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鉄道(その3)(「鉄道世界一」は日本人の思い込みにすぎない、世界初「水素エネルギー列車」は成功するのか 独で運行開始へ、川重が新幹線「N700S」開発から外された事情 JR東海との縁が切れた「あの一件」が尾を引く) [産業動向]

鉄道については、2月12日に取上げた。今日は、(その3)(「鉄道世界一」は日本人の思い込みにすぎない、世界初「水素エネルギー列車」は成功するのか 独で運行開始へ、川重が新幹線「N700S」開発から外された事情 JR東海との縁が切れた「あの一件」が尾を引く)である。

先ずは、 交通技術ライターの川辺 謙一氏が2月16日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「鉄道世界一」は日本人の思い込みにすぎない イメージと現実のキャップが弊害をもたらす」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・鉄道は、人や物を運ぶ交通機関の一種にすぎない。ところが日本では、どうも交通機関の域を超えた特殊な存在であり、実際よりも過大に評価されたり、期待されているところがあるようだ。 筆者は職業柄、常々そう感じてきた。10年以上にわたり鉄道関連の現場やそこで働く当事者を取材した結果、一般の人々が鉄道に対して抱くイメージと、筆者が見てきた鉄道の現実との間に大きなギャップがあると感じたからだ。
・なぜこのようなギャップが生じたのだろうか。筆者はその理由を検証し、次のような仮説を立てた。 「日本人は、誰もが多かれ少なかれ鉄道が好き」 こう書くと、当然「私は鉄道ファンではない」という人がいるだろう。ただ、列車内で駅弁を食べるのが好きな人や、鉄道を通して修学旅行や出張、冠婚葬祭などの思い出を語れる人なら大勢いるはずだ。また、日本では、規模の大小問わずどこの書店でもたいてい鉄道関連の書籍や雑誌が売られている。今ご覧になっている東洋経済オンラインの6つのカテゴリーの1つに鉄道があるし、朝日新聞などの全国紙が鉄道に関する記事を連載している。このような状況を海外の人が見れば、日本人は鉄道が好きだと思うのではないだろうか。
▽日本人が鉄道を好きな理由とは
・ではなぜ日本人は鉄道が好きになったのか。それは、次の2つの価値観が、日本人の気持ちを高め、人々に夢を与えるものとして長らく残ってきたからではないかと筆者は考えた。 Ⓐ日本の鉄道技術は世界一である Ⓑ鉄道ができると暮らしが豊かになる
・ⒶはⓍ「過去の成功体験」によるものだ。日本では、今から半世紀以上前に東海道新幹線が開業して、鉄道で世界初の時速200km超での営業運転が実現し、のちに高速鉄道が世界に広がるきっかけをつくった。それゆえ日本では、自国の鉄道が「世界一」であるという価値観が根付き、残ったと考えられる。それまで「世界一」と呼べるものが、日本にほとんどなかったからだ。
・ⒷはⓎ「鉄道万能主義」が通用した時代の名残だ。2016年12月29日付拙稿「東京で道路よりも鉄道が発達した3つの理由」でも触れたように、日本では、馬車などの車両交通が発達しないまま、明治時代に入って急に鉄道の時代を迎えたので、鉄道こそが近代交通であると考えられ、鉄道偏重の交通政策がとられた。また、道路整備の重要性は1950年代まで十分に認識されず、自動車の発達が欧米よりも大幅に遅れた。それゆえ、1922年に鉄道敷設法が改正され、人口密度が低い地方にも鉄道網を広げることが決まると、鉄道が地方のあらゆる社会問題を解決してくれる救世主と考えられ、「鉄道万能主義」が長らく語られることになった。道路網が貧弱だった時代に鉄道が延びると、その沿線地域の交通事情が大きく改善され、暮らしが急に便利になったからだ。
