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アベノミクス(その21)「働き方改革」7(企業は50歳以上を“使う”しかないのだ では、使われる側はどんな努力をなすべきか?、「働き方改革」を「賃金カット」の体のいい口実にさせるな、「74歳まで働く人生」になってしまうのか?) [経済政策]

アベノミクス(その21)「働き方改革」については、5月6日に取上げた。今日は、)「働き方改革」7(企業は50歳以上を“使う”しかないのだ では、使われる側はどんな努力をなすべきか?、「働き方改革」を「賃金カット」の体のいい口実にさせるな、「74歳まで働く人生」になってしまうのか?) である。

先ずは、健康社会学者の河合 薫氏が5月23日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「現実、企業は50歳以上を“使う”しかないのだ では、使われる側はどんな努力をなすべきか?」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・3年後の2020年。大人(20歳以上)の「10人に8人」が40代以上になる。50代以上に絞っても、「10人に6人」だ。 要するに東京オリンピック開催時(予定どおり開かれれば…)、どこの職場も見渡す限りオッさんとオバさんだらけになるってこと。 いかにこれが深刻な状況かは、下のグラフをごらんいただけば一目瞭然である。
・このグラフのように「0」を50歳に日本人口を二分割すると、すごくないですか? しかも、現在はまさしく“上下”が逆転する転換期で、50歳以上対策をどうにかしなきゃで悪戦苦闘する時期なのだ。 50歳を過ぎた社員をどうやって「会社の戦力にする」かで、会社の寿命が決まるといっても過言ではない。“追い出し部屋”だの、希望という名の“絶望退職”で、働かないオッさんをやっかいばらいしたがる会社は後を絶たないけど、使えるものを使わないことには、会社がつぶれることになりかねないのである。
▽大和証券は再雇用した営業職の年齢制限を撤廃
・先々月、昭和のオッさんたちの常備品だった“仁丹”のアノ会社が、第四新卒を始めたことを取り上げたが(日本と仁丹を救うオッサンの「根拠なき確信」)、「第四新卒採用」には、なんと1800人の応募があったそうだ。 ふむ。世の中のオッさんも捨てたもんじゃない。というか、やっぱり「オッさんたちがこの国の“希望”なのかも」と思ったりもする。
・と、そんな中、大和証券が「70歳まで」としていた営業職の再雇用の年齢制限を撤廃するとの方針を固めたとの報道があった。 「年齢を重ねて経験や知識が豊富で、この世代はバブル期に多額の収益を稼いだ社員が多い。顧客も高齢化していくので、営業も同世代の方が効果的だ。多くの顧客と信頼関係を築いてきた社員に長く勤め続けてもらうことで、業績向上につながると期待している」(朝日新聞より)
・実に喜ばしい報道である。ちなみに現在の営業職最高齢は、67歳。後に続く“70歳営業マンの星”となるべくご活躍することを心から期待している。 でも、その一方で「ホントに企業にとってプラスになるのか」という心配もある。
・いや、もちろんベテラン社員が若い人より稼ぎが悪いとか、50歳以上を雇用し続けることで企業の生産性が低下するといった証拠はないし、私自身「年齢を重ねることで得る経験や知識」はどんなに若手にお金を投資しようとも得られない企業の資産だと断言してきたので、「業績の向上につながる」と信じている。
・だが、「ああ、自分たちの時代は終ったなぁ」と感じることも少なくないので、ちょっとばかり心配なのだ。  どんなに社員の長期雇用のメリットのひとつに、「彼ら彼女らに付いた顧客のロイヤリティーが向上することがある」とさまざまな研究から確かめられていて、担当者の変更は高齢者ほど嫌うばかりか、“乗り換え”の機会にもなりがちであるとしても、「オッさんたちがニッポンの希望だ!」ともっともっと強くアピールして、オッさん、オバさんたちと一緒に私もがんばりたい。
・そこで今回は、「オッさんの価値」というテーマでアレコレ考えてみようと思う。 まずは「体力」について、「あ~やっぱりね~」という調査結果から紹介する。
