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日本経済の構造問題(その5)(日本企業が世界のイノベーション競争で後れをとる理由、「若者が出世を望まない」心境の裏にある本質 自分だけが前に出るのをよしとしない文化も、「低すぎる最低賃金」が日本の諸悪の根源だ) [経済政策]

日本経済の構造問題については、昨年11月4日に取上げた。今日は、(その5)(日本企業が世界のイノベーション競争で後れをとる理由、「若者が出世を望まない」心境の裏にある本質 自分だけが前に出るのをよしとしない文化も、「低すぎる最低賃金」が日本の諸悪の根源だ)である。

先ずは、作家の橘玲氏が昨年12月27日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日本企業が世界のイノベーション競争で後れをとる理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・作家であり、金融評論家、社会評論家と多彩な顔を持つ橘玲氏が自身の集大成ともいえる書籍『幸福の「資本」論』を発刊。よく語られるものの、実は非常にあいまいな概念だった「幸福な人生」について、“3つの資本”をキーとして定義づけ、「今の日本でいかに幸福に生きていくか?」を追求していく連載。今回は「日本企業と幸福」について考える。
▽大企業からはイノベーションは生まれない
・現代は知識社会であり、企業が生き残るためにはイノベーションが不可欠だとされます。しかし現実には、ハンバーガーからユニクロの洋服までさまざまなサービスや商品が定型化されています。 こうした現象は、1991年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者、ロナルド・コースの「取引コスト理論」によって説明できます。組織においては、「標準化はコスト減、カスタマイズはコスト増を招く」のです。
・この定理に従えば、利潤の最大化を目指す経営者はイノベーションを抑圧し、あらゆる業務を標準化しなければなりません。これを徹底したのがマクドナルドで、それによって地方の小さなハンバーガーチェーンから世界的な大企業へと成長しました。
・効率化のためにイノベーションを抑圧しなければならないのは、企業だけでなく軍隊や官僚組織も同じです。戦闘のとき、兵士が命令に従わず勝手なことをはじめたら部隊は大混乱に陥ってしまいます。巨大組織は、構成員の個性を徹底的に抑圧し、ロボットのように動かすことによってはじめて機能するのです。
・しかしその一方で、なんの変化もなく旧態依然では、組織はやがて腐り果ててしまうでしょう。時代の変化に合わせて新しい製品やサービスを開発していかなければ、市場からの退出を迫られます。 こうして組織は、イノベーションを抑圧しつつ、イノベーションを実現するという困難な課題を抱え込むことになるのです。
・この難題へのひとつの答えは、「通常の組織構造とは独立した小さなグループにイノベーションを任せる」ことで、1943年にロッキードが「スカンクワークス」と呼ばれる開発チームをつくって大きな成功を収めたことで注目を集めましたが、その後、マクドナルドをはじめとする大規模で複雑な組織が続々とスカンクワークスを活用するようになって、「うまくいくこともあれば、失敗することもある」という退屈な結論が明らかになりました。
・失敗の大きな理由は、チームがあまりに自由奔放にやりすぎると、開発された製品が現実の市場にまったく合わないことでした。高尚すぎるアイデアは、新たなコストセンターをつくるだけなのです。 そこでいまでは、企業のR&D(研究開発)はマーケティングやセールス部門と連携し、顧客がお金を払う製品に結びつけるよう管理されています。しかしこちらもやりすぎるとイノベーションを抑圧し、営業部門に説明しやすい陳腐な製品を山のように「開発」することになってしまうのです。
・経営者や管理職なら誰でも知っていることでしょうが、管理主義と革新性はトレードオフで、その両立は不可能とはいわないまでもきわめて困難なのです(レイ・フィスマン、ティム・サリバン『意外と会社は合理的』日本経済新聞出版社)。
▽アウトソーシングされるイノベーション
・巨大組織の矛盾は、イノベーションと報酬の関係にもあてはまります。 画期的なイノベーションを生み出すためには、積極的にリスクを取らなくてはなりません。ブルーオーシャン(ライバルのいない独占市場)は多くの場合、法律的、道徳的、財務的などさまざまな理由で競合他社が手を出さないニッチにあります。
