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シェアリングエコノミー(その1)(「民泊」解禁どころか後退へ 経産省の不作為、ウーバーは利用者もドライバーも「搾取」 米で批判高まる、シェアリングエコノミーの税逃れ 保障漏れに誰が責任を負うべきか、配車サービスのウーバーにまたも難題 「灰色ビジネス」に巨額罰金) [経済政策]

今日は、シェアリングエコノミー(その1)(「民泊」解禁どころか後退へ 経産省の不作為、ウーバーは利用者もドライバーも「搾取」 米で批判高まる、シェアリングエコノミーの税逃れ 保障漏れに誰が責任を負うべきか、配車サービスのウーバーにまたも難題 「灰色ビジネス」に巨額罰金) を取上げよう。

先ずは、2月28日付け日経ビジネスオンライン「「民泊」解禁どころか後退へ、経産省の不作為 シェアリングエコノミー後進国に忍び寄る圧力」を紹介しよう(▽は小見出し9.
・自宅を他人に貸すホームシェアリング、いわゆる「民泊」を国内でも合法的に実現しようと、観光庁を中心に「住宅宿泊事業法案(民泊新法)」の整備が進む。法案は既に自民党による審査に入っており、政府は3月10日前後の閣議決定、今国会での成立を目指している。
・この民泊新法について、一般には「民泊解禁へ」と報じられている。だが実態は解禁どころか、その逆。むしろ、国内に根付きつつある民泊が後退しかねない。 民泊業界からは、「シェアリングエコノミーという新産業の振興を後押しすべき経済産業省は何をやっているのか」との恨み節も聞こえてくる。そのはず、民泊に関して経産省は何もやっていないに等しい。まずは、経緯をおさらいしよう。
・一般人が自宅を旅行者に貸すとしても、現状では旅館業の登録やフロントの設置などを義務付けている「旅館業法」の順守が求められる。だが、インターネットやアプリを介して気軽に貸し借りできるプラットフォームが世界的に普及。自宅を貸す「ホスト」の多くは旅館業法を無視した違法状態にあるのが実情だ。 こうした状態を改善し、ホストが貸しやすい制度、宿泊する「ゲスト」が安心して利用できる制度を作ろう、というのが、そもそも民泊解禁の議論の発端だった。
・2013年、国家戦略特区諮問会議は、特区で民泊を解禁する方針を示し、昨年から東京都大田区など一部自治体では、旅館業法が定めるフロントの設置や、一部の提出書類を省いても民泊として営業可能となった。次いで、全国的な解禁に向けた作業が進む。これが民泊新法だ。 ところがこの法案は、民泊を推進したい勢力からすれば目を疑うような内容であることが最近、明らかとなったのだ。
▽世界の趨勢の逆をゆく日本の民泊新法
・新法はまず、ホスト(住宅宿泊事業者)への規制を定めている。都道府県知事への届け出を義務付け、かつ、ゲストへの宿泊サービス提供の上限を年間180日以内と定めている。加えて、「外国語による説明」「宿泊者名簿」「年間提供日数の定期報告」「標識の掲示」といった適正な遂行のための措置もホストに義務付けている。
・これに眉をひそめるのが、民泊世界最大手のAirbnb(エアビーアンドビー)だ。エアビーが民家などへ送った宿泊者数は2008年の創業以来、世界で1億5000万人を超えた。同社の関係者はこう漏らす。 「世界の多くの都市では、年間上限までは無届け・無許可で営業可能。法案は一般人ホストからするとガチガチ。シンプルで誰にでも分かりやすく、利用しやすい法律にはなっていない。例えば70歳のおばあちゃんが亡くなった旦那の寝室を気軽に貸せるような制度ではない」
・例えば英ロンドンでは年間上限90日まで、米フィラデルフィアでは同90日、仏パリでは同120日までであれば、無届けで自由に自宅をゲストに貸すことができる。オーストラリアでは民泊を法律の適用除外とする法案が通り、一切の規制が排除された。ポルトガルでは届け出が必須だが上限規制などはなく、ゲスト向けのオンライン登録制度も極めて簡潔のため、物件数が急増しているという。
・しかし、日本の新法は、こうした世界の趨勢と逆行するように、一般人のホストに対して過剰な負担を強いるものになっている。すべてのホストに届け出を義務化するだけでも世界からしたら珍しいのだが、その他の義務付けも壁が高い。 最たるものが、標識の掲示。詳細は煮詰まっていないが、住宅宿泊事業者の届け出番号や氏名、連絡先などが書かれたステッカーのようなものを、玄関などの見える場所に掲示することを義務付ける方向で議論が進んでいる。「ひとり暮らしの女性はどうするのか。危険ではないのか」。そういった声に、法案を担当する観光庁の官僚は「仕方がない」と答えたという。
