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原発問題(その8)(原発事故の刑事責任は、放射線被曝の誤解「年間100ミリシーベルトまで安全」は本当か、原発政策の議論なしに進む「エネルギー基本計画」見直し会議の画餅、「トモダチ作戦」157人が米国で東電を提訴) [社会]

原発問題については、4月17日に取上げたが、今日は、(その8)(原発事故の刑事責任は、放射線被曝の誤解「年間100ミリシーベルトまで安全」は本当か、原発政策の議論なしに進む「エネルギー基本計画」見直し会議の画餅、「トモダチ作戦」157人が米国で東電を提訴) である。

先ずは、6月30日付けNHK時論公論「原発事故の刑事責任は」を紹介しよう(▽は小見出し、+は解説内の段落)。
・解説は、解説委員の清永 聡氏 、水野 倫之氏
・ 東京電力の旧経営陣の3人が強制的に起訴された裁判が始まりました。未曾有の原発事故の刑事裁判はこれが初めてです。しかし、検察が2度不起訴にした後、検察審査会の議決で覆るという異例の経緯をたどりました。何が審理の焦点かを伝えます。
▽被災者の思いと異例の経緯
・清永:東京地方裁判所で開かれた初公判で元会長の勝俣恒久被告、元副社長の武黒一郎被告、元副社長の武藤栄被告は、いずれも謝罪の言葉を話した上で、事故は予測できなかったとして無罪を主張しました。水野委員は3人の発言をどう受け止めたでしょうか。
・水野:謝罪はするものの、自分たちに罪はないと言う。これをきいた福島の多くの人たちはあらためてやりきれない思いを抱いているのではないかと思います。 たしかに東京電力は賠償金の支払いを続けていますが、これは法律で賠償が義務付けられているためです。 また元会長は経営責任を取って退任し、全社員が被災者の自宅の片付けなどの復興支援活動も行っています。
+しかしあれだけの被害を出して故郷を奪っておきながら、誰も「おとがめなし」でいいのか。 責任の所在をはっきりさせてほしいというのが、福島の人たちの思いだと思います。 というのもこの裁判で被害者とされているのは数十人ですが、実際の被害はこれにとどまらないからです。
+福島ではいまだに6万人が避難を続けていますし、
+避難生活などで亡くなる震災関連死も事故の影響もあって2086人と突出しています。
+さらに甲状腺がんかその疑いと診断された当時18歳未満の子供はこれまでに185人。福島県は放射線の影響とは考えにくいとしながらも、長期的に影響を検証していく必要があるとしており、不安を抱えたままの子どもや親がいるということも忘れてはなりません。
・清永:ただし、刑事裁判はあくまでも起訴された内容で、有罪かどうかを審理するものです。そもそも今回は、初公判まで異例の経緯をたどりました。 告訴や告発を受けた検察は、1度不起訴と判断します。 しかし市民から選ばれた検察審査会が起訴すべきと議決しました。ところが、検察は2度目も起訴できないとしたのに対し、検察審査会が再び起訴すべきと議決し、強制起訴となりました。
+検察審査会を経て強制起訴された裁判は9件あります。 しかし有罪は一部で、特に大規模な事故では、明石歩道橋事故の強制起訴が、「罪に問うことはできない」として裁判を打ち切る「免訴」。JR西日本の事故は「無罪」が確定しています。特に大規模な事故では、強制起訴を経て個人の刑事責任を問うことの難しさを示しています。
+ただ、検察審査会の議決は、「公の法廷で適正な法的評価を審理すべき」という市民の声です。これに基づいて裁判が行われることには意義があると思います。
・水野:一方で、国会事故調は報告書の中で、「何度も事前に対策を立てるチャンスがあったことに鑑みれば、事故は自然災害ではなく明らかに人災だ」と指摘していますので、今後の裁判でこの点どうなのかしっかりとした審理を求めたいです。
▽予見可能性をめぐる主張
・清永:今回の裁判は「津波は予測できたのかどうか」が最大の焦点です。ポイントは「最大15、7メートル」という試算結果です。これは政府の地震調査研究推進本部の長期予測を元に、東京電力が震災の3年前にシミュレーションした結果です。 初公判で弁護側は「長期予測は専門家からも疑問の声があり、信頼性はなかった」「妥当かどうかは専門の学会に検討を依頼していた」などと主張しています。