・ところが今は、ⒶⒷの価値観は通用しない。 まずⒶの「世界一」という価値観は、今となっては明確な根拠がない。たとえば「新幹線は世界一」という人がいるが、現在は新幹線よりも営業速度が速い鉄道が海外に存在する。安全性が高いと言われるが、多額の投資をして線路を立体交差化し、事故が発生しやすい踏切をなくし、外部から人などが入りにくい構造にすれば、それは当たり前のことだ。そもそも新幹線という輸送システムは、「ハイテク」のイメージがあるが、実際は海外で開発された「ローテク」を組み合わせて完成度を高めたものだ。在来線とは独立した鉄道のハイウェイを新設した点はユニークであるが、技術的な先進性はほとんどない。
▽輸送力維持の陰に労働者の負担
・また、日本の鉄道には、世界共通の物差しで「世界一」だと定量的に評価できるものが、年間利用者数が極端に多いことを除けばほとんどない。もちろん、時間の正確さが際立っていることはたしかであるが、鉄道業界では「定時運行」の定義が統一されていないため、航空業界の定時運行率のような世界共通の物差しで評価できない。また、時間の正確さの背景には、線路などの施設が貧弱で、列車を高密度、かつできるだけ時間通りに走らせないと十分かつ安定した輸送力が得られないという現実があるし、そのために鉄道で働く労働者の負担が大きくなっているというネガティブな面があるので、世界に誇れるとは言いがたい。そもそも日本は鉄道技術をイギリスなどから学んだ国なので、先駆者を差し置いて自ら「世界一」と主張するのは違和感がある。
・Ⓑの「暮らしが豊かになる」は、今となっては実感しにくくなった。近年は鉄道の延伸や新規開業がほとんどなく、鉄道が地域を変える機会も減ったからだ。そのいっぽうで、自動車や航空という他交通の発達や、人口減少によって需要が低下した鉄道をいかに維持するかが、さまざまな地域で課題になっている。
・いっぽう、先述した「鉄道万能主義」は半世紀前から批判されている。かつて政府に対して影響力を持つ私設シンクタンクだった産業計画会議は、1968年に「国鉄は日本輸送公社に脱皮せよ」という勧告をしており、そのなかで「鉄道万能」という考え方を繰り返し批判し、国民の的外れな期待が国鉄を苦しめていると述べている。
・このようにⒶⒷは、鉄道の現状に合致しない価値観になっているのに、今なお根強く残り、多くの人が信じている。先述した鉄道のイメージと現実のギャップがあるのは、このためであろう。また「日本人は、誰もが多かれ少なかれ鉄道が好き」という仮説が正しいとするならば、その「好き」という感情ゆえに、鉄道の現実を客観的かつ冷静に把握することが難しくなっていると考えられる。
・こうした状況は、人々が鉄道に過剰な期待をする要因になり、鉄道そのものを苦しめる要因にもなり得る。鉄道の維持や海外展開の妨げになり得るし、日本の鉄道が今後も発展し続ける上でも障壁となるだろう。  鉄道の維持は、近年難しくなっている。日本では1990年代から生産年齢人口(15〜64歳)が減少し続けており、鉄道を利用する人だけでなく、それを支える労働者も減っているからだ。
・鉄道の海外展開、つまり日本の鉄道システムを海外に売り込むことは、アベノミクスの成長戦略の1つにもなっているが、実際は海外で苦戦している。それは、日本の鉄道がきわめて特殊であり、そこで磨き上げられた技術やノウハウを求める国が多いとは言えないからだ。
▽日本の鉄道はすでに苦境に陥っている
・こうしたことが正しく理解されていないと、日本の鉄道はいずれ苦境に陥る。いや、もう陥っている。ダイヤ改正のたびに列車の減車・減便の話題を聞く機会が増え、北海道・四国・九州などで鉄道の維持が難しくなった現状を見れば、日本の鉄道はすでに「冬」の時代に入っていると言える。海外に活路を見いだすにしても、そこには規格のちがいという壁が立ちはだかっている。
・筆者は、以上のことを拙著『日本の鉄道は世界で戦えるか−国際比較で見えてくる理想と現実』にまとめた。本書では、先述した認識のギャップの要因を検証するだけでなく、主要5カ国(日英仏独米)の都市鉄道や高速鉄道などをくらべることで、日本の鉄道の特殊性や立ち位置を明らかにした。その上で日本の鉄道ならではの「強み」を分析し、それが海外の鉄道の発展に貢献できるのではないかと記した。
