SSブログ

加計学園問題(その6)(学部新設や定員はなぜ「利権」になるのか、データが如実に示す獣医学部新設の深い闇、語るに落ちた安倍首相 政治家の致命傷を露呈) [国内政治]

昨日に続いて、加計学園問題(その6)(学部新設や定員はなぜ「利権」になるのか、データが如実に示す獣医学部新設の深い闇、語るに落ちた安倍首相 政治家の致命傷を露呈) を取上げよう。

先ずは、経済ジャーナリスト 磯山 友幸氏が7月7日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「学部新設や定員はなぜ「利権」になるのか 加計学園問題を機に考え直すべきこと」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽なぜ「獣医学部」の新設が必要だったのか
・加計学園の獣医学部新設を巡る問題で、野党は安倍晋三首相が友人の加計孝太郎理事長に頼まれて便宜を図ったのではないかと追及している。文部科学省の前の次官だった前川喜平氏は記者会見で「行政が歪められた」と述べ、学部新設が認められた過程で何らかの政治的圧力が加わったことを示唆した。
・一方で、獣医学部新設を認めた国家戦略特区諮問会議の民間議員たちは会見を開いて、決定プロセスには「一点の曇りもなかった」とした。しかも、新設を加計学園1校に絞ったのは、獣医学部の増加に強く抵抗していた獣医師会に配慮して妥協したもので、加計学園に便宜を図るためではなかった、という。
・果たして、この加計学園問題は、政治が民間に便宜を図った「大疑獄事件」なのだろうか。そもそも獣医学部の新設というのは、政治家が「口きき」するほど、オイシイ話だったのか。 50年間にわたって獣医学部が新設されなかったことについて、文部科学省の主張は「獣医師は足りている」というものだった。これは日本獣医師会の主張をそのまま受け入れたものと言える。
・獣医師が足りているのだとすれば、獣医学部を新設して獣医が増えた場合、職に就けない人が出てくるはずだ。おカネをかけて入学しても獣医として働く道が開けないのであれば、獣医学部を新設しても学生が集まらない。そんな中で、加計学園はなぜ獣医学部を新設したかったのか。 全国の大学がこぞって設置した「ロースクール」は、弁護士過多が指摘されて合格者が絞り込まれる中で、どんどん姿を消している。経営的にはロースクール新設は失敗だったということになる。獣医師も足りているというのが本当ならば、加計学園の学部新設は、経営的にリスクの大きい判断だということになる。
・一方で、獣医師は不足している、という見方も根強い。国家戦略特区諮問会議で獣医学部の新設容認の意見を述べていた坂根正弘・コマツ相談役は、鳥インフルエンザなど動物と人間の双方にかかわる病気が広がる中で、日本に獣医師が少ないことが、創薬などの力を落としているとして問題視した。動物と人にまたがる生物分野の医療研究をするには、獣医師を増やす必要があるとしたのだ。つまり、獣医師にはまだまだマーケットがある、と指摘したわけだ。
・どちらの見方が正しいのか。本来ならば、市場原理に任せれば良い話だ。ニーズがないのに学部を増やせば、学生が集まらない。しかも新設する場所は学生人口の多い大都市圏ではなく愛媛県今治市だ。文部科学省や獣医師会が目くじらをたてなくても、早晩行き詰まる。
▽国家資格は一種の「ギルド」
・だが、文部科学省や獣医師会は、国家戦略特区諮問会議が求めた「獣医師は足りている」という論拠について、最後までデータで示せなかった、とされる。ということは、十分なニーズがあることは分かっているが、それを既存の獣医師で独占し続けたいということだったのか。 あるいは、新規参入が増えると、競争が働いて、質の悪い医師が排除されることになりかねない、という構図を恐れたのか。
・獣医師に限らず国家資格は常に、「ギルド」つまり職業団体の既得権を守る機能を持ち続けてきた。獣医師だけでなく、医師にせよ、弁護士にせよ、公認会計士にせよ、合格者数を増やすとなると、業界団体が徹底的に反対した。資格試験は、その職業に就くための最低ラインというよりも、その資格をとったら必ず食べていけるという一種の生活保障を示していた。
・だが、社会が大きく変化する中で、国家資格が生活保障のままでは、新しい分野に挑戦する「余剰な」資格保持者が生まれない。2000年代に入って司法試験や公認会計士試験の合格者を政策的に大幅に増やしたのは、そうした考え方からだった。  結果、企業内で働く弁護士が増えるなど、弁護士の仕事の領域は大きく増えたが、一方で競争が激しくなり食べていけなくなる弁護士も生まれた。
・医師や獣医師は、頑なに増員を拒んできた。獣医師だけでなく、医師も十分に足りている、というのが文部科学省や厚生労働省の主張だった。医学部も2017年に38年ぶりに新設が認められたが、これも加計学園同様、国家戦略特区を使ったもので、千葉県成田市に生まれた。医学部も獣医学部同様1校だけの新設が認められたのだが、なぜかこちらは問題視されていない。
・医学部を新設した国際医療福祉大学は長年医学部新設を求め続けてきた大学で、これも政治的なリーダーシップがなければ実現しなかったものだ。 医学部にせよ、獣医学部にせよ、どんな学部を新設し、どんな人材を育てるかは、本来、大学自身が考えるべきことだろう。ところが日本の場合、すべて文部科学省の許認可に握られている。設置認可どころか、どの学部に何人の学生を受け入れるかという「定員」もすべて文部科学省が決め、それを守るように指導している。それが前川前次官の言う「行政」なのだ。 「いやあ、うちのような三流大学でも、今年は入学者が増えて、一気に経営が安定しました」と大手新聞社を退職後に大学に再就職した教授は話す。「ひとえに文部科学省のおかげです」というのだ。
▽「定員」を厳格化する文部科学省
・文部科学省は2015年秋、「定員」を厳格化する方針を打ち出した。収容定員8000人以上の大規模大学は入学定員充足率が1.2倍以上、それ以外の大学は1.3倍以上になった場合、私学助成金が一切もらえなくなる。2019年度以降は、入学定員充足率が0.95倍でも1.0倍の場合と私学助成が同額になるよう「インセンティブ」を設けることになっている。つまり、定員を大きく超えている大学には、「助成金を出さないぞ」と脅し、定員を抑えたところに助成金を上乗せするというわけだ。
