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日本企業の海外M&Aブーム(その3)(巨額損失を繰り返す日本企業の海外買収に「盲点」はないか、日本企業はなぜこんなにM&Aが下手なのか、昭和電工 無謀と言われた買収が超有望事業に一変した逆転劇の真相) [企業経営]

日本企業の海外M&Aブームについては、2016年1月11日に取上げた。久しぶりの今日は、(その3)(巨額損失を繰り返す日本企業の海外買収に「盲点」はないか、日本企業はなぜこんなにM&Aが下手なのか、昭和電工 無謀と言われた買収が超有望事業に一変した逆転劇の真相)である。

先ずは、元銀行員で法政大学大学院教授の真壁昭夫氏が昨年5月2日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「巨額損失を繰り返す日本企業の海外買収に「盲点」はないか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・日本を代表する企業が、買収した海外子会社の減損処理により多額の損失を計上する事態が続いている。潤沢な手元資金を抱える中、多くの企業は市場の開拓やシェアの拡大などを重視して海外企業を買収し事業拡張を目指してきた。だが日本郵政に関しても、「初めから危ない選択だった」との見方を持つ専門家もいたようだ。これまでも「高値買い」や買収したあとには期待されたほどの成果が上がっていないケースも目立っている。今後、日本企業は海外企業の買収戦略をどう進めるべきか、考察してみたい。
▽海外企業買収額10兆円、過去最高 度重なる海外子会社の減損処理
・経営学の理論では、企業の合併・買収(M&A)には、規模の経済効果の追求、成長のためにかかる時間の節約、コスト削減などのシナジー効果の発揮などのメリットがある。要は、事業を自前で立ち上げる時間を買うということになる。
・そうした戦略の下、日本企業の多くはM&Aの効果を重視し、国内だけでなく海外の企業を傘下に収めて“グローバル企業”の仲間入りを果たそうとしてきた。2016年度、日本企業による海外企業の買収額は10兆円を超え、過去最高を記録した。
・ただ、これまでに実行されてきた比較的規模の大きい海外での買収案件のヒストリーを振り返ると、必ずしも成功例ばかりではない。最近では、多額の減損を計上するなど失敗例も目立つ。 2000年代の初頭、NTTドコモは「ITバブル」の熱気に浸り、オランダ、英国、米国で大規模な買収戦略を敢行した。特に米国のAT&Tワイヤレスに対しては1兆2000億円もの資金をつぎ込み、結果的には失敗した。その後も、NTTドコモはインドの通信会社に投資を行ったが、これも想定通りの効果を上げるには至らなかった。
・他にも、野村證券(野村ホールディングス)によるリーマンブラザーズの欧州・アジア部門の買収、第一三共によるインドの後発医薬品大手、ランバクシー・ラボラトリーズの買収など、必ずしも期待された成果をあげられていない例は多い。
・日本郵政に関しても、オーストラリアの物流子会社であるトール・ホールディングスを買収した2015年というタイミング、6200億円という規模を踏まえると、世界経済の状況や為替レートの水準を冷静に考え、より適切なタイミング、買収価格などの条件を冷静に検証すべきだったといえるだろう。 買収戦略の失敗から債務超過に陥り、分社化を余儀なくされた東芝のケースを見ると、海外での買収戦略の失敗は企業の屋台骨を揺るがすマグニチュードをもたらす。そのリスクは軽視できない。
▽国内市場の縮小と金余りが企業を海外に向かわせる
・なぜ、日本企業による海外企業の買収が急増してきたのか。この背景には2つの問題がある。まず、国内の経済全体を見渡した時、更なるイノベーションを進め、成長力を引き上げられる余地は限られている。 トヨタ自動車のように新しいコンセプトや技術を実用化して、需要を創造できる企業はある。それでも海外の需要を取り込むことは不可欠だ。成長のために取りうる選択肢を突き詰めていくと、海外でのM&Aを進めることは外せないのである。
