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ブラック企業(その8)(過労死は「気の持ちよう?!」…怒 職場の責任を個人の責任にすり替えさせちゃダメ!、“ほろ酔い気味の医師”に手術させる気か?) [社会]

ブラック企業については、7月27日に取上げたが、今日は、(その8)(過労死は「気の持ちよう?!」…怒 職場の責任を個人の責任にすり替えさせちゃダメ!、“ほろ酔い気味の医師”に手術させる気か?) である。

先ずは、健康社会学者の河合薫氏が8月22日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「過労死は「気の持ちよう?!」…怒 職場の責任を個人の責任にすり替えさせちゃダメ!」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・今回は「似て非なるもの」というテーマで、アレコレ考えてみる。 まずはこらからご覧いただきたい。
 +「ストレスで突然死」仕組み解明…マウスで確認(読売新聞)
 +ストレス起因の胃腸・心疾患、発症の仕組みがわかった!(日刊工業新聞)
 +「病は気から」メカニズム解明 マウスの脳に炎症 北大研究チーム(朝日新聞)
・各々の見出しを読んで、どう思いますか? 「読売と日刊工業のは同じ内容だろ?」 「うん、そんな気がする。だってどっちも過労死の話でしょ」 「昨日まで元気だった人が、なぜ、心筋梗塞とかで死んじゃうのかってことか」 「朝日のは心理実験かなんかかな?」 「う~ん、ネズミにも“病いは気から”なんてあるのか?(笑)
・すっげ~な~」 ええ、そうなんです。読売と日刊工業は「過労死(突然死)のメカニズムの解明」を、朝日新聞は、なんと「ネズミちゃんの世界にも“病いは気から”」があって、そのメカニズムが解明されたことを報じたのです。要するに「ネズミの心理実験」です!  ………というのは、真っ赤なウソ!(朝日新聞さん、すみません)。 実はこれ。違うのは見出しだけで、中身は全く同じもの。
▽ストレスの影響についての画期的な研究
・先週、話題となった北海道大学遺伝子病制御研究所の村上正晃教授らの研究グループが、世界で初めて明らかにした「ストレスが臓器の機能を低下させるメカニズム」に関する内容を報じたものだったのである。  これまでにもストレッサー(ストレスの原因となるさまざまな刺激)に長時間さらされると、生体に変化が起こり、高血圧症、胃・十二指腸潰瘍、糖尿病、心疾患などを発症することは、心理神経免疫学領域の多くの研究で明らかにされてきた。ただ、その分子的なメカニズムは読み解けていなかったため、村上教授らの研究グループが、その解明に挑んでいたのである。
・具体的な実験方法および結果は以下のとおり(日刊工業新聞の記事より抜粋)。
 +睡眠不足のストレスを与えたマウスに、自己免疫疾患モデルのマウスから採取した病原性の免疫細胞「CD4+T細胞」を投与。
 +その結果、70~80%のマウスが1週間で突然死。
 +ストレスのみ、または同細胞のみでは突然死は起こらなかった。
 +突然死したマウスでは、胃や腸など消化管からの出血があり、心疾患と関係が深い血中カリウムイオンも上昇。
 +脳では、視床などに囲まれた特定の血管から同細胞が侵入し、小さな炎症を発症。
 +この炎症が引き金で神経回路が活性化し、消化管や心臓の機能不全の原因になっていることが分かった。
