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アベノミクス(その28)(教育無償化を迷走させた安倍政権ポピュリズム政治の罪、アベノミクスが終わって景気後退が始まる 放漫財政で社会保障の危機が残った、安倍政権の「生産性革命」が また日本をおかしくする) [経済政策]

アベノミクスについては、1月27日に取上げた。今日は、(その28)(教育無償化を迷走させた安倍政権ポピュリズム政治の罪、アベノミクスが終わって景気後退が始まる 放漫財政で社会保障の危機が残った、安倍政権の「生産性革命」が また日本をおかしくする)である。

先ずは、金沢大学法学類教授の仲正昌樹氏が1月8日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「教育無償化を迷走させた安倍政権ポピュリズム政治の罪」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・昨年12月8日の臨時閣議で、「人づくり革命」と「生産性革命」の二つを柱とする新しい「経済政策パッケージ」が決まった。 安倍首相はオリンピックが開催される2020年に向けてパッケージを実行することによって、「日本が大きく生まれ変わる」契機にしたいと表明した。しかし、このパッケージは方向性の違う政策を無理やり詰め込んだ観が強く、ちぐはぐという指摘がされている。 どうちぐはぐなのか、「人づくり革命」の中核と位置付けられた「教育無償化」に即して考えてみよう。
▽誰を、何のために支えるのか 目的や方向性がちぐはぐ
・ちぐはぐが目立つのが、政策目的だ。 誰のために、何を実現しようとするのかはっきりしないのが、今回の無償化論議の特徴だろう。 例えば、幼児教育を無償化した場合、直接の利益を受けるのは、幼稚園や保育所に子どもを預けている両親である。だが子どもがいない人は一方的に税負担を強いられることになるし、全面的に無償にすれば、高額所得者や、“お受験”中心の幼稚園に通わせている親にも恩恵が与えられる。
・また待機児童問題が解決しない現状で導入すれば、たまたま保育所に子どもを入所させることができた運のいい親だけが恩恵を受けることになる。 政府は、一定の条件を満たした未認可の保育施設も無償化の対象にすることを検討しているようだが、それだけでは全てのニーズをカバーし切れないだろうし、対象となる施設の選定をめぐって混乱が起こるだろう。
・恣意的な基準で選抜すれば、「森友・加計問題」の再来になりかねない。機会均等や再分配という目的からすれば、むしろマイナスだし、教育の質の確保という点からも疑問が残る。 経済面で子育てしやすくし、少子化対策にするという目的から見れば、一応プラスだが、待機児童問題が解決しないと、子育て中の女性の社会進出を促すことにはならず、少子化対策の効果はあまりないかもしれない。
・一方で、子どもの利益を考えると、また話は違ってくる。 人材育成あるいは教育の機会均等という目的から幼児教育を充実させたいのであれば、幼稚園や保育所に子どもを通わせることを準義務化し、各施設の教育の質を確保することを最優先すべきである。
・高校や大学の無償化についても、経済的再分配や誰もが高等教育を受けられる“機会均等”のためか、優秀な“人材育成”のためかを考える必要がある。 後者が目的であれば、一定の才能や努力を示していることを無償化の条件にしたうえで、貧しい家庭に育っても高度な教育を受けられる環境の整備に力を入れるべきだろう。中卒、高卒で就職して所得税を払っている人とのバランスも考える必要がある。
▽財政健全化計画との整合性もはっきりせず
・財源をどうするのかや、財政健全化計画などの他の政策とのちぐはぐも目立つ。 消費税増税分の使途を突然、変更し、教育無償化に充てることを打ち出したことで、従来の財政健全化計画や「税と社会保障の一体改革」との齟齬が生まれた。