・国内でも民泊仲介のトップをゆくエアビー。そこに掲載されている都内の物件数は1万7000超、大阪府内は1万2000超あるが、その多くが無許可で旅館業法の規定違反と見られる。一般人ホストは、旅館業法が定める煩雑な登録作業を回避しているからなのだが、新法が施行しても、これでは結局、無届けの違法民泊物件が減らない、との指摘が民泊の現場からは噴出している。
・話はこれで終わらない。新法は新たに、エアビーなどの仲介業者への規制も盛り込まれる。この新たな規制により、エアビーが事実上の撤退に追い込まれる可能性すら出てきた。 新法はまず、エアビーのようなホストとゲストを仲介する事業者に対して、観光庁長官への登録を義務付けている。さらに、「信義・誠実に義務を処理」「不当な勧誘等の防止」といった適正な遂行のための措置も義務付け、守られない場合は立ち入り検査や登録の取り消しといった行政処分が課せられることになる。
・適正な遂行のための措置をどう読み解くのかにもよるが、エアビーは数万件ある違法物件の多くを削除せざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。そうなれば、エアビーは日本市場から撤退を余儀なくされるかもしれない。法案はそうした含みを残した。 表向きは「民泊解禁」の顔をしながら、実態は「民泊後退」、もしくはエアビーの締め出しを迫る新法。なぜ、こういう帰結になろうとしているのか。理由は明白。ホームシェアリングという新たな市場に怯えるホテル・旅館という旧市場。そこと蜜月にある観光庁が法案作成の主体だからである。
・民泊の利用が進むいずれの海外の国・都市も、ホームシェアリングという新市場をいかに健全に育てるか、を主眼に制度を整えてきた。ところが日本では、旧市場をいかに守るか、という議論が先行している。 実は、国土交通省傘下の観光庁だけではなく、衛生面で監督する厚生労働省もホテル・旅館業界と蜜月。観光庁は厚労省と密接に連携しながら法案準備を進め、前提となる委員会・検討会などでは、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)などの業界団体が徹底抗戦を仕掛けていた。
・新勢力に怯えるホテル・旅館業界の顔色をうかがいながら新法を作れば、規制・後退色の強いものとなるのは自明。結果、新市場の勢力からすれば、極めて難解で利用しにくい制度となってしまいそうなのだ。  こうなってしまった遠因として、もう一つ、「経産省の不在」も挙げられる。エアビー関係者は言う。 「当初は新産業の振興を担う経産省に大きな期待を寄せていたが、結局は何もしてくれない。もはや、経産省に行くことはほとんどなく、もっぱら観光庁や厚労省と付き合っている」
▽経産省不在の政策議論
・経産省は、シェアリングエコノミー協会という社団法人を監督している。協会には、シェアリングエコノミーに関連する国内ベンチャーのほか、エアビー日本法人や、ライドシェア世界最大手、米ウーバーテクノロジーズの日本法人、ウーバージャパンも名を連ねる。 だが、新産業の監督官庁である経産省は、民泊新法にほとんどかかわることができずにいる。
・やったことと言えば、シェアリングエコノミー協会と連携する形で、「シェアリングエコノミー促進室」の設置に手を貸したことくらい。促進室は、内閣官房傘下のIT総合戦略室内に設置され、その役割を「情報提供・相談窓口機能のほか、自主的ルールの普及・促進、関係府省等との連絡調整、ベストプラクティスの紹介、その他のシェアリングエコノミーの促進に関する取組を推進」としている。
・要するに、シェアリングエコノミーに関連する事業者や個人向けの「相談窓口」。民泊新法に関する委員会や検討会は、観光庁と厚労省の主導で進められ、本丸の政策議論について経産省は蚊帳の外だった。  なぜ、経産省は新産業の創生を前に、すくむのか。