・研究結果は、eLifeという生命科学専門のオンライン誌に掲載され(“Brain micro-inflammation at specific vessels dysregulates organ-homeostasis via the activation of new neural circuit ”)、研究グループの村上教授は、 「T細胞の量を調べることで突然死のリスクの解明や、治療法確立につながるかもしれない」 と述べているという。
・ふむ。いったいこれのどこに「病いは気から」というのが、あるのだろうか? 面白くて分かりやすい見出しは大事だけど 「病いは気から」の意味は、ことわざ辞典にはこう記されている。 病は気からとは、病気は気の持ちようによって、良くも悪くもなるということ。 心配事や不愉快なことがあったりすると、病気になりやすかったり、病が重くなったりするものである。 気持ちを明るく持ち、無益な心配はしないほうが、病気にかかりにくかったり、病気が治りやすかったりするということから「病は気より」ともいう。
・ふむ……。ひょっとするとマウスにも“気持ち”があるってことなのか? ミッキーはいつも元気だし、ミニーもいつも明るく振る舞っている。だからミッキーもミニーの365日、病気になることなく元気に働いているって? ま、まさか……。 仮にマウスに“気持ち”があったとしても、そのマウスの“気持ち”を人間世界のことわざに置き換えることには違和感がある。
・だって、これだけ突然死である「過労死」が問題になっているわけで。 正直に言わせていただくと、ストレス研究の片隅にいる身としては憤りすら覚えてしまったのだ。 新聞の見出しについて言えば、奇しくも、報道された数日前に「『CAの声が震えていた』 全日空緊急着陸」という見出しで、ANAの緊急着陸のトラブルが報じられていただけに気になった。
・このトラブルの起きた日は、32年前、JAL123便が“御巣鷹の尾根”に墜落したときと同じ、8月12日(ちなみに、私が昨年この日に書いたコラムはこちら)。 私が飛んでいたときにも、CAは緊急時に備え厳しく訓練を課せられていたし、1999年の全日空61便ハイジャック事件以降、さらに厳しくなったと同期たちから聞いていたので、「声が震えていた」とは、残念で仕方がなかった。 
・ところが、その後YouTubeにアップされた実際の映像を見ると、「私じゃ、ここまでできないかも……」と思うほど立派で。最初こそ、若干つっかえてはいたけど、あとは極めて冷静に状況を伝えていて、動画からもCAのアナウンスで機内が落ち着いた空気に包まれていくのが伝わってきた。
・私自身、どんなにいいコラムを書いても「読まれてなんぼ」なので、センセーショナルなタイトルをつけることも多い。 それでもやはり「声が震えていた」という部分だけ切り出していたことには、憤りを通り越して恐いと感じた(自戒も込めて)。 朝日新聞は、なぜ「過労死の防止につながる」可能性のある、素晴らしい研究結果に、“病いは気からの仕組み解明”などという見出しをつけてしまったのか?
▽ストレスの影響を定量化できる研究なのに
・定期健康診断のときにT細胞を調べて、「やばい増えてる。仕事休もう!」と自己管理できたり、「あなたはT細胞が増えてるので、残業は禁止です」と従業員の健康管理に使える可能性がある、極めて貴重な研究成果だ。それだけに残念で、残念で、私の脳内の“突っ込み隊”が暴れまくってしまったのである。
・……ところが……(“ところが”だらけで申し訳ない)、 朝日新聞の報道のソースを探っていたところ、驚愕の事実が発覚。 な、なんと北海道大学が研究成果を発表したプレスリリースの見出しに、 世界初!「病いは気から」の分子メカニズムの解明 ――キラーストレスはどのようにして消化管疾患や突然死をもたらすのか――  と、大きく書かれているではないか!
