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日本企業の海外M&Aブーム(その4)(日本ペイント 「1兆円買収」断念の本当の理由、NECが赤字の「債務超過会社」を買収するワケ、富士フイルムが米ゼロックス買収 子が親を飲み込む裏事情) [企業経営]

昨日に続いて、日本企業の海外M&Aブーム(その4)(日本ペイント 「1兆円買収」断念の本当の理由、NECが赤字の「債務超過会社」を買収するワケ、富士フイルムが米ゼロックス買収 子が親を飲み込む裏事情)を取上げよう。

先ずは、昨年12月15日付け東洋経済オンライン「日本ペイント、「1兆円買収」断念の本当の理由 巨額買収断念の先に何を見据えるのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・市場の評価はネガティブだった。 国内塗料トップ、世界5位の日本ペイントホールディングス(以下、日本ペイントHD)が米同業アクサルタ(世界6位)に買収提案をしていると報じられた11月22日、日本ペイントHD株は4%超と大幅な下落となった(日経平均株価は上昇)。
・理由は財務悪化懸念だ。アクサルタには世界トップ、アクゾ・ノーベルが10月に合併を提案し株価が高騰、時価総額は1兆円を超えていた。 完全子会社化には総資産(9月末9124億円)並みの借入金が必要。財務改善のために増資をすれば、株式が希薄化する。投資家が嫌気するのは当然だ。
▽買収価格の問題ではなかった
・株価はその後もジリ安となったが、12月1日に日本ペイントHDが買収断念を発表すると反発、8%超も上昇している。 常識外れのM&A(企業の合併・買収)の背景にあるのは、日本ペイントHDの「買収される恐怖」だと見る向きがある。確かに、近年塗料業界は、大手によるM&A案件が尽きない。
・だが、日本ペイントHDはアジア事業の合弁先が4割弱の株式を持つため、敵対的TOB(株式公開買い付け)が極めて難しい会社だ。巨大化して買収者に対抗する必要はない。日本ペイントHDはそろばんをはじいて買いにいったのだ。 そもそも、始まりはアクゾの提案の前。日本ペイントHDの幹部によれば、夏ごろから企画担当者同士が協業に向けて検討開始、ワーキンググループもできていた。
・守秘義務契約を結んでデューデリジェンス(資産査定)に入ったのが11月初旬。アクサルタは両社をてんびんにかけて、日本ペイントHDに絞ったというのが買収断念までの大まかな流れだ。 また、断念の理由も巷間言われるように価格が折り合わなかったからではない。理由は2つあり、1つは工場に関する情報の不足。土壌、大気汚染など工場に関する情報は、十分過ぎることはない。ただ、デューデリとはいえ競合にさらす情報には限度がある。「今回は買収に進むには足りなかった」(日本ペイントHD幹部)。
▽結果的に断念オーライ
・もう1つは競争法上の問題。地域、製品で重複は少ないと見ていたが、実際には何カ国かでシェアが問題になるおそれが出てきた。時間をかけて調べれば対策は立てられたが、アクゾとの交渉を完全に打ち切ったわけではないアクサルタは、11月末の期限順守を求めた。
・「これらに目をつぶって跳ぶという判断もあったが、取締役会でやはり譲れない、となった」(日本ペイントHD幹部)。断りを入れたのは日本ペイントHDである。 未練はあろうが、これでよかったのではないか。アクサルタは総資産の6割に当たる3700億円の有利子負債があるため、利払いが多く2016年12月期の純益は約50億円。
・仮に1兆円で買収すると、日本ペイントHDの有利子負債は1兆4000億円を超える。以前に比べアクサルタの収益力が高まっているとはいえ、“賭け金”が高すぎる印象だ。 引き続き、日本ペイントHDはグローバル・ペイント・メジャーを目指す。強みのあるアジアを盤石にしつつ、大手同士の統合で競争法上、分離される欧米の事業を買収するのが基本だ。
・もちろん、アジアを強化する案件があれば、そちらを優先することになるだろう。グッド・パートナーは意外と近くにいるかもしれない。
http://toyokeizai.net/articles/-/201178

