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ブラック企業(その6)(灰色の“自己啓発残業”へ誘う「過剰適応」の罠、ブラック企業リストに覚えた新たな怒り、労基署エース部隊が狙う「あの旅行会社」) [企業経営]

ブラック企業については、2月8日に取上げたが、今日は、(その6)(灰色の“自己啓発残業”へ誘う「過剰適応」の罠、ブラック企業リストに覚えた新たな怒り、労基署エース部隊が狙う「あの旅行会社」) である。

先ずは、健康社会学者の河合薫氏が2月14日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「灰色の“自己啓発残業”へ誘う「過剰適応」の罠 暗黙の指示によるグレーな労働が意識の高い若手を追い込む」を紹介しよう(▽は小見出し、+は段落)。
・2012年12月。23歳の新人看護師が亡くなった。 遺体で発見された一人暮らしのアパートには、遺書が残されていた。 「自分が大嫌いで、何を考えて、何をしたいのか、何ができるのかわからなくて。苦しくて、誰に助けを求めればいいのか、助けてもらえるのか、全然わからなくて。考えなくていいと思ったら、幸せになりました。甘ったれでごめんなさい」
・その2日前。夜勤を終えた彼女は、 「11月30日。看護師向いてないのかもー。あー自分消えればいいのに、なんてねー」 と、SNSでつぶやいていたという。 彼女はなぜ、死を選ばなければならなかったのか――。
・母親は「娘が自殺したのは長時間労働などで、うつ病を発症したことが原因」だとして、勤務先病院の運営主体であった国を提訴。 その初弁論が、2017年2月3日札幌地方裁判所で開かれ、「帰宅後の、娘の自宅での仕事は一切、時間外として考慮されていない」とする原告(母親)に対し、国側は答弁書で請求を退けるよう求め、争う姿勢を示した。つまり「労災は認められない」と主張したのだ。
・看護師の女性は2012年4月からKKR札幌医療センターに勤務していたそうだ。その翌月の5月の時間外労働は、約91時間。 5月13日にはLINEで、「この前の初めての夜勤で、事故起こしたんだよね。全盲の患者さんの薬の量、間違ったんだ。それがもう、とどめって感じで」とのやりとりを、友人との間でしていたことが確認されている。
・6月以降も“時間外”は続き、6月は85時間、7月は73時間、8月は85時間で、9月は70時間、10月は69時間、11月は65時間。この中には夜勤も含まれている。 さらに彼女は帰宅後も、業務に不可欠な知識をフォローアップするため毎晩毎晩、机に向い続け、睡眠時間は2、3時間程度だった。
・作成が毎日義務付けられていた、先輩看護師との間の記録には「なんでその処置が必要か、根拠について確認してください」「知らない時は調べる」といった記述も残されており、彼女が“ひとりの看護師”として、きちんとした仕事をするために寝る間を惜しんで勉強していたことをうかがい知ることができる。
・つまり、今回の裁判のポイントは、時間外労働の長さに加え、仕事に必要な知識を補うための「自宅での仕事」をどう捉えるのか――というのが一つ。また、先の勤務には夜勤も含まれているので、心身に負担がかかる夜勤の捉え方もポイントとなる。
▽極めてグレーな「持ち帰り残業」
・数年前には、英会話学校の講師だった22歳(当時)の女性が2011年に自死したのは、「持ち帰り残業」が原因だったとして労災が認められている。 ただ、このときの自宅での仕事は「授業で使う『単語カード』を2千枚以上自宅で作る」というもので、これが業務命令と判断されたという経緯がある。
・「持ち帰り残業=自宅での仕事」は、サービス残業同様、いや、それ以上に、極めてグレーな“働かせ方”。厚生労働省はサービス残業をなくすために1月20日、「自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと」と明記した新たなガイドランを策定したが、「自宅での仕事=自己啓発?」「自宅での仕事=サービス残業?」については線引きが難しく、どこまで認めてもらえるのか……。
・また、特にヒューマンサービスの現場には、「労働時間」だけでは語れない過酷さがある。 5年ほど前に看護師の方たちに、私が開発したストレスマネジメントプログラムを実践してもらい、その効果を検証する実証研究を行ったことがある。 プログラムを実施するにあたり、数名の看護師にフォーカスグループインタビュー(※)を実施したのだが、多く聞かれたのが、看護師さんたちが感じる「職務上の要求の高さ」と「心理的プレッシャー」だった。  ※意識や深層心理を把握することができる座談会形式のインタビュー調査