・水野:ただ原発事故の場合は、予測できた可能性を限定的に捉えるべきではないという意見もあります。なぜなら原発でいったん重大事故が起きれば、取り返しのつかない影響が出ることは、福島以前でもチェルノブイリ事故などを見れば明らかなわけで、重大事故が万が一にも起きないよう対策をとるのは電力会社として当然だというわけです。
+地震調査研究推進本部の予測は意見が分かれるものではありましたが、国の機関が一定の科学的知見に基づいて公表した予測です。 潜在的に危険な原発を抱える電力会社が、その信頼性を問題にして対策をとらないというのであれば、国の機関がこのような発表をする意味がなくなってしまいます。 東電は長期予測に基づいて確実とまでは言えないにしても15mを超える大津波を予測していたわけで、事故を想定外と言う事はできません。
・清永:これまでも裁判所がこの試算結果について判断したことがあります。前橋地裁は今年3月に、試算結果などを根拠にして「東京電力は津波を予測できた」として、国と東京電力に賠償を命じる判決を言い渡しています。 しかし、これは「企業」などに対する「民事裁判」です。それに対して今回は「個人」に対する「刑事裁判」です。
+被告となった3人に試算結果がどう共有され、どこまで情報が上がって「具体的な危険性」を認識していたかどうかなどが、審理の鍵になるとみられます。 ただ、当時はいわゆる「安全神話」を信じて、そもそも危険性を示すデータを軽視していたのではないかという印象も受けますが、この点はどう考えますか。
・水野:確かに安全神話はありましたが、電力会社の中には公共の機関の予測を元に津波対策をとって難を逃れたところもあります。 茨城県にある原電・日本原子力発電の東海第二原発は、震災当時津波で非常用発電機1台が水没しましたが、残る2台は、発電機のポンプを囲う壁のかさ上げ工事が終わっていて被災を免れ、事なきを得ました。 なぜかさ上げ工事をしたのか。それは茨城県が2007年に県の沿岸の津波想定を見直したのを受けて独自に津波の予測をし、それまでの想定を上回ることがわかったからでした。
+原電は茨城県の想定は最新の知見であり、当然対策に生かすべきだと判断したと言います。東電と比べて規模が小さく、現場の声が通りやすいという違いはあるかもしれませんが、自然災害のリスクに対する感度に大きな違いがありました。 リスクに対する感度が低い会社に原発を運転する資格はないと思います。
▽裁判で明らかにすべきことは
・清永:今回は、裁判員裁判ではないため、おそらく審理は長引くと考えられます。原発事故に対しては、各地で民事裁判や株主代表訴訟が起きていて、この刑事裁判の中で資料などが新たに明らかになれば、今後の他の裁判にも影響する可能性があります。
・水野:3人は事故後の会見や事故調の聞き取りなどを除いて、事故について詳しく語っていません。事故を防ぐことは本当にできなかったのか、多くの被災者が抱いている思いであり、裁判の中で真実をしっかり語ってもらい、その理由が少しでも明らかになることを期待したいと思います。
・清永:原発事故で突然故郷を奪われた人たちは、今もなお被害が続く中で、責任を明らかにしてほしいと強く希望しています。 3人には、刑事責任の有無だけではなく、事故に対する経営者としての責任や道義的な責任もあるはずです。 悲惨な事故を2度と繰り返さないためにも、真摯に協力する姿勢で審理に臨み、今後の教訓へとつながる事実の解明を進めてほしいと思います。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/274607.html

次に、ダイヤモンド社論説委員の坪井賢一氏が8月1日付けダイヤモンド・オンラインに掲載した「放射線被曝の誤解、「年間100ミリシーベルトまで安全」は本当か」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・福島第一原発事故から6年と5ヵ月が経過した。原発立地周辺の一部で避難解除が進む一方、茨城県大洗町では日本原子力研究開発機構(JAEA)作業員の被曝事故が起きるなど、放射線被曝に関する問題が改めて注目されている。しかし私たちは、放射線に関する正しい知識をちゃんと身に着けているだろうか。現状では、放射線被曝の「線量限度」について、正しい認識の下で報道しているとは思えないメディアも散見される。キーとなる3つの数値の分析を通じて、「線量限度」の正しい読み解き方を考えよう。
