対象となることはあり得ないことがより明確になるように検討している〉(1月の参院本会議など
▽金田法相の「一般人は対象外」というウソ
・治安維持法は当初、一般人は対象にならない――と説明していたが、その後、適用対象がどんどん拡大。その結果、最終的には逮捕者数十万人、虐殺や拷問による獄中死は1600人以上に上ったとされる。金田勝年法相は、一般人について「何らかの団体に属しない方や、通常の団体に属して通常の社会生活を送っている方」とし、「捜査対象になることはあり得ない」と答弁しているが、法案に一般人の定義は書かれていない。
・共謀罪を適用するためには、罪を犯す前の相談や打ち合わせの監視が必要になる。結局、当局が捜査対象と判断するには、すべての国民=一般人を捜査対象に含めざるを得ないわけで、金田答弁はマヤカシに過ぎない。そして捜査対象とするのか否かを判断するのは当局であり、やはり、ここが問題なのだ。警察、検察、裁判所の癒着構造を指摘している元大阪高裁判事の生田暉雄弁護士はこう言う。 「共謀罪法案には『一般人は対象としない』と全く書かれておらず、成立すればどう運用されるのか分かりません。今以上に警察・検察はやりたい放題になり、それを裁判所は単に追認するだけ――という暗黒司法の時代が訪れることになる。恐ろしいことです」
・1942~45年にかけて、出版・言論関係者約60人が「共産主義を宣伝した」として治安維持法違反で逮捕された「横浜事件」。特高が「怪しい集団がよからぬ企みをした」という筋書きをデッチ上げた事件だが、今の警察・検察なら同じことをやりかねない。
・「おおっ」。共謀罪法案をめぐる23日の衆院本会議。ゼネコン汚職事件で逮捕、起訴された中村喜四郎議員が反対票を投じた際にどよめきが起こったが、実刑を食らって収監された“前科者”だけが共謀罪の本質を見抜いているなんてブラックジョークだ。
・治安維持法では、今の最高裁の前身とされる大審院が「治安維持法は違憲」との声を無視し、〈たとえ悪法でも臣民は従う義務がある〉と判示して拡大適用の片棒を担いだが、同じ轍を踏ませてはならない。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/206068/1
第三に、同じ5月25日付け日刊ゲンダイ「「国連の総意じゃない」 猛反論で無知をさらした安倍政権」を紹介しよう。
・これぞ“二枚舌”政権の正体見たりだ。国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が共謀罪法案の問題点を指摘する文書を安倍首相宛てに送ったことに対し、安倍首相と菅官房長官のコンビは「国連の総意じゃない」などと猛反論しているが、「無知」にもホドがある。
・G7サミットでイタリア南部、シチリア島を訪れた安倍首相は、27日に国連のグテレス事務総長と立ち話。グテレス氏から「(ケナタッチ氏の)主張は必ずしも国連の総意を示すものではない」との発言を引き出してニンマリ顔。22日の会見で菅官房長官が「特別報告者は個人の資格で調査報告を行う。国連の立場を反映するものではない」という“裏付け”を得て上機嫌だったのだろうが、全く分かっちゃいない。
・そもそもケナタッチ氏の指摘が現時点で国連の総意でないのは当たり前のことだ。日本のプライバシー権の保護状況を調査する義務を負うケナタッチ氏の報告を基に、人権理事会が「問題あり」と判断し、採択されて初めて「総意」となるからだ。調査途上にあるケナタッチ氏の指摘は総理や閣僚が感情ムキ出しで反論するようなことではない。しかも、政府は昨年7月15日、「世界の人権保護促進への日本の参画」と題した文書を公表し、人権理事会の調査に協力姿勢を示している。文書には〈特別報告者との有意義かつ建設的な対話の実現のため、今後もしっかりと協力していく〉と明記されているのだ。特別報告者に協力する――と約束しながら、問題提起されると「個人」扱い。世界もア然ボー然だ。
・しかもだ。日本政府は今春、北朝鮮の日本人拉致などの人権問題解決に尽力し、16年まで特別報告者を務めていたインドネシア国籍のマルズキ・ダルスマン氏に旭日重光章を授与している。政権にとって都合のいい人物は絶賛するが、苦言を呈する人物はこき下ろす。まったくデタラメだ。
・「今回の対応は、分かりやすいダブルスタンダードで、安倍政権らしい考え方と言える。ケナタッチ氏は特別報告者として、日本社会を調査する権限を持っています。しかるべき立場の人物が調査のために送った『質問書』を『国連の総意ではない』と切り捨て、抗議するなど全くの見当外れです」(日弁連共謀罪法案対策本部事務局長の山下幸夫弁護士)
・安倍政権から抗議文を送りつけられたケナタッチ氏は、「(抗議文は)中身のあるものではなかった」と憤慨。いやはや、世界中に恥をさらすのはいい加減にしてほしい。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/206329