・仕事量が多いのに加え、時間的切迫度も高い。絶対にミスは許されない。人手不足でひとりの看護師の責任が非常に高い。他の看護師のサポートを受けることができない。医療技術や使われる薬品も日々更新されるので、休日も勉強する必要がありゆっくり休むことができない――。
・さらに、 ・高齢化社会で認知症の方も多く、四六時中ナースコールに呼び出されることもある。 ・経験の浅い看護師に先輩が教えたり、サポートしたりする余裕がないので、孤軍奮闘している若い看護師が多い。 ・看護師の仕事は育児や介護との両立も極めて難しいため、ベテランの離職もあとをたたない という声も多かった。
▽仕事の要求度が高まると、自ら“働き過ぎ”に突き進む矛盾
・こういった状況は、日本医療労働組合連合会(医労連)が取りまとめた2013年の「看護職員の労働実態調査」でも示されている。
 ・「1年前に比べて、仕事量が増えた」は59.6%
 ・「疲れが翌日に残る」「いつも疲れている」は合計73.6%で過去最高
 ・「強いストレスがある」 は67.2%
 ・「健康に不安」は 60.0% 
 ・妊娠者の 3 分の 1 が夜勤免除なし
 ・妊娠者の3 人にひとりが切迫流産を経験 
・4人に3人が「仕事を辞めたい」とし、その理由のトップは「人手不足で仕事がきつい」(44.2%)で、以下「賃金が安い」「休暇がとれない」「夜勤がつらい」と続いていた。
・奇しくも2月6日、医労連が、「夜勤交代制労働など業務は過重である。(月平均60時間・年間720時間、繁忙期には単月100時間、その翌月とあわせた2カ月平均で80時間まで時間外労働を認めるという)政府案はまさに過労死を容認するもので、断じて容認できない」として、「月60時間」が過労死ラインと主張する談話を公表した。
・過労死認定にはある一定の基準が必要なことは、重々理解できる。だが、“長時間労働だけ”を、疲労やストレスの直接の原因とするのは、極めて危険。仕事上の要求とプレッシャーが増大することによっても、疲労やストレスは増大することを忘れてはならない。
・一方、仕事の要求とプレッシャーが高まると、人は自ら“働き過ぎ”を拡大するという矛盾がおこる。 「いい仕事をするためには、私的な時間を犠牲にしてもやむをえない」と過剰適応し、身も心も疲れ果てボロボロになっているのに、どこまでも働き続けてしまうのである。
・「いい仕事をしたい」「会社に貢献したい」「お客さんを喜ばせたい」といった承認欲求に加え「人に迷惑をかけたくない」という意識が、 長時間労働→疲労→家でも仕事→睡眠不足→作業能率の低下によるミス→自己嫌悪→挽回するため長時間労働+家でも仕事→さらなる疲労―― といった矛盾に満ちた行動を、可能にしてしまうのだ。
▽「人生を生き抜く力」は“傘”に左右される
・そういった「人間の矛盾」を加味した上で、心身に悪影響を生じさせる労働時間を分析していくと、ボーダーラインは「月残業時間50時間前後」で、「帰宅時間22時」ということがわかっている。 実はこの指標、私の大学院時代の指導教官であり、恩師の山崎喜比古先生が1993年に行った調査で明らかにしたもの。この研究は、長時間労働と健康との関係を考察した代表的な研究としていまなお評価されていて、私にとってはバイブルなようなものだ。この調査結果が、働く問題を考えるときの土台になっているといっても過言ではない(東京都立労働研究所「中壮年男性の職業生活と疲労・ストレス」)。
・「残業50時間なんて、夢のまた夢!」と思う人もいるかもしれない。だが、他の研究者が行った調査でも近似した結果が得られているし、脳血管疾患・心臓疾患のリスクも「月残業45時間」を境に急激に高まることがわかっている。 私たちは想像以上に弱く、想像以上に強い。この二面性が複雑に絡まり合いながら、私たちは社会的な動物として、環境に“適応”しているのである。
・そもそも「自殺する」――と表現をするけど、死にたくて死ぬ人はいない。 自殺する人の誰一人として、喜んで死を選ぶ人はいない。 言い方を変えれば、生きる力が萎えるから「死」に向かってしまうのだ。
・「ストレス対処力(Sense of Coherence:SOC)」――。これは幾度となくこのコラムでも取り上げている概念だが、SOCは誰もが内部に秘めている「生きる力」だ。 人生で遭遇する困難や危機は、いわば人生の雨。危機を乗り越えるリソース(=傘)を備え、対処(=乗り越えること)に成功すれば、SOCは高められる。
