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司法の歪み(その6)(大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」を巡る警察・検察の不可解な動き(4回シリーズ)) [社会]

昨日、積水ハウス事件(その2)で地面師に触れたので、今日は、彼らが暗躍した別の事件を、司法の歪み(その6)(大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」を巡る警察・検察の不可解な動き(4回シリーズ))として取上げよう。なお、2回目以降の冒頭にある第1回へのリンクは省略)

先ずは、ジャーナリストの森 功氏が昨年12月8日付け現代ビジネスに寄稿した「大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」の真相 【スクープリポート】地面師を追う➀」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・土地を買うために大金を振り込んだのに、そのカネは闇に消えた……。東京で頻発する、にわかには信じられないほど奇怪な事件、それが「地面師事件」だ。APAホテルや積水ハウスも騙しとられ、今年、大きな注目を集めることになった。 今回、東京・世田谷を舞台にまた新たな地面師事件が発覚した。ジャーナリストの森功氏が、その真相を追うルポ・第一弾――。
▽大物地面師も登場
・ギリギリのタイミングだった。12月2日土曜日の午後7時過ぎのことだ。町田警察署刑事課の捜査員が、東京都内の関係先を一斉捜索した。そのなかに意外な対象者がいたという。内田マイクの関係先だ。 「北田と連絡がとれない。どこにいるのか」 夫人から自らの家宅捜索を知らされた内田は焦り、心当たりのあるところへ片っ端から電話をかけたという。それが瞬く間に広がり、町田署が手掛ける事件にも内田がかかわっているのか、という噂が広まった。
・地面師のあいだでは「町田の事件」と呼ばれるこの件。町田署は警視庁捜査2課と合同で、いよいよ本格捜査に踏み切った。すでに4人が逮捕されているという。おまけに家宅捜索の対象とされた内田マイクは、都内で暗躍する詐欺集団の中でも、頂点に立つ大物地面師であり、斯界の有名人である。
・2年前の2015年11月、杉並区内の駐車場オーナーになりすまして土地を売却、2億5000万円を詐取した事件で逮捕・起訴された。17年1月には1審の東京地裁で懲役7年の実刑判決が下ったが、当人は控訴して現在は、保釈中の身だ。 そんな大物地面師が焦ったという町田の事件。この数年、立て続けに起きている不動産詐欺の中でも、目下、警視庁が本腰を入れている事件として、関係者の注目を集めてきた。
・港区赤坂の地主になりすまし、ホテルチェーン「アパグループ」から12億6000万円を騙しとった11月29日の地面師詐欺摘発から間髪を入れず、当局が切り込んだといえる。年内に起訴まで持ち込める時間切れ間際に、その詐欺グループの主要メンバーを逮捕し、町田署に勾留している。
・本来、被疑者を逮捕すれば記者発表するのが常道だが、警視庁は事件をすぐに公表しなかった。そこには慎重にならざるをえない理由もあった。
▽「焼身自殺しようかと思った」
・「騙されてから2年半、ようやくここまでたどり着いた。この間、警察も信じられなくなり、いっそのこと、町田署の前でガソリンをかぶって焼身自殺をしようかと思ったくらいでした。本当に長かった」 被害者である不動産業者、津波幸次郎(仮名)に聞くと、そう本音を漏らした。 事件が解明へと動き出したのは今春だ。それまで捜査はかなり迷走し、紆余曲折があったが、警視庁はようやくこの事件の詐欺グループの主犯を名うての地面師、北田文明(別名・明)と睨んで捜査を進めるようになる。
・その捜査上の問題については稿を改めるが、この事件には、アパ事件で逮捕された元司法書士の亀野裕之も登場する。また前述したように内田マイクの影もちらつき、他にも陰で糸を引いている地面師が大勢見え隠れする。目下の被害額は5億円。奥行きの広い事件である。
・ことの始まりは15年4月半ばだった。都内で不動産会社を経営する津波が、かつてNTT寮だった土地・建物の売却話を知り合いの不動産ブローカーに持ちかけられたことに端を発している。その物件は東急上野毛駅に近い世田谷の好立地にあり、津波は建物をリフォームすればマンションとして使えると考えた。ブローカーは津波に対し、5億5000万円の買い取り価格を提示してきたが、津波は5億円なら買うといい、その値段で折り合ったという。
・物件の持ち主であるAから犯行グループのBがいったん物件を買い取り、津波のような不動産業者のCに転売する。 いわば「なりすましの存在しない不動産詐欺」であり、犯行グループは持ち主と不動産業者の仲介者として登場し、最終的に不動産業者から振り込まれた購入代金をせしめる。
・地面師事件では、概して詐欺集団が地主のなりすましを用意し、不動産会社に売りつけるというパターンが多いが、このケースは少し違う。ごく簡単にいえば、地主は本物だが、仲介者が、最終の買い取り業者から売買代金を騙し取るという手口だ。 そこで仲介業者として登場するのが、「東亜エージェンシー」なるペーパー会社だ。
▽取引を急がせた容疑者たち
・津波が説明してくれた。 「持ち主、東亜エージェンシー、うちの会社というAからB、BからCという取引のつもりでした。本来、二社で取引をすればいいのだけれど、20回に一度くらいはB社に利益を落とすため、そういうケースもあります」