・「経産省がやると出ていけば、(観光庁などの)他省庁は頑なになるんですよ。例えば経産省が『民泊研究会』を作ってやるといったら、もう絶対に話が先に進まない。経産省がダイレクトに行って物事が遅くなるなら、行かないほうがいい。僕らは、シェアリングエコノミーを推進するという目的を達成すればいいんです」  経産省幹部はこう話す。すくんでいるわけではなく、シェアリングエコノミーを推進するための、あえての戦術が「攻めない」というわけだ。しかし、それでは「攻める」連中にやられてしまう。
・22日、自民党は民泊新法の審査に入ったが、ホテル・旅館業界に近い議員からの物言いが相次ぎ、了承は持ち越しとなった。前述のように民泊業界の現場からはかなり厳しい法案なのだが、「宿泊提供の年間上限を30日以下にすべき」と主張する旅館業界を擁護する声が噴出した。 さらに新法が定める年間上限の180日はあくまで、国としての上限。自治体はこの上限を条例によって低くすることができる建て付けになっているが、旅館業界に近い自民党議員からは「条例で制限できるという法的根拠を法律に盛り込むべき」といった声も出たという。
・これでは、「宿泊提供の年間上限はゼロ日」という自治体が出かねない。政府の規制改革推進会議が翌23日に開いた会合では「民泊の普及を阻害する可能性がある」との指摘があった。シェアリングエコノミー協会も同日、声を上げる。 同協会は23日、「民泊新法の在り方に関する意見書」を公表。「住宅宿泊仲介業者(プラットフォーマー)は登録制にすべきではない」「宿泊提供の上限日数制限に反対する」「標識の掲示は家主の個人情報をさらし、家主自身の安全を脅かす」などと表明した。 しかし、経産省は例によって黙したまま。現状、アクションを起こすことができていない。ところが、安穏としてはいられなくなる事態が海の向こうで起きつつある。
▽米国勢の圧力、尻ぬぐいするのは経産省
・米グーグルやフェイスブックなどが加盟する米最大のIT業界団体、米インターネット・アソシエーションは米国時間の24日、日本のシェアリングエコノミー政策を痛烈に批判する声明文を公表した。照準は、民泊新法。以下、内容を抜粋する。 「今、ホームシェアリングのプラットフォーム事業者を規制する動きが広がっている。仮に誤った規制がまかり通れば、せっかくのイノベーションと経済成長が阻害され、後退しかねない事態につながる」 「日本政府の方針には、登録されたプラットフォーム事業者に厳しい義務を課すことによって、日本国内、そして他国でホームシェアプラットフォームの運営を目指す事業者を排除する可能性が含まれている。これは競争と消費者の選択を大幅に制限するばかりか、イノベーションの妨げとなる」 「日本の政府がシェアリングエコノミーを公的に支援すると表明しつつ、同時にプラットフォーム事業者の自発的な抑制を検討するという矛盾をはらんだ動きだ」
・これとは別に、「民泊新法の内容が、世界貿易機関(WTO)協定違反の疑いがあるとして、既に米大使館などが動いている」(業界関係者)という話も出てきた。エアビーのような仲介業者を締め出すような規制は、外資の自由参入を認めるWTO協定に背いている、という指摘だ。 米国の環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱で、今後、米国との2国間貿易交渉が本格化する見込みだが、こうした「インターネットサービス業の排除」についても米国が槍玉に挙げる可能性がある。そうなれば、尻ぬぐいをさせられるのは経産省である。
・何もしないことが戦略と評価されるのか、それとも「不作為」と断罪されるのか。少なくとも新勢力は、経産省の「介入」を待望している。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022400113/022700002/?P=1

次に、4月6日付けダイヤモンド・オンライン「ウーバーは利用者もドライバーも「搾取」、米で批判高まる」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽どこまでデータを“活用”しているのか
・配車サービスのウーバー(Uber)やリフト(Lyft)、自宅をホテルのように提供するエア・ビー・アンド・ビー(Airbnb)などの民泊サービス。これらを総称する「シェアリングエコノミー」は、ごく普通の人々をつなぎ、余剰の時間や所有物を利用して収入を得る手段を与えるインターネット時代の新しい経済体系だとされてきた。