・SOCには、「健康の維持や回復に必要とされる行動を確実かつ継続的に実行できる」防衛能力としての機能もある。 また、SOCが高いと、ストレスの雨に遭遇しても、決してパニックに陥らずに冷静かつ客観的に受け止められ、ときには「雨が通り過ぎる」まで待ったり、ときには「すぐにやむから」と我慢したり、「これはもっと強くなりそうだぞ」というときには、傘をかき集め濡れないように対処できる。
・しかしながら、どんなにSOCが高い人であっても、手持ちの傘だけではどうにもならないような豪雨に降られたり、傘が見つからなかったりすると、次第にストレス豪雨に心がやられ、生きる力が失せる。 傘がない、傘が足りない。「傘を貸してください」と頼める他者も、「この傘を使って」と傘を差し出してくれる他者もいない――。こういった状況が、その人のSOCを低下させ、生きる力を萎えさせる。その結果、人は取り返しのつかない、悲しい行動をとってしまうのである。
▽“野ざらし”の職場
・新人看護師さんの状況を思い起こしてほしい。 看護師として働き始める時期には、「期待、希望」という光が差し込む一方で、初めてのことばかりでストレスの雨も降っていたはずだ。そして、その雨をなんとかしのいでいるうち、「一人前の看護師」として多くの患者さんを任された。 ベテランの看護師でさえ「勉強に終わりはない」という医療の世界だ。高齢化社会で重症患者も多い。
・そういった過酷な状況下で他者の傘を借りようにも、周りの先輩たちもいっぱいいっぱいだから借りることが出来ず、先輩たちにも彼女に「傘を差し出す」余裕はない。 いわゆる突然死の過労死は、何度かこのコラムでも書いたように前頭葉にある疲れの見張り番の疲弊で、「疲れを自覚せず、死ぬまで働いてしまう」メカニズムにはまるわけだが(「“スーパーネズミ”はなぜ死んだ?」参照)、過労による自殺は「生きる力」であるSOCが機能しなくなった結果だ。
・何度でも言う。職場で降り注ぐ雨に濡れ続け、生きる力が萎えた結果なのだ。 もし、雨が降ってきても、
+足りない知識を補うサポート体制が現場にあったり、 +職場の風通しがよく、ちょっとした相談ができたり、+落ち着いて勉強できる時間を持てたり、 +その日の疲れをとる睡眠時間(6時間以上)が確保できたり、 +休日に友人とドライブに出かけたり、 +美味しいものを食べに行ったり、 +友人と愚痴を言い合って笑い飛ばせる時間があったり、 +趣味を持てる余裕がある生活をできたり、 etc、etc… 
・そういったいくつもの「傘」があれば、「私、なんでこんなにダメなんだろう」ではなく、「うん、なんとかできた。よくやった!」と、今度は“自信”という傘を手に入れ、SOCを高めていくことができる。 そんなSOCを高める職場環境の会社が、日本社会にどれだけ存在するのだろう。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/021000091/?P=1

次に、同じ河合氏が5月17日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「ブラック企業リストに覚えた新たな怒り 違う意味での新たな“犠牲者”を生み出す危険が」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・いわゆる“ブラック企業”が、ついに公開された。 先週の水曜日(5月10日)、労働基準法令に違反したとしてこの半年間に書類送検した全国334件の社名を、厚労省がHPに掲載したのだ(こちら)。 厚労省の担当者によれば、 「昨年末に発表した『過労死等ゼロ』緊急対策の一環で、一覧表にすることで社会に警鐘を鳴らす狙いがある」 のだと言う。
・「おお、遂に!」と、早速一覧表を見た瞬間……  「こ、これは……、だ、大丈夫なのだろうか?」と戸惑った。 334件の中には、高橋まつりさんが過労自殺した「電通」の社名もあったが、明らかに「下請け」と思しき企業名がわんさか載っているではないか! というかおそらくほとんどが、体力のない下請け企業であることは間違いない。HPが存在しない企業も多く、愛知、大阪、福岡などに集中しているのも気になった。
・つまり、 「発注元はどこ? 買いたたかれて無理したのでは?? 支払いされてる??? ここに掲載されたことがきっかけで、つぶれちゃう企業もあるのでは????」 と、心配になってしまったのである。
