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トランプ大統領(その28)(『炎と怒り』が示すトランプ政権の真の問題、トランプ相場『終わりの始まり』なのか?) [世界情勢]

トランプ大統領については、1月3日に取上げた。今日は、(その28)(『炎と怒り』が示すトランプ政権の真の問題、トランプ相場『終わりの始まり』なのか?)である。

先ずは、1月25日付け日経ビジネスオンラインがファイナンシャル・タイムズの記事を転載した「『炎と怒り』が示すトランプ政権の真の問題 トランプ政権に関連する3冊が示す民主主義の行方」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・昨年12月10日の世界人権デーの日、米ホワイトハウスは、独裁主義の「yolk(卵黄)」に苦しむ人々を支援するという声明を出した(編集注、本来、yolkではなくyoke=くびきと書くべきところを、つづりを間違えた)。  “卵まみれ”になったホワイトハウスの面々を巡るジョークが飛び交ったのは言うまでもない。トランプ政権は年がら年中、つづりの間違いを連発しているが、今回のはとりわけ秀逸だった。
・トランプ政権が示す人権への関心は薄い。それでも最低限の対応をしようと考えて、世界人権デーに発表した声明だったが、その最低限の仕事をするにしてもスタッフの数が足りていないだけでなく、そのスタッフのレベルが低いことも露呈した一件だった。こうした細かいところに目をむけると、実に多くのことが見えてくる。
・ただ、誤字や脱字をチェックする校閲担当者でなくても、トランプ大統領が人権などほぼ気にかけていないことは分かる。今回のつづりの間違いは、トランプ氏という人間像を浮き彫りにした。それは、楽しませてくれると同時に、ゾッとするものでもあった。
▽記者の経験からも『炎と怒り』の内容には信憑性があると言える
・マイケル・ウォルフ氏がトランプ氏について執筆した問題作『炎と怒り』についても、同じことが言える。本書を巡る騒ぎがきっかけで、トランプ氏は首席戦略官・上級顧問だったバノン氏と手を切った。 バノン氏は、白人至上主義などを唱えている右派思想「オルト・ライト」を掲げるトランプ氏の腹心で、本書の最大の情報源でもある。資金的な後ろ盾だったマーサー家などの信頼を今回の本で失ったバノン氏は1月9日にオルト・ライトの代表格とされるニュースサイト「ブライトバート・ニュース」の会長も辞任した。今頃、著者にここまであけすけに語ったことを悔やんでいるはずだ。
・伝えられているように、ウォルフ氏が「オフレコ」の約束を尊重しないジャーナリストなのか、また本で特定の場面を再現する際に人が言ったことを勝手に飾り立てて書くタイプのジャーナリストなのか、そういう日和見主義者であるのかどうかは分からない。彼を個人的に知っているわけではないが、これまで私もバノン氏やそのほかの人々とオフレコの会話を交わしてきた経験からして、この本の内容はおおむね信用できるとみている。
・ウォルフ氏によると、ホワイトハウスには大統領にもはや敬意を抱く人はほとんどおらず、スタッフらは「(トランプ氏の行動に対して)不信感を常に抱いているとは言わないまでも、不安できまり悪そうにしている」という。
・プリーバス元大統領首席補佐官(トランプ氏が昨年7月28日に更迭)も、ムニューシン財務長官も、トランプ氏を「アホ(idiot)」と呼んだことが本では引用されている。コーン国家経済会議(NEC)委員長はトランプ氏を「めちゃくちゃ頭が悪い(dumb as shit)」と表現したとされる。 ティラーソン国務長官が、トランプ氏を「どうしようもないばか(f***ing moron)」だと思っていることは既に広く知られている(注*1)。 (注*1)ティラーソン氏が昨年7月に米国防総省でトランプ氏のことをmoronと呼んだと米NBCが同10月4日に報道。この報道以降、国務長官を辞任するとの噂が浮上したことからティラーソン氏は同日、会見を開き、辞任を検討したことはないと表明したが、同会見では自分が「moron」と発言したかどうかについては触れなかった 
▽最近、勤務時間を短縮しているトランプ氏
・トランプ氏はメディア王のルパート・マードック氏に認めてもらいたくてたまらないらしいが、当のマードック氏は彼のことを「ひどいアホ(f***ing idiot)」と呼んだらしい。言うまでもないかもしれないが、本書は決して子どもに読ませるような本ではない。 また、バノン氏によるとトランプ氏の長女イバンカ大統領補佐官は「どうしようもないバカ(dumb as a brick)」で、ドナルド・トランプ・ジュニア氏は「フレド」だという。つまり、映画「ゴッドファーザー」に出てくるIQの低い兄だ。では、その一家のあるじ“ドン・コルレオーネ”はどこにいるのかと言えば、どうやら寝室にこもって電話で友人たちに愚痴をこぼしているらしい。