・ところが、シェアリングエコノミーにはそうした利点がある一方で、両方の利用者を搾取する「テイキングエコノミー」にもなっているという論文が発表された。シェアリングエコノミーの負の実態がよくわかる内容だ。  論文を書いたのは、ワシントン大学法大学院准教授のライアン・ケイロー氏と、データと社会研究所の研究者アレックス・ローゼンブラット氏だ。ケイロー氏はロボットの倫理など、テクノロジーにおける新たな法律に関する研究が多く、ローゼンブラット氏は、テクノロジー時代の人間性を研究してきた人物だ。
・『The Taking Economy: Uber, Information, and Power(搾取経済:ウーバー、情報、そして権力)』と題されたこの論文は、搾取の背後にあるのは情報の非対称性だとしている。著者らの言い分はこうだ。 「シェアリングエコノミーは、情報と権力の非対称性の上に成り立っている。これまでもビジネスは、消費者の行動を自分たちの利に結びつくように仕向けてきたが、シェアリングエコノミー企業は消費者とサービス提供者の間に立って、すべての参加者をモニターし操作することが可能になっている」
・最近、アメリカではウーバーの行動に対して批判が高まっている。たとえば、「グレイボール」問題がある。これは、ウーバーが法的に禁止されている地域で取り締まり係員や役人を特定し、彼らが取り締まりの一環で配車アプリを利用しても付近に車がないように見せかけるという手だ。ニューヨークタイムズ紙が今年明らかにした。
・数年前にも同社に批判的な記事を書いたジャーナリストに対して、「どこへ出かけているとか、どこに住んでいるなどはすぐわかる」と同社重役が語り、個人利用者を特定してプライベート情報を明らかにできることを漏らしたことがあった。この場合は、それを脅しにも使えるという意味だが、グレイボール問題とも併せ、ウーバーがそれだけ詳細にわたるデータを取得しているのだとわかる。
▽「サージプライス」という収益モデルが影を落とす
・ウーバーに関しては、男女差別的な社内環境やCEOの性格にも問題点が指摘されているが、それ以前にシェアリングエコノミー企業は手にしたデータや情報をもとにして、利用者とサービス提供者を左右し、ごまかしたり不利な立場に置かせたりすることが可能で、すでにその兆候があると、この論文は指摘している。  論文にはいくつかの例が挙げられている。 たとえば、ウーバーのデータサイエンティストたち自身が明らかにしたところによると、同社は「利用者がいつ『サージプライス』を払ってもいいと考えるか」を詳細にわたって調査しているという。サージプライスというのは、週末の夜や大きなイベントが開かれる時など、利用者が多い時間帯に需要に応じて値段が上がるしくみだ。
・調査によると、スマホのバッテリーがなくなりかけているユーザーは、高い値段でも受け入れる傾向があるという。バッテリーがなくなってしまうとアプリが使えなくなるから、目的地に到達するためには、高くても乗るしかない、と焦るのだろう。だが、ウーバーがここまで情報を手にしているとなれば、個人を標的にした価格操作があり得ると論文の共著者らは警告している。
・さらにサージプライスに関して、同じ地域の同じ時間帯でも、ユーザーによって異なったサージプライスが提示されることがわかっている。著者らによると、これは処理するサーバーの違いによって引き起こされているのだが、公平さに欠けたものだ。  サービス提供者であるドライバーはもっと弱い立場だ。 たとえば、ウーバーはドライバーの条件を刻々と変えることで知られている。ドライバーの中にはこれで生計を立てている人が少なくなく、新しい条件に同意するしかない。だが、そうでなくともドライバーがどの条件が変化したかを理解できないとか、そもそも変化の頻度が高くてフォローできないことによって、ウーバーは利益を得ていると著者らは指摘する。
・また、上記のサージプライスが起こりそうな時には、ドライバーのアプリのマップ上にその可能性がヒートマップのような色の濃淡で示されるが、ここにはどの程度の値上がりが予想されるのかについて正確な数字が提示されない。サージプライスはドライバーにとっては儲け時でもあるのだが、結果的に翻弄されるだけに終わることもある。
▽将来の自動運転車のためにデータを蓄積している?