・加えて、日本の企業は約375兆円もの利益剰余金を内部に留保している。いわゆる“カネ余り”だ。経営者としては、この潤沢な手元資金を活用して事業を発展させなければ資質を問われかねない。キャッシュリッチな経営を続けていると、経営資源を有効に活用できていないと株主から責められる可能性も十分にある。
・こう考えると、海外の買収戦略を重視することは、国内市場の縮小による経営の手詰まり感を払拭し、成長志向の経営を進めるためには不可欠なことといえる。企業が直面する状況を考えると、海外に活路を見出し、経営資源を少しでも有効に活用して成長を目指したいというのが、多くの経営者の偽らざる本音であり野心だろう。
・ともすると守りの経営に向かいやすい中、海外での買収が成功し、企業価値を高めることができれば“名経営者”の評価を得ることもできる。こうした経済環境で各企業が現状を打破するために海外市場を重視し、M&Aを重視することは今後も続くだろう。
▽想定される以上に高いリスク マネージメントの経験も不足
・ただ、日本郵政などの損失発生を見ると、海外企業の買収に伴うリスクはかなり高いと言わざるを得ない。経営者の立場に立った場合、買収の規模、タイミング、条件などに関する最適な解を見出すのは、口で言うほど容易ではないはずだ。 
・まず、今日の世界経済は、めまぐるしいスピードで変化している。米国での「トランプ大統領の誕生」に象徴されるように専門家すら予想していなかった展開が実際に発生し、それを機に金融市場や経済状況は急速に変化してきた。 特に、為替レートの影響は大きい。 その中で、当初の想定通りに海外企業の買収がシナジー効果の獲得などにつながるか否か、不確実性があることは忘れるべきではない。環境変化のスピードに対応することができないと、M&A後の成長戦略を実行することは難しいかもしれない。
・次に、日本の企業は、語学をはじめ異なる文化、価値観を持つ人材をマネジメントすることに十分な経験を持ち合わせていないと考えられる。限界に直面しつつも、年功序列・終身雇用を重視する企業は多い。 これは、海外の常識である“競争原理”とは異なる発想だ。経営者も、プロの経営者よりも、新卒採用者の中から選抜されたゼネラリスト型が多い。わが国の企業経営の中で、海外の企業買収を行うために必要な資質が経営者に備わっているか否かは、冷静に確認する必要がありそうだ。
▽リスクに合わせてリターンをとる発想が大事
・一つの解決策として考えられるのは、企業統治=コーポレートガバナンスの機能を発揮していくことだ。経営者は、より高い収益や成功への野心に突き動かされて、海外での買収戦略を進めようとするはずだ。その時、買収に付随するリスクを第三者の視点から客観的かつ冷静に見直すことが欠かせない。 これがコーポレートガバナンスの目的だ。海外買収に関連するリスクに対応できるだけのガバナンス体制を整備できているか、見直す意義は大きい。世界経済や企業買収の専門家を登用してマクロ、ミクロの両面からリスク要因の見落としがないかを精査するなど、踏み込んだ取り組みが必要だろう。
・別の視点から、わが国企業による海外企業の買収を論じると、“リスクに合わせたリターンを確保する”発想が弱いように思う。過去の買収の失敗は、過度なリスクを取り、企業がそれに耐えられなくなったことに他ならない。
・東芝は契約相手に権利を与え、求めに応じる義務を負うという“オプション契約”が何であるかを、十分に理解していなかった。東芝はウエスチングハウスを買収した際、パートナーの米国企業にウエスチングハウス株を特定の価格で売る権利(プットオプション)を与えた。それに加え、電力会社が原発企業に工事遅延などのリスクを負わせる“固定価格オプション契約”のリスクも十分には認識できていなかったようだ。それが7000億円もの損失の原因になった。
