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東芝不正会計問題(その32)(闇株新聞の見方、町田氏の見方:瀕死の東芝より先に死にかねない 監査法人の「危うい体質」、郷原氏の見方:東芝監査をめぐる混乱は受任したPwCに重大な責任) [企業経営]

東芝不正会計問題については、6月3日に取上げた。今日は、信頼できる3氏の見方を、(その32)(闇株新聞の見方、町田氏の見方:瀕死の東芝より先に死にかねない 監査法人の「危うい体質」、郷原氏の見方:東芝監査をめぐる混乱は受任したPwCに重大な責任) である。

先ずは、闇株新聞が8月15日に掲載した「それからの東芝」を紹介しよう。
・東芝については6月30日付け「どうして東芝はそんなに死に急ぐ?」から取り上げていませんでしたので、その後の経過も含めてまとめてみます。
・まず本日(8月14日)午後にBloombergが関係者の話として「東芝のメモリー事業売却交渉、支払時期などを巡り失速」なる記事を配信し、それまで高値307円まで買われていた東芝株が260円まで急落、前週末比5円安の287円で終わりました。 本当の関係者なら守秘義務が課せられているはずで、よくある「自称関係者」の噂話をBloomberg東京事務所が記事にしたような印象ですが、その中に「(優先交渉権を与えられている)日米韓連合は(東芝の)合弁相手の米ウエスタンデジタル(以下、WD)との係争解決を条件にしている」という部分があります。
・もしこれが本当なら、そもそも日米韓連合への売却など最初からできるはずがなかったことになります。そもそも最初からWDとの係争を抱えたまま、よく日米韓連合が(その他の連合でも同じですが)交渉のテーブルに着いたなあと不思議に思っていましたが、東芝の経営陣も「決めてしまえば何とかなる」くらいに考えていたのでしょう。
・当然のように日米韓連合への売却交渉は進展しておらず、今頃になってKKRとWDの連合との売却交渉が水面下で再開されているようです。大変に情けないことに日米韓連合への売却では議決権の過半を確保する約束になっていた産業革新機構がKKRにもすり寄っていますが、日米韓連合の中心にいるベインキャピタルに比べれば「はるかにえげつない」KKRがすでにWDの協力を取り付けているなら、最終的には徹底的に買いたたいて(1兆数千億円ほどで?)手に入れてしまうことになりそうです。
・そもそも日米韓連合でもKKR・WD連合でも、独占禁止法の審査期間を考えると債務超過解消のタイムリミットとされる来年3月末までの売却完了は「すでに大変に厳しい状況」となっています。 東芝は2016年3月末に、東芝メディカルのキャノンへの売却が完了していないにもかかわらず強引に売却益を計上し、それで「待ったなし」となっていたウェスティングハウスの減損を一部だけ行ったことがあります。まあ今回も「何とかなる」と考えているのかもしれません。
・そして遅れに遅れていた東芝の2017年3月期決算が8月10日、PwCあらた監査法人から「限定付き適正意見」を得て、ようやく提出されました。「限定付き」とは東芝の内部管理体制の不備がまだ改善されてないからのようですが、それなら最初からそこは呑んで「限定付き適正意見」を貰うように交渉していれば、ここまで時間がかからなかったはずです。
・その2017年3月期決算では、最終純損益が9656億円の損失(前期も4600億円の損失)、2017年3月末の債務超過が5529億円と「ようやく」確定しました。 つまりこの5529億円の債務超過を2018年3月末までに解消できないと、東京証券取引所の規定では上場廃止となります。また東証は本年3月に東芝を内部管理体制の不備を理由に監理ポストに割り当てており、これも東証が改善を認めなければ上場廃止となりますが、こちらの方は東証が判断するため最終的には「問題なし」となるはずです。
・ところが2018年3月末までの債務超過解消は、できなければ上場廃止と東証の上場規定にはっきりと明文化されており、それで上場廃止となった企業もたくさんあるため、さすがに東証でも「東芝だけ特別扱い」とはできないはずです。 そこでどうしても来年3月までに半導体事業会社を外部に売却しなければならないとなりますが、このまま時間に迫られていくと「そうでなくても当事者意識がなくなっている」東芝の経営陣では、ますます海外勢に煽られ「とんでもない条件でも売却してしまう」ことになりそうです。