・メールでニュースレターを配信するメディアAXIOS(アクシオス)は先日、トランプ氏が勤務時間をますます短縮していると報じた。 就任当初は、朝9時からスケジュールを入れていたが、今では午前11時前後にしか姿を現さない。たいてい午後6時までにはとても過密とはいえないスケジュールを終え、上階の公邸に退却する。
・ウォルフ氏によると、そこでは巨大な薄型テレビ3台に囲まれて、好きなチーズバーガーを頼んだり、「電話で友人と自分がいかに大変かという話をしたり」、ツイートの投稿をしたりする。 ウォルフ氏いわく、トランプ氏への嫌悪感をほぼ隠しきれない元軍人のジョン・ケリー大統領首席補佐官は、トランプ氏の執務室での仕事を大統領にふさわしいきちんとしたものに改革した。おかげで大統領執務室はケリー氏が首席補佐官に就任する前のように、誰もが自由に出入りできる場ではなくなった。だが、その結果、トランプ氏はケリー氏がコントロールできる時間帯を短くするという手に出ているということだ。
▽最も信頼しているのは「自分だ」と答えるトランプ氏
・ウォルフ氏は本の中で、ジャーナリストのジョー・スカボロー氏がトランプ氏に誰を最も信頼しているのかと尋ねたことを書いている。トランプ氏は「自分だ」と答え、「自分自身に相談する」と説明したという。周囲の人々にとって、これは負け戦にほかならない。結局は、常にトランプ氏が勝つのだ。
・次席補佐官を昨年、辞任したケイティー・ウォルシュ氏は、「(トランプ氏と仕事をするのは)子供が何を欲しがっているのかを当てようとするようなものだ」と表現している(もっとも、彼女は本書で引用された発言の一部については異議を唱えている)。
・ウォルフ氏が極端な例ばかり選んでいるのは間違いない。トランプ氏が正しい文法を使うこともあるだろうし、ブリーフィングの書類を最後まできちんと読むこともあるだろう。トランプ氏に今なお忠誠を誓うスタッフもいるに違いない。 だが、いくら細部に少々の疑問が残ったとしても、ウォルフ氏が伝えようとしていることの主旨には真実味がある。
・ゲーリー・コーン氏の意見が述べられているとされるメールでは、トランプ氏は「道化に囲まれたバカ者(“an idiot surrounded by clowns”)」とこき下ろされている。 実際のところ、トランプ政権には“ドン・コルレオーネ”がいないのだ。だが、尊敬される権威ある人物が不在でも、トランプ政権はこのまま続く見込みだ。
▽『トランポクラシー』と『民主主義国はどう死ぬか』を読もう
・その理由を探るためには、デービッド・フラム氏が著した『トランポクラシー』と、ハーバード大学のスティーブン・レヴィツキー氏とダニエル・ジブラット氏による短い著書『民主主義国はどう死ぬか』を紐解くといいだろう。 フラム氏は、かつてジョージ・W・ブッシュ元大統領のスピーチライターを務めた人物で、「ネバー・トランプ(トランプ氏を絶対に支持しない)」運動(注*2)における最も雄弁な論客だ。同氏は、そもそもトランプ氏のような人物がなぜ大統領になれたのかと問うている。 (注*2)共和党支持派ではあるが、トランプ氏のことは絶対に支持しないとする運動で2016年頃に立ち上がり、今も続いている
・一つには、トランプ氏が本物のスキルを持ち合わせているからだという。特に、人々がどんなことに強い怒りを感じているかを悪魔的に当てるセンスを持ち合わせている。もしかすると、自分自身が数々の恨みを溜め込んでいるからかもしれない。
・トランプ氏は集会で様々な決めゼリフを試し、反響の大きかったものを繰り返し使う。こうした市場テストは効果があるようだ。彼は、疎外感を抱く人々に共感することができる。
▽「ホワイトトラッシュ」は「自分と同じ人間」と語り支持率を上げた
・ウォルフ氏によると、何年も前に外国人投資家と米東海岸ニュージャージー州のアトランティックシティを視察していたトランプ氏は、「ホワイトトラッシュ(貧乏白人)」とは何かと問われ、こう答えたという。「自分と全く同じような人たちだ。ただ彼らは貧乏なだけ」。トランプ氏は、これで彼らがいだく不満をつかみ、一気に支持率を上げた。
・彼らの窮状は深刻なものだ。フラム氏によると、1990年代末には、大学を出ていない白人米国人は、大学を出ていない黒人米国人に比べ、50代で死亡する確率が30%低かったのに対し、2015年には30%高くなっている。 米国の人口における白人男性の比率は3分の1弱だが、自殺者の3分の2以上を占める。米国の白人労働者階級の士気が下がり続けているというのに、社会の本流はこの事態を軽視してきた。トランプ氏が選挙で勝利するまでの1年間に、ニューヨーク・タイムズ紙は「トランスジェンダー」(出生時の性と自身の認識する性が一致しない人)という言葉を1169回も使ったのに対し、労働者階級の間で乱用が問題となっている鎮痛薬「オピオイド」の登場は284回にとどまった。