・なぜ、文部科学省はそこまで口を出すのか。教育の質を守るというのが大義名分だが、要は大学を潰さないために定員を調整しているのだ。人気私立大学の定員が厳格化されたことで、人気の薄い大学にも学生が流れ、経営的に助かったと言っているわけだ。 さらにオマケがある。そうした入学定員の管理や文部科学省との折衝は、“三流大学”の職員ではなかなか難しい。結局は文部科学省の薦めにしたがって天下りを受け入れているのだ。
・国からの助成金などもらわず、文部科学省の指導など無視をしたらどうか、と思うだろう。もともと政府からの教育の独立性は重要である。 日本国憲法の89条は次のように定めている。 「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」
・戦前の国家が教育に強く介入した反省もあり、国が「公の支配に属しない」教育に公金を支出することを憲法は禁じているのだが、いつの間にか解釈改憲で、大半の私立大学は助成金を国からもらっている。私立学校も国の支配に属しているというのが政府の解釈で、助成金は合憲だとされている。「学の独立」というのは建前で、大学は助成金によって国に首根っこを押さえられているのである。
・もはや、助成金なしに経営を行おうという気概を持つ大学はない。というのも金額が並大抵ではないからだ。2016年度の大学別私学助成のトップは「学の独立」を唱えてきたはずの早稲田大学で、総額90億5189万円。これに東海大学の88億8323万円、慶応義塾大学の87億3408万円と続く。大学には603校中570校に合計2968億円を助成している。
・不交付校が33あるが、未完成の大学や募集を停止しているところ、他の省庁の補助金をもらっているところがあり、申請をせずに受け取っていない大学はわずか17校だ。ほとんどの大学が当たり前のように国から助成金を受け取っている。「公の支配」に下るわけだから、監督官庁に頭が上がらないのは当然だ。
・大学に対して「強い権力」を持つ文部科学省が50年にわたって新設を認めなかった獣医学部が、それほどまでの「利権」だというのなら、そんな利権を一官庁に握らせておくことが正常なのか。助成金を使って大学に定員を守らせる「行政」が、本当に学問をしたい国民のためになっているのか、日本の将来の人材育成に役立っているのか。もう一度、私立大学のあり方について、抜本的に議論をするべきではないか。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/070600054/?P=1

次に、作曲家=指揮者 ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督の伊東 乾氏が6月23日付けJBPressに寄稿した「データが如実に示す獣医学部新設の深い闇 加計学園問題:国際性もなく若者の未来を奪う国家戦略特区とは何なのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・加計学園が計画していた「獣医学部」の新設を巡って、様々な行政文書が発見、確認され、議論になっています。 本稿を記している至近では6月19日にNHK「クローズアップ現代+」が報じた「新文書」について20日、文部科学省からも同一文書が省内でも見つかったと発表されました。
・官邸からは「個人のメモ」云々とのコメントが出ているようですが、職掌にあたって担当官が作成し部署共有されたものであれば、法的には行政文書の扱いになるでしょう。 ここで議論になっているのは2016年の10月に官房副長官が文科省局長に対面で圧力、云々という内容ですが、国の「国家戦略特別区域」の選定にまつわって、おかしなやり取りがあったとすれば、トンでもありません。
・「国家戦略特別区域諮問会議」には閣僚などのほか5人の民間議員が参加しています。私が長年存じ上げる方が少なくありません。例えば坂村健さんは18年間同じ部署で仕事してきた同僚で、誠実な人となりもよく知っています。 報道を見ていると、いろいろな記載があり、乱暴なものも少なくないように思いますので、公文書として公開されている1次資料を基に、問題点を整理してみたいと思います。
▽今治はこうして選ばれた
・まず、内閣府が発表している、国家戦略特区の全貌を見てみましょう。 第1次指定が赤丸で6か所、第2次指定は青丸の3か所、第3次指定は緑の丸で1か所に見え、それが広島県と今治市、問題になっている獣医学部の案件に相当します。 これ以外に東京圏の拡大で千葉市、高年齢者の活躍や介護サービスに特化して北九州市が福岡市に追加されて、合計3件。現時点で延べ12件が指定されています。
・広島、今治はあくまで「観光・教育・創業などの国際交流・ビッグデータ活用特区」であって、これに相当しない施策は政策目的に合致しません。まずこの基本を押えておきましょう。明記されている官邸のホームページもリンクしておきます。 私も長年、大小様々の諮問委員などを務めてきました。こういう際は必要な資料を現物確認するのが一番と思います。
・第3次指定は「地方創成特区・第2弾」とされているもので、平成27年=2015年12月15日、第18回国家戦略特別区域諮問会議に議事があり、議事録も配布資料も公開されています。ここでは「配布資料2-2」を、諮問委員的な観点から確認してみましょう。 対象区域は広島県と愛媛県今治市で、「しまなみ海道」でつながる両地域で、「多様な外国人材を積極的に受け入れ」「産官学の保有するビッグデータを活用し」「刊行(観光?)・教育・創業のイノヴェーション創出」と記されています。
・前回このコラムで国連の2030年アジェンダ「SDGs」を紹介しました。 このような国際アジェンダをガイドラインとして、日本の学術セクターとして国際協力の体制のもと、研究教育を進めていくのが、私も籍を置く国立大学法人のミッションで、日常の大学業務でこうした話題に触れているため、私たちはこの種の文書や文言に敏感です。
・そもそも特区とは、「国家戦略特別区域法 平成25年2月13日法律第107号」に基づくもので、大学の戦略パーソンはこうした条文の一つひとつに留意しつつ、特に国際協力などについては国連のガイドラインやアジェンダなどにも細心の注意を払いながら施策を立案していきます。この「国家戦略特区法」第一条を引いてみます。