▽新たな犠牲者が生まれる構造
・もちろんいかなる理由であれ、違法は違法だ。 賃金はきちんと払わなきゃだし、労働者の安全対策を徹底しなきゃだし、違法な長時間労働はもってのほか。外国人技能実習生だろうとなんだろうと、最低賃金の原則はきちんと守らなくてはならない。 だが、どうも釈然としないのです。もっと構造的な問題まで切り込まないと。これでは末端の業者叩きでしかなく、違う意味での新たな“犠牲者”を生み出すことになりかねない。 そこで、今回は「下請けの今」についてアレコレ考えてみようと思う。
・数年前、ある団体の講演会に呼ばれ、その後の懇親会に参加したときのこと。 「○○(某商品名)をご存知ですか?」と、名刺交換にいらした方に聞かれたことがあった。 「はい、知ってますよ!」と答えると、「アレ、うちの会社でつくっているんですよ」と。 「ああ、そうなんですか~。▲△(某企業)が作ってるんじゃないんですね?」と聞いたところ、「開発は下請けがやっているんです」と笑顔で答え、以下のような話をしてくれた。
・「最初の頃は結構、良かったんです。単価は決して高くありませんでしたけど、うちの会社の他の製品も買ってくれるという条件だった。それに大企業さんが、ウチみたいな小さな会社に頭下げて『開発をお願いしたい』なんていうわけですから、そりゃあうれしいですよね」 「ですから新製品を開発するのは大変でしたけど、社員のモチベーションもあがったし、何よりも会社としては大口契約だったのでありがたかった。 ところが数年前に『会社の方針で他の製品は買わない』と宣言されてから、状況は一変しました。
・新商品プレゼンの頻度があがり、単価も下げられた。納期までの期日も短縮されました。従業員の賃金はいっこうに上がらず、発注先との差は増々広がってしまいました。 ただ、すべて買い取りなので返品はありませんし、問題がおきたときは彼らがすべて対応します。なので、ウチはまだ恵まれているのかもしれません」
▽新製品ラッシュの影に聞こえる悲鳴
・「下請けによっては返品もあるってことですか?」(河合)  「あります。そっちの方が多いかもしれません。まぁ、恵まれているといっても、ウチも長時間労働は常態化しています。社員も高齢化していて、若い人が必要なのに、こんな労働環境じゃダメですよね。 本当は無理難題を押し付ける業者とは取引しなきゃいいのかもしれませんけど、選り好みしてたらつぶれちゃいます。結局、大きくて体力ある企業だけが勝ち続け、小さいところはどんどんと疲弊していく構造になってるんです。どうにかしなきゃなんですけど、厳しい。本当に厳しいんです」 ちなみにこの男性は50代、社長は70歳で、従業員はすべて正社員だという。
・「ああ~そうなんですか~。オタクの会社で作ってるんですか~」。 私はこれまで何度、このフレーズを口にしてきただろうか。 講演会で、フィールドインタビューで、中間管理職や経営者の方たちとの会合で……。
・おどろくほど私たちの周りには、下請け、孫請けの小さな会社が作った製品が散在する。 コンビニやスーパーにいくと、「これでもか!」というくらい新商品が溢れ、お正月、節分、バレンタイン、ホワイトデー、サクラ、新学期、ゴールデンウィーク、梅雨、初夏、盛夏、夏休み、中秋の名月、ハロウィーン、クリスマス etc etc……と、実に短いスパンで店の棚の商品が入れ替わる。 確かに「新商品」というフレーズは魅力的だ。
・だが、果たして消費者はここまで「新商品」を求めているのだろうか。 そもそも人は選択肢の数が多いと、逆に消費から遠のくことはマーケティングの知識がある人ならわかっているはずなのに……。なぜ、ここまで商品を増やし、サイクルを短くするのか? ひょっとして不安から逃れるために「新商品を作らずにはいられない症候群」みたいなものが、発注元の企業に広まっているのでは? と思ったりもする。
・また、先の下請け業者は、江戸時代から始まったといわれる「多重構造」の典型的なカタチである「外部」への委託だが、この数年で異なる“カタチ”も増えた。 内部にいる「外部人材」。いわゆる「業務委託」だ。 これはあくまでも個人的な感覚なのだが、マスコミや広告業界で、業務委託がここ数年で爆発的に増えたように思う。
・例えば現場で名刺交換をしたときに、「○○会社の人だけ」ということは滅多にない。 名刺の連絡先が別会社になっていたり、名刺の社名が違ったり。「○○会社から業務委託を受けた下請け企業の社員」が、○○会社に出向き、そこであたかも「○○会社」の社員のように働いている。
