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中国国内政治(その5)(習近平独裁を裏付ける「新憲法」を読み解く、王毅外相が「精日は中国人のクズ」と激怒した訳、習近平は国家主席「終身制回帰」への懸念や不安にどう応えるか) [世界情勢]

中国国内政治については、昨年11月17日に取上げた。全国人民代表大会が修了した今日は、(その5)(習近平独裁を裏付ける「新憲法」を読み解く、王毅外相が「精日は中国人のクズ」と激怒した訳、習近平は国家主席「終身制回帰」への懸念や不安にどう応えるか)である。

先ずは、元産経新聞北京特派員でジャーナリストの福島 香織氏が2月28日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「習近平独裁を裏付ける「新憲法」を読み解く 任期制限撤廃、「粛清」の布石着々、最後の暗闘の行方は…」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・中国の政治が大きく音を立てて変わろうとしているのだが、悪い予感しかない。まず、2月26日から28日までの間に突如、三中全会が招集されることになった。普通なら三中全会は秋に開かれ経済政策をはじめとする新政権の政策の方向性、改革の方向性を打ち出すものだ。こんなイレギュラーな三中全会は改革開放40年来、初めてだ。本来2月に開催される二中全会が前倒しされて1月に開かれたのも驚きだったが、二中全会で決められなかった人事と“重大政治機構改革”を決めるために三中全会が全国人民代表大会(全人代)前に開催されるということらしい。
・その三中全会の招集が発表された翌日の25日に、3月に開催される全人代で可決される予定の憲法修正案が公表されたが、この修正案では第79条の国家主席任期の「連続二期を越えない」という制限が取り払われたことで、中国内外は騒然となった。習近平独裁が始まる!とおびえた中国人が一斉に「移民」のやり方をネットで検索したために、「移民」がネット検索NGワードになってしまったとか。
・三中全会の行方はどうなるのか。新政府の人事と重大政治機構改革の行方は? 習近平新憲法が導く中国の未来とは? 未だ流動的要素はあるものの、一度まとめておこう。
▽21の修正、特筆すべき8点
・新華社が公表した憲法修正案の中身を見てみよう。 修正点は21か所。その中で特筆すべきは8点。  (1)前文において、国家の指導思想として、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論と三つの代表重要思想に続いて「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を書き入れた。「健全な社会主義法制」を「健全な社会主義法治」と書き換えた。このほか、「新発展理念」「富強民主文明和諧美麗の社会主義現代化強国を建設し、中華民族の偉大なる復興を実現する」などという習近平政権のスローガンを書き入れた。
(2)前文において、中国の現状を「長期の革命と建設のプロセスにある」という認識を「長期の革命、建設、改革のプロセスにある」と改革を強調する形で修正。
(3)前文において「中国革命と建設の成就は世界人民の支持と不可分である」という部分を「中国革命と建設、改革の成就は世界人民の支持と不可分である」に。「中国が独立自主の対外政策を堅持し、主権と領土保全の相互尊重主義を堅持し、お互いに犯さず、内政干渉せず、平等互利、平和共存の五原則」という部分に加えて「平和発展の道筋を堅持し、ウィンウィンの開放戦略を堅持する」という文言を加筆。「各国との外交関係、経済、文化的交流を発展させ」を「各国の外交関係、経済、文化的交流を発展させ、人類運命共同体構築を推進する」と修正し、習近平政権のスローガンである「人類運命共同体構築」という文言を書き入れた。
(4)憲法第1条第二項の「社会主義制度は中華人民共和国の根本制度」という部分に加えて、「中国共産党の指導は中国の特色ある社会主義の最も本質的な特徴である」と書き入れ、条文中に「共産党の指導」という文言が初めて入った。
(5)第3条第三項に中国の最高権力機関とされる人民代表大会の監督責任が及ぶ機関として、「国家行政機関、審判機関、検察機関」とあるところを「国家行政機関、監察機関、審判機関、検察機関」と監察機関つまり新設される国家監察委員会の権威を国務院と併記するほど強いものとした。これに従い全人代の職権の中に国家監察委員会主任の選出、罷免などの条項が付け加えられ、国家監察委員会の条項が書き加えられた。
(6)第24条第二項において、「国家は祖国を愛し、人民を愛し、労働を愛し、科学を愛し社会主義の公徳を愛することを提唱する」の部分を「国家は社会主義の核心的価値観を提唱し、人民を愛し…以下略」と修正、「社会主義の核心的価値」という言葉を盛り込んだ。
