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漁業(その1)(日経ビジネスオンライン特集:独り負け ニッポン漁業シリーズなどより) [社会]

今日は、漁業(その1)(日経ビジネスオンライン特集:独り負け ニッポン漁業シリーズなどより) を取上げよう。

先ずは、8月28日付け日経ビジネスオンライン「漁業は世界の成長産業、日本は宝の持ち腐れ 改革先送りで貧しくなる食卓」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・今年も本格的なサンマ漁のシーズンに入りました。日本の秋に欠かせない風物詩ですが、水産庁によると、今年の漁獲量は過去最低だった前年を下回る見通しです。不漁となるのは3年連続で、資源量の減少などが理由に挙げられています。 寿司ネタの代表であるマグロ。資源の減少が懸念される太平洋クロマグロは、北海道や宮城県など25道府県で幼魚(30キログラム未満)の漁獲枠が約15%削減になりました。前漁期(昨年7月~6月)の沿岸での漁獲枠を超過したためです。
・なじみの魚に関してこんなニュースが続いています。どんどん魚が減って漁業が縮小しているような印象も受けますが、実は世界的に見ると漁業は成長産業なのです。なぜ日本では暗い話題が多いのでしょうか。日経ビジネスは8月28日号で「独り負けニッポン漁業」と題した特集を掲載し、その真相を探りました。日経ビジネスオンラインでは連動企画として、様々な角度から日本の漁業を取り上げます。
▽居酒屋でひっそりと姿を消す魚メニュー
・「居酒屋のほっけが小さくなったなあ」 「スーパーのサンマが高いのよ」 こんな会話をしたことはありませんか。今後、別の魚でも似たようなことが増えるかもしれません。すでに魚介類を看板メニューにする外食産業の関係者は日々頭を悩ませています。 海鮮居酒屋チェーン「さくら水産」のランチタイムの一番人気、日替わり定食。税込み500円のワンコインランチからひっそりと消えたメニューがあります。「鮭の塩こうじ焼き」「しまほっけの塩焼き」……。漁獲量の減少や輸入価格の上昇でワンコインでは採算が合わなくなってきたからです。
・スーパーでも事情は同じ。仕入れ価格が上がり、売り場に並べにくい魚が増えているという証言もあります。お店としては当然、いろんな商品を提供できる方がいいのですが、姿を消す魚が出てきています。 1人当たりの肉の消費が増える一方、魚介類は摂取量の減少が続いています。農林水産省の統計によると、漁業・養殖業の国内生産量はピーク時の4割以下に落ち込んでいます。指摘されてきた魚離れには歯止めがかかっていません。 
・グラフからは日本の漁業・養殖業の国内生産がピーク時の4割以下にまで落ち込んだことが分かります。日本の漁業が衰退した理由の一つとしてあげられるのが、いわゆる200カイリ問題です。1977年頃、それぞれの国の海岸から200カイリ(約370㎞)は、外国船が自由に漁ができなくなるというルールができました。これにより世界の好漁場を失い、大きな打撃を受けたわけです。
・日本の漁業は右肩下がりが続きますが、世界的に見れば漁業は成長産業なのです。次のグラフを見てください。 世界の漁業生産量は伸び続けています。2000年におよそ1.3億トンだった生産量は、2025年には2億トンに迫る水準になると予想されています。 主な国・地域別に今後の成長予想を見てみるとどうなるでしょうか。2013~15年平均と2025年(予想)を比較すると、漁獲量を急速に増やしている中国のほかインド、ノルウェーなどが軒並み大きく成長する一方、日本はマイナスです。もともと漁業の規模が大きかったことを差し引いても、成長産業の中で独り負け状態になっているのは寂しい限りです。