・警視庁に、「地面師集団のボス」として本件の犯行を画策したと目されてきたのが北田だが、斯界ではその名が知られているせいもあり、津波に対しては本名の北田文明ではなく、明と名乗った。北田は「伍陵総建」や「東亜エージェンシー」といったペーパーカンパニーを取引の表に立て、なるべく津波との交渉現場には立ち会わないようにしていたが、それでも要所要所では交渉に出てきたという。
・詐欺は、最初から巧妙に仕組まれていた。元NTT寮の持ち主は、ほかにも宮城県仙台市内の山林を所有する資産家であり、当人は「山林とセットで20億円以上の値段で売りたい」と北田たちに持ちかけていた。ふたつの取引を巧みに使う、いわゆる「二重売買」だ。
・それを承知しながら、東亜エージェンシーは津波に元NTT寮の買い取りだけを持ちかけたというから、持ち主が納得して取引が成立するはずはない。はじめから騙すつもりだったといえる。が、それを津波は知る由もない。 「二重売買」で出てくる山林と元NTT寮をセットで買い取るという会社は「プリエ」といった。これも北田が用意したと目されるぺーパーカンパニーだ。
・プリエは物件の持ち主Aに対し、希望通り元NTT寮と仙台の山林を合わせ、20億円で二つの不動産を買い取ると約束した。その実、裏では津波に対し、東亜エージェンシーが元NTT寮だけを持ち主から買い、5億円で転売すると提示した。まったく異なる二つの取引なのだが、津波はそうとも知らず、5億円を用意する羽目になる。
・地面師集団に限らず、詐欺師が相手を騙すとき、取引を急がせる傾向がある。彼らにとってはどさくさに紛れて取引を進めるスピードが大事だといえる。実際、このケースでも、津波は話が持ち込まれた4月半ばから2週間後の月末取引を要求された。
▽「他にも競争相手がいるので、取引をさらわれてしまう」
・そう言って津波に危機感を植え付け、買い取りを急がせた。津波はさすがに4月中の契約は無理だと断ったが、そうそう先延ばしにすることもできない。そして5月に入り、実際に取引の交渉が始まった。 不動産取引のプロである津波は、むろん持ち主の存在を確認するため、仲介者である東亜エージェンシーに、持ち主本人との面会や直接交渉を要請した。通常の地面師事件では、犯行グループがここでなりすましを用意するのだが、このケースでは本物が立ち会ったので、余計に信じ込んだともいえる。
▽地面師に加担する司法書士
・そうして12日、津波たちは実際の持ち主とともに元NTT寮の中に入って確認し、ひと安心した。リフォームする工事業者の手配までし、5億円の代金振り込みをする契約日を27日と決めたのである。津波が打ち明ける。 「5月20日になって、もともと話を持ってきた不動産ブローカーたちが、うちの会社に北田を連れてきました。そこで1週間後の27日に決済したい、という。ずっと取引を急かされてうんざりしていたのですが、それでも一週間後なので了解しました。あとでわかったんですけど、なぜ1週間の猶予があったかといえば、その間、亀野という重要な役割をする詐欺師が海外に行っていて、日本にいなかったからでした。彼が戻って来てから決済しようとなったのでしょう」
・まさに地面師の広く深いネットワークが垣間見える。亀野裕之は千葉県内で司法書士事務所を運営している司法書士であり、アパ事件では地面師の宮田康徳らとともに、中心的な役割を担った人物でもある。東向島の料亭を経営していた地主になりすました地面師事件でも、宮田とともに今年2月に逮捕されている。
・そして亀野の帰りを待って、問題の取引が、北田の要請により、Y銀行の町田支店の部屋を借りておこなわれることになった。繰り返すまでもなく、表向き物件の持ち主から東亜エージェンシーが元NTT寮を買い取り、東亜社が津波に転売するという体裁をとる。それを同時に行う同日取引とし、東亜社には斡旋料が落ちるだけのはずだった。
▽なぜ立件までに2年半もかかったのか
・こうした取引には、物件の所有者や仲介者の取引銀行に応接・会議室を用意してもらい、そこで作業をする。 「A社からB社、B社からC社という二つの取引なので、同じ銀行の支店内で二つの部屋を借り、それぞれの司法書士が立ち会って契約を交わし、代金を支払う手はずになっていて、指定されたところがY銀行の町田支店でした。ところが取引当日になって、東亜・北田側は、『町田支店に持ち主の方が来ない』という。東急線沿線の学芸大駅前の支店に呼んでいるから、うちの社員とこちらの司法書士をそちらに向かわせてほしいというのです。で、町田と学芸大駅前の二手に分かれて作業をしなければならなくなりました」
・これもトリックの一つだ。 犯行グループの申し出を整理すると、27日の同日売買で、津波がY銀行町田支店で5億円を支払い、斡旋料を差し引いた分が東亜エージェンシーを通じてプリエに渡り、山林分の代金を合算した20億円が持ち主のところへ支払われるという。
・本来、町田支店で下ろした津波の5億円がM銀行の学芸大駅前支店に届き、その場で津波側と東亜エージェンシーを通じて持ち主に売買代金を渡せば取引が完了するはずだ。が、犯行グループはそんなつもりなど毛頭ない。単なる時間稼ぎのため、当日になって持ち主を別の遠くの支店に呼び出して取引を分断させ、目くらまししたに過ぎない。
・そして事実、津波の支払った5億円は、まんまと犯行グループの手で、その日のうちに4分割されて北田たちのもとへ振り込まれてしまっていた。4分割された5億円は、東亜エージェンシーを介した1億円を含めて北田に1億3000万円が渡り、犯行グループが仕立てた大阪のペーパーカンパニーに、その日のうちに3億3000万円ほどが振り込まれていた。いわば籠脱け詐欺のようなものだ。