・しかも、プレスリリースの説明によると、 「今回の研究では、過労による突然死や「病いは気から」の原因として認識されるなど社会的に広く問題となっている慢性的なストレスが、特定の神経回路の活性化を介して~~~(略)」 とのこと。 
・えっと、本当に北大の方々には大変申し訳ないのだが……、これってどうなのでしょう??  私の脳レベルでは、書かれていることが日本語的に全く理解不能。 おそらく「同じようにストレスを与えても、ストレス関連ホルモンの分泌に個体差(マウス)がある」ことを「病いは気から」という文章で表現し、「ストレスを与え続けること」を「慢性的ストレス」としたのだろうけど、研究者の端くれとしてはやはり納得できない。
・もちろんそこまで深い意味はなく、「気の持ちよう」というのはポジティブにも、ネガティブにも使える言葉で、難しい研究結果を広く知ってもらうことが目的だったのかもしれないけど……。 「病は気から」ということわざには、どうしても「本人の」気の持ちよう、すなわち自己責任のニュアンスが強くまとわりつく。「ストレスと感じるかどうかは自分次第だろ」と言っているように私には思えて、そこが気になってしまう。
・いずれにしても、今回の研究テーマである「ストレス性の疾患への“気”の影響」は、その人の肉体や、置かれた環境に大きく左右され、「気の持ちよう」に見えて、「気の持ちよう」ではないのである。 例えば、36度という酷暑はストレスだが、身体的抵抗力の低い高齢者や子どもは、若年や壮年期の成人に比べストレスがかかる。この差に「気持ち」は存在しない。
・また、一般的に「ストレスに強い」とされている人だって、「気の持ちよう」で乗り切っているわけじゃない。  ストレスに上手く“対処”することで、ストレスを軽減しているのだ。 対処にはリソースが必要不可欠で、リソースは、専門用語ではGRR(Generalized Resistance Resource=汎抵抗資源)と呼ばれている。これは「世の中にあまねく存在するストレッサー(ストレスの原因)の回避、処理に役立つもの」のこと。
・リソースには、環境が個人に与える「外的な力(=社会的資源や物質的な外的なもの)」と、個人に内在する「内的な力(=認知的、遺伝的体質や気質)」がある。 要するに、ストレスの雨をしのぐ“傘”(=リソース)なくして、ストレスに対処することはできない。単純に「気持ち次第」と言うのは危険だ。だって、傘がなければどうしたって濡れる。気持ちだけでどうにかなるものではないのである。
▽ストレスを「感じなくなる」から大問題なのだ
・そもそも突然死である「過労死」に至る人のほとんどが、亡くなる直前までストレスを感じず、自分が死に至るほど「疲れている」という自覚症状もない。 その「自分が過労死するとは思わずに、過労死するまで働き続けてしまう謎」を解明するために行われたのが、「疲労研究班」(20以上の大学や機関の研究者で構成された文部科学省主導の研究会。平成11~16年にわたって様々な研究を行っている)による、マウスを使った実験である(参考記事:「“スーパーネズミ”はなぜ死んだ?」)。
・人間の脳の中には「疲れの見張り番」と呼ばれる部分があり、見張り番は心身にストレスがかかると「休んでください!」という指令を出す。 ところが、その指令を無視して働き続けると、見張り番自体が疲弊してし「休んでください」という指令を送れなくなる。 指示が出ないから、ストレスが体にかかっていると認識することができなくなり、突然死するまで働きつづける。
・さらに、何度も書いているとおり、生体にストレスとなる長時間労働や睡眠不足、深夜勤務は、「気」でどうにかなるものではない。 ストレスが脳血管疾患、心臓疾患発症のリスクを高めることがは疑いようもなく、国内外の多くの研究で明確に認められている(Liu Y, Tanaka H, The Fukuoka Heart Study Group (2002) “Overtime Work, Insufficient Sleep, and Risk of Non-fatal Acute Myocardial Infarction in Japanese Men" Occup Environ Med, 59, 447-451. など)。
・つまり、「忙しいのにも慣れちゃった」と明るく笑い飛ばしたり、一所懸命であればあるほど、過労死や過労自殺するリスクは高まる。前向きに気持ちを保つこと自体が、もっとも危険な状態なのだ。 つい先日も、某企業の新入社員の男性が(当時22歳)が、入社研修中に男性講師の言動で精神疾患(統合失調症)を発症し過労自殺したとして、労災を認定していたことがわかった。