・そこで思い出してほしいのが、2016年12月25日にトランプ氏がツイッターに投稿した写真だ。彼は、クリスマスツリーの前に立ち、何かに反抗するように拳を握っていた。スローガンは、「私たちはみんな、再びメリー・クリスマスと言えるようになる!」だった。 あの写真は、トランプ氏の選挙運動を燃え上がらせたポリティカル・コレクトネス(注*3)への怒りをうまくとらえた。だが、それは虚構にすぎない。というのも、米国では「メリー・クリスマス」と言うことが禁じられているわけでは決してない。それでも、人々はトランプ氏のスローガンを繰り返した。いまだにそうである。 (注*3)政治的、社会的に公正、公平、中立的で、なおかつ差別、偏見が含まれていない言葉や用語のこと
・フラム氏の引用によると、ライターのデール・ベラン氏はこう説明している。「トランプ支持者は、ゴールのない迷路のようなペテン師に投票したようなものだ。というのも、自分たちはゴールのない迷路の中に囚われていると感じているからだ」
・『トランポクラシー』は、『炎と怒り』よりはるかにためになる本だ。本書で論じられているトランプ政権が何を意味するかについて、ウォルフ氏の「道化とバカ者」の描写よりよっぽど深掘りされている。
▽「民主主義は進化途上にある一方で、同時に破滅にも向かっている」
・トランプ氏が今後どうなるかが、自由民主主義の将来を方向づけることになる。だからこそ警戒すべきなのだ。フラム氏は、「民主主義はまだ進化途上にある一方で、同時に破滅にも向かっている」と指摘している。つまり、良き市民たちが何も行動を起こさなければ、民主主義は破滅するということだ。
・2016年10月、2005年にテレビ番組「アクセス・ハリウッド」のために収録した録画の中でトランプ氏が卑猥な発言をしていた部分が流出すると(注*4)、共和党上院議員の3分の1以上がトランプ氏に大統領選からの撤退を求めた。だが、彼はこれを無視した。 (注*4)米ワシントンポスト(WAPO)が2016年10月7日に、WAPOのサイトにその録画部分を掲載、大きな反響を呼んだ 
・その卑猥な発言の動画が公開された32分後、ウィキリークスはこれまでにない量のヒラリー・クリントン候補のメールを公開した。そこには、ジョン・ポデスタ選対委員長のメールも含まれていた。 しかし、トランプ氏に撤退を求めた共和党上院議員の大半は、いまや同氏をしっかり支持している。保守派の論評などを掲載している雑誌『ナショナル・レビュー』が大統領選挙中に同誌に公開した「ネバー・トランプ」の書簡に署名した保守派知識人のうち、約半数も今やトランプ氏を支持している。
・トランプ氏の大統領就任式委員会は、過去最高の寄付額の2倍におよぶ1億700万ドル(約118億円)を集めた。そこには、かつてトランプ氏を無視していた資産家・投資家たちからの寄付も含まれている。 ヘッジファンドを率いる億万長者であり、「ネバー・トランプ」運動にも参加していたポール・シンガー氏は、100万ドル(約1億1000万円)を寄付した。また、ワシントンにあるトランプ・インターナショナル・ホテルは2017年1〜4月に、ほかのホテルが稼働率の伸び悩みや低下に直面する中、予想を410万ドル(約4億5400万円)も上回る売上高を記録した。
・一方、ライアン下院議長など共和党の大物たちは、いまやトランプ氏を盛んに褒め称えている。共和党の重鎮たちは、疑問を封印することにしたのだ。「彼らが個人的には良心の呵責を覚えつつも取っている行動が、トランポクラシーを持続させている」とフラム氏は指摘している。
▽民主主義を殺す者は、さりげなく合法な形で崩壊させていく
・では、今後は一体どうなっていくのか――。レヴィツキー氏とジブラット氏が書いた『民主主義国はどう死ぬか』の長所は、米国の民主主義を例外なケースとしてはとらえていない点だ。他国で民主主義を崩壊させた要因が、米国に無関係なわけではないという。 「民主主義国は常に脆弱なものだと知りつつも、我々が暮らしてきた(米国という)民主主義国はどういうわけかその重力に逆らうことができてきた」と2人は書いている。「米国の憲法の体系は最も古く、歴史上のどの憲法よりも堅固だが、それでも他国で民主主義を殺したのと同じ病魔に冒される脆弱性はある」。