・さらに、ウーバーは自動走行車を開発中だ。そのために、現在のウーバーで取得された走行データが利用されている。ひどい見方をすれば、ドライバーらは自分たちの仕事を奪う相手のために尽くしているということになる。これも搾取の構造というわけだ。
・搾取が放置されている背景には、ふたつの要素がある。ひとつはユーザー自身、そしてもう一つは当局だ。 こうした利用者から取得するデータによってビジネスを運用する会社は、いくらでもあるだろう。グーグルやフェイスブックもユーザーデータを元に収入を上げており、インターネット時代にはこうしたビジネスモデルはもう当然のこととされている。
・だが、グーグルやフェイスブックは利用が無料で、ユーザーはその代償としてのデータ利用であることに同意している。一方、シェアリングエコノミーには有料であるにもかかわらず詳細なユーザーデータが取得されている。著者らは、シェアリングエコノミーがこれまでのインターネットサービスとは異なることを、ユーザーは見抜けていないとしている。
・さらに大きな問題は、消費者を保護する法律が追いついていないことだ。非対称的に膨大な情報を握るこうした会社が、その立場を乱用することを防がなければならないのだが、まったくそうした手が打たれていない。著者たちは、データ利用の方法は表からは隠されているが、当局はもっと情報を要求して、そのしくみを理解し、問題となる行為を明確に定義する必要があると強調している。
http://diamond.jp/articles/-/123730

第三に、財務省出身で中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員の森信茂樹氏が5月12日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「シェアリングエコノミーの税逃れ、保障漏れに誰が責任を負うべきか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・情報が氾濫する社会で、SNSなどで流される「フェイクニュース(嘘のニュース)」が大きな問題となっているが、では、だれが情報の正確性をチェックすべき責任を負っているのか。国際的な議論を見ると、ニュースの場を提供するプラットフォーム事業者が一義的な責任を負うべきだ、ということのようだ。 このような議論に触発されたわけではないが、シェアリングエコノミーでの、所得の情報把握や、税や社会保険料の負担の責任を誰が持つべきなのか、考えてみたい。
▽見えない税や社会保険料の負担 プラットフォーム企業が責任を持って
・Facebook、Googleなどの全世界に広がるプラットフォーム事業者は、多大な影響力を持っている。それを背景に、広告などで莫大な収益を上げており、扱う情報コンテンツの品質に責任を持つことは当然で、その負担を負うだけの資金もあるということだろう。この考え方を踏襲すれば、シェアリングエコノミーのビジネスでも、筆者は、税や社会保障で、事業者の「プラットフォーム企業」に、可能な限りの義務や責任を負わせることが必要ではないかと考えている。
・具体的には、プラットフォームに参加して所得を得る者(ウーバーの運転手、民泊のホストなどのネットワーカー)については、各国の税制や社会保障当局へ情報を提供する義務を課すこと、場合によっては、税や社会保険料の源泉徴収義務を負わせることも検討の視野に入れることである。
・より重要なのは、プラットフォーム事業者の責任だ。事業者自らが、事業を行っている地域や国で、適切な租税負担を行うことについても自覚を促す必要がある。 とりわけ筆者が関心を持つのは、4月26日付本コラム(「『働き方改革』はセーフティーネットの議論を置き去りにしている」)で指摘したように、シェアリングエコノミーが拡大し発達するなかで、そのビジネスで所得を得る者に対するセーフティーネットが十分ではないことだ。早急にその対策を講じるべきだという問題意識をもっている。
・以下、プラットフォームを提供する企業(事業者)の責任について、税制面に焦点を当てて、具体的に議論してみたい。 ウーバーやエアビーアンドビー(以下、Airbnb)のようなシェアリングエコノミーの構図をわかりやすく説明すると、プラットフォームを提供して利益を得る、「胴元」ともいうべきプラットフォーム企業(その多くは、米国シリコンバレー企業)と、そのもとで、不特定多数の人がさまざまなサービスを請け負い、空室などの遊休資源を提供したり、時間のある時に副業をしたり自分のライフスタイルにあった働き方をする「ギグ・エコノミー」の、いわば2層に分かれる。
▽広がる租税回避 英伊などは独自の税制導入