▽大洗の作業員被曝で注目、 累積放射線量100mSvのリスク
・茨城県大洗町のJAEA大洗研究開発センターで6月6日に起きた作業員5人の被曝事故で、JAEAの発表は「プルトニウムを大量被曝」(6月7日)、「内部被曝はなかった」(6月9日)、「やはり内部被曝はあった」(6月19日)と二転三転し、ようやく内部被曝の放射線量の推計が発表されたのは7月10日だった。 この記者発表によると、今後50年間、内部被曝が継続した場合、予想される累積放射線量は100mSv(ミリシーベルト)以上200mSv未満が1名、10mSv以上50mSv未満2名、10mSv未満が1名だそうだ。そして、「100mSvで増加するガン死亡のリスクは0.5%」と説明されている。100mSvが重要な指標であることがわかる。
・福島第一原発事故から6年と5ヵ月が経過し、この3月31日と4月1日には浪江町や飯館村などで避難解除が進んでいる。避難解除の要件は、政府によってこう規定されている。 「空間線量率で推定された年間積算線量が20mSv以下になることが確実であること」(2015年6月12日原子力災害対策本部決定、閣議決定)。
・年間20mSvは、ガン死亡リスクが0.5%増加する100mSvの5分の1だ。5年で100mSvに達してしまうが、線量は今後、確実に減少するので、その5年が10年に伸び、やがて20年、30年になるという予想だろう。 福島第一原発事故で広範囲に飛散し、東日本各地で除染作業の続いたセシウムは確実に減少している。事故から6年以上経過したことも大きい。
・降下したセシウム134と137の数量比は1:1だという。三重大学の勝川俊雄准教授によると、セシウム137の半減期は30年だから6年経過してもなだらかに減少しているだけだが、半減期2.06年のセシウム134は急速に減少し、3年で3割近く減っていた。それを前提に考えると、両セシウム総量の半減期は30年よりはるかに短い6年になり、2017年3月の時点で半減していたことになる(このことは2011年7月1日付DOLレポート「除染を急げば大幅に放射線量は減少する 市民の健康を守れるのは自治体」で書いた)。
・セシウムの総量は6年で半減したはずだが、今後は半減期の長いセシウム137の影響でなだらかに減少していく。
▽1mSvは平時の基準、20mSvは短期的な上限
・避難解除の要件は年間積算量で20mSv以下になることだが、もっと重要なのは、環境省の基準では、年間1mSvが公衆被曝の上限だということだ。 年間20mSvと1mSvでは20倍の差がある。1mSvは平時の基準であり、20mSvは事故後に許容すべき放射線量の短期的な上限である。これから可能な限り早く1mSvへ下げなければならない。これは筆者が主張しているのではなく、ICRP(国際放射線防護委員会)のガイドラインに基づく政府の考え方である。
・年間20mSvは、避難する下限の基準でもある。原発事故後には、年間20mSvを時間あたりに換算した毎時3.8μSv(マイクロ・シーベルト)以上の放射線量を観測した地域で避難が行なわれた。この換算値は、単に時間数で割ったわけではない。屋外活動を8時間として換算した数値である。そして、同様に年間1mSvを時間当たりに換算した毎時0.23μSv 以上の市町村を除染対象地域としていた。
・環境省は除染対象地域を大きく2つに分けていた。政府が直轄する「除染特別地域」と、自治体が除染する「汚染重点調査地域」である。「汚染重点調査地域」の市町村数は、岩手県(3)、宮城県(9)、福島県(40)、茨城県(20)、栃木県(8)、群馬県(10)、埼玉県(2)、千葉県(9)の合計101だった。これらの地域は放射線量を毎時0.23μSv以下にするよう自治体に指示され、ほぼ達成されている。しかし、除染後の放射性廃棄物の処理は進んでいない。ゴミ焼却場の近くに一時貯蔵されているだけだろう。30年程度の中間貯蔵に移すとされているが、各地の中間貯蔵施設の選定は現在も道半ばである。
・一方、基本的には前者の「除染特別地域」である福島第一原発から20km圏内の「警戒区域」、および放射性物質が大量に降下した北西方向の「計画的避難区域」9市町村の除染は政府が直轄で行なってきた。2013年時点で「警戒区域」と「計画的避難区域」は3つに再編された。まず、年間被曝量が50mSvを超える「帰宅困難区域」で、帰還は当面不可能だ。次に年間20~50mSvの「居住制限区域」、そして年間20mSv未満の「避難指示解除準備区域」である。