・米スタンフォード大学のラリー・ダイアモンド氏によると、21世紀に入ってから、少なくとも25カ国が民主主義国ではなくなった。いずれの場合も、外面的には民主主義の旗印を維持しつつ、既存の制度を壊さずに密かに民主主義を捨てている。 例えば、エルドアン大統領の率いるトルコや、ビクトル首相のハンガリーなどがそうだ。軍事クーデターの時代は終わった。冷戦中、破綻した民主主義国のうち4分の3はクーデターをきっかけとしていたが、現在ではほとんど見受けられない。
・レヴィツキー氏とジブラット氏は、「民主主義を殺す者は、民主主義の制度そのものを使い、徐々に、さりげなく、かつ合法な形で崩壊させていく。これが、選挙によって独裁主義が選ばれるという悲しきパラドックスだ」と書いている。
▽民主主義が危機にあるかを確認するための4つの問い
・彼らは、民主主義が危機的な状況かどうかを知るための4つの問いを提示している。トランプ政権は、そのすべてに当てはまる。
・1つ目は、選出された指導者が、民主主義のルールを拒絶しているかどうかだ。トランプ氏は、まさにその通りのことをしている。同氏は2016年の選挙戦中、民主党候補のヒラリー・クリントン氏を逮捕すると脅し、選挙では不正操作が横行していると主張した。以来、彼は不正投票を訴え続け、自分が持つ絶大な法執行能力を行使して、敗北したクリントン氏を必ず調査すると何度も発言している。
・2つ目は、指導者が反対勢力の正当性を否定しているかどうかだ。これも説明した通りだ。
・3つ目は、暴力を認めたり奨励したりしているかどうかだ。選挙戦中、トランプ氏は反対派を殴り倒せと呼びかけ、訴えられたら自分が裁判費用を負担するとまで言った。さらに、大統領就任後は、警官は移民や逮捕者を殴ればいいと発言している。
・4つ目は、反対勢力の市民的自由を奪おうとしているかどうかだ。これにはメディアも含まれる。トランプ氏は毎日のように、メディアが偏見に満ちていると非難し、名誉毀損で訴えると脅している。ウォルフ氏の出版元に対し、トランプ氏の弁護士が出版停止を求めるまで48時間もかからなかった。
▽民主主義を機能させる秘訣は、国民の高潔さだ
・レヴィツキー氏とジブラット氏が丁寧に解説し、フラム氏が雄弁に論じているように、民主主義はルールではなく規範に基づいている。その制度は、それを守る人々があってこそのものだ。 南米の民主主義国の多くは、米国憲法をほぼそのままそっくり採用した。それでも、絶対的権力者により国を荒らされてしまった。
・ウォルフ氏によると、トランプ氏は米国憲法の基本的な部分でさえ理解していない。ある側近は、憲法について教えてほしいと頼まれたものの、修正第4条より先へ進めなかったという。トランプ氏が途中から上の空になってしまったからだ。
・ホワイトハウスで本当に権力を握っているのは、「見苦しいほど貪欲なトランプ家の面々」だけだとフラム氏は言う。 その通りかもしれない。だが、結局のところ、米国の民主主義の未来を決めるのは、トランプ氏を阻止することも煽ることもできる連邦議員たちであり、連邦行政機関であり、メディア関係者などだ。
・トランプ政権は、米国の政治における新たな時代の到来を告げているのか、それともグロテスクな例外にすぎないのか。それを決めるのは、名も知られていない人々だ。そして何より、民主主義を機能させる秘訣は、国民の高潔さなのだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/108556/012300027/?P=1

次に、在米の作家の冷泉彰彦氏が2月3日付けでメールマガジンJMMに寄稿した「[JMM987Sa]「トランプ相場『終わりの始まり』なのか?」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・1月30日の火曜日、東部時間の午後9時過ぎから、ドナルド・トランプ大統領による第一回の「年頭一般教書演説(ステート・オブ・ユニオン・アドレス)」が行われました。年初に上下両院議会を開いて、大統領が演説をするということでは、昨年既にトランプ政権後になって初のものがあったわけですが、あれは就任直後の臨時のものであって、予算審議へ向けて大統領として正式に「国の方向性」を示す「ステート・オブ・ユニオン」としては、とにかく今回が初めてということになります。
・それにしても、奇妙な演説であり、奇妙な光景でした。クリントン、ブッシュ、オバマと三代の大統領による一般教書演説を見てきた私には、やはり違和感が拭えませんでした。どうにもこうにも演技だというのがミエミエであり、また、社会、つまり2018年の国際社会と米国社会の現実との間には、演説の言葉には明らかな乖離があり、どこにも「社会に横たわる問題の核心に迫る」瞬間もなかったし、時代の変化する勢いや感触のようなものも感じられなかったのです。