・その間、M銀行の学芸大駅支店で待機していた津波側の司法書士や社員たちは呆然として、どうすることもできない。むろん所有権の移転登記などできなかった。 知らせを受けた津波は、すぐさま動いた。午後7時半、東亜エージェンシーの社長を都内で捕まえ、問い詰めた。すると妙な言い訳をした。それが前述した「二重取引」だ。
・犯行グループの言い分を整理すると、27日の同日売買で、津波がY銀行町田支店で5億円を支払い、そのうち斡旋料を差し引いた分が東亜エージェンシーを通じてプリエに渡り、山林分の代金を合算した20億円を持ち主のところへ支払う手はずだったという。 しかしもとより彼らが20億円用意するつもりなどハナからなく、津波も騙されたことを確信し、町田警察署に突き出した。北田も一時は観念したのか、間もなく出頭した。
・が、すぐに釈放され、事件の本格的な立件までには2年半という月日を費やしている。そこには、捜査にも大きな問題があった。 (敬称略 つづく)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53739

次に、上記の続き、12月20日付け「世田谷5億円詐取事件・追い詰められた地面師たちの「卑劣な言い分」 世田谷地面師事件の真相②」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・名うての地面師、北田明こと北田文明をはじめ、配下の「東亜エージェンシー」社長松田隆文や同社の大塚洋、「プリエ」社長の茅島ヒデトこと熊谷秀人ら4人が、町田警察署の捜査員に逮捕・勾留されたのは、今年12月4日から5日にかけてのことだ。 かつてNTT寮だった世田谷区の土地建物の売買を装い、買い手の東京都内の不動産業者、津波幸次郎(仮名)から5億円を詐取したという不動産詐欺である。
・犯行日は、2年半前の2015年5月27日にさかのぼる。その手口のあらましは前回も簡単に紹介したが、今回は被害者の証言を中心に、事件をより詳細に再現し、地面師グループの手口をレポートする。
▽犯行グループ最初の仕掛け
・被害者の津波は北田らの口車に乗せられ、27日になって売買取引の場所に指定されたY銀行の町田支店とM銀行の学芸大駅前支店の二カ所に、会社の社員と司法書士を派遣した。 なぜ銀行も支店も異なる別々の場所で取引をおこなうのか、という津波の疑問に対し、北田は土地の持ち主の取引口座がM銀行しかないこと、さらに持ち主の自宅から町田が遠いという理由で学芸大駅前の支店にしたのだ、と言い繕う。これに対し、むろん津波側も妙だとは思ったが、取引の直前になってそう伝えられたため、了承せざるを得なかった。
・これが、犯行グループの最初の仕掛けだ。津波はY銀行の町田支店にベテラン司法書士と担当課長を配し、M銀行の学芸大駅前支店には司法書士事務所の若手職員を向かわせた。 当初、津波が持ちかけられた取引は、持ち主から東亜社が元NTT寮を買い、改めて東亜社が津波に転売するという形だった。津波の社員がY銀行町田支店で売買代金の5億円を引き出し、仲介者である東亜社がそれを受け取ってM銀行学芸大駅前支店に送金して持ち主の口座に入金するという段取りだ。 そこに、地面師グループの北田たちはもう一つトリックを用意した。それが「プリエ」の熊谷の介入である。
▽見せ金29億円
・取引当日の朝になると、北田たちは「プリエの熊谷が持ち主から物件を買う窓口となる」と言い出し、送金について「津波→東亜→プリエ→持ち主」という取引になったと話した。これは登場人物を増やすことによって、犯行の発覚を遅らせるという詐欺師の常套手段でもあるのだが、津波側はここでも突然の条件変更を呑まざるを得なかった。
・前回書いたように、さらにその際、津波たちは持ち主が元NTT寮のほかに仙台の山林を売りたがっているという話も、取引当日になって聞かされた。北田や松田からは、「仙台の土地取引は本件とは関係ないので、5億円さえ払えば元NTT寮の物件を買える」との説明を受けたので、それも応じた。
・これは、犯行グループが元NTT寮と仙台の山林をセットで売りたいという持ち主の要望に応えるためでもあるが、その裏で、窓口になるプリエに、それだけの資金力があるかのように見せかける工作もしていた。  津波がその手口を明かした。
・「あとでわかったのですけど、持ち主に対しては、プリエは『すぐにでも仙台の山林と世田谷の建物(元NTT寮)を一括で買える資金がある』と説明していたのです。プリエの銀行口座にある29億円の残高を見せ、『だから安心してください』と。ところが実は、その29億円は北田が小切手を使って入金したもの。使えない見せ金だったんです」
・小切手や手形を駆使したこうした見せ金もまた、詐欺師の得意の手口だ。経営難に陥っている会社を見つけてきて、そこに手形を振り出させる。巷間、その手形は〝ポン手〟〝クズ小切手〟と呼ばれ、手形交換所に回すと不渡り確実なので、現金として引き出すことができないのだが、形の上ではその分の預金が積み上がったことになる。
・ところが津波側の司法書士でさえ、そのプリエの預金残高を見せられて信用したようだ。 会社の資産状況を示す証拠としては、銀行に現預金の残高証明書を発行してもらうのがふつうだ。が、それだとクズ小切手による入金工作がばれてしまう。そこで北田は、通帳や残高証明ではなく、ATMの伝票を持ち主や津波側の司法書士に見せ、信用させたのである。
▽タバコを吸いながら足を組んで…