(7)第27条に新たに第三項を付け加え、国家公務員の就任時に憲法宣誓を公開で行うことを規定。
(8)第79条第三項において、「中華人民共和国主席、副主席の一期ごとの任期は全国人民代表大会任期と同じとし、連続二期を越えない」という部分を「中華人民共和国主席、副主席の一期ごとの任期は全国人民代表大会任期と同じとする」として二期10年の任期制限を撤廃した。
▽「監察委独立的権限」で「移民」がNGワードに
・この中で、やはり中国内外が騒然としたのが、第79条の修正、国家主席任期制限の撤廃である。これにより、国家主席任期は無期となり、習近平が国家主席を2023年以降も務め続けることが可能となった。国家指導者の任期が無期限となるということは、独裁を確立するための憲法的裏付けができたということであり、習近平の野望を反映した憲法改正である。ブルームバーグその他、欧米メディアは、習近平のプーチン化などと評した。
・次に中国人民の肝胆を寒からしめたのは、国家監察委員会に、国家行政機関、司法機関と並ぶ強い独立的権限が与えられたことである。これまでの習近平の反腐敗キャンペーンは党中央規律検査委委員会が主導で行ってきた。党の内規に従って行われてきた。だからターゲットはあくまで党幹部であった。
・だが今後の反腐敗キャンペーンは憲法に基づく機関が国家監察法を根拠に国家機関に及び、党外人士、一般官僚、国有企業幹部らも含めて、その汚職を摘発していくということである。反腐敗キャンペーンは事実上、習近平による反習近平派の粛清に利用されていたが、その粛清の範囲が党外にまで広がる、ということになる。
・おそらく、習近平の独裁化とこの新たな監察機関に関する修正案を見て、地方のヒラ官僚や国有企業社員に至るまで一斉に移民の検討を始めたのだろう。新華社が憲法修正案を発表して後、インターネットの中国検索サーチエンジンのランキングで「移民」関連検索が一気に跳ね上がった。まもなく「移民」という言葉自体が、検索NGワードになってしまった。このほか、「袁世凱」「皇帝万歳」「戊戌の変法」など、皇帝や革命、独裁を連想させる言葉が次々とNGワードになった。
▽「法治唱えると独裁肯定」の矛盾
・現行の1982年憲法は習近平の父親で開明派政治家で知られる習仲勲が中心になって、文革の残滓を払拭するために作った憲法であった。習仲勲は、文革憲法と根本的に違う市民の権利の根拠を示す憲法をつくろうとしたので、あえて憲法条文に「党の指導」という文言を書き入れなかった、というエピソードはすでに前々回の拙コラム欄で紹介したとおりである。
・習近平は、さすがに前文に党規約と同様の「党の一切の指導」という強い文言を入れることはなかったが、条文では明確に「党の指導」を入れてきた。党規約には「習近平を核心とする党中央」という言葉が入っているので、習近平独裁はこれで憲法に裏付けされる、ということである。独裁を肯定した文革憲法から市民権利擁護の82年憲法を作った父親の思いを、息子の習近平は踏みにじったということになる。
・これまで反習近平派は、習近平の独裁化路線が憲法に矛盾するとして、憲法を根拠に批判し、憲政主義を守れ、法治に戻れと主張していたのだが、憲法の方を習近平路線に変えてしまった。今後は、法治を唱えるほどに、独裁を肯定するという矛盾に民主派、新自由派人士は、苦しむことになった。
・ところで、こうした憲法修正案は1月半ばに行われた二中全会ですでに可決していたはずである。だが、二中全会コミュニケでは、この内容が公表されず、異例の三中全会の招集がかかった後に公表された。このタイムラグが何を意味するのか。そもそも、二中全会開催から一カ月ほどの間しかおかずに三中全会が開かれるのはなぜか。
・三中全会は改革開放以来、党大会翌年の秋から冬にかけての間に開催されてきた。党大会で新政権が発足し、その翌年の春に新政府が発足し、その新政権・新政府(党と国家)がその任期中に執り行う経済・政治・社会の政策、改革の方向性を三中全会で打ち出すのである。だが、今回の三中全会はかなりイレギュラーであり突然であり不穏である。誰もが第11期三中全会(鄧小平が、毛沢東の後継者である華国鋒を失脚させて実権を握った)と同じような、尋常ならざる政治の空気をかぎ取っている。
▽「李克強包囲網」が狭められている
・この背後をいろいろ想像するに、習近平派と非習近平派の間で、憲法修正案と人事をめぐるかなり激しい対立があったのではないだろうか。 二中全会は普通、全人代の人事、議題がまとめられるのだが、習近平は自分の思い通りの憲法改正を実現するために、例年2月に行われる二中全会を一カ月前倒しして1月に行った。だが、習近平が提示するその修正案があまりにひどいので、非習近平派から強い反発があった。憲法修正案での議論が白熱したために二中全会では政府新人事が決められなかった。おそらくは、政府新人事も習近平の人事案にかなりの抵抗があったはずだ。
