ネットビジネス(その3)(通販急伸のヤフー ステマ疑惑への「言い分」、質屋アプリ「CASH」再開の理由、メルカリ「夏休みの宿題」出品に見るベンチャー育成の問題点、「VALU騒動」で問われるベンチャー企業のモラル) [企業経営]
ネットビジネスについては、7月16日に取上げたが、今日は、(その3)(通販急伸のヤフー ステマ疑惑への「言い分」、質屋アプリ「CASH」再開の理由、メルカリ「夏休みの宿題」出品に見るベンチャー育成の問題点、「VALU騒動」で問われるベンチャー企業のモラル) である。なお、CASHやVALUについては、バンチャーとして、8月21日にも取上げた。
先ずは、8月2日付け東洋経済オンライン「通販急伸のヤフー、ステマ疑惑への「言い分」 宮坂社長「早く気づけばと反省しているが…」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「会員を増やし、ショッピングの事業を伸ばそうというシナリオは、今のところ非常に順調に実現できている」。ヤフーの宮坂学社長は7月28日に行われた決算説明会の場で、こう手応えを語った。
・ヤフーの今期(2017年4月~2018年3月)業績が順調な滑り出しを見せている。第1四半期(4~6月期)の決算は、売上高が前期比4.1%増、営業利益は同2.6%増と微増益にとどまった。だが、現時点で会社が発表している通期計画は、販促コストを増やすことによる営業減益だ。このまま進めば、上振れ着地も期待できる水準といえる。
・牽引役となった広告事業は、トップページや天気、乗換案内など同社のメディア面に掲出する「ディスプレイ広告」、ユーザーの検索内容に連動して掲出する「テキスト広告」の両方が伸びた。一層スマートフォン対応が進んだほか、急速に需要が高まる動画広告の拡大などが貢献している。
▽ショッピングが大幅拡大
・もうひとつ目を引いたのは、モール型EC(多数のショップが独自の方法で出店する)「Yahoo!ショッピング」の成長ぶりだ。ソフトバンクのスマホユーザーなら「毎日・全品ポイント10倍」とする施策が功を奏し、ショッピングの取扱高は前年同四半期比で4割近く拡大した。 ヤフーでは2013年10月から、ヤフーショッピングにおける毎月の出店料、売り上げロイヤルティ(システム料)を無料化することでストア数と商品数の拡大を推進。その甲斐あって、足元では出品商品数が2.9億を超え、国内最大規模となっている。
・とはいえ、出店料などの手数料収益がなくなる分は、別のビジネスモデルを確立して補填しなければならない。そこでヤフーが力を入れたのが、ストア向けに提案する広告メニューだ。ヤフーショッピングのサイト内、各商品カテゴリーや検索結果の一覧ページに広告枠を設け、商品やストアの認知を促進するものだ。
・直近ではこのショッピング広告売上高が順調に拡大。一方でポイント付与にかかる費用は一定範囲に抑えられており、「持続可能なモデルになってきている」(宮坂社長)。 ヤフーの中でますます重要度が高まるショッピング事業だが、危うい側面もある。ヤフーショッピングのサイト内、商品一覧ページの一部に、広告であることを隠した広告、いわゆるステルスマーケティング(ステマ)が横行していると、報道機関などから指摘を受けているのだ。
・サイト内で買いたい商品カテゴリーを選択したり、商品検索をしたりすると、まずは「おすすめ順」という並びで一覧が表示される。この際、広告料を多く払っている商品が上位に出る場合があるが、ほかにも「おすすめ」の評価軸が複数あるため、ユーザー側にはどれが広告による上位表示なのかわからない。 また、商品一覧の最上位に表示される「アイテムマッチ」という広告枠については、文言自体が広告とわかりにくいことに加え、「おすすめ順」だけでなく「売れている順」という一覧にも掲出していたことに「不適切では?」という声が上がった。
▽宮坂社長「われわれのミス、反省している」
・これらの指摘を受け、ヤフーはいくつかの対応を行っている。まず「アイテムマッチ」は「ストアのイチオシ」へと文言を修正。「おすすめ順」の掲載について、ストア側が支払う販売促進費を加味している旨の説明を拡充し、商品一覧ページにその説明へ直接アクセスできるリンクを設置した。また、「売れている順」への広告掲出は取りやめた。
・これらの点について、宮坂社長は「われわれのミス。もう少し早く気づけばよかったと、深く反省している」と語った一方、ヤフーとして従前の考え方を貫く部分も強調した。 「(ヤフーニュースなど)メディア面と(ヤフーショッピングなど)小売り面の編集の在り方は、別物と考えている。どちらもいい情報を届けるのは同じだが、小売りの場合はいい商品を、お得にお届けする必要がある。そのために、小売りの歴史の中で販売促進費、販売インセンティブなどさまざまな工夫がなされてきた。ECも小売りの一形態として、お得を実現するのがユーザーファースト。そのための工夫や仕組みとして、取り入れられるものは積極的に取り入れていきたい」(宮坂社長)。
▽販促費は小売店舗では当然の行為だが…
・スーパーや量販店などリアルの小売りにおいては、店頭で商品棚を確保したり、特設コーナーを作ったりするために、メーカー側が小売り企業に販促費を支払うことが当たり前に行われている。ヤフーの主張は、その“当たり前”がインターネット上のモールで許されないのはおかしい、というものだ。
・加えて宮坂社長は「広告費を払えばどんな商品でも上位表示できるオプションではない」という点を説明。「現在、ヤフーショッピングの広告枠を買えるストアは全体の1割程度。この売り主さんなら大丈夫だと、ヤフーとして推薦できる、限られたところにだけ開放している」(宮坂社長)
・ヤフーの説明にはうなずける点もある。だが、その考え方がユーザーにすんなり受け入れられるかは別問題だ。現に、楽天やアマゾンなど、ほかのEC大手では、今回ヤフーで指摘されたような仕組みは採用されていない。 また、ECではないものの、カカクコムが運営する飲食店評価サイト「食べログ」では、店を検索した際、デフォルトで表示される「標準」という一覧に広告出稿が加味されていることが明らかになり、バッシングを受けた過去がある。その後「標準【広告優先】」へ、現在は「標準【会員店舗優先】」へと表示を改めているが、ユーザーの信頼を裏切りかねない騒動となった。
・成長の道筋が見えてきたヤフーショッピング。だが、手数料無料のモデルの中で収益機会を広げ、顧客満足度を上げるためには、今後「ステマ騒動」以外に乗り越えなければならない試練が出てくるかもしれない。
http://toyokeizai.net/articles/-/182849
次に、8月25日付けダイヤモンド・オンライン「質屋アプリ「CASH」再開の理由、社長が騒動後初激白!」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは光本社長の回答、+は回答内の段落)。
・スマホで商品を撮影して送信するだけで瞬時に現金化できるアプリ「CASH」。あまりの反響にサービス開始後わずか16時間で停止に追い込まれていたが、8月24日、運営するバンク社はサービス再開に踏み切った。光本勇介代表取締役兼CEOが騒動後、その真相を初めて語った。(聞き手/週刊ダイヤモンド編集部 山口圭介)
Q:6月28日にスタートした現金化アプリ「CASH」は、手軽に瞬時に現金化できる斬新さが大ウケして、ネット上では大きな騒動になりました。
A:お騒がせしてしまいましたが、CASHのコンセプトは目の前にあるアイテムを瞬間的にお金に換えることで、潜在的な少額資金ニーズに応えるというものです。ただ、私たちの予想を超えた反響をいただいて、ものすごく利用された結果、当日24時間経たずしてサービスを止めざるを得ませんでした。 CASHはフリマアプリのように、撮影したアイテムを送信してもらいますが、その瞬間にアプリ上で現金化されます。そのお金を実際に「受け取る」か「受け取らない」のチョイスがあり、「受け取る」ボタンを押した瞬間に私たちはユーザーにお金を振り込んでしまいます。
Q:たった1日で3.6億円が現金化されたそうですね。最大の買い取り額が2万円と少額とはいえ、審査なしに振り込むという仕組みは、厳密な審査に基づいてお金をやり取りする既存の金融サービスの関係者からすると、考えられません。
A:CASHはファッションやガジェットなど中古品の二次流通が確立しているアイテムを買い取るビジネスであって、世の中のマジョリティの人たちはそこまで悪い人ではないんじゃないかという、「性善説」に基づいたビジネスモデルです。 取引している人はいい方だと信じて先に振り込んでしまう。馬鹿げていると多くの人が思うからこそ大きな反響をいただいたと思うのですが、真面目に信じて事業設計しました。 もちろん一部には悪用するユーザーがいると思います。ただ、大半のユーザーが誠実な人であれば、やり方としては馬鹿げているかもしれないけれど、事業として成り立つはずだというチャレンジでした。