・実際は、よく見るとATMの伝票にも小切手による入金が小さく記されているのだが、見落としてしまったようだ。取引の現場には、相手側の司法書士である亀野裕之の部下が立ち会っていて、同じ司法書士同士でまさかそこまでするとは思っていなかったのかもしれない(前回も書いた通り、亀野はアパホテルを巻き込んだ地面師事件で逮捕されたいわくつきの男だ)。津波はこう悔しがる。 「亀野はあちこちで悪事を働いてちょうど懲戒処分を受けている最中でしたので、正式に取引に立ち会うことができない、ということで代わりに部下に座らせていただけでしょう。その部下は自分の意思も何も無い操り人形みたいな感じで、司法書士事務所の職員も、たしかに残高はあるんだなって思ったそうです」
・津波側の担当社員や司法書士は、Y銀行町田支店で5億円を引き出し、東亜社の松田がその引き出し伝票をもとに、M銀行学芸大駅前支店にいるプリエ側に送金するものと信じ込んでいた。 取引の第一段階である町田支店での津波たちの5億円引き出しが行われたのは、27日午前10時から12時までの間のことだった。言ってみれば、津波側の作業は町田支店で終了したことになる。あとは学芸大駅前に派遣している津波側の司法書士事務所の職員が、プリエから持ち主への5億円の入金を見届けるだけだ。事実、それができれば、持ち主から登記書類を預かり、世田谷の法務局で所有権の移転登記をおこなえる。
・ところが、待てど暮らせど学芸大駅前支店には5億円の送金がない。津波は、そのあたりの出来事も社員や司法書士からのちに詳しく聞きとり、確認していた。 「少なくとも銀行の閉まる午後3時までには、学芸大駅前支店でプリエから持ち主の口座に入金しなければならないのですが、その時間を過ぎ、向こうにいるこちら側の司法書士事務所の職員からも、『どうなってるんだ』という電話が僕の携帯に入ってきました。町田支店で作業を完了しているのだから、うちの司法書士の先生たちは世田谷の法務局で落ち合う手はずになっていて、向かっていました」
・津波が苦渋の表情を浮かべながら、記憶の扉をあけた。 「それで、3時40分頃に司法書士の先生に電話で確かめると、『松田が間違えて売買代金を別のところへ振り込んじゃったらしい。明日には金を戻させると言っているので、登記は明日でいいですか』という。 思わず『ちょっと待って、それが嘘だったらどうなるんですか』と言い、そこから学芸大駅前支店の司法書士事務所の職員たちに『プリエの茅島(熊谷)はどうしているんだ』と聞いたんです。茅島は『うちは20億円くらい払おうと思えば払えるけど、商売だから、そっちからお金が来ないことにはそれまでは払えません』ととぼけていたらしい。
・そのうち、『近くで(別の)取引があるので、それを確認してきます』と言い残したっきり、銀行の支店に戻って来なかった。彼らは4時になっても、ずっと銀行の外で待っていたそうです。普通じゃないし、もう放っておけませんでした」
・津波側の司法書士は、この間、東亜社の松田と電話でやり取りをしていたようだが、もはや埒が明かない。不安を覚えた津波は迅速に動いた。その日の夕方になって、御茶ノ水にいるという松田を捕まえた。それが午後7時ごろだ。津波はこう話した。 「司法書士といっしょに松田と向き合うと、彼はタバコを吸いながら、足を組んで余裕を見せていました。本当に振込先を間違えちゃったとしたら慌てふためいているはず。なのに、普通にしてるのです」
▽「結婚被害に遭っているので…」謎の言い訳
・ここまで来ると、もはや相手を信用できるわけがない。津波は松田を問い詰めた。 「一体どうなっているんだ、と……。このとき振込伝票の控えをもらって、それですべてがわかったのです。こちらの5億円は、北田や松田によって4分割され、まったく関係のないところに渡っていました。 一つは北田が現金で3000万円を引き出して持ち帰り、残り4億7000万円のうち、セキュファンドという会社の口座に3億2500万円、東亜に1億円、あとセブンシーという会社にも4000万円が振り込まれていました」
・東亜社の松田が4分割したうち、最も大口なのが、大阪府岸和田市に登記されているペーパー会社のセキュファンドだった。津波が言葉を絞り出すように、こう説明した。 「松田に『セキュファンドという会社を知ってるのか』って聞いたら、『そこには電話で話して戻すことを確認したから大丈夫です』って言うんです。けど、実はそれも嘘だった。ネットでその会社を調べても、ファックス番号すら出てこない」
・業を煮やした津波は松田を連れ、その足でセキュファンドのある大阪へ向かった。最終新幹線の車中、松田はスマホをいじりながら、誰かとメールでやり取りをしていたという。津波が続ける。 「そこで、『松田さん、疑わしいことがないんだったら、あなたのその携帯の着信履歴を見せてください』と迫ったのです。彼は最初拒んでいたんだけど、しぶしぶ見せてくれました。松田の電話には、北田の電話番号が北川という偽名で入っていました。
・LINEもやっていて『もう少し耐えろ』とか、『ギリギリまで頑張れ』みたいなことがメッセージとして残っていて、松田のほうからは『弁護士を紹介してくれ』ともありました。 『なぜ弁護士に相談する必要があるのですか? これはどういう意味ですか』と聞いたら、最初はもごもご誤魔化していましたけど、『自分は結婚詐欺被害に遭ってるので相談しようとしてる』なんて、とってつけたような辻褄が合わない言い訳をしてました」
・大阪着は深夜になった。翌朝、振込先のM銀行に向かい、さらにセキュファンドを訪ねた。3億あまりが振り込まれたはずの銀行の口座は、すでに空っぽになっているうえ、セキュファンドがあるはずの場所に行っても、会社の看板すらない。 そこは、誰もいないマンションの一室だった。 (文中敬称略 次回へ続く)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53871