・香港明報(最近の報道は習近平寄り)の報道では、副首相に習近平の経済ブレーン・劉鶴の起用が推されているという。ちなみに他の副首相は筆頭が韓正、孫春蘭、胡春華。首相の最大任務は経済政策だが、有能な経済官僚であり、しかも習近平の腹心の劉鶴が副首相になれば、李克強の仕事は事実上、劉鶴にくわれかねない。これは、習近平による「李克強つぶし作戦の第一歩」だという見方もある。その後、劉鶴が人民銀行総裁職に就く(ロイター報道)、という情報なども流れ、劉鶴人事が相当もめていることはうかがわれている。
・このほかに王岐山の国家副主席職採用についてももめているようだ。憲法修正案と人事案セットで、習近平派と非習近平派の激しい駆け引きが行われたと考えれば、憲法修正案はあそこまで習近平の野望に沿ったものであるし、人事案はひょっとすると習近平サイドが多少の妥協を見せた可能性はある。憲法修正案公表を、人事案で落としどころが見つかったタイミングに合わせた、と考えれば公表が一カ月遅れたことの理屈もつく。
・だが、憲法に続いて人事も習近平野望人事になる可能性が示唆される出来事が24日に起きている。突然の楊晶失脚である。国務委員で国務院秘書長の楊晶は李克強の大番頭的側近である。香港で“失踪させられた”大富豪・蕭建華との汚職関係の噂が出ているが、これは習近平サイドによる李克強包囲網が狭められている、という見方でいいだろう。
▽「大部制度」で官僚大粛清へ?
・もう一つ不穏な話は、習近平が三中全会で大規模な政治機構改革、いわゆる大部制度(省庁統合)を行おうとしている、という香港筋情報である。国土資源部と環境保護部を統合して国土資源環境保護部にするなどして、部を減らし閣僚を減らせば、利権の拡大を防ぎ、財政の無駄を省くことができる、と言うのは建前。実際の狙いは、国務院権限(首相権限)の圧縮とアンチ習近平が多い共青団派国務院官僚の排除ではないだろうか。
・習近平は自らの経済・金融政策がうまくいかなかったのは国務院官僚の抵抗のせい、と思っているふしがある。この大部制改革とセットで国家監察委員会を設立することによって、習近平のやり方に不満をもつ国務院官僚の一斉首切りがスタートするかもしれない。三中全会でひょっとすると「国務院官僚大粛清ののろし」が上がるのではないか、などと心配するのである。
・とりあえず、三中全会は28日に終わり、早ければその日のうちにコミュニケが出るはずで、それを待たねば、なんともいえない。だが、中国が文革以来の政治の嵐の時代に突入しつつある、という認識は多くの人が持っているようである。そして、隣国の嵐は、おそらく日本を含む世界を巻き込むことになる。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/022600138/?P=1

次に、上記に続きを3月14日付け「王毅外相が「精日は中国人のクズ」と激怒した訳 「精神的日本人」の増加に焦る習近平“終身”政権」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・全人代会期中の恒例の外相記者会見で、日本で一番話題になったのは半島問題でも貿易問題でもなくて、「精日」問題、つまり精神的日本人、中国人の精神の日本人化問題で、激怒したことであった。 「精日」(精神的日本人)とは近年使われるようになったネットスラングで、「自分は中国人だが精神的には日本人」を主張する若者を指し、中でも近代史における日本の役割を肯定し、中国の抗日精神を否定している点が、日本サブカル好き・哈日族と一線を画している。
・旧日本軍人コスプレの中国人コスプレイヤーが自撮り写真をネットにアップして拘留されるなどの事件が年明けにもあり、中国で社会問題化していた。そこで、王毅外相の発言があり、今年の全人代では「精日」を取り締まるための法整備も議論されている。
・では、なぜ今になって精日とよばれる中国人の若者が目立つようになってきたのか。今までの中国における日本ブームとどこが違うのか。 習近平政権になって明らかに、政治的には日本に対して敵対的な外交方針であり、国内の日本関係研究者や作家ら知日派知識人は有形無形の厳しい圧力を受けていると聞いている。そうした時代の空気に反発するように若者が、日本の軍人や武士のコスプレをするのは、単にアニメや映画の影響というだけではあるまい。その背景というのを少し考えてみたい。
▽「そいつは中国人のクズだ!」
・まず会見のやり取りを振り返ろう。 実は「精日」問題のやり取りの部分は、人民日報の公式報道では書き起こされていない。 新華社記者の最後の質問に答えて、会見を締めた後、江蘇省紙の現代快報記者が立ち去ろうとした王毅に向かって、大声でこう質問したのだ。 「外相! 最近の“精日”分子による民族のボトムラインを挑発する絶え間ない言動をどう思いますか?」 すると、王毅は嫌悪を隠そうともしないで、「そいつは中国人のクズだ!」と人差し指を振り上げながら吐き捨てたのだった。