・東京都老人総合研究所が1992年と2002年に、約4000人を対象にふだんの歩行スピードを調べ、比較した結果がある(「日本人高齢者における身体機能の縦断的・横断的変化に関する研究―高齢者は若返っているか?―」)。 「歩行スピード」は年齢と共に低下するため、身体機能のレベルの総合的な測定に多く用いられるのだが、ごらんのとおり1992年から劇的に伸びていることがわかる。 (出典:経済産業省「長寿社会における成長戦略」参考資料3ページより引用) 
・1992年の64歳の歩行スピードは、2002年の75歳とほぼ同じ。  つまり、10年前にくらべ11歳も身体機能が若く、70歳は59歳、60歳は49歳。 身体的には、60歳定年はおろか65歳定年でも早過ぎる。 っというか、こんなにカラダが元気な人たちを、職場で放し飼いにしておくのはもったいないとしか言いようがない。
▽身体だけでなく、アタマも意外に劣化しない
・「でもさ~、カラダだけ元気ってのが案外、部下には困るといかウザいというか……」 はい、そのお気持ちよ~くわかります。でも、安心してください。 なんと「日常問題を解決する能力や言語(語彙)能力は、年齢とともに磨かれ、向上している」ということが、いくつもの調査で確かめられているのである。
・そもそも人間の知能は「流動性知能」と「結晶性知能」の2つの側面に分かれる。 流動性知能とは、「新しいことを学んだり、新しい環境へ適応したり、情報処理を効率的に行ったりするための問題解決能力」で、記憶力や暗記力、集中力などを指す。 結晶性知能とは、「学校で学んだことをや日常生活や仕事などを通じて積まれた知識や経験を生かした応用する能力」で、いわゆる経験知や判断力だ。
・かねてから「身体能力のピークは20代であるのに対し、知力は発達し続ける」とされていたのだが、近年、経年データを使った分析(縦断研究)が行われるようになり、「どちらの能力も、60歳代前半までは大きく低下しない」ことがわかった。
・具体的には……、流動性知能のうち、記憶力や暗記力は40歳代後半から急速に低下する。しかし語彙力は、若干低下する傾向はあるもののさほどではなく、統計的にも有意じゃない。 一方、結晶性知能は60~70歳前後まで緩やかに上昇。74歳以降緩やかに低下するが、80歳ぐらいまでは20歳代頃と同程度の能力が維持される。
・つまり、「業績の向上」につながる経験を「結晶性知能」とすれば、カラダさえ元気ならエイジレスで業績に貢献することが可能なのだ。 さらに、脳科学の発達により「認知機能が衰え始めるのは亡くなる5年ほど前」ということもわかった。しかもその低下は決して急激ではなく、ゆるやかに低下することが確かめられている。
・このコラムでも何度も取り上げた、米マサチューセツ州にあるヴァイタニードル社は、まさしく「結晶性知能」を生かすことで企業の業績を向上させた企業だ。(「定年延長で激化する「“オッサン”vs若者」バトル」) 経験と専門知識を持つスペシャリストも積極的に雇用することで、効率的に生産性を向上させている。 私が記事にしたとき、99歳で最高齢だった方は100歳で辞めたのだが、理由は「転居により通勤が難しくなった」こと。裏を返せば、100歳を超えても、いちサラリーマンとして、企業に勤めることは可能。
・「そんなに働きたくないよ~」という悲鳴も聞こえてきそうだが、ヴァイタニードル社のHPに掲載されている高齢者たちの表情をみると、ちょっとばかりうらやましいというか、勇気がでるので是非ともごらんいただきたい(こちら)。
▽高齢者雇用で業績が下がる証拠はない
・政府の「働き方改革実行計画」には、 ――高齢者の7割近くが、65 歳を超えても働きたいと願っているが、実際に働いている人は2割にとどまっている。労働力人口が減少している中で、我が国 の成長力を確保していくためにも、意欲ある高齢者がエイジレスに働くため の多様な就業機会を提供していく必要がある。
・としているけど、「意欲ある人」のための就業機会ではなく、「企業が生産性を上げる」ために、65歳を超えても能力発揮の機会を提供していく、といった雇用する側の意識改革が必要であることは、体力と知能のエビデンスから明らか。 ただし、ただ単に「年を取れば上昇する」というものではない。 低下しないことと、上昇することは別で、「年取ったから知能が低下する」わけでもなければ、「若いものより、年寄りのほうが知恵がある」わけじゃない(ややこしいですけど……)。