第三に、上記の続き、2月2日付け「「焼身自殺で抗議しようと思った」地面師被害者を苦しめた警察の怠慢 騙し取られた総額、5億円」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽これでは被害者が救われない
・どうにも不可解な「仕事納め」としか言いようがない。世田谷の元NTT寮の土地建物取引を巡る5億円詐取における、東京地検の事件処理のことだ。 これまで書いてきたように、昨年12月4日から5日にかけ、地面師の北田文明や配下の松田隆文ら4人が、警視庁捜査2課と町田警察署に逮捕された。そこからいよいよ年の瀬の押し迫った22日後の昨年暮れ、東京地裁立川支部は2017年最後の仕事として、北田と松田の2人を起訴した。が、4人のうち残る2人は不起訴処分となり、釈放されてしまったのである。
・世田谷の5億円事件は、内田マイクをはじめとした大物地面師たちの関与も取り沙汰されていた。ホテルチェーン「アパグループ」や住宅建設「積水ハウス」が被害に遭った他の事件との関連も囁かれていた。だが、そうした事件との関わり合いが解明されるどころか、このままでは事件はこぢんまりと矮小化されてしまう公算が大だ。これでは被害者も救われない。
・都心で横行する地面師事件は、その規模や悪質性の割に表沙汰にならないケースが多い。文字どおり摘発されるのは氷山の一角なのだが、それすら全貌解明に届かない。なぜこうなってしまうのか。改めて世田谷事件を検証しながら、その原因を探る。
▽「間違えて振り込んだ」と言い訳
・地面師グループに騙されて、5億円を支払った東京都内の不動産業者、津波幸次郎(仮名)が、くだんの取引をおこなったのが、2015年5月27日のことだ。これが詐欺の犯行日である。 地面師の北田から指示を受け、仲介業者として登場した「東亜エージェンシー」社長の松田が、津波の5億円を分配して詐取する。その5億円の中で、振込先となっていた大阪・岸和田のペーパーカンパニー「セキュファンド」への金の流れを、津波たちは独自に追及した。
・銀行伝票の控えからその流れを時系列で整理すると、まず松田は、取引当日の27日午後1時頃、騙し取った5億円のうち、3億2500万円をM銀行六本木支店のセキュファンド社名義の口座に振り込んだ。そこが本来、売り主の待っていたM銀行学芸大駅前支店とは別の口座なのは、言うまでもない。そして、その振り込みの11分後、全額近い3億円あまりが口座から引き出され、残金がほぼゼロになる。
・正確な資金の流れはのちに気づいた事実だが、不審を抱いた津波たちは極めて迅速に動いた。27日中に松田を都内で捕まえ、松田とともにセキュファンドの事務所のある大阪に向かった。翌28日、大阪のM銀行で口座が空になっているのを確認すると、セキュファンドの事務所を訪ねた。津波本人が思い起こす。
・「驚いたことに、そこはただのワンルームマンションで、会社の看板も出ていませんでした。『もぬけの殻』とはこのことです。それで東京に取って返し、僕の会社で善後策を練ることにしたのです。 会社には取り引きした銀行の方がお見えになっていました。松田らは間違えて振り込んだと言い張っていました。銀行の方によれば、もし本当に間違いなら〝組み戻し〟という作業をして、いったん元に戻すこともできるという話でしたので、念のためその作業をしたのですが……」
▽「松田を釈放する」
・もとより振り込みは間違いなどではなく、意図した詐欺である。もはや銀行手続きで取り戻せるはずもなく、あとは警察に委ねるしかない。津波は松田を町田署に突き出した。 「そうして松田を町田警察署に引き渡したのです。そこで松田が具体的に警察へどう説明したのかはわかりません。ただ、そのあと町田警察の係長が言った言葉が、妙に引っかかりました。『あんたたち、みなで松田を責め立てたのはまずかったな』と。その意味があとになってようやく理解できました」
・津波にしてみたら、死にもの狂いの訴えだ。こう言葉を絞り出し、当時を振り返った。 「町田警察に行ったのが夕方の18時頃だったと思います。その場で、『しっかり捜査をしてください』と伝えました。ところが係長は、その日のうちに、松田を釈放すると電話で伝えてきたのです。 松田を捕まえて5億円の行く先を追及すれば、多少なりとも騙し取られたカネが返って来ると思ったので、『そんなバカな、帰さないで捜査してください』と必死でお願いしました。でも『分かった、分かった』と取り合ってくれない。『もう切るぞ』と係長は言ったきり、一方的に電話を切ってしまい、本当に釈放してしまったのです」
・津波は犯行の翌28日18時頃に松田を町田署に連れて行き、20時に松田は釈放されたという。その間、町田署による松田の取り調べはわずか2時間程度でしかない。あまりに杜撰な捜査と言わざるを得ない。
・津波はそのあと、長野県にある松田の両親の住む実家まで突き止め、5月中に、担当社員とともにそこを訪ねたという。 「実家は安曇野のあたりで、東京から6時間くらいかかりました。そこで『息子さんが騙し取ったカネを返してくれとは言わないから、せめて警察で正直に話すように説得してもらえませんか』とお願いしたのです。しかし、向こう(松田の両親)は慣れたもんでした。また来たか、って感じで、体よく追い返されました。
・それどころか、松田の弁護士を名乗る人物から、えらい剣幕で抗議の電話がありました。それで、その弁護士に『先生は当人が詐欺を働いていることを知っているんですか』と尋ねると、『それなら訴えればいいだろ』と開き直る始末でした」