・さすがに公式の会見での発言ではないにしろ、カメラの回っている前での大臣の「クズ」発言はインパクトがあった。全人代の閣僚会見は、中国メディアも外国メディアも事前に質問事項を提出するので、おそらく、現代快報のこの質問は公式には却下されたのだろう。そもそも、全人代の舞台で外相に聞くような質問ではない。
・だが、予定稿どおりの会見やり取りが続いた後で、王毅の憤怒の表情を引き出した現代快報記者に対しては、メディアとしてはグッドジョブといいたい。その表情に、今の中国の焦りも見えた気がしたからだ。 日本語が流暢で、私が現役の北京特派員記者であったとき外務次官であった王毅は、当時はむしろ日本人記者にとっては親しみやすい知日派外交官であった。それが、習近平政権になってからの王毅は「精日」問題に限らず、日本について嫌悪を丸出しにして語るようになった。その豹変について、いろいろ分析する人はいるのだが、最終的には王毅こそが、中国官僚、あるいは中国人の典型であろう、という意見でまとまるのだった。
▽知日派外交官から転向
・権力闘争が激しい中国では、政治の趨勢に敏感に立ち居振る舞いを変えていかねば生き残れない。特に習近平政権は発足直前に日本の尖閣諸島の国有化問題という痛恨の外交的屈辱を見たために、当初から対日観は厳しい。王毅のように知日派で売っていた外交官としては、焦り不安になったはずだ。
・だが、習近平は王毅を外相に抜擢。その目的は、当時の馬英九政権下の台湾との統一に向けた周辺外交を期待されてであるが、結果的には、台湾では、むしろ反中機運が高まり蔡英文民主党政権が誕生した。こうした中で、王毅は習近平の内心を忖度するのに必死なのであろう、と。そういう焦りというか余裕のなさが、こうしたちょっとしたきっかけで、派手に指を立てて憤怒の表情を見せるパフォーマンスをさせるのだろう、と昔の王毅を知っている人はやや同情的に見ているのである。
・こうした外相の不安や焦りは、そのままの中国の焦り、習近平の焦り、と重なる。全人代で習近平終身国家主席の根拠となる憲法修正案が、賛成票2958票、反対・棄権票5票という圧倒的多数で可決したが、この憲法について、代表たちが心から支持しているのかというと、必ずしもそうではないという感触を私は得ている。
・そもそも全人代代表にはさほど発言力も権限もない。今後は新たに創設される国家監察員会を通じて、政治家、官僚たちは党員であるなしにかかわらず粛清の対象となる。その緊張感から、党内ハイレベルから庶民に至るまで、内心の不安を口に出せない息苦しさがあることは、そこそこの情報網を持っている中国屋ならば共通して察している。
・本当に憲法修正案が全面的支持を集めると習近平が自信を持っているならば、もっと討議に時間をかけたことだろう。そういう余裕を見せつける方が権力掌握のアピールにつながる。だが、全人代の約一週間前にいきなり草案を公開して、異論をはさむ余裕も与えずに不意打ち可決した。そうしなければ不安だったのだ。さらには新華社英文記者が速報で「国家主席任期制限を撤廃」という見出しで速報したことを「政治的錯誤」として処分したという。習近平自身が、この憲法修正案が支持されていないことに気づいている証左だろう。
・この憲法修正以降、習近平の権力一極集中化が加速し、長期独裁の始まりとなるという見立ては私も同意するところだが、それが強い権力基盤を背景にしているという点については、以上の理由から、私はまだ疑問に思っている。中国経済が素晴らしく発展基調で、AI、IT、フィンテックの分野で今後米国を越えていくのだ、という予測に関しても、私はまだ懐疑的で、確かに、モラルや市場原理を無視して、資金と人材を一点に集中してイノベーションを起こしていくやり方は中国ならではだが、それが持続的に可能かどうかは、また別だ。
・全人代と政治協商会議に合わせて公開された中国礼賛映画「すごいぞ、わが国」(厉害了,我的国)は党と職場で動員がかけられて連日満員だというが、そうした国策映画で動員をかけねば、中国のすごさを実感できない、あるいは持続できない、という見方もある。 「精日」は、こうした中国の余裕のなさ、焦りを隠すための過剰な礼賛パフォーマンス、異論狩りの社会状況を反映して出てきた社会現象だと、私は見ている。
▽文芸界グループも過剰な忖度
・「精日」問題を、簡単に振り返っておくと、たとえば2017年8月に、第二次上海事変(1937年)の最後の戦闘があった上海四行倉庫で、四人の中国人男性が旧日本軍の軍装姿にコスプレして、撮影会を行った事件があった。また2016年12月、“南京大虐殺犠牲者哀悼日”の前日に、二人の中国人男性が日本のサムライ姿でコスプレした写真を撮影した件、2018年2月にも、2人の男性が旧日本軍軍服姿で南京抗日遺跡前で撮影した写真をネットにアップした事件があった。
