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トランプ新大統領(その21)(メディアが隠すバノン解任の本当の理由、解任されたバノン トランプ政権へ宣戦布告、トランプ米大統領に見る「魚は頭から腐る」 「陰の大統領」解任の波紋、バノン解任でトランプ政権の「敵になる人々」) [世界情勢]

トランプ新大統領については、7月26日に取上げた。「陰の大統領」バノン解任を踏まえた今日は、(その21)(メディアが隠すバノン解任の本当の理由、解任されたバノン トランプ政権へ宣戦布告、トランプ米大統領に見る「魚は頭から腐る」 「陰の大統領」解任の波紋、バノン解任でトランプ政権の「敵になる人々」) である。

先ずは、元レバノン大使の天木直人氏が8月20日付けの同氏のブログに掲載した「メディアが隠すバノン解任の本当の理由」を紹介しよう。
・きょう8月20日の大手各紙はバノン解任のニュースを一斉に大きく取り上げている。 それもそのはずだ。  バノンはトランプ誕生の立役者であり、最側近の首席戦略官兼上級顧問だったからだ。 そのバノンさえも解任せざるを得ないほど、トランプ大統領は迷走しているということだ。 これは大きなニュースである。
・メディアは、この解任は、バノンの極右的な政策に、現実主義を重視する財界や軍が反発したからだと書いている。 そしてバージニアで起きた白人至上主義を擁護するかの如き発言をして非難され、追い込まれたトランプが、ネオナチと見られているバノンを切ることによって逃げ切ろうとしていると書いている。
・しかし、メディアが大きく書かないもうひとつの解任の理由がある。 それはバノンがトランプの北朝鮮政策に強く反対した事だ。 この事を、他紙に先駆けて真っ先に大きく報じたのが、なぜか、きのう8月19日の産経新聞だけだった。 そこにはこう書かれている。 つまり、バノンは16日に公表された米左派雑誌「アメリカン・プロスペクト」(電子版)とのインタビューで、次のように述べて、北朝鮮に軍事力を行使する選択肢を一蹴したと。 「(開戦から)最初の30分でソウルにいる約1千万人が死亡するという難題を一部でも解決しない限り(軍事的選択など)お話しにならない」 どうやらこの発言が、軍人や財界出身の政府内から反発を受け、トランプもまた怒ったということらしい。
・そのことをきょうの各紙は小さく報じている。 しかし、メディアは、今度のバノン更迭の記事で、バノンが極右で人種差別主義者の悪者である事の方を大きく書き立て、政府内でバノンがひとり北朝鮮政策で楯突いている事は一切触れない。 本当は、北朝鮮への軍事攻撃はあり得ない、馬鹿げている、と主張し、それが原因で更迭されたと言う事こそ、メディアはもっと大きく報じるべきではないのか。
・バノンは確かに危険人物だろう。 しかし、バノンより、もっとたちの悪いのは、トランプを取り囲む、軍産複合体である元軍人と財界という「現実派」ではないのか。 バノンなき後に、バノンに代わってトランプを動かすケリー元海兵隊将官の方が、バノンよりはるかに危険ではないのか。 そのことを指摘する大手新聞は皆無である(了)
http://kenpo9.com/archives/2059

次に、ジャーナリストで東洋英和女学院大学客員教授の中岡 望氏が8月21日付け東洋経済オンラインに寄稿した「解任されたバノン、トランプ政権へ宣戦布告 「国際派」の勝利か、なおポピュリズム継続か」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・トランプ大統領がスティーブ・バノン首席戦略官を解任し、波紋が広がっている。8月18日にサラ・サンダース報道官が発表した短い声明は「ジョン・ケリー首席補佐官とバノン氏は、今日がスティーブの(ホワイトハウス)での最後の日になることで合意した」と、妙に持って回った表現になっていた。
・バノン首席戦略官が辞表を提出したのは8月7日で、8月14日付で辞任すると書かれていた。だが、8月12日にはバージニア州シャーロッツビルで極右グループとこれに反対するグループの衝突が起こり、ホワイトハウスは対応に追われ、辞表の受理されるのが遅れた経緯があった。トランプ大統領は8月19日、ツイッターに「バノンに感謝したい。彼は不正直なヒラリー・クリントンに対抗して立候補した私の運動に参加してくれた。それは素晴らしいことだった。Thanks S」と、極めて素っ気ない文章を書いている。