・政府・与党はこれまで消費税率を10%にした時の増収分を、高齢化のため毎年、自然に増え続ける福祉関係予算に充て、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の回復を目指すと説明していた。 それが、「子育て世代への投資」に集中的に割り当てる、という方針に変わり、幼児教育無償化、待機児童解消、所得の低い家庭の子どもたちに限っての高等教育の無償化などが具体的項目として挙げられた。
・政府は、2%の増税による増収分は5兆円強と試算している。 従来は、このうちの4兆円を国の借金返済に充て、1兆円強を福祉予算に充てるとしていた。 だが今回の閣議決定では、財政再建に充てるのは半分程度とし、残りのうちの1.7兆円程度を、幼児教育無償化や、低所得者に限定した高等教育の負担軽減など教育関連と介護人材の確保に充てるとしている。
・当然、財政健全化計画で掲げられているプライマリーバランスの黒字化の目標は遠のき、年金生活者などの福祉は、数千億円分は割を食うことになる。 教育全体の無償化には5兆円が必要とされており、政府がこの政策を追求し続ければ、財政の健全化はさらに混沌とすることになろう。
・無論、プライマリーバランスより成長戦略が重要だという考え方や、福祉の重点を高齢者から子育て世代や子どもに移すべきだという考え方もある。財政的な観点のみで無償化政策を否定すべきではなかろう。  問題は、「教育無償化」が、何を目指した政策なのか、政府や与党自身が分かっているのか、ということである。
▽「保育園落ちた」の投稿が引き金 教育政策が“アキレス腱”に
・政府が「教育無償化」に前のめりになっていく最初のきっかけになったのは、恐らく、2016年2月に、はてな匿名ダイアリーに投稿された「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログ記事だ。 この記事は山尾志桜里議員(当時、民主党)によって衆議院予算委員会で取り上げられた。
・この記事のことを首相が知っているかという質問に対して、首相が承知していないと答えたため、同議員は、それを待機児童問題に対する安倍首相の“関心の低さ”と見なして攻撃した。 このやり取りは、「働く母親の立場を代表する山尾氏vs働く女性の気持ちに鈍感な首相」、という構図を印象付けることには成功した。 野党やマスコミ、ネット世論で安倍内閣が掲げる「女性が輝く社会」や少子化対策は単なるかけ声ではないのか、との論調が広がり、女性の内閣支持率は10%前後低下した。
・この問題がその年7月の参議院選挙に与えた影響は――TPP等他の争点もあったため――限定的だったが、12月に発表されたユーキャン新語・流行語大賞のトップ10に「日本死ね」が選ばれ、再び「待機児童問題」に関心が集まった。
・この直後に発表された民進党の次期総選挙向け公約原案では、幼稚園から大学までの授業料や、小中学校の給食費の免除、無利子奨学金の拡充など、「教育無償化」が盛り込まれた。日本維新の会も既に参議院選挙の時から教育無償化を掲げていた。
・政府・自民党は愛国心教育に力を入れる一方で、子育て支援、教育への投資に消極的ではないか、との印象が徐々に強まっていった。 もう少し遡ると、2015年前半のピケティブームの際に、教育格差を通しての格差の世代間継承が改めて話題になった頃から、教育政策が自民党の“弱点”になり始めていたのかもしれない。
・さらに2017年2月に森友学園問題、5月に加計学園問題が浮上したことで、現政権の教育政策の杜撰さが余計に際立つことになった。 前者では愛国心教育、後者では国家戦略特区制度を利用しての大学の規制改革がクローズアップされた。いずれも安倍政権が売りにしていたはずの政策だ。
・2008年年末から09年年初にかけての「年越し派遣村」に象徴される格差問題が、崩れかかっていた自民党政権を崩壊させ、民主党政権を誕生させるきっかけになったように、「日本死ね」に始まる一連の教育政策での対応の不手際が、安倍政権のアキレス腱になりそうな様相を呈した。
▽唐突だった「憲法改正で無償化」 総選挙前に再び目玉政策に
・昨年5月の憲法記念日、安倍首相がかなり唐突に、憲法改正の目玉として九条と並んで「教育無償化」を掲げたのは、教育への熱意をアピールする狙いがあったのだろう。 しかし、自民党結党以来の目標である「九条改正」と、野党が先行する形で急浮上した「教育無償化」を並べるのは、いかにも不自然だった。