・まぁ、当たり前といっては当たり前なのが、気になるのはその個人差が高齢になるほど拡大するということだ。 つまり、50歳を超えても「企業に貢献できる存在」になるには、「経験知」としての結晶性知能を高めておくことが大切なのだ。
・結晶性知能を高める方法として、近年、急速に注目されているのが「認知の予備力(Cognitive Reserve)」である。 これは本を読んだり映画を見たりするなどして言語能力を高め、学校の勉強をし、仕事に主体的に取り組み、仕事以外の活動に積極的に参加することで、平たくいえば、よく学び、よく遊び、よく働くこと。仕事だけじゃダメ、勉強だけでもダメ。体と頭を使い、いろいろな人と交流することが「認知の予備力」につながっていく。
・認知の予備力は、私の専門である健康社会学や組織心理学の「暗黙知(tacit knowledge)」と極めて近く、「難しい相手との交渉」や「部下の心を掴む」など、特定の目標を達成するための手続き的な知識で、単なる仕事に関する知識や一般知識ではない。 で、こういった経験を繰り返し、「大きな顧客をゲットできたぞ!」「○●君(部下)もずいぶんと成長したな」といった成功体験や、上手くいかなくとも「なるほど。そういうことだったのか!」と失敗から学ぶ体験で、暗黙知は飛躍的に伸びる。
▽心の定年に甘んじてはダメだ!
・つまり、何だか古くさくて、説教くさいけど「若い時の苦労は買ってでもしろ」ってことが科学的に実証されているのだ。 「え? オレ、苦労してないかも……」という人は、今からでも遅くない。自分の能力を超えたチャレンジを今のうちにやっておいたほうがいい。 40代後半で「心の定年」を迎えている場合ではない。腹の出具合や足腰の衰えや、増えた白髪や広くなった額を気にするだけじゃなく、今のうちから「認知の予備力」を高める努力もやるしかない。
・現状に甘んじている人の「未来の価値」は残念ながら低く、カラダ“だけ”が若いという、厄介な存在に成り下がってしまうのである と同時に、企業も「動けば動くほど周りの負担を増やす」やっかいなオッさんを量産しないためには「経験信仰」に頼るのではなく、「認知の予備力」を蓄える働かせ方を模索し、長期的目線で「高齢者(イヤな言葉ですけど)雇用」を捉えることが肝心なのだ。
▽オッさんと若手のペアが面白そう
・て、最後に興味深いことをもうひとつだけ話して終わりにします。  このコラムでは何度も書いている、人間が持つたくましさ、困難を乗り越える内的な力である「SOC(Sense of Coherence)」も、年齢と共に高まることが、国内外の実証研究の積み重ねによって確認されている。 ピークは70代前半。先の結晶性知能と同じだ。
・で、高齢者のSOCは、「主観的健康、人格的成長(詳細は森下仁丹コラム)、経済的豊かさ、周囲の人たちとの良好な人間関係」が高さと関連があり、「経済的な不安定さ」はSOCを低下させる。 さらに、他者に「教える」という経験が、高齢者のSOCを高めることもわかっている。
・暗黙知の高いオッさんと、記憶力の高い40歳以下の社員がタッグと組めば、互いに知能を補完しあえるし、生産性に貢献する化学変化が期待できる。 「10人に8人が40代以上」という現実は、すぐそこ。 オッさんもがんばる。オバさんもがんばる。でもって、企業は何年もかけて培ってきた経験知をもつ人々を、いかに活用するかで、10年後が決まる。
・10年か…。私がここで書き始めたのは10年前。10年後…。私もがんばります! 悩める40代~50代のためのメルマガ「デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』」(毎週水曜日配信・月額500円初月無料!)を創刊しました!どんな質問でも絶対に回答するQ&A、健康社会学のSOC概念など、知と恥の情報満載です。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/051900105/?P=1