・第1の問題は、プラットフォーム企業が「実際に事業活動を行う場所」で、適正な税負担をすべきだという点である。 ここへの課税が適正・公平でなければ、税負担の問題だけでなく、同業企業とのイコールフッティング(同じ競争条件)の問題に波及する。つまり、アマゾンと楽天、ウーバーと既存のタクシー業界との競争条件、Airbnbと既存のホテルや旅館の競争条件が、大きくゆがむという問題である。
・アマゾン、ウーバー、Airbnbなどは、自らの所得は複雑なプランニング(私的契約の積み重ね)を行い、自ら「胴元」として得た利益の大部分(とりわけ米国外で得る利益)を、アイルランドやオランダといった低税率国やタックスヘイブンに移転させる租税回避を行っている。つまり実際に彼らが「事業を行っている」国には、納税していないのである。
・多くの先進諸国ではこれに対して強烈な問題意識を持ち,様々な対策を考えている。例えば英国は、「グーグルタックス」と称される税制を導入して対応している。これは Diverted Profit Taxとよばれるもので、大企業(主に多国籍企業)が考案したイギリスの課税ベースを浸食する節税スキームに対抗するため導入された税制である。 具体的には、(1)イギリスでのPE(課税のとっかかりとなる恒久的施設)認定を回避する仕組みを利用している場合、又は(2)経済的実態を欠く取引を行う仕組みを利用している場合について適用される。(1)の場合は、そのPEに帰属したであろうと推認される外国企業の利益に対して、(2)の場合は、妥当な価格と当該取引との差額に対して、それぞれ25%の税率で課税するものである。
・イタリアも類似の税制を導入している。またオーストラリアやカナダの税制当局も、ウーバーやAirbnbなどの租税回避に大きな関心を表明している。 この問題では、日本だけで対処できる方法はない。だが幸い、OECD租税委員会では、「BEPS(税源侵食と利益移転)2」として、対応策の議論が始まるようなので、各国政府が可能な手立てを考えることも必要だ。BEPSで議長国を務め、見事な報告書とまとめ上げた日本の税制当局に期待したい。 プラットフォーム企業から適正な税の負担を求めることは、ギグ・エコノミーで働く人々へのセーフティーネットの財源に回すことができるというプラスの側面もある。
▽ネットワーカーの所得把握 セーフティーネット再構築に必要
・第2番目に、プラットフォーム企業の下で働くネットワーカーの所得把握の問題である。これは単に税収確保という理由だけではなく、彼らの社会保障、つまりセーフティーネットの再構築をするという意義もある。   ギグ・エコノミーの場合、所得が不安定だったり、低賃金で長時間労働をしなければいけなかったりの例も少なくないうえ、年金や医療保険では事業主負担がないため、相対的に重い負担になる。その結果、社会保険に未加入だったり、そもそも所得の申告もしなかったりということもある。
・こうした状況を改めるには、まずはネットワーカーの正確な所得を把握することが必要だ。そのためにはプラットフォーム企業に、マイナンバーを活用した所得情報の提供や、源泉徴収の義務を負わせることができるかどうかの議論を早急に行う必要がある。
・例えば、Airbnbでホストを行う個人・法人の宿泊情報、ウーバーで働く運転手が(今のところ日本では事業が行われていないが)いくらお客から支払いを受けたかという情報の入手だ。これらはホストや運転手が自身で申告するのが本来の姿だが、シェアリングエコノミーが拡大してくると、申告の内容を正確に追跡しようとすると、莫大な徴税コストがかかるからだ。
・日本再興戦略を議論している政府の産業構造審議会でも、シェアリングエコノミーが広がっていく中で、「企業との雇用関係に基づかない働き手が増えることが見込まれる。 国民健康保険・国民年金への加入者増加が見込まれ、 事業主負担がないことなどにより本人負担が相対的に重いことや給付が少ないことを懸念する声がある。(一方で) 兼業・副業の増加が見込まれるとの指摘がある。兼業・副業による副収入等が把握できていないことが多く、個人の負担能力に応じた負担となっていないことに加え(逆に社会保険などへの未加入の人が)本来受けるべき給付が受けられないと指摘する声もある」と指摘されている。
・カギをにぎるのは昨年導入されたマイナンバー制度で、これを活用してシェアリングエコノミーのプラットフォーム会社(事業者)に適切な責任を持たせる必要がある。 第4次産業革命と呼ばれる社会変革に柔軟に対応するような具体的な税制・社会保障制度の検討は急務である。
http://diamond.jp/articles/-/127626

第四に、6月26日付けダイヤモンド・オンラインが総合自動車情報誌CAR and DRIVERの記事を転載した「配車サービスのウーバーにまたも難題、「灰色ビジネス」に巨額罰金」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・今年に入り、ボイコット運動を起こされるわ、セクハラ問題で炎上するわと、トラブル続きのウーバー(配車サービスのベンチャー企業)に、またも難題が。カリフォルニア州が、ウーバーに対して110万ドル(約1億2500万円)の罰金を科す可能性が高まっているのである。理由は「飲酒、もしくはドラッグを使用した状況で運転していた」と顧客から寄せられたドライバーに対する苦情に、迅速に対応しなかった、というもの。