・バノン氏は大統領選挙での最大の立役者である。昨年8月、苦境に立っていたトランプ陣営の選挙責任者に就任し、ヒラリー・クリントン候補への徹底した個人攻撃を指揮して、勝利に導いた。バノン氏がいなければ、トランプ政権は誕生しなかったと言っても過言ではない。
▽4月のシリア攻撃から目立ち始めた亀裂
・新政権では首席戦略官に就任、さらに国家安全保障会議の常任メンバーとして出席が認められるなど閣僚級の待遇を与えられた。強烈な個性を背景にホワイトハウスで特異な地位を築き、トランプ政権の最重要人物の一人になると目されていた。トランプ大統領の政策でも指導力を発揮した。
・不法移民の取り締まり強化と強制送還、NAFTA(北米自由貿易協定)離脱もしくは見直しの実施、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの撤退、メキシコ国境での壁の建設、イスラム教国からの入国規制などの保護主義的で排外主義的な政策実施の背後にはバノン氏やスティーブン・ミラー大統領上席顧問などポピュリストを代表する人物がいた。
・だが、4月6日にアメリカ軍がシリアへのミサイル攻撃を行なったころから、バノン氏と他のスタッフとの関係に亀裂が入り始めた。軍事介入に消極的なバノン氏と、人道上、攻撃が必要と主張するトランプ大統領の娘イヴァンカやその夫・ジャレッド・クシュナー大統領上席顧問とは意見が対立していた。 さらに6月1日に地球温暖化対策の国際合意であるパリ協定をめぐって、バノン氏は離脱を主張。クシュナー上席顧問やゴールドマン・サックス証券出身のゲイリー・コーン国家経済会議委員長など"国際派"と呼ばれるグループは残留を主張していたため、対立が明らかになっていた。
・こうした立場の違いを背景にホワイトハウス内の力関係に変化が見え始める。大統領選挙中はバノン氏とクシュナー上席顧問の関係は極めて良好で、叔父と甥の関係に似ているとさえ言われていたが、4月以降、両者の対立は抜き差しならないところまで進んでいった。メディアは繰り返し、バノン氏は辞任するか、解任されると憶測記事を流し始めた。
・バノン氏と他のスタッフとの対立はさらに深まり、マクマスター国家安全保障担当補佐官との軋轢へと発展していく。海外への軍事介入に否定的なバノン氏と、アフガニスタンへの増派を主張するマクマスター補佐官の対立はスキャンダルの様相を呈した。極右メディアのマクマスター補佐官への批判は極めて過激であり、そうしたマクマスター批判グループの背後にはバノン氏の影があった。
・バノン氏は「北朝鮮に対する軍事的な解決はない」と、ホワイトハウス内の強硬論を批判。一方、中国に対しては、貿易戦争を躊躇すべきではないと主張。中国との対立を回避すべきだとするコーン国家経済会議委員長やディナ・パウエル大統領補佐官など金融界出身の"国際派"と真正面から対立した。ホワイトハウスは次第に"国際派"に掌握されて、バノンは包囲されていった。
▽決定打になったバノン氏インタビュー記事
・状況が一気に動き出したのは、ショーン・スパイサー報道官とラインス・プリーバス首席補佐官の更迭である。バノン氏は、この人事に反対した。トランプ大統領は7月28日にジョン・ケリー国土安全保障長官を後任に充てた。ケリー新首席補佐官の使命は、ホワイトハウスのガバナンスを立て直すことであった。トランプ大統領は、ホワイトハウス内からの相次ぐ情報リークに怒りを抱いており、情報リークの主犯はバノン氏ではないかと疑っていた。
・この人事をきっかけにトランプ大統領はバノン氏の解任を考え始めた。トランプ大統領はケリー首席補佐官にバノンの評価を命じている。ケリー首席補佐官には、「バノン解任」という、いわば猫に鈴をつける役割が期待されていた。その頃から、ホワイトハウス内では、バノン氏は「解任されるのか」「されないのか」ではなく、もはや「いつ」「どのようにして」が議論されるようになった。いかにしてバノン氏の体面を維持しながらホワイトハウスから排除するかが検討されるようになり、その結果が、辞任発表声明の奇妙な文章になったわけだ。
・バノン氏は、マクマスター安全保障担当補佐官などから、シャーロッツビル事件でトランプ大統領がネオナチを擁護するかのような発言を行ったことに対する責任を問われた。 解任の最後の一押しとなったのが、8月16日のリベラル派の雑誌『アメリカン・プロスペクト』(The American Prospect)に掲載された記事であった。バノンは同誌の編集者ロバート・カットナー氏に電話し、対中国政策や対北朝鮮について議論し、前述のような考え方を述べた。さらにカットナー氏は、記事の中でバノン氏が敵対する同僚を批判したことを明らかにした。この記事で、それまで微妙に保たれていた均衡が一気に崩れた。