次に、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏が6月1日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「働き方改革」を「賃金カット」の体のいい口実にさせるな」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍内閣は「働き方改革」政策で、長時間労働を厳しく規制する方向を打ち出している。この結果、何が起こったか? 「毎月勤労統計調査」によると、超過労働時間は減った。ただし、これは所定外給与を減らす結果にもなっている。他方で、本当に問題となる「過労死レベル」に近い長時間労働は減っていない。 労働時間の適正化は、生産性の向上よって実現すべきものである。「所定外労働時間」という表面的な現象だけにこだわって強制的に労働時間を減らせば、その歪みは労働者に及ぶ。
▽超過労働減ったが、所定外給与も2016年6月以降、落ち込んでいる
・まず、労働時間や給与の推移を、実際のデータで確認してみよう。 「毎月勤労統計調査」によると、30人以上の事業所の一般労働者の労働時間は、図表1のとおりである。 所定内労働時間には、2013年以降、あまり大きな変化が見られない。それに対して、所定外労働時間は、14年以降かなり増えたが、長時間労働が社会問題化した16年以降は減少している。 指数の年平均値で見ると、13年に96.0であったものが15年に100.0となったが、16年には98.2に減少している。
・これは、長時間労働に対する社会的批判の高まりと、長時間労働を抑制しようという政府の政策に影響されて、企業が所定内労働時間は一定に保つ半面で、所定外労働を減らした結果であると解釈できる。 給与の推移は、図表2に示すとおりである。 所定内給与は、若干の例外を除くと、15年以降、17年2月まで増加を続けた。 しかし、所定外給与は、16年後半からかなり大きく落ち込んでいる。対前年同月比は、17年2月を除くと、16年6月以降一貫してマイナスだ。超過勤務手当てが減ったのである。
(注)労働基準法では、1週40時間、または、1日8時間を超えて働かせてはならないことになっている。この労働時間を、「法定労働時間」という。 それに対して、「所定労働時間」とは、会社で定めた労働時間のことだ。
・厚生労働省、「平成27年就労条件総合調査結果の概況」によると、1日の所定労働時間は、1企業平均7時間45分、労働者1人平均7時間45分である。週所定労働時間は、1企業平均39時間26分、労働者1人平均39時間03分となっている。
▽長時間労働が多いのは パートより一般労働者
・以上で述べたことを、いわゆる正社員の一般労働者とパートタイム労働者に分けてみよう。 最近の状況は、図表3に示すとおりだ。 月間総労働時間について、調査対象の産業全体で見ると、一般労働者は170.7時間で、パートタイム労働者85.7時間の1.99倍になる。
・所定外労働時間は、一般労働者の場合には、総労働時間の8.9%にあたる15.2時間だ。 これに対して、パートタイム労働者の場合には2.6時間で、これは総労働時間の3.0%にすぎない。 したがって、長時間労働が問題になるのは、主として一般労働者であることが分かる。
・図表1には示していないが、所定外労働時間の総労働時間に対する比率が最も高いのは運輸業、郵便業で、15.0%である。それでも、月間所定外労働時間は28.1時間だ。これは、健康に障害が出るほどの値ではないように思われる。
▽平均値では実態がわからない 分布を見る必要がある
・上で述べた数字を見る限り、長時間労働は、日本全体の問題としてはあまり深刻ではないような印象を受ける。 しかし、これは、統計数字を平均値だけで見ることによって生じる錯覚だ。平均で見ると大きな問題でないが、一部の人にとっては大きな問題なのだ。 したがって、労働時間の平均値だけでなく、「分布」を見る必要がある。
・これは、図表4(2016年3月のデータ)と図表5(17年3月のデータ)に示すとおりだ。 なお、前者は月末1週間の就業時間、後者は月間就業時間と、統一が取れていない。しかし、労働力統計のデータには同一形式の統計表がないので、やむを得ない。 図表4を見ると、週35時間から59時間の間に3782万人いる。これは、就業者総数6339万人の約6割だ。 また、図表5を見ると、就業者全体の約3分の2の人々の月間就業時間は、約121時間から240時間の間である。 いずれの数字を見ても、日本人の大部分の人にとって、労働時間はそれほど長くはないことが分かる。これは、図表3を見ての印象と同じものだ。