第二に、1月11日付け東洋経済オンライン「NECが赤字の「債務超過会社」を買収するワケ 「海外セキュリティ拡大」の起爆剤となるか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・1月9日。通信インフラ設備で国内首位のNECが、英ノースゲート・パブリック・サービス社(以下NPS)を4億7500万ポンド(約713億円)で買収すると発表した。買収資金はNECが現在持っている現預金(2017年9月末2399億円保有)を充てる。1月末をメドに買収を完了する。
・1969年設立のNPSは政府向けや警察向けが主体のセキュリティに強いソフトウェア会社。犯罪事案管理プラットフォームは英国でシェア29%、自動ナンバープレート読み取りシステムや違反処理システムでは独占的な地位を持つのだそうだ。公営住宅の管理プラットフォームにも強みを持つ。
▽減収に加え、赤字に転落
・NECの顔認証技術や人工知能(AI)技術で今後シナジーが見込めるほか、海外でセキュリティを伸ばす橋頭堡になりうると判断して買収に踏み切った。オーストラリアやシンガポールなど「英連邦(コモンウェルス)」への横展開が実現すれば、海外セキュリティ事業が大きく伸びるという皮算用も見え隠れする。
・2017年4月期のNPSの売上高は1億6350万ポンド(約245億円)で前期比1900万ポンド(約28億円)の減収だった。「採算の低いBPO(間接業務受託)サービスを縮小している影響」(NECの山品正勝グローバルビジネスユニット担当執行役員)だという。
・他方、営業損益は420万ポンド(約6億円)の赤字だった。山品執行役員によれば、営業赤字はBPOサービス縮小などなど構造改革の影響。2016年4月期は690万ポンド(約10億円)の営業黒字だったほか、買収後は構造改革費用がなくなり黒字化が見込めるという。 最終損益も4120万ポンド(約61億円)の赤字だった。赤字の原因は借入金が多く、支払金利の負担が重かったことによるもの(前期は2400万ポンド、約36億円の最終赤字)。
・借入金が多いのは、現在の大株主である投資ファンドのCinven(シンベン)がLBO(レバレッジドバイアウト、借入金による企業買収)でNPSを2014年に買収したことに起因する。LBOの常套手段として、シンベンが借り入れた負債を買収後にNPSに負わせたためだと山品氏は解説する。
▽投資ファンドに翻弄された歴史
・最終赤字が続いたために2017年4月期は9700万ポンド(145億円)の債務超過だった(2016年4月期は5290万ポンド、約79億円の債務超過)。だが、「今回の買収により、NECの買収資金で債務が劇的に減少。債務超過から脱する見込みだ」と山品氏は会見で胸を張った。
・「LBOの影響による金利支払い額は4010万ポンド。この金利の支払いがなくなるだけで最終赤字はゼロ近辺まで回復する。数百万ポンドの構造改革費用がなくなることで営業黒字化や最終黒字化が見込める」(NEC幹部)
・はたして債務超過続きの赤字会社であるNPSに713億円も払う価値があるのか。会見に参加したアナリストはその点を見極めるためにいくつもの質問をしたが、会社側の回答に満足した様子のアナリストは皆無だった。
・NPSの歴史は、投資ファンドに翻弄された歴史といえる。シンベン以前の筆頭株主も投資ファンドで、前筆頭株主のKKRはBPOサービスを拡大するなどして企業価値の増大を図った。だが、BPOサービスはコスト削減圧力が強く低採算。NPSの収益構造を悪化させる結果となった。 次に現れたシンベンは不採算事業の縮小など収益構造の改善を目指した。一方で、LBOを用いた結果としてNPSの財務を悪化させる副作用を起こした。今回のNECの買収は、投資ファンドの経営再建が2度も破綻をきたしたために、事業会社にお鉢が回ってきたと見ることができる。
・だからと言って、NECがNPSの再建を成功させる保証はどこにもない。会見では「2008年に3億ドル(約320億円)で買収した通信事業者向けシステム構築会社、米ネットクラッカー・テクノロジーでは、当初は現地に任せていたが、しばらくして日本のやり方を押し付けた結果、うまくいかなかった。今回もそうなるのではないか」と心配する声も聞かれた。 NECの新野隆社長は「現地のCEOとCFOにはそのまま残ってもらうつもりだ。事業に強い、キーになるメンバーを日本から送り込む」と述べるにとどまった。
▽今後も買収を継続しそうだが・・・
・新野社長は「今回は第1弾」と今後も海外セキュリティ関連で買収を繰り返す意思を強くにじませた。会見で配布した資料には第5弾まで想定しているかのような図を掲載している。 好採算企業へと舵を切りたいが、国内のSI(システム・インテグレーター)事業は依然として顧客要望に合わせるカスタマイズ型のシステム構築が多く、低採算体質を変えることは容易ではなさそうだ。勢い、海外に活路を見出すしかないが、海外に強い足掛かりがない。
・今回買収したNPSに、来期以降は収益の改善が期待できるとはいえ、売上高250億円では、国内主体で1000億円規模のセキュリティ事業の採算性を引き上げるほどにはなりようもない。新野社長はそれを承知の上で「第1弾」と強調したのだが、果たしてほかに良い買収先が海外にごろごろ転がっているのだろうか。
・M&A戦略に大きく舵を切ったかのようにみえる今回の買収劇。海外セキュリティ事業拡大に向けた起爆剤となる可能性がある一方で、第2弾、第3弾、第4弾……と次々にまとめていけないと、「赤字続きの債務超過会社を700億円もかけて買収するとは」と株式市場に奇異に受け止められるだけかもしれない。
http://toyokeizai.net/articles/-/204107