・一つ言えることは、とりあえず「暴言モード」ではなく「真面目モード」であり、「分断を煽る」のではなく「曲がりなりにも和解を呼びかける」ものであったということです。この点に関しては、2016年11月の選挙戦勝利の際の「和解を呼びかける」演説に対して、2017年1月の就任式での演説は「オンリー・アメリカ・ファースト」という、「暗いトーンでの暴言モード」演説であるなど、「真面目」なパターンと「暴言」のパターンが交互に来るのがこの人のスタイルでした。
・ですが、今回は、直前のダボス会議での演説が「真面目でお行儀の良い」ものだったにもかかわらず、一般教書演説も「真面目」に「和解を」呼びかけるパターンとなりました。つまり「交互に来る」パターンは崩れたということになります。では、それでトランプ政権の姿勢は成熟したということができるのでしょうか? また、議場の中では共和党は与党として盛大な拍手を送っていました。つい少し前までは、同じ与党といっても上院共和党のベテラン議員たちは、それこそトランプとは「同じ天をいただかず」と言った嫌悪を示していたわけですが、あれは嘘だったのでしょうか? それとも現在の盛り上げの方が虚構なのでしょうか?
・それから民主党の議員たちは、セクハラ抗議運動に連帯して黒い服を来ていたり、演説の要所要所では拍手を渋ったり、起立を拒否したりしていましたが、では、彼らの中に政権交代を目指すだけの新しい世代のリーダーシップが育っているのかというと、こちらの方にも大いに疑問があるわけです。
・では、今回の演説は「成功」だったのでしょうか? 私はそうではないと思います。演説の評判は悪くなかったのです。また、演説を受けて直後に株が下がるということもありませんでした。ですが、演説から3日後の2月2日の金曜日、ダウは665.76ドルポイントの下落という「リーマン・ショック以来最大」の下げを記録しています。母数が大きくなっているので、「最大の下げ幅」というのに意味はそれほどないわけですが、率に倒しても2.54%ということですから、これは「かなりキツい」下げです。
・勿論、この下げを火曜日の演説のせいにするのは短絡かもしれません。この間には、連銀のトップ交代ということがあり、イエレン氏は退任してシンクタンクに横滑りして、パウエル体制がスタートしました。その直前には利上げの見送りということがあったわけで、景気に関して「漠然とした転換点」という雰囲気があったのも事実です。
・では、どうして急落が発生したのかというと、厳密には1月の雇用統計が非常に良かったので国債金利が上がってしまい、株も連動して下げたという説明が多いようです。確かにテクニカルにはそうなのかもしれませんが、それだけではない何かというものが流れているような感覚も否定できません。 具体的にはやはり、火曜日の「一般教書」に象徴されるようなトランプ政治への懸念という感覚が、どこかで市場の底流には流れているのではないかと思えるのです。
・では、ここで1月30日の「一般教書演説」とは一体どのようなものだったのか、ここで駆け足で振り返ってみることにしましょう。 まず、大統領は青いネクタイで登場しました。青とは民主党の色であり、野党への和解を意味するのかどうかは分かりませんが、共和党のカラーであり自身のトレードマークでもある赤ではなく、青で来たというのは確かに「ソフトタッチ」ではありません。ちなみに、ライアン下院議長(共和)も青でしたが、流石にペンス副大統領(上院議長を兼ねる、共和)は赤で、ひな壇上の3人が全部青ではありませんでした。
・入場シーンでは、通路の両側に並んだ政治家と挨拶したり握手をしたりというのがお約束ですが、今回は歴代大統領と比較しても特に「得意満面」という感じでしたし、リベラル系の最高裁判事とも握手するなど、極めてソフトムードでした。以降、演説のディテールを箇条書きでメモしておこうと思います。
・(1)最初にハリケーン「ハービイ」被災時に活躍した沿岸警備隊の女性兵士、60人の子供を山火事から救った消防士、首都での狙撃事件で銃弾を受けながら回復したスチーブ・スカリス議員など「スペシャルゲスト」の紹介から入っていました。災害や事件対応では、プエルトリコでのハリケーン「マリア」への対応に関しては今でも批判があるので、それを封じるためだったのかもしれません。反対に、こういうことをやると「もしかしたらプエルトリコについては、大統領は気にしているのかも」という印象を与えてしまいます。
・(2)就任以来、力強い経済が続いていると自慢していましたが、「~以来ずっと」というのを "each day since..." という言い方で表現していましたが、これは明らかに大統領のボキャブラリーではないので、空回りしていた感じです。