・これが、日本の会社がイノベーション競争で後れをとる第一の理由です。画期的な商品やサービスを生み出そうとすれば失敗する可能性も高くなりますが、雇用の流動性がない(伽藍の)会社では、いったん失敗した社員は生涯にわたって昇進の可能性を奪われてしまうのです。
・第二の理由は、大きなリスクを取ってイノベーションに成功したとしても、成果に相応しい報酬を与えられないことです。「正社員の互助会」である日本の会社では、一部の社員に役員や社長を上回る高給を支払うことができません(この矛盾は発光ダイオードの発明をめぐる訴訟で明らかになりました)。
・このように日本的雇用制度は、「リスクを取るのはバカバカしい」という強烈なインセンティブを社員に与えています。 日本企業が画期的なイノベーションを生み出せず、欧米(シリコンバレー)の後追いばかりしているうちに、中国や台湾、韓国の新興企業に買収される憂き目にあうようになったのはこれが理由です。
・私見によれば、この問題の解決策は2つしかありません。 ひとつは、経営者自らが大きなリスクを取ってイノベーションを目指すことです。創業経営者であれば組織のしがらみにとらわれることはなく、当然のことながら、成功すれば青天井の報酬を堂々と受け取れます。 日本でもすぐに何人かの経営者が思い浮かぶでしょうが、これは欧米も同じで、アップルやグーグル、フェイスブックなど成功したIT企業はすべてカリスマ的な創業経営者が意思決定しています(かつてのマイクロソフトも同じです)。
・この法則が正しいとすると、カリスマが去って官僚化した企業からはイノベーションは生まれません。とりわけ日本の会社では、社長は「正社員の代表」でその使命はできるだけ大過なく「社員共同体」を維持することなのですから、原理的にリスクを取ることなどできるはずがないのです。
・しかしこのような会社でも、イノベーションがなければ生き残ることができません。このときの選択肢は、おそらくひとつしかないでしょう。それは、イノベーションをすべてアウトソース(外注化)することです。 これならリスクを取るのは外注先で、失敗すれば勝手につぶれるだけです。その一方でイノベーションに成功すれば、有利な契約によって成果を取得すればいいし、その際に社員に比べて法外な報酬を支払ったとしても社内の和を乱すこともありません。社員の関心は同僚との相対的な優劣で、“よそ者”のことはどうでもいいのです。
・組織の取引コストを極大化させた大企業はイノベーションを放棄して、ベンチャー企業に投資し、成果が出れば買収しようとします。これはアメリカの大手IT企業でも頻繁に行なわれており、組織が官僚化して定型化された業務以外のことができなくなると、リスクをアウトソースして成長を維持しようとするのは日本もアメリカも同じです。──それにともなってベンチャー企業のエグジット戦略も、上場から事業を大手企業に売却することへと変わっていきました。
・それに加えて日本の会社は固有の問題を抱えています。画期的なアイデアには多様な文化的背景を持つメンバーの“化学反応”が必要ですが、日本の組織はきわめて同質性が高く、大企業の取締役は「日本人、男性、高齢者、有名大学卒」という属性でほぼ占められています。──同じ発想をする人間だけをいくら集めても、ひとびとが求める新しいもの(Something New)を生み出すことなどできません。 このようにして、高度化し複雑化した知識社会では、イノベーティブな仕事のほとんどは「外注化」されることになるのです。
http://diamond.jp/articles/-/154461

次に、ジェイフィール代表取締役、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授の高橋 克徳氏が1月5日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「若者が出世を望まない」心境の裏にある本質 自分だけが前に出るのをよしとしない文化も」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「管理職になっても責任や負担ばかりが増え、見返りもなく、将来も保証されない」――。 12月6日に配信した「20~30代が出世を望まなくなってきた本質」には多方面から反響が寄せられました。 拙著『“誰も管理職になりたくない"時代だからこそ みんなでつなぐリーダーシップ』でも詳しく解説していますが、若い世代の出世に対する違和感、抵抗感が近年、強まってきています。ただ、彼らへのヒアリングをしていくと、その根幹には人の上に立って、人を動かすリーダーという存在そのものへの疑問とともに、自分たちがそうした人間になれない、なりたくないという気持ちがあることもわかってきました。