Q:ただ、実際は1日でサービスを停止してしまいました。
A:停止した理由は2つあります。1つは、最初にすぐお金を振り込んでしまうので、想像していたよりも遥かに多くのお金が出ていってしまって、継続的に運営していたら資金が追いつかないという問題に直面したからです。 もう一つは物流の問題。16時間が経過した時点で1万個近いアイテムが集荷依頼されていました。これを数人の会社で対応するのは無理。サービスを停止しないと運営ができなくなって、結果的にユーザーに迷惑をかけると判断しました。
+サービス停止のリリースから2ヵ月が経ってしまいましたが、その間、会社としては情報発信をしていませんでした。知人ですら、お金がなくなって倒産するんじゃないかと思っていたようです。
Q:2ヵ月間、実際は何をしていたのですか。
A:翌日からこのオフィスにトラックに積まれた大量のアイテムが届き始めました。トラック1台分で500個(写真)。それが1万個届きます。オフィスは足の踏み場もありません。カオスでした。 アルバイトを雇いまくって、2週間ほどはこの対応に追われました。その後は2つのことに時間を割きました。 まず、サービスを再開したらあれだけの荷物が再び動き始めるのが目に見えているので、その物量をハンドルできる体制を整えなくてはいけません。同時に、かなりの規模のキャッシュが出ていくことになるので、安定的に提供する金銭的体制の整備を進めました。
+具体的には、物流については天王洲や埼玉などに拠点を設けました。資金面については、まだ公表していませんが、これに絡めた事業を作っているところで、いずれかのタイミングでどのような仕組みでお金を用意しているかお知らせできると思います。 はたから見れば、私たちのサービスはお金をばらまいているようにしか見えないわけで、ソーシャルメディア上では、「馬鹿なんじゃないか」とか、「事業として成り立つわけがない」と言われることも多かったんですが、8月24日にサービス再開にこぎ着けることができました。
+再開に至った最大の理由は、この事業にポテンシャルがあり、採算性を担保して事業展開できる見込みがあると判断したからです。
Q:性善説は通用したというわけですか。
A:そうですね。今日(8月22日)の時点で91%の人がちゃんと取引してくれています。
Q:ウソをついて取引をする人もいたと思います。例えば、アイテムの写真は送って現金を受け取っておきながら、実際には商品を送らないケースなど、悪質な取引の割合はどの程度になりますか。
A:騙そうとする人はアイテムを送ってきませんから、まだ取引が終わっていない残りの9%に入っていると思います。アイテムは日々送られてきていて、最終的にちゃんと取引してくれる割合は95%程度になりそうなので、5%程度に収まると想定しています。
Q:ビジネスとしての成立ラインは。
A:当初は悪い人たちが2、3割に収まったらいいなと思っていました。それくらいいてもギリギリ事業として成り立つ設計をしていたので、想像以上の結果です。 会社として私たちが取り込みたいのは、消費者金融ではカバーしていない少額の資金ニーズ。こうしたニーズは潜在的に消費者の中にものすごくあると思っていますが、手軽にカジュアルにスピーディに応えられる企業、サービスはありませんでした。
+たった1日ですが、実際にこのサービスを提供してみて確信したのは、やはりこの需要は大きく、市場として成り立つ規模が潜在的にあるということです。
Q:サービスを再開するに当たってどんな改善をしたのでしょうか。
A:大きな改善点は3つです。一つ目は、一日に私たちが現金化する予算の上限を設定しました。口を開けていたらいくらでもお金が出ていくことが明白なので、1日の上限を1000万円にしました。予算がゼロになるとキャッシュ化できなくなって、次の日の午前10時になると「満タン」に戻る設計です。今後、予算はどんどん増やしていくつもりですが、安定的にサービスを運用する経験を持ちたいという狙いがあって、再開初月は3億円を想定しています。
Q:今後、どれくらいの規模に拡大していきたいと考えていますか。
A:マスのサービスにはなりたいと思っているし、その需要もあると考えています。インターネット業界で著しい成長を遂げて一大市場を作ったのがフリマ市場です。その流通規模は大手で1000億~1500億円。まずはそれくらいの規模のお金を供給できるようになりたいです。ビッグマウス過ぎますかね……。いかにお金を用意する仕組みを構築できるかにかかっていると思います。
Q:二つ目の改善点は。
A:新たに評価制度を導入しました。これは私たちがユーザーを評価する仕組みです。例えば、新品と言っているのに古いものを送ってきたり、違うものを送ってくる、誠実に取引しない人は評価が下がる仕組みです。評価が下がると利用できる機能に制限が出たり、査定金額が著しく低くなってしまい、結果的に損することになります。 最後の改善点として、「返金」(返金の場合はキャンセル料15%が上乗せされる)の機能をなくしました。
Q:「CASH」はメディアで質屋アプリとして紹介されることが多かったですが、その根拠となっていた導線がなくなるわけですか。
A:そうです。当初は、現金化後にアイテムを私たちに送るか、受け取ったお金を返金するかチョイスできる設定にしていましたが、ふたを開けてみたら、返金を選ぶユーザーは2%に過ぎませんでした。98%はモノのキャッシュ化を選んでいたので、ほとんど使われていなかった返金の機能をなくしました。
Q:ネット上では貸金業法違反など、違法性を指摘する声もありました。
A:ビジネスのスキーム作りの段階から法律事務所に入ってもらって、準備を進めてきましたので、違法性の問題はありません。(CASHの件で)金融庁や消費者庁から連絡が来たことも、指導を受けた事実もありません。モノを買い取るので古物商の免許も取得しています。契約している法律事務所にはサービス開始当初から今なお変わらず支援してもらっています。
Q:CASHに次ぐ第2の現金化アプリとして、給与前借りアプリ「Payday」のリリースを控えています。
A:「Payday」についてはいったんペンディングします。私たちはまだ10人に満たない会社。CASHという事業に想像を遥かに超えたポテンシャルを感じたので、あれもこれもと手を出して中途半端になるよりは、一つの事業にフォーカスすべきだと考えました。
+私たちの会社名は「バンク」。その使命として実現したいのは、世の中の少額の資金ニーズを埋めまくるということ。これは一つのサービスではなし得ないし、市場があまりに大きいので、1年2年で取り切れる規模でもありません。 少額資金ニーズは金融の観点じゃなくても埋められると思っています。(金融の)ド素人だからこそ、一般の人の気持ちで一般の人の需要を推測しながら、その人たちが最も求めるものを提供できると考えています。
http://diamond.jp/articles/-/139732
第三に、元大手銀行のマーケット・エコノミストで法政大学大学院教授の真壁昭夫氏が9月5日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「メルカリ「夏休みの宿題」出品に見るベンチャー育成の問題点」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・先日、公園で“フリーマーケット”が開催され、大勢の人で賑っていた。興味本位で品物を覗いてみると、雑貨から衣服、加工食品、骨董品など、ありとあらゆるものが出品されていた。中にはかなり年季の入った品物もあったが、どこも売れ行きは順調だったようだ。 最近、インターネットなどを通した個人間の取引を見ると、企業が提供しきれていないモノやサービスが多いように思う。そうした分野の潜在的な需要も大きいということだ。
・そうした取引に目をつけ、個人同士で取引するネット空間=マーケット・プレイスを提供し、急成長を遂げる企業が出てきた。国内ではメルカリがフリマアプリを提供し、断トツの成長を遂げている。個人の価値を評価しあい、それをトレードすることや、ネット上で物品を査定し現金との交換を行うビジネスも登場している。 個人同士が取引を行う、C to C(Consumer to Consumer)ビジネスのプラットフォーム構築は世界的な拡大を続けるだろう。その中で、これまでの常識を覆すようなケースも増えるはずだ。