・(3)もっと空回りしていたのは、「失業率、45年で最低」とか、さらに「黒人失業率が史上最低(黒人議員は拍手せず)」、「ヒスパニックも史上最低の失業率(ヒスパニック系議員拍手せず)」というような「歯の浮くようなセリフ」を述べたことです。2008年から09年に高失業率に対して、前任政権が苦闘したことの結果、その果実だけを自分の成果のように言っても説得力はないですし、そもそも黒人やヒスパニック向けに雇用対策をやった成果が出ているのならともかく、マイノリティの失業率低下を誇ってみても、何の印象も残らないのです。
・(4)税制改正の自慢はもっとしても良かったのでしょうが、それはしないで、「オバマケアにおける個人の強制加入終了」を成果として強調していました。これは場内の共和党が大喜びしていましたが、流石にこれは大統領というよりも、共和党の「悪いクセ」とすべきでしょう。とにかく、全員加入の国民皆保険でリスクを広く薄くヘッジするという健康保険制度の根幹が分からない、つまり大平原の開拓地で孤立して自然と戦う中での異常な心理がまだ残っているのです。
・(5)メラニア夫人の隣に、笑顔のキラキラした少年が座っていたのですが、これは大統領の息子のバロン君ではなく、なんでもベテランズデー(退役軍人記念日)に戦没者の墓に国旗を飾ったという12歳の少年でした。この少年ですが、要するに「黒人に対する警察の暴力への抗議」のために「国歌斉唱時に膝をついて抗議する」フットボール選手への当てこすりのために登場していたのです。
・(6)製造業復活を誇っていた部分は、まったく目も当てられない感じでした。炭鉱復活を誇り、デトロイトでエンジン製造が再開されたなどと国際社会は「化石燃料車の禁止に動いている」などというトレンドを無視した発言もありました。クライスラーがメキシコからミシガンへ工場を移動したこと、トヨタ・マツダ連合がアラバマに大工場を建設することは、思い切り賞賛していました。
・(7)全土のインフラ更新計画については、大きな目玉になると思っていたのですが、概論で終わりでした。議会には協力要請をしていましたが、民主は渋い顔でした。 (恐らくもっと渋い顔をしていたはずの共和党議員団はCSPANのカメラには映らず)概論というのは、1.5兆ドルをインフラ投資というのですが、資金の出所については、連邦、州、民間のミックスでという曖昧なものでした。中身に関しては、道路、鉄道、水路などだというのですが、大統領が以前から強調していた空港の設備更新は入っていなかったので、全体的にまともな計画があるのか、怪しい感じでした。
・(8)この日の議場内は、セクハラ抗議の「黒」に加えて、「紫のリボン」も目立っていました。これは鎮痛剤乱用危機への連帯を示すもので、最近発表された2016年(とにかく数字が遅いのですが)の一年間での死亡者数は6万4千人を超えているということを、大統領も言っていたのですが、具体的な対策についてはありませんでした。この件に関しては、ヘロイン中毒の女性ホームレスの子供を保護して養子にした警察官夫妻を紹介していたのですが、とにかく具体策がないまま「取り組んでいます」と言われても説得力はありません。
・(9)一番わからないのが移民政策の部分です。まず大統領は、国境を超えて犯罪とドラッグが入ってきた、特に「MS13」というギャング集団は凶悪だとして、移民犯罪者に殺された遺族を連れて来ていたのです。2組の夫婦が紹介されていましたが、政治の場である議場であそこまで涙ぐまれても、どんな印象を持ったら良いのか、困惑させられる演出でした。その上で、「移民政策の4本柱」だとして、大統領は「不法移民へ市民権への道(最短12年)を」「国境の完全警備」「抽選による永住権付与の廃止」「家族呼び寄せは核家族のみ、それ以上の連鎖的な移民は抑止」という政策を示しています。問題は、最後の部分で「かなり強硬」な政策ゆえに共和党議員団も首を傾げていたのが印象的でした。
・(10)軍事外交に関しては、まず軍事費をフルに用意するとか、核弾頭の全面更新をするという部分は、一種の公共事業のような印象でした。対IS作戦のラッカ攻防戦で戦功のあった軍医を紹介した上で、いきなり「テロリストは犯罪者ではなく、交戦中の敵兵だ」と唐突に述べて「だからグアンタナモ収容所は閉鎖しない」という宣言をしていましたが、その流れで「イスラエルの首都はエルサレム」とやり、その上で「パレスチナ」を想定した文脈で「敵視するのなら金はやらない」と吠えていました。その上で、北朝鮮についても、敵視を宣言していたのでした。
・(11)その北朝鮮に関しては、意識不明のまま送り返されて死亡した学生の両親や、脱北者の紹介がされていましたが、この2件だけであればいかにも唐突であり、厳しい敵視という印象になるのかもしれませんが、他にも色々な「トランプ流のヒーローたち」を紹介した後だったこともあり、インパクトは今ひとつだったように思います。