・ここまで述べたことは、日本における一般論とは異なる部分があるので、多くの人に受け入れていただくのは難しいかもしれない。ただ、先述した認識のギャップが鉄道を苦しめている現実を知っていただくことが、今後の鉄道のあり方について冷静に議論するきっかけになればと願う。
http://toyokeizai.net/articles/-/208341

次に、ジャーナリストの佐藤 栄介氏が2月28日付け東洋経済オンラインに寄稿した「世界初「水素エネルギー列車」は成功するのか 独で運行開始へ、トヨタFCVとコンセプト同じ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・トヨタ自動車は約3年前、世界初のセダン型FCV(燃料電池車)を発売した。名称「MIRAI(ミライ)」といえば、鉄道ファンでもピンとくるだろう。 そして、トヨタは「FCVこそ究極のエコカー」と本命視し、2020年をメドにその次期型モデルを発売するというニュースが先日、話題となった。FCVとは、水素と酸素を化学反応させて発電する燃料電池を搭載した車だ。その発生させた電気によってモーターを回転させ、走行する。つまり、ガソリンの代わりに水素をタンクに充填し、エネルギーとする。
・これと同じコンセプトの列車が、2018年12月ごろにドイツで運行を開始する。フランスのアルストム社が製造した名称「コラディアiLINT(アイリント)」で、世界初の水素をエネルギーとした燃料電池列車が誕生する。昨年11月に14編成の導入が公式発表され、そのうち2編成が今年末に運行開始する。最高時速140km、水素を満タンに充填し、航続距離は1000km。現在、ドイツ、ザルツギッターで試験走行が続けられる。
・エネルギーとなる水素は、利用時に二酸化炭素(CO2)を排出せず、世界規模で次世代エネルギーとして注目されている。日本も、水素をエネルギーとする開発を国策として進めている。鉄道ではすでに電車が主流であり、ある程度のエコは実現できているが、アルストムには、この列車を世界中の非電化区間を走る「本命のエコ列車」としたい野望がある。
▽日立製作所の示す課題
・日本のエコ列車といえば、蓄電池電車がピンとくる。JR九州が、2016年10月に運行開始した愛称「DENCHA(デンチャ)」。交流電化用としては世界初となる蓄電池電車で、同列車をカスタマイズした「ACCUM(アキュム)」も、2017年3月からJR東日本が奥羽本線と男鹿線で運行開始した。車両メーカーは、日立製作所である。
・同社鉄道ビジネスユニットCOOの正井健太郎氏は、「蓄電池電車の開発が進んだのは電池自体の性能が向上したことが要因。環境配慮の意識は国内外問わず高まり、(同列車は)海外の市場からも関心が高い」と話す。そして、燃料電池列車の開発に関して次のように続ける。 「アルストムの水素エネルギー列車は、トヨタ自動車のFCVと同じコンセプト。世界規模で水素をエネルギー源とする利用が年々積極的になっている印象だが、弊社の鉄道部門としては、開発・製造のための初期設備に多額の投資も必要となり、まだこれからの段階」
・日立の蓄電池電車の充電方法は主に2つある。電化区間を走行時、架線からパンタグラフを通じて行う。そして、回生ブレーキを採用し、非電化区間でもブレーキ作動時に充電できる。設計最高は時速120km、フル充電で、テスト走行時のデータだが航続距離は約90kmだ。
・アルストムの「コラディアiLINT」は、基本的に非電化区間だけでの運行を予定する。車両の屋根上にパンタグラフはない。代わりに、水素タンク、燃料電池を各1つ装備し、1編成(2両)で水素は満タンで約180kgが充填できる。列車が走れば自然に酸素は取りこまれ、そして、燃料電池で水素と酸素が混合することで発電し、必要な電気を生成する。また、「DENCHA」「ACCUM」と同様、床下に蓄電用のリチイウムイオン電池も備える。発生した電力が走行に即座には不要と判断された場合、自動蓄電される電力供給のマネージメントシステムも搭載する。