・大抵の場合、下請けは数名の零細企業。「○○会社」の社員より劣悪な待遇で、発注元の社員より安い賃金で働いている。「○○会社」の社員には残業が禁止されていても、彼らは〆切を守るために遅くまで働かされる。現場で働く彼らは「週明けまでよろしくね!」と金曜の夜に言われば、「イエス」と言わざるを得ない。「ノー」という答えは用意されていないのである。 身分格差、賃金格差は、非正規と正社員だけではなく、内部の「外部人材」にも存在するのだ。
▽悪質な“いじめ”の数々
・公正取引委員会は、2015年度に下請代金支払遅延等防止法違反で、4件の勧告と過去最多となる5980件の指導を行った(「2015年度の下請法の運用状況」より)。 具体的には、食料・日用品の製造を委託している業者に対し、販売協力奨励金や追加奨励金などの勝手な名目を付けて、業者に支払う代金から差し引いたり、スポーツ用品小売業者が店頭価格を引き下げる際、その分をメーカーへの支払額から値引きするなど、きわめて悪質だった。
・2015年7月に公正取引委員会が公表した「テレビ局と番組制作会社の実態調査」でも、20.2%のテレビ番組制作会社が、「採算確保が困難な取引(買いたたき)」を受けたと報告している。 また、イベント関係の下請け会社をやっている知人によれば、「代理店へのプレゼンは『予算プレゼン』から始まる」ケースが増えたそうだ。 代理店は“スポンサー命”なので、内容変更の要求は日常茶飯事。結果的に、最初の予算を上回ることになるのだが、それに対する保障は一切ない。
・ふむ。これも一種の「買いたたき」でしょ? 日本の多重構造は昔から、「親と子」の賃金格差の問題は指摘されてきた。 だがその反面、従業員の終身雇用と同様に、長期・安定的な取引関係、というプラス面でバランスが取れていた。中小企業ができないところを大企業が補い、大企業では難しいことに中小企業が力を注ぐ。それぞれに役割を全うし「いいモノを作ろう! 新しいモノを作ろう!」と目標を共有していた。
・しかし、景気後退、市場の縮小のため、もはやかつての「親と子」の関係を維持するのが難しくなった。「親子関係」は成長あってこその、かりそめのものだったことが明白になってしまったのだ。 「下請けいじめ」という言葉に象徴されるように、発注する側の企業は顧客を購買意欲や満足度の向上と引き換えに、下請けに理不尽な要求を突きつけがちになる。24時間営業や迅速な配達など、私たちが「これは便利だ」と感じるところには、ほとんど例外なく、ブラック企業を生む構造が潜んでいる、といっても過言ではない。
・その、つまり……、顧客を惹きつける優れたサービスと、ブラック企業は紙一重なのだ。収益が上がらなくなれば、その堺はたちまち破られてしまう。
▽下請け企業も「従業員いじめ」してない?
・“ブラック企業”という名目のもと、今回のように企業名が公表されるのは、企業に緊張感を持たせる上で有用であることを否定する気はない。だが、だからこそ厚労省は公表するにあたり、発注元の企業名なども記すべきだった。 企業単位で叩くのは、タテマエでしかない。企業と企業がつながるピラミッド型で産業構造が成り立っている以上、その“つなぎ”を明かにしなくては本質的な解決にはならない。
・下請けいじめが、結果的にブラック企業の温床となり、過労死や過労自殺という「人の死」につながる問題であればなおさらのこと。 明日食っていくために「究極の選択」を迫られていているという現場の声に耳を傾ければ傾けるほど、子を叩くなら、親も叩けと思ってしまうのである。
・と同時に、下請け企業には、どうにかして従業員の賃金を上げる知恵を絞って欲しいと願う。そんな無理難題を、と言われるのは承知しているけれど、昨今の人手不足を追い風に、従業員の待遇改善が、営利企業としての合理性を満たすようにもなってきた。例えば、建設業界だ。
・京都大学経済研究所の要藤正任准教授らの研究によれば、体力のない下請け企業でも「内発的動機付け」に成功すれば、従業員の賃金を引き上げる傾向があることが認められている(「政府の要請は企業行動を変えるのか?―『下請取引等実態調査』を用いた建設企業の賃金引き上げの実証分析―」)。 この調査の“ウリ”は、「内発的動機付け」の効果を人でなく、企業を対象に行ったこと。(以下省略)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/051500104/?P=1