▽目立つこと、上に立つことは重要と思っていない
・リクルートマネジメントソリューションズが3年おきに実施している「新人・若手の意識調査」によると、新人、若手社員が「働く上で重視することは何か」という質問の中で、「世間からもてはやされること」「責任者として采配がふれること」が他項目よりもポイントの極めて低い2項目になっています。目立つこと、上に立つこと自体が働くうえで重要だという意識は低いということがわかります。
・60カ国の研究者が協力して実施している「世界価値観調査(2010~2014)」によると、日本人の若者たち(29歳以下)が世界の中で突出して自分から踏み出していくことや、リスクがあってもチャレンジすることに対して慎重になっている姿が浮かび上がってきます。
・「新たなアイデアを考え出すこと、創造的であること、自分のやり方でできることが重要だ」という質問には60カ国平均が78.9%に対して、日本の29歳以下は45.9%しか肯定的な回答をしていません。「冒険することやリスクを冒すこと、刺激的な生活をすることは重要だ」という質問には60カ国平均が62.3%に対して、日本の29歳以下は22.8%と極端に低くなっています。
・ほかの設問についても日本人の回答率が全体に低めに出ていることは考慮しなければなりませんが、それでも日本の若者が前向きに動き出す姿勢が、ほかの国よりも劣っていると見られても仕方ないような回答率になっているのです。
・これらの調査以外にも、内閣府が出している「子ども・若者白書平成26年版」を見ていくと、日本の20代若者たちが特に、ほかの国の若者たちよりも、自分の長所が見えず、うまくいくかわからないことには意欲的に取り組めないと感じ、未来は変えられないと悲観的になっている人たちが多いことが見えてきます。
・こうした調査から、日本の若者たちが世界の中でも極端に自分を前に押し出すこと、自分の力で何かを変え、切り開いていくことができなくなっているのではないかと指摘する人も多くいます。社内でも「最近の若手はおとなしい」「積極性に欠ける」「自分を主張しない」という認識が広がっている会社も多いように思います。
▽前に出たくない、上に立ちたくないのは、若者だけ?
・こうした自分で自分を前に押し出したくない、踏み出したくないと思っているのは、若者に限ったことなのでしょうか。 実は、先ほどの世界価値観調査をさらに詳しく見ると、創造的で自己主導的であることも、冒険的でチャレンジすることも、年齢を重ねるほどさらに肯定派の割合が減っていることがわかります。
・「新たなアイデアを考え出すこと、創造的であること、自分のやり方でできることが重要だ」という質問については、29歳以下で45.9%が肯定していますが、30~49歳では37.8%、50歳以上では30.9%となっています。「冒険することやリスクを冒すこと、刺激的な生活をすることは重要だ」という質問も、29歳以下で22.6%しか肯定していませんが、30~49歳では8.4%、50歳以上では5.6%と極端に低い回答率になっています。
・つまり、「最近の若手は自分から踏み出さない」「チャレンジをしない」と言っている先輩世代、上司世代ほど、実は自分から踏み出さず、チャレンジしない人たちになっているということが、このデータからは読み取れるのです。若手だけでなく、日本人全体が前に踏み出すことができなくなっている、ためらっているのかもしれません。
・なぜ、こういった状態になっているのでしょうか。 1つは、バブル崩壊以降の社会状況、組織マネジメントが、こうした萎縮する人々、社員を増やしていったということは簡単に想像できると思います。目の前の仕事に追われ、個々人が成果を問われ、効率的に働くことばかりを求められていく。 「新しいことにチャレンジしろ」と言いながら、失敗は許さない。成果につながらなければ、チャレンジしたこと自体も評価されない。こうした状況が続けば、誰も自分から前に踏み出したくなくなるのは当然だといえるかもしれません。
・ただもう1つ、大きな理由があるように思います。それは、そもそも自分だけが前に出る、自分だけが突出するということをあまりよしとしない意識が、日本人の中には依然あるのではないかということです。 1980年代に、社会学者の浜口恵俊が、「日本は個人主義でも集団主義でもなく、間人主義の国である」と指摘したように、人と人との間柄を何よりも重視する意識が根底にある。個々人が自己利益のために生きるのも、集団の論理の中に自分を埋没させ、集団の利益のためだけに従うのも嫌う。人と人とが互恵的な関係をつくり、その中で自己のアイデンティティを見いだしてよりよく生きようとする意識が、まだまだ日本人の根底にはあるのではないかということです。