・正井COOは燃料電池列車に関し、ひとつの課題をあげる。 「燃料である水素を、どう製造するかが鍵。水素は利用時にCO2を排出しない有益性の高いエネルギー。だが、その製造過程でCO2を排出するケースがある。燃料電池列車を開発するならば、CO2を一切排出しない“クリーンな水素”を製造する視点を持つことが課題のひとつ」
▽ドイツが燃料電池列車を導入する理由
・なぜ、アルストムはドイツで世界初となる燃料電池列車の導入を実現できたのか。同ドイツ支社で列車の入札マネージャーを務めるアンドレアス・フリクセン氏は、ドイツの非電化区間の長さを理由にあげる。 「ドイツには約4万kmの線路が敷かれ、そのうち電化区間は49%にすぎない。そして数年前まで、残り51%の電化のため毎年2億3千万ユーロ(約310億円)もの投資を行っていた。弊社の試算では、そのペースではすべてを電化し終えるのに95年かかる。さらに、非電化の地方路線は乗客も少なく、投資自体が理にかなっていない」
・アルストムは非電化区間の電化を進めるよりも、そこで燃料電池列車を走らせたほうが効率的と判断し、数年前から開発を始めた。その過程で、低炭素社会は完全なトレンドとなり、ディーゼル列車の価格も上昇、加えて、鉄道の騒音規制の厳格化も開発をあと押しした。さらに、フリクセン氏は、日立の正井COOも話した“クリーンな水素”についても説明する。
・「今年末の運行開始時には、天然ガス改質の水素を利用する。これは“クリーンな水素”ではない。よって弊社のディーゼル列車と比較し、CO2の削減量は40%にとどまる。将来的に“クリーンな水素”の利用が目標で、これにより、1編成のコラディアiLINTだけで年間700トンものCO2が削減でき、これは自動車の年間CO2排出量の400台分に相当する」
・日立、アルストムの2人が話す“クリーンな水素”とは、いったい何なのか。簡単に説明すれば、水素の利用時だけでなく、その製造過程でもCO2を排出しない水素を指す。 ヨーロッパには、水素を2つに分ける明確な基準がある。天然ガス改質によって水素を製造する時にはCO2が排出される。その排出量と比較し、製造時のCO2排出量が60%以上低いものを「グリーン水素」、それ以外を「グレー水素」と“色”で分けて呼ぶ。ざっくりとだが、「クリーンな水素=グリーン水素」と定義できる。
・そして、この「グリーン水素」を製造するためには、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを製造源とする必要がある。当然、風力発電や太陽光パネルは、その設備投資に莫大なコストがかかる。日立の正井COOが話す「開発・製造のための初期設備に多額の投資が必要」というのは、「グリーン水素の製造も考慮すれば、燃料電池列車の開発は大規模な投資事業になる」という意味だ。
・アルストムも、今年末の運行開始時に「グリーン水素」の利用は実現できない。フリクセン氏は、水素の製造計画について次のように話した。 「初期段階として水素ステーションで電気分解し、水素を製造する。そして、プロジェクトの次の段階で風力発電からの製造を行う予定にある」
▽日本に燃料電池列車は走るか
・日本でも、鉄道向けの燃料電池の開発は進められている。鉄道総合技術研究所が2001年から開始し、2005年に試作品が完成。2006年4月に同研究所のR291系列車に搭載し、構内試験線(長さ650m)で初の試験走行を行った。列車内のフロア上部に燃料電池、床下に水素タンク4本を搭載。結果、燃料電池から発生した電気だけで、重量33トンの車両をモーター2基で駆動させることに成功した。その後も試験は不定期で続けられ、昨年8月には最高時速45kmで走行した。 その実用化はいつかが興味深いが、同研究所は「弊所の役割は技術的な検証を行うこと。営業などの判断は各鉄道事業者による」と話す。 