・また、日本郵政が買収して2年程度で日本郵政が減損処理に迫られたことは、買収に関するデューデリジェンスが不十分だったといわざるを得ない。両社とも、オプション契約のリスク、事業環境に関する認識が甘く、潜在的なリスクを把握しきれていなかったといえる。
・一方で成功例があることも確かだ。日本電産は比較的規模の小さい海外企業を買収して成長を遂げてきた。そこには、買収後の組織の融合が可能と考えられる企業しか買収しないという徹底した方針があるのだろう。 ソフトバンクは買収に加え、出資というアプローチで海外企業の成長を取り込んできた。その代表例が中国のアリババだ。ソフトバンクは昨年6月にアリババへの出資比率を32%程度から27%まで引き下げ、税引き前で2500億円程度の売却益を確保した。
・言語、商習慣が異なる企業を買収し、完全に自社の一部門として統率することは容易ではない。本当に買収するメリットがあるか、見落としたリスクがないかだけでなく、リスクを抑えてより大きなリターンを得る方法はないか、各企業にとって海外買収戦略のあり方を見直す意義は大きいように思う。
http://diamond.jp/articles/-/126451

次に、経済ライター、Beacon Reports発行人のリチャード・ソロモン氏が昨年8月1日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本企業は、なぜこんなにM&Aが下手なのか そもそも買収に消極的すぎる」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「日本株式会社」は、革新的なスタートアップ企業の誕生を切望していると同時に、この「禁断の果実」を恐れてもいる。米国の大手企業が熱心に新興企業を買収している一方、日本の大企業は、革新的な新企業を発見し、手中に収め、そして自社のビジネスに取り込もうと躍起になっているのだ。
・しかし、日本が国際的な競争力を再び手に入れるには、日本企業はスタートアップ企業の「買収の仕方」を学ばなければならないだろう。かつては、日本企業に限らず大企業はどこも、新たな製品やサービスを開発するのに社内の研究開発チームを頼っていた。が、製品のライフサイクルがどんどん短くなる中、変化のペースについていけるだけの速度でイノベーションを起こせる企業はどんな規模であれ、なくなっている。
▽「買収」には奥手な日本企業
・こうした中、特にハイテク業界において、欧米企業は一歩抜きん出たポジションを維持するために、スタートアップ企業の買収を積極的に行っている。アップルやグーグル、そしてフェイスブックが、自社の資源だけでなく、広く社外からアイデアや技術を募ることで新製品などの開発を進める「オープンイノベーション」を追求しているのである。それに引き換え日本企業は、いまだに閉じたドアの内側で研究開発を行っているのだ。
・新興企業とのオープンイノベーションを成功させるカギは、「一歩ずつ進むことにある」と、ベンチャーキャピタル(VC)、ドレイパーネクサスのマネージングディレクターである倉林陽氏は話す。まずは提携して次に出資を行い、最終的には買収するというやり方だ。倉林氏によると、日本企業にとって最初の2ステップは難しくないが、多くは3ステップ目に進むことを躊躇するという。
・典型的な提携には、大手企業が自社の顧客に向けてスタートアップ企業が開発したソフトを実装することなどが挙げられる。このやり方であれば、大手、新興企業双方に金銭的な見返りがあるし、新興企業は信頼できる大企業と協業することによって社会的な信頼を得ることができる。一方、大手企業はリスクを冒さずにオープンイノベーションの一歩を踏み出すことができる。
・ただし、多くの企業は新興企業が破綻するリスクを嫌う。このため、日本ではスタートアップを「支援する」という形の提携がメジャーになっているのである。「もちろん(新興企業にとっては)何もないより支援があったほうがいい」と、米国と日本のVCに15年間勤めている倉林氏は話す。