・男性は、2013年4月の入社直後から8月までの予定で研修を受講。 4月10~12日に行われた、「意識行動変革研修」を受けた際、講師から「吃音」と決めつけられ(報道によっては「言わされた」というのもあり)、いじめられた経験を同期入社の前で言わされ、そのひと月後に自殺したのだ(こちら)。 この事例は、過労自殺であり、過労死ではないし、実際どのような研修が行われていたのかは報道以上のことは、わからない。
・でも、「働く意識」はひとつひとつ仕事に関わる中で変わるものだ。 自分にできなかったことが出来たり、思いもしなかった結果を出せたり、自分では気付かなかった能力を発揮したときにはじめて、仕事への意識は変化する。 それはストレスに上手く対処し、自己の成長につながるプロセスでもある。
▽過労死対策は職場の、社会の責任だ
・大切なのは「ストレスをストレスと感じない精神」を叩き込むことではなく、「遭遇したストレスに対処できるリソース」を職場に備えること。仕事のストレスに悩むことを「個人の責任」ではなく、「職場の責任」と意識を改めることが、今の日本社会にもっとも求められているはずなのだ。
・また、2年前に自殺した産婦人科勤務の男性医師(当時30歳代)が、原因は過労だったとの報道もあった。月173時間もの時間外労働をし、それでも本人は必死でがんばった末の死だった。 「息子は研修医として、その激務にまさに懸命の思いで向かい、その業務から逃げることなく医師としての責任を果たそうとし、その過程で破たんをきたしたものと思われます。 医師も人間であり、また、労働者でもあり、その労働環境は整備されなければこのような不幸は繰り返されると思います」(男性のご両親のコメントより:引用元はこちら、閲覧には登録が必要です)
・過労死(=突然死)は、長時間労働などがもたらす死だし、長時間労働は過労自殺の引き金になる。 どちらも個人の問題ではなく、職場の問題。本人の気の持ちようでどうなるものではない。 逆説的にいえば、今、社会問題となっている過労死や過労自殺は『避けることの出来る死(avoidable death)』。つまり、個人の問題ではなく、社会的な問題なのだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/082100118/?P=1

次に、同じ河合氏が9月12日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「“ほろ酔い気味の医師”に手術させる気か? リゲイン世代も仰天、月300時間の時間外労働って何なの」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・大阪府の国立循環器病研究センターが、勤務医や看護職員の時間外労働を「月300時間」まで可能にする36協定を結んでいたという、驚愕の事実が先週報じられた。 「月300時間の労働」じゃありませんよ。「月300時間の時間外労働」です。
・報道によれば、国循人事課の担当者は……(以下、朝日新聞9月7日付朝刊より)、 「医師や一部の看護師、研究職ら約700人について、特別な事情がある場合『月300時間を年6回、年間2070時間』まで延長できるが、実際の労働時間は、36協定の上限までに十分余裕がある」 と説明。
・また、毎日新聞の取材に対しては(こちら)、 「実際は300時間も働いている医師はいない。時間外労働が45時間を超えた場合、月1回の安全衛生委員会で議題に上げ、所属長に業務分担を求めたり、産業医との面談を勧めたりしている。(上限300時間を決めた)当時の担当者は既に退職し、なぜ300時間としたか分からない」と回答したそうだ。
・なんという無責任な回答なのだろう。 担当者がいないからわからない、って? 「実際にはいないから、問題ない」とも取れる対応には、憤りすら感じる。
・そもそも「上限300時間」が明らかになったのは、国循の脳神経外科病棟に勤務していた看護師の女性(当時25歳)が、2001年に過労死し、担当弁護士が情報公開を求めたのがきっかけだった(こちら)。 亡くなった女性は、患者の世話に加え、勉強会や研修会の準備などで日常的に残業を強いられていたところで、新人の指導係にもなった。 くも膜下出血で倒れるまでの時間外労働は、過労死ラインを下回る50~60時間前後。 ただし、勤務の終わりから次の勤務が始まるまでのインターバル期間は、5時間程度しかない日が月平均5回もあった。夜勤の日は20時間近くの連続勤務。 この夜勤勤務の負担が考慮され、過労死が認められたのである。
▽1日当たり約14時間?!