・そして、燃料電池列車のメリットはCO2削減以外にもある。地上の電力供給設備の負担を軽減し、さらに、そのメンテナンスコストも減少できるのだ。メンテナンスコストの総額は、JR東日本の運行費用の20~30%に相当するともいわれる。地上の電力供給設備は、すでに60年以上も使用され続けている。設備更新のタイミングに合わせて燃料電池車の導入を検討するという選択も考えられる。
・フリクセン氏は「まずはドイツで実績をつくる。その後、他のヨーロッパ諸国、さらに、アジア太平洋地区への導入も目指したい」と締めくくった。2018年末にドイツで運行開始する世界初の燃料電池列車。そして、イギリスでも導入に向けて同列車のテスト走行が開始されるという発表があった。その成否は、鉄道が新たな方向性を示せるかどうかの試金石といっても過言ではない。
http://toyokeizai.net/articles/-/209735

第三に、3月12日付け東洋経済オンライン「川重が新幹線「N700S」開発から外された事情 JR東海との縁が切れた「あの一件」が尾を引く」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・大勢の報道陣が待ち構える中、真新しい列車が姿を現した。3月10日、JR東海(東海旅客鉄道)の新型新幹線車両「N700S」が静岡県浜松市にある同社の工場で公開された。 現在主力のN700系とN700S、名前は似ているが、「先頭形状、客室設備、床下機器を新設計したフルモデルチェンジ車両。東海道新幹線の新たな時代の象徴となる」と、開発の責任者である新幹線鉄道事業本部の上野雅之副本部長が誇らしげに語る。
・16両編成を基本とするが、駆動システムなどの床下機器を小型化、最適配置することで12両、8両などさまざまな長さの編成に容易に対応できるのが特長だ。安全面についても、車両の状態監視機能を高め、故障を予兆して事前に調査・修繕を行うことで故障防止につなげることができるという。
・今回お目見えしたN700Sは営業車両ではなく、新技術の確認など量産化に向けたさまざまな試験を行う車両「確認試験車」である。ここで得たノウハウが量産車の製造に生かされる。つまりその製造に参加しているということは、その後に大量の営業車両を製造する権利を得ることを意味する。営業運行開始を2020年度に控えたN700Sは、メーカーにとっては久々の一大商機だ。
▽つねにJR東海を支えてきた
・N700Sを製造したのは、日立製作所と、JR東海の子会社・日本車輌製造である。また、小型軽量化に成功した駆動システムの開発には東芝、三菱電機、日立、富士電機が参加。各社とも新幹線の技術を語るうえで欠かせないメーカーだ。
・その裏で、あるメーカーの名前がひっそりと消えた。川崎重工業。日立と並ぶ国内大手鉄道車両メーカーであり、0系を端緒として数多くの新幹線車両開発にかかわってきた実績を持つ。 川重とJR東海とのかかわりは深い。300系、700系、そしてN700系。JR東海の歴代の新幹線車両を日立や日車と共同で量産先行車の段階から製造してきた。さらに時速443km運転を達成した「300X」という高速試験車両や超電導リニア試験車両の製造も行っている。JR東海が「新幹線ファミリー」と位置づける台湾新幹線(台湾高速鉄道)にも川重製の車両が採用されている。川重はJR東海にとって不可欠なメーカーだったはずだ。それなのにN700S確認試験車の製造陣から外れたのはなぜだろう。
・「あのとき川重との縁が切れた」――。鉄道業界人の多くがそう指摘する出来事が2004年に起きた。川重が中国に新幹線タイプの列車9編成を供給し、さらにその製造技術を提供すると発表したのだ。中国に供給するのは東北新幹線に使われるE2系をベースとした車両。E2系は当時のJR東日本(東日本旅客鉄道)における主力車両だった。
・1990年代後半、中国は自主開発による鉄道高速化に着手していたが成果は芳しくなかった。一方で日本は1993年に民間主体による韓国への新幹線売り込みに失敗し、次の売り込み先を探していた。そこで日本は中国に狙いを定めた。1998年には竹下登・元首相を筆頭にJR各社、三菱商事、川重らのトップをメンバーとした大使節団が中国に乗り込み、官民一体で新幹線の大々的なアピールを行った。