・この2人は10~15日間の行政拘留処分を受けたが、今年の全人代では、こうした処罰では軽すぎる、として国家を侮辱する者を厳罰に処す「国格と民族の尊厳を守る法」(国家尊厳法)の立法提案が、全人代と同時期に開催されている全国政治協商委員会(全人代の諮問機関に相当)の文芸界グループ38人によって全人代に出された。
・本来、言論・表現の自由を擁護しなければならない文芸界グループがこうした提案を行なったことも、その中にはジャッキー・チェンなど日本でも人気のスターがいたことも衝撃だったろう。文芸界の人たちもまた、自らの政治的身の安全に不安をもって、政権への過剰な忖度で動いているのだ。
・この提案が求めるのは、中国の国格と中華民族の尊厳を犯し、革命烈士や民族英雄を侮蔑し、日本の軍国主義、ファシスズム、日本武士道精神を礼賛することを刑事罰に処すことだという。中国には「挑発罪」「社会秩序擾乱罪」という何でも適用できる便利な(恐ろしい)罪状があるので、そのような法律を作らなくても、いかようにでも気に入らない表現・言論は抑えることができるはずだが、そこがまた中国の自信のなさ、なのである。
・習近平政権は、法律がなければ中国人自身が中華民族の尊厳を破壊する、と恐れているということだろう。そして、実のところかなり本気で“日本の文化侵略”を恐れているということもある。
▽愛国教育に嫌気
・“精日”の精神構造については、すでにいろいろな分析が出ているのだが、単なる親日、日本好きというだけでなく、中国、特に共産党に対する嫌悪が背景にある。それは共産党政権が“反日”を、党の独裁政権の正統性に利用してきたことと、関係していると思う。
・中国共産党は執政党としての正統性の根拠に“抗日戦争勝利”を宣伝してきた。だから、共産党独裁に反発するほど“日本”を持ち上げる言動、中国共産党政権が嫌がる言動に走りがちとなる。また、意外に中国近代史や日中戦争史を勉強している人もいて、共産党の主張する歴史の矛盾点に気づいていたりもする。
・日本社会やその価値観に憧れ、自分は国籍はないけれど心は日本人だ、と主張し、中国に暮らしながらも、日本の生活習慣をまねるのは、90年代から強化された“愛国教育”という名のものとのあからさまな反日教育に嫌気がさしてきたから、という見方もある。
・もちろん改革開放とともに大量に流入してきた日本文化、特に、映画、アニメ、漫画の圧倒的影響も大きい。精日とはまた違う、日本サブカルファンたちの中には、日本から来た“コスプレ”という新しい遊びを楽しむ上で、政治思想はあまり関係ない。特に軍装コスプレ、サムライコスプレは、アニメや漫画の影響で定番だ。それを抗日基地にいってわざわざやるのは、強い政治信念があるというよりは、わざわざドイツ・ベルリンの国会議事堂前で、ナチスの軍装コスプレをして7万円相当の罰金支払いを命じられた中国人旅行者に近いかもしれない。
▽「移民」「中国脱出」は日本のせいではない
・いろいろな見方もあり、精日と普通の日本オタクとの区別もあいまいではあるが、一つ言えるのは、この精日が全人代で取りざたされ、新たな法律をつくってまで取り締まろうという流れは、日本文化愛好者や親日家を弾圧し、日本文化の影響力を排除する社会状況を作りかねない。
・そもそも、“精日”に限らず、今、できることなら中国人をやめたい、外国籍をとって外国に暮らしたいとひそかに考えている中国人は急増している。それは、憲法修正案が発表されたその日に、多くのネットユーザーが一斉に「移民」のキーワードで検索をかけた、という事からもうかがえるし、少なからぬ日本に留学や研究に来ている中国人が「中国脱出」を真剣に検討していることも知っている。誰だって、言論も不自由で、個人の財産や人権が正しく保障されていない独裁国家で子供を産み育てたいとは思わない。
・だいたい、“精日”によって中華民族の尊厳が傷つけられた、のではなく、中国人をやめてしまいたいと多くの人民が思うような状況を作り出した今の政権に“偉大なる中華民族”を指導する力や正統性の方に問題があるのだ。いちいち、何でも日本のせいにしなければ、その正統性が維持できない政権ならば、いずれその脆弱性は表面化すると、私は見ている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/031300140/?P=1

第三に、国際コラムニストの加藤嘉一氏が3月13日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「習近平は国家主席「終身制回帰」への懸念や不安にどう応えるか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽改正憲法の施行を受けた今 “習近平終身国家主席”が誕生!?