▽残業月平均80時間の「過労死ライン」 全体の1割を占めるのは大問題
・しかし、図表4を見ると、2016年3月において、「週60時間以上」が543万人いるのである。これは、就業者総数の6433万人の8.4%だ。 週80時間以上も67万人で、全体の約1%いる。 また、図表5を見ると、月間就業時間241時間以上の就業者が584万人いる。これは、就業者総数の6433万人の9.1%だ。 仮に、全就業者の平均月間労働時間167.4時間を所定内労働時間と考えると、超過勤務が約80時間程度以上ということになる。
・時間外労働時間数が月平均80時間は、「過労死ライン」と呼ばれている。それを超えている人が、全体の1割近くいるわけだ。 図表6に示すように、正規の職員・従業員の場合は、月間就業時間が241時間以上の就業者の比率は12.0%と、就業者平均より高くなる。さらに、役員では、15.6%と、もっと高くなる。
▽2.7%の企業で該当! 深刻な長時間労働は減っていない
・すでに述べたように、図表4と図表5の数字を、直接には比較できない。 ただし、「週60時間以上」と「月241時間以上」を同一視しても、大きな間違いはないだろう。 そうだとすると、長時間労働者(図表4では「週60時間以上」、図表5では「月241時間以上」)の比率は、この1年間に、就業者総数の8.4%から9.1%に上昇していることになる。つまり、深刻なレベルの長時間労働は減っておらず、むしろ増えているのだ。
・なお、2016年5月に厚生労働省が発表した報告書によれば、1ヵ月間の残業が最も長かった正社員の残業時間が「過労死ライン」の80時間を超えた企業は、調査対象の22.7%にのぼる。
▽現実は「体のいい賃金カット」 労働生産性の引き上げが重要
・結局、平均的な所定外労働時間が減って所定外給与が減った半面で、深刻な長時間労働は減っていないということになる。 これは、減らせない事情があるからだろう。 強制される長時間労働が問題であることはいうまでもない。しかし、超過勤務をしても働きたいという人も、一方にはいる。超過勤務手当を得たい人もいるだろうし、組織の中での地位上昇を望むために、できるだけ長く働きたいと思う人もいるだろう。
・また、仕事のノルマがある以上、「オフィスで仕事ができなければ、自宅に持ち帰って仕事をする」ということにもなりかねない。もしそういうことになれば、仕事量は変わらずに賃金だけが減らされることになる。これでは、「体のいい賃金カット」ということになりかねない。
・労働生産性が上昇し、それによって結果的に労働時間が減るのでなければ、本当に問題となる長時間労働は減らず、労働者の所得を減らすだけの結果に終わってしまうだろう。
http://diamond.jp/articles/-/130136

第三に、みずほ証券チーフ。マーケット・エコノミストの上野 泰也氏が6月20日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「74歳まで働く人生」になってしまうのか? 経産省若手プロジェクトから考えたこと」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽連載200回を機に考える、「人はなぜ働くのか」
・「上野泰也のエコノミック・ソナー」と題したこのコラムをお届けするのは、今回で区切りの200回目になる(※参考 連載第1回=2013年6月3日配信記事はこちら)。よく続いたものだと自分でも思う反面、次々と書くネタが出てくる経済・マーケットの世界は終わりのないドラマのようなもので実に奥が深いとあらためて感じ入る。今回は、筆者の人生観も交えながら、「なぜ働くのか」や世代間対立について考えてみたい。
・5月18日に経済産業省で開催された第20回産業構造審議会総会で、中長期的な日本の社会の在り方に関する次官・若手プロジェクトの提言 「不安な個人、立ちすくむ国家」(→資料 ※経済産業省内ページ)が発表された。このプロジェクトは省内で公募された20代・30代の若手30人で構成されており、メンバーは自分の担当業務をそれぞれ行いながらプロジェクトに参画。「国内外の社会構造の変化を把握するとともに、中長期的な政策の軸となる考え方を検討し、世の中に広く問いかけることを目指すプロジェクト」である。世代を越えて傾聴すべき若者の意見か、それとも税金の無駄遣いにすぎないかで、SNSなどで論争を巻き起こしたペーパーなのだが、結論の部分に以下の文章がある。