第三に、 2月5日付けダイヤモンド・オンライン「富士フイルムが米ゼロックス買収、子が親を飲み込む裏事情」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・アダイヤモンド・オンラインジアの合弁相手だった“子”が、米国の老舗名門の“親”を買収──そんな成功譚となるかどうか。 富士フイルムホールディングス(HD)は1月31日、米ゼロックスを買収すると発表した。
・まず両社が出資する富士ゼロックスが、富士フイルムHDから富士ゼロックス株を6710億円で自社株買いする。さらにゼロックスが既存株主への特別配当で時価を下げ帳尻を合わせる。富士フイルムHDは得た6710億円でゼロックスが発行する新株を取得、全体の50.1%の持ち分を握る。その後富士ゼロックスはゼロックスと合併。合併後、新会社の経営権を富士フイルムHDが握る。
・つまり、富士フイルムHDは実質“タダ”でゼロックスを傘下に収めるという仕組みだ。 1906年創業の伝統的テクノロジー企業でコピー機を発明したゼロックスだが、内情は“火の車”だった。2017年度の売上高は前年度比4.5%減、営業利益は68%も落ち込んだ。
▽統合するのはハード事業のみ
・さらにゼロックスを悩ませていたのが、“物言う株主”の存在だ。 ゼロックスは16年、それまで中核事業として注力してきたビジネスプロセスアウトソーシング事業を分社化。同事業は交通機関の料金収受システム運用や診療報酬請求業務など、複写機回りにとどまらない幅広い顧客の業務を受託するサービスで、09年には世界最大手を買収して事業強化してきた。
・それを分離せざるを得なくなった背景には、筆頭株主の投資家カール・アイカーン氏の“圧力”がある。同氏はその後さらに、ゼロックスとサービス分社のコンデューセント双方の取締役会に役員を送り込み、経営関与を強めている。 アイカーン氏は昨年来のゼロックスの身売り報道を受け、ゼロックスの3位株主に浮上したダーウィン・ディーソン氏と共同で書簡を公表。
・ゼロックス株主に対し、会計不祥事を起こした富士フイルムグループとの合弁契約の解消、ゼロックスのジェフ・ジェイコブソンCEOの解任など、過激な提案を通知していた。両氏の持ち分は株式総数の15%に達しており、すんなりと富士フイルムHDの買収提案をのむとは考えにくい。
・そもそも、今回買収するゼロックスは、高成長事業を切り分けた残りの“旧来のハード事業”の会社だ。しかも、そのハードの多くは富士ゼロックスがOEM提供していた。古森重隆富士フイルムHD会長は、「買収でグループから現金は流出せず、今後も成長分野でのM&Aは可能」と強調したが、今後、統合過程でリストラ費用が発生する可能性は高い。
・縮小する複写機市場に代わる新規事業を模索していたはずの富士フイルムHDにとって、“後退”とも解釈できる今回の買収。結果はどう出るか。
http://diamond.jp/articles/-/158387

第一の記事で、日本ペイントとアクサルタ両社によるワーキンググループ(WG)が出来た時期の記述がない。 『デューデリジェンス(資産査定)に入ったのが11月初旬』、らしいが、仮に WGが出来たのが、『アクゾ・ノーベルが10月に合併を提案』、以後であったとすれば、アクサルタが 『両社をてんびんにかけ』、ただけの話で、日本ペイントが断念するのは当然だ。以前であったとしても、 『工場に関する情報の不足』、があったのであれば、これまた当然である。 『グッド・パートナーは意外と近くにいるかもしれない』、というのは私には分からないが、いずれにしても焦る必要はないのではなかろうか。
第二の記事で、 『NPSは政府向けや警察向けが主体のセキュリティに強いソフトウェア会社』、という割には、業績の方は大株主の投資ファンドが債務を膨らませたこともあって、不振で債務超過とのこと。 『はたして債務超過続きの赤字会社であるNPSに713億円も払う価値があるのか』、との疑問は解けないままだ。さらに、『新野社長は「今回は第1弾」と今後も海外セキュリティ関連で買収を繰り返す意思を強くにじませた』、と買収に前のめりになっているようだが、大丈夫なのだろうか。
第三の記事で、 『今回買収するゼロックスは、高成長事業を切り分けた残りの“旧来のハード事業”の会社だ。しかも、そのハードの多くは富士ゼロックスがOEM提供していた』、ということであれば、既にゼロックスは成長が期待できないどころか、ペーパーレス化の進行で事業基盤が縮小し続ける老舗に過ぎない。 『富士フイルムHDは実質“タダ”でゼロックスを傘下に収めるという仕組み』、とはいいながら、 『富士フイルムHDは得た6710億円でゼロックスが発行する新株を取得』、するため、6710億円はゼロックス既存株主向けに支払われる形になる。さらに、 『今後、統合過程でリストラ費用が発生する可能性は高い』、のであれば、果たしてそれだけの価値があるのだろうか。
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