・そうした新しい潮流は重要なのだが、今後、さまざまな問題が出てくることが想定される。中には、法令遵守への姿勢が問われるケースも出てくるかもしれない。ネットビジネスが急拡大する中、企業を含め社会全体でしっかりしたルール作りが必要だ。
▽急速に拡大する“C to C”ビジネス
・ネット業界では、電子商取引プラットフォーム上で企業が個人に対して物品やサービスの提供を行うことが普及してきた。今、このB to Cに代わり、C to C取引のサービスが急速に発達している。 その代表格がメルカリだ。同社はインターネット上でフリーマーケットを開催するアプリ(マーケットプレイス)を提供している。このアプリを使えば、誰でも、不要なものをインターネット上のフリーマーケットに出することができる。
・「なんでもメルカリに出品できる」と考える人は多いようだ。それほど、同社のサービスは支持されている。個人間で取引が成立すると、メルカリは購入者から手数料を徴収する。これが同社の収益源だ。すでに、日米合わせて7500万ものアプリダウンロード件数を達成するなど、急速な勢いでメルカリは成長している。
・多くのユーザーにとってメルカリは、不要なものを現金に換える「打ち出の小槌」のようなものなのかもしれない。ある大学生は、「捨てるならメルカリに出品する」と話していた。しかも、代金支払いのやりとりはメルカリが仲介するため、代金のやり取りに関する不安や煩わしさを感じることもないようだ。こうした手軽さと安心感が多くのユーザーを引き付けている。公園のフリマに出品する労力もかからない。
・海外でもC to C市場は急拡大している。米国ではLetgoやOfferupなどのベンチャー企業がC to C向けのマーケットプレイスを展開している。こうした動きを受けて、Facebookがフリーマーケット機能“Marketplace”を開始するなど、C to C市場の競争は世界的にし烈さを極めている。
▽今後、明確化すると見られる さまざまな問題
・個人同士の取引が増える中で、社会的な倫理観・価値観に照らした場合に許容されるか否か、議論の分かれるケースや、法律にも触れる恐れのあるトラブルや問題が増えている。メルカリのサイトを見ると、夏休みの宿題らしき小中高生向けの作文や読書感想文、自由研究の作品などが出品されている。本来、こうした学習課題は、児童・学生自らが取り組まなければならないことは言うまでもない。学生を教える立場から言えば、他人が作成したものを“自らの成果物”として提出することは言語道断だ。
・また、メルカリやヤフオクでは象牙を使った製品が取引されている。象牙の国際取引はワシントン条約によって原則禁止されている。国内で象牙製品を取引するためには、登録または届出が必要だ。すでに中国政府は、本年末までに象牙の商用取引を全面禁止すると発表した。世界自然保護基金(WWF)はマーケットプレイスの運営業者に対して象牙製品の取り扱い停止などを求めている。社会的な価値観に照らした場合に取引に問題がないか、批判を浴びないか、ユーザーと企業双方で冷静な検証が必要と考えられる。
・法令遵守への懸念もある。個人の価値を評価し、それを取引するトレーディングプラットフォームを運営するVALU社では、特定の個人が自らの価値を吊り上げた上で高値での売り逃げを狙った疑いのある案件が発生し、物議を醸した。 問題は、同社が個人の価値を株式に見立てていることだ。株式には配当の請求権をはじめとする客観的な価値=実体がある。しかし、同社のシステムに登録され、取引される個人の“価値”は、登録者と評価者の主観に左右される。円で配当が受け取れるわけではない。実体なき砂上の楼閣と取引しているというのが正確だろう。
・その他にも、バンク社が運営するCASHが貸金業法に抵触するのではないかとの批判も出た。新しいネットビジネスが基本的な定義を押さえ、法令を遵守した上で運営されているかは入念に確認されるべきだ。それが社会的な信用につながる。
▽各企業のコンプライアンス強化 社会全体での法整備の加速化は急務
・情報とコミュニケーション技術(ICT)の向上に伴い、従来にはないアイデアをもとに起業を試みる人は増えるだろう。それがベンチャービジネスの創出と育成につながり、競争を促進する。そうした動きが経済全体で進むようになると、わが国の潜在成長率の向上にもつながるだろう。
・そのためには、新しい企業のチャレンジと、コンプライアンス=法令遵守の両立が求められる。ベンチャー企業経営者の発言などを見ていると、ごく一部ではあるものの、企業ではなくユーザーに問題があるという認識があるのではないかと感じることがある。
・新しい試みであるだけに、どのような展開になるかはやってみなければわからない。しかし、それが始まった段階で企業は社会的な責任を負うことを忘れてはならない。規模の大小、歴史の長短にかかわらず、企業は社会的な公器である。各企業には個人ユーザーの法令を無視した行動を防ぎ、公正なC to C市場の育成を支える責務がある。それぞれの企業がビジネスに対する倫理観・価値観を提示し、それにそぐわないユーザーには利用を認めないといった取り組みは不可欠だ。それでも、個人の行動を100%コントロールすることはできない。性善説にのっとった発想では限界がある。
・政府はこの状況に危機感を持つべきだ。世界経済フォーラムが公表するICTの国際競争力ランキングでは、法規制面の整備に関するわが国の評価が低い。企業のコンプライアンス意識の向上だけでなく、それを支える社会インフラとしての法制度の整備は喫緊の課題だ。それができないと、ベンチャー企業の育成は難しいかもしれない。
・そうした取り組みこそが、規制の緩和や環境変化に対応した法規制の策定につながり、成長戦略の重要な基礎作りにつながる。新しい技術が普及し、これまでにはない経済活動が広がる中、対策を企業だけに任せることはできない。社会全体で取り組むことが必要だ。
http://diamond.jp/articles/-/140999
第四に、同じ真壁氏が9月12日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「VALU騒動」で問われるベンチャー企業のモラル」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・現在、世界的な流れとして、いわゆるネット企業が注目を集めている。その要因は、いうまでもない。ネットワーク社会の中で、彼らのビジネスには莫大な成長余地が存在するからだ。その代表格がアマゾンやグーグルであり、わが国のメルカリ、さらにはVALU(バリュー)などがある。 ただ、ネット企業のすべてが無条件に成長するわけではない。中には、ネット分野ゆえの問題点を抱える企業もある。今後、ビジネスのルールを構築したり、法律や制度の整備が必要になるだろう。
・最近、わが国のネットベンチャー企業に対する批判をよく耳にする。その理由の一つに、彼らが、基本的な理念やリスクへの対応を欠いたまま事業を開始してしまったことがある。それにもかかわらず、ネット企業に対する期待が風船のように膨らみ、根拠なき期待に支えられて人気のみが先行することになってしまうケースもある。
・海外でも物議を醸すITベンチャー企業はある。企業サイドに問題があることに加え、これまでになかった発想が事業化されたため、法制度などの対応が追い付いていないことも事実だ。問題は、そうしたマイナス面をいかに解消することはできるかだ。
▽株とは異なりまったく実体のないVALU
・今年8月、IT業界で大きな注目を集めたイベントの一つが“VALU騒動”だ。同社が扱う“VALU”が、常識では考えられないほど急騰する事態が発生したのだ。 VALUとは何か。同社のサイトでは、個人が自らの価値を発行することができる。ここでいう価値とは、特技、アイデアなどさまざまだ。発行された価値は第三者に評価される。
・第三者は、VALUを登録した人が将来ブレイクする、応援したいと思うなら、そのVALUを取得する(これをVALUER=評価者という)。それによって価値の取引が成立する。 VALUERは発行者から特別な情報を得たり、何らかの優待を得ることができる。なお、VALUの取引はビットコインによって成立する。
・個人の価値を取引するインセンティブは、基本的に購入する側の“期待”のみだ。VALUを登録した人の考えに共感したり、何らかのメリットがあると考える人が増えれば、VALUへの需要は高まる。需要が高まれば価格(価値)は上昇する。この関係を見ると、個人の価値を取引することは、ある意味では、金融商品のトレーディングに似ている。
・VALU社はVALUERを株主になぞらえてきた。一見すると、この例えはそれなりの説得力があるように思えるのだが、大きな落とし穴がある。VALUにはまったく実体がないのである。