▽「焼身自殺をしてやろうとも思った」
・その弁護士がどう動いたのか、については定かではない。一方、松田の身柄を押さえられる状況だった町田警察署の捜査は、そこから迷走を極める。その原因は捜査のやる気のなさというより、まったく見当違いな筋立てをしたせいだといえる。あろうことか、町田署では被害者の津波を共犯に見立ててしまうのである。  津波は世田谷の元NTT寮の購入のため、取引先のY銀行からその分の融資を受けた。それについて、津波が地面師たちと共謀し、銀行から融資を騙し取ろうとしたのではないか、と疑ったというのである。
・「私は融資に関して個人の連帯保証をしているんですよ。つまり会社が返済できなければ代わって私個人が銀行に払わなければならないのに、なぜそんなことをする必要性があるのか。その間違いがひどいのです。 当初、私は町田署に取引の資料や私の仕事のノートを提出し、担当の係長がコピーしていました。そこには、この件だけでなく、海外の仕事の計画やそれにまつわる資金需要のことも書いていました。それを見た係長が、銀行から融資金を騙し取り、海外に持ち出そうとしたのではないか、と疑ったのです。『ベトナムにカネを運ぶつもりだったんじゃないか』と。そんな明後日の方向の話をしていたのです」
・まるっきりの妄想というほかない。が、町田署の係長は現に津波にそう告げたのだという。その上で、前述したように「みなで松田を責め立てたのはマズかったな」という係長の発言になるらしい。 つまり町田署は、「津波が人身御供に松田を警察に差し出したが、当人を苛めすぎたので津波も共犯だと漏らした」と見立てていたのだという。
・あまりに荒唐無稽な話だが、事実、いっとき地面師仲間のあいだでは「津波共犯説」が流れた。むろんそれは彼らがよく行う捜査のかく乱のための情報操作であり、当局がそこにまんまと乗せられたともいえる。
・この間、主犯格の北田は自ら町田署に出頭。似たような話をしてきたとも伝えられる。津波は今もこう憤る。 「あのときは本当に悔しくて、警察署の玄関先で焼身自殺をしてやろうと思いました。そのくらい絶望的になりました。実際、それを会社の弁護士の先生にも相談したほどです」 津波にとっての救世主が、その顧問弁護士だったかもしれない。 (文中敬称略。次回へ続く)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54287

第四に、上記の続き、2月16日付け「大物ヤメ検弁護士が語る「地面師事件が続発する本当の原因」 世田谷地面師事件の真相④」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・(前回まで)2015年、大物地面師グループに騙され、5億円を支払った東京都内の不動産業者・津波幸次郎氏(仮名)。「実行犯」の一人を捕まえ、町田署に突き出したのだが、あろうことか警察は被害者である津波氏も「共犯ではないか」と疑い、聞く耳を持たない。「署の前で焼身自殺をしてやろうか」とまで思い悩んだ津波氏だが、ある弁護士に相談したことで、事件は大きく展開することに――。ジャーナリスト森功氏による「地面師ルポ」渾身の最終回
▽大物ヤメ検弁護士の回想
・焼身自殺まで考えたという地面師事件の被害者・津波の相談相手となったのが、同社の顧問弁護士を務める大鶴基成(61)だった。その大鶴に会って話を聞いた。 「当時の手帳で確認すると、津波社長が僕のところに相談に来たのは、2015年6月1日の月曜日でした。『警察がぜんぜん信用してくれない』と、まさに切羽詰まった様子。これはいかんと思い、翌日に社長といっしょに町田署に行ったんです。で、刑事課長をはじめ5~6人の刑事さんと狭い部屋で会いました。
・僕が『小さな会社で5億円も騙し取られて大変なので、早く捜査をして下さい』と願い出ると、驚いたことに課長は社長の前で、『誰が被害者か分かりませんからねっ』と笑うのです。さすがにムッとしましたね」 周知のように大鶴は、1990年代に東京地検特捜部でゼネコン汚職や第一勧銀総会屋事件を手掛けてきた。2005年に特捜部長に就任し、東京地検次席検事時代に摘発した2010年の陸山会事件の陣頭指揮を執ったとされる。11年8月に退官し弁護士に転身した、大物ヤメ検弁護士である。
・津波の会社の顧問弁護士として登場したその大鶴を前に、警察はそんな不遜な態度をとったというのだが、半面、当の大鶴自身は警察の真意を冷静に分析する。 「つまり警察は裏の裏を読んだんですね。不動産のプロが、なぜこんなふうにコロッと騙されるんですか、変じゃない? ってところでしょうか。それに加え、取引現場には司法書士もいましたから、ひょっとしたらこれは、津波社長が松田(東亜エージェンシー社長の松田隆文)たちと組んで、銀行から5億円を騙し取った共犯ではないか、と考えたみたいなんです」
・そう説明しながら、大鶴は事件発生当初の捜査当局の姿勢に対してこう憤った。 「そこで僕は言いました。『仮に僕が町田署の刑事課長としてこの事件を担当するなら、5人の捜査員を専従で当たらせて、1週間で彼らを逮捕するよ』ってね。もちろんそう簡単に完全な裏付け捜査は出来ない。
・たとえば、通信のキャリア業者からメールを押さえ、連絡網を解明するなどという捜査はすぐには間に合いません。しかし、少なくとも詐欺や業務上横領の容疑で身柄を押さえることは出来るし、そうしなければならない。僕は警察にそれを言ったんです。
・すると、彼らは『先生、そんなこと気楽に言うけど、検事が釈放するんですよ』と反論するのです。それは、わからなくはありません。(腰の引けているような)今の検察の体質からすると、逮捕しても釈放しかねないですからね」