・苦境に陥っているのは、海外勢の進出による漁獲競争の激化や地球温暖化による影響、日本人の魚離れなど様々な要因が指摘されています。しかし、時代の先を見越した改革に踏み出せなかったことも影響しているのです。
▽漁船1隻の規模、ノルウェーの10分の1以下
・わかりやすい例が漁船でしょうか。2016年度の水産白書によると、日本には約15万隻の漁船がありますが、平均トン数は4トン。韓国に比べると半分以下、ノルウェーに比べると10分の1以下です。もちろん、遠くに出かける漁業が多い国と日本のように近場に漁場がある国とを単純比較はできませんが、漁獲に必要な「設備投資」が進んでいるとは言いにくいでしょう。
・それは所有船の船齢にも現れています。水産庁の調べでは 日本の漁船は約6割が20年以上となります。今回の連載で8月31日公開を予定している「ジム付き漁船、ノルウェーの贅沢な漁師たち」で紹介するように、世界では最新鋭の漁船を投入して競争力を高める動きがありますが、日本は事業者当たりの規模の小さいのでなかなか大型投資に踏み切れません。 すでに漁業就業者の4割近くが65歳以上になっています。収入も減少傾向にあり、先細りが続いています。
▽世界6位の海洋大国なのに……
・国土の四方を海に囲まれ、領海および排他的経済水域を合わせた面積は世界第6位で、豊富な漁場を持つ「海洋大国」の日本。世界のトレンドが魚食に向かっているのは本来、大きなチャンスのはずです。しかし、成長市場を取り込めていないどころか、自国の需要を賄うことにすら四苦八苦しているのが現実です。  ここまでニッポン漁業の現状と課題を簡単に説明してきましたが、「外国勢の台頭で国際競争力が低下している」 「改革の必要性が指摘されつつも先送りでゆるやかな衰退が続く」というのは、ほかの産業でも共通する点があるのではないでしょうか。
・明日からは、様々な角度で日本の漁業の課題、改革に向かう動きなどを取り上げていきます。食卓で刺身をつまみながら、あるいは旬のサンマを楽しみながら、みなさんが関係する業界でも生かせることがないか考えながら読んでいただければと思います。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400157/082400001/?P=1

次に、8月29日付け「ニシン枯渇から学ばぬ日本の漁業 なぜ競争と乱獲が繰り返されるのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・日本漁業の歴史の中で獲れなくなった魚の代表例として思い浮かぶのがニシンだ。ニシン漁は江戸期から戦後にかけて北海道を中心に一大産業となり、多くのニシン長者を産んだ。身は昆布巻きや燻製として、卵は数の子として広く親しまれてきた。しかし、現在の漁獲量は往時の1%にも満たず、輸入品が台頭している。
・ニシンが枯渇した背景には、質より量を追い求める漁の形態や、資源の回復力を過信して規制を設けずに漁を続けたことがある。資源減少が近年話題となっているクロマグロなどと通じる問題がある。 北海道沖の日本海に浮かぶ焼尻島。クルマで走れば一周20分程度の小島では、漁業が約200人の住民の重要な生活の糧となっている。漁港を見下ろす高台に、古びた木造建築の家が残る。黒檀や檜をふんだんに使い、蔵も備えた延べ床面積569平方メートルの広大なつくり。建造当時は瀟洒な豪邸だっただろうその建物は、北海道の長者番付十傑にも入った小納家の旧邸だ。小納家の豊かな財を築き上げたのは、島近海に来遊するニシンだった。
・文化財として邸宅を保有する羽幌町によると、小納家は明治17年ごろに石川県から焼尻に入植した。当初は雑貨店や郵便局を営んでいたが、ニシン漁の権利を譲り受けたことで一気にその財を膨らませた。 焼尻は元々、ヤンゲシリと呼ばれるアイヌの居住地だった。江戸時代中期から松前藩の商人がアイヌの住民を雇ってニシン漁を本格的に始めた。幕末期には蝦夷地への定住が解禁されたことで出稼ぎ漁師が急増した。