・さらに無償化に伴う財政支出の大幅な増加、しかもその増加分を憲法によって恒久化することは、小泉内閣以来進めてきた財政改革に逆行するように思われる。 教育無償化を憲法改正の眼目にするのなら、憲法とはそもそも何を規定し、何を目指すものなのか、そして、自民党は現行憲法をどういう性質のものと認識し、どう変えたいのか、憲法の本質をめぐる議論が必要だ。
・異質な論点を持ち込む以上、安倍首相自身がどうして改正に拘るのか改めて説明すべきだろう。 野党や憲法学者だけでなく、党内からも批判が出たため、この案自体はうやむやになった感がある。 しかし、野党側の足並みの乱れを見越して急遽、決めた10月の解散・総選挙に向けて、首相は再び「教育無償化」を打ち出し、自民党も公約に掲げた。
・そのため今度は、政府・与党は何のために増税するのかが疑問に付されることになった。 政府・与党はこれまで増税分を財政再建に充てると言っていたはずだ。この財政健全化目標は諦めるのか。諦めるのであれば、増税は一旦白紙に戻すべきだった。
・だが自民党の総選挙公約では、「財政健全化の旗は明確に掲げつつ、不断の歳入・歳出改革努力を徹底」することと、「『全世代型社会保障』へと大きく舵を切」ることも謳われており、素朴に考えると、教育無償化の費用を主として高齢者福祉関係の予算の削減で賄おうとしていることになる。 だとすると、「自然増加分+教育無償化対策費」を毎年、削減しなければならない。これはかなり非現実的な想定である。
▽世論受けを狙う税金の無駄使いに終わる恐れ
・結局、「教育無償化」は、自民党と野党の間の“教育”におけるイニシアティヴ争いの中で浮上してきたため、長期的政策として十分に練られていないまま、政府の目玉政策に位置付けられ続けているのが実情だ。  財政政策、特に教育関係の政策には様々な当事者や利害が関わってくるし、人の成長という予測しにくい要素が関わってくるので、焦点がぶれやすいのはある意味で仕方がない。
・しかし、だからこそ教育政策を決定するに際して、成り行き任せにならないよう、何を目的とした政策なのかその都度、十分に審議し、優先順位や実現手段(PDCA)を確認する必要がある。 政府は他にも、生産性革命のために、政府の設定した「3%賃上げ」目標を達成した企業を減税し、賃上げに熱心でない企業には「ペナルティ」として租税特別措置の優遇を止めることを決めたが、企業ごと、業種ごとの事情の違いを無視して、政府が数字だけを見てコントロールするのは、規制改革の趣旨に反するのではないか。
・AI、ICT、IoTなどの先端技術を積極的に導入する企業を優遇する方針も出しているが、企業が必要としている技術について、政府が口出しするのもおかしい。 各企業がそれぞれの事情に合わせてIoTの導入や適材適所の人材配置による生産性の向上を図れば、平均賃金はむしろ下がるかもしれない。賃上げと生産性向上は別の問題であり、一つのカテゴリーに入れることには無理がある。
・その時々の世論に一番受けそうなキーワードに従って、予算配分したり税制をいじったりして、とりあえ
ずやる気”を見せるのは、単なるポピュリズムであり、税金を無駄遣いするだけに終わる可能性が高い。
http://diamond.jp/articles/-/155053

次に、NHK出身のジャーナリストの池田 信夫氏が2月9日付けJBPressに寄稿した「アベノミクスが終わって景気後退が始まる 放漫財政で社会保障の危機が残った」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・2月に入って世界の株価が急落した。特にニューヨーク証券取引所のダウ平均株価は、6日に下げ幅としては史上最大の1175ドルを記録した。その後は値を戻したが、かつての勢いはない。市場にも「上がりすぎた株価の健全な水準訂正だ」という評価が多い。 これに連動して、日経平均株価も大きく下がった。2008年の「リーマンショック」ほど深刻な影響は見られないが、アベノミクスによる金余りで続いてきた相場に冷や水を浴びせたことは間違いない。この後に来るのは、世界的な景気後退だろう。