・特区法第一条(目的) この法律は、我が国を取り巻く国際経済環境(ゴチック筆者)の変化その他の経済社会情勢の変化に対応(同前)して、我が国の経済社会の活力の向上及び持続的発展(同前)を図るためには、国が定めた国家戦略特別区域において、経済社会の構造改革を重点的に推進することにより、産業の国際競争力(同前)を強化するとともに、国際的な経済活動の拠点を形成(同前)することが重要であることに鑑み、国家戦略特別区域に関し、規制改革その他の施策を総合的かつ集中的に推進するために必要な事項を定め、もって国民経済の発展及び国民生活の向上に寄与することを目的とする。
・いま、特区法条文でゴチックに改めた部分のすべてが、国際機関との連携や持続的開発への綿密な配慮が必要であることを示しています。 実際、そういう底意があってこの法律自体が作られているので国際性、特に国際経済環境、国際社会情勢に配慮した産業国際競争力の持続的発展を可能にする経済活動拠点形成が特区の命と言っても過言ではありません。
・2015年12月の文書に戻りましょう。広島県と今治市、つまり県と市を並べるといういかにも内閣レベルのアクロバティックな特区指定の政策課題として
 1創業人材を含めた高度外国人材の集積の推進
 2雇用ルールの明確化によるグローバル企業・新規さ企業への支援
 3地場製造業や新たなホスピタリティ・サービス産業の活性化
 4スポーツ・教育面における国際交流拠点の整備 
 5観光分野における先進的な「自治体間連携モデル」の推進  が挙げられています。つまり、こうした政策課題を解決する「観光・教育・創業などの国際交流・ビッグデータ活用特区」でなければならないわけです。以下、表現を崩して言うなら、
 1優れた外人をたくさん連れて来て働いてもらう
 2多国籍的な起業・展開の応援
 3地場にも配慮
 4スポーツ・教育の国際センター
 5柔軟な新観光地創生
・これらがミッションであって、国内外の諸情勢に鑑みつつ、国家レベルの戦略としてグローバルに勝ちに出られる新体制を作っていこう、そのために「国際交流・ビッグデータ活用特区」に指定し財政も出動という話になります。
・文書では以下「4事業に関する基本的事項」として<雇用・労働><土地再生・まちづくり><医療><その他>などの項目が並びますが、目を引くのは<教育>として1か条だけ <教育>国際教育拠点の整備(獣医師系(ライフサイエンスなどの新たに対応すべき分野)) と記されていることです。
・なぜかこの文書では日付に●が付されていますが、念のため、この会議資料が配布されたのは平成27年=2015年12月15日です。 今からまる1年6か月前の話で、大きな枠組みで特区として認定するかどうか、という諮問会議の席で、なぜか教育については「獣医師系」という極めて具体的な記載がなされている点に目が留まります。 
・念のため、同じ会議の同様の議事に関する配布資料を確認してみましょう。平成26年3月28日に開催された第四回諮問会議で配布された資料3-2には「東京圏」「関西圏」「新潟県新潟市」「兵庫県養父市」「福岡県福岡市」「沖縄県」の6特区の認定に関する「政策課題」「事業に関する基本的事項」が記されています。  しかし「教育」への言及があるのは「関西圏」だけで、 <教育>・国際ビジネスを支える人材の育成[公設民営学校] という幅広の記載があります。
・私たちが学識経験者として何らかの諮問委員会に出席するとき、配布資料は概してこのように一般的な記載のものが多く、すでに準備されているものですから、プロセスその他によほど疑義がない限り、率直に言って「No」を言うことはあまりありません。 特区諮問会議の委員から、特段の圧力を受けたことなどない、との声明が出ていましたが、そのとおりだろうと思います。資料が配布され、説明があり、粛々と議事が進行するのが普通です。
・ただ、今治のケースでは、「獣医師系」とやたら細かな指定があるな、と気づくように思います。添え書きとして「未踏ライフサイエンス」と添え書きがあるので、ああ、地元には何か事情か準備があるのだろうなと思いつつ、その場で議事に棹差すようなことはまずないでしょう。 坂村さん以下、諮問会議の民間議員・有識者に、特段の他意や圧力、おかしなことがあったとは全く思っていません。 もっと言ってしまうなら、こういう文書が机に上がる時点では、すでに現場が99%。汗をかいて準備しているわけですから、あからさまにおかしなことがない限り、有識者からストップをかけるようなことはありません。
・私自身、批判を受けるかもしれませんが、この種の円卓で普通に粛々と進むものについて、この20年間、ノーと言ったことがありません。
・さて、ここで問うべきことはただ1つで、国家戦略特区として広島・愛媛の「しまなみ海道」のエリアをグローバル化し、外国人・外国企業も多数呼び込んで「国際交流・ビッグデータ活用」を作ろうというとき、どうして「教育」について「獣医師系<未踏ライフサイエンス>」に限局されるのか、という点でしょう。 それが1年半も前の時点で、原案承認が通常の諮問会議のテーブルに上がっていることには、公平に見て一抹の疑問を持たざるを得ません。
・獣医師系の学部新設にあたっては、獣医師会から人員定足の現状が強調されて報道されていますが、京都産業大学からの新設案は却下されており、その理由として近畿圏ではすでに大阪府立大学(定員40人)がカバーしているという点が挙げられているようです。 その論法で考えるなら、山陽地方は山口大学(定員30人)、山陰地方は鳥取大学が定員35人)全国で930人の年定員でほぼ平衡に達し、現実には少子高齢化に伴って定員割れも起こしている状況と報じられます。
・ある種の袋小路に達しており、高度な研究教育が実施できず世界水準から取り残されているという関係有識者の発言も目にしました。そういう実態もあるのだろうと思います。 と同時に、現在計画されている岡山理科大学獣医学部構想では 獣医学科160人 獣医保険看護学科60人 専任教員約70人 という大きな規模が伝えられます。これを「国際学術教育拠点」として展開し、従来ではカバーできていなかった最先端ライフサイエンスの戦略ベースとして運営、成功をもたらす必要が、特区としてこの事業を行ううえでは義務づけられています。