・政府直轄除染の対象地域は「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の市町村だ。除染の数値目標は、ICRPの「2007年勧告」に準拠し、2013年度(2014年3月)までに「居住制限区域」は年間20mSv以下へ、「避難指示解除準備区域」は「長期的に年間1mSv」以下、つまり毎時0.23μSv以下にする、と2011年に決まっていた。
・しかし、そう簡単には放射線量は下がらない。そこで、年間20mSv以下に減少することが確実であると認められた地域は避難解除とする、と要件を緩和したのが2015年6月12日の閣議決定だった。
▽放射線量の限度は?キーとなる「3つの数字」
・以上で、放射線量の限度を考える上でキーとなる「3つの数字」が登場している。 累積100mSv、年間20mSv(毎時3.8μSv)、年間1mSv(毎時0.23μSv)である。もう一度整理しておこう。
 +累積100mSv……累積100mSvでガン死亡のリスクが0.5%上昇
 +年間20mSv(毎時3.8μSv)……これ以下に下がることが確実な場合は避難解除
 +年間1mSv……一般公衆の被曝限度線量  ICRP「2007年勧告」による公衆被曝の許容量である年間1mSvはだんだん緩くなり、いつのまにか、「100mSvまでは安全だ」ということになってしまった。
・たとえば、「『20ミリシーベルト帰還』へ安全指針」と題した「読売新聞」(2013年3月11日付1面)の記事では、「政府は長期的な目標として1ミリシーベルトの除染基準は維持する。一方で新たな指針は、年間積算線量が5ミリシーベルトや10ミリシーベルトなど、線量の段階ごとに、安心して生活するために必要な対応策を示す。国際放射線防護委員会(ICRP)は、年間積算線量が100ミリシーベルトまでなら健康への影響は明確に検出できないとしている。病院の放射線診断では1回に約7ミリシーベルト被曝することもある」と書かれている。
・記事では「新たな指針」が出ることになっているが、その後出ていない。ICRPは公衆被曝の限度は年間1mSv、事故後は1mSv~20mSvに拡大するが長期的には1mSvとする、という指針を変えていないからだ。この「読売」の記事で間違っているのは、「年間積算線量が100ミリシーベルトまでなら健康への影響は明確に検出できない」と書いている箇所だ。これは生涯にわたる累積線量が100mSvまではガンによる死者数が明確ではないということを勘違いして書いたのだろう。年間100mSvは明らかな誤りである。「読売新聞」の記事データベースで確かめたが、修正されていなかった。
・また、「日本経済新聞」(2013年3月12日付2面)は「帰還基準線量緩和へ」へと題してこう報じている。「原発周辺では、一度の除染で5~10ミリシーベルトまで放射線量を減らした後に作業を繰り返しても、1ミリシーベルトまで低下させるのは困難なことがわかってきた。(略)1ミリシーベルトの目標は、前民主党政権が国際放射線防護委員会(ICRP)が示す1~20ミリシーベルトの下限を採用した経緯がある。一方で放射線の影響による発がんリスクは、100ミリシーベルト以下なら喫煙に伴う発がんリスクと差はないとされる」。 この記事でも、年間1~20mSvと生涯累積100mSvの時間(期間)を混同していることに注意しよう。
▽「年間」と「累積」は違う 100mSvをめぐるメディアの誤解
・これらの記事を読むと、年間1mSvなんか大したものではない、現に健康被害は何も起きていない、年間20mSvならぜんぜん問題ないと思われるかもしれない。 最近も、「読売新聞」は2017年2月9日付の社説で「放射線審議会 民主党政権時の基準を見直せ」と題してこう書いていた。「除染に関しても、民主党政権下で、実質的に年間1ミリシーベルト以下とする目標が設けられた。/科学的には、100ミリシーベルト以下の被曝による健康への影響はないとされる。国際放射線防護委員会(ICRP)は、これに余裕を見込んで、20ミリシーベルト以下で避難措置を解除し、長期的に1ミリシーベルトを目指すとの考え方を示している」。