・例えば、代表的な金融商品である株式には、法律によって配当の請求権、株主総会での議決権、残余財産の分配を請求する権利等が定められている。つまり、実体が備わっている。 ところが、VALU社のアプリで取引される個人の価値は、まず、発行者の意図によってイメージがつくられる。それを、評価者の期待や憶測が増幅する。発行者の義務と評価者の権利などは明示されていなかった。
・価値の厳密な定義や権利・義務の関係が明示されない中、評価者の間では、「VALU(株)を手に入れれば動画閲覧などの優待(株主優待)を受ける権利が得られる」とのイメージが独り歩きしてしまった(なお、現在の利用規約にはVALUは株式ではないことは明記されている)。
・この結果、8月上旬、人気ユーチューバーのVALUを手に入れれば優待を受けられるとの期待のみが先行し、買いが買いを呼んでVALUが急騰した。これが騒動の一因である。この騒動を知ったある経済学者は、「今回の騒動はオランダのチューリップバブルそっくりだ」と指摘していた。
▽リスクに関する認識の欠如が生んだ騒動
・その後、ユーチューバー本人が自らの価値を「売り」に出したことをきっかけに、このVALUバブルはあっけなく崩壊した。急落を受けて、「このユーチューバーは、初めからVALUの急騰を狙っていたのではないか」、「売り逃げ目的でVALUを登録したのではないか」など様々な憶測や非難が殺到し騒動が広がった。
・今回の騒動を一言で言うならば、評価者にとって期待と違うことが多すぎたため、価値急落による失望感が一気に溢れ出たと言えるだろう。 騒動が広がった原因の一つは、VALU社が価値変動のリスクを十分に理解し、評価者に周知徹底することができていなかったことにもある。市場参加者間の考えが偏りやすいほど期待先行で人気が高まり、短期間で価値が大きく変化する可能性は高まる。
・同社はVALUを、希少価値のあるトレーディングカードにもなぞらえている。一部のマニアの間では、特定の野球選手のレアなカードの価値が急騰することはしばしばある。ユーチューバーのファンの場合にも同じことが起きたのかもしれない。 その他にも、VALU社が認識できていなかったリスクは多い。ユーチューバーの自己顕示欲=目立ちたいという欲求が、今回の騒動の根底にありそうだ。騒動が起きたことによって、VALUの発行者と評価者間の情報の格差=“情報の非対称性”があまりに大きすぎることが白日の下に晒されたともいえる。
・同じような騒動を防ぐためには、VALUの発行者に関する情報の開示を進める必要がある。例えば、金融市場で一般企業が資金調達を行う場合、調達した資金の使用目的がどのようなプロジェクトか、どの程度の期間で事業を行うか、どのような成果が見込めるか、リスク要因は何か等、事細かな事業計画を作成することは当たり前だ。
・そうした情報があれば、購入側は冷静かつ客観的にVALUを評価することができるだろう。VALUの取引には、金融商品と同じくらい十分な情報開示が必要だ。今後、同社がこうした認識を深め、ユーザー、業界団体や金融庁をはじめとする利害関係者との議論を深めることが求められる。
▽ネット企業の今後のあるべき展開
・VALU社が、今のビジネスモデルを続けることで成長を実現できるかは不透明だろう。ただ、個人同士がそれぞれの考えなどを評価し、その価値を取引するという点でVALUの目の付け所は斬新であり、興味深い。 個人レベルでの事業計画への支援が受けられやすくなることで、さまざまなビジネスモデルを持ったベンチャービジネスが活性化されるなど、ダイナミックな展開につながる可能性もある。この点は評価に値する部分はある。
・新しい発想をビジネス化した際、ユーザーや社会がどのような反応を示すかは予見が難しい。VALU社は、このリスクについて事前の準備が不十分だったとも言える。今後も、ICT技術の発達やネットワークサイエンスの発展につれて、新しいアイデアをビジネス化する動きも加速するだろう。企業家には、一段のリスクマネジメントへの意識と、法令順守=コンプライアンスの精神が求められる。
・ネット企業としては、株式の新規公開(IPO)を目指すことも一つの選択肢だ。それによって、自社のビジネスモデルが、不特定多数の投資家の目に晒されるからだ。不特定多数の投資家に受け入れられるか否かを客観的に理解できる。 株式の新規公開を考える場合、経営者はビジネスが法令だけでなく一般社会の価値観にも適合しているか否かを常に考えなければならない。それが、リスクマネジメントや情報公開の改善につながり、企業の成長を支える可能性は高い。
・世界のベンチャー市場では、企業価値が10億ドル(約1080億円)を超える“ユニコーン企業”への関心が高まっている。その筆頭格と目される配車アプリのUBER(ウーバー)のトラビス・カラニック前CEOは、ハラスメントを容認する組織文化を放置したこと等への批判が高まった結果、辞任に追い込まれた。それでもライドシェアの先駆者としてのウーバーのビジネスモデルへの評価は高い。メルカリの上場への期待も高まっている。
・VALU社は今回の騒動への反省を生かし、ビジネスモデルが社会的な意義を備えていることを示さなければならない。それが当面の課題だ。その上で、同社は将来的なIPOを念頭に、法規制の整備などにも能動的に取り組み、イノベーションの実現を目指すべきだろう。
http://diamond.jp/articles/-/141834
第一の記事は、第二以降のベンチャー企業と違って、押しも押されぬ上場大企業である。それが、 『ステルスマーケティング(ステマ)が横行していると、報道機関などから指摘』、され、部分的には修正したが、まだ独自の考え方にこだわっているようだ。これは、ユーザーからの利用という形で審判を受けることになるだろう。
第二の記事で、改良後は、 『「返金」(返金の場合はキャンセル料15%が上乗せされる)の機能をなくしました』、ことで、質屋アプリではなくなり、貸金業法違反の疑いの余地も消えたようだ。 『91%の人がちゃんと取引してくれています』、らしいが、悪質な人間のサークルにその存在が広まれば、悪質な人間の割合がもっと大きくなる可能性も否定できない。
第三の記事で、 『メルカリのサイトを見ると、夏休みの宿題らしき小中高生向けの作文や読書感想文、自由研究の作品などが出品されている』、というのは笑ってしまうが、サイト運営者として、公序良俗に反してないかきちんとチェックしていれば、防げた筈だ。 『それぞれの企業がビジネスに対する倫理観・価値観を提示し、それにそぐわないユーザーには利用を認めないといった取り組みは不可欠だ』、というのはその通りだ。
第四の記事で、 『VALU社は今回の騒動への反省を生かし、ビジネスモデルが社会的な意義を備えていることを示さなければならない』、としているが、これはどう考えても、「ないものねだり」に過ぎないように思われる。
先ずは、8月2日付け東洋経済オンライン「通販急伸のヤフー、ステマ疑惑への「言い分」 宮坂社長「早く気づけばと反省しているが…」」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「会員を増やし、ショッピングの事業を伸ばそうというシナリオは、今のところ非常に順調に実現できている」。ヤフーの宮坂学社長は7月28日に行われた決算説明会の場で、こう手応えを語った。
・ヤフーの今期(2017年4月~2018年3月)業績が順調な滑り出しを見せている。第1四半期(4~6月期)の決算は、売上高が前期比4.1%増、営業利益は同2.6%増と微増益にとどまった。だが、現時点で会社が発表している通期計画は、販促コストを増やすことによる営業減益だ。このまま進めば、上振れ着地も期待できる水準といえる。
・牽引役となった広告事業は、トップページや天気、乗換案内など同社のメディア面に掲出する「ディスプレイ広告」、ユーザーの検索内容に連動して掲出する「テキスト広告」の両方が伸びた。一層スマートフォン対応が進んだほか、急速に需要が高まる動画広告の拡大などが貢献している。
▽ショッピングが大幅拡大
・もうひとつ目を引いたのは、モール型EC(多数のショップが独自の方法で出店する)「Yahoo!ショッピング」の成長ぶりだ。ソフトバンクのスマホユーザーなら「毎日・全品ポイント10倍」とする施策が功を奏し、ショッピングの取扱高は前年同四半期比で4割近く拡大した。 ヤフーでは2013年10月から、ヤフーショッピングにおける毎月の出店料、売り上げロイヤルティ(システム料)を無料化することでストア数と商品数の拡大を推進。その甲斐あって、足元では出品商品数が2.9億を超え、国内最大規模となっている。