・こうした提携関係にもリスクがないわけではない。提携した企業が成功した際、競争相手が買収してしまい、もともと支援していた大手企業には何の見返りもなくなるリスクだ。
▽M&Aに長けている社内人材がいない
・シリコンバレーに本社を置く顧客情報管理(CRM)大手のセールスフォース・ドットコムを例にとって考えてみよう。同社は、自社のコーポ―レート・ベンチャーキャピタル(CVC)部門を通じて、革新的なスタートアップに投資している。
・たとえば、ある新興企業が、セールスフォースが活用できる革新的なアプリケーションを開発したとすると、その企業に出資しているセールスフォースは、第一先買権を行使してその企業の将来的な投資ラウンドに参加することができる。また、早い段階から関係を構築することで、この企業のビジネスや経営陣について理解を深めることができるため、戦略上適切な時期にその企業を買収できるチャンスが高まる。
・多くの日本企業にもCVC機能があり、実際、日本のスタートアップ投資の約80%は大企業によって行われている。しかし、日本企業が買収まで進むことはまれである。
・その理由の1つは、有望な新興企業を発見し、その企業を良い方法で買収する才能を持つ人物が大手企業の社内に不足していることだ。大手企業が買収を成功させるためのスキルを獲得するためには、外部の専門家を、CEOの給料を超えることもある市場価格で雇う必要がある。
・ただ、「(日本の)大手企業は文化的に言って外部の専門家を高額で雇い入れることはできないだろう」と倉林氏は指摘する。大手企業はその代わりに、買収業務をM&Aの経験に乏しい社内マネジャーに委ねてしまうのである。
・もう1つの理由は、買収後の統合に失敗する例が多いことが挙げられる。スタートアップ企業を買収した後、大手企業は起業家精神にあふれる創業者に対して融通の利かない人事システムを押し付けようとしたりするため、スタートアップ企業出身者たちは、買収前に享受していた権威や自由、そして市場原理に基づいた賃金を奪われることになる。 たとえば、日本の大手企業は35歳のスタートアップ企業のCEOに対して、社内のほかの35歳に払っている賃金しか払わないかもしれない。起業家精神にあふれる創業者がこれに我慢できずに買収の後すぐに会社を去ってしまえば、買収した部門は低迷してしまう。
▽日本型人事システムが「障害」
・少しずつ変わりつつあるものの、全般的に日本企業は、欧米企業と比べて株主の利益を最大化するのにプレッシャーに鈍感だ。オープンイノベーションを促すような欧米の優遇税制も日本には導入されていない。  しかし、日本企業がオープンイノベーションや買収に消極的になる最も大きな理由は、従業員を業績ではなく年齢で昇進させる日本型の人事システムにある。「日本のハイテク業界を改善するためには、まずは人事システムを変える必要がある」と倉林氏も指摘する。
・日本政府が、2020年までに実質GDP成長率を平均2%(現在の成長率の2倍)にするという目標を達成するためには、有意義で包括的な労働改革が必要だ。そうしなければ、オープンイノベーションやほかの形の創造的破壊などを通じて、個人の能力を最大化するために人材を適切に再配置することもできなくなる。
・日本企業はゆっくりとだが、変わりつつある。現在、日本の大企業が雇う社員のうち、非正規労働者は4分の1を占めている。能力と技術を持つ従業員は、ますます(いくつもの職を同時に追求する)「ポートフォリオ・キャリア」を極める傾向を強めており、ある企業で1つのプロジェクトを終えた途端、次の企業に移るという人も少なからずいる。
・たとえば、日本にはビズリーチのように同業他社への転職を狙うハイクラスワーカーを対象としたサービスが出てきている。また、ヤフージャパンは昨年10月、日本の伝統的な採用方式である新卒の一括採用を廃止すると発表。その代わりに、すでに卓越したスキルを持っている人材を採用することに決めた。このほか、ソニーでは、新たなビジネスを迅速に立ち上げる起業家的な従業員をより迅速に昇進させるプログラムを導入している。