▽少子高齢化、逆算するとこの数年が勝負
・「2025年には、団塊の世代の大半が75歳を超えている。それまでに高齢者が支えられる側から支える側へと転換するような社会を作り上げる必要がある。そこから逆算すると、この数年が勝負。かつて、少子化を止めるためには、団塊ジュニアを対象に効果的な少子化対策を行う必要があったが、今や彼らはすでに40歳を超えており、対策が後手に回りつつある。今回、高齢者が社会を支える側に回れるかは、日本が少子高齢化を克服できるかの最後のチャンス。2度目の見逃し三振はもう許されない」
・かなりマイルドで婉曲な表現が使われているが、端的に言うと、できるだけ多くの高齢者が働き続けて社会を「支える側」に回ることにより、少子化対策の失敗をカバーしようという発想である。
▽若い世代が高齢者に向ける視線はかなり厳しい
・筆者がこのペーパーよりも大きな関心を抱いたのが、そうしたアイディアがより強く前面に出ていた上記の約1年前の文書である。2016年5月16日に開催された第18回産業構造審議会総会に提出された、次官・若手未来戦略プロジェクトのディスカッションペーパー「21世紀からの日本への問いかけ」(→資料 ※経済産業省内ページ)がそれ。すでに50代半ばにさしかかっている筆者は内容を一読して、若い世代が高齢者に向ける視線には(本人が意図するとせざるとにかかわらず)相当厳しいものがあるなと痛感させられた。 「日本の立ち位置」というタイトルがつけられた2番目の章に、以下の記述がある。
▽最先端技術を活用し、高齢者はずっと働いて
・「バイオ技術の活用で世界に先んじて健康寿命が延び、 AI・ロボット技術の積極導入によるサポートが可能になれば、高齢者も、支えられる側から、むしろ価値創造側に回ることができるのではないか」 「わが国の平均寿命は戦後と比較して30年延伸。健康寿命も70代に。今後、AI・バイオ技術の導入で健康寿命が延びれば、高齢者は、知識・智恵を活用した人的資源となるのではないか」
・そして、「今後の仮説」と題された章の「基本的な方向性と仮説」には、次の文章がある。 「高齢者の智恵・人脈・経験等を活かした労働参加の促進が社会的に大きな利益。→ AI、IoT、バイオ技術を活用し、世界最高レベルの高齢者の労働参加(戦後の社会保障・雇用制度の抜本見直し)」 「第4次産業革命がもたらす所得格差が世界的な課題となる中で、我が国は、①高齢者の労働参加、②様々な『差異』を生み出す人材の創出によって、大きな政府による所得再分配策に依らずとも所得の二極化を解決できるのではないか」 
▽高齢層の就労拡大により、社会保障制度は維持できるか
・「AI・IoT・バイオ技術等を活用し、高齢者の就労を促進することができるのではないか。健康寿命の伸びに実態を合わせていけば、現役世代2人で高齢世代1人を支える構造を今後も維持できるのではないか」  この「現役世代2人で高齢世代1人を支える構造を今後も維持できる」という見方のエビデンスとして「高齢者の現役参画と生産年齢人口比率の関係」と題した数表があり、①2015年時点で65歳以上人口/15~64歳人口=2.3、②2035年時点で70歳以上人口/15~69歳人口=2.4、③2055年時点で75歳以上人口/15~74歳人口=2.5という数字が、丸で囲ってある。要するに、健康寿命が伸びれば、2035年時点で69歳までの人の多くが就労した状態であることができ(現役世代にとどまることができ)、2055年時点ではこれが74歳までになり得るから、海外からの移民などの積極的受け入れを含む人口対策を強化しなくても、高齢層の就労拡大によって、社会保障制度はなんとか維持できるのではないかという、なんとも大胆な仮説である。
・若年層から出てきたこうしたアイディアに厳しさ、さらには冷たい視線さえ筆者が感じたのは、「人は何のために働くのだろうか」「健康寿命の間はひたすら働き続ける人生が本当によいのだろうか」「そういう人生が楽しいと思える人は多数派なのだろうか」といった、素朴な疑問を抱くからである。
▽働きづめの人生は幸せか?