・少なくとも文科省の設置審議では、そうした点がチェックされ、8月に決定が出る予定とのこと・・・。 ここで思うのですが、この戦略拠点は、どこの国からどういう人を呼び寄せ、どのように育て、どこで活躍させるという考えなのか、諮問会議の配布資料をすべて確認してみましたが、私にはさっぱり分かりませんでした。
・日本国内の獣医師の供給状況については農林水産省の獣医師国家試験の結果発表が参考になります。 至近の第68回獣医師国家試験(平成28年度)は2月14-15日に実施  受験者数新卒1028人既卒(浪人)258人その他10人合計1296人  合格者数新卒 899人既卒(浪人)98人その他3人合計1000人  合格率新卒87.5%既卒(浪人)38%人その他30%合計77.2%  毎年ほぼこのような推移で安定しているのが分かります。
・業界として、これで需給が安定しており、特段問題がないと新設に反対があったのは、さもありなんと思います。ここで一大学教授職として思うのは、学生の進路であり就職、将来生活の安定です。 獣医師の年間定員が1000人であるなか、昨年度で言えば留年者を含めすでに1028人の新卒、250人以上の浪人生など1.3倍の競争率となっている獣医師国家試験で、仮に160人、完全に純増で獣医学部出身者新社会人を日本の大学組織が世の中に送り出すとすると、専門学部は出たけれど職業就労できないという、構造不良的な人材育成の体制を組むことになるのが気にかかります。
・現状、まともに勉強している新卒者は87.5%の合格率ですから10人に9人は合格するのが獣医師国家試験ですが、仮に初年度、新卒で160人、正味で受験生が増え、同数の現役合格者数とすると、合格率は75.6%程度に落ちてしまいます。 つまり4人に1人は最低1年は浪人することになる。 獣医師不足が社会問題となり、農水省が獣医師試験合格者数を増やすといったことがあれば、分からなくもない話なのですが、文科省としては寡聞にしてそのような連絡を農水省からもらってはいない・・・。
・前事務次官が言っているのは、こういうことなのではないでしょうか? つまり、資源と設備をかけて高度な専門教育を施す獣医師養成において、ちょうど戦後のベビーブームで大学が乱立した際、社会の要請と無関係に音大や美大を濫造し、結果的にそれらを卒業しても仕事として音楽や芸術で食べていけない若い世代を大量に作った・・・。 私たちの分野の抱える構造問題によく似た問題を新たに起こしてしまうのではないか?
・この対照は医師国家試験の結果と見比べるとき、なおさら際立つように思います。 すなわち、同様に昨年度のデータを基にすれば  医師国家試験合格者数第111回平成29年2月11-12日  新卒出願者9124人受験者数8828人合格者数8104人合格率 91.8%  全体出願者9959人受験者数9618人合格者数8533人合格率 88.7%  すなわち、高度な専門教育の実施コストをかけて人材育成するわけですから、合格率約9割のラインを大きく割り込むような学生定員、ニーズのないところに専門大学を設け、構造的な限界から学んだはいいけれど、その職業に就けない若者を、毎年数百の単位で生み出すような判断は、行政としてとてもではないが、できる話ではないのではないか?
・「岩盤規制」という言葉があります。 ある時期の野放図な大学院重点化で、30歳を過ぎるまで専門人として生活しながら、最終的に職がなく、中年に至って不利な転身を余儀なくされる多くの元大学院生の青年たちを見てきた一教授職として、本当に社会の活性化につながる、未来に責任をもった人材育成になっているのか、疑問を呈する余地が相当たくさんあるように私は思いました。
・外してはならない重要なタガもあります。そうでないと生活が成立せず、本当に困った状態に陥ってしまう高度な専門能力を持つ若者が量産されてしまいます。実際、現実はそうなっている。 そういうなか、そこで学んだ青年たちの未来に「持続可能」な責任を持って施策を立案、完遂することこそが、特区に限らず文教政策の本質的な精神であると、私は思います。
・皆さんは、国家試験の数字や、専門を学んだはずなのに、当該の職にあぶれてしまう青年が必ず何百人も出てしまうのが分かっている未来を、どのようにお考えになりますか? やり直しが幾度でも利く海外と違い、日本の社会風土はとても硬直的で「やり直し」を考える青年に冷たいのは、ポスドク諸君の生活を見ても痛感しています。
・私も教授業18年となり、最初の院生たちはすでに40歳を超えました。その一人ひとりに夢もあれば生活もあった。 国際的な人材育成拠点と銘打って推進されているはずの施策です。長期にわたって若者たちの未来に責任を持つ政策とは何か。またもう1つ、この施策の基本条件は「国際交流・ビッグデータ活用拠点」特区であることです。 新しい獣医学部には、ビッグデータ活用の、相当きちんとした部署と人員、設備とシステムが準備されていることが義務づけられているはずです。
・実は私自身、18年前に東京大学の「知識構造化」という、当時はビッグデータなどという言葉は存在せず「ネットワーク型情報基盤」と呼んでいましたが、このデータマイニングシステムの開発を担当しましたので、この種のことがどの程度大変かは体験的に知っています。 それが今言われている70人の教員スタッフの中の何人に相当するのか知りませんが、また規模によりますが、経験的には基本システムで常勤で最低4人程度(教授職、実務の専従SE、事務責任者、会計担当者)は必須、データ展開のスケールによって5~10人程度の常勤非常勤スタッフがいなければこの種の案件で 世界に発信、その分野で牽引する「国際交流・ビッグデータ活用拠点」を作るのは難しいと思います。
・8月の設置審、私が委員なら、まずこの点を見ます。また万が一、「「国際交流・ビッグデータ活用拠点」としての備えがきちんとしていない、単なる国内調整しか念頭にない獣医学部であれば、政策の基本要件を満たしていませんから、異論なく設置は見送り、不許可の決定を出すのが、正しい審査姿勢と思います。