・以上の新聞報道では100mSvまでは安全だということが強調されている。しかも、年間100mSvまで安全だと誤解している節もある。 日本の自然放射線量(空気中のラドン、大地、食物などからの放射線量)は、年間1.4mSvだとされている。年間1.4mSvは平均的な推定値である。平時の関東地方の空間放射線量は、毎時にすると0.04μSvくらいだ。除染基準の0.23μSvは平時より5倍高いことになる。
・また、「読売」や「日経」の記事で登場するレントゲン写真などの医療被曝が大きいことも事実だ。つまり、年間1mSv自体、危険な数値ではない。そうではなくて、この被曝が医療のように便益のある計画的な被曝なのか、原発事故のように意図せざる被曝なのか、という違いを押さえておかなくてはならない。この違いを混同していると線量限度の数字を誤解することになる。
▽ICRP「2007年基準」の正しい読み方
・ICRPは1960年に一般公衆の線量限度を年間5mSv程度とした。この基準が長く続いたが、チェルノブイリ原発事故(1986年4月)を経て、1988~90年に一般公衆の年間被曝許容量を1mSvまで下げている。この基準が現在も続いている。
・一般公衆とは、放射性物質を取り扱う作業者(つまりプロ)と異なり、意図せざる被曝を受ける市民のことである。作業者の場合は、報酬を得て計測しながら被曝(計画被曝という)するので、一般公衆の意図せざる被曝とは区別される。一般公衆の場合、医療放射線などの計画被曝を除き、原発事故や核戦争などによる意図せざる被曝の上限を年間1mSvとする、という意味である。つまり、医療被曝と原発事故による被曝は明確に区別されている。 しかも、内部被曝はカウントされていない。日本では現在、意図せざる内部被曝も年間1mSvを上限として食品のセシウム137含有量を規制している。
▽一般にはわかりづらいICRP「2007年勧告」を解説
・ICRPは2007年に「勧告」を大きく改定した。基準を変更したのではなく、原発の重大事故や核攻撃を受けた場合の緊急事態を想定した数値を発表したのである。ICRP「2007年勧告」は邦訳が出版され、現在はウエブで無料公開されている。「1990年勧告」に比べ、被曝対象者の分類などが細かくなり、事故や核戦争を想定した緊急事態時の対応が記されていることなどから、非常に分かりにくくなっている。文章も難解なので、ここでは重要なポイントだけを、中央放射線審議会の中間報告から抜き書きする。これも2011年と2013年の筆者のレポートで紹介したが、もう一度簡略に書いておく。
・ICRP「2007年勧告」のポイント
 【放射線防護の生物学的側面】
 +確定的影響(有害な組織反応)の誘発――吸収線量が100ミリ・グレイ(グレイはシーベルトとほぼ同じ)の線量域までは臨床的に意味のある機能障害を示すとは判断されない
 +確率的影響の誘発(がんのリスク)――LNT(Linear Non-Threshold……直線しきい値なし)モデルを維持
 ●筆者による解説……100mSv以下だと特定の機能障害は見られないという。累積100mSv以上の短期集中被曝で確定的影響が出るという意味だ。確定的影響とは、脱毛、白血球の減少、白内障などの明らかな病変である。一方、長期にわたる低線量被曝でも累積100mSv以上で影響が出る。これを確率的影響という。年間20mSvだと5年で100mSvに達する。年間1mSvならば100年である。1mSvの根拠は、100歳まで生きたとして年間1mSvを上限にする、ということだ。実際には、内部被曝、医療被曝、自然放射線などもあることに注意されたい。100mSv以下の確率的影響は、閾値(しきいち)はないとするLNTモデルを想定している。ガン死亡のリスクは、放射線被曝ゼロから線量率に比例して直線的に上昇するという考え方だ。すなわち、可能な限り被曝を避けるべき、という発想である。
 【線源関連の線量拘束値と参考レベルの選択に影響を与える因子】
 +年間1mSv以下――計画被曝状況に適用され、被曝した個人に直接的な利益はないが、社会にとって利益があるかもしれない状況(計画被曝状況の公衆被曝)
 ●筆者による解説……非常にわかりにくい表現だが、事故などで公衆が意図せざる被曝状況にあり、被曝を避けなければならない、しかし、事故は起きてしまったので、年間1mSvまでなら社会活動上の利益があるので許容する、という意味である。