・現在、北京では1年に一度の“両会”(全国人民代表大会&全国政治協商会議)が開かれている。今年は例年よりも若干長く、前者の全人代は3月20日まで開かれる。 全国政治協商会議は数日早めの見込みであるが、国家主席・副主席、中央軍事委員会主席、全国人民代表大会委員長・副委員長、国務院総理・副総理・国務委員・各部長、最高人民法院院長、中国人民銀行総裁といった習近平第2次政権を形成する要職の人事は、今週土曜日から来週月曜日にかけて発表されることになる見込みだ。
・そして、最終日に当たる3月20日(火曜日)、国家主席と全人代委員長が談話を発表して“両会”は閉幕する。その後、例年同様、国務院総理が副総理を引き連れて記者会見を行うのが予定である。この会見が“両会”における実質的な最終イベントということになる。 これらの模様は次回コラムでじっくりレビュー・検証することにする。
・前回コラムで『「中国国家主席の任期撤廃」で習近平政権はいつまで続くか』を扱ったが、11日の日曜日、国家主席・副主席の1期5年、2期までという任期撤廃を含む憲法改正案が正式に可決され、即日公布、施行されることとなった。 憲法改正には3分の2以上の賛成が必要と決められているが、無記名投票で2964人が投票し、賛成2958票、反対2票、棄権3票、無効票1票という結果であった。 国家の命運に関わるほどの大事をめぐる審議であり投票である。しかも、今回の改正をめぐっては拙速感や“ブラックボックス”感が否めない。改正案が公表されてから“投票”するまでたった半月の時間しか設けられなかった。
・これに反発や抵抗を心のなかで感ずる人間は官民を問わず少なくなかったであろう。故に、投票の現場で「もしかしたら」という思いもあったが、結果はこのようになった。個人的には、習近平政権の“真相”を改めて垣間見た思いである。
・これを受けて、日米を含めた海外では“習近平終身国家主席”という前提・枠組みで今後の中国共産党政治が修飾・議論されていくのだろう。 本稿では、改正憲法の施行を受けた今、前回に引き続き“習近平終身国家主席”にまつわる検証作業を深めていきたい。
▽筆者から見て極めて重要な評論記事
・憲法改正草案公表の後、“両会”開催の前というタイミングで、私から見て極めて重要な評論記事が党機関紙《人民日報》に掲載された。 3月1日の3面の“保証党和国家長治久安的重大安排”と題された記事である。日本語にすると「党と国家の長期的太平と安定を保証するための重大な手配」といったところだろう。  習近平およびその周辺が一体どういう考慮に基づいて国家主席・副主席の任期を撤廃し、その先に何を見据えているのかを考える上で、情報と示唆に富んだ資料であると考えるため、以下引用しながら見ていきたい。
・同記事は憲法改正草案に含まれる(1)“中国の特色ある社会主義にとっての最も本質的な特徴は中国共産党による領導”という文言を憲法に書き入れること、(2)国家主席の任期に関する規定を変更すること、(3)国家監察委員会に憲法的地位を与えること、(4)地方における法規・条項を増加すること、という4つの項目をピックアップして、その背景や必要性について解説している。
・ただ、私から見て、同記事は国内では潜在的に、国外では顕在的に存在・蔓延する“習近平国家終身主席”に対する不安や懸念に対する弁明、および今回の憲法改正を正当化するための動作であるように映った。 同記事の関連部分を見ていこう。
・「中国共産党、中華人民共和国、中国人民解放軍の指導者は“三位一体”の領導体制であり、我々の党が長期的執政の実践を通じて徐々に探索してきた治国理政の成功的経験である。国家主席制度は党と国家領導体制における重要な構成部分である」 今回の憲法改正のインプリケーションを抽出する上で、この“三位一体”というのは極めて重要な概念になるであろう。詳細は後述するとして、続けて見ていきたい。
・「関係者は一致して次のように考えている。現在、党章は党の中央委員会総書記、党の中央軍事委員会主席に対して、憲法は中華人民共和国中央軍事委員会主席に対して“連続任期が2期を超えてはならない”という規定を設けていない。憲法が国家主席に関する相関規定において上述のようなやり方を採用することは、習近平同志を核心とする党中央の権威と集中的統一的領導を守ること、および国家領導体制を強化し、充実させることに有利に働くのである」