▽権威を嫌う心理の内側にあるもの
・そうした日本人の根底にある価値観を垣間見る、もう1つのデータがあります。先述した世界価値観調査で、「将来の変化:権威に対する尊敬が高まることがよいことだと思うか」という設問について、60カ国平均では「よいことだ」という回答が55.1%、「悪いことだ」という回答が13.1%となっているのに対して、日本は「よいことだ」が7.1%にすぎず、「悪いことだ」が74.0%にもなっているのです。
・権威という言葉をどう受け止めたのかが国や個人によって異なる可能性はありますが、たとえ尊敬されるぐらいすばらしい人や組織であっても、その人や組織に権威や権力が集中することはよくないという意識が、世界の中で突出して高くなっているのです。
・誰かに権威や権限が集まれば、集団の論理が強くなり、そこに従属しなければならなくなる。たとえ、みんなが尊敬する人であっても、そこにつくられる関係は権威を持つ人と、そこに従う人たち。この構造自体をよしとしない価値観が、日本人の中にあるのではないではないかということです。
・こうしてみてくると、若手社員の素直な感覚、すなわち、上下という固定的な関係よりもフラットな関係のほうがよい、互いを認め合い尊重し合うことが大切だという感覚は、日本人の多くの人たちが根底には持っている感覚なのではないでしょうか。 それを押し殺して働いてきた管理職世代も最初は違和感を覚えながらも、いつの間にか仕方がないことだと受容してきたのではないか。でも、今の若手世代はそうした影響よりも、フラットにボーダレスでつながる社会の中で育ってきている。だから、彼らは自然に口にしている。それだけの違いなのかもしれません。
・だとするとここに、わたしたち日本人らしい感覚で未来を切り開いていく新しいリーダーシップのあり方が見えてきそうです。 上下という縦の関係性で人を動かしていくという発想ではなく、横のつながりで互いに影響を与え合い、一緒に動き出していく。1人で前に踏み出すのではなく、みんなで対話し、連動しながら踏み出していく。自分から踏み出せなくても、踏み出した人を応援することに価値を見いだす、応援し合う関係をつくる。さらに、リーダーを固定せず、状況に応じて、みんなが柔軟に交代しながらリーダーになる。そういった発想の転換をしていったほうが、自分たちの根幹にある感覚と素直にフィットするのかもしれません。
・管理職になりたくない、リーダーになりたくないという言葉の本当の意味を議論しながら、自分たちの心の中にあるとらわれに気づきつつ、逆にどうすれば未来に踏み出していくリーダーシップを、多くの人たちが自然に取れるようになるかを考えてみる。そのとき、本当に自分が前向きに踏み出していくには、どのような関係性があればいいのかを、本音で対話してみる。こうした対話を通じて、管理職やリーダーのあり方を根幹から問い直すことが求められているのかもしれません。
http://toyokeizai.net/articles/-/202713

第三に、元投資銀行のアナリストで小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏が3月2日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「低すぎる最低賃金」が日本の諸悪の根源だ 2020年の適切な最低賃金は1313円」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・日本でもようやく、「生産性」の大切さが認識され始めてきた。 「生産性向上」についてさまざまな議論が展開されているが、『新・観光立国論』(山本七平賞)で日本の観光政策に多大な影響を与えたデービッド・アトキンソン氏は、その多くが根本的に間違っているという。
・34年間の集大成として「日本経済改革の本丸=生産性」に切り込んだ新刊『新・生産性立国論』を上梓したアトキンソン氏に、真の生産性革命に必要な改革を解説してもらう。
▽日本の最低賃金は「韓国以下」
・前回の「大胆提言!日本企業は『今の半分』に減るべき」では、人口が激減する日本でこれから生産性を上げるためには、減っていく生産年齢人口に合わせて企業の数を減らす必要があり、政府による企業統合促進政策が求められることを指摘しました。 読者から多くのご指摘をいただきましたが、やはり人口減少の規模に驚かれた方が多かったようです。また、企業数を減少させないと人口に占める社長・役員の比率が上がるだけで、経済合理性に悪影響を与えることは、ご理解いただけたかと思います。