・女性が亡くなったのは16年前で、2008年に過労死認定されてからは10年“も”経つ。 その2年後の2010年4月に国循が国の機関から独立行政法人に移行し、「上限300時間」の協定を締結。その後も毎年同じ内容で更新していたという。
・日本人の年間の労働時間は2010時間前後。時間外の月300時間労働をもし1年間続けたら、時間外だけで平均の1.5倍を超える。つまり、1人で2人分以上働く計算になる。 いや、そもそも、月300時間を1日あたりに換算してみたことがおありだろうか。 単純計算すると、1日あたり約14時間になる。
・え? と思われるかもしれない。 これは、土日とカレンダーの祝日を合わせて、年120日前後の休日があるためだ。これを365日から差し引いて、年間労働日数を260日とすると、月労働日数は21.6日になる。300(時間)を21.6(日)で割れば、労働日数1日あたりの残業時間は13.8となるのだ。 1日の労働時間を8時間とすると、プラス14時間で、22時間勤務が可能になる。 22時間。そう、月300時間を上限、ということは、1日22時間の勤務が可能ということだ。
・えっと、1日って何時間でしたっけ? ……私の理解では「1日は24時間」だと思うのだが、まさか「ナポレオンは3時間しか寝てなかったというし、世の中にはショートスリーパーという人たちもいるしね」と考えた? いやいや、まさか。 ふむ。要するに暗に「休むな! 働き続けろ!」ってことなのだな。きっと。
・では、働き続けるとどういうことになるか。
 +「長時間勤務になると、針刺し事故が統計的に有意に増加(Ayas NT, Bager LK, et.al .Extended work duration and the risk of self-reported percutaneous injuries in interns. JAMA ,2006)」
 +3日に1回、 24 時間以上の長時間連続勤務をした場合と、長時間連続勤務の上限を16時間、週当たりの勤務時間を60時間に制限した場合とを比較すると、24時間以上の連続勤務の「処方ミスと診断ミス」が明らかに多い(Landriga CP, Rotheschild JM, eta al. Fffect of reducing interns’ work hours on serious medical errors in intensive care units. N Engl J Med,2004 )
 +前日に当直であった医師が執刀した手術後 の患者においては、合併症が45%多かった(Haynes DF, Schewedler M, et al. Are postoperative complications relted of resident sleep deprivation? South Med J, 1995)
 +徹夜明けの勤務のパフォーマンスはアルコール摂取時と同等(Dawson D,Reid K. Fatigue, alcohol and performance impairment. Nature ,1997)
 +当直で夜間に呼び出しされた場合の運転技能が、アルコール摂取時の技能と同等か、または低い(Robbins J, Gottelieb F. Sleep deprivation and cognitive testing in internal medicine house staff. West J Med, 1990)
 +長時間連続勤務すると、手術に注意力が低下しミスが増える(Kahol K, Leyba MJ, et al. Effect of fatigue on psychomotor and cognitive skills. Ame J Surg, 2007)
▽聖職だから青天井?
・つまり、休まず働き続ける医療関係者たちは、本人たちのみならず、患者までも危険にさらす。 当直明けの看護師にはケアして欲しくないし、医師には「頼むから手術なんてしてくれるな!」と叫びたくなる調査結果が示されているのだ。
・ちなみに36協定は“青天井”と思われているけど、正確には上限がある。 行政規制ではあるものの、「1日」「1日を超えて3カ月以内の期間」「1年」ごとに延長可能な時間の限度があり、「300時間」は1年間の上限に相当する(労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準<労働省告示第百五十四号>)。
・医師の残業規制の話題になると、「いやいや、俺はもっと患者さんのために働きたい」 「いい医療を施すために、もっと技術や知識を習得したい」と反論する医師たちもいるが、「ホントにいい医療を提供したい」と思ってくださるなら、寝てください。でもって、病院側は強制的にでも休ませて欲しい。