・“一致性”“三位一体”という文言は使用していないが、言っていることは同様であると解釈できよう。習近平が“三位一体”という形で任務を続投する可能性が断然高くなった現状を立証する一つの根拠になると私は見ている。
▽不安・懸念にどう応えるかは習近平政権の今後の実質的行動・政策次第
・さて、ここで議論を深めるために一つのカウンターアーギュメントを試みたい。 “一致性”“三位一体”を保持すること(「それが我が国の国情に符合し、党と国家の長期的太平と安定を保証する制度設計である」上記《人民日報》記事)が今回の憲法改正の動機・目的ということであるが、それを実現するための選択肢を考えてみると、少なくとも二つあることが分かる。
・一つは今回共産党が行ったやり方、すなわち、国家主席の任期を撤廃して党総書記、軍事委員会主席に合わせること。もう一つは、党総書記、軍事委員会主席に任期を設けて国家主席に合わせることである。  目的と手段の関係性からすれば、少なくともこの二つの選択肢が習近平およびその周辺にはあった。結果として、党指導部は前者を選択し、草案し、可決にこぎつけた。
・歴史の趨勢からこの問題を考えてみると、そもそも現行の1982年憲法が草案・公布・施行される以前、中国の指導者に対して任期に関する規定はなかった。当時の状況が“終身制”という文言で称される所以である。鄧小平は文化大革命などの反省や教訓を旨に、党と国家領導制度に関する改革に着手した(前回コラム参照)。
・その一つの帰結が国家主席の任期に2期を超えてはならないという規定を設けたことに体現されていると言える。 鄧小平が残した遺産としての“集団的指導体制”が、その後の中国共産党政治の一つの特徴であり、発展の方向性になっていった。 そこには、政治にルールを設ける、設ける過程で透明性と公平性を伴った議論を党内外で行う、その過程や結果を公開し、明文化する、指導者の行動範囲や任期を明確にし、かつそれを憲法で定める、憲法を改正する際には党内外で広範に、オープンに、時間をかけて審議するといった規範や精神が付随しているのは言うまでもない。
・そう考えると、私個人から見て、上記の選択肢のうち、後者を選択することこそが歴史の趨勢に符合する。《人民日報》の記事は「この改正は党と国家領導幹部の退職制度を変えるものでなければ、領導幹部の職務終身制を意味するものでもない」と弁明している。
・党機関紙が公に“終身制への回帰”を否定しているだけまだましだという見方もできるが、改革開放以降、終身制を廃棄するためのアプローチの一つとして国家主席の職務に任期を明確に定め、それを憲法で制定し、そんな憲法に対して、今回任期を撤廃(変更あるいは延長というならまだしも)するというのだから、1982年以前の“終身制”時代に実質的に回帰しているのではないかという見方はまったく合理的であり、それに対する不安や懸念もまったく健全で自然なものであると私は思う。
・そんな見方・不安・懸念にどう応え、払拭していくかは、2期目に突入する習近平政権の今後の実質的行動・政策次第であると、現段階では言えよう。
http://diamond.jp/articles/-/163120

第一の記事で、 『普通なら三中全会は秋に開かれ経済政策をはじめとする新政権の政策の方向性、改革の方向性を打ち出すものだ。こんなイレギュラーな三中全会は改革開放40年来、初めてだ。本来2月に開催される二中全会が前倒しされて1月に開かれたのも驚きだったが、二中全会で決められなかった人事と“重大政治機構改革”を決めるために三中全会が全国人民代表大会(全人代)前に開催されるということらしい・・・憲法修正案での議論が白熱したために二中全会では政府新人事が決められなかった。おそらくは、政府新人事も習近平の人事案にかなりの抵抗があったはずだ』、というのには驚いた。一般の新聞を読んでいると、粛々と進んでいるように思っていたが、内実はかなり激しいバトルがあって、異例のスケジュールを採らざるを得なくなったようだ。 『これまで反習近平派は、習近平の独裁化路線が憲法に矛盾するとして、憲法を根拠に批判し、憲政主義を守れ、法治に戻れと主張していたのだが、憲法の方を習近平路線に変えてしまった。今後は、法治を唱えるほどに、独裁を肯定するという矛盾に民主派、新自由派人士は、苦しむことになった』、 『独裁を肯定した文革憲法から市民権利擁護の82年憲法を作った父親の思いを、息子の習近平は踏みにじったということになる』、など習近平の政治力はやはり端倪すべからざるものがありそうだ。 『中国が文革以来の政治の嵐の時代に突入しつつある、という認識は多くの人が持っているようである。そして、隣国の嵐は、おそらく日本を含む世界を巻き込むことになる』、そんな嵐に日本を巻き込まないで欲しいが、現実にはそうもいっていられないのは困ったことだ。