▽それでも捜査が進まなかった理由
・世田谷の元NTT寮の不動産売買を巡る詐欺事件において、地面師の北田や松田たちは、「津波が支払った代金の5億円の振込先を間違えただけだ」と嘯いてきた。が、とどのつまりネコババした事実は動かない。したがって横領容疑で摘発すればいいだけの話である。こうした詐欺事件の場合、まず犯人の身柄を押さえ、詐取された金を取り戻すことが先決だからだ。
・そのため顧問弁護士の大鶴は、町田警察署を管轄する東京地検立川支部の検事とも掛け合った。話に熱がこもる。 「こんなものは単純な詐欺なんです。被害のあった翌日(2015年の5月28日)に津波社長が、松田の携帯電話を町田署に持って行って『ここに詐欺行為の片鱗がたくさん出てます。彼らの写真や画像も見て下さいっ』とも説明したんです。ところが担当の検事に会うと、詐欺の犯意がどうのこうのとおっしゃるばかりで、やる気が見えない。しかしそれはおかしい。
・仮に一万歩譲って、向こうに騙す犯意がないというなら、それはそれでいい。だけど、それなら業務上横領でやればいいだけのことです。だから『業務上横領容疑で捕まえればいいじゃないか。罪名が詐欺だろうが業務上横領だろうが、量刑にはほとんど変わりはないですよ』とも言いました。そう言い返したら、検事は頷いた。それでも事件は動かなかったのです。担当検事が代わるまでね」
・埒が開かないとみた大鶴は、警視庁本庁にも掛け合ったというが、大物ヤメ検が動いてなお、捜査当局は逡巡し、しばらくは捜査が進まなかった。こう言葉を継ぐ。 「そこで松田が釈放された次の週には、僕が松田から2回ヒアリングをし、物件の所有者や向こう側の司法書士からも話を聞いた。犯人グループにとっては、その司法書士のヒアリングが応えたんだろうと思うけど、そうして独自にこちらで調べていくと、(主犯格の)北田(文明)が自ら町田署に出頭したんです。ところが、そこでも警察は北田の弁解を聞いただけ。そのまま帰してしまったんです」
・ここに登場する司法書士とは、亀野裕之のことだ。アパホテルの地面師詐欺でも逮捕された地面師グループの一人である亀野のことは前に触れたので、ここでは割愛する。大鶴はこうも言う。 「この過程で、津波社長や会社の社員の人たちは、まるで警察のように犯人グループについて一生懸命調べてくれました。他の事件でも出てくる地面師の北田の人定をしたのも、警察ではなくわれわれです。たとえば連中の姓名や会社をネットで調べると、別の警察署に告訴が出ているとわかった。それを手繰り寄せていってね。その告訴人の弁護士に僕が電話で頼み込んで3件くらいの告訴状を取り寄せた。
・ただ、どの事件も告訴が不受理になっていて、警察はぜんぜん相手にしてくれない、と嘆いていました。そこに、くだんの司法書士も出てきたのです。だから、事件の根っこは、そのあたり。彼らを早く捕まえ、刑務所にぶち込んでいたら、おそらく彼らが引き起こしている事件の被害は、現在の10分の1くらいで済んだと思います。それを長い間、グズグズしているから、津波社長のような新たな被害者が出てしまうんです」
・警視庁管内で地面師詐欺が横行しているとはいえ、犯行を組み立てることのできるような頭の切れる地面師は、さほど多いわけではない。むしろ同じ犯人がいくつもの事件にかかわるケースがほとんどだ。 だからこそ、一つの事件を迅速に捜査すれば、被害は最小限に抑えられる。逆に事件を放置すれば、被害が広がるのは自明である。
▽行方をくらました地面師
・亀野が動いた事件でいえば、吉祥寺警察署に届けられた高円寺の土地取引もあり、売り主さんが亀野を信用して全部の書類を預けちゃった。売り主に渡ったのは手付金として3000万円だけ。残金がまだなのに、亀野やその仲間は、その土地を転売しちゃった。それで彼らは吉祥寺警察署に訴えられたけど、いざ訴えられると、売買代金の残りを返済する意思があると言いだし、それも事件にならなかった。僕のときも彼らは1000万円返すと言っていて、似たような構図なんです」
・5億円詐欺事件の被害者である津波幸次郎はそう悔しがる。 「事件から数カ月、僕は必死で犯人を追いかけました。振込先となった大阪のセキュファンドには3回も出向き、留守番を名乗る人物にも会った。その人間も言ってみれば一味だったはずです。留守番から免許証も見せてもらい、姓名も確認した。それでも警察は動かない。本当に絶望的でした。
・毎夜日付けが変わる頃まで、銀行から借りた5億円の穴をどうやって埋めればいいか、考えあぐねました。会社で所有していた物件を片っ端から売って、生命保険や土地などをすべて担保に入れ、別会社で借り入れて返しましたけど……」
・事件発生以来、2年半、文字どおり不眠不休で資金繰りに駆けずり回り、凌いできたのだという。 世田谷の事件では、幸いにも2017年春、東京地検立川支部に特捜部で鳴らした経験のある検事が赴任した。さすがに特捜検事だけあって、事件の筋読みができる。また元特捜部長の大鶴にとって後輩にあたるので、話を通しやすかったのかもしれない。そこから捜査が動き始めた。そうして2年半を経た末、昨年12月の逮捕にこぎ着けたのは、これまで書いてきた通りだ。だが、事件捜査は全貌解明にはほど遠い。
・事件には、大物地面師の内田マイクやその仲間、司法書士の亀野や振込先となったセキュファンドなど、10人前後の犯行グループが見え隠れしてきた。にもかかわらず、そもそも逮捕されたのは4人だけであり、そのうち起訴されたのは北田と松田だけなのである。
・その他、明らかに一味だと思われる者については、たとえば口座を貸しただけだとか、自分自身も騙されたと言い張ったりとか、あるいは他の事件で逮捕されているから必要ない、という理由でお咎めなしになっている。それ自体奇妙な理屈だが、とどのつまり捜査は終結し、それ以上は進まない。