▽マグロに通じるニシンの問題
・ニシン漁は明治20~30年代に最盛期を迎える。人口は2000人を超え、島全体で2万トン以上のニシンが水揚げされた。小納家のニシン御殿が建ったのもこの頃だ。しかし、以降は不漁と小幅な回復を繰り返しながら徐々にニシン漁は衰退。昭和30年代には、ニシンの産卵・放精によって海が白く染まる群来(くき)は全く見られなくなった。小納家もこの時期にニシン漁から撤退。昭和50年代に羽幌町に寄贈されるまで、ニシン御殿は無人の廃墟となった。
・焼尻のマグロ漁師、高松幸彦さんは、北海道のマグロ漁師約70人が参加する「持続的なマグロ漁を考える会」の代表だ。減少していくマグロ資源に危機感を覚え、2014年に会を立ち上げた。高松さんは「日本漁業の本質的な問題はニシン漁の頃から変わっていない」と話す。
・ニシン漁の歴史に詳しい小樽市総合博物館の石川直章館長によると、北海道全体のニシンの年間漁獲量はピーク時の100万トン弱から4000トン程度まで減っている。 ニシン漁が衰退した理由として有力な説は2つ。幕末期に「建て網」という2隻の船で魚群を取り囲む効率的な漁法が開発され、乱獲が一気に進んだこと。もう1つは水温の変化により、産卵行動が阻害されたことだ。石川館長は特に乱獲の影響が大きかったという考えだ。「ニシンが減少し始めた時期は、海水温の変化はまだ大きくなかった」からだ。 乱獲を止められなかった当時の背景は、今の日本漁業の問題と通底するものが多く見つかる。
▽実は買い叩きされていたニシン
・まず1つは漁師が魚価を上げる工夫をしてこなかったということだ。実は当時のニシンの9割以上は綿や藍などの肥料として用いられ、利益の大きい食用はごくわずかだった。しかし、当時の漁師は「量を取ればいいとしか考えなかった」(石川館長)。近年、養殖用の魚粉として利用され、資源が急減しているイワシなどに通じる問題だ。
・そして、焼畑農業のように続いた漁獲。漁師は魚群を求め北上を続けた。現・江差町周辺の道南地区の漁場は江戸時代にはすでに枯渇。最後には礼文島、利尻島まで行き着く。「資源は減少と回復を繰り返す。漁師は魚の来る来ないは自分たちではコントロールできないことだと考え、漁獲規制には及び腰だった」(石川館長)。漁業者の目先の生活保護を優先し、規制の議論にしばしば疑問を投げかける日本漁業の現代の状況に似る。
・最後に、マグロ漁師の高松さんが最も問題視するのは、1980年代のことだ。この頃一時期だけニシンの来遊があった。資源を回復させるチャンスだった可能性があるが、「目の前にある魚を見過ごせないで、また獲り尽くしてしまった。失敗に学ぶ姿勢が日本の漁師にはない」。 漁業に詳しい東京財団の小松正之上席研究員は「日本の漁業は制度もメンタリティーも江戸時代から変わらない」と厳しく批判する。日本の漁業者の9割は小規模な沿岸漁業者。各漁村の漁師は浜の環境を自ら守ることと引き換えに独占的な漁獲が許されてきた歴史があり、その自主的管理の文化は漁業協同組合に形を変えて今も生きている。
・しかし、回遊範囲が広い魚種に関しては漁業者組織同士の漁獲争いが起こり、自主管理はしばしば破綻する。昨季にクロマグロを巡って不正操業が相次ぎ発覚し、国際会議で妥結した漁獲枠を超過したのもその典型例といえる。 ここまで朽ちた日本漁業を変えるのは誰か。漁業者か、漁協か、水産庁か。いずれにせよ、過去に学ぶ姿勢がなくては、その責は担えない。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400157/082400002/?P=1