・そういえば8月7日に、キング・ストリート・キャピタルなるヘッジファンドが東芝の5.81%(2億6400万株)を取得したとする大量保有報告書を提出しています。6~7月に市場で買い付けているようですが、これなども半導体事業売却完了=上場廃止回避とのインサイダー情報を関係する海外勢から得ているとしか思えません。
・つまり日米韓連合でもKKR・WD連合でも、これから時間が迫れば迫るほど足元を見られることが明らかなら、ここはいったん上場廃止にしてでも半導体事業を中心に再建策を立て直し、それでも売却となれば徹底的に高値で売却できるよう強気に出るべきです。 上場廃止となっても東芝が生き残れば、どこかで再上場のチャンスがあるはずで、株式が紙くずになることもありません。それがオール日本にとって「最善の策」のような気がします。
http://yamikabu.blog136.fc2.com/blog-entry-2066.html

次に、経済ジャーナリストの町田 徹氏が8月15日付け現代ビジネスに寄稿した「瀕死の東芝より先に死にかねない、監査法人の「危うい体質」 「限定付き適正」意見は自殺行為では…」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽伝統ある大企業に甘い日本社会
・東芝は8月10日、PwCあらた監査法人の「限定付き適正」という監査意見(但し書き)を付加することで、1ヵ月半遅れながら、金融庁に有価証券報告書を提出した。 週末の新聞やテレビは一斉に、「有価証券報告書を提出できないことに伴う上場廃止の危機を回避した」「2017年3月期の連結最終損失額が日本メーカーとして過去最大の9656億円になった」 「連結ベースの債務超過額が5529億円と巨大で、深刻な経営危機があらためて裏づけられた」などと報じた。
・だが、それらは、いずれも真実の一片をとらえたものに過ぎない。筆者はそうした側面よりも、2016年10~12月期四半期報告書の「意見不表明」に続き、今回も「限定付き適正」意見が監査報告書についた事実そのものに注目すべきと考えている。 なぜならば、この2つの意見は、2015年9月の決算修正と、経営陣の刷新を招いた粉飾決算に続いて、東芝がまたしても同じような不祥事を引き起こしたという事実を、裏づけるものにほかならないからだ。
・日本の経済社会は、概して伝統のある大企業に甘い。東芝の新たな粉飾疑惑について、これ以上の追及が行われる可能性は非常に低く、問題はうやむやになりかねない。 しかし、この問題を契機に、刷新したはずの東芝経営陣は再び信頼を失い、日本の会計監査制度そのものが瓦解の危機に瀕しているのである。これを見逃していいのだろうか。
▽「無限定適正」ではないことの意味
・よほどホッとしたのだろう。東芝の綱川智社長は記者会見で、「決算は正常化し、経営課題の一つが解決した」と胸を張ったという。監査報告書で「適正」意見を取得できず、有価証券報告書を提出できなければ、即座に上場廃止になり、破たんしてもおかしくない状況に追い込まれていたからだ。 もちろん、マスメディアが競って報じたように、これで東芝の危機が去ったわけではない。来年3月までに巨額の債務超過を解消できなければ、上場廃止や金融支援の打ち切りは避けられない。
・東芝が債務超過脱却の切り札としている半導体子会社「東芝メモリ」の売却も、従来の提携相手である米ウエスタンデジタル(WD)が猛反対して係争に発展しており、一向に実現のめどが立たない状態である。  新聞やテレビの重要な使命の一つは、「What's new?」を追うことにある。筆者は新聞記者出身だから、上場廃止の行方や東芝メモリの売却といった目先の話を追いかけるマスメディアの立場もよくわかる。
・しかし、最も重要なのは、提出された報告書の信頼性と中身である。 有価証券報告書はそもそも、株式や社債を発行している企業が、投資家に適切な投資判断をしてもらうために、経営実態を包み隠さず正確に公表するための書類だ。そのことは法律でも明確に義務づけられている。