▽「恐怖指数」が暴落の引き金を引いた
・ダウ平均の暴落の原因は、1987年の「ブラック・マンデー」と似ている。このときはコンピュータで自動的に取引する「プログラム取引」が原因だといわれた。このときは値下がりした株をコンピュータが自動的に売る仕組みだったのに対して、今回はVIX(volatility index)という指数が原因だというのが多くの専門家の見方だ。
・これは株価の変動幅が大きくなると上がる指数で恐怖指数とも呼ばれるが、6日には2倍以上に急上昇した。これによってその逆指数オプションを組み込んだファンドが90%以上も値下がりしたことが、暴落のきっかけだったという。
・VIXは「株価が大きく変動する」という指数だから、その逆指数ファンドは、顧客に「値下がり保険」を売っているようなものなのだ。普段はもうかるが、株価が暴落するとVIX逆指数ファンドは大きく値下がりする。これによってコンピュータが株を自動的に売り、それがさらに値下がりを呼ぶ・・・という悪循環になる。
・このプログラムが発動されると一瞬でファンドの株式をすべて売って債券を買うので、ニューヨーク証券取引所の暴落が起こったのは、10分ほどの間だったという。 機関投資家のもっているVIX逆指数ファンドの残高は1500億~1750億ドルにのぼり、売りが売りを呼ぶリスクが大きい、とIMF(国際通貨基金)は警告していた。リーマンショックを生んだのは不動産担保証券というデリバティブ(金融派生商品)だったが、今回もVIXというデリバティブがショックを引き起こした疑いが強い。
▽世界的な金利上昇で取り残される日銀
・ただ今回の値下がりは、リーマンショックのような構造的なものではなく、上がりすぎた相場で市場参加者が「売り場」を求めていたという見方が多い。 アメリカの株価はトランプ大統領の積極財政を予想して値上がりが続いてきたが、大幅減税で財政赤字が膨らみ、インフレで長期金利が上がる懸念が出てきた。FRB(連邦準備制度理事会)は政策金利を引き上げる方針を表明しており、長期金利が上がり始めていた。株式の理論価格は債券との裁定で動くので、金利が上がると株が売られるのは当然だ。
・この点では、日本への影響は限定的だろう。日本国債の40%以上は日銀が保有しており、金利が上がりそうになったら日銀が買えばいいからだ。日経平均もダウ平均に比べると割安だといわれ、大幅に下がるとは思えない。 しかし株価は、経済の体温計にすぎない。上がっていた熱がちょっと冷めたからといって、病気が直ったわけではない。日本の病はアメリカより深い。金利と物価が連動するアメリカに対して、日本はマイナス金利を続けても、物価も成長率も上がらないからだ。
・厄介なのは、日銀の量的緩和が失敗に終わって「出口戦略」が話題になっているとき、景気に不安が出てきたことだ。教科書的なマクロ経済政策では、こういうとき金利の引き下げで対応するが、日本の政策金利はこれ以上は下げられない。長期金利も「イールドカーブ・コントロール」でゼロ近辺に抑えている。
・これから世界的には金利上昇局面になるので、日本だけマイナス金利がいつまでも続けられるとは思えない。日銀が国債を無理に買い支えると、日銀だけではなく民間銀行も含み損を抱えるので、金利が正常化したとき大きな評価損が出る。
▽弾を撃ち尽くした政権
・2013年に始まったアベノミクスは、大規模な放漫財政パッケージだった。2%のインフレ目標を掲げて「2年で2倍」の量的緩和で「インフレ期待」を起こそうという黒田総裁の政策は、結果的にはインフレを起こせず、日銀が際限なく国債を買う財政ファイナンスになった。
・この結果、財政規律が失われ、安倍政権は二度も消費税の増税を延期した。これによって財政赤字が拡大し、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化は、見通せる将来には不可能になった。 金融政策も財政政策も景気対策としては大した効果がなかったが、日銀のバランスシートと政府債務は史上空前の規模に拡大した。このまま放漫財政を続けると「時限爆弾」が爆発するリスクは小さくない。アメリカの金利上昇は、その第一歩かもしれない。