▽“同床異夢”の中国に川重が技術移転
・もっとも、中国の思惑は日本とは少し違っていた。欲しいのは新幹線の車両そのものではなく、車両の製造技術だった。まず新幹線車両を輸入して走らせる。運行ノウハウを吸収した後で国内生産、さらにその先には海外輸出を見据えていた。
・当時から中国への技術移転に対する懸念は日本の関係者の間で広がっていた。「輸出だけなら問題ないが、造り方は教えないほうがいい」。JR東海のある幹部は当時、川重にこう忠告したという。同時期に工事が進んでいた台湾の高速鉄道はすべての車両を日本から輸入すると決めている。一方で、中国が日本の技術を使って国内生産を始めると、中国への輸出機会が失われる。また、中国が海外展開を始めると、新幹線のライバルになりかねない。
・だが、川重は忠告に耳を貸さなかった。技術供与自体が収益を得られるビジネスであり、契約総額1400億円、川重分だけでも800億円という大型案件は魅力的だった。あるいは、中国がフランスやドイツからも高速鉄道の技術を取り入れる中で、川重は官民一体プロジェクトの中核メンバーとして遅れを取るわけにはいかなかったのかもしれない。
・関係者の悪い予感は契約締結から7年後の2011年に的中した。中国は川重から技術供与を受けて開発したCRH2をベースに、より高速化したCRH380Aという車両を開発。そこに使われている技術を「独自技術」として、米国など複数の国で特許出願したのだ。また、2015年には中国は日本を退け、インドネシアの高速鉄道受注に成功した。
・技術移転の問題を境に、JR東海は川重との取引を徐々に縮小する。N700系先行試作車の開発は2003年から始まっており川重も製造メンバーに加わっていたため、N700系量産車を失注するということはなかったが、N700系における川重のシェアは300系や700系と比べ大きく減った。 2009年度にJR東海が発注したN700系の車両は日立80両、日車160両に対し、川重はわずか16両。これを最後に川重によるJR東海向けN700系の製造は途絶えた。JR東海は2012年からN700系を発展させたN700Aを導入している。製造したのは日立と日車の2社だ。
▽JR東海向けの減少を他社向けでカバー
・ただし川重にとって売り上げ面の痛手は小さかった。JR東海向けN700系の製造が減った代わりにJR西日本(西日本旅客鉄道)向けN700系の製造が増えたからだ。さらに2011年の九州新幹線(鹿児島ルート)全線開通を控え、JR九州(九州旅客鉄道)によるN700系の導入も決まった。製造現場ではN700系がひっきりなしに造られていたわけだ。
・現在、川重の新幹線ビジネスの軸足はJR東日本に移っている。東北新幹線の主力車両E5系は川重と日立が製造を担当し、秋田新幹線車両E6系の内外装デザインでは工業デザイナー・奧山清行氏と組んだ川重の提案が採用されている。また、JR東日本とJR西日本が導入している北陸新幹線E7系/W7系の主要製造メンバーでもある。
・では、川重は今後も安泰なのだろうか。2016年度末時点における日本の新幹線の保有車両数を見てみよう。JR北海道(北海道旅客鉄道)40両、JR東日本1370両、JR東海2128両、JR西日本1123両、JR九州142両で計4803両。新幹線の車両は十数年程度で退役するので、新型車両への置き換えが車両メーカーにとってのビジネスチャンスとなる。
・しかし、川重はN700Sの開発メンバーから外れたこともあり、JR東海向けのN700S量産車を製造できるチャンスは少なそうだ。また、JR西日本の新幹線のうち、山陽新幹線向けは991両ある。そして、JR西日本も昨年度から山陽新幹線にN700Aの導入を開始しており、メーカーは、やはり日立と日車だ。JR西日本はN700Sも近い将来導入するだろうが、はたして川重は受注できるだろうか。日本の新幹線の全体の3分の2を占める東海道・山陽新幹線の更新需要を物にできないと川重にはつらい。