第三に、5月22日付けダイヤモンド・オンライン「電通の次は?労基署エース部隊が狙う「あの旅行会社」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・『週刊ダイヤモンド』5月27号の第1特集は「人事部vs労基署 働き方めぐる攻防戦」です。電通事件をきっかけに社会問題化した過重労働。それを取り締まる労働基準監督署(労基署)の権力が拡大しています。一方で、企業側のカウンターパートである人事部は防戦一色。政府の「働き方改革」による規制強化、バブル期並みの人手不足に襲われ、対応に苦慮にしています。身構える人事部と攻め入る労基署。両者による「働き方」攻防戦の行方を追いました。
・東京・千代田区にある九段第3合同庁舎13階――。ここに、東京労働局の精鋭部隊で編成される通称「東京かとく」が詰めている。  かとくとは、「過重労働撲滅特別対策班」のこと。悪質な長時間労働を取り締まる専任組織として、ちょうど2年前にできた。厚生労働省にある「本省かとく」が指令塔、東京労働局(東京かとく)と大阪労働局(大阪かとく)が手足となる実動部隊だ。
・労働問題にはいろいろあるが、特に長時間労働問題は、企業経営者の意識の変革なくして解決はない。これまで、労基署は事業場単位で一件一件シラミつぶしに取り締まってきた。だが、かとくのターゲットは大企業の本社。企業単位で効率的に取り締まることができるようになった。
・東京かとくは、女性社員の過労死を発端に始まった大手広告代理店、電通への強制捜査で、一躍脚光を浴びることになった。実際の捜査を主導したのが、ベテランの高橋和彦・特別司法監督官(労働基準監督官)である。 今、日本で一番有名な監督官と言ってもいいかもしれない。昨年11月、電通本社に“ガサ入れ”したときに、捜査チームの先陣を切って闊歩した。その映像が日本中に報道されたからだろう。「人事関係者に面が割れてしまった。私が抜き打ちで企業を訪れただけで、『次はウチの会社がかとくに狙われているのか』と余計な心配をされてしまう(高橋監督官)」という。
・それぐらい、監督官の権限は極めて強い。ガサ入れもできれば、被疑者の逮捕・送検もできる司法警察官でもあるからだ。 だが、そうした見た目の華やかさとは打って変わって、監督官の仕事は地味そのものだ。 かとくの業務とて例外ではない。電通の捜査では、朝から晩まで「捜査部屋」に缶詰めになって籠もって、ひたすら電通の本社社員6000人分の勤怠管理データを一件一件入力し、違反がないかどうか、丁寧に確認作業を行った。
・電通の就業規則は、部局ごとに細かく規定されており、膨大な作業量になる。ガサ入れ時には、東京中の労働局から監督官をかき集めて40人まで増員したが、実際の地道な作業に関わったのはほんの数人だった。 地道な作業のかいあって、4月25日、法人としての電通と支社幹部ら3人が、労働基準法違反の疑いで書類送検された。 そして──。電通捜査が一段落したことで、世間の関心は、かとく部隊が狙う「電通の次」に移っている。
▽「お分かりですね」と言われるほどの旅行会社の厚顔無恥
・実は、現在、東京かとくが照準を定めているのは、大手旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS、本社は新宿区)である。 その事実について、「捜査をしているかどうかも含めて答えられない」(東京労働局)としているが、社員2人に対して月100時間を超える時間外労働をさせた労基法違反の疑いで書類送検する方針を固めているようだ。
・ある厚労省関係者によれば、「電通事件のように、世論を気にして何としても挙げなければいけないケースとは違う。ありていに言えば、お分かりですよね?という事案だ」。監督官による再三の勧告にもかかわらず、HISでは違法行為が疑われることが繰り返されたようだ。 3月末に、格安旅行会社のてるみくらぶが破綻に追い込まれたように、旅行業界では薄利多売のビジネスモデルに限界が見えている。
・事業場単位から企業単位へ。大企業の本社めがけて一点突破で監督する体制は効果的で、すでに6社の書類送検に踏み切っている。 靴販売チェーン「エービーシー・マート」、外食チェーン「フジオフードシステム」、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」、外食チェーン「サトレストランシステムズ」、スーパーマーケット「コノミヤ」──。そして、「電通」が続いた。
