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格差問題(その3)(「階級社会」に突入した日本 格差を拡大させた3つの仮説 【対談】、企業や富裕層が金利ゼロでも繁栄するのは「残り99%」が貧困化しているからだ) [経済政策]

格差問題については、昨年6月4日に取上げた。今日は、(その3)(「階級社会」に突入した日本 格差を拡大させた3つの仮説 【対談】、企業や富裕層が金利ゼロでも繁栄するのは「残り99%」が貧困化しているからだ)である。

先ずは、4月4日付けダイヤモンド・オンラインで橋本健二(早稲田大学人間科学学術院教授)×河野龍太郎(BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミストが対談した「「階級社会」に突入した日本、格差を拡大させた3つの仮説 【対談】橋本健二(早稲田大学人間科学学術院教授)×河野龍太郎(BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミスト)」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「週刊ダイヤモンド」2018年4月7日号の第1特集は「1億総転落 新・階級社会」。7万部のベストセラーとなっている『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)の著者である橋本健二・早稲田大学教授と気鋭のエコノミスト、河野龍太郎氏に、日本に階級社会が生まれた背景と階級社会がもたらす「不都合な未来」について徹底議論してもらった。「超人手不足」「就職氷河期世代」「日本人の横並び意識」が格差拡大をどう助長しているのか、社会学と経済学のアプローチで解説する。
▽【前提】格差拡大の背景は? 「新・階級社会」の誕生
・河野 現在は完全雇用なのに、格差問題がテーマの『新・日本の階級社会』がビジネスマンの多い東京・丸の内界隈で売れているのは象徴的なことだと思いますね。 完全雇用で人手不足になった後も安倍政権が1億総活躍とか人づくり革命とか言い続けているのも、このまま働いても豊かになれないと思っている人が増えているのが背景にあるのではないかと。 橋本先生は、格差拡大のスタートラインは、どこだという認識ですか。
・橋本 起点は高度経済成長の終焉です。賃金の規模間格差、学歴間格差の拡大から始まり、1980年代からあらゆる格差が拡大してゆく。バブル後半になると、初めは正社員も非正規労働者も求人倍率が上がっていたのですが、正社員が上がらなくなって、非正規ばかりが上がるようになりました。 87年にフリーターという言葉がはやり、新卒の若者たちが大量に流れ込みました。フリーター第1世代は50歳を超え、氷河期世代も40歳を超えてきたのが今です。
・河野 80年代以降の日本で格差拡大が始まった時期には、グローバルでも格差が拡大していました。 高度成長が終わった段階で、世界各国はその高い成長が続くという幻想の下で、財政政策や金融政策を積極化しました。その結果、70年代は高インフレとなりました。
・財政・金融政策では成長を高めることはできないといって、規制緩和を進めたのが、米国のレーガン大統領、英国のサッチャー首相、そして日本の中曽根康弘首相らです。私自身は経済の実力である潜在成長率を高めるためには、規制を取り除いて、ある程度、経済を自由にするのはいいことだと思っています。ただし、彼らは同時に所得分配を弱体化させました。
・規制緩和をすることで潜在成長率(景気循環の影響を除いた経済成長率)を高めることはできますが、経済活動を自由にすれば格差は広がるので、自由化を進めた上で、所得分配で対応すべきだったところを逆にその機能を弱めてしまった。実際、どこの国も80年代以降、潜在成長率は上がらず経済格差だけが拡大しました。
・橋本 今から考えると最悪のタイミングだったと思います。ちょうど格差が広がったころに、新卒も含めて非正規雇用が拡大。そこで所得分配機能を弱めてしまった。その後、格差の拡大に拍車を掛けることになる。  非正規は雇用の調整弁といわれてきましたが、近年の動きを見ると、景気変動と非正規労働者の増減に相関はないですね。雇用の調整弁ではなくて、企業が収益を上げるために、構造的に組み込まれた要素になっていると思います。
▽【仮説(1)】 超人手不足なのに賃金が上がらない
・河野 実は、17年はもう少し賃金が上がると思っていたのです。非正規の時間当たり賃金は2%台までは上がりましたが、その後、伸び悩んでいます。 完全雇用なのに賃金が上がらない理由の一つは、高齢者や主婦の労働参加が高まり弾力的な労働供給が増えているからです。そうはいっても団塊世代が70歳になり始め、健康寿命を考えると労働市場から退出する人が増えると思っていたのですが、なかなか賃金が加速しない。