・こうした方策は歓迎されるべきものだが、よりダイナミックに日本企業を変えるには、政府主導による大胆かつ包括的な労働改革が必要だ。 多くの既得権益を持つ人の人生を変える可能性がある労働改革を実施するのは容易なことではない。終身雇用を信じて働いてきた人が突如職を失う可能性があるからだ。
▽年齢ではなく、能力を評価すべき
・だが、日本企業は今こそ、年齢や勤続年数ではなく、能力に応じて従業員に給料を払う制度に切り替えるべきであり、企業が必要に応じて人材削減を行えるようにするべきだ。今のような、正社員と非正規社員の間に給与や福利厚生の面で大きな差があるような「二重労働市場制度」は廃止しなければならない。
・そして最も重要なのは、労働改革によって職を失った労働者のために、今の時代に必要なスキルを学べるプログラムやセーフティネットを用意することである。資金的余裕や過去の経験に欠ける日本政府がこれを提供するのは難しいかもしれないが……。 
・より柔軟な労働市場が必要なのは何も日本だけではない。多くの欧州諸国も、徐々に二重労働市場を見直し始めており、イタリアやスペイン、ポルトガルでは正社員の既得権益を減らすような法律や取り組みが導入されつつある。また、デンマークは、労働改革を通じて企業が人材の最適配置ができるようにする一方で、職を失った労働者のためのセーフティネットを膨大なコストをかけて構築している。
・日本が欧州のまねをする必要はない。が、こうした方向に少しずつ向かうことによって、たとえば大企業に会社を売却した起業家がその資金を違うスタートアップ企業に投資するといった、VC的なエコシステムを構築しやすくなる。こうした投資と成長のサイクルがきちんと構築されれば、日本企業は再び国際的競争力を取り戻せるはずである。
http://toyokeizai.net/articles/-/182671

第三に、10月20日付けダイヤモンド・オンライン「昭和電工、無謀と言われた買収が超有望事業に一変した逆転劇の真相」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・手のひらを返すとは、まさにこのことだろう。 市況が低迷していた1年前には、業界内で「無謀だ」と非難された海外M&Aだったが、市況が急激に好転した今日では「安い買い物になった」と買収に対する見方が180度ひっくり返ったのだ。
・10月2日、総合化学メーカーの昭和電工は、ドイツのSGLカーボンが持つ黒鉛電極事業の買収を完了し、同事業で世界トップに躍り出た。黒鉛電極とは、鉄スクラップを溶かす電気製鋼炉(電炉)で、大電流を流して炉内を加熱するために使われる電極棒(消耗品)のことだ。世界3位だった昭和電工は、世界2位のドイツ企業を買収して一気に勝負に出る。買収金額は、約156億円だった。
・年間の生産能力で見ると、1位は昭和電工+SGLカーボン(25万9000トン)、2位は米グラフテック・インターナショナル(19万1000トン)、3位はインドのグラファイト・インディア(9万8000トン)、4位が東海カーボン+SGLカーボンの米国事業(9万6000トン)、5位がインドのHEG(8万トン)という構図になる。
・昭和電工にとって誤算だったのは、SGLカーボンの全株式の取得に際して米国の規制当局から設備能力の削減を求められたことである。結果的に、米国におけるSGLカーボンの事業を同じ日系の競合である東海カーボンに譲渡した(東海カーボンは、これで念願の米国進出を果たすことになる)。
・だが、昭和電工の誤算は、2017年に入ってから、中国で鉄を生産する高炉メーカーや電炉メーカーに対する環境規制が厳格に適用されるようになって、嬉しい誤算へと劇的な変化を遂げる。これは、誰もが想定外の事態だった――。  昭和電工が16年10月に今回の大型買収を電撃発表した時点では、中国ではま
だ“際限なき過剰生産”が繰り返されていた。鉄の需給のバランスは崩れ、目安となる圧延鋼板の価格も低迷が続いていた。