・「こっちとしてはね、医師や看護師などね、医療に関わるものはね、“休む”なんてこと考えちゃいけないのよ。だってうちは“高度医療”も担っていますから。 それに『目の前の患者を救って欲しいというのが、多くの国民の思いであり、医療者の思いでもある』しね」。 私にはこう言っているようにしか聞こえないのだ。 一部の医療関係者たちは、いまだに 「医者は聖職であり、医者は唯一無二の存在だ」 と確信しているのではあるまいか。
・今年3月。「医師は労働者かと言われると違和感がある」との発言が日本医師会の横倉義武会長からあった。 政府が労働時間に罰則付き上限を設ける「働き方改革実行計画」を取りまとめた際に、横倉会長は日本医師会の定例記者会見で次のように語った(政府は医師への規制適用には5年間の猶予を与えるとしている)(こちら)。
▽そりゃ昭和23年の法律でしょう…
・「今回の議論で、多くの患者さんや国民から『医師が労働者であるということは違和感がある』との声をたくさん頂いた。 この機会に、そもそも医師の雇用を労働基準法で規律することが妥当なのかについても、抜本的に考えていきたい。 医師の応招義務については、『たとえ勤務時間の規制に抵触しようと、目の前の患者を救って欲しい』というのが、多くの国民の思いであり、医療者の思いでもある。 これらの諸課題を解決するためにも、厚生労働省内に設置予定の検討の場に日医としても参加し、積極的に議論をリードしていきたい」
・確かに、医師法19条には、 「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」 との定めがある。 だが、医師である前に労働者だし、病院や企業に雇用されている労働者だ。 もちろん「たとえ勤務時間の規制に抵触しようとも、目の前の患者を救って欲しい」 という気持ちが「ない」と言ったら、それはウソになる。  急病になって 「先生、助けてください!」 と病院にかけつけたとき、 「あ~、ダメダメ。勤務時間外だからムリだよ。他に行って」 なんてことになったら困る。
・しかしながら、この医師法が決められたのは、昭和23年。大学病院などの大きな医療機関の“先生”ではなく、「○○町の▲△医院」といった具合に、お医者さんが自分の家などで治療し、「○○先生のところで診てもらおう」という時代のお話で。 今は「医者」ではなく「○○大学、▲△医療センターなど、病院」にかかる時代だ。  つまり、医師個人ではなく、組織での対応を前提としてくれればいい。
・それでもやはり「○○先生じゃなきゃ、困る」という人はいるだろう。 実際、私は父が救急車に運ばれた時、たまたま主治医が当直の日でものすごく安堵した。「パパ、運が良かったね」と。 だが、担当医がいないことへの不安は「我が病院はチーム医療です!」としつつも、「当然、医師は知っているだろう」と信じていたことが伝わっていなかったりすることが原因であり、「病院という組織」がきちん診てくれる体制なり、組織運営をしてくれればすむ話だ。
・以前、医師の過重労働についてコラムで(「内心、『医者は酷使されていい』と思ってない?」)
 +家族が来た時に、担当医がいないと「これじゃ、家族には親の病気の状態がどうなっているかわからないじゃないか! さっさと呼べ!」って、怒り出す人
 +退院するときに担当医がいないと、不機嫌になる家族。
の実態に触れ、“私たち側”の身勝手な振舞いが、どれだけ医師たちを追いつめ、過重労働に追い込んでいるのかを書いた。
・医者だった大切な息子さんを亡くしたご家族は、 「医者は24時間365日働いて当たり前とでも思っているんでしょうか。真面目にやってきたのに、かわいそうで。『人の命は何よりも重い』と教育されてきたけど、医者の命だけは軽いのかもしれません」 と嘆いていた。
・こういった“医師は万能な存在”と勝手に信じ込む、身勝手な家族から医師を守るためにも、医療側は「医師をきちんと休ませられる体制」を作り、「医師個人の問題」ではなく「医師を雇用する職場の問題」と、医療者側が医師の命を守るバリアになって然るべき。 いったい何人の医師や看護師さんたちが命を絶てば、70年前の昭和23年の考えを変えてくれるのだろう。
・医者から、「食生活を改めなさい!」「もっと運度しなさい!」「タバコをやめなさい!」……さもなければ、「心臓病で死にますよ!」 と何度言われても、実際に習慣を変えられる人は7人に1人にすぎないとの研究結果を嘆く医師が少なくないだけに、なんとも釈然としない気持ちばかりが募ってしまうのである。
▽組織の責任を、個人に丸投げ
・ただでさえネット、携帯など通信機器の発達により私たちの生活は、「仕事」と切り離すのが難しくなった。  一昔前であれば「連絡がつかない」というエクスキューズが使えたのに、今は「なぜ携帯に出なかった!」と叱られる始末だ。 ネットで個人が組織に24時間つながれる状態になったことで、本来「組織」として対応すべき問題が、「仕事への誠実さ」、あるいは「生活」を人質に、「個人」に丸投げされているんじゃないか?