第三に、9月5日付け「米国研究機関が批判する水産庁の「科学」 日本は目先の利益の保護を優先してきた」を紹介しよう(▽は小見出し、――は聞き手の質問、+は回答内の段落)。
・9月1日、韓国・釜山で開かれていた地域漁業管理機関「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の北小委員会(NC)が閉会した。日米など10カ国・地域が太平洋クロマグロの資源管理などについて話し合う国際会議だ。クロマグロは高級寿司ネタの本マグロとして親しまれているが、絶滅危惧種にも指定されている。  太平洋クロマグロの2014年時点の資源量は、漁獲がなかったと仮定した初期資源量のわずか2.6%(1万7000トン)と推定されている。これまでWCPFCでは「2024年までに4万1000トンまで資源量を回復」とする暫定目標で合意。日本もこの目標を基に漁獲枠制度を始めていた。しかし、昨年末にWCPFCは長期目標を「2034年までに13万トンまで回復」とするようNCに要請した。
・資源保護の目標を大きく引き上げるWCPFCの要請に日本の水産庁は当初、「現在の規制でも十分」と反発。その後、態度を軟化させたものの、8月には暫定目標の達成確率が65%を超えた場合は漁獲枠を増やす検討をすべきだと提案した。 今回のNCの結論はこうだ。長期目標は受け入れられ、増枠を検討するために必要な確率は75%に引き上げられた。NCで結論を出す際は全会一致がルール。日本も合意をしたが、思惑とは違う方向に議論が進んだ。
・水産庁の長谷成人長官は「日本は科学的議論を主導している」と強調するが、同庁の主張に疑問符をつける声も多い。NCの開始直前に来日した、米国のNGO(非政府組織)、ピュー財団のジェイミー・ギボン氏に、水産庁の「科学」への評価を聞いた。
――今回の来日の目的は。
・ジェイミー・ギボン氏(以下、ギボン):ピュー財団は米ワシントン拠点のNGOです。米石油大手、スノコの創業者一族が設立しました。保険福祉政策や財政など様々な問題について研究しています。私は環境保護の研究チームに所属しており、課題はマグロの乱獲を抑止して資源を回復させることです。この課題は自然保護という観点だけでなく、漁業者や海洋資源を生活の糧とするすべての人の持続的な営みのために重要です。  釜山での会議の前に来日したのは、日本が発表した提案などについて、前もって関係機関と意見をすり合わせることが必要だと感じたからです。
――日本の提案とは、水産庁が8月に発表したものですね。「2024年までに4万1000トンまで回復」とする従来の暫定目標について、達成の可能性が60%を下回ると漁獲規制を厳しくする。逆に65%を超えれば漁獲枠を増やす。この提案について、評価を聞かせてください。
▽期限設定が曖昧な日本提案
・ギボン:私が最も重要だと考えているのは「2034年までに13万トンまで回復」という長期目標です。WCPFCが昨年末にこの長期目標を達成する方法をNCで討議するよう要請を出しました。この長期目標は種の保存のためだけではなく、漁業者の営み、漁業という産業を持続していくためにも必要なことです。 日本は8月の提案で、「13万トンまで回復」という点には同意しています。これは非常に嬉しいニュースです。これまでは断固反対の姿勢でしたから。しかし、残念なことに、それをいつまで達成するかについては曖昧な部分を残しています。状況を見て期限を延期する可能性も示唆しています。一方、米国は2034年という期限を明記して提案しています。(編集部注:NCでは「2034年までに13万トンまで回復」の目標について日本を含め合意した)
▽65%で漁業者の生活は賭けられない
――日本が今回提案した60%、65%の確率で規制を変える枠組みで、「2034年までに13万トンまで回復」を達成することは可能でしょうか。