・カリフォルニア州は飲酒やドラッグ影響下の運転に関して“ゼロ・トレランス(問答無用)”という方針で、厳しく対処している。ところがウーバーにはこうした苦情が2014年8月から1年間で151件も寄せられていた、という。平均するとおよそ2日に1件だ。苦情が事実であれば、危険に直結するだけに看過できない。
・州政府はこのような苦情があった場合、「タクシー、ハイヤーなどのライドサービス業者は直ちにドライバーに事情聴取を行い、事実が確認できれば即座に停職処分にする」と定めている。ところが151件の苦情に対し、ウーバーが停職処分にしたドライバーはたったの3人。そのうえ、少なくとも64件に関してはウーバーはほとんどなんのアクションも起こさず、苦情対象となったドライバーは苦情が寄せられてから1時間以内に別の顧客を乗せていた業務実態が判明している。
・州政府は「州のゼロ・トレランス規制に従わないことで、ウーバーはその顧客ならびに公共に対し大きなリスクを負わせた」として、今回の110万ドルの罰金を求める提訴に踏みきったのだ。 カリフォルニア州だけではない。マサチューセッツ州も、「ドライバーのバックグラウンド調査が不十分」として、ウーバーにドライバーの経歴確認を迫る方針だ。犯罪歴、飲酒運転歴、ドラッグ使用歴、とくに児童に対する性犯罪などはドライバーを雇用する際に厳重にチェックされるべき項目だが、州が独自にドライバーの経歴調査を行ったところ、10%以上が“灰色”だったという。
・ウーバーは急成長を遂げた企業だけに、こうした法令順守のための部門が整備されていない、という面もある。同社は「飲酒などの疑いがある、と3件以上の苦情が寄せられたドライバーは、事実関係を問わず直ちに停職」というポリシーを持っているというが、カリフォルニア州ではそのポリシーが適用されていなかった例も多く見られた。
・ライドシェアサービスを世界中に広め、宅配サービスから自動運転の分野に至るまで積極的に事業を広げていたウーバーだが、ここにきて急激な成長戦略に伴う“つまずき”が一気に噴出しているようだ。さらにウーバーには「グーグルの自動運転セクション、ウェイモからの人材引き抜きと機密情報の使用」という疑惑があり、司法判断によっては業務停止命令が出される可能性もあるという。ウーバーはいま、まさに正念場を迎えている、といえる。
http://diamond.jp/articles/-/132775

第一の記事に関連して、「民泊解禁」については、このブログで昨年7月19日に取上げた。この記事にあるように、 『英ロンドンでは年間上限90日まで、米フィラデルフィアでは同90日、仏パリでは同120日までであれば、無届けで自由に自宅をゲストに貸すことができる。オーストラリアでは民泊を法律の適用除外とする法案が通り、一切の規制が排除された』、というのと、日本では日数に拘らず規制対象で、営業日数は年間180日が上限になるというのでは、 『世界の趨勢の逆をゆく日本の民泊新法』との指摘はその通りだ。ただ、旅館などの既得権益を持つ業者の肩を持つ訳ではないが、悪徳民泊業者、宿泊客と住民の間のトラブルなどを考えると、エアビーなどの仲介業者への規制も含めある程度の規制は必要なのではなかろうか。
第二の記事は、 「シェアリングエコノミー」の陰の部分を取上げたもので、 ウーバーについては、第四の記事でより詳しくみよう。
第三の記事で、 『見えない税や社会保険料の負担 プラットフォーム企業が責任を持って』、 『ネットワーカーの所得把握 セーフティーネット再構築に必要』、などの指摘は正論で、公正な社会構築には不可欠だ。
第四の記事で、 『ウーバーには苦情が2014年8月から1年間で151件も寄せられていた、苦情に対し、ウーバーが停職処分にしたドライバーはたったの3人。そのうえ、少なくとも64件に関してはウーバーはほとんどなんのアクションも起こさず、苦情対象となったドライバーは苦情が寄せられてから1時間以内に別の顧客を乗せていた業務実態が判明している』、 『州が独自にドライバーの経歴調査を行ったところ、10%以上が“灰色”だった』、などの指摘は、 『急成長を遂げた企業だけに・・・』といって許される問題ではなく、コンプライアンス上の大きな手抜きだ。同社は正念場を乗り切ることが出来るのだろうか。