・念のため、首相官邸のHPをもう一度リンクしておきます。 「加計学園は獣医学部を出たジュニアのために200億円もかけてわざわざこんなものを作るのか?」というゴシップ的な批判がすでに報道でもネットでもあふれています。 「観光・教育・創業などの国際交流・ビッグデータ活用特区」としての要件を満たしていれば、正面から否定して、審査に耐えることができるでしょう。それがなければ、政策の前提条件を満たしておらず、忖度うんぬんで政策趣旨との外れは説明つきませんので、この事案は見直し・・・廃案となる可能性があるでしょう。 
・私も、こうした関連の国際学術戦略連携、情報システム構築といった公務に20年近く携わってきましたので、実質ある特区展開を期待しますし(特区制度そのものをいきなりひっくり返すような、あきれた呆案には言及する気にもなりません)、政策から外れた執行が1円も許されないのは、特区といえども例外ではありません。決算を念頭におけば会計検査院の観点で厳密なチェック が問われてくるでしょう。
・そうでなければ、従来真面目に仕事して、煩瑣を極めるルールに莫大な時間を費やさせられてきた大学教員も、関係事務担当者も、全く浮かばれません。 ご苦労の当事者を含む仮想読者に向けて、データを含め真摯にお話しするつもりで、本稿を書きました。 つづく)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50327

第三に、上記の伊東氏の続きとして、6月27日付けJBPress「語るに落ちた安倍首相、政治家の致命傷を露呈 国家戦略特区の意義にそぐわない獣医学部新設はあり得ない」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・前回のコラムが公開された6月23日、前川喜平・前文部科学事務次官が日本記者クラブで記者会見を行いました。物事にはタイミングがあるようで、偶然ですが軌を一にしたようです。 前川氏の記者会見、その内容について細かにここでは触れません。筋道を通して曇りなく話しておられたこと、原稿の棒読みではなく、視線を定めて丸2時間、一貫して自分の言葉できっちり話される胆力は、40年間にわたって1つの官庁で責任を取り続けた器量と思いました。 また末尾に示された「個人の尊厳」「国民主権」という2つの言葉は印象的でした。
・天下の大新聞が必要なチェックを怠ったまま報道したとされる、極めて恣意的な前川さんに関する報道は、どう見ても個人の尊厳を踏みにじるものだとしか言いようがありません。万が一、情報の出所が官邸などということがあれば、憲政の本義から問い直されねばならないでしょう。
・この翌日、安倍晋三内閣総理大臣は出先の神戸での新聞社系主催の講演の中で仰天の「決意」を表明したと報道されました。以下、私も郷原信郎さんの指摘で気づいたのですが、これ、アウトです。 せっかく「総理の口からは言えないから」と、和泉洋人・内閣総理大臣補佐官とか官房副長官とか、様々な人材が陰日なたで動いて努力してきたのに(それ自体、やってはいけないことだと思いますが)、本人自らが全否定してしまったのですから、周りもたまったものではないでしょう。
・つまり、官邸が必死で糊塗してきた「内閣総理大臣は、獣医学部設置認可の問題に一切関わっていないし、具体的に関わる立場ではない」という主張が覆ってしまった。これで終わった、「自爆」と郷原さんは表現しておられました。 当該部分を引用してみます。 「獣医学部の新設も半世紀以上守られてきた堅い岩盤に風穴をあけることを優先し、獣医師界からの強い要望をふまえ、まずは1校だけに限定して特区を認めました」 「しかし、こうした中途半端な妥協が、結果として、国民的な疑念を招く一因となりました。改革推進の立場からは、今治市だけに限定する必要は全くありません」 「すみやかに全国展開を目指したい。地域に関係なく2校でも3校でも、意欲あるところにはどんどん獣医学部の新設を認めていく。国家戦略特区諮問会議で改革を、さらに進めていきたい、前進させていきたいと思います」 ttp://www.sankei.com/west/news/170624/wst1706240054-n1.htmlから引用)
・これはさすがに成立しないと言わざるを得ないでしょう。 まず郷原弁護士の指摘を引用しておきます。 「安倍首相は、『獣医学部新設の認可』に関しては権限を一切行使することも、全く関わることもなく、自分とは全く関係ないところで行われたものだ」と説明し、国会で野党から質問を受ける度に、『自分は関わっていない』『指示したことはない』と関与を否定し、野党の質問自体を『印象操作だ』と言って逆に批判をしてきた」はずでした。
・実際、首相自体が行脚して権限を行使したりはせず、「総理の意向」と官房副長官が言ったとか言わなかったとかいうメモが怪文書扱いされて、そうやって周りが庇ってきたのに、あろうことかご本人様が 「1校に限定して特区を認めた中途半端な妥協が、結果として国民的な疑念を招く一因となった」 「今治市だけに限定する必要は全くない。地域に関係なく、2校でも3校でも、意欲あるところにはどんどん新設を認めていく」 という「総理の意向」を露骨に語ってしまったのですから、将棋で言えばこの時点で詰んでしまいました。さらにその内容は、政策本来の目指すべき方向とほとんど無関係なものになっています。
・「特区の全国展開」と読める内容ですが、限られた財と資源を国家戦略に基づいて「選択」し「集中」するのが特区選定の効用で、「全国展開」となれば「特区」の意味がどれほどあるか、一つひとつの特区に十分な拠点形成が可能であるか、率直に疑わしいと思います。
・また、より明確に指摘するなら、この特区は「しまなみ海道国際交流・ビッグデータ活用拠点」として、スポーツ、観光など様々な分野を対象とするものであるはずです。 ところが、なぜか最初から「教育」として1点だけ「獣医学系」という「選択」と「集中」があったことは、前回、2015年12月の諮問会議配布資料に即して指摘したとおりです。
・残念ながら、前川前次官の記者会見でも「大学設置・学校法人審議会」では、大学として成立し得るか否かはチェックするけれど、特区に設置するにあたっての前提となる政策意図に合致しているかどうかは審査の対象にならない、とコメントされています。 すでに存在している普通の意味での設置基準に照らして、合致していればOKを出す、それだけの機能であるということです。
・となると、いったん諮問会議さえ通してしまえば、あとは国家戦略特区の趣旨に合致しようがしまいが、ノーチェックで勝手な大学を作っても、結果的に誰からも何のお咎めもないということになる。 これは制度設計の穴、バグと言わねばならないでしょう。 