・とはいえ、出店料などの手数料収益がなくなる分は、別のビジネスモデルを確立して補填しなければならない。そこでヤフーが力を入れたのが、ストア向けに提案する広告メニューだ。ヤフーショッピングのサイト内、各商品カテゴリーや検索結果の一覧ページに広告枠を設け、商品やストアの認知を促進するものだ。
・直近ではこのショッピング広告売上高が順調に拡大。一方でポイント付与にかかる費用は一定範囲に抑えられており、「持続可能なモデルになってきている」(宮坂社長)。 ヤフーの中でますます重要度が高まるショッピング事業だが、危うい側面もある。ヤフーショッピングのサイト内、商品一覧ページの一部に、広告であることを隠した広告、いわゆるステルスマーケティング(ステマ)が横行していると、報道機関などから指摘を受けているのだ。
・サイト内で買いたい商品カテゴリーを選択したり、商品検索をしたりすると、まずは「おすすめ順」という並びで一覧が表示される。この際、広告料を多く払っている商品が上位に出る場合があるが、ほかにも「おすすめ」の評価軸が複数あるため、ユーザー側にはどれが広告による上位表示なのかわからない。 また、商品一覧の最上位に表示される「アイテムマッチ」という広告枠については、文言自体が広告とわかりにくいことに加え、「おすすめ順」だけでなく「売れている順」という一覧にも掲出していたことに「不適切では?」という声が上がった。
▽宮坂社長「われわれのミス、反省している」
・これらの指摘を受け、ヤフーはいくつかの対応を行っている。まず「アイテムマッチ」は「ストアのイチオシ」へと文言を修正。「おすすめ順」の掲載について、ストア側が支払う販売促進費を加味している旨の説明を拡充し、商品一覧ページにその説明へ直接アクセスできるリンクを設置した。また、「売れている順」への広告掲出は取りやめた。
・これらの点について、宮坂社長は「われわれのミス。もう少し早く気づけばよかったと、深く反省している」と語った一方、ヤフーとして従前の考え方を貫く部分も強調した。 「(ヤフーニュースなど)メディア面と(ヤフーショッピングなど)小売り面の編集の在り方は、別物と考えている。どちらもいい情報を届けるのは同じだが、小売りの場合はいい商品を、お得にお届けする必要がある。そのために、小売りの歴史の中で販売促進費、販売インセンティブなどさまざまな工夫がなされてきた。ECも小売りの一形態として、お得を実現するのがユーザーファースト。そのための工夫や仕組みとして、取り入れられるものは積極的に取り入れていきたい」(宮坂社長)。
▽販促費は小売店舗では当然の行為だが…
・スーパーや量販店などリアルの小売りにおいては、店頭で商品棚を確保したり、特設コーナーを作ったりするために、メーカー側が小売り企業に販促費を支払うことが当たり前に行われている。ヤフーの主張は、その“当たり前”がインターネット上のモールで許されないのはおかしい、というものだ。
・加えて宮坂社長は「広告費を払えばどんな商品でも上位表示できるオプションではない」という点を説明。「現在、ヤフーショッピングの広告枠を買えるストアは全体の1割程度。この売り主さんなら大丈夫だと、ヤフーとして推薦できる、限られたところにだけ開放している」(宮坂社長)
・ヤフーの説明にはうなずける点もある。だが、その考え方がユーザーにすんなり受け入れられるかは別問題だ。現に、楽天やアマゾンなど、ほかのEC大手では、今回ヤフーで指摘されたような仕組みは採用されていない。 また、ECではないものの、カカクコムが運営する飲食店評価サイト「食べログ」では、店を検索した際、デフォルトで表示される「標準」という一覧に広告出稿が加味されていることが明らかになり、バッシングを受けた過去がある。その後「標準【広告優先】」へ、現在は「標準【会員店舗優先】」へと表示を改めているが、ユーザーの信頼を裏切りかねない騒動となった。
・成長の道筋が見えてきたヤフーショッピング。だが、手数料無料のモデルの中で収益機会を広げ、顧客満足度を上げるためには、今後「ステマ騒動」以外に乗り越えなければならない試練が出てくるかもしれない。
http://toyokeizai.net/articles/-/182849
次に、8月25日付けダイヤモンド・オンライン「質屋アプリ「CASH」再開の理由、社長が騒動後初激白!」を紹介しよう(▽は小見出し、Qは聞き手の質問、Aは光本社長の回答、+は回答内の段落)。
・スマホで商品を撮影して送信するだけで瞬時に現金化できるアプリ「CASH」。あまりの反響にサービス開始後わずか16時間で停止に追い込まれていたが、8月24日、運営するバンク社はサービス再開に踏み切った。光本勇介代表取締役兼CEOが騒動後、その真相を初めて語った。(聞き手/週刊ダイヤモンド編集部 山口圭介)
Q:6月28日にスタートした現金化アプリ「CASH」は、手軽に瞬時に現金化できる斬新さが大ウケして、ネット上では大きな騒動になりました。
A:お騒がせしてしまいましたが、CASHのコンセプトは目の前にあるアイテムを瞬間的にお金に換えることで、潜在的な少額資金ニーズに応えるというものです。ただ、私たちの予想を超えた反響をいただいて、ものすごく利用された結果、当日24時間経たずしてサービスを止めざるを得ませんでした。 CASHはフリマアプリのように、撮影したアイテムを送信してもらいますが、その瞬間にアプリ上で現金化されます。そのお金を実際に「受け取る」か「受け取らない」のチョイスがあり、「受け取る」ボタンを押した瞬間に私たちはユーザーにお金を振り込んでしまいます。
Q:たった1日で3.6億円が現金化されたそうですね。最大の買い取り額が2万円と少額とはいえ、審査なしに振り込むという仕組みは、厳密な審査に基づいてお金をやり取りする既存の金融サービスの関係者からすると、考えられません。
A:CASHはファッションやガジェットなど中古品の二次流通が確立しているアイテムを買い取るビジネスであって、世の中のマジョリティの人たちはそこまで悪い人ではないんじゃないかという、「性善説」に基づいたビジネスモデルです。 取引している人はいい方だと信じて先に振り込んでしまう。馬鹿げていると多くの人が思うからこそ大きな反響をいただいたと思うのですが、真面目に信じて事業設計しました。 もちろん一部には悪用するユーザーがいると思います。ただ、大半のユーザーが誠実な人であれば、やり方としては馬鹿げているかもしれないけれど、事業として成り立つはずだというチャレンジでした。
Q:ただ、実際は1日でサービスを停止してしまいました。
A:停止した理由は2つあります。1つは、最初にすぐお金を振り込んでしまうので、想像していたよりも遥かに多くのお金が出ていってしまって、継続的に運営していたら資金が追いつかないという問題に直面したからです。 もう一つは物流の問題。16時間が経過した時点で1万個近いアイテムが集荷依頼されていました。これを数人の会社で対応するのは無理。サービスを停止しないと運営ができなくなって、結果的にユーザーに迷惑をかけると判断しました。
+サービス停止のリリースから2ヵ月が経ってしまいましたが、その間、会社としては情報発信をしていませんでした。知人ですら、お金がなくなって倒産するんじゃないかと思っていたようです。
Q:2ヵ月間、実際は何をしていたのですか。
A:翌日からこのオフィスにトラックに積まれた大量のアイテムが届き始めました。トラック1台分で500個(写真)。それが1万個届きます。オフィスは足の踏み場もありません。カオスでした。 アルバイトを雇いまくって、2週間ほどはこの対応に追われました。その後は2つのことに時間を割きました。 まず、サービスを再開したらあれだけの荷物が再び動き始めるのが目に見えているので、その物量をハンドルできる体制を整えなくてはいけません。同時に、かなりの規模のキャッシュが出ていくことになるので、安定的に提供する金銭的体制の整備を進めました。
+具体的には、物流については天王洲や埼玉などに拠点を設けました。資金面については、まだ公表していませんが、これに絡めた事業を作っているところで、いずれかのタイミングでどのような仕組みでお金を用意しているかお知らせできると思います。 はたから見れば、私たちのサービスはお金をばらまいているようにしか見えないわけで、ソーシャルメディア上では、「馬鹿なんじゃないか」とか、「事業として成り立つわけがない」と言われることも多かったんですが、8月24日にサービス再開にこぎ着けることができました。
+再開に至った最大の理由は、この事業にポテンシャルがあり、採算性を担保して事業展開できる見込みがあると判断したからです。
Q:性善説は通用したというわけですか。
A:そうですね。今日(8月22日)の時点で91%の人がちゃんと取引してくれています。
Q:ウソをついて取引をする人もいたと思います。例えば、アイテムの写真は送って現金を受け取っておきながら、実際には商品を送らないケースなど、悪質な取引の割合はどの程度になりますか。