・それが爆発しなくても、大きな構造問題が残る。それは社会保障会計の隠れ借金が膨張することだ。民主党政権時代の三党合意では、消費税の増税分はすべて社会保障の財源に当てる予定だったが、それが減ったので社会保障会計の赤字は急速に増える。
・団塊の世代は年金を満額もらって死んでゆくが、その後の世代は保険料が返ってこないので、その年金は国の借金で払うしかない。厚生労働省は年金会計が最大800兆円の債務超過になると計算している。 
・もう1つ深刻なのは医療費だ。増税が延期されたため、団塊の世代が後期高齢者になる「2025年問題」を解決するチャンスを逃した。2025年には2200万人が後期高齢者になり、医療費は1.5倍になって54兆円に増える。それを埋める財政赤字も激増する。
・今まではこういう将来不安を景気回復が打ち消していたが、景気が悪化すると所得が下がり、消費が冷え込み、不安が高まる。景気回復は永遠には続かないし、政府が景気を維持することもできない。安倍政権の5年間に景気が回復したのは、世界経済の回復に乗った幸運だった。
・政権が最後の手段として考えるのは、2019年10月に予定されている消費税の10%への増税の再々延期だろう。いま思えば2017年4月に予定通り増税するのが、景気循環を打ち消す最後のチャンスだった。金融も財政も弾を撃ち尽くした政権は、運ではなく実力で景気後退を乗り切らなければならない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52312

第三に、慶應義塾大学経済学部教授の金子 勝氏が1月10日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「安倍政権の「生産性革命」が、また日本をおかしくする」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍政権は、掲げた政策目標を達成できないまま、すぐに別の政策目標を次々と掲げる。こうしたやり方を続けていくと、政策の失敗を検証されずにすむからだ。今国会で関連法案が審議される「働き方改革」や、「生産性革命」も同じだ。 「経済優先」を掲げるのはいいが、間違った政策を繰り返すのでは、日本社会がおかしくなるだけだ。
▽次々打ち出される新政策 失敗の上塗りはどこまでも続く
・安倍政権での政策目標の「存在の限りない軽さ」を象徴するのが、デフレ脱却を掲げた「物価目標」だろう。 5年前の2013年4月に掲げた「2年で2%」という消費者物価上昇の目標は6度目の延期となった。にもかかわらず、最近では、政権はもはや「デフレではない」状況を作り出したと言い出している。
・昨年12月の生鮮食品を除く消費者物価上昇率は0.9%だが、生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価上昇率は0.3%にとどまっている。 つまり消費者物価の上昇は金融政策の効果というより、ほぼ石油などエネルギー価格に左右されている。しかも、2017年の実質賃金はマイナス0.2%になった。緩やかな物価上昇が人々の消費を増やしていく経済の好循環をもたらしているとは、とても言える状況にはない。
・そもそもデフレ脱却が達成できたというなら、なぜ日銀は大規模な金融緩和を続ける必要があるのか、説明がつかない。 「異次元緩和」を推進してきた黒田東彦日銀総裁は再任が固まったと言われているが、金融政策は出口のない「ネズミ講」のようになっている。
・金融緩和をやめようにも、国債の購入を急激に減らせば、国債価格が下落して金利が上昇し、国債利払い費が増加して財政が破綻に向かう。日銀を含む金融機関が巨額の含み損を抱え込む。そして金利の上昇に加え、日銀の株購入の減少ないし停止は株価の急落をもたらすだろう。 失敗は明らかなのだが、もはややめられないのだ。
▽生産性上昇で陥る「罠」 GDPが停滞すれば労働強化に