・筆者は過去約20年、公務でわが国高等学術の国際戦略にアカデミック・ディプロマットとして携わってきました。その観点から、たぶんどこから見ても文句のつかない「国際教育交流拠点」としての具備すべきミニマムの条件を記して見ます。
 1最低3割は非日本人教員採用でのスタート
 2国際的な学生採用通知、外国語(英語、中国語など)での募集要項と入試、授業体制の確立
 3ビッグデータ活用特区の政策課題に対応した情報システム専門家の採用・教職員チームの編成(これは生物統計の専門家などが兼務して務まる仕事量ではありません。システム管理者として最低大講座1つ分程度のスタッフが必須不可欠
 4国際学寮など教育交流拠点として必須の設備投資
 5本質的には、学部学生教育程度の水準で、未踏のバイオサイエンス新分野の国際競争力拡充などできるわけがありません。沖縄科学技術大学院大学のような先端教育研究組織の設立であれば判る話ですが、単に地元の獣医不足対策では7~8年後から新卒の獣医が出るというだけで、喫緊の国家戦略とは無関係です。大学院を含む戦略組織としての段階的強化の現実的な計画は提出必須と思います。
・仮にこれらを「国際交流・ビッグデータ活用拠点」チェックの5条件と呼ぶとして、これらの1つでも満たされていなければ、行政から強い指導が入るべきと思いますし、3つ以上が満たされていない計画なら見直し=そのままでの進行はいったん停止させるのが妥当な判断と思います。  この種の業務に就かれたことがある方なら過半数が、極論でない妥当な条件と言ってもらえると思います。ちなみに上では、国際人事3割でよいといっている。
・つまり7割は日本人でいい国際交流拠点、実は大甘な採点基準で、こんなものも満たせないなら、本当にただのローカルな話で、国家戦略全体の力になるアウトプットとして特区優先される成果は、まず期待できません。
・前川前次官も、政策としての設置条件に本当に合致しているか、大学設置審でチェックできない「国際競争力の強化」や「国際経済拠点の形成」といった目的に適っているかどうか、あるいは閣議決定されている4条件に適合しているか、といった審査は、大学設置審議会では審査されずスルーであること、それらについては改めて問われなければならないと思う、と会見で述べています。
・音声動画をリンクしておきます。1時間7分目前後で詳細に触れられています。 前川さんの指摘はあくまでデュープロセス、正当な手続きを念頭に置くもので、結果的に文科省の設置審が通したとしても、その時点での「最終的な仕上がり」としての大学の姿が国家戦略特区の満たすべき諸条件に照らして合致しているかどうか、きちんと確認してもらうということが必要ではないか、とのコメントがありました。 私も全く同意見です。少なくとも、ノーチェックで通すというのは良くないでしょう。「中国地方の獣医師不足」「地元長年の悲願」といった要請がローカルにあるのは当然ですが、それが国家戦略特区の趣旨に合っているかどうかは全く別問題です。
▽「地元の悲願」「全国展開」?
・別の一例を挙げて客観的に考えてみます。私がよく散策に出かける東京都武蔵村山市には鉄道がありません。バスの運行網は発達していますが、都内に出るにも他県に行くにも、電車に乗るには路線を乗り換えねばならず、はっきり言って不便です。 このあたりは小学校1年次から私には慣れ親しんだ地元で、過去40数年の住民感情を等身大で認識していますので、あえて便・不便まで踏み込んで記しましょう。
・武蔵村山には、1929年にトロッコの軽便鉄道線(東京の水源として作られた人造湖ダム「村山貯水池」(1927―)の工事で敷かれたもの)が廃止されて以降、ほぼ90年間にわたって鉄道がありません。戦後72年、高度成長の昭和30年代ですら、鉄路の敷設とは無縁でした。 1998年、すぐ近くまで「多摩都市モノレール線」が開通した頃は「武蔵村山にも延長を」という声が強く上がりましたが、あれから約20年、延伸案は絶えて実現していません。
・「地元の悲願」だけで言えば、日本全国あらゆる自治体が「悲願」だらけと思います。また「それなら」と日本全国に新たな鉄道を敷設しまくるということがあり得るでしょうか。 赤字ローカル線の廃止はあっても、その逆が進むわけがないのは火を見るよりも明らかです。「地元の事情」は国家戦略とは別の審級に属します。  一個人としては、武蔵村山に鉄道線の延長があると地元の人が喜ぶだろうなと思いますが、仮にそれができたとして、国家全体のGDP(国内総生産)が上がるとか、景気が目に見えて回復するとか、雇用が優位に伸びるとか、そんな期待は全くできません。
・同様に、国際研究大学院大学などであればまだしも、アンダーグラジュエイト、つまり高校を出たばかりの国内の青少年に獣医学を講じる学校組織を全国展開しても、国際交流の進展はまず一切なく、また未踏の先端バイオサイエンスもビッグデータ活用も、特段の配慮がなければ全く関係ないでしょう。 そもそも国家試験合格まで、学部教育のカリキュラムが満杯のはずですから、戦力になるような新教程を学部に混ぜ込むというのは、少なくとも東京大学では絶対に前提としない議論です。研究と教育が一体化した大学院それも博士レベルで、真剣に議論する内容であることを記しておきます。
・日本国全体の公益のため、「国際競争力の強化」「国際経済拠点の形成」といった本来の目的に合致しているかが国家戦略では問われます。 ただ単にしゃんしゃん総会で有識者にプリントが配られ、「ご異議がなければ承認と看做します。ご異議ございませんね。では承認といたします」方式で流してしまえば、スルーのトンネルであって、合理的な適否の審査とは呼べるものにはなりません。
・正確を期すなら、諮問会議が委嘱して弁護士などを含む第三者審査委員会を招集、厳密に「国家戦略と合致した獣医学部の実施体制になっているか」といった具体項目を徹底して客観的に審査、結果を広く納税者国民、特に費用負担する地元住民に開示して、公正性を明らかにすべきでしょう。 まともに公の施策を考えたことがあるものであれば、誰でもそのように言うはずです。今日の行政アカウンタビリティ、政策コンプライアンスに照らして、避けては通れないポイントと言うに違いありません。