・バノン氏が果たした役割は、単にトランプ大統領を選挙で勝利に導いたことにとどまらない。バノン氏は白人至上主義者、ポピュリズム(大衆迎合主義)思想の指導者として知られている。トランプ大統領は自らをポピュリストの大統領と称しているが、そうした理論的な枠組みをトランプ大統領に与え、選挙で白人労働者をトランプ陣営に取り込む論拠を提供したのはバノン氏であった。
・トランプ大統領が掲げたポピュリスト的な選挙公約はバノン氏がその政策を紙に書き、自分の執務室の壁に貼り、トランプ大統領にその実現を迫っていた。だが、そうした一連の政策は国際派の抵抗で骨抜きにされつつある。
▽バノン氏は「公約実現」へ圧力をかける
・バノン氏は極めてユニークな経歴を持つ。バージニア州ノーフォークの労働者階級出身である。バージニア工科大学を卒業し、海軍大尉として中東に派遣された。その時の経験から強烈な反イスラム主義者になる。その後、ハーバード大学ビジネススクールを卒業。ゴールドマン・サックスのM&A部門で働き、さらにハリウッドで投資会社を設立している。そして"オルト・ライト"といわれる極右思想の指導者になり、ブライトバート・ニュース(Breitbart News Network)の経営者になり、極右思想の普及に努めている。
・バノン氏はエスタブリッシュメントを批判する右派ポピュリストを代表する論者である。トランプ大統領も共和党のエスタブリッシュメントに対抗するアウトサイダーとして大統領選挙を戦った。いわば共通の敵を持っていたことが、二人を結びつけた。だが、トランプ大統領はバノンを切り捨てた。では、これからトランプ大統領は何を目指していくのだろうか。
・バノン氏は辞任が発表された日の夕方、ブライトバート・ニュースの編集会議の席に座り、会議を取り仕切っていた。ホワイトハウスを去ったバノン氏は"野に放たれた野獣"になるかもしれない。バノンを知る人は、「ホワイトハウスの外にいるほうがバノン氏の影響力は強まる」と語る。ブライトバート・ニュースを中心に今まで以上に激しい論陣を展開するかもしれない。
・バノン氏はホワイトハウスを去るに際して「何か混乱があるようだから、明らかにしておく。自分はホワイトハウスを去り、トランプ大統領のために議会やメディア、大企業といった敵と闘うつもりだ」、「私は外部からトランプ大統領の政策実現のためにもっと効果的に働くことができると思う。それを阻止する者がいれば、私たちは闘う」と語っている。その発言には解釈が必要だろう。すなわち、バノンはホワイトハウスの外からトランプ大統領に圧力を掛けると、語っているのである。トランプ大統領にポピュリストの選挙公約の実施を求めていくことになるだろう。
▽トランプ大統領の迷走はまだ続くのか
・フォックス・ニュースのアンカーマンのサンドラ・スミスは「大統領が間違っていると判断したら、バノンは大統領を容赦なく攻撃するために影響力を行使するだろう」と語っている。元ブライトバードの記者のカート・バーデラは「バノンは解放された気持ちだと思う。彼はホワイトハウスに残っている国際派に最大限の打撃を与えるためにブライトバート・ニュースを公然と使うだろう」と語っている。
・バノン氏の攻撃対象になるのは、マクマスター国家安全保障担当補佐官、パウエル大統領補佐官、コーン国家経済会議委員長、クシュナー上席顧問、トランプ大統領の娘・イヴァンカなど"国際派"のグループである。ブライトバート・ニュースの担当者が国際派グループを"熱核兵器(thermonuclear)"で攻撃すると過激な発言をしていることが伝えられた。
・「バノン解任」は物語の終わりではない。バノンという理論的な柱を失ったトランプ大統領の迷走はさらに激しくなるだろう。共和党のエスタブリッシュメントの影響力が強まってくるのは間違いない。ポピュリストを標榜するトランプ大統領は、それに抵抗するのだろうか。あるいは飲み込まれてしまうのだろうか。
http://toyokeizai.net/articles/-/185219