・ギボン:60%も65%も資源を回復させるためには低すぎる数字です。65%の成功とは35%、つまり3分の1の確率で失敗するということです。漁業者の生活を賭けるには3分の1という失敗確率は高すぎるでしょう。下手に漁獲枠を増やせば、むしろ将来の漁業者の生活を脅かすことになります。そもそもクロマグロの資源評価は非常に不確実性が高い。余裕を持って数値設定をしなければいけません。
+私たちは、漁獲枠を増やすことを検討するには少なくとも75%の確率が必要だと考えます。他国もこのレベルの数字が妥当だと考えていると思います。(編集部注:NCでは漁獲枠を増やすことを検討するために必要な確率を75%とすることで合意した
――日本は資源調査船のデータの蓄積は世界有数のはずです。なぜ科学的議論において日本の意見は他国と異なるのか。意見をお聞かせください。
・ギボン:日本は米国やEU(欧州連合)とともに北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)に参加しています。ISCの資源評価は漁獲規制のベースになります。日本はISCに多くの科学的データを提供してくれています。一方で、日本は漁業という産業の目先の利益を保護することを優先してきたのではないかと思います。  しかし、クロマグロの資源量がここまで危機的水準になったため、このままでは保護するべき漁業が潰れてしまうことに日本も気づき始めていると思います。
▽漁業者の管理体制に違い
――漁獲規制に対して漁業者が強く反対すると、日本の水産庁は規制緩和にあっさり応じてしまう傾向があったように思えます。米国では、どうやって漁獲規制に参加するよう漁業者を説得しているのでしょうか。
・ギボン:米国の漁業法は、経営規模の大小に関わらず、すべての漁業者を対象にしています。違反者には是正勧告が下り、悪質な場合には漁業権の剥奪や懲役刑もあり得ます。
――日本では、大まかに分類すれば、遠洋を大臣許可漁業、沖合を知事許可漁業、沿岸を漁業協同組合が漁業権を管理する漁業と、複雑に管理制度が分かれています。日米の大きな違いですね。漁業者に法を守らせるためにはどのようなシステムがあるのでしょうか。
・ギボン:主な魚種はほぼCDS(漁獲証明制度)が導入されています。漁獲から、水揚げ、取引とすべてのステップで電子的に記録を残し、不正操業による魚でないことを証明します。証明のない魚は水揚げも売買もできません。漁業者はスマートフォンのアプリを使って漁獲データを報告できるので、漁業者に設備負担は生じません。CDSは漁業者を管理するためだけのものではなく、法を遵守する漁業者の利益を守るシステムです。
・ギボン氏は9月1日、WCPFC閉会直後に以下のコメントを日経ビジネスに寄せた。 今回の合意は、太平洋クロマグロの資源回復への大きな前進です。クロマグロの生態系だけでなく、漁業者の生活を改善することにもつながります。一方、昨季日本でも起きたような漁獲枠の超過が繰り返された場合、今回の合意の意義が薄まり、漁業の健全で持続可能な未来が脅かされることになります。
・今後、水産庁には、不正操業に対する罰則や警戒の強化、太平洋クロマグロについてCDSの導入を早期にすすめることを期待しています。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400157/082400007/?P=1