・考えてみれば、こうした「悲劇の主人公」や「ヒーロー」を呼んで来て「お涙頂戴」をやるというのは、アメリカのTV界では「オプラ・ウィンフリー」が確立した手法であり、もしかしたらそれを意識しているのかもしれないと思いました。もっともオプラの「人情ショー」と違って、「右派ポピュリズムに訴えるため」という味付けでは、どうしても届く範囲は限定的ということになると思います。
・そんなわけで、大変に盛り沢山な内容ではあったものの、空回りしていたというのが全体的な印象です。何よりも、大統領自身が疲れてしまったのか、最後の方は勢いがトーンダウンしていたのも良くありませんでした。
・何が一番の問題なのでしょう? 個々の「右派ポピュリズム」に迎合していった部分というのは、この人の演説ということでは想定内でした。また、移民や軍事外交における強硬な姿勢というのも想定内だったと思います。 問題は、「演説の全体が2018年の現実」を動かして行くために必要な、「同時代性」というものが決定的に欠けているということです。製造業への保護主義的な理解は、1980年代のセンチメントですし、イスラムへの敵視は2000年代の印象論です。そして、2018年において極めて重要な話題が根本から欠落しているのです。 
・例えば、暗号通貨の問題があります。フィンテックの進歩により、国境を超えた送金速度が早まるとか、裏に国家債務を背負った「国という法人」の発行する通貨に対して、「技術的な信頼性と利便性」が信用と価値となりつつある中で、政府が暗号通貨に介入するかどうかという問題は別としても、少なくともそういう時代の「同時代感」というのは、政治には必要です。
・何度も資金繰りの綱渡りを経験して来て、破産法も複数回使って債務から解放されて来たこともあるこの「ホテル・カジノ王」が、もしもそんな80年代や90年代の資金スピードの感覚しか分からないのであれば、これは大変に危険なことです。
・恐ろしいのは化石燃料を燃やして、人間がハンドルを握る「自動車」というのは、既に過去の産物になろうとしている、その時代感覚が完全に欠落しているということです。今回のダウの急落でも、一番大きく相場に影響を与えた銘柄はNVIDIA(エヌヴィディア)で、この企業はPC用のビデオチップ大手ですが、ここへ来て自動運転を含めたIOT向けのAIのアルゴリズム処理を行うプロセッサでインテルと激しく競争しているいる企業です。
・そんな企業がNY市場の急落をキーを演ずる時代なのですが、そうした時代感覚を、この政権は全く持っていないのです。今回の急落に関しては、勿論、週明けに一気に戻す可能性もあるわけです。基本的な経済のファンダメンタルズは非常に強いので、大暴落という可能性は少ないのかもしれません。
・ですが、この「右派ポピュリズム」に訴えつつ、「暴言モード」は封じて何とか11月の中間選挙には勝って政権基盤を固めようという政権が、どう考えても2018年という現在の時間感覚を持っていない、要するに「絶望的に古い」のです。これは政治的なリスクに他なりません。そのリスクの感覚は、市場の深いところに流れる懸念として、今回も、そして今後も作用して行くのではないかと思うのです。この先のことは、簡単には予想できませんが、仮にこの「トランプ相場」が終わって行くのであれば、それは「トランプ政治」に取っても、大きな危機となって行くことでしょう。 

第一の記事で、 『本来、yolkではなくyoke=くびきと書くべきところを、つづりを間違えた)。  “卵まみれ”になったホワイトハウスの面々を巡るジョークが飛び交ったのは言うまでもない。トランプ政権は年がら年中、つづりの間違いを連発しているが、今回のはとりわけ秀逸だった』、というのは傑作だ。 『ウォルフ氏によると、ホワイトハウスには大統領にもはや敬意を抱く人はほとんどおらず、スタッフらは「(トランプ氏の行動に対して)不信感を常に抱いているとは言わないまでも、不安できまり悪そうにしている」という』、のではつづりのチェックも甘くなってしまうのだろう。 『ウォルフ氏いわく、トランプ氏への嫌悪感をほぼ隠しきれない元軍人のジョン・ケリー大統領首席補佐官は、トランプ氏の執務室での仕事を大統領にふさわしいきちんとしたものに改革した・・・だが、その結果、トランプ氏はケリー氏がコントロールできる時間帯を短くするという手に出ているということだ』、 『勤務時間を短縮しているトランプ氏』、確かに執務室の居心地が悪くなればそうするだろう。 『フラム氏によると、1990年代末には、大学を出ていない白人米国人は、大学を出ていない黒人米国人に比べ、50代で死亡する確率が30%低かったのに対し、2015年には30%高くなっている。 