・事件はすでに法廷の場に移り、初公判は3月26日に決まった。地面師グループのボスと目される内田は、杉並区の駐車場を巡る詐欺事件で、1審、2審ともに懲役7年の実刑判決が下り、奇しくもこの事件の本格捜査が始まった昨年12月、最高裁での上告が棄却され刑が確定。収容状が出たとたん、そこから行方をくらまし、目下、逃走している。 (敬称略 了)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54433

第一の記事で、 『地面師集団に限らず、詐欺師が相手を騙すとき、取引を急がせる傾向がある。彼らにとってはどさくさに紛れて取引を進めるスピードが大事だといえる。実際、このケースでも、津波は話が持ち込まれた4月半ばから2週間後の月末取引を要求された・・・「他にも競争相手がいるので、取引をさらわれてしまう」 そう言って津波に危機感を植え付け、買い取りを急がせた』、というのでは、不動産取引のプロである被害者の津波氏といえども、やはり騙されてしまうようだ。
第二の記事で、 『銀行も支店も異なる別々の場所で』、 『登場人物を増やすことによって、犯行の発覚を遅らせるという詐欺師の常套手段』、などはなるほど仕掛けはよく考えられている。ただ、 『銀行に現預金の残高証明書を発行してもらうのがふつうだ。が、それだとクズ小切手による入金工作がばれてしまう。そこで北田は、通帳や残高証明ではなく、ATMの伝票を持ち主や津波側の司法書士に見せ、信用させたのである』、というのは、騙される方もお粗末だ。
第三の記事で、 『津波は犯行の翌28日18時頃に松田を町田署に連れて行き、20時に松田は釈放されたという。その間、町田署による松田の取り調べはわずか2時間程度でしかない。あまりに杜撰な捜査と言わざるを得ない』、 『あろうことか、町田署では被害者の津波を共犯に見立ててしまうのである。  津波は世田谷の元NTT寮の購入のため、取引先のY銀行からその分の融資を受けた。それについて、津波が地面師たちと共謀し、銀行から融資を騙し取ろうとしたのではないか、と疑ったというのである。 「私は融資に関して個人の連帯保証をしているんですよ』、というのには驚いた。 『いっとき地面師仲間のあいだでは「津波共犯説」が流れた。むろんそれは彼らがよく行う捜査のかく乱のための情報操作であり、当局がそこにまんまと乗せられたともいえる』、捜査のかく乱のための情報操作までするとは地面師は本当に知能犯だ。それに乗せられた町田署はお粗末だ。
第四の記事で、 『大物ヤメ検弁護士・・・を前に警察はそんな不遜な態度をとった』、というのは、ある意味では権威に右顧左眄しない立派な態度とも言えるが、今回の場合は、東京地検立川支部の検事も含めて、自分たちの考えに固執して、虚心坦懐に他人の意見を聞こうとしない思い上がった態度といえよう。 『(主犯格の)北田(文明)が自ら町田署に出頭したんです。ところが、そこでも警察は北田の弁解を聞いただけ。そのまま帰してしまったんです』、 北田に対し別件で出されている 『3件くらいの告訴状を取り寄せた・・・ただ、どの事件も告訴が不受理になっていて、警察はぜんぜん相手にしてくれない』、など警察の余りに慎重な姿勢には強い疑問を感じざるを得ない。  『一つの事件を迅速に捜査すれば、被害は最小限に抑えられる。逆に事件を放置すれば、被害が広がるのは自明である』、というのはその通りだ。  『事件には、大物地面師の内田マイクやその仲間、司法書士の亀野や振込先となったセキュファンドなど、10人前後の犯行グループが見え隠れしてきた。にもかかわらず、そもそも逮捕されたのは4人だけであり、そのうち起訴されたのは北田と松田だけ』、に至っては、全く理解できない。冤罪事件も数多く起こしている検察や警察は、地面師絡みの事件では、一体、何を考えているのだろう。
タグ:積水ハウス事件(その2) (その6)(大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」を巡る警察・検察の不可解な動き(4回シリーズ)) 司法の歪み 地面師 森 功 現代ビジネス 「大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」の真相 【スクープリポート】地面師を追う➀」 町田の事件 アパグループ 12億6000万円を騙しとった NTT寮だった土地・建物の売却話 いわば「なりすましの存在しない不動産詐欺」であり、犯行グループは持ち主と不動産業者の仲介者として登場し、最終的に不動産業者から振り込まれた購入代金をせしめる なぜ立件までに2年半もかかったのか 「世田谷5億円詐取事件・追い詰められた地面師たちの「卑劣な言い分」 世田谷地面師事件の真相②」 銀行も支店も異なる別々の場所で取引をおこなう 見せ金29億円 通帳や残高証明ではなく、ATMの伝票を持ち主や津波側の司法書士に見せ、信用させたのである 「「焼身自殺で抗議しようと思った」地面師被害者を苦しめた警察の怠慢 騙し取られた総額、5億円」 町田署による松田の取り調べはわずか2時間程度でしかない。あまりに杜撰な捜査と言わざるを得ない 「大物ヤメ検弁護士が語る「地面師事件が続発する本当の原因」 世田谷地面師事件の真相④」 東京地検立川支部に特捜部で鳴らした経験のある検事が赴任 そこから捜査が動き始めた
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