・そういう過酷な状況に置かれて、「誰かのために自分の生活や健康を犠牲にしている」という自覚がある人が増えているから、他人にも自分と同じ対応を求めたくなる人が多くなっているのではないか?
・24時間ワンオペ状況に医師のみならずすべての労働者が置かれていて、頭の片隅には常に「仕事」の文字がうごめいている。 寝る直前にメールを確認し、目覚めとともに携帯やパソコンを見る。 友人と飲み屋に入ると「電波が届いているか」が気になり、旅行に行ってもwifiがつながる場所を必死で探している“自分”がいる。
・疲れているはずなのに目が覚める。 「なんだまだ3時じゃん」などと時計を見て、長く眠れないことが不安になる。 「翌日の仕事への不安感」が高いほど「深い睡眠の時間」が減るため、熟睡できないのだ(Anderson T.Impaired sleep after bedtime stress and worries. Bio Psyco, 2007)。
・そこで近年、欧米を中心に注目されているのがサイコロジカル・ディタッチメント(Psychological detachment)という概念である。 これはドイツの医療科学者ソネンターグ博士により提唱され、 「仕事のストレスや疲労の回復には、仕事を終えて、物理的に仕事(職場)から離れるだけでなく、心理的にも仕事から離れることが重要である」 とし、「睡眠の大切さ」を問う学説やエッセーが大量に出回る火付け役にもなったとされている。
▽時間外のメールは受信拒否!
・2014年にはドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州において、社会民主党が「反ストレス法」の制定を提案し話題となり、今年1月にはフランスで、従業員数50人以上の企業に勤務する労働者には、「勤務時間外の仕事関連のメール受信を拒否する」法的権利が与えられることになった。
・通常勤務時間以外のメールでさえ心理的にストレスが増し、睡眠、頭痛、疲労、不安神経症、胃の疾患のリスクが高まり、筋肉障害、心臓や血管の病気との相関関係が高いとされているのだから、“職場に拘束される”ことがいかに健康にマイナスかは容易に想像がつくはずである。
・1990年代以降、深夜交代制勤務者は一貫して上昇傾向にあり、約1200万人以上が深夜業に従事しているとされている(こちら)。 「一億総時間外労働“月300時間”時代」は、あながち冗談ではない。国立循環器病研究センターの問題は他人事ではないということだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/091100121/?P=1

第一の記事で、 北海道大学遺伝子病制御研究所の村上正晃教授らの研究グループの研究紹介の新聞記事だけでなく、プレスリリースにも、 『「病いは気から」』、と説明されていたというのは、分かり易さの余り筆がすべってしまったのだろう。  『人間の脳の中には「疲れの見張り番」と呼ばれる部分があり、見張り番は心身にストレスがかかると「休んでください!」という指令を出す。 ところが、その指令を無視して働き続けると、見張り番自体が疲弊してし「休んでください」という指令を送れなくなる。 指示が出ないから、ストレスが体にかかっていると認識することができなくなり、突然死するまで働きつづける』、というのは、初めて知ったが、なるほどと納得させられた。 『過労死対策は職場の、社会の責任だ』、との主張には同感させられた。
第二の記事で、 『大阪府の国立循環器病研究センターが、勤務医や看護職員の時間外労働を「月300時間」まで可能にする36協定を結んでいた』、というのは、驚かされた。 『3日に1回、 24 時間以上の長時間連続勤務をした場合と、長時間連続勤務の上限を16時間、週当たりの勤務時間を60時間に制限した場合とを比較すると、24時間以上の連続勤務の「処方ミスと診断ミス」が明らかに多い』、というのであれば、そんな 『“ほろ酔い気味の医師”に手術』、される可能性があるなどということは、考えるだけでも恐ろしいことだ。 『“医師は万能な存在”と勝手に信じ込む、身勝手な家族から医師を守るためにも、医療側は「医師をきちんと休ませられる体制」を作り、「医師個人の問題」ではなく「医師を雇用する職場の問題」と、医療者側が医師の命を守るバリアになって然るべき』、というのは正論だ。 『サイコロジカル・ディタッチメント』の考え方を、日本でも医療分野だけでなく、一般業種でも出来るだけ前向きに取り入れてゆくべきなのかも知れない。