・こうした中で、また政策目標のすり替えが起きている。 昨年12月8日に、「人づくり革命」と「生産性革命」を両輪にした「新しい経済政策パッケージ」なるものが打ち出された。 この「生産性革命」も極めて効果の怪しい政策だ。 そもそも「労働生産性」とは何か。 分子が「GDP(国民総生産、1年に作り出す付加価値の合計)」で、それを分母の「就業者数×労働時間」で割ったものだ。 つまり労働生産性を上げるには、分母を小さくするか、分子を大きくするか、どちらかになる。
・「生産性革命」の基本となっているのは「働き方改革」で、残業時間規制とともに高度プロフェッショナルという残業代ゼロの裁量労働制を導入しようとしている。 つまり、「働き方改革」は、分母を小さくすることで生産性を上げようとする動きである。  残業時間を規制し、能力と成果に応じて働く裁量労働制を入れれば、表面上、労働時間を減らすことができる。さらに、「人づくり革命」による教育無償化でラーニング効果(学習効果)をもたらせば、働き手の能力が上がって生産性が上昇するというわけだ。
・ところが、事はそう単純ではない。 就業者1人当たりの生産性で見れば、低賃金の非正規雇用の増加は労働コストを下げても、必ずしも、実際の仕事の生産性を上げるとは限らない。 一方で、労働時間当たりの生産性で見れば、裁量労働制などでサービス残業を「合法化」してしまえば、表面上の残業時間が減り生産性は上がる。
・他方、国民1人当たりの生産性を考えれば、生産年齢人口(15~64歳)が減るだけで生産性は落ちてしまう。 そこで、政府は「人生100年時代」と称して、高齢者にもリカレント教育を行って働いてもらおうということで、「人づくり革命」なる政策を唱えるわけだが、一方でそのことは、年金支給年齢の引き上げによる「財政赤字削減」政策のほうに重きがあるように思われる。
・分子のGDPが増えない中で、労働生産性を上げるため分母を小さくすることは、分母の残業規制がゆるいと、企業は賃金引き下げとブラック労働を引き起こすだけになりかねないのだ。 「失われた20年」は、まさにそうした事態が起きてきた。そして雇用や労働が壊れることになった
▽「経営者精神」忘れた企業トップ 投資せずに賃金抑制
・転換点は、1997年11月に北海道拓殖銀行や山一證券が経営破綻してバブル崩壊の影響が本格化してからである。 この時期を境にして、名目GDPの伸びは見られなくなり、代わって財政赤字(長期債務)が急速に伸びることになった。(図1) つまり、財政赤字を出し、借金の返済は次世代に負担を先送りして未来の需要を先食いしながら、何とか「現状維持」をしてきたのが、実態だ。その結果、今や日銀は出口のない金融緩和に突っ込んで、経済を持たせるのが精一杯の状態に陥っているのである。
・企業は企業防衛を優先し、法人税減税や繰延欠損金を使って負債を返し、潰れないよう動いた。 国際会計基準の導入とともに、M&A(企業買収)が行われるようになってから、こうした傾向は一層加速した。 それまで家計が貯蓄主体となって、その資金が金融機関を通じて、企業の設備投資資金として提供されるパターンが崩れた。図2が示すように、賃金低下と高齢化に伴って家計の貯蓄は低下し、企業(非金融法人部門)が新たに貯蓄主体となって、内部留保をため込むようになってきた。
・つまり、企業は貯蓄主体となって内部留保をため込むことを優先して、設備投資や技術開発投資を積極的にせず、賃金支払い総額を抑えてきた。 GDPが伸び悩み、デフレ圧力が加わる下で、企業は収益を上げるために、図3が示すように賃金支払いを抑制し、非正規雇用を増やして、労働分配率を低下させてきた。 労働組合(連合)も、経営者の「企業防衛」に協力し「正社員クラブ」の利益を確保するために非正規雇用の拡大を黙認した。 これが、企業の「生産性上昇」の取り組みの中心だった。
・だがこうした動きがデフレを定着させることになった。これでは投資も消費も伸びず、分子のGDPは伸びなかった。 就業者の1人あたり総労働時間は減少してきたが、それで、表向き生産性が上がったとして、雇用や働き方が改善されたわけではない。
・とくに、労働集約的なサービス産業を中心に雇用の非正規化が進み、いくら働いても残業代は同じという「固定残業代」に基づいてブラック労働が横行してきた。 要するに、分子のGDPが増えない下で、企業が収益を高めようとすれば、表面上の残業時間を削り、賃金支払い額を抑制するのが最も手っ取り早い手段だからである。