A:騙そうとする人はアイテムを送ってきませんから、まだ取引が終わっていない残りの9%に入っていると思います。アイテムは日々送られてきていて、最終的にちゃんと取引してくれる割合は95%程度になりそうなので、5%程度に収まると想定しています。
Q:ビジネスとしての成立ラインは。
A:当初は悪い人たちが2、3割に収まったらいいなと思っていました。それくらいいてもギリギリ事業として成り立つ設計をしていたので、想像以上の結果です。 会社として私たちが取り込みたいのは、消費者金融ではカバーしていない少額の資金ニーズ。こうしたニーズは潜在的に消費者の中にものすごくあると思っていますが、手軽にカジュアルにスピーディに応えられる企業、サービスはありませんでした。
+たった1日ですが、実際にこのサービスを提供してみて確信したのは、やはりこの需要は大きく、市場として成り立つ規模が潜在的にあるということです。
Q:サービスを再開するに当たってどんな改善をしたのでしょうか。
A:大きな改善点は3つです。一つ目は、一日に私たちが現金化する予算の上限を設定しました。口を開けていたらいくらでもお金が出ていくことが明白なので、1日の上限を1000万円にしました。予算がゼロになるとキャッシュ化できなくなって、次の日の午前10時になると「満タン」に戻る設計です。今後、予算はどんどん増やしていくつもりですが、安定的にサービスを運用する経験を持ちたいという狙いがあって、再開初月は3億円を想定しています。
Q:今後、どれくらいの規模に拡大していきたいと考えていますか。
A:マスのサービスにはなりたいと思っているし、その需要もあると考えています。インターネット業界で著しい成長を遂げて一大市場を作ったのがフリマ市場です。その流通規模は大手で1000億~1500億円。まずはそれくらいの規模のお金を供給できるようになりたいです。ビッグマウス過ぎますかね……。いかにお金を用意する仕組みを構築できるかにかかっていると思います。
Q:二つ目の改善点は。
A:新たに評価制度を導入しました。これは私たちがユーザーを評価する仕組みです。例えば、新品と言っているのに古いものを送ってきたり、違うものを送ってくる、誠実に取引しない人は評価が下がる仕組みです。評価が下がると利用できる機能に制限が出たり、査定金額が著しく低くなってしまい、結果的に損することになります。 最後の改善点として、「返金」(返金の場合はキャンセル料15%が上乗せされる)の機能をなくしました。
Q:「CASH」はメディアで質屋アプリとして紹介されることが多かったですが、その根拠となっていた導線がなくなるわけですか。
A:そうです。当初は、現金化後にアイテムを私たちに送るか、受け取ったお金を返金するかチョイスできる設定にしていましたが、ふたを開けてみたら、返金を選ぶユーザーは2%に過ぎませんでした。98%はモノのキャッシュ化を選んでいたので、ほとんど使われていなかった返金の機能をなくしました。
Q:ネット上では貸金業法違反など、違法性を指摘する声もありました。
A:ビジネスのスキーム作りの段階から法律事務所に入ってもらって、準備を進めてきましたので、違法性の問題はありません。(CASHの件で)金融庁や消費者庁から連絡が来たことも、指導を受けた事実もありません。モノを買い取るので古物商の免許も取得しています。契約している法律事務所にはサービス開始当初から今なお変わらず支援してもらっています。
Q:CASHに次ぐ第2の現金化アプリとして、給与前借りアプリ「Payday」のリリースを控えています。
A:「Payday」についてはいったんペンディングします。私たちはまだ10人に満たない会社。CASHという事業に想像を遥かに超えたポテンシャルを感じたので、あれもこれもと手を出して中途半端になるよりは、一つの事業にフォーカスすべきだと考えました。
+私たちの会社名は「バンク」。その使命として実現したいのは、世の中の少額の資金ニーズを埋めまくるということ。これは一つのサービスではなし得ないし、市場があまりに大きいので、1年2年で取り切れる規模でもありません。 少額資金ニーズは金融の観点じゃなくても埋められると思っています。(金融の)ド素人だからこそ、一般の人の気持ちで一般の人の需要を推測しながら、その人たちが最も求めるものを提供できると考えています。
http://diamond.jp/articles/-/139732
第三に、元大手銀行のマーケット・エコノミストで法政大学大学院教授の真壁昭夫氏が9月5日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「メルカリ「夏休みの宿題」出品に見るベンチャー育成の問題点」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・先日、公園で“フリーマーケット”が開催され、大勢の人で賑っていた。興味本位で品物を覗いてみると、雑貨から衣服、加工食品、骨董品など、ありとあらゆるものが出品されていた。中にはかなり年季の入った品物もあったが、どこも売れ行きは順調だったようだ。 最近、インターネットなどを通した個人間の取引を見ると、企業が提供しきれていないモノやサービスが多いように思う。そうした分野の潜在的な需要も大きいということだ。
・そうした取引に目をつけ、個人同士で取引するネット空間=マーケット・プレイスを提供し、急成長を遂げる企業が出てきた。国内ではメルカリがフリマアプリを提供し、断トツの成長を遂げている。個人の価値を評価しあい、それをトレードすることや、ネット上で物品を査定し現金との交換を行うビジネスも登場している。 個人同士が取引を行う、C to C(Consumer to Consumer)ビジネスのプラットフォーム構築は世界的な拡大を続けるだろう。その中で、これまでの常識を覆すようなケースも増えるはずだ。
・そうした新しい潮流は重要なのだが、今後、さまざまな問題が出てくることが想定される。中には、法令遵守への姿勢が問われるケースも出てくるかもしれない。ネットビジネスが急拡大する中、企業を含め社会全体でしっかりしたルール作りが必要だ。
▽急速に拡大する“C to C”ビジネス
・ネット業界では、電子商取引プラットフォーム上で企業が個人に対して物品やサービスの提供を行うことが普及してきた。今、このB to Cに代わり、C to C取引のサービスが急速に発達している。 その代表格がメルカリだ。同社はインターネット上でフリーマーケットを開催するアプリ(マーケットプレイス)を提供している。このアプリを使えば、誰でも、不要なものをインターネット上のフリーマーケットに出することができる。
・「なんでもメルカリに出品できる」と考える人は多いようだ。それほど、同社のサービスは支持されている。個人間で取引が成立すると、メルカリは購入者から手数料を徴収する。これが同社の収益源だ。すでに、日米合わせて7500万ものアプリダウンロード件数を達成するなど、急速な勢いでメルカリは成長している。
・多くのユーザーにとってメルカリは、不要なものを現金に換える「打ち出の小槌」のようなものなのかもしれない。ある大学生は、「捨てるならメルカリに出品する」と話していた。しかも、代金支払いのやりとりはメルカリが仲介するため、代金のやり取りに関する不安や煩わしさを感じることもないようだ。こうした手軽さと安心感が多くのユーザーを引き付けている。公園のフリマに出品する労力もかからない。
・海外でもC to C市場は急拡大している。米国ではLetgoやOfferupなどのベンチャー企業がC to C向けのマーケットプレイスを展開している。こうした動きを受けて、Facebookがフリーマーケット機能“Marketplace”を開始するなど、C to C市場の競争は世界的にし烈さを極めている。
▽今後、明確化すると見られる さまざまな問題
・個人同士の取引が増える中で、社会的な倫理観・価値観に照らした場合に許容されるか否か、議論の分かれるケースや、法律にも触れる恐れのあるトラブルや問題が増えている。メルカリのサイトを見ると、夏休みの宿題らしき小中高生向けの作文や読書感想文、自由研究の作品などが出品されている。本来、こうした学習課題は、児童・学生自らが取り組まなければならないことは言うまでもない。学生を教える立場から言えば、他人が作成したものを“自らの成果物”として提出することは言語道断だ。