 +年間1~20mSv以下――個人が直接、利益を受ける状況に適用(計画被曝状況の職業被曝、異常に高い自然バックグラウンド放射線、及び事故後の復旧段階の被曝を含む)
 +年間20~100mSv以下――被曝低減に係る対策が崩壊している状況に適用(緊急事態における被曝低減のための対策)
 ●筆者による解説……「計画被曝」とは作業者のことである。したがって、この項目を公衆レベルで読むときは「事故後の復旧段階」と「緊急事態」が適用される。つまり、事故直後の「緊急事態」では対策が崩壊しているので、短期的に20~100mSvまで許容、「復旧段階」では一般公衆の被曝量は1~20mSvまで認める、という意味だ。ここから避難解除の要件が生まれたわけである。
▽「線量限度」を表わす数字の意味を きちんと把握しておくべき
・累積線量100mSvまで安全だとは、ICRP「2007年勧告」には書かれていない。公衆の意図せざる被曝は可能な限り避けること、事故が起きてしまった場合は、年間1mSvまでは個人が生活上のベネフィットがあるので許容、事故の復旧段階では20mSvまで認めるが、長期的には1mSvが限度、ということである。
+累積100mSvでガン死亡のリスクが0.5%増加することは実証されている。100mSvまでの長期にわたる低線量被曝の場合も、0から直線的にリスクが増加するという考え方を採用する、これがICRPの指針である。
・年間1mSv、年間20mSv、累積100mSv、私たちは、これらの数字の意味を正確に把握しておくべきだ。発表や報道をうのみにしてはいけない。チェルノブイリ原発事故でも、子どもの健康被害(小児甲状腺ガン4000例《死者15人》)が計数として明確になったのは20年後の2005年だった。世代を超えた超長期の健康フォローが望まれる。
http://diamond.jp/articles/-/137004

第三に、8月22日付けダイヤモンド・オンライン「原発政策の議論なしに進む「エネルギー基本計画」見直し会議の画餅」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・すでに出口が見えた「見直し」が進もうとしている。経済産業省の有識者会議でエネルギー基本計画(エネ基)の見直し議論が始まった。 東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所の事故から3年後の2014年4月に策定されたエネ基は、旧民主党政権が掲げた「原発ゼロ」を撤回。原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、原子力規制委員会の規制基準に適合した原発の再稼働を進める方針を盛り込んだ。  これを受け、15年7月に政府が閣議決定した長期エネルギー需給見通しで、30年度の電源構成(総発電量に占める各電源の割合)の原発比率を20~22%と決めた。
・国内の原発のうち、7月末時点までに再稼働したのは5基のみ。廃炉を決めた15基を除き、稼働している5基を含む44基を全て稼働させ、運転期間を原則40年とする現行ルールを適用すれば、見通しにギリギリ届く計算だ。ただ規制委員会の審査が長引いていることに加え、再稼働に反対している地元自治体は多く、原発が稼働する見通しは立っていない。
・こうした状況を受け、電力業界は今回の見直しで、原発の新増設や建て替え(リプレース)の記述が盛り込まれるのでは、と期待していた。というのも、約1年前に関係者の一部から「そろそろリプレースの話をしてもいいんじゃないか」との声があったからだ。 しかし安倍政権が失速し、国民に不人気な政策の原発に触れたくないとの思惑が働き、トーンダウンした。有識者会議の資料において、原発に関する記述は「依存度低減、安全最優先の再稼働」と前回とほとんど変わらず、「新増設」の文字はなかった。世耕弘成経済産業相も「計画の骨格を変える時期ではない」と述べた。
▽エネ基もパリ協定も画餅
・「初めから結論を与えられて、会合を開くのは本末転倒」。有識者会議の委員を務める橘川武郎・東京理科大学大学院教授はそう批判した。エネ基を前提に政策を進めるならば、「原発の再稼働は滞っているため、依存度は思い切り下げながらリプレースの議論をしないといけない。エネ基を見直すべきで、政府は逃げている」と手厳しい。