▽「高度プロ」制度は長時間労働を「合法化」する
・安倍政権が打ち出した「働き方改革」は、こうした状況を転換するものではない。それどころか、状況をひどくする面を持っている。 まず裁量労働制をとり、能力や成果に基づいて賃金を支払う「高度プロフェッショナル」を設ける。これはノルマの設定次第で、勤務時間内に仕事ができなければ、それは本人の能力が足りないとされ、残業代ゼロになってサービス残業が「合法化」される。
・安倍首相と加藤厚労相は「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均か平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」という国会答弁をしたが、結局、間違いだと撤回した。実際には裁量労働制のほうが長く、その残業代をゼロにする範囲が拡大されることになる。
・残業時間規制も導入されるというが、規制といっても、通常は月平均80時間、例外的に月100時間というと、過労死ラインギリギリである。 結局は、「名ばかり管理職」のように、職場を非正規雇用で回し、ごく少数の正規雇用に「責任」を追わせる現行のサービス産業の労働実態を追認することになる。 そして、この残業時間に少しでも満たなければ、たとえ過労死してもそれは「合法化」されることになるのだ。
▽同時に考えるべきはまともな成長戦略
・労働生産性の問題は、分子のGDPを伸ばす成長戦略に大きく依存する。分母を少なくすること以上に、より問題なのは、安倍政権では成長戦略も間違ったやり方で行われていることだ。 昨年12月に閣議決定された「人づくり革命」と「生産性革命」を両輪とする「新しい経済政策パッケージ」にも、労働生産性を直接、引き上げる効果を持つものとして、自動走行や小型無人機を軸にしてICTやAIやロボット化などの「第4次産業革命」が掲げられている。
・しかし、問題を産業政策全般に広げてみれば、これまでの成長戦略は、世界の最先端とはずれたものとなっている。 例えば、自動運転にしても、旧来の自動車メーカーに替わるようにテスラやグーグルのようなIT企業が中心になっている米国に比べて、日本では自動車メーカーが中心だ。また自動車メーカーが日本のIT企業と組んで大規模な自動運転の技術開発を行っているわけではない。
・世界的に進む電気自動車への転換に対しても、日本ではコストの高い水素ガスステーションをまだ推進している。 さらにひどいのは脱原発と再生可能エネルギーへの転換だ。 東京電力の事故処理・賠償費用が膨らみ、アメリカで相次ぐ原発の建設中止・中断によって、米国の原発産業に参入した東芝が経営危機に陥っているにもかかわらず、政府は、総額3兆円という日立のイギリスへの原発輸出プロジェクトを推進している。 政府系金融機関を動員して出資させ、メガバンクの融資については国民の税金を使って政府保証をする方針を出している。
・国内では、電力会社は原発再稼働を前提に、再生可能エネルギーの系統接続を拒否したり、多額の接続費用を要求したりしているために、再生可能エネルギーへの転換で世界から遅れをとっている。電力使用量が3倍のリニア新幹線も明らかに時代遅れだ。
▽古い産業と「お友達」におカネを注ぎ込む時代錯誤
・安倍政権の「成長戦略」は、実際には新しく伸びる産業に向かわず、後ろ向きの古い産業の救済ばかりにお金を注ぎ込むだけである。 しかも、安倍首相の「オトモダチ」に資金をばらまく縁故資本主義(クローニー・キャピタリズム)のような様相だ。
・ペジー・コンピューティング社のスーパーコンピュータの補助金詐取問題は、首相と親しいとされる元TBS記者が媒介したとされる。生命科学とバイオ産業の分野では、加計孝太郎理事長の加計学園に対する不透明な認可が問題になった。 「原発輸出」の中西宏明・日立製作所会長、リニア新幹線での「談合」疑惑では、葛西敬之・JR東海名誉会長など、安倍首相と親しい間柄の人物が、“登場”している。