第一の記事で、杉浦氏が指摘している 『外務省が00年に国際組織犯罪防止条約に署名し、「加盟するには共謀罪の創設が必要だから」と主張しているのを聞いた時は、「なにを言っているんだ」と思いましたね。 日本には共謀共同正犯の判例理論が確立していて、幅広く共犯を処罰できる。創設せずに対応できるとして「留保」を付けて加入する選択肢もあっただろうと』、は重大だ。法務当局が、国際条約加盟を錦の御旗に不必要なまでに当局の権限拡大を図ったことになる。第二、第三の記事で見るように、国連人権理事会の特別報告者から警告を受けるとは、やり過ぎを如実に示している。それにしても、 『3度の廃案を繰り返し、2000年代から足かけ10年以上にわたって審議された』 ような問題含みの法案が、安部一強体制下で強行採決で成立しようとしているのは、恐ろしいことだ。
第二の記事での 国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏の指摘はもっともだ。 『警察・検察はやりたい放題、裁判所は追認の暗黒司法が進む』、 『治安維持法は当初、一般人は対象にならない――と説明していたが、その後、適用対象がどんどん拡大。その結果、最終的には逮捕者数十万人、虐殺や拷問による獄中死は1600人以上に上ったとされる』、などの指摘はその通りだ。
第三の記事は、ケナタッチ氏の指摘と、安部政権の泥縄的対応を批判しており、正論だ。ケナタッチ氏の報告をもとに、人権理事会が審議する際にには、日本政府は必死の反論を余儀なくされるが、それでも「問題あり」と判断した場合は、一体どうするのだろう。今後の展開が注目点だ。
タグ:「「国連の総意じゃない」 猛反論で無知をさらした安倍政権 国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が共謀罪法案の問題点を指摘する文書を安倍首相宛てに送ったことに対し、安倍首相と菅官房長官のコンビは「国連の総意じゃない」などと猛反論しているが、「無知」にもホドがある G7サミット 国連のグテレス事務総長 ケナタッチ氏は特別報告者として、日本社会を調査する権限を持っています。しかるべき立場の人物が調査のために送った『質問書』を『国連の総意ではない』と切り捨て、抗議するなど全くの見当外れです ケナタッチ氏の指摘が現時点で国連の総意でないのは当たり前のことだ 「(ケナタッチ氏の)主張は必ずしも国連の総意を示すものではない 決して思想にまで立ち入って圧迫するとか研究に干渉するということではない 捜査対象とするのか否かを判断するのは当局であり、やはり、ここが問題なのだ 小沢一郎代表の政治団体をめぐる不動産取得の期ズレ問題では、地検特捜部が調書を捏造してでも立件しようと血道を上げていたことがバレたが 日刊ゲンダイ 捜査対象は恣意的で、摘発する、しないは警察・検察の胸三寸 安維持法は当初、一般人は対象にならない――と説明していたが、その後、適用対象がどんどん拡大。その結果、最終的には逮捕者数十万人、虐殺や拷問による獄中死は1600人以上に上ったとされる 金田法相の「一般人は対象外」というウソ 1925年の治安維持法制定の際、当時の若槻礼次郎内務大臣や小川平吉司法大臣はこう説明していたが、この内容は共謀罪法案に対する安倍の国会答弁とソックリだ 無辜の民にまで及ぼすという如きことのないよう十分研究考慮をいたしました 治安維持法と共謀罪法案は恐ろしいほど似ている 大臣として必要な答弁はしたが、正直、本気で通すつもりはなかったですね 違法捜査も日常茶飯事 すでに今の日本では、全国あちこちで人権を無視した警察の暴挙が繰り広げられている 何よりも強い懸念を示したのが、警察や裁判所による“乱用” 共謀罪 日本の裁判所は令状要請に容易に応じる傾向があるとされる 日本には共謀共同正犯の判例理論が確立していて、幅広く共犯を処罰できる。創設せずに対応できるとして「留保」を付けて加入する選択肢もあっただろうと 警察に容疑者情報を得るための令状を求める広範な機会を法案が与えれば、プライバシー権への影響が懸念される 外務省が00年に国際組織犯罪防止条約に署名し、「加盟するには共謀罪の創設が必要だから」と主張しているのを聞いた時は、「なにを言っているんだ」と思いましたね 警察や公安や情報機関の活動が、民主的な社会に準じたものか。必要でも妥当でもない程度までプライバシー権を侵害しているかどうかについて懸念がある。この懸念には、GPSや電子機器などの監視手法を警察が裁判所に要請した際の裁判所の力量も含まれる 安倍首相あてに送った書簡で共謀罪法案の問題点をこう指摘 「共謀罪」法案は小泉政権時代から3度の廃案を経て、足かけ十数年にわたり議論 国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏 共謀罪「当時は通すつもりなかった」 杉浦元法相に聞く 果たして先進国の姿なのか 朝日新聞 (その4)(共謀罪「当時は通すつもりなかった」 杉浦元法相に聞く、警察と司法はかくもデタラメ、「国連の総意じゃない」 猛反論で無知をさらした安倍政権) だから共謀罪はダメなのだ 警察と司法はかくもデタラメ 警察・検察はやりたい放題、裁判所は追認の暗黒司法が進む 身内の犯罪には大アマ 片や昼間の大臣室でカネを受け取っていた甘利明前経再相の口利き事件や、ドリルでパソコンのハードディスクを破壊して証拠隠滅を図った小渕優子元経産相の政治資金規正法違反事件は、警察・検察も揃ってダンマリを決め込んだ
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