・念のため付記しますが、私は前川前次官と一切の面識もなければ、お友達でもありません。文科省の管轄下にある国立大学―国立大学法人でこの20年弱、諸般の政策には関わってきましたので、そこでの常識的なことを記しているだけです。 まともな人なら誰でも同じようなことを言うであろう、その範囲のみを記しています。またこれは「岩盤規制」などと揶揄されるものとまるで反対であることも明記しておきましょう。
・「岩盤規制にドリルで穴をあける」のだそうですから、それがきちんと開いているか、ほかならぬ諮問会議自身が責任を問われる局面です。第三者評価の通風性をもってしっかりチェックして、きちんと効果を上げなければなりません。 万が一にも「国家戦略」は絵に描いた餅で、実際には許認可以降、羊頭を掲げて狗肉を売るみたいなことになっていたら、諮問会議そのものの意図が完遂されないことになってしまいます
▽「実現可能性評価」:フィージビリティ・チェックという観点
・神戸での安倍首相の講演で、もう1つ気になったことがあります。少し長いですが当該部分を引いて見ましょう。 「『2050年の技術』。こういうタイトルの本を最近英国のエコノミスト誌が出版しました。その中には、ステーキや牛乳が生身の動物からではなく、細胞培養によって工場で大量生産されるといった近未来が描かれています」 「(中略)さらには人間の脳とインターネットが直接つながる。写真や動画などのデジタルデータがDNAに保存されるようになる。私たちの想像を超える世界が展開されています」 「『2001年宇宙の旅』。みなさんご存じでしょう。(中略)半世紀前は、SFの世界だった話が、人工知能の日進月歩により、今やしゃれにならなくなってまいりました。現代の私たちですら、驚くような未来が目前に迫っています。そうした変化に今よりもはるか昔、50年も60年も前の時代に作られた制度が対応できるはずがありません」(http://www.sankei.com/west/news/170624/wst1706240053-n1.htmlから引用)
・もしかすると安倍首相は、こういう話の枕を振っておけば、「しまなみ海道特区」が「国際交流・ビッグデータ活用特区」として、なぜか理由を一切明示されず「獣医学系」だけが最初から指定されている理由を示したことになると考えたのかもしれません。 しかし、この政策は、前川前次官もフェアに言及しているとおり、向こう数年の現実の話として「国際競争力」が上昇し「国際経済拠点」が形成されるのが目論見で、きちんとした中間評価のシステムなどがあれば、期間途中でも達成度が低ければ予算の縮小があっても不思議ではない性質の、重点政策にほかなりません。
・10年ほどTLO(大学技術移転企業)の技術評価委員を務めた観点から、安全な範囲で申しますが、エコノミスト誌が描いたという「2050年の技術」の技術の大半は、今後5年10年で実現される期待は希薄で、つまるところ成長戦略として、喫緊の課題に応えて、2020年代の日本の競争力に直結することは、まずありません。
・上の講演では、SF映画や海外の未来予測に関する雑誌記事のお話は出てきますが、向こう1か年間に確実な成果の上がる国家戦略の具体が、確かな予測やプルーフを背景に語られる局面は見当たらないように思われました。 もっと言うなら、それらが実現化した折には、2017年頃に急拵えで作られた施策は「50年も60年も前の時代に作られた制度」としてカビが生えているはずで、対応できるはずがありません。安倍氏自身が言っている通りになるでしょう。 つまり、向こう数年でも役に立たないし、長期的な未来にも使い物になるあてがない。どこにも落としどころがない「国家戦略」に開いた穴となってしまいかねないということです。
・政策を考えるうえで重要な観点が1つ、完全に欠落しているから、こういうことになります。それは、期限がつけられた「実現可能性評価」、フィージビリティ・チェックという審査の観点です。 また、いったん動き始めた政策は、必ず中間評価で達成度、当初目的からのずれや、内政外交の情勢変化によって必要があればプランの変更なども随時していく必要があるはずです。しかし、そうした観点がほとんど示されていないように見えます。
・改革、改革と言えば良さげに聞こえますが、その実、勝算がきちんとあるプランに、綿密細心なチェックを随時実施して、必要があればそのつど変更を加えていく、ということがなければ、あらゆる政策は失敗すると思います。
・私が具体例を知るケースとして、ドイツ連邦共和国の「インダストリー4.0」政策を挙げることができます。  内外情勢の変化、昨年は移民問題に加えてブレグジット(Brexit)、米大統領選挙、暮れにはベルリンでのテロと、大変な事件が続きました。 こうした情勢変化も見ながら、高度先端科学技術行政の随所で、詳細なチェックと変更、新政策の導入が、ドイツ技術科学アカデミー(AKATECH)を中心として検討、実施され、妥当性の低い政策、効率の低い施策などは随時再検討がなされます。
・国際的な観点で、短期から長期まで、様々なタイムスパンで責任ある政策戦略を立て、随時チェックしながら敢行していくには、それなりの準備が必要です。
・この原稿を6月25日、日曜の朝に入稿した後、同日夕刻のテレビ番組「真相報道バンキシャ」(日本テレビ系列)で、安倍総理の言葉として「あれは、あまり批判されるから頭にきて言ったんだ」という言葉(リンク先=https://www.youtube.com/watch?v=BYMjCOl-lrA)が報道されたのを知り、呆気に取られました。 リンクの動画36分頃で、あくまで記者の取材による内容、くれぐれも誤報であってほしいと願わないわけには行きません。
・大学の観点から厳しく見てしまうと、そういうものが大きく欠落したまま、子供向けの夢物語のようなイノベーションのお話だけで物事が動くように、政治家も多くの有権者も根本的に誤解しているように思われてなりません。そんなに安易にことが動くなら、誰も苦労しないでしょう。 次回は、そうした国家戦略を巡るマクロな理論解析などの話題を、値引きなしのレベルで扱ってみようかと思っています。 2007年に日経ビジネスオンラインにコラムを書き始めてから丸10年、自分自身で引いた歯止めを1つはずして、次回は数式の使用を含むまじめなマクロ戦略をご紹介することを検討しています。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5034