米国の人口における白人男性の比率は3分の1弱だが、自殺者の3分の2以上を占める。米国の白人労働者階級の士気が下がり続けているというのに、社会の本流はこの事態を軽視してきた』、ただ、忘れられてきた貧しい白人層がコア支持層になっているとしても、彼ら向けの実効性ある政策はない以上、支持はいつまで続くのだろうか? 『民主主義が危機にあるかを確認するための4つの問い』、を安部政権に当てはめると、(1)、(2)、(4)がかすかに当てはまるような気がするが、このことは米国より日本の方が健全であることを意味するものではなさそうだ。
第二の記事で、 ダウ暴落について、 『やはり、火曜日の「一般教書」に象徴されるようなトランプ政治への懸念という感覚が、どこかで市場の底流には流れているのではないかと思えるのです』、というのもその通りなのかも知れないが、法人税大減税、インフラ更新計画などが、経済を加熱させるとの懸念から、長期金利が急上昇しているのが、基本的要因なのではなかろうか。  『問題は、「演説の全体が2018年の現実」を動かして行くために必要な、「同時代性」というものが決定的に欠けているということです。製造業への保護主義的な理解は、1980年代のセンチメントですし、イスラムへの敵視は2000年代の印象論です。そして、2018年において極めて重要な話題が根本から欠落しているのです・・・「暴言モード」は封じて何とか11月の中間選挙には勝って政権基盤を固めようという政権が、どう考えても2018年という現在の時間感覚を持っていない、要するに「絶望的に古い」のです。これは政治的なリスクに他なりません。そのリスクの感覚は、市場の深いところに流れる懸念として、今回も、そして今後も作用して行くのではないかと思うのです』、との指摘は説得力がある。週明けの米国株式市場は、反発するだろうが、反発力の大きさに注目したい。
タグ:トランプ政権は、米国の政治における新たな時代の到来を告げているのか、それともグロテスクな例外にすぎないのか。それを決めるのは、名も知られていない人々だ。そして何より、民主主義を機能させる秘訣は、国民の高潔さなのだ 民主主義が危機にあるかを確認するための4つの問い 米国の憲法の体系は最も古く、歴史上のどの憲法よりも堅固だが、それでも他国で民主主義を殺したのと同じ病魔に冒される脆弱性はある 民主主義はまだ進化途上にある一方で、同時に破滅にも向かっている 米国の人口における白人男性の比率は3分の1弱だが、自殺者の3分の2以上を占める。米国の白人労働者階級の士気が下がり続けているというのに、社会の本流はこの事態を軽視してきた 1990年代末には、大学を出ていない白人米国人は、大学を出ていない黒人米国人に比べ、50代で死亡する確率が30%低かったのに対し、2015年には30%高くなっている ホワイトトラッシュ(貧乏白人) 『民主主義国はどう死ぬか』 スティーブン・レヴィツキー氏とダニエル・ジブラット 『トランポクラシー』 デービッド・フラム おかげで大統領執務室はケリー氏が首席補佐官に就任する前のように、誰もが自由に出入りできる場ではなくなった。だが、その結果、トランプ氏はケリー氏がコントロールできる時間帯を短くするという手に出ているということだ ウォルフ氏いわく、トランプ氏への嫌悪感をほぼ隠しきれない元軍人のジョン・ケリー大統領首席補佐官は、トランプ氏の執務室での仕事を大統領にふさわしいきちんとしたものに改革した 最近、勤務時間を短縮しているトランプ氏 ・ウォルフ氏によると、ホワイトハウスには大統領にもはや敬意を抱く人はほとんどおらず、スタッフらは「(トランプ氏の行動に対して)不信感を常に抱いているとは言わないまでも、不安できまり悪そうにしている」という。 『炎と怒り』 マイケル・ウォルフ 本来、yolkではなくyoke=くびきと書くべきところを、つづりを間違えた)。  “卵まみれ”になったホワイトハウスの面々を巡るジョークが飛び交ったのは言うまでもない。トランプ政権は年がら年中、つづりの間違いを連発しているが、今回のはとりわけ秀逸だった 米ホワイトハウスは、独裁主義の「yolk(卵黄)」に苦しむ人々を支援するという声明を出した 世界人権デー 「『炎と怒り』が示すトランプ政権の真の問題 トランプ政権に関連する3冊が示す民主主義の行方」 ファイナンシャル・タイムズ 日経ビジネスオンライン (その28)(『炎と怒り』が示すトランプ政権の真の問題、トランプ相場『終わりの始まり』なのか?) トランプ大統領
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