・また、メルカリやヤフオクでは象牙を使った製品が取引されている。象牙の国際取引はワシントン条約によって原則禁止されている。国内で象牙製品を取引するためには、登録または届出が必要だ。すでに中国政府は、本年末までに象牙の商用取引を全面禁止すると発表した。世界自然保護基金(WWF)はマーケットプレイスの運営業者に対して象牙製品の取り扱い停止などを求めている。社会的な価値観に照らした場合に取引に問題がないか、批判を浴びないか、ユーザーと企業双方で冷静な検証が必要と考えられる。
・法令遵守への懸念もある。個人の価値を評価し、それを取引するトレーディングプラットフォームを運営するVALU社では、特定の個人が自らの価値を吊り上げた上で高値での売り逃げを狙った疑いのある案件が発生し、物議を醸した。 問題は、同社が個人の価値を株式に見立てていることだ。株式には配当の請求権をはじめとする客観的な価値=実体がある。しかし、同社のシステムに登録され、取引される個人の“価値”は、登録者と評価者の主観に左右される。円で配当が受け取れるわけではない。実体なき砂上の楼閣と取引しているというのが正確だろう。
・その他にも、バンク社が運営するCASHが貸金業法に抵触するのではないかとの批判も出た。新しいネットビジネスが基本的な定義を押さえ、法令を遵守した上で運営されているかは入念に確認されるべきだ。それが社会的な信用につながる。
▽各企業のコンプライアンス強化 社会全体での法整備の加速化は急務
・情報とコミュニケーション技術(ICT)の向上に伴い、従来にはないアイデアをもとに起業を試みる人は増えるだろう。それがベンチャービジネスの創出と育成につながり、競争を促進する。そうした動きが経済全体で進むようになると、わが国の潜在成長率の向上にもつながるだろう。
・そのためには、新しい企業のチャレンジと、コンプライアンス=法令遵守の両立が求められる。ベンチャー企業経営者の発言などを見ていると、ごく一部ではあるものの、企業ではなくユーザーに問題があるという認識があるのではないかと感じることがある。
・新しい試みであるだけに、どのような展開になるかはやってみなければわからない。しかし、それが始まった段階で企業は社会的な責任を負うことを忘れてはならない。規模の大小、歴史の長短にかかわらず、企業は社会的な公器である。各企業には個人ユーザーの法令を無視した行動を防ぎ、公正なC to C市場の育成を支える責務がある。それぞれの企業がビジネスに対する倫理観・価値観を提示し、それにそぐわないユーザーには利用を認めないといった取り組みは不可欠だ。それでも、個人の行動を100%コントロールすることはできない。性善説にのっとった発想では限界がある。
・政府はこの状況に危機感を持つべきだ。世界経済フォーラムが公表するICTの国際競争力ランキングでは、法規制面の整備に関するわが国の評価が低い。企業のコンプライアンス意識の向上だけでなく、それを支える社会インフラとしての法制度の整備は喫緊の課題だ。それができないと、ベンチャー企業の育成は難しいかもしれない。
・そうした取り組みこそが、規制の緩和や環境変化に対応した法規制の策定につながり、成長戦略の重要な基礎作りにつながる。新しい技術が普及し、これまでにはない経済活動が広がる中、対策を企業だけに任せることはできない。社会全体で取り組むことが必要だ。
http://diamond.jp/articles/-/140999
第四に、同じ真壁氏が9月12日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「VALU騒動」で問われるベンチャー企業のモラル」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・現在、世界的な流れとして、いわゆるネット企業が注目を集めている。その要因は、いうまでもない。ネットワーク社会の中で、彼らのビジネスには莫大な成長余地が存在するからだ。その代表格がアマゾンやグーグルであり、わが国のメルカリ、さらにはVALU(バリュー)などがある。 ただ、ネット企業のすべてが無条件に成長するわけではない。中には、ネット分野ゆえの問題点を抱える企業もある。今後、ビジネスのルールを構築したり、法律や制度の整備が必要になるだろう。
・最近、わが国のネットベンチャー企業に対する批判をよく耳にする。その理由の一つに、彼らが、基本的な理念やリスクへの対応を欠いたまま事業を開始してしまったことがある。それにもかかわらず、ネット企業に対する期待が風船のように膨らみ、根拠なき期待に支えられて人気のみが先行することになってしまうケースもある。
・海外でも物議を醸すITベンチャー企業はある。企業サイドに問題があることに加え、これまでになかった発想が事業化されたため、法制度などの対応が追い付いていないことも事実だ。問題は、そうしたマイナス面をいかに解消することはできるかだ。
▽株とは異なりまったく実体のないVALU
・今年8月、IT業界で大きな注目を集めたイベントの一つが“VALU騒動”だ。同社が扱う“VALU”が、常識では考えられないほど急騰する事態が発生したのだ。 VALUとは何か。同社のサイトでは、個人が自らの価値を発行することができる。ここでいう価値とは、特技、アイデアなどさまざまだ。発行された価値は第三者に評価される。
・第三者は、VALUを登録した人が将来ブレイクする、応援したいと思うなら、そのVALUを取得する(これをVALUER=評価者という)。それによって価値の取引が成立する。 VALUERは発行者から特別な情報を得たり、何らかの優待を得ることができる。なお、VALUの取引はビットコインによって成立する。
・個人の価値を取引するインセンティブは、基本的に購入する側の“期待”のみだ。VALUを登録した人の考えに共感したり、何らかのメリットがあると考える人が増えれば、VALUへの需要は高まる。需要が高まれば価格(価値)は上昇する。この関係を見ると、個人の価値を取引することは、ある意味では、金融商品のトレーディングに似ている。
・VALU社はVALUERを株主になぞらえてきた。一見すると、この例えはそれなりの説得力があるように思えるのだが、大きな落とし穴がある。VALUにはまったく実体がないのである。
・例えば、代表的な金融商品である株式には、法律によって配当の請求権、株主総会での議決権、残余財産の分配を請求する権利等が定められている。つまり、実体が備わっている。 ところが、VALU社のアプリで取引される個人の価値は、まず、発行者の意図によってイメージがつくられる。それを、評価者の期待や憶測が増幅する。発行者の義務と評価者の権利などは明示されていなかった。
・価値の厳密な定義や権利・義務の関係が明示されない中、評価者の間では、「VALU(株)を手に入れれば動画閲覧などの優待(株主優待)を受ける権利が得られる」とのイメージが独り歩きしてしまった(なお、現在の利用規約にはVALUは株式ではないことは明記されている)。
・この結果、8月上旬、人気ユーチューバーのVALUを手に入れれば優待を受けられるとの期待のみが先行し、買いが買いを呼んでVALUが急騰した。これが騒動の一因である。この騒動を知ったある経済学者は、「今回の騒動はオランダのチューリップバブルそっくりだ」と指摘していた。
▽リスクに関する認識の欠如が生んだ騒動
・その後、ユーチューバー本人が自らの価値を「売り」に出したことをきっかけに、このVALUバブルはあっけなく崩壊した。急落を受けて、「このユーチューバーは、初めからVALUの急騰を狙っていたのではないか」、「売り逃げ目的でVALUを登録したのではないか」など様々な憶測や非難が殺到し騒動が広がった。
・今回の騒動を一言で言うならば、評価者にとって期待と違うことが多すぎたため、価値急落による失望感が一気に溢れ出たと言えるだろう。 騒動が広がった原因の一つは、VALU社が価値変動のリスクを十分に理解し、評価者に周知徹底することができていなかったことにもある。市場参加者間の考えが偏りやすいほど期待先行で人気が高まり、短期間で価値が大きく変化する可能性は高まる。
・同社はVALUを、希少価値のあるトレーディングカードにもなぞらえている。一部のマニアの間では、特定の野球選手のレアなカードの価値が急騰することはしばしばある。ユーチューバーのファンの場合にも同じことが起きたのかもしれない。 その他にも、VALU社が認識できていなかったリスクは多い。ユーチューバーの自己顕示欲=目立ちたいという欲求が、今回の騒動の根底にありそうだ。騒動が起きたことによって、VALUの発行者と評価者間の情報の格差=“情報の非対称性”があまりに大きすぎることが白日の下に晒されたともいえる。
・同じような騒動を防ぐためには、VALUの発行者に関する情報の開示を進める必要がある。例えば、金融市場で一般企業が資金調達を行う場合、調達した資金の使用目的がどのようなプロジェクトか、どの程度の期間で事業を行うか、どのような成果が見込めるか、リスク要因は何か等、事細かな事業計画を作成することは当たり前だ。