タグ:大学病院などの大きな医療機関の“先生”ではなく、「○○町の▲△医院」といった具合に、お医者さんが自分の家などで治療し、「○○先生のところで診てもらおう」という時代のお話で (その8)(過労死は「気の持ちよう?!」…怒 職場の責任を個人の責任にすり替えさせちゃダメ!、“ほろ酔い気味の医師”に手術させる気か?) どちらも個人の問題ではなく、職場の問題 、「忙しいのにも慣れちゃった」と明るく笑い飛ばしたり、一所懸命であればあるほど、過労死や過労自殺するリスクは高まる。前向きに気持ちを保つこと自体が、もっとも危険な状態なのだ 医師法が決められたのは、昭和23年 医師の応招義務 GRR(Generalized Resistance Resource=汎抵抗資源) ブラック企業 ところが、その指令を無視して働き続けると、見張り番自体が疲弊してし「休んでください」という指令を送れなくなる。 指示が出ないから、ストレスが体にかかっていると認識することができなくなり、突然死するまで働きつづける 人間の脳の中には「疲れの見張り番」と呼ばれる部分があり、見張り番は心身にストレスがかかると「休んでください!」という指令を出す ストレスが臓器の機能を低下させるメカニズム ストレスを「感じなくなる」から大問題 ストレスに上手く“対処”することで、ストレスを軽減しているのだ。 対処にはリソースが必要不可欠 村上正晃教授らの研究グループ 北海道大学遺伝子病制御研究所 ・リソースには、環境が個人に与える「外的な力(=社会的資源や物質的な外的なもの)」と、個人に内在する「内的な力(=認知的、遺伝的体質や気質)」がある ストレスで突然死」仕組み解明…マウスで確認(読売新聞) 。「ストレスと感じるかどうかは自分次第だろ」と言っているように私には思えて、そこが気になってしまう 「病は気から」ということわざには、どうしても「本人の」気の持ちよう、すなわち自己責任のニュアンスが強くまとわりつく 過労死は「気の持ちよう?!」…怒 職場の責任を個人の責任にすり替えさせちゃダメ! 日経ビジネスオンライン サイコロジカル・ディタッチメント 世界初!「病いは気から」の分子メカニズムの解明 ――キラーストレスはどのようにして消化管疾患や突然死をもたらすのか―― 仕事のストレスや疲労の回復には、仕事を終えて、物理的に仕事(職場)から離れるだけでなく、心理的にも仕事から離れることが重要である 河合薫 医師は労働者かと言われると違和感がある」との発言が日本医師会の横倉義武会長からあった 聖職だから青天井? 長時間連続勤務すると、手術に注意力が低下しミスが増える 当直で夜間に呼び出しされた場合の運転技能が、アルコール摂取時の技能と同等か、または低い 徹夜明けの勤務のパフォーマンスはアルコール摂取時と同等 研究成果を発表したプレスリリース 前日に当直であった医師が執刀した手術後 の患者においては、合併症が45%多かった 長時間勤務になると、針刺し事故が統計的に有意に増加 この夜勤勤務の負担が考慮され、過労死が認められたのである 「病いは気から」 T細胞の量を調べることで突然死のリスクの解明や、治療法確立につながるかもしれない 夜勤の日は20時間近くの連続勤務 勤務の終わりから次の勤務が始まるまでのインターバル期間は、5時間程度しかない日が月平均5回もあった 時間外労働は、過労死ラインを下回る50~60時間前後 、国循の脳神経外科病棟に勤務していた看護師の女性(当時25歳)が、2001年に過労死し、担当弁護士が情報公開を求めたのがきっかけだった 大阪府の国立循環器病研究センターが、勤務医や看護職員の時間外労働を「月300時間」まで可能にする36協定を結んでいた 「“ほろ酔い気味の医師”に手術させる気か? リゲイン世代も仰天、月300時間の時間外労働って何なの」 河合 過労死(=突然死)は、長時間労働などがもたらす死だし、長時間労働は過労自殺の引き金になる 労死対策は職場の、社会の責任だ
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