タグ:シェアリングエコノミー (その1)(「民泊」解禁どころか後退へ 経産省の不作為、ウーバーは利用者もドライバーも「搾取」 米で批判高まる、シェアリングエコノミーの税逃れ 保障漏れに誰が責任を負うべきか、配車サービスのウーバーにまたも難題 「灰色ビジネス」に巨額罰金) 日経ビジネスオンライン 「「民泊」解禁どころか後退へ、経産省の不作為 シェアリングエコノミー後進国に忍び寄る圧力 ホームシェアリング 自宅を貸す「ホスト」の多くは旅館業法を無視した違法状態にあるのが実情だ。 こうした状態を改善し、ホストが貸しやすい制度、宿泊する「ゲスト」が安心して利用できる制度を作ろう、というのが、そもそも民泊解禁の議論の発端 世界の趨勢の逆をゆく日本の民泊新法 英ロンドンでは年間上限90日まで、米フィラデルフィアでは同90日、仏パリでは同120日までであれば、無届けで自由に自宅をゲストに貸すことができる。オーストラリアでは民泊を法律の適用除外とする法案が通り、一切の規制が排除された エアビー。そこに掲載されている都内の物件数は1万7000超、大阪府内は1万2000超あるが、その多くが無許可で旅館業法の規定違反と見られる。一般人ホストは、旅館業法が定める煩雑な登録作業を回避しているからなのだが、新法が施行しても、これでは結局、無届けの違法民泊物件が減らない、との指摘が民泊の現場からは噴出 エアビーなどの仲介業者への規制も盛り込まれる エアビーは数万件ある違法物件の多くを削除せざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。そうなれば、エアビーは日本市場から撤退を余儀なくされるかもしれない 日本では、旧市場をいかに守るか、という議論が先行 経産省不在の政策議論 米国勢の圧力、尻ぬぐいするのは経産省 ダイヤモンド・オンライン ウーバーは利用者もドライバーも「搾取」、米で批判高まる シェアリングエコノミーにはそうした利点がある一方で、両方の利用者を搾取する「テイキングエコノミー」にもなっているという論文が発表された Taking Economy: Uber, Information, and Power 搾取の背後にあるのは情報の非対称性 「シェアリングエコノミーは、情報と権力の非対称性の上に成り立っている。これまでもビジネスは、消費者の行動を自分たちの利に結びつくように仕向けてきたが、シェアリングエコノミー企業は消費者とサービス提供者の間に立って、すべての参加者をモニターし操作することが可能になっている ウーバーの行動に対して批判が高まっている サージプライス」という収益モデルが影を落とす 消費者を保護する法律が追いついていないことだ。非対称的に膨大な情報を握るこうした会社が、その立場を乱用することを防がなければならないのだが、まったくそうした手が打たれていない 森信茂樹 シェアリングエコノミーの税逃れ、保障漏れに誰が責任を負うべきか 見えない税や社会保険料の負担 プラットフォーム企業が責任を持って 広がる租税回避 英伊などは独自の税制導入 英国は、「グーグルタックス」と称される税制を導入して対応している。これは Diverted Profit Taxとよばれるもので、大企業(主に多国籍企業)が考案したイギリスの課税ベースを浸食する節税スキームに対抗するため導入された税制である。 具体的には、(1)イギリスでのPE(課税のとっかかりとなる恒久的施設)認定を回避する仕組みを利用している場合、又は(2)経済的実態を欠く取引を行う仕組みを利用している場合について適用される。(1)の場合は、そのPEに帰属したであろうと推認される外国企業の利益に対して ・イタリアも類似の税制を導入 ネットワーカーの所得把握 セーフティーネット再構築に必要 CAR and DRIVER 「配車サービスのウーバーにまたも難題、「灰色ビジネス」に巨額罰金 ボイコット運動を起こされるわ、セクハラ問題で炎上するわと、トラブル続きのウーバー カリフォルニア州が、ウーバーに対して110万ドル(約1億2500万円)の罰金を科す可能性が高まっているのである ・カリフォルニア州は飲酒やドラッグ影響下の運転に関して“ゼロ・トレランス(問答無用)”という方針で、厳しく対処している。ところがウーバーにはこうした苦情が2014年8月から1年間で151件も寄せられていた 151件の苦情に対し、ウーバーが停職処分にしたドライバーはたったの3人。そのうえ、少なくとも64件に関してはウーバーはほとんどなんのアクションも起こさず、苦情対象となったドライバーは苦情が寄せられてから1時間以内に別の顧客を乗せていた業務実態が判明している マサチューセッツ州も、「ドライバーのバックグラウンド調査が不十分」として、ウーバーにドライバーの経歴確認を迫る方針だ。犯罪歴、飲酒運転歴、ドラッグ使用歴、とくに児童に対する性犯罪などはドライバーを雇用する際に厳重にチェックされるべき項目だが、州が独自にドライバーの経歴調査を行ったところ、10%以上が“灰色”だったという
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