・率直に言うと、自分の父親がそうだったような働きづめの人生には、筆者は全く魅力を感じない。働くことそのものに人生の大きな意義を見出してきた人は、団塊の世代などではそれなりに多いのかもしれない。だが、筆者は好奇心の塊のような人間であり、もともと多趣味ということもあって、引退したら健康なうちにいろいろなことをやりたいという欲求が非常に強い。悲しいことに膨らむ一方の子どもの教育費などを支払っても十分おつりがくるだけのお金をなんとか稼いで、自分の老後の自由な生活を少しでも楽しいものにする原資を得るために、心身ともに極度に疲弊している時でも必死に耐えながら、自分の仕事に日々全力を注いでいるわけである。
・働く目的について筆者がきわめて例外的な考え方の持ち主ではないことを示すため、ここで内閣府の「国民生活に関する世論調査」から、人々がなぜ働いているのかの調査結果を見ておきたい。
▽働く目的は何ですか? 「お金を得るために働く」が最多
・2016年6月23日~7月10日に実施された最新の調査結果で、「あなたが、働く目的は何ですか。あなたの考え方に近いものをこの中から1つお答えください」という問いに対する回答では、「お金を得るために働く」が最も多く、半数を超えた(53.2%)。むろん、働いて手にしたお金の使途はケースバイケースなのだが、筆者もこのグループに属している。 第2位は「生きがいをみつけるために働く」(19.9%)。以下、「社会の一員として、務めを果たすために働く」(14.4%)、「自分の才能や能力を発揮するために働く」(8.4%)、「わからない」(4.1%)となっている<■図1>。
・むろん、世代によって考え方には違いがある。年齢別の集計結果を見ると、「お金を得るために働く」が最も多かったのは「40~49歳」(68.3%)。「18~29歳」「30~39歳」も60%を超えた。筆者が属している「50~59歳」は58.5%である。一方、「60~69歳」では49.1%にとどまり半数未満。70歳以上では34.4%しかおらず、「生きがいをみつけるために働く」の32.0%とほぼ拮抗している。
▽若い世代は、高齢世代に「落とし前をつけてほしい」と思っている
・若い世代からすれば、日本政府の借金が後先を考えずにここまで膨大な額になってしまったのは自分たちより上の世代の責任であることは明らかだし、少子化対策や外国人受け入れ策を早い段階から積極的に推し進めなかったのも上の年代の人々の責任だということになるのだろう。したがって、そうした世代の人々は自分の健康をしっかり維持しながら(国の医療費の面で迷惑をできるだけかけないようにしながら)、70歳代半ばあたりまで現役世代として働くことにより、いわば「落とし前をつけてほしい」ということなのだろう。
・政治の表舞台にはまだ出てきていないものの、世代間の利害対立は、日本でも潜在的には非常に深いものになりつつあるように思える。そして、「引退して悠々自適の生活を送る」という、筆者のような世代が漠然とイメージしてきた人生のゴールのようなものは、だんだん遠くなりつつある、もしかするとなくなりつつあるのかもしれない。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/063000099/?P=1

河合氏が 『東京オリンピック開催時、どこの職場も見渡す限りオッさんとオバさんだらけになる』、との指摘は確かに刺激的だ。 ただ、良く読むと、 『身体だけでなく、アタマも意外に劣化しない』、 『高齢者雇用で業績が下がる証拠はない』、 『心の定年に甘んじてはダメだ!』、などの指摘はもっともで、元気づけてくれるなかなかいい記事である。
野口氏が労働統計を基に、 『超過労働減ったが、所定外給与も2016年6月以降、落ち込んでいる』、 『長時間労働が多いのは パートより一般労働者』、 『平均値では実態がわからない 分布を見る必要がある』、 『残業月平均80時間の「過労死ライン」 全体の1割を占めるのは大問題』、 『2.7%の企業で該当! 深刻な長時間労働は減っていない』、 『現実は「体のいい賃金カット」 労働生産性の引き上げが重要』、などと指摘しているのはその通りだ。