第二の記事で、あの端正な顔付きの王毅外相が、 『「精日」問題、つまり精神的日本人、中国人の精神の日本人化問題で、激怒した』、というのには驚いたが、 『知日派外交官から転向』、するためにはこうしたポーズも必要なのだろう。 『“精日”によって中華民族の尊厳が傷つけられた、のではなく、中国人をやめてしまいたいと多くの人民が思うような状況を作り出した今の政権に“偉大なる中華民族”を指導する力や正統性の方に問題があるのだ。いちいち、何でも日本のせいにしなければ、その正統性が維持できない政権ならば、いずれその脆弱性は表面化すると、私は見ている』、というのはその通りだ。
第三の記事で、 『今回の改正をめぐっては拙速感や“ブラックボックス”感が否めない。改正案が公表されてから“投票”するまでたった半月の時間しか設けられなかった』、 『鄧小平が残した遺産としての“集団的指導体制”が、その後の中国共産党政治の一つの特徴であり、発展の方向性になっていった。 そこには、政治にルールを設ける、設ける過程で透明性と公平性を伴った議論を党内外で行う、その過程や結果を公開し、明文化する、指導者の行動範囲や任期を明確にし、かつそれを憲法で定める、憲法を改正する際には党内外で広範に、オープンに、時間をかけて審議するといった規範や精神が付随しているのは言うまでもない』、という鄧小平が残した遺産を打ち壊すには、考える時間をたった半月にせざるを得なかったというのは、私見ではあるが、盤石に見える習近平政権も意外に脆いのかも知れない。
タグ:中国国内政治 (その5)(習近平独裁を裏付ける「新憲法」を読み解く、王毅外相が「精日は中国人のクズ」と激怒した訳、習近平は国家主席「終身制回帰」への懸念や不安にどう応えるか) 福島 香織 日経ビジネスオンライン 「習近平独裁を裏付ける「新憲法」を読み解く 任期制限撤廃、「粛清」の布石着々、最後の暗闘の行方は…」 三中全会 こんなイレギュラーな三中全会は改革開放40年来、初めてだ 国家主席任期制限の撤廃 国家監察委員会に、国家行政機関、司法機関と並ぶ強い独立的権限が与えられた 「大部制度」で官僚大粛清へ? 「王毅外相が「精日は中国人のクズ」と激怒した訳 「精神的日本人」の増加に焦る習近平“終身”政権」 王毅外相 、「精日」問題、つまり精神的日本人、中国人の精神の日本人化問題で、激怒したことであった 「そいつは中国人のクズだ!」 知日派外交官から転向 “精日”の精神構造については、すでにいろいろな分析が出ているのだが、単なる親日、日本好きというだけでなく、中国、特に共産党に対する嫌悪が背景にある 加藤嘉一 ダイヤモンド・オンライン 「習近平は国家主席「終身制回帰」への懸念や不安にどう応えるか」 今回の改正をめぐっては拙速感や“ブラックボックス”感が否めない。改正案が公表されてから“投票”するまでたった半月の時間しか設けられなかった 鄧小平が残した遺産としての“集団的指導体制”が、その後の中国共産党政治の一つの特徴であり、発展の方向性になっていった。 そこには、政治にルールを設ける、設ける過程で透明性と公平性を伴った議論を党内外で行う、その過程や結果を公開し、明文化する、指導者の行動範囲や任期を明確にし、かつそれを憲法で定める、憲法を改正する際には党内外で広範に、オープンに、時間をかけて審議するといった規範や精神が付随しているのは言うまでもない 1982年以前の“終身制”時代に実質的に回帰しているのではないかという見方はまったく合理的であり、それに対する不安や懸念もまったく健全で自然なものであると私は思う
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