・そして、監査法人の役割は、有価証券報告書に記載される財務諸表が公正妥当な基準に従って、虚偽なく記載されているかをチェックすることである。財務諸表に一点の曇りもないときにだけ、監査法人は「無限定適正」意見をつけることになっている。
・ところが、公表期限を1ヵ月半余りも遅らせて監査法人と協議を重ねたにもかかわらず、東芝は今回、その「無限定適正」を取得できなかった。そのことを問題としなかったら、会計監査の意義が根本から揺らぐのではあるまいか。
▽監査証明書は「不適切」と言っている
・それにしても、「限定付き適正」という低い評価にとどまった理由は、いったい何だろうか。 有価証券報告書の末尾に添付された監査証明書には、その理由が赤裸々に綴られている。以下に、連結決算の該当部分を抜粋して紹介しよう。 「会社は、特定の工事契約に関連する損失652,267百万円を、当連結年度の連結損益計算書に(略)計上した。しかし、(この処理は米国において一般に)公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠していない」 「会社の連結子会社であったウェスチングハウスエレクトリックカンパニー社は、2015年12月31日にCB&Iストーン・アンド・ウェブスター社を取得したため、会社は2016年3月31日現在の連結財務諸表を作成するにあたり(略)、取得した識別可能な資産及び引き受けた負債を取得日の公正価値で測定し、取得金額を配分する必要があった」 「会社は、2016年3月31日現在の工事損失引当金の暫定的な見積もりに、すべての利用可能な情報に基づく合理的な仮定を使用していなかった。(それをしていれば)当連結会計年度の連結損益計算書に計上された652,267百万円のうちの相当程度ないしすべての金額は、前連結会計年度に計上されるべきであった」 「これらの損失は、前連結会計年度及び当連結会計年度の経営成績に質的及び量的に重要な影響を与えるものである」
・監査証明書の意味するところは明らかだろう。2017年3月期に計上した損失のうちの相当程度ないしすべての金額は、前連結会計年度に計上すべきであったのに、それがなされなかった。つまり、2016年3月期に粉飾ないしは不適切な決算があったと広言しているのである。
・また、監査報告書の「質的及び量的に重要な影響を与えるもの」という記述も、大きなポイントである。 なぜならば、東芝は、2016年3月期に計上すべき損失を記載せず、“損失隠し”を行うことで、この期末が3388億円の資産超過であったかのようにみせかけたからだ。もし損失が適正に計上されていれば、この期にすでに債務超過に陥っていたことになる。
▽東芝が決算修正を拒み続けた理由
・マスメディアは総じて、この問題の重要性に目を向けず、東芝が債務超過に陥ったのは2017年3月期だという前提に立って、「2期連続で債務超過になれば上場廃止になる」ことから、(喫緊の危機は去り)焦点は今年度末の財産状況に移ったと報じている。 しかし、2016年3月期に債務超過に陥っていたという監査報告書の視点を前提とすれば、東芝はすでに2期連続で債務超過が続いていることになる。言い換えれば、すでに上場廃止になっているはずである。
・上場廃止を待つまでもなく、そもそも、前回の粉飾決算騒動の混乱が冷めやらぬ2016年3月期に債務超過に転落していれば、その段階で経営破たんしてもおかしくはなかったのだ。 こうして見てくると、PwCあらた監査法人が2016年3月期決算の修正を迫り続けたのに対し、綱川社長ら東芝経営陣が最後までこれを拒み続けた理由が容易に推測できる。 要するに、刷新したはずの東芝の経営陣が、2015年9月に修正した過去6年半分の決算に続き、2度目の“粉飾”に手を染めたことが露見するのを何としても避けたかったのだろう。 だがこうした姿勢は、東芝の経営陣がガバナンスを改善できず、いまだに信用に値しないことを明らかにしただけ、と言わざるを得ない。
▽「事なかれ主義に陥って譲歩した」
・さらに深刻なのは、2016年10~12月期四半期報告書で「意見不表明」としていたPwCあらた監査法人が、今回は「限定付き」ながら、「適正」という意見を与えて譲歩したことである。 この背景として、2016年3月期決算に“お墨つき”を与えていた前監査人(新日本監査法人)を含めた公認会計士業界全体が、「(監査で)高額報酬を得ているのに意見を表明しないのはおかしい」と、「意見不表明」を行ったPwCあらた監査法人批判の大合唱をしていたことを指摘しなければならない。