第四に、8月30日付け「記者の眼:寺岡 篤志」「科学データを「漁師の肌感覚」で否定する水産庁」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・日経ビジネスは8月28日号に「ここまで朽ちた 独り負けニッポン漁業」と題した特集を掲載した。EEZ(排他的経済水域)と領海で世界6位の面積という豊かな海洋資源、食の安全・安心というブランド、世界有数の漁業大国としての歴史、そして世界的に膨らむ魚食ニーズ――。これだけ経営環境が揃っているのに、日本の漁業は衰退してきた。しかも、世界的には漁業は成長産業の1つで、日本だけが独り負けの状況だ。その問題の詳細な分析は特集記事をお読みいただきたいが、その一端として、多くの漁師に聞き取りをしていく中で記者が感じた違和感を本稿では紹介したい。
・7月末、サンマ漁の本格化を前に、記者は水揚げ地の釧路港(北海道釧路市)を訪れた。港には20トン級の中型船が8月10日の解禁日を前に居並んでいた。集魚灯で秋刀魚を集める「棒受け網漁」向けの船で、サンマ漁の主力となる。
・しかし、先立って7月8日に漁期が始まっているはずの10トン未満の小型船が見当たらない。潮流に合わせて網を漂わせて魚がかかるのを待つ「流し網漁」の船だ。 「流し網船の登録は70隻ほどですが、9割が休業状態です」。こう話すのは釧路市漁業協同組合で市場運営を担当している山田将史さん。「漁に出ても走り回ってばっかりで、魚群探知機には(魚影が)映らない。漁に出ても自分たちが船の上で食べる分しか獲れない。燃料代の分損するだけだから、ほとんどみんな家に引きこもっています」 「資源予測なんて信じない」
・水産庁の推計によると、サンマの来遊量は過去最低の昨年をさらに下回る見通しで、棒受け網漁の苦戦も必至だ。水産庁は道東沖の公海でサンマ漁をしている台湾、中国などと計8カ国・地域で漁獲規制の枠組みをつくろうとしている。調査船や漁船の漁獲量を元に資源量を推測し、持続的に獲れる最大量を合計56万トンに定めると今年合意した。しかし、漁師の一部からは冷めた声も聞かれる。
・「資源の予測なんて俺は信じねえよ。魚が獲れる獲れないなんてのは、俺らの腕次第の話だよ」。釧路のあるサンマ漁師の言葉だ。 この言葉を聞いたとき、毒舌で売るあるタレントが、インタビューで禁煙・分煙の推進に関して寄せたコメントを思い出した。ヘビースモーカーのそのタレントの主張は「俺はこれだけタバコを吸っても癌になってない。だから禁煙・分煙なんて意味がない」という趣旨だった。自身の経験だけを証左に、それもこれからもずっと癌にならないとも限らないのに、データを積み重ねてきた科学的考察を否定するという蒙昧な発言に甚だ呆れた。サンマ漁師の主張もこのタレントと大差がない。
・この漁師一人に限った話ではない。特集に絡んで国内の先端的なプロジジェクトに参加している漁師を多く取材したが、魚が獲れなくなったことへの科学的分析に対して否定的な意見を持っている人は驚くほどたくさんいた。同じプロジェクトチーム内の研究者と漁師の間で意見が異なることも珍しくない。
・漁師は「乱獲ではない」と主張し、自らに帰責する資源減少を認めないことも多い。その主張の骨子は「資源が減ったと言われるようになった後も、漁獲量が増えた時期がある」ということだった。つまり、温暖化などによる海水温変化で魚の生息域が変わっただけで「魚はいるところにはいる」というのだ。 サンマのように広範囲に回遊する魚種の資源予測は「特に不確実性が高い」(水産庁幹部)。「いるところにはいる」というのも間違いではないかもしれない。しかし、例外的事象をある程度切り落として、不確実な事象に一定の法則性を見出すのが自然科学ではないだろうか。
▽肌感覚を国際会議に持ち出す水産庁
・何も漁師の方々に説教をしたいというわけではない。問題はこうした漁師の科学否定の主張を国際会議の場に持ち出す水産庁の姿勢だと記者は考える。 今春、北太平洋まぐろ類国際科学委員会が都内で開いた「太平洋クロマグロに関するステークホルダー会合」。国内外の漁業関係者が集まり、絶滅危惧種に指定されたクロマグロの漁獲規制について意見を交換する場だった。クロマグロは寿司ネタの本まぐろとして人気が高いが、漁獲量が急激に落ち込んでいる。