・事業を受注した際の手続きには、公正さや透明性が欠けている。こうしたやり方がまかり通るのでは、GDPを押し上げる効果や生産性上昇は期待できない。 結局、バブルを引き起こして分子のGDPを上昇させるしかない。 日銀の出口のない金融緩和もその一環としか思えない。もちろん、それでも労働生産性は表向き、上昇はするが、何の意味もないことだ。
・いまの「働き方改革」や「生産性革命」が分母の労働時間のことだけを議論しているあり方そのものが問題なのだ。 分子のGDPを増やす成長戦略が間違っていれば、かえって残業がひどくなり残業代ゼロが拡大しかねない。労働生産性を問題にするなら、分母の労働時間とともに分子を増やすまともな成長戦略も同時に議論すべきである。
http://diamond.jp/articles/-/160513

第一の記事で、 「教育無償化」は 『誰を、何のために支えるのか 目的や方向性がちぐはぐ』、 『財政健全化計画との整合性もはっきりせず』、  『結局、「教育無償化」は、自民党と野党の間の“教育”におけるイニシアティヴ争いの中で浮上してきたため、長期的政策として十分に練られていないまま、政府の目玉政策に位置付けられ続けているのが実情だ・・・人の成長という予測しにくい要素が関わってくるので、焦点がぶれやすいのはある意味で仕方がない。 しかし、だからこそ教育政策を決定するに際して、成り行き任せにならないよう、何を目的とした政策なのかその都度、十分に審議し、優先順位や実現手段(PDCA)を確認する必要がある』、などの指摘はその通りだ。 特に、『その時々の世論に一番受けそうなキーワードに従って、予算配分したり税制をいじったりして、とりあえずやる気”を見せるのは、単なるポピュリズムであり、税金を無駄遣いするだけに終わる可能性が高い』、との批判は痛烈な正論だ。
第二の記事で、 『厄介なのは、日銀の量的緩和が失敗に終わって「出口戦略」が話題になっているとき、景気に不安が出てきたことだ。教科書的なマクロ経済政策では、こういうとき金利の引き下げで対応するが、日本の政策金利はこれ以上は下げられない。長期金利も「イールドカーブ・コントロール」でゼロ近辺に抑えている。 これから世界的には金利上昇局面になるので、日本だけマイナス金利がいつまでも続けられるとは思えない。日銀が国債を無理に買い支えると、日銀だけではなく民間銀行も含み損を抱えるので、金利が正常化したとき大きな評価損が出る』、 『2013年に始まったアベノミクスは、大規模な放漫財政パッケージだった。2%のインフレ目標を掲げて「2年で2倍」の量的緩和で「インフレ期待」を起こそうという黒田総裁の政策は、結果的にはインフレを起こせず、日銀が際限なく国債を買う財政ファイナンスになった・・・このまま放漫財政を続けると「時限爆弾」が爆発するリスクは小さくない。アメリカの金利上昇は、その第一歩かもしれない。 それが爆発しなくても、大きな構造問題が残る。それは社会保障会計の隠れ借金が膨張することだ・・・金融も財政も弾を撃ち尽くした政権は、運ではなく実力で景気後退を乗り切らなければならない』、などもアベノミクスが抱える問題点を鋭く指摘している。
第三の記事で、 『安倍政権での政策目標の「存在の限りない軽さ」を象徴するのが、デフレ脱却を掲げた「物価目標」だろう。 5年前の2013年4月に掲げた「2年で2%」という消費者物価上昇の目標は6度目の延期となった。にもかかわらず、最近では、政権はもはや「デフレではない」状況を作り出したと言い出している・・・そもそもデフレ脱却が達成できたというなら、なぜ日銀は大規模な金融緩和を続ける必要があるのか、説明がつかない』、野党はこの矛盾をもっと厳しく追及すべきだ。 『スーパーコンピュータの補助金詐取問題は、首相と親しいとされる元TBS記者が媒介したとされる』、ことへの野党の追及も物足りない。 マスコミに至っては、「仲間意識」があるためか、殆ど無視を決め込んでいるようだ。 『労働生産性を問題にするなら、分母の労働時間とともに分子を増やすまともな成長戦略も同時に議論すべきである』というのは、その通りだ。
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