・当時の監査法人の判断が問われることで、またしても不祥事の糾弾がくり返されることを会計士業界が嫌い、それが一種の力として働いたことは明らかだ。 そうしたなかで、最終的に「限定付き」ながらも「適正意見」がついたことについて、 「(PwCあらた監査法人の親会社に相当する米国側の)プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、『意見不表明』から『不適正』に踏み込むよう指示したものの、日本サイドが国内の空気に配慮して日本的な事なかれ主義に陥って譲歩した」(事情通の公認会計士) といった見方が絶えない。
・しかし、監査法人や会計士が甘い監査を批判されることを嫌がったり、他者の不適切な監査を覆すことを逡巡するような業界体質では、投資家が適正な判断を下すための拠りどころとなる公正な財務諸表の公表は覚束ない。 東芝も、PwCあらた監査法人を含む公認会計士業界も、それぞれの社会的な使命に照らして、存在の意義が問われていることを真摯に自覚すべきである。さもないと、日本の資本市場やビジネス社会が世界の“異端児”扱いを受ける日が、遠からずやって来ることになるだろう。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52593

第三に、元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏が8月15日付けの同氏のブログに掲載した「東芝監査をめぐる混乱は、受任したPwCに重大な責任~「真の第三者委員会」で”東芝をめぐる闇”の解明を」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽会社と監査法人が対立したままの有報提出という「異常な結末」
・8月10日、東芝は、2017年3月期の有価証券報告書を関東財務局に提出した。同報告書には、会計監査人のPwCあらた監査法人の監査報告書が添付され、そこには、17年3月期の財務諸表について「限定付き適正」、内部統制に関する監査には「不適正」とする監査人意見が、それぞれ表明されている。
・4月11日に、2016年度第3四半期レビューについて、PwCが「意見不表明」として以来、東芝の2017年3月期の決算報告をめぐって、PwCと東芝執行部、それに、前任監査人の新日本監査法人(以下、「新日本」)まで巻き込んだ「泥沼の争い」が繰り広げられ、注目を集めてきたが、PwCは、「限定付き適正意見」で、一部とは言え「適正な決算ではない」との評価を押し通し、一方、東芝側は、それを受けても決算を全く修正せず、会社と会計監査人との意見が対立したまま有価証券報告書を提出するという異常な結末となった。
・「原発子会社のウェスティングハウスエレクトロニクス(WEC)社がCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)社を買収したことによって最終的に生じた工事契約にかかる損失を、東芝が認識すべきだった時期」について、PwCは、2016年3月以前の段階であった可能性を指摘し、「意見不表明」のまま調査を継続してきた。PwCの指摘どおりだとすると、東芝の16年3月期決算は訂正が必要となる可能性がある。それに対して、東芝執行部は2017年3月末時点までは認識できなかったと主張し、16年3月まで会計監査人だった新日本も、16年3月期決算には問題はないとしてきた。
・今回、有価証券報告書に添付した監査報告書で、PwCは、工事損失引当金652,267百万円のうちの相当程度ないしすべての金額は、2016年3月31日現在の連結貸借対照表の非継続事業流動負債に計上する必要があったとしているが、その根拠についての記述は、「工事原価の発生実績が将来の工事原価の見積もりに反映されていなかった」などの抽象的なもので、損失計上すべきであった時期も特定されず、金額も「相当程度ないしすべての金額」と曖昧な表現とにとどまっている。2016年3月以前の段階で損失を認識すべきだったとする根拠として十分なものであるのか疑問がある。