第三に、元日経論説主幹の岡部 直明氏が8月22日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「トランプ米大統領に見る「魚は頭から腐る」 「陰の大統領」解任の波紋」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「魚は頭から腐る」はロシアの格言だが、この格言がいま最も当てはまるのは、ドナルド・トランプ米大統領だろう。白人至上主義を容認するかのような大統領の発言が米国社会の分断と混乱を招いている。トランプ大統領を支えてきた与党・共和党の幹部や経済界、それに軍幹部にまで大統領批判は広がっている。大統領への助言組織である米製造業評議会と戦略・政策評議会は、経済人の抗議の辞任が相次ぎ、解散せざるをえなかった。そして、「陰の大統領」と呼ばれ、米国第一主義を推し進めた極右、スティーブ・バノン首席戦略官の解任に追い込まれた。トランプ政権がこれを機に人種差別と排外主義から決別しない限り、競争力は削がれ、米国の時代は終わりを告げるだろう。
▽白人至上主義の本性を露呈
・トランプ大統領の言動からは白人至上主義の本性がみてとれる。奴隷制存続を主張し、人種差別の象徴とされたリー将軍像の撤去をめぐって、白人至上主義団体と人種差別に反対する人々が衝突した。その際、大統領は「双方に責任がある」と述べ、「喧嘩両成敗」の立場を取った。トランプ大統領を誕生させた白人貧困層に配慮したとみられる。
・これが全米の非難を浴びると、一転して、KKK(クー・クラックス・クラン)やネオナチを名指しして白人至上主義者を批判し、火消しにつとめる。ところが、リー将軍像の撤去に「偉大な我が国の歴史や文化が引き裂かれるのは悲しい」と再び人種差別を容認するかのような発言をする。 さらに「オルト・ライトの定義は何か」と問い「オルト・レフト」もいると反論した。これは極右が反対勢力に反撃する際によく使う常套手段である。一連の発言をつなげるとトランプ大統領の白人至上主義の本性が浮かび上がってくる。
▽追い込まれてのバノン氏切り
・トランプ大統領の思考法に色濃く影響を及ぼしたのは、バノン氏である。あるいは両氏は共鳴し合っており、一心同体だったのかもしれない。そのバノン氏が解任に追い込まれたのは、人種差別という米国にとって最もセンシティブなテーマを前に、トランプ政権が存続の危機にさらされると大統領自身が感じたからだろう。政権存続のため「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」という心境だったかもしれない。
・トランプ政権では、高官の辞任や更迭が相次いでいる。ロシア疑惑で安全保障担当のフリン大統領補佐官が退任したのを皮切りに、コミー連邦捜査局(FBI)長官、スパイサー大統領報道官、プリーバス大統領首席補佐官らが次々に辞任した。しかし、これら一連の辞任・更迭劇と今回のバノン氏解任を同列で論じるわけにはいかない。
・極右ポピュリストであるバノン氏の存在こそトランプ政権の本質を示していたからだ。トランプ政権の本質は、極右と保守の連立政権である。第2次大戦後、主要先進国で政権の中枢に極右ポピュリストが座ったのは、トランプ米政権が初めてといっていい。欧州主要国ではフランスの国民戦線など極右ポピュリズムの台頭が目立ったが、政権の座は遠かった。欧州連合(EU)を基盤とする成熟国家は、極右ポピュリストを封じ込めるのに成功した。第2次大戦の重い教訓が生かされたからだ。
▽バノン氏がもたらした悪夢
・これに対して、極右ポピュリズムを政権の中枢に置くことを容認した米国民の選択は、歴史に残る過ちだろう。バノン氏が実践したのは特定のイスラム圏などからの移民、難民の排斥だった。そして、自由貿易を否定し保護主義を採用した。多国間主義を排し、2国間主義に傾斜した。環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱し、北米自由貿易協定(NAFTA)を見直す。世界中にサプライチェーンを張り巡らせるグローバル経済の現実を無視し、その進展に待ったをかけた。
・それだけではない。地球温暖化防止のためのパリ協定からの離脱を決めた。ドイツのメルケル首相を「他国(米国)に頼れない時代になった」と嘆かせる暴挙だった。トランプ大統領は「G7(主要7カ国)の悪役」になり、「地球の敵」になったのである。 トランプ大統領が世界からの悪評にも動じなかったのは、「米国第一主義」を掲げるバノン氏の強硬論が背景にあったからだろう。