第一の記事にある 『経営的にはロースクール新設は失敗だったということになる』、というのは、この6月7日付けこのブログで郷原信郎氏が指摘している。 『大学には603校中570校に合計2968億円を助成している』、この数字は国からの助成だけで、自治体が出しているものは含まれていないと思われる。
第二の記事で伊東氏が  『この会議資料が配布されたのは平成27年=2015年12月15日です。今からまる1年6か月前の話で、大きな枠組みで特区として認定するかどうか、という諮問会議の席で、なぜか教育については「獣医師系」という極めて具体的な記載がなされている点に目が留まります』、というのは初めから「加計学園あるき」で極めて不自然である。 『専門教育を施す獣医師養成において、ちょうど戦後のベビーブームで大学が乱立した際、社会の要請と無関係に音大や美大を濫造し、結果的にそれらを卒業しても仕事として音楽や芸術で食べていけない若い世代を大量に作った・・・。 私たちの分野の抱える構造問題によく似た問題を新たに起こしてしまうのではないか?』、というのは正論だ。
第三の記事で、 『安倍晋三内閣総理大臣は出先の神戸での新聞社系主催の講演の中で仰天の「決意」を表明したと報道されました。・・・様々な人材が陰日なたで動いて努力してきたのに(それ自体、やってはいけないことだと思いますが)、本人自らが全否定してしまったのですから、周りもたまったものではないでしょう。
つまり、官邸が必死で糊塗してきた「内閣総理大臣は、獣医学部設置認可の問題に一切関わっていないし、具体的に関わる立場ではない」という主張が覆ってしまった。これで終わった、「自爆」と郷原さんは表現』、確かにこの安部発言は、正常心を失って、破れかぶれになったとしか思えない。この発言は、不規則発言としてあとで無視するのではなかろうか。 『「地元の悲願」だけで言えば、日本全国あらゆる自治体が「悲願」だらけと思います』、というのはその通りだ。 『「実現可能性評価」:フィージビリティ・チェックという観点』との提案は、確かに重要でやるべきだろう。
なお、伊東氏が次回として予告したものは、7月4日付け「「メキシコの壁」の愚策を鮮やかに示す数理モデル 米国でも日本でも素人政治家の人気取り政策は国を亡ぼす」というもので、加計学園問題とは離れたので、トランプを取上げる際に、紹介する予定である。
タグ:データが如実に示す獣医学部新設の深い闇 加計学園問題:国際性もなく若者の未来を奪う国家戦略特区とは何なのか 行政が歪められた 学には603校中570校に合計2968億円を助成 語るに落ちた安倍首相、政治家の致命傷を露呈 国家戦略特区の意義にそぐわない獣医学部新設はあり得ない ロースクール」は、弁護士過多が指摘されて合格者が絞り込まれる中で、どんどん姿を消している 資源と設備をかけて高度な専門教育を施す獣医師養成において、ちょうど戦後のベビーブームで大学が乱立した際、社会の要請と無関係に音大や美大を濫造し、結果的にそれらを卒業しても仕事として音楽や芸術で食べていけない若い世代を大量に作った・・・。 私たちの分野の抱える構造問題によく似た問題を新たに起こしてしまうのではないか? 何らかの政治的圧力が加わったことを示唆 前川喜平 国の「国家戦略特別区域」の選定にまつわって、おかしなやり取りがあったとすれば、トンでもありません 学部新設や定員はなぜ「利権」になるのか 加計学園問題を機に考え直すべきこと 外してはならない重要なタガもあります。そうでないと生活が成立せず、本当に困った状態に陥ってしまう高度な専門能力を持つ若者が量産されてしまいます。実際、現実はそうなっている。 そういうなか、そこで学んだ青年たちの未来に「持続可能」な責任を持って施策を立案、完遂することこそが、特区に限らず文教政策の本質的な精神であると、私は思います 日経ビジネスオンライン 磯山 友幸 (その6)(学部新設や定員はなぜ「利権」になるのか、データが如実に示す獣医学部新設の深い闇、語るに落ちた安倍首相 政治家の致命傷を露呈) 広島・愛媛の「しまなみ海道」のエリアをグローバル化し、外国人・外国企業も多数呼び込んで「国際交流・ビッグデータ活用」を作ろうというとき、どうして「教育」について「獣医師系<未踏ライフサイエンス>」に限局されるのか、という点でしょう。 それが1年半も前の時点で、原案承認が通常の諮問会議のテーブルに上がっていることには、公平に見て一抹の疑問を持たざるを得ません 国家資格は一種の「ギルド」 加計学園問題 文部科学省は2015年秋、「定員」を厳格化する方針を打ち出した この会議資料が配布されたのは平成27年=2015年12月15日です。 今からまる1年6か月前の話で、大きな枠組みで特区として認定するかどうか、という諮問会議の席で、なぜか教育については「獣医師系」という極めて具体的な記載がなされている点に目が留まります 伊東 乾 JBPRESS 仮に160人、完全に純増で獣医学部出身者新社会人を日本の大学組織が世の中に送り出すとすると、専門学部は出たけれど職業就労できないという、構造不良的な人材育成の体制を組むことになるのが気にかかります 安倍晋三内閣総理大臣は出先の神戸での新聞社系主催の講演の中で仰天の「決意」を表明 郷原信郎さんの指摘 せっかく「総理の口からは言えないから」と、和泉洋人・内閣総理大臣補佐官とか官房副長官とか、様々な人材が陰日なたで動いて努力してきたのに(それ自体、やってはいけないことだと思いますが)、本人自らが全否定してしまったのですから、周りもたまったものではないでしょう これで終わった、「自爆」と郷原さんは表現しておられました いったん諮問会議さえ通してしまえば、あとは国家戦略特区の趣旨に合致しようがしまいが、ノーチェックで勝手な大学を作っても、結果的に誰からも何のお咎めもないということになる。 これは制度設計の穴、バグと言わねばならないでしょう 「地元の悲願」だけで言えば、日本全国あらゆる自治体が「悲願」だらけと思います 「実現可能性評価」:フィージビリティ・チェックという観点
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0