・生産性の定義に疑問を持たれる意見も散見されましたが、国際標準である「1人あたりGDPを購買力調整したもの」であると強調しておきます(この点については、回を改めてご説明します)。 さて、生産性の向上のためには、企業数の削減と深いかかわりのある、大変重要な政策がもうひとつあります。それが「最低賃金の引き上げ」です。
・世界的に見て、日本の最低賃金はあまりにも低すぎます。実際どのレベルなのかご存じない方も多いと思いますので、まずはデータを確認しましょう。 直近の各国の購買力調整済み最低賃金を見ると、日本の最低賃金は、日本と同じように生産性が低いスペインとほとんど変わらず、それ以外の欧州各国を大幅に下回る水準です。
・さらに衝撃的なことに、日本の最低賃金は、なんと韓国よりも低いのです(2018年1月より)。この最低賃金の低さがデフレの一因であり、格差社会の最大の原因でもありますし、イノベーションがなかなか起きない最大の要因でもあります。
▽最低賃金と生産性には強い相関がある
・生産性向上の重要性を論じるにあたってなぜ最低賃金か、と不思議に思うかもしれませんが、実際、最低賃金とその国の生産性の間の相関係数は84.4%と非常に高く、最低賃金が高い国ほど生産性が高いことが、世界中のさまざまな研究機関から発表されています。日本は、この関係を真剣に検討する必要があります。
・しかし、最低賃金と生産性はただ高い、低いという議論をする価値があるとは思えません。私が強調したいのは、人材の質と最低賃金と生産性の関係です。 先進国の場合、労働者の質と生産性の間に82.3%という極めて強い相関関係があります。スペインやイタリアなど、生産性の低い国を分析すると、やはり人材のレベルが低いことが低い生産性の主因であることがわかります。先ほど説明したとおり、最低賃金と生産性にも強い相関があるので、当然、労働者の質と最低賃金の間には強い相関があってしかるべきです。
・日本人労働者の質は世界第4位で、大手先進国の中ではトップです。であるにもかかわらず、日本の最低賃金は大手先進国の中の最低水準です。先進国だけで分析すると、労働者の質と最低賃金の間には85.9%もの相関係数が認められますが、日本だけが大きくずれているのです。
・政府は、この事実をどうとらえているのでしょうか。本当は日本の人材など、大したことがないとでも思っているのでしょうか。高く評価されているのは、「何かの間違い」とでも思っているのでしょうか。日本人の人材の質は、第32位の韓国よりも低いと思っているのでしょうか。さもなければ、最低賃金が韓国より低く設定されている理由がわかりません。
・アベノミクスを成功させるためには生産性改革が不可欠であり、それにはまず企業を動かすことが大前提になります。そのための手段として最も確実で、生産性の向上に最適なのが「最低賃金の引き上げ」です。このことは諸外国ですでに確認されています。
▽「失業率上昇」は杞憂だ
・日本で最低賃金の引き上げを提案すると、「企業が倒産する」「失業者が増える」と反対を唱える人が、エコノミストを中心に現われることでしょう。海外でもそうでした。その意見は、確かに需給だけを考えれば、経済学の教科書的には理屈上正当化できるかもしれません。
・しかし、実際のデータをみれば根拠がないのは明らかです。たとえば英国では、1998年に新しい最低賃金の法律が可決され、1999年から実施。その後、19年間かけて、最低賃金は約2.1倍に引き上げられてきました。 英国が最低賃金の導入を決めた1998年、当時の労働党政権の法案に対し、保守党は企業への悪影響とそれに伴う失業率の大幅な上昇を懸念して、猛反対しました。
・その後、実際には失業率の大幅上昇などの予想された悪影響は確認できず、逆に経済に対してよい影響を与えたと評価されるに至り、2005年、保守党は意見を翻して賛成に回りました。今では、最低賃金の引き上げが失業につながるという説を強調する学者は減りました。当然の結果です。
・それでも、あきらめないエコノミストもいるでしょう。中には、短期的に失業率が上昇しなくても、長期的な悪影響を懸念する人もいます。最低賃金を引き上げると、経営者は長期的にITなどの活用を増やし、人を雇わなくなるという、興味深い主張です。 しかし、日本ではこれから人口が減り、それを上回るペースで若い人が減るので、仮に諸外国で長期的に悪影響が出る可能性があったとしても、日本ではそんな心配をする必要はないのです。