・日本は温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」で、50年までに温室効果ガスを13年比で80%削減する計画を示した。CO2削減に貢献する再生可能エネルギーは高コストとインフラ整備の遅れが課題。手っ取り早く大幅にCO2を削減できるのは、いまのところ原発しかない。原発の新増設、リプレースには時間がかかるとされ、橘川教授は「だからこそ今回の見直しで議論しないと、原発は終わる」と強調する。
・原発と正面から向き合わないまま、議論を先送りにすればエネ基は画餅に帰す上、国際社会との約束も掛け声倒れに終わる。
http://diamond.jp/articles/-/139357

第四に、8月26日付けロイター「「トモダチ作戦」157人が米国で東電を提訴 50億ドルの基金の創設や損害賠償を要求」を紹介しよう。
・東京電力ホールディングスは24日、2011年3月の福島第1原発事故発生後の米軍による被災地支援活動、いわゆる「トモダチ作戦」に従事したという米国居住の157人が、放射能被ばくによる被害を受けたとして、50億ドル(約5450億円)の基金の創設や損害賠償を求めて米国の裁判所に提訴したと発表した。
・東電によると、157人は今月18日、米カリフォルニア州南部地区連邦裁判所で提訴。損害賠償の請求金額は訴状には記載されていないという。 同社は、2013年3月15日付で米国で同種の提訴(24日時点の原告数239人)を受けており、今回の原告は同訴訟との併合を求めているという。
・提訴に対し東電は、「原告の主張、請求内容を精査して適切に対処する」としている。業績への影響は不明だという。
http://jp.reuters.com/article/tepco-idJPKCN1B40NP

第一の記事で、水野解説委員の発言で 『原発事故の場合は、予測できた可能性を限定的に捉えるべきではないという意見もあります。なぜなら原発でいったん重大事故が起きれば、取り返しのつかない影響が出ることは、福島以前でもチェルノブイリ事故などを見れば明らかなわけで、重大事故が万が一にも起きないよう対策をとるのは電力会社として当然だというわけです』、というのは「限定的に」ではなく「幅広に」の誤りでないと、辻褄が合わないように思う。その後の 『「電力会社の中には公共の機関の予測を元に津波対策をとって難を逃れたところもあります。 茨城県にある原電・日本原子力発電の東海第二原発は、震災当時津波で非常用発電機1台が水没しましたが、残る2台は、発電機のポンプを囲う壁のかさ上げ工事が終わっていて被災を免れ、事なきを得ました。なぜかさ上げ工事をしたのか。それは茨城県が2007年に県の沿岸の津波想定を見直したのを受けて独自に津波の予測をし、それまでの想定を上回ることがわかったからでした。 原電は茨城県の想定は最新の知見であり、当然対策に生かすべきだと判断したと言います。東電と比べて規模が小さく、現場の声が通りやすいという違いはあるかもしれませんが、自然災害のリスクに対する感度に大きな違いがありました。 リスクに対する感度が低い会社に原発を運転する資格はないと思います』、と正論ではあるが、NHKの解説委員としては、珍しく思い切った発言をしたのには驚かされた。
第二の記事で、 『読売」の記事で間違っているのは、「年間積算線量が100ミリシーベルトまでなら健康への影響は明確に検出できない」と書いている箇所だ。これは生涯にわたる累積線量が100mSvまではガンによる死者数が明確ではないということを勘違いして書いたのだろう』、また日経新聞でも 『年間1~20mSvと生涯累積100mSvの時間(期間)を混同』、さらに読売は社説でも誤った認識を記載しているとは驚きだ。読売の場合は、確信犯ではないかとすら思えてくる。今後は、この記事の正しい解説を座右の銘として騙されないようにしたい。
第三の記事で、 『電力業界は今回の見直しで、原発の新増設や建て替え(リプレース)の記述が盛り込まれるのでは、と期待していた・・・安倍政権が失速し、国民に不人気な政策の原発に触れたくないとの思惑が働き、トーンダウンした』、と安倍政権の失速は思わぬところに余波を広げているようだ。私としては大歓迎だ。