・昨秋に気が付いたのですが、外国人労働が凄まじく増えていて、この5年間で倍増しているんですね。過去5年で60万人増えて120万人になっている。あらゆるセクターで増えていますし、一番増えている在留資格が留学ビザと技能実習生ですから、低スキル低賃金の労働ですよね。彼らの弾力的な労働供給が増えているから賃金が思ったほどには上がらなかったということです。
・橋本 最近、新しいタイプの非正規、低賃金労働者が増えています。 全体的に所得が低迷しているから、今までだったら子どもが小学校に上がってからパートに出るはずだったお母さんが、幼稚園に入る前からパートに出るとか。65歳を過ぎた人がさらに非正規で働き続けるとかですね。今まであまり労働市場に出てこなかった人たちが参入することで、賃金が上がらなくなっている。 正社員の賃金が上がらないのはどのように説明できますか。
・河野 正規労働と非正規労働の賃金決定のメカニズムはまったく別ものだと思ってます。 非正規労働は労働需給がかなり影響しますが、正規労働は労働需給の影響をあまり受けず、基本的に生産性の上昇率とインフレで規定されています。生産性が上がらない原因には、資本市場からのプレッシャーによる短期主義が影響しているとみています。
・私は、基本的に生産性を規定しているのは人的資本だと思っています。かつての内部労働市場では、時間をかけて人的資本が蓄積されていくから生産性の高い仕事ができた。人的資本の蓄積の機会が少ない非正規雇用が増えただけではなく、正規雇用についても能力主義から成果主義にシフトしている企業も少なくない。
・そして、正規雇用に対しOJT(職場内訓練)やOff-JT(職場外研修)の機会が減ってきている。人的資本が蓄積されないから生産性が高まらず、長期的に賃金が上がらないという悪循環にある。 経営者も従業員もベアは固定費が上がり、終身雇用が持続できなくなるので、経営者が渋いだけでなく、組合も従業員もベアを望んでいない。
・米国で所得格差が拡大した理由として、よくいわれる要因が三つあります。イノベーションとグローバリゼーションと社会規範の変化。どれもつながっていて、ICT(情報通信技術)革命の結果、労働集約的な生産工程だけを新興国に移管することが可能になった。先進国の企業は自分たちが持っていたノウハウと新興国の安い労働力を組み合わせることで、業績を改善させることができるようになったのです。
・イノベーションによってグローバリゼーションが加速したということです。さらに、労働組合がどこの国でも弱体化し同時に、資本市場から企業経営者へ強いプレッシャーが働くようになる。もうかっていても簡単には賃金を上げられない。この結果、国内では経営者を含め生産性の高い高スキルの賃金は上がり、労働集約的な生産工程は海外に出るので、低スキルの賃金が低下する。
・人によっては、これは悪いことではない、という人もいるわけです。労働集約的な組立製造工程を海外へ出して、国内には研究開発とかアフターサービスとか、収益性の高い工程が残っているからと。 でも、先進国では学校を出たばかりの低スキル労働が製造業の工場に吸収され、そこで人的資本を蓄積して賃金が徐々に上がっていくという話だった。
・それが分厚い中間層を生み出していたわけですが、そうした中間的な賃金の仕事がなくなり、結果的に、比較的高い賃金の仕事と比較的安い賃金の仕事が増えている。これは欧米でも日本でも起こっていて、各国の政治が不安定化する原因になっています。
・橋本 非正規の巨大な群れができたときに、最低賃金の保証と所得再分配がないと。人々は将来が不安だからわずかな余剰が出ても貯金するので消費に回らない。今の景気が良いとは思いませんが、消費は低迷したままです。格差拡大が景気の改善を阻む「格差拡大不況」の状況がずっと続いているんじゃないでしょうか。
▽【仮説(2)】 就職氷河期世代が社会のコストになる
・河野 少子高齢化は70年代半ば以降の婚姻率・出生率の低下が原因とばかり考えられていますが、理由はそれだけではない。就職氷河期に当たった団塊ジュニアは、就職が非常に厳しく、非正規になった人が多かった。正社員になれても不況期に就業すると、望んだ職種や企業に勤められないから、すぐに転職して就業期間も短くなり、人的資本の蓄積も進まない。だから所得が増えません。
・その結果、結婚が遅れたり、できなかったりする。ある程度年を取って、所得が増え、経済的に出産が可能になっても、今度は、生物学的な限界もあるので第2子を持つことが難しくなる。結婚した夫婦でも2人の子どもを持