・バノン氏はしかし、その強硬論ゆえにトランプ政権内ではしだいに孤立する。大統領の女婿であるユダヤ人のクシュナー上級顧問と真っ向からぶつかったほか、ティラーソン国務長官、コーン国家経済会議(NEC)委員長、それにケリー首席補佐官とも対立した。与党・共和党幹部からも更迭要求が出ていた。それでもトランプ大統領はこの極右ポピュリストの「盟友」を最後まで擁護したのである
▽経済界に危機感──競争力削ぐ
・トランプ大統領の人種差別容認には、米経済界に危機感が高まった。米企業トップはトランプ大統領の言動を内心、不快に思いながらも、正面切って批判すれば、攻撃されかねず、ひたすら沈黙を守ってきた。その米企業トップも人種差別容認には黙っていられなかった。薬品大手、メルクのフレージャーCEO(最高経営責任者)は「米国のリーダーは偏狭な白人至上主義を明確に拒否することで米国の多様性を尊重すべきだ」と述べ、助言役を辞任した。 これにインテルのクルザニッチCEOなど先端企業のトップが続いた。助言機関は解散せざるをえなくなった。
・米企業トップが危機感を募らせるのは、移民国家である米国では多様性こそ競争力の源泉であり、人種差別は米企業の競争力を削ぐと考えるからだ。世界各国からの多様な高度人材の能力を生かすことが米企業の経営戦略であり、トランプ流の人種差別はこれを真っ向から否定するものと受け止められた。
▽トランプ・リスクの世界
・トランプ大統領への批判が米軍幹部からも巻き起こったのは異例といえる。米軍の最高司令官である大統領に対して、軍幹部が公然と批判するのはタブーとされてきた。にもかかわらず、陸軍のミリー参謀総長は「陸軍は人種差別や過激主義、憎しみを許さない。我々が支持する価値観に反する」と述べ、これに空軍のゴールドフェイン参謀総長も賛同した。米軍の制服組トップがあえて意見表明したのは、人種差別を容認すれば多様な人種で構成される現役の将兵の士気にも響きかねず、軍運営に支障をきたすという危機感があるからだろう。軍の運営で、マイノリティの役割は非常に重要である。
・北朝鮮の核・ミサイル開発など世界の安全保障環境が厳しさを増すなかで、トランプ大統領の言動こそがリスクになっている。北朝鮮の挑発に対して、同じ次元で挑発するトランプ大統領の言動に、中ロが反発するだけでなく、メルケル独首相はじめ欧州首脳もはらはらしながら見守っている。
・「トランプ・リスク」が世界に広がるなかで、米国の当局者の間には、トランプ抜きで緊張緩和をめざす動きも出てきた。ティラーソン国務長官とマティス国防長官が北朝鮮問題で「北朝鮮が挑発をやめれば交渉の用意がある」と外交優先による危機打開を連名で米ウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿したのもその一例だろう。
▽「ふつうの米国」に戻れるか
・トランプ米大統領の人種差別容認で、この政権が存続の危機にさらされているのは間違いない。米議会では民主党による弾劾の動きも強まるだろう。もちろん、実際に大統領弾劾が実現する可能性はいまのところ低いが、大統領の姿勢しだいで、全米のトランプ批判は収まらなくなるだろう。政権は存続の危機を続けることになる。
・トランプ政権が生き残れるかどうかは、人種差別に決別し排外主義を変えられるかどうかにかかっている。特定国からの移民や難民への規制をなくし、「移民の国」にふさわしい国際主義に戻れるかどうかである。保護主義や2国間主義から自由貿易と多国間主義に立ち返れるかどうかである。TPPへの復帰が試金石になるだろう。合わせて、地球温暖化防止のためのパリ協定に復帰するかどうかである。つまり「ふつうの米国」に戻れるかどうかである。
・解任されたバノン氏は「トランプ政権は終わった」と捨て台詞をはいた。トランプ流排外主義をやめ「ふつうの米国」に戻らないかぎり、皮肉にもバノン氏の警告が当たる可能性がある。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/071400054/082100035/?P=1

第四に、みずほ総合研究所 欧米調査部長の安井 明彦氏が8月24日付け東洋経済オンラインに寄稿した「バノン解任でトランプ政権の「敵になる人々」 忘れられた人々への対応をどうするか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ドナルド・トランプ政権からスティーブン・バノン首席戦略官が退任した。グローバリズムに反旗を翻し、米国の経済利益を最優先する「経済ナショナリズム」の急先鋒と言われたバノン氏の退任によって、トランプ政権の経済運営はどのように変わるのか。そのヒントは、退任でも変わらない3つの現実にある。