第四の記事で、「トモダチ作戦」に参加した兵士が 『放射能被ばくによる被害を受けたとして、50億ドル(約5450億円)の基金の創設や損害賠償を求めて米国の裁判所に提訴』、それ以前の分と合わせ396人が原告となるようだ。確かに、津波被害の救済に出動したら、放射能被ばくによる被害を受けた以上、当然の提訴だ。東電にまた負担が増えることになりそうだ。
タグ:原発問題 (その8)(原発事故の刑事責任は、放射線被曝の誤解「年間100ミリシーベルトまで安全」は本当か、原発政策の議論なしに進む「エネルギー基本計画」見直し会議の画餅、「トモダチ作戦」157人が米国で東電を提訴) NHK時論公論 原発事故の刑事責任は しかしあれだけの被害を出して故郷を奪っておきながら、誰も「おとがめなし」でいいのか。 責任の所在をはっきりさせてほしいというのが、福島の人たちの思いだと思います。 というのもこの裁判で被害者とされているのは数十人ですが、実際の被害はこれにとどまらないからです 震災関連死も事故の影響もあって2086人と突出 検察審査会が再び起訴すべきと議決し、強制起訴となりました 強制起訴された裁判は9件 有罪は一部 特に大規模な事故では、明石歩道橋事故の強制起訴が、「罪に問うことはできない」として裁判を打ち切る「免訴」。JR西日本の事故は「無罪」が確定 原発事故の場合は、予測できた可能性を限定的に捉えるべきではないという意見もあります。なぜなら原発でいったん重大事故が起きれば、取り返しのつかない影響が出ることは、福島以前でもチェルノブイリ事故などを見れば明らかなわけで、重大事故が万が一にも起きないよう対策をとるのは電力会社として当然だというわけです かに安全神話はありましたが、電力会社の中には公共の機関の予測を元に津波対策をとって難を逃れたところもあります。 茨城県にある原電・日本原子力発電の東海第二原発は、震災当時津波で非常用発電機1台が水没しましたが、残る2台は、発電機のポンプを囲う壁のかさ上げ工事が終わっていて被災を免れ、事なきを得ました。 なぜかさ上げ工事をしたのか。それは茨城県が2007年に県の沿岸の津波想定を見直したのを受けて独自に津波の予測をし、それまでの想定を上回ることがわかったからでした 原電は茨城県の想定は最新の知見であり、当然対策に生かすべきだと判断したと言います。東電と比べて規模が小さく、現場の声が通りやすいという違いはあるかもしれませんが、自然災害のリスクに対する感度に大きな違いがありました。 リスクに対する感度が低い会社に原発を運転する資格はないと思います 坪井賢一 ダイヤモンド・オンライン 放射線被曝の誤解、「年間100ミリシーベルトまで安全」は本当か 放射線被曝の「線量限度」について、正しい認識の下で報道しているとは思えないメディアも散見 1mSvは平時の基準、20mSvは短期的な上限 ICRPの「2007年勧告」 放射線量の限度は?キーとなる「3つの数字」 累積100mSv 年間20mSv(毎時3.8μSv 年間1mSv 「読売」の記事で間違っているのは、「年間積算線量が100ミリシーベルトまでなら健康への影響は明確に検出できない」と書いている箇所だ。これは生涯にわたる累積線量が100mSvまではガンによる死者数が明確ではないということを勘違いして書いたのだろう 日本経済新聞 年間1~20mSvと生涯累積100mSvの時間(期間)を混同 「年間」と「累積」は違う 100mSvをめぐるメディアの誤解 ICRP「2007年勧告」のポイント 線量限度」を表わす数字の意味を きちんと把握しておくべき 原発政策の議論なしに進む「エネルギー基本計画」見直し会議の画餅 経済産業省の有識者会議でエネルギー基本計画(エネ基)の見直し議論 電力業界は今回の見直しで、原発の新増設や建て替え(リプレース)の記述が盛り込まれるのでは、と期待していた しかし安倍政権が失速し、国民に不人気な政策の原発に触れたくないとの思惑が働き、トーンダウンした エネ基もパリ協定も画餅 ロイター 「「トモダチ作戦」157人が米国で東電を提訴 50億ドルの基金の創設や損害賠償を要求」 「トモダチ作戦」に従事したという米国居住の157人が、放射能被ばくによる被害を受けたとして、50億ドル(約5450億円)の基金の創設や損害賠償を求めて米国の裁判所に提訴 2013年3月15日付で米国で同種の提訴(24日時点の原告数239人)を受けており、今回の原告は同訴訟との併合を求めているという
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