・川重が強みを持つはずのJR東日本向けについても安閑としてはいられない。JR東日本は、これまで通勤車両を中心に製造していた子会社の総合車両製作所にもE7系を発注した。JR東海は子会社の日車に数多くの新幹線車両を造らせているが、もしJR東日本も同様の戦略を考えているとしたら、今後はJR東日本向け新幹線でも川重のシェアが減るという状況になりかねない。
▽川重を国内外で待ち受ける茨の道
・英国の高速鉄道プロジェクトを手中にして大きく売り上げを伸ばした日立同様、川重も海外に高速鉄道を売り込みたい考えだ。とりわけ、インド高速鉄道プロジェクトは獲得したい案件である。現状ではJR東日本の東北新幹線E5系をベースにした車両が使われる想定になっており、川重の商機は十分ありそうだ。ただ、インドも車両の現地生産を希望しており、将来の車両輸出も念頭にあるはずだ。川重にとって中国の二の舞いは避けたいところだ。 
・また、川重は独自の海外向け高速車両「efSET」を開発し海外展開をもくろむ。その動きに水を差したのが、昨年12月に起きた東海道・山陽新幹線「のぞみ34号」のトラブルだ。走行中のN700系台車に亀裂が発生。原因はあろうことか川重の製造ミスだった。新幹線の安全神話を大きく揺るがしたことは、メーカーとしては致命的だ(「『のぞみ』台車亀裂、2つの原因は"人災"だった」)。
・JR西日本の平野賀久副社長が「川重が引き続き重要なパートナーであることは間違いない」と言うように、国内での信頼は保たれるかもしれない。 しかし、海外ではどうか。韓国高速鉄道の受注で日本が敗れたのは、同時期にデビューした300系「のぞみ」の運行時にトラブルが相次いだことで、競争相手の欧州勢が「新幹線の安全性に疑問あり」と、ネガティブキャンペーンを張ったことも理由の一つとされている。高速鉄道の売り込みに際し、中国や欧州のライバル勢はこうした「敵失」を有効活用する。国内で失地回復ができなければ、海外に活路を開くこともままならない。川重にとっては茨の道が続きそうだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/211939

第一の記事で、 『そもそも新幹線という輸送システムは、「ハイテク」のイメージがあるが、実際は海外で開発された「ローテク」を組み合わせて完成度を高めたものだ』、というのはその通りだ。 『輸送力維持の陰に労働者の負担』、については、「定時運行」にこだわる余り、JR西日本が起こした福知山線脱線事故という悲惨な例が思い出される。 『海外に活路を見いだすにしても、そこには規格のちがいという壁が立ちはだかっている』、いずれにしても、アベノミクスに乗っかった浮ついた議論ではなく、筆者が主張する冷静な議論が求められているのだろう。
第二の記事で、 『ヨーロッパには、水素を2つに分ける明確な基準がある。天然ガス改質によって水素を製造する時にはCO2が排出される。その排出量と比較し、製造時のCO2排出量が60%以上低いものを「グリーン水素」、それ以外を「グレー水素」と“色”で分けて呼ぶ。ざっくりとだが、「クリーンな水素=グリーン水素」と定義できる。 そして、この「グリーン水素」を製造するためには、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを製造源とする必要がある』、日本もそろそろこうした基準作りをすべき段階なのかも知れない。
第三の記事で、 『“同床異夢”の中国に川重が技術移転』、にあるように、新幹線技術を中国に渡したのは川重だったようだ。この時に、JR東海、日本政府はどういう立場を取ったかが、不明なので、なんとも言えないが、仮にこれらが反対したにも拘らず、川重が契約欲しさに突っ走ったというのであれば、飛んでもない話だ。 『「のぞみ34号」のトラブルだ。走行中のN700系台車に亀裂が発生。原因はあろうことか川重の製造ミスだった』、という問題まで引き起こしているとは、川重は一体、どうしてしまったのだろう。
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