・第1に、バノン氏は退任しても、トランプ氏が大統領であることに変わりはない。トランプ政権下での混乱は、大統領のツイートや発言が元凶となっている場合が多い。トランプ大統領が変わらない以上、大統領を震源とした混乱は続くと考えたほうが良いだろう。実際に、バノン氏退任後の8月22日にアリゾナ州フェニックスで行われた演説は、メキシコ国境への壁の建設を強く求めるなど、トランプ節全開だった。
▽トランプ政権はオーソドックスな共和党路線
・バノン氏の影響力は、過大評価されていた可能性がある。バノン氏がトランプ大統領の選挙運動に参画したのは、選挙戦も終盤の2016年8月になってからのことだ。中国やメキシコに対するトランプ大統領の攻撃的な発言は、バノン氏が選挙戦にかかわる以前から行われていた。 だからといって、トランプ大統領自身が混乱の元凶であるという事実が、必ずしも経済ナショナリズムの定着を意味するわけではない。そもそも、大統領の過激な発言とは裏腹に、実際のトランプ政権の政策運営は、オーソドックスな共和党の路線に近かったからだ。
・その典型が、通商政策である。これまでトランプ政権下では、過激な保護主義は実現してこなかった。TPP(環太平洋パートナーシップ)協定こそ離脱したものの、脱退表明が検討されていたNAFTA(北米自由貿易協定)は、ひとまずは再交渉へと進んでいる。
・厳しく批判してきた中国についても、為替操作国の認定や高関税の設定は見送られている。通商法301条の調査対象とされた中国の知的財産権問題にしても、その対象は世界的に問題視されてきた論点であり、WTO(世界貿易機関)を使った解決の道筋も残されている。
・通商政策だけではない。富裕層増税の支持や大企業批判など、トランプ大統領が民主党に近い立場を示すことがある経済政策でも、実際には富裕層に厚い減税が立案されており、企業合併を差し止める動きもない。外交政策についても、トランプ大統領は米軍のアフガニスタンからの早期撤退を主張していたにもかかわらず、実際には増派に道を開く決断を行った。
・前述のバノン氏退任後にフェニックスで行われた演説でトランプ大統領は、改めてNAFTA脱退の可能性を口にしている。バノン氏の退任により、過激な政策が選ばれる可能性はさらに低下していると思われるが、NAFTA再交渉の行方は、トランプ大統領発の混乱とオーソドックスな共和党路線の併存が続くかどうかを見極める論点となりそうだ。
・第2に、共和党に頼った政策運営に限界があることも変わらない。今後の政策運営のカギを握るのは、民主党との関係である。 税制改革などの議論が一向に進まない背景には、トランプ政権のみならず、共和党の力不足がある。議会の上下両院で多数党であるとはいえ、共和党の議席数は民主党を圧倒的に上回っているわけではない。共和党だけで法律を実現するには党の結束が不可欠なはずだが、党内には保守派と穏健派の根深い対立がある。共和党だけに頼る戦略が、トランプ政権を袋小路に追い詰めている。
▽「忘れられた人々」への政策は忘れられたまま
・まして、これからのトランプ政権は、共和党だけでは解決できない政策課題に対処しなければならない。共和党内の意見が割れていることもあり、9月末が期限となる予算の立法化と債務上限の引き上げには、民主党議員による賛成が不可欠となる可能性が高い。予算が間に合わなければ、政府機関は閉鎖に追い込まれる。債務上限の引き上げに手こずれば、米国による債務不履行(デフォルト)の懸念が高まりかねない。
・民主党との距離を縮めるという点では、バノン氏の退任が好材料になるとは限らない。過激な思想の持ち主が退場するという意味では、話しやすくなる面はある。その一方で、トランプ政権がオーソドックスな共和党の路線で結束を強めるとすれば、かえって民主党との距離が開く可能性もあるだろう。
・第3に、トランプ大統領を誕生させた有権者の不満は、いぜんとして存在している。トランプ政権になっても、ブルーカラーの白人労働者層など、「忘れられた人々」と言われる人たちに向けた対策は、いぜんとして忘れられたままだ。 トランプ大統領を支持した人々の特徴は、将来世代の暮らしに対する期待の低さにあった。大統領選挙のさなかに行われた世論調査によれば、トランプ氏の支持者は「次世代の暮らしは今の世代よりも悪くなる」と考える割合が高い点が、対立候補であるヒラリー・クリントン氏の支持者との大きな違いだった。