・逆に、このエコノミストの「経営者は長期的にITなどの活用を増やし、人を雇わなくなる」という主張は、今の日本は最低賃金があるべき水準より低いため、「IT投資よりも人を安くこき使ったほうが得」だという指摘です。つまり、最低賃金を引き上げることによって、経営者にイノベーションを強制できるのです。
▽日本政府は日本人労働者をバカにしている
・さきほど説明したように、最低賃金と生産性の間には強い相関関係があります。 最低賃金と生産性の相関がここまで強いということは、諸外国は最低賃金を「感覚的に」設定しているわけではなく、何らかの「計算式」が存在していることが推察されます。明示されてはいませんが、この相関からして実質的なコンセンサスのようなものがあることになります。
・実際計算してみると、1人あたりGDPが日本に近いドイツやフランス、英国の場合、最低賃金は「1人・労働時間1時間あたりGDP」の約50%に相当します。一方の日本はというと、なんとわずか27.7%という、ありえないくらい低い水準に抑えられているのです。 欧州の50%に比べて、たったの27.7%だからこそ、日本のワーキングプアは欧州に比べて多く、格差が生まれています。最低賃金の引き上げは、格差社会是正の役割も果たします。
・今挙げたドイツ、フランス、英国は社会保障制度が充実しているという点で、日本と共通しています。社会保障制度を維持するために最低賃金を高くして、稼ぐ力を高めさせて、税収を維持する仕組みとなっています。
・人口が増えない中で社会保障制度を維持するためには、生産性を向上させるしかありません。日本はこれができていないことによって、国の借金が増え、社会保障制度も維持できなくなっています。この悪循環を打破するには、最低賃金の向上が必要不可欠です。
・さきほども確認したとおり、日本の労働者の質はこれら欧州の国よりも高く評価されています。にもかかわらず、最低賃金が低く抑えられている理由とはいったい何なのでしょうか。日本の最低賃金を欧州並みに引き上げたとして、何の問題があるのでしょうか。欧州でもできることが、なぜ日本人にはできないのでしょうか。
・最低賃金をこのように低く抑えこんでいる日本政府の態度は、まるで「日本人労働者が本当は技術がなく、勤勉でもなく、手先も器用ではない」と言っているのと同じように私には映りますが、そのように解釈していいのでしょうか。違うというなら、完全なる矛盾です。
・政府は企業を優遇しすぎて、国民をいじめているのです。バカにしていると言っても過言ではありません。  実は、アメリカの最低賃金も日本と同様に、1人・労働時間1時間あたりGDPの28%とかなり低い水準に抑えられています。これを根拠に、日本の最低賃金の水準は妥当だと思われる方もいるかもしれません。 しかし、日本はアメリカを基準に考えるべきではありません。アメリカはそもそも社会保障制度が充実しておらず、格差を必ずしも悪としない文化があります。かつ、人口も増加しています。一方、日本は欧州と同じように社会保障制度が充実しているうえ、人口が減少しているので、基礎条件はアメリカより欧州に近いと言えます。
・さらに国連は、先進国の最低賃金の絶対額が収斂していると分析しています。アメリカは1人あたりGDPが欧州よりかなり高い水準なので、最低賃金が収斂していれば、1人あたりGDPに対する比率が低くなっても当然です。一方、1人あたりGDPが低い日本には、この理屈は通用しません。
・最低賃金の「相場」が1人・労働時間1時間あたりGDPの50%だと仮定すると、経済成長率と予想人口から、日本の「あるべき最低賃金」を大まかに計算することができます。 詳しい計算は省略しますが、2020年まで毎年1.5%ずつGDPが成長すると仮定すると、2020年の適切な最低賃金は1313円になります。2017年度の全国の加重平均は848円ですから、あと3年で少なくとも465円上げる必要があるのです。
▽企業の「保身のための反対」に耳を傾けてはいけない
・最低賃金の引き上げには、中小企業を中心に猛反対の声が上がることでしょう。やれ、「いまでもギリギリだ!」「倒産しろというのか!」と大騒ぎになるかもしれませんし、実際、海外では似たような事態になった国もありました。 しかし、実際はさきほどの英国のように、経済への悪影響が顕著に現れたことはほとんどなかったのが現実です。
・政府のスタンスとして重要なのは、どんなに反対の声が上がったとしても一切聞き入れないことです。仮に、最低賃金を引き上げたことで、苦しくなる企業が一時的に増えたとしても、日本人の労働者の質にふさわしい給与が払えない以上、それこそ前回提言したように、企業を統合して、無駄を省いて、規模の経済を追求して、払えるようにすればいいのです。