・今後、厚労省は監督体制の効率化をさらに加速させる。昨年4月、労働局47局に「かとく監理官」を設置したのもそのためだ。 各労働局にいるかとく監理官がハブとなり、タテの連携(傘下の労基署から情報を吸い上げる)やヨコの連携(県境を越えて別の労働局と情報を共有する)を深めることで、全国展開する大企業の“組織的犯行”の芽を探そうとしているのだ。
・任官25年目の吉村賢一・監督官は滋賀労働局のかとく監理官に任命された。「労基法32条の長時間労働の送検事案を多く手掛けており、経験値があった」(吉村監督官)ことが選ばれた理由のようだ。 もともと、滋賀県は製造業の工場が多く集積しており、規模の小さな局の割には複雑な労働問題を扱う局として知られる。
・2007年に発生した居酒屋チェーンの過労死事件の記憶が、県全域の監督官の脳裏に焼き付いていることもあり、「滋賀県は監督官それぞれが、過重労働問題にアンテナを立てている地域」(同)なのだという。かとくによる指導・捜査の広域展開は、一層きめ細やかになっていくだろう。
▽労基署ブラック企業リスト公表に戦慄! 人事部を襲う四重苦
・5月10日、厚生労働省は労働基準法等の違反で書類送検された、いわゆる“ブラック企業”の実名リストを初公開しました。 パナソニック、三菱電機、森永乳業、大京穴吹建設……。そのリストには、有名企業がズラリと顔を揃えています(図版参照)。 手始めに、今回は334社を公表。5月末、6月中旬にも新たに違法企業が追加される予定で、今後、毎月50~60社のペースで企業リストが随時更新されていく見込みです。
・まさしく一罰百戒──。労基署による容赦ない仕打ちに、企業の人事部は戦々恐々としています。労基署が悪徳企業の取り締まりに攻勢をかける一方で、企業側のカウンターパートである人事部は防戦一色になっているのです。
・というのも、企業の人事担当者は現在、深刻な“四重苦”に見舞われているからです。 3月末に発表された、政府「働き方改革実行計画」の二大テーマは、「同一労働同一賃金の強制導入」と「残業禁止の大号令」。前者には社員から訴訟を起こされるリスクが、後者には違反すればブラック企業に転落するリスクがあります。
・さらに、日本的な雇用慣行の崩壊、深刻な人手不足が追い打ちをかけています。 身構える人事部VS攻め入る労基署──。本特集では、働き方改革をめぐる、両者の攻防戦の行方を追いました。 特集後半では、人事担当者の皆さん向けに、「労基署&訴訟に負けない!働き方改革完全マニュアル」も用意しています。働き方関連法案の施行は2019年4月。まだ2年もある、なんて言っていられません。とにかく、企業が対応すべきことが山積しています。誌面では、主要9メニューの工程表と、改正ポイントをわかりやすくまとめました。
・そして、働き方改革に翻弄されるのは、企業ばかりではありません。実はこの改革は、われわれ労働者個人にとっても、生易しいものではありません。大まかに言えば、(日本型の職能システムに替わって)欧州型の職務システムに近い仕組みが導入されるので、社員が「時価評価」されてしまうのです。スキルのない、生産性の低い正社員がこれまで通りの待遇を得るのは難しくなってしまうでしょう。
・労働基準法の歴史上70年ぶりの大激震。労働者個人にとっても、企業にとっても、極めてシビアな世界が待ち受けています。その厳しい時代を乗り切るために。すべてのビジネスマンの方にご覧いただきたいと思っています。
http://diamond.jp/articles/-/128780

河合氏の第一の記事で、『仕事に必要な知識を補うための「自宅での仕事」をどう捉えるのか』、というのは、確かに微妙な問題のようにみえるが、本来は仕事時間中に研修を受けさせるべきなのを、自宅で自習しているのであるから、勤務時間として捉えるのが自然なのではなかろうか。 『仕事の要求度が高まると、自ら“働き過ぎ”に突き進む矛盾』、 『「いい仕事をしたい」「会社に貢献したい」「お客さんを喜ばせたい」といった承認欲求に加え「人に迷惑をかけたくない」という意識が、 長時間労働→疲労→家でも仕事→睡眠不足→作業能率の低下によるミス→自己嫌悪→挽回するため長時間労働+家でも仕事→さらなる疲労―― といった矛盾に満ちた行動を、可能にしてしまうのだ』、などの指摘は、確かに大いにあり得ることだ。 『突然死の過労死は、何度かこのコラムでも書いたように前頭葉にある疲れの見張り番の疲弊で、「疲れを自覚せず、死ぬまで働いてしまう」メカニズムにはまるわけ』、との指摘も専門的で教えられた。 『「ストレス対処力(Sense of Coherence:SOC)」』 を高めるための『「傘」』、なる概念は説得力がある。