・その結果、昭和電工の黒鉛電極事業は、2年続けて赤字(15年度は▲12億円、16年度は▲58億円)を出す体たらくだった(無機部門)。 当時、「なぜ、赤字の事業なのに、海外M&Aでさらに赤字を増やすのか」と強く批判されたのは無理もない状況だったのである。
▽環境規制の強化が追い風
・ところが、実は16年というタイミングは――後から判明したことではあるが――中国の高炉メーカーによる過剰生産の影響で、これまで右肩下がりの状態が続いた電炉メーカーの生産量が底を打った(下げ止まった)年となった。 加えて、世界の高炉メーカーで生産される圧延鋼板の価格も16年を境にして、上昇に転じたのである。そうした流れの中で、17年に入ってから、中国の国内で環境規制が強まったことで、高炉よりも二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量が少ない電炉が注目された。そして、昭和電工のプレゼンスもまた、急激に上がったのである。
・今回の買収で、昭和電工の黒鉛電極事業は、東京、大町(長野県の主力工場)、米国、ドイツ、オーストリア、スペイン、マレーシアと一挙に拡大した。初めて欧州に拠点を得たばかりか、重要な市場は全てカバーする体制が整った。 かねて昭和電工の森川宏平社長は、「グローバルでトップシェアを取れば、事業の収益力が高まる。その結果として、市況の変動にも耐性が付く」と繰り返してきた。
・2000年代前半より、中国の過剰生産に振り回されてきた東アジアの市況だったが、今後は中国で進む環境規制の強化による影響が出てくる。基準に満たない事業者は生産を継続できず、脱落していく。それも、かなりの業者が市場から退場すると見込まれているのだ。
・そうした中で、世界の“横綱”となった昭和電工は、荒れていた黒鉛電極の世界に(1)日本基準の品質、(2)きちんと利益が取れる価格、(3)納期を厳守する仕組み、(4)需給を考えるマインドなどの新しい価値観を持ち込む。 中国勢の動きが止まる数年間のうちに、「全く新しい市場に塗り変える」(昭和電工の幹部)というのだ。それこそが、同社の業界再編計画の全貌だったのである。
・実は、1年前に買収計画を発表した時点より、昭和電工の経営幹部の考え方は、全く変わっていない。むしろ、事業環境の方が様変わりしたことが奏功し、当初の「自ら動いて業界再編を起こす」という意図が進めやすくなった。 昭和電工のSGLカーボン買収劇は、ようやく幕が上がったばかり。今後は、買収後の事業展開で世界の観客を唸らせる必要がある。
http://diamond.jp/articles/-/146313

第一の記事で、 『海外企業の買収に伴うリスクはかなり高いと言わざるを得ない。経営者の立場に立った場合、買収の規模、タイミング、条件などに関する最適な解を見出すのは、口で言うほど容易ではないはずだ・・・日本の企業は、語学をはじめ異なる文化、価値観を持つ人材をマネジメントすることに十分な経験を持ち合わせていないと考えられる』、というのはその通りだ。ただ、米GE出身のプロ経営者として注目されたLIXILの藤森社長は、、米アメリカンスタンダードをはじめ5件の海外M&Aにより、11.3期に3%だった海外売上高比率を16.3期は30%に拡大。営業利益を約4割増やした。だが、買収した独グローエ傘下の中国ジョウユウの不正会計を見抜けず累計660億円の特別損失計上を迫られ、社長交代した例もあり、現実には容易ではない。 『リスクに合わせてリターンをとる発想が大事』、というは、マーケットリスクへの対応では、リスク調整後の収益率(RAROC)として有名な手法ではある。しかし、M&Aのような不確実が大きい分野では、リスクを如何に計量化するか、さらには滅多に発生しないが発生すれば膨大な損失を生じる「テールリスク」を如何に扱うか、などの問題があり、現実に適用するのは相当困難なのではなかろうか。