・そもそも前回の記事でも指摘したように、日本の企業数は将来的に多すぎる状況になるので、減らす必要があるのです。最低賃金の引き上げくらいで成り立たなくなってしまう競争力のない会社には、技術者や一般労働者を守るために統合してもらったほうがよいのです。そもそも企業統合によって困る人は、経営者や役員だけです。現場の労働者ではありません。
・日本は先進国の中で第2位の経済規模を誇る大国で、社会保障制度も充実しています。その国で、先進国最低水準の賃金の労働力が使えなければやっていけないような生産性の低い企業には、そもそも存在価値はありません。今後人口が減る中で、そのような企業を守る余裕はありません。日本はもう、そんな贅沢はできないのです。
・そうでなくても、日本ではこれから人口が減って、人手が足りなくなるので、このような存在価値のない企業には退場してもらうべきです。このような生産性の低い企業がなくなれば、世界第4位の質を誇る労働力を、奴隷のような低賃金の仕事から解放し、より生産性の高い、所得の高い仕事に移動させることができます。
・これこそ、日本が再生へ向けて歩むべき道筋です。 次回は、低すぎる最低賃金が可能にしている「高品質・低価格」という奴隷制度を取り上げます。
http://toyokeizai.net/articles/-/210482

第一の記事で、 『組織は、イノベーションを抑圧しつつ、イノベーションを実現するという困難な課題を抱え込むことになるのです・・管理主義と革新性はトレードオフで、その両立は不可能とはいわないまでもきわめて困難なのです・・・アウトソーシングされるイノベーション』、 『画期的なアイデアには多様な文化的背景を持つメンバーの“化学反応”が必要ですが、日本の組織はきわめて同質性が高く、大企業の取締役は「日本人、男性、高齢者、有名大学卒」という属性でほぼ占められています。──同じ発想をする人間だけをいくら集めても、ひとびとが求める新しいもの(Something New)を生み出すことなどできません。 このようにして、高度化し複雑化した知識社会では、イノベーティブな仕事のほとんどは「外注化」されることになるのです』、などの指摘は作家とは思えないほど的確だ。
第二の記事で、 『世界価値観調査をさらに詳しく見ると、創造的で自己主導的であることも、冒険的でチャレンジすることも、年齢を重ねるほどさらに肯定派の割合が減っていることがわかります』、というのは私の予想を覆す驚くべきことだ。 『目の前の仕事に追われ、個々人が成果を問われ、効率的に働くことばかりを求められていく。 「新しいことにチャレンジしろ」と言いながら、失敗は許さない。成果につながらなければ、チャレンジしたこと自体も評価されない。こうした状況が続けば、誰も自分から前に踏み出したくなくなるのは当然だといえるかもしれません。 ただもう1つ、大きな理由があるように思います。それは、そもそも自分だけが前に出る、自分だけが突出するということをあまりよしとしない意識が、日本人の中には依然あるのではないかということです。 1980年代に、社会学者の浜口恵俊が、「日本は個人主義でも集団主義でもなく、間人主義の国である」と指摘したように、人と人との間柄を何よりも重視する意識が根底にある。個々人が自己利益のために生きるのも、集団の論理の中に自分を埋没させ、集団の利益のためだけに従うのも嫌う。人と人とが互恵的な関係をつくり、その中で自己のアイデンティティを見いだしてよりよく生きようとする意識が、まだまだ日本人の根底にはあるのではないかということです』、などの指摘は説得力がある。後者はKY(空気を読む)ことにもつながっているのだろう。
第三の記事で、 『日本人労働者の質は世界第4位で、大手先進国の中ではトップです。であるにもかかわらず、日本の最低賃金は大手先進国の中の最低水準・・・日本の最低賃金は「韓国以下」』、 『最低賃金をこのように低く抑えこんでいる日本政府の態度は、まるで「日本人労働者が本当は技術がなく、勤勉でもなく、手先も器用ではない」と言っているのと同じように私には映りますが、そのように解釈していいのでしょうか。違うというなら、完全なる矛盾です。 政府は企業を優遇しすぎて、国民をいじめているのです』、などの指摘は正論だ。最低賃金を思い切って引上げろとの主張には大賛成だ。
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