・会合に参加する内外の漁業者に対し、水産庁は国内漁業者の声をまとめた資料を配布した。そこには「漁師の肌感覚」として「既に資源は回復しており、漁獲枠を一刻も早く増枠すべき」という主張を掲載していた。 国際会議で合意に至った科学的知見を「肌感覚」で否定するのは如何なものか。漁業者の自由発言という形の主張ならまだしも、水産庁が主導すべき主張ではない。この主張を押し通したいのならば、「肌感覚」を訴える漁師の漁獲データをまとめ、科学的議論の土台に載せるべきだ。
・繰り返すが、魚の資源量調査は不確実性が高い。極論を言えば、本当にクロマグロが減っているかどうかなんて裏付けのしようがない。しかし、国際会議にそんな「悪魔の証明」を持ち出しても意味がない。利害が対立する漁業者同士、或いは国同士で協調関係を結んで持続的に漁業を続けるために、科学という共通言語が必要なのだ。今後サンマの漁獲枠規制を成就させるには、水産庁のこうした姿勢はきっと弊害になる。
・先ほどのタバコの例で言えば、厚生労働省が「タバコは吸っても癌になりません。だって吸っても癌にならない人がここにいるじゃないですか」と国内外に喧伝するようなものだ。当然、日本は保健政策における国際的発言力を失うだろう。 科学否定は数ある問題のごく一端に過ぎない。日本漁業の復活には、気の遠くなる程多くのハードルを乗り越えていかねばならない。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/082900515/?P=1 

第一の記事にの2頁にある「2025年までの主要国・地域の漁業生産高の成長率」のグラフで、世界平均は20%近い増加をしているのに、日本だけが20%近く減少しているのは、予測とはいえ、ショッキングだ。  『国土の四方を海に囲まれ、領海および排他的経済水域を合わせた面積は世界第6位で、豊富な漁場を持つ「海洋大国」の日本』、というポテンシャルの高さがあるながら、 『「外国勢の台頭で国際競争力が低下している」 「改革の必要性が指摘されつつも先送りでゆるやかな衰退が続く」というのは、ほかの産業でも共通する点があるのではないでしょうか』、というのは、その通りなのかも知れない。
第二の記事で、 『北海道全体のニシンの年間漁獲量はピーク時の100万トン弱から4000トン程度まで減っている』、 乱獲した 『当時のニシンの9割以上は綿や藍などの肥料として用いられ、利益の大きい食用はごくわずかだった。しかし、当時の漁師は「量を取ればいいとしか考えなかった」(石川館長)』、というのは、残念ながらまさに「身から出たサビ」という他なさそうだ。
第三の記事で、 記者が 『漁獲規制に対して漁業者が強く反対すると、日本の水産庁は規制緩和にあっさり応じてしまう傾向があったように思えます』、 『遠洋を大臣許可漁業、沖合を知事許可漁業、沿岸を漁業協同組合が漁業権を管理する漁業と、複雑に管理制度が分かれています』、と指摘しているが、水産庁にかなり遠慮し表現になっているが、大いに問題がありそうだ。
第四の記事で、 『「太平洋クロマグロに関するステークホルダー会合」・・・会合に参加する内外の漁業者に対し、水産庁は国内漁業者の声をまとめた資料を配布した。そこには「漁師の肌感覚」として「既に資源は回復しており、漁獲枠を一刻も早く増枠すべき」という主張を掲載していた』、というのは我が目を疑った。国内漁業者の顔を一応立てた形を取ったアリバイ作りのつもりなのかも知れないが、欧米の参加者からは失笑を買ったのではなかろうか。
いずれにしても、今回の特集は、水産庁や国内漁業者への遠慮のためか、「振りかぶった割には」問題点の指摘が中途半端な印象を受けたのは、残念であった。それでも、問題の一端をお知らせする意味はあるとして、紹介した次第である。