第二の記事で、日本企業では、 『スタートアップ企業を買収した後、大手企業は起業家精神にあふれる創業者に対して融通の利かない人事システムを押し付けようとしたりするため、スタートアップ企業出身者たちは、買収前に享受していた権威や自由、そして市場原理に基づいた賃金を奪われることになる』、というのは、吸収合併であればそうなる可能性はあるが、経営統合であれば子会社にも一定の独立性が付与されるケースが多いため、賃金まで親会社並みになることはない筈だ。
第三の記事にある昭和電工によるドイツのSGLカーボンが持つ黒鉛電極事業の買収は、買収後の環境激変が「結果オーライ」をもたらしたのではなかろうか。ただ、中国での過剰生産の抑制、環境規制の強化などを買収時点で予見、或いは予見までいかないまでも、やがてそうなるであろうと見越していたのであれば、立派なものだ。もっとも、経営は結果が全てであることからすれば、現時点で上手くいっているのであれば、成功とみてもいいのだろう。 『今後は、買収後の事業展開で世界の観客を唸らせる必要がある』、お手並み拝見である。
タグ:環境規制の強化が追い風 昭和電工の黒鉛電極事業は、2年続けて赤字 際限なき過剰生産 嬉しい誤算 中国で鉄を生産する高炉メーカーや電炉メーカーに対する環境規制が厳格に適用されるようになって 世界トップに躍り出た ドイツのSGLカーボンが持つ黒鉛電極事業の買収 昭和電工 「昭和電工、無謀と言われた買収が超有望事業に一変した逆転劇の真相」 日本型人事システムが「障害」 買収後の統合に失敗する例が多い M&Aに長けている社内人材がいない 提携した企業が成功した際、競争相手が買収してしまい、もともと支援していた大手企業には何の見返りもなくなるリスク 多くの企業は新興企業が破綻するリスクを嫌う。このため、日本ではスタートアップを「支援する」という形の提携がメジャーになっているのである 「買収」には奥手な日本企業 「日本企業は、なぜこんなにM&Aが下手なのか そもそも買収に消極的すぎる」 東洋経済オンライン リチャード・ソロモン ソフトバンクは買収に加え、出資というアプローチで海外企業の成長を取り込んできた 日本電産は比較的規模の小さい海外企業を買収して成長を遂げてきた 成功例 契約相手に権利を与え、求めに応じる義務を負うという“オプション契約”が何であるかを、十分に理解していなかった 東芝 買収に付随するリスクを第三者の視点から客観的かつ冷静に見直すことが欠かせない リスクに合わせてリターンをとる発想が大事 経営者も、プロの経営者よりも、新卒採用者の中から選抜されたゼネラリスト型が多い 海外の常識である“競争原理”とは異なる発想 年功序列・終身雇用を重視する企業は多い 日本の企業は、語学をはじめ異なる文化、価値観を持つ人材をマネジメントすることに十分な経験を持ち合わせていないと考えられる 想定される以上に高いリスク マネージメントの経験も不足 海外の買収戦略を重視することは、国内市場の縮小による経営の手詰まり感を払拭し、成長志向の経営を進めるためには不可欠 トール・ホールディングスを買収 日本郵政 第一三共によるインドの後発医薬品大手、ランバクシー・ラボラトリーズの買収 リーマンブラザーズの欧州・アジア部門の買収 野村證券 インドの通信会社に投資を行ったが、これも想定通りの効果を上げるには至らなかった オランダ、英国、米国で大規模な買収戦略を敢行した。特に米国のAT&Tワイヤレスに対しては1兆2000億円もの資金をつぎ込み、結果的には失敗 NTTドコモ 必ずしも成功例ばかりではない。最近では、多額の減損を計上するなど失敗例も目立つ 海外企業買収額10兆円、過去最高 度重なる海外子会社の減損処理 「巨額損失を繰り返す日本企業の海外買収に「盲点」はないか」 ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫 (その3)(巨額損失を繰り返す日本企業の海外買収に「盲点」はないか、日本企業はなぜこんなにM&Aが下手なのか、昭和電工 無謀と言われた買収が超有望事業に一変した逆転劇の真相) 日本企業の海外M&Aブーム
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