上野氏が 経産省の産業構造審議会総会で示された次官・若手プロジェクトの提言 「不安な個人、立ちすくむ国家」のなかにある 『最先端技術を活用し、高齢者はずっと働いて』について、総論では理解しつつも、個人的には 『働きづめの人生は幸せか?』と問いかけている。しかも、『若い世代は、高齢世代に「落とし前をつけてほしい」と思っている』、のであれば、悠々自適などという選択肢は許されないのかも知れないが、高齢者にどのように働いてもらいたいのかのイメージなしに、経産省が問題提起だけしたというのも、画竜点睛を欠く印象を受けた。
タグ:アベノミクス (その21)「働き方改革」7(企業は50歳以上を“使う”しかないのだ では、使われる側はどんな努力をなすべきか?、「働き方改革」を「賃金カット」の体のいい口実にさせるな、「74歳まで働く人生」になってしまうのか?) 日経ビジネスオンライン 河合 薫 現実、企業は50歳以上を“使う”しかないのだ では、使われる側はどんな努力をなすべきか? 要するに東京オリンピック開催時(予定どおり開かれれば…)、どこの職場も見渡す限りオッさんとオバさんだらけになるってこと 50歳を過ぎた社員をどうやって「会社の戦力にする」かで、会社の寿命が決まるといっても過言ではない 大和証券が「70歳まで」としていた営業職の再雇用の年齢制限を撤廃するとの方針を固めたとの報道 オッさんの価値 10年前にくらべ11歳も身体機能が若く、70歳は59歳、60歳は49歳。 身体的には、60歳定年はおろか65歳定年でも早過ぎる 身体だけでなく、アタマも意外に劣化しない 人間の知能は「流動性知能」と「結晶性知能」の2つの側面に分かれる 流動性知能とは、「新しいことを学んだり、新しい環境へ適応したり、情報処理を効率的に行ったりするための問題解決能力」で、記憶力や暗記力、集中力などを指す 結晶性知能とは、「学校で学んだことをや日常生活や仕事などを通じて積まれた知識や経験を生かした応用する能力」で、いわゆる経験知や判断力だ 流動性知能のうち、記憶力や暗記力は40歳代後半から急速に低下する。しかし語彙力は、若干低下する傾向はあるもののさほどではなく、統計的にも有意じゃない。 一方、結晶性知能は60~70歳前後まで緩やかに上昇。74歳以降緩やかに低下するが、80歳ぐらいまでは20歳代頃と同程度の能力が維持される 高齢者雇用で業績が下がる証拠はない 仕事だけじゃダメ、勉強だけでもダメ。体と頭を使い、いろいろな人と交流することが「認知の予備力」につながっていく 心の定年に甘んじてはダメだ! オッさんと若手のペアが面白そう 暗黙知の高いオッさんと、記憶力の高い40歳以下の社員がタッグと組めば、互いに知能を補完しあえるし、生産性に貢献する化学変化が期待できる 野口悠紀雄 ダイヤモンド・オンライン 「「働き方改革」を「賃金カット」の体のいい口実にさせるな 超過労働減ったが、所定外給与も2016年6月以降、落ち込んでいる 長時間労働が多いのは パートより一般労働者 平均値では実態がわからない 分布を見る必要がある 残業月平均80時間の「過労死ライン」 全体の1割を占めるのは大問題 2.7%の企業で該当! 深刻な長時間労働は減っていない 現実は「体のいい賃金カット」 労働生産性の引き上げが重要 上野 泰也 「「74歳まで働く人生」になってしまうのか? 経産省若手プロジェクトから考えたこと 経済産業省 産業構造審議会総会 中長期的な日本の社会の在り方に関する次官・若手プロジェクトの提言 「不安な個人、立ちすくむ国家」 少子高齢化、逆算するとこの数年が勝負 若い世代が高齢者に向ける視線はかなり厳しい 最先端技術を活用し、高齢者はずっと働いて 高齢層の就労拡大により、社会保障制度は維持できるか 働きづめの人生は幸せか? 若い世代は、高齢世代に「落とし前をつけてほしい」と思っている
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