・実際に米国では、子の世代が親の世代を追い抜いて行くことが難しくなっている。1940年に生まれた子の場合は、その9割は30歳の時点で実質収入が親の水準を超えていた。ところが、1984年生まれの子になると、親の実質収入を超えられた割合は5割程度にまで低下している。
▽忘れられた人々が「裏切られた人々」になる可能性も
・根本的な問題は、忘れられた人々への対応策が見当たらない点にある。保護主義や移民排斥などの経済ナショナリズムが、次世代への期待を高める政策になり得ないことは明らかだ。しかしながら、共和党や民主党のオーソドックスな政策が、忘れられた人々の期待を裏切ってきたのも事実である。
・経済ナショナリズムによって忘れられた人々の支持を集めたのは、バノン氏の戦略でもあった。そのバノン氏の退場は、ますます忘れられた人々が忘れられていく可能性を示唆している。既存の政治を変えるとしてきたトランプ政権が、実際にはオーソドックスな共和党の政策への傾斜を強めれば、忘れられた人々は「裏切られた」という思いを強めるかもしれない。
・そうした不満のうっ積は、今後の米国政治の不安定要因となる。来年11月には議会の中間選挙、さらに2020年11月には次の大統領選挙が行われる。忘れられた人々への対応が進まなければ、もう一段の混乱が発生する可能性もありそうだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/185615

天木氏が、 『メディアは、今度のバノン更迭の記事で、バノンが極右で人種差別主義者の悪者である事の方を大きく書き立て、政府内でバノンがひとり北朝鮮政策で楯突いている事は一切触れない。 本当は、北朝鮮への軍事攻撃はあり得ない、馬鹿げている、と主張し、それが原因で更迭されたと言う事こそ、メディアはもっと大きく報じるべきではないのか。 バノンは確かに危険人物だろう。 しかし、バノンより、もっとたちの悪いのは、トランプを取り囲む、軍産複合体である元軍人と財界という「現実派」ではないのか』、と指摘しているのは、その通りだ。
中岡氏が、 『バノン氏はホワイトハウスを去るに際して「何か混乱があるようだから、明らかにしておく。自分はホワイトハウスを去り、トランプ大統領のために議会やメディア、大企業といった敵と闘うつもりだ」、「私は外部からトランプ大統領の政策実現のためにもっと効果的に働くことができると思う。それを阻止する者がいれば、私たちは闘う」と語っている。その発言には解釈が必要だろう。すなわち、バノンはホワイトハウスの外からトランプ大統領に圧力を掛けると、語っているのである。トランプ大統領にポピュリストの選挙公約の実施を求めていくことになるだろう』、というんではまさに 『"野に放たれた野獣"』で、残されたホワイトハウス高官たちは、バノンを意識した行動を採らざるを得ないとすれば、 『トランプ大統領の迷走はまだ続く』、とみるべきなのだろう。
岡部氏が、 『トランプ政権が生き残れるかどうかは、人種差別に決別し排外主義を変えられるかどうかにかかっている。特定国からの移民や難民への規制をなくし、「移民の国」にふさわしい国際主義に戻れるかどうかである・・・つまり「ふつうの米国」に戻れるかどうかである』、というのはその通りなのかも知れないが、トランプが自分を欺き続けるのは無理で、政権としても短命に終わる可能性もありそうだ。
安井氏が、 『忘れられた人々が「裏切られた人々」になる可能性も・・・今後の米国政治の不安定要因となる』、というのは大いにありそうだ。
タグ:トランプ米大統領に見る「魚は頭から腐る」 「陰の大統領」解任の波紋 日経ビジネスオンライン 岡部 直明 天木直人 トランプ新大統領 (その21)(メディアが隠すバノン解任の本当の理由、解任されたバノン トランプ政権へ宣戦布告、トランプ米大統領に見る「魚は頭から腐る」 「陰の大統領」解任の波紋、バノン解任でトランプ政権の「敵になる人々」) メディアが隠すバノン解任の本当の理由 ・メディアは、この解任は、バノンの極右的な政策に、現実主義を重視する財界や軍が反発したからだと書いている メディアが大きく書かないもうひとつの解任の理由がある。 