・そうした情報があれば、購入側は冷静かつ客観的にVALUを評価することができるだろう。VALUの取引には、金融商品と同じくらい十分な情報開示が必要だ。今後、同社がこうした認識を深め、ユーザー、業界団体や金融庁をはじめとする利害関係者との議論を深めることが求められる。
▽ネット企業の今後のあるべき展開
・VALU社が、今のビジネスモデルを続けることで成長を実現できるかは不透明だろう。ただ、個人同士がそれぞれの考えなどを評価し、その価値を取引するという点でVALUの目の付け所は斬新であり、興味深い。 個人レベルでの事業計画への支援が受けられやすくなることで、さまざまなビジネスモデルを持ったベンチャービジネスが活性化されるなど、ダイナミックな展開につながる可能性もある。この点は評価に値する部分はある。
・新しい発想をビジネス化した際、ユーザーや社会がどのような反応を示すかは予見が難しい。VALU社は、このリスクについて事前の準備が不十分だったとも言える。今後も、ICT技術の発達やネットワークサイエンスの発展につれて、新しいアイデアをビジネス化する動きも加速するだろう。企業家には、一段のリスクマネジメントへの意識と、法令順守=コンプライアンスの精神が求められる。
・ネット企業としては、株式の新規公開(IPO)を目指すことも一つの選択肢だ。それによって、自社のビジネスモデルが、不特定多数の投資家の目に晒されるからだ。不特定多数の投資家に受け入れられるか否かを客観的に理解できる。 株式の新規公開を考える場合、経営者はビジネスが法令だけでなく一般社会の価値観にも適合しているか否かを常に考えなければならない。それが、リスクマネジメントや情報公開の改善につながり、企業の成長を支える可能性は高い。
・世界のベンチャー市場では、企業価値が10億ドル(約1080億円)を超える“ユニコーン企業”への関心が高まっている。その筆頭格と目される配車アプリのUBER(ウーバー)のトラビス・カラニック前CEOは、ハラスメントを容認する組織文化を放置したこと等への批判が高まった結果、辞任に追い込まれた。それでもライドシェアの先駆者としてのウーバーのビジネスモデルへの評価は高い。メルカリの上場への期待も高まっている。
・VALU社は今回の騒動への反省を生かし、ビジネスモデルが社会的な意義を備えていることを示さなければならない。それが当面の課題だ。その上で、同社は将来的なIPOを念頭に、法規制の整備などにも能動的に取り組み、イノベーションの実現を目指すべきだろう。
http://diamond.jp/articles/-/141834
第一の記事は、第二以降のベンチャー企業と違って、押しも押されぬ上場大企業である。それが、 『ステルスマーケティング(ステマ)が横行していると、報道機関などから指摘』、され、部分的には修正したが、まだ独自の考え方にこだわっているようだ。これは、ユーザーからの利用という形で審判を受けることになるだろう。
第二の記事で、改良後は、 『「返金」(返金の場合はキャンセル料15%が上乗せされる)の機能をなくしました』、ことで、質屋アプリではなくなり、貸金業法違反の疑いの余地も消えたようだ。 『91%の人がちゃんと取引してくれています』、らしいが、悪質な人間のサークルにその存在が広まれば、悪質な人間の割合がもっと大きくなる可能性も否定できない。
第三の記事で、 『メルカリのサイトを見ると、夏休みの宿題らしき小中高生向けの作文や読書感想文、自由研究の作品などが出品されている』、というのは笑ってしまうが、サイト運営者として、公序良俗に反してないかきちんとチェックしていれば、防げた筈だ。 『それぞれの企業がビジネスに対する倫理観・価値観を提示し、それにそぐわないユーザーには利用を認めないといった取り組みは不可欠だ』、というのはその通りだ。
第四の記事で、 『VALU社は今回の騒動への反省を生かし、ビジネスモデルが社会的な意義を備えていることを示さなければならない』、としているが、これはどう考えても、「ないものねだり」に過ぎないように思われる。
タグ:ネットビジネス (その3)(通販急伸のヤフー ステマ疑惑への「言い分」、質屋アプリ「CASH」再開の理由、メルカリ「夏休みの宿題」出品に見るベンチャー育成の問題点、「VALU騒動」で問われるベンチャー企業のモラル) 東洋経済オンライン 通販急伸のヤフー、ステマ疑惑への「言い分」 宮坂社長「早く気づけばと反省しているが…」 ヤフー 宮坂学社長 ショッピングが大幅拡大 売り上げロイヤルティ(システム料)を無料化 出品商品数が2.9億を超え、国内最大規模となっている 力を入れたのが、ストア向けに提案する広告メニュー ステルスマーケティング(ステマ)が横行していると、報道機関などから指摘 宮坂社長「われわれのミス、反省している」 メーカー側が小売り企業に販促費を支払うことが当たり前に行われている。ヤフーの主張は、その“当たり前”がインターネット上のモールで許されないのはおかしい、というものだ ダイヤモンド・オンライン 質屋アプリ「CASH」再開の理由、社長が騒動後初激白! CASH ・スマホで商品を撮影して送信するだけで瞬時に現金化できるアプリ サービス開始後わずか16時間で停止に追い込まれていたが、8月24日、運営するバンク社はサービス再開に踏み切った 手軽に瞬時に現金化できる斬新さが大ウケ たった1日で3.6億円が現金化 ファッションやガジェットなど中古品の二次流通が確立しているアイテムを買い取るビジネス 性善説」に基づいたビジネスモデル 継続的に運営していたら資金が追いつかないという問題に直面 物流の問題 再開に至った最大の理由は、この事業にポテンシャルがあり、採算性を担保して事業展開できる見込みがあると判断したからです 91%の人がちゃんと取引してくれています 消費者金融ではカバーしていない少額の資金ニーズ。こうしたニーズは潜在的に消費者の中にものすごくあると思っていますが、手軽にカジュアルにスピーディに応えられる企業、サービスはありませんでした 一日に私たちが現金化する予算の上限を設定 新たに評価制度を導入 、「返金」(返金の場合はキャンセル料15%が上乗せされる)の機能をなくしました 金を選ぶユーザーは2%に過ぎませんでした 真壁昭夫 メルカリ「夏休みの宿題」出品に見るベンチャー育成の問題点 C to C(Consumer to Consumer)ビジネスのプラットフォーム構築 急速に拡大する“C to C”ビジネス 購入者から手数料を徴収 日米合わせて7500万ものアプリダウンロード件数 不要なものを現金に換える「打ち出の小槌」のようなものなのかもしれない 社会的な倫理観・価値観に照らした場合に許容されるか否か、議論の分かれるケースや、法律にも触れる恐れのあるトラブルや問題が増えている 夏休みの宿題らしき小中高生向けの作文や読書感想文、自由研究の作品などが出品されている 象牙を使った製品が取引 ワシントン条約によって原則禁止 VALU社では、特定の個人が自らの価値を吊り上げた上で高値での売り逃げを狙った疑いのある案件が発生し、物議を醸した 各企業のコンプライアンス強化 社会全体での法整備の加速化は急務 世界経済フォーラムが公表するICTの国際競争力ランキングでは、法規制面の整備に関するわが国の評価が低い 「「VALU騒動」で問われるベンチャー企業のモラル 彼らが、基本的な理念やリスクへの対応を欠いたまま事業を開始してしまったことがある ネット企業に対する期待が風船のように膨らみ、根拠なき期待に支えられて人気のみが先行することになってしまうケースもある 株とは異なりまったく実体のないVALU ・個人の価値を取引するインセンティブは、基本的に購入する側の“期待”のみだ 評価者の間では、「VALU(株)を手に入れれば動画閲覧などの優待(株主優待)を受ける権利が得られる」とのイメージが独り歩きしてしまった 騒動が広がった原因の一つは、VALU社が価値変動のリスクを十分に理解し、評価者に周知徹底することができていなかったことにもある 、VALUの発行者に関する情報の開示を進める必要 VALUの取引には、金融商品と同じくらい十分な情報開示が必要だ VALU社が、今のビジネスモデルを続けることで成長を実現できるかは不透明だろう 個人同士がそれぞれの考えなどを評価し、その価値を取引するという点でVALUの目の付け所は斬新であり、興味深い ・VALU社は今回の騒動への反省を生かし、ビジネスモデルが社会的な意義を備えていることを示さなければならない
2017-09-17 19:25
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