▽東芝が損失を隠ぺいした「疑い」を持って調査を行ったPwC
・S&W社の買収によって生じた巨額損失でWECは法的整理に追い込まれ、東芝に、最終的には7,166億円もの損失が生じたことは客観的事実である。その買収自体が、WECの原発事業で大きな損失が生じていることを隠ぺいする目的だったのではないかとの指摘もある(【NBO 東芝、原発事業で陥った新たな泥沼】)。PwCが、東芝への「不信」を募らせ、東芝側が2016年3月末時点で損失を認識しながら隠ぺいしたのではないかと疑うのは致し方ない面がある。2016年3月期以前に損失が認識できたとの疑いをもって必要な調査を行うのは会計監査人としては当然だと言えよう。
・しかし、結果的に、6ヶ月も「意見不表明」を続け、上場企業では前例のない事態で証券市場の混乱を生じさせたが、東芝の会計報告を具体的に是正させるだけの根拠を示すことはできなかったといえる。東芝が損失を認識していた、或いは、認識すべきだったとする具体的な「証拠」は発見できなかったが、監査報告書の意見は、「適正」ではなく「限定付き適正」とされた。
▽監査受任の段階でPwCは東芝を「信頼」できたのか
・そのような異例の事態に至った最大の原因は、東芝が一連の会計不正に関して監査法人に対して行ってきた対応や、その後のWECの巨額損失の表面化の経緯等から、東芝とPwCとの間に、本来、顧客企業と会計監査人の監査法人との間に存在していることが不可欠の「最低限の信頼関係」すらなくなっていることであろう。 
・しかし、PwCが東芝の会計監査を受任した2016年3月末の時点で、「最低限の信頼関係」が作れる見込みはあったのか。PwCはなぜ東芝の会計監査を受任したのか。 その時点においても、東芝には、一連の会計不祥事に関して、監査法人に対して悪質な「隠ぺい」を行った疑いが指摘されていた。東芝は、会計不正の疑いが表面化したことを受け、「第三者委員会」を設置し、その報告書公表を受けて「責任調査委員会」を設置して歴代経営者への責任追及について検討したが、それらの一連の「第三者委員会スキーム」では、調査の対象は、原発関連ではなく、調査対象とされた事業の範囲も責任追及の範囲も極めて限定的で、当時の室町正志社長は、責任追及の調査の対象にすらされず、問題の幕引きが図られた。そして、2015年9月末の臨時株主総会では、社外取締役に財界のオールスターメンバーと法曹界の重鎮等を揃えた新体制が選任され、「東芝の再生に向けて万全の体制」がアピールされた。
・しかし、その直後の2015年11月に日経ビジネスが、【スクープ 東芝、米原発赤字も隠蔽 内部資料で判明した米ウエスチングハウスの巨額減損】【スクープ 東芝 減損隠し 第三者委と謀議 室町社長にもメール】という二つの衝撃的なスクープを報じたことで、状況は激変した。 これらの記事から、WECが2012年度と2013年度に巨額の減損処理を行なった事実を東芝が公表せずに隠していたこと、第三者委員会発足前に、当時の田中久雄社長、室町正志会長(現社長)、法務部長(現執行役員)等の東芝執行部が、米国原発子会社の減損問題を委員会への調査委嘱事項から外すことを画策し、その東芝執行部の意向が、東芝の顧問法律事務所である森・濱田松本法律事務所から、第三者委員会の委員の松井秀樹弁護士に伝えられ、原発事業をめぐる問題が第三者委員会の調査対象から除外されたことが明らかになった。
・また、東芝が、一連の会計不正を行っていた間に、会計監査人であった新日本に対して悪質な隠ぺい・虚偽説明を繰り返していたことは、第三者委員会報告書でも極めて不十分ながら指摘されていたが、2016年3月初めに発売された文芸春秋2016年4月号の【スクープ・東芝「不正謀議メール」を公開する】と題する記事では、東芝が、大手監査法人の子会社であるデロイト・トーマツ・コンサルティング(以下、「デロイト」)に「監査法人対策」の指導を依頼し、損失を隠ぺいした財務諸表を新日本が認めざるを得ないような「巧妙な説明」を行ってきたことが指摘された【最終局面を迎えた東芝会計不祥事を巡る「崖っぷち」】。
・このように、会計監査人の監査法人に対して不誠実極まりない対応を繰り返してきたことが相当程度明らかになっていた東芝の会計監査を、PwCは、敢えて受任したのである。しかも、受任する際には、その時点での東芝の財務諸表や内部統制に問題がないか、事前調査も行ったはずである。その段階で、東芝の監査法人への対応に問題があることに気づかなかったのであろうか。
▽新日本の立場
・一方、PwCに東芝の会計監査を引き継いだ、それまでの会計監査人の新日本は、東芝側の虚偽の資料や説明で騙され、会計不正を見抜けなかったことで、金融庁から課徴金や一部業務停止などの厳しい行政処分を受け、東芝を担当していた複数の公認会計士が業務停止処分を受け、新日本を退職することを余儀なくされた。
・新日本がそのような事態に至った最大の原因は、東芝の監査についての問題について、新日本の当時の執行部が、「東芝との契約上の守秘義務」を強調し、独自の対社会的対応をほとんど行わなかったことにある。(【年明け早々から重大な危機に直面している新日本監査法人】) そのような新日本の対応にも、新日本の顧問法律事務所が、東芝の顧問法律事務所であり、前記の「第三者委員会スキーム」にも関わったとされる森・濱田松本法律事務所と同じであったことが影響している可能性がある。
・2016年3月末で会計監査人がPwCに交代することが決まっており、それまでさんざん東芝に騙されてきた新日本としては、その時点で、東芝にたいして、甘い監査で「お目こぼし」などする動機は全くなかった。2016年3月末の段階で、その前年末にS&Wを買収したことによる損失発生の可能性についても、徹底して厳しい目で監査を行ったはずだ。その新日本ですら損失発生の可能性を認識する根拠は見出せなかった。
▽PwCにとって東芝監査受任が重大な誤り
・ところが、PwCは、東芝の会計監査を受任した後、2017年度の第1四半期、第2四半期はいずれも、東芝の決算を「適正」と評価しておきながら、2016年12月に、S&W買収による巨額損失が表面化するや、一転して、東芝に対する「不信」を露わにし、2017年3月期の会計報告について「意見不表明」を続ける一方、前任会計監査人の新日本が、2016年3月末の時点で東芝が損失発生の可能性を認識すべきだったのに、見過ごしたかのような主張を始めたのである。
・少なくとも、東芝のS&W買収による巨額損失が表面化して以降の東芝監査へのPwCの対応には、監査法人の世界の常識からすると、かなり疑問がある。しかし、PwCは、現在のところ、大きな批判を受けてはいない。それは、現時点においては、東芝という企業や執行部に対する「不誠実で信頼できない」という認識において、PwCと社会一般の認識とが共通しているからである。東芝の会計監査で徹底して厳しい対応をとることは、基本的に社会的要請に沿うものなので、PwCを批判する声があまり上がらないのである
・しかし、一連の会計不正への対応を見る限り、東芝執行部の監査法人への対応が不誠実で信頼できないことは、監査受任の段階で十分に認識できたはずだ。PwCは、それでも、敢えて東芝の監査を自ら受任したのである。もし、PwCが受任していなければ、他に受任できる大手監査法人はなく、東芝は上場廃止に追い込まれていた可能性が高い。東芝監査をあえて受任したPwCには重大な責任があることを忘れてはならない。
▽「真の第三者委員会」設置によって「東芝をめぐる闇」の解明を
・東芝とPwCの関係は「限定付き適正意見」を東芝側が無視し、何も措置をとらないという「異常な関係」となっている。今後もPwCが東芝の会計監査人にとどまるのであれば、その条件として、「不誠実で信頼できない」状況を解消するための抜本的な是正措置を求めるべきである。そのための重要な手段が、「東芝不祥事」の全容を解明するための、東芝執行部からの独立性・中立性が確保された「真の第三者委員会」の設置である。それが受け入れられないということであれば、PwCは会計監査人を辞任すべきである。
・東芝の一連の会計不祥事の発端が、WECの買収による海外の原発事業によって大きな損失を生じたことにあったのは、もはや疑う余地がない。その失敗の根本原因がどこにあったのか。海外原発事業の損失が、東芝社内でどのように認識され、どのような対策が講じられてきたのか、それに関して、デロイトを使った監査法人対策がどのように行われ、そこにどのような問題があったのか。海外の原発事業をめぐる問題が、「4事業」の会計不正にどのようにつながったのか。会計不正が表面化した後の「偽りの第三者委員会」の設置等による問題の本質の隠ぺい工作は、誰が主導し、誰が関わって行われたのかなど、東芝の会計不祥事をめぐって起きたあらゆる問題を徹底解明すべきである。
・PwCがこだわり続けた、「S&W社買収による損失を東芝が認識した時期」というのは、「東芝をめぐる闇」の一コマに過ぎない。今、重要なことは、来年3月までに債務超過を解消し上場を維持することではない。「東芝不祥事」の全容を解明し、「日本を代表する伝統企業」が「最も不誠実で信頼できない企業」に転落していった原因を明らかにすることである。そのうえで、経営体制の刷新、組織の抜本改革を行うのでなければ、東芝に対する社会の信頼を回復することはできない。
・東芝監査に関わった以上、PwCには、それを徹底して追求する社会的責任がある。
https://nobuogohara.com/2017/08/15/%e6%9d%b1%e8%8a%9d%e7%9b%a3%e6%9f%bb%e3%82%92%e3%82%81%e3%81%90%e3%82%8b%e6%b7%b7%e4%b9%b1%e3%81%af%e3%80%81%e5%8f%97%e4%bb%bb%e3%81%97%e3%81%9f%ef%bd%90%ef%bd%97%ef%bd%83%e3%81%ab%e9%87%8d%e5%a4%a7/

闇株新聞が最後に提案している 『これから時間が迫れば迫るほど足元を見られることが明らかなら、ここはいったん上場廃止にしてでも半導体事業を中心に再建策を立て直し、それでも売却となれば徹底的に高値で売却できるよう強気に出るべきです。 上場廃止となっても東芝が生き残れば、どこかで再上場のチャンスがあるはずで、株式が紙くずになることもありません。それがオール日本にとって「最善の策」のような気がします』、というのには大賛成だ。
町田氏が  『監査証明書の意味するところは明らかだろう。2017年3月期に計上した損失のうちの相当程度ないしすべての金額は、前連結会計年度に計上すべきであったのに、それがなされなかった。つまり、2016年3月期に粉飾ないしは不適切な決算があったと広言しているのである』、というのは初めて知った。一般のマスコミも指摘してもらいたいものだ。 『「(PwCあらた監査法人の親会社に相当する米国側の)プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、『意見不表明』から『不適正』に踏み込むよう指示したものの、日本サイドが国内の空気に配慮して日本的な事なかれ主義に陥って譲歩した」』、とは情けない限りだ。
郷原氏は、 『会計監査人の監査法人に対して不誠実極まりない対応を繰り返してきたことが相当程度明らかになっていた東芝の会計監査を、PwCは、敢えて受任したのである。しかも、受任する際には、その時点での東芝の財務諸表や内部統制に問題がないか、事前調査も行ったはずである。その段階で、東芝の監査法人への対応に問題があることに気づかなかったのであろうか』、との指摘は確かにその通りだ。 『「真の第三者委員会」設置によって「東芝をめぐる闇」の解明を・・・今、重要なことは、来年3月までに債務超過を解消し上場を維持することではない』、は正論で、このまま闇に葬り去ることは国際的にも許されないだろう。
タグ:東芝監査に関わった以上、PwCには、それを徹底して追求する社会的責任がある 。「東芝不祥事」の全容を解明し、「日本を代表する伝統企業」が「最も不誠実で信頼できない企業」に転落していった原因を明らかにすることである。そのうえで、経営体制の刷新、組織の抜本改革を行うのでなければ、東芝に対する社会の信頼を回復することはできない 今、重要なことは、来年3月までに債務超過を解消し上場を維持することではない 「真の第三者委員会」設置によって「東芝をめぐる闇」の解明を PwCにとって東芝監査受任が重大な誤り 会計監査人の監査法人に対して不誠実極まりない対応を繰り返してきたことが相当程度明らかになっていた東芝の会計監査を、PwCは、敢えて受任したのである。しかも、受任する際には、その時点での東芝の財務諸表や内部統制に問題がないか、事前調査も行ったはずである。その段階で、東芝の監査法人への対応に問題があることに気づかなかったのであろうか PwCが東芝の会計監査を受任した2016年3月末の時点で、「最低限の信頼関係」が作れる見込みはあったのか。PwCはなぜ東芝の会計監査を受任したのか。 その時点においても、東芝には、一連の会計不祥事に関して、監査法人に対して悪質な「隠ぺい」を行った疑いが指摘されていた PwCの指摘どおりだとすると、東芝の16年3月期決算は訂正が必要となる可能性がある 会社と監査法人が対立したままの有報提出という「異常な結末」 東芝監査をめぐる混乱は、受任したPwCに重大な責任~「真の第三者委員会」で”東芝をめぐる闇”の解明を 郷原信郎 監査法人や会計士が甘い監査を批判されることを嫌がったり、他者の不適切な監査を覆すことを逡巡するような業界体質では、投資家が適正な判断を下すための拠りどころとなる公正な財務諸表の公表は覚束ない PwCあらた監査法人の親会社に相当する米国側の)プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、『意見不表明』から『不適正』に踏み込むよう指示したものの、日本サイドが国内の空気に配慮して日本的な事なかれ主義に陥って譲歩した」 2016年3月期に債務超過に陥っていたという監査報告書の視点を前提とすれば、東芝はすでに2期連続で債務超過が続いていることになる。言い換えれば、すでに上場廃止になっているはずである ・監査証明書の意味するところは明らかだろう。2017年3月期に計上した損失のうちの相当程度ないしすべての金額は、前連結会計年度に計上すべきであったのに、それがなされなかった。つまり、2016年3月期に粉飾ないしは不適切な決算があったと広言しているのである 公表期限を1ヵ月半余りも遅らせて監査法人と協議を重ねたにもかかわらず、東芝は今回、その「無限定適正」を取得できなかった。そのことを問題としなかったら、会計監査の意義が根本から揺らぐのではあるまいか 伝統のある大企業に甘い 2015年9月の決算修正と、経営陣の刷新を招いた粉飾決算に続いて、東芝がまたしても同じような不祥事を引き起こしたという事実を、裏づけるものにほかならないからだ。 2016年10~12月期四半期報告書の「意見不表明」に続き、今回も「限定付き適正」意見が監査報告書についた事実そのものに注目すべき 瀕死の東芝より先に死にかねない、監査法人の「危うい体質」 「限定付き適正」意見は自殺行為では… 現代ビジネス 町田 徹 これから時間が迫れば迫るほど足元を見られることが明らかなら、ここはいったん上場廃止にしてでも半導体事業を中心に再建策を立て直し、それでも売却となれば徹底的に高値で売却できるよう強気に出るべきです。 上場廃止となっても東芝が生き残れば、どこかで再上場のチャンスがあるはずで、株式が紙くずになることもありません。それがオール日本にとって「最善の策」のような気がします このまま時間に迫られていくと「そうでなくても当事者意識がなくなっている」東芝の経営陣では、ますます海外勢に煽られ「とんでもない条件でも売却してしまう」ことになりそうです 限定付き適正意見 PwCあらた監査法人 日米韓連合でもKKR・WD連合でも、独占禁止法の審査期間を考えると債務超過解消のタイムリミットとされる来年3月末までの売却完了は「すでに大変に厳しい状況」となっています 今頃になってKKRとWDの連合との売却交渉が水面下で再開 最初からWDとの係争を抱えたまま、よく日米韓連合が(その他の連合でも同じですが)交渉のテーブルに着いたなあと不思議に思っていましたが、東芝の経営陣も「決めてしまえば何とかなる」くらいに考えていたのでしょう よくある「自称関係者」の噂話をBloomberg東京事務所が記事にしたような印象 東芝のメモリー事業売却交渉、支払時期などを巡り失速 それからの東芝 闇株新聞 (その32)(闇株新聞の見方、町田氏の見方:瀕死の東芝より先に死にかねない 監査法人の「危うい体質」、郷原氏の見方:東芝監査をめぐる混乱は受任したPwCに重大な責任) 東芝不正会計問題
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