それはバノンがトランプの北朝鮮政策に強く反対した事だ 産経新聞だけだった 「(開戦から)最初の30分でソウルにいる約1千万人が死亡するという難題を一部でも解決しない限り(軍事的選択など)お話しにならない どうやらこの発言が、軍人や財界出身の政府内から反発を受け、トランプもまた怒ったということらしい。 バノンより、もっとたちの悪いのは、トランプを取り囲む、軍産複合体である元軍人と財界という「現実派」ではないのか 中岡 望 東洋経済オンライン 解任されたバノン、トランプ政権へ宣戦布告 「国際派」の勝利か、なおポピュリズム継続か 4月のシリア攻撃から目立ち始めた亀裂 保護主義的で排外主義的な政策実施の背後にはバノン氏やスティーブン・ミラー大統領上席顧問などポピュリストを代表する人物がいた シリアへのミサイル攻撃 軍事介入に消極的なバノン氏と、人道上、攻撃が必要と主張するトランプ大統領の娘イヴァンカやその夫・ジャレッド・クシュナー大統領上席顧問とは意見が対立 海外への軍事介入に否定的なバノン氏と、アフガニスタンへの増派を主張するマクマスター補佐官の対立はスキャンダルの様相を呈した。極右メディアのマクマスター補佐官への批判は極めて過激であり、そうしたマクマスター批判グループの背後にはバノン氏の影があった ホワイトハウスは次第に"国際派"に掌握されて、バノンは包囲されていった ショーン・スパイサー報道官とラインス・プリーバス首席補佐官の更迭 トランプ大統領は、ホワイトハウス内からの相次ぐ情報リークに怒りを抱いており、情報リークの主犯はバノン氏ではないかと疑っていた シャーロッツビル事件でトランプ大統領がネオナチを擁護するかのような発言を行ったことに対する責任を問われた アメリカン・プロスペクト カットナー氏は、記事の中でバノン氏が敵対する同僚を批判したことを明らかにした。この記事で、それまで微妙に保たれていた均衡が一気に崩れた ・バノン氏はホワイトハウスを去るに際して「何か混乱があるようだから、明らかにしておく。自分はホワイトハウスを去り、トランプ大統領のために議会やメディア、大企業といった敵と闘うつもりだ」、「私は外部からトランプ大統領の政策実現のためにもっと効果的に働くことができると思う。それを阻止する者がいれば、私たちは闘う」と語っている。その発言には解釈が必要だろう。すなわち、バノンはホワイトハウスの外からトランプ大統領に圧力を掛けると、語っているのである。トランプ大統領にポピュリストの選挙公約の実施を求めていくことにな ・トランプ大統領の言動からは白人至上主義の本性がみてとれる リー将軍像の撤去をめぐって、白人至上主義団体と人種差別に反対する人々が衝突 双方に責任がある 白人貧困層に配慮 KKK(クー・クラックス・クラン)やネオナチを名指しして白人至上主義者を批判し、火消しにつとめる リー将軍像の撤去に「偉大な我が国の歴史や文化が引き裂かれるのは悲しい」と再び人種差別を容認するかのような発言 ・極右ポピュリストであるバノン氏の存在こそトランプ政権の本質を示していたからだ。トランプ政権の本質は、極右と保守の連立政権である 極右ポピュリズムを政権の中枢に置くことを容認した米国民の選択は、歴史に残る過ちだろう G7(主要7カ国)の悪役」になり、「地球の敵」になったのである 経済界に危機感──競争力削ぐ 米企業トップが危機感を募らせるのは、移民国家である米国では多様性こそ競争力の源泉であり、人種差別は米企業の競争力を削ぐと考えるからだ トランプ・リスクの世界 米軍の制服組トップがあえて意見表明したのは、人種差別を容認すれば多様な人種で構成される現役の将兵の士気にも響きかねず、軍運営に支障をきたすという危機感があるからだろう 北朝鮮の挑発に対して、同じ次元で挑発するトランプ大統領の言動に、中ロが反発するだけでなく、メルケル独首相はじめ欧州首脳もはらはらしながら見守っている ・トランプ政権が生き残れるかどうかは、人種差別に決別し排外主義を変えられるかどうかにかかっている。特定国からの移民や難民への規制をなくし、「移民の国」にふさわしい国際主義に戻れるかどうかである 解任されたバノン氏は「トランプ政権は終わった」と捨て台詞 安井 明彦 バノン解任でトランプ政権の「敵になる人々」 忘れられた人々への対応をどうするか トランプ政権はオーソドックスな共和党路線 忘れられた人々」への政策は忘れられたまま 忘れられた人々が「裏切られた人々」になる可能性も
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