同氏の第二の記事で、『新製品ラッシュの影に聞こえる悲鳴』、ここまで下請け、孫請け化が進んでいるのかと、驚かされた。 『企業と企業がつながるピラミッド型で産業構造が成り立っている以上、その“つなぎ”を明かにしなくては本質的な解決にはならない』、との指摘は理想論ではあるが、法的には企業単位でやらざるを得ない。 『下請けいじめ』については、独禁法の適用を厳しくしていくほかない。
第三の記事で 『監督官による再三の勧告にもかかわらず、HISでは違法行為が疑われることが繰り返されたようだ』、というのは確かに悪質で、 『東京かとく』の捜査結果は期待できそうだ。 『労基署による容赦ない仕打ちに、企業の人事部は戦々恐々としています』、というのは当然のことだ。これまでが余りに、なあなあ過ぎただけだったのではあるまいか。
タグ:新人看護師 すでに6社の書類送検 電通 灰色の“自己啓発残業”へ誘う「過剰適応」の罠 暗黙の指示によるグレーな労働が意識の高い若手を追い込む 突然死の過労死は、何度かこのコラムでも書いたように前頭葉にある疲れの見張り番の疲弊で、「疲れを自覚せず、死ぬまで働いてしまう」メカニズムにはまるわけだ 日経ビジネスオンライン 監督官による再三の勧告にもかかわらず、HISでは違法行為が疑われることが繰り返されたようだ 過重労働撲滅特別対策班 おどろくほど私たちの周りには、下請け、孫請けの小さな会社が作った製品が散在 生きる力 国側は答弁書で請求を退けるよう求め、争う姿勢を示した。つまり「労災は認められない」と主張 ストレス対処力(Sense of Coherence:SOC) KKR札幌医療センター 「人生を生き抜く力」は“傘”に左右される 母親は「娘が自殺したのは長時間労働などで、うつ病を発症したことが原因」だとして、勤務先病院の運営主体であった国を提訴 。 「いい仕事をするためには、私的な時間を犠牲にしてもやむをえない」と過剰適応し、身も心も疲れ果てボロボロになっているのに、どこまでも働き続けてしまうのである 東京かとく 電通の次は?労基署エース部隊が狙う「あの旅行会社」 、「月60時間」が過労死ラインと主張する談話を公表した。 労基署ブラック企業リスト公表に戦慄! 人事部を襲う四重苦 医労連 河合薫 (その6)(灰色の“自己啓発残業”へ誘う「過剰適応」の罠、ブラック企業リストに覚えた新たな怒り、労基署エース部隊が狙う「あの旅行会社」) 仕事の要求度が高まると、自ら“働き過ぎ”に突き進む矛盾 新製品ラッシュの影に聞こえる悲鳴 ダイヤモンド・オンライン 仕事量が多いのに加え、時間的切迫度も高い。絶対にミスは許されない。人手不足でひとりの看護師の責任が非常に高い。他の看護師のサポートを受けることができない。医療技術や使われる薬品も日々更新されるので、休日も勉強する必要がありゆっくり休むことができない ブラック企業 企業単位で叩くのは、タテマエでしかない。企業と企業がつながるピラミッド型で産業構造が成り立っている以上、その“つなぎ”を明かにしなくては本質的な解決にはならない ヒューマンサービスの現場には、「労働時間」だけでは語れない過酷さがある 「下請けの今」 顧客を惹きつける優れたサービスと、ブラック企業は紙一重なのだ 極めてグレーな「持ち帰り残業」 334件の中には、高橋まつりさんが過労自殺した「電通」の社名もあったが、明らかに「下請け」と思しき企業名がわんさか載っているではないか 「下請けいじめ」という言葉に象徴されるように、発注する側の企業は顧客を購買意欲や満足度の向上と引き換えに、下請けに理不尽な要求を突きつけがちになる 帰宅後も、業務に不可欠な知識をフォローアップするため毎晩毎晩、机に向い続け、睡眠時間は2、3時間程度だった 大手旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS 仕事に必要な知識を補うための「自宅での仕事」をどう捉えるのか ブラック企業リストに覚えた新たな怒り 違う意味での新たな“犠牲者”を生み出す危険が 公正取引委員会 悪質な“いじめ”の数々 そういったいくつもの「傘」があれば、「私、なんでこんなにダメなんだろう」ではなく、「うん、なんとかできた。よくやった!」と、今度は“自信”という傘を手に入れ、SOCを高めていくことができる 内部にいる「外部人材」。いわゆる「業務委託」
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