タグ:漁業 日経ビジネスオンライン サンマ漁 (その1)(日経ビジネスオンライン特集:独り負け ニッポン漁業シリーズなどより) 漁業は世界の成長産業、日本は宝の持ち腐れ 改革先送りで貧しくなる食卓 不漁となるのは3年連続 居酒屋でひっそりと姿を消す魚メニュー スーパーでも事情は同じ 漁業・養殖業の国内生産量はピーク時の4割以下に落ち込んでいます 2013~15年平均と2025年(予想)を比較すると、漁獲量を急速に増やしている中国のほかインド、ノルウェーなどが軒並み大きく成長する一方、日本はマイナスです 国土の四方を海に囲まれ、領海および排他的経済水域を合わせた面積は世界第6位で、豊富な漁場を持つ「海洋大国」の日本 ニシン枯渇から学ばぬ日本の漁業 なぜ競争と乱獲が繰り返されるのか ニシン漁は江戸期から戦後にかけて北海道を中心に一大産業となり、多くのニシン長者を産んだ 北海道全体のニシンの年間漁獲量はピーク時の100万トン弱から4000トン程度まで減っている 乱獲が一気に進んだこと 実は当時のニシンの9割以上は綿や藍などの肥料として用いられ、利益の大きい食用はごくわずかだった 当時の漁師は「量を取ればいいとしか考えなかった」(石川館長)。 目の前にある魚を見過ごせないで、また獲り尽くしてしまった。失敗に学ぶ姿勢が日本の漁師にはない 日本の漁業は制度もメンタリティーも江戸時代から変わらない」と厳しく批判する。日本の漁業者の9割は小規模な沿岸漁業者。各漁村の漁師は浜の環境を自ら守ることと引き換えに独占的な漁獲が許されてきた歴史があり、その自主的管理の文化は漁業協同組合に形を変えて今も生きている 米国研究機関が批判する水産庁の「科学」 日本は目先の利益の保護を優先してきた 太平洋クロマグロの資源管理 WCPFCは長期目標を「2034年までに13万トンまで回復」とするようNCに要請 日本の水産庁は当初、「現在の規制でも十分」と反発。その後、態度を軟化させたものの、8月には暫定目標の達成確率が65%を超えた場合は漁獲枠を増やす検討をすべきだと提案 米国のNGO(非政府組織)、ピュー財団 期限設定が曖昧な日本提案 そもそもクロマグロの資源評価は非常に不確実性が高い。余裕を持って数値設定をしなければいけません 日本は漁業という産業の目先の利益を保護することを優先してきたのではないかと思います 漁獲規制に対して漁業者が強く反対すると、日本の水産庁は規制緩和にあっさり応じてしまう傾向があったように思えます 遠洋を大臣許可漁業、沖合を知事許可漁業、沿岸を漁業協同組合が漁業権を管理する漁業と、複雑に管理制度が分かれています 記者の眼:寺岡 篤志 科学データを「漁師の肌感覚」で否定する水産庁 流し網船の登録は70隻ほどですが、9割が休業状態 サンマの来遊量は過去最低の昨年をさらに下回る見通し 資源の予測なんて俺は信じねえよ。魚が獲れる獲れないなんてのは、俺らの腕次第の話だよ 漁師は「乱獲ではない」と主張し、自らに帰責する資源減少を認めないことも多い 魚はいるところにはいる サンマのように広範囲に回遊する魚種の資源予測は「特に不確実性が高い」 問題はこうした漁師の科学否定の主張を国際会議の場に持ち出す水産庁の姿勢 太平洋クロマグロに関するステークホルダー会合 会合に参加する内外の漁業者に対し、水産庁は国内漁業者の声をまとめた資料を配布 そこには「漁師の肌感覚」として「既に資源は回復しており、漁獲枠を一刻も早く増枠すべき」という主張を掲載 利害が対立する漁業者同士、或いは国同士で協調関係を結んで持続的に漁業を続けるために、科学という共通言語が必要なのだ 今後サンマの漁獲枠規制を成就させるには、水産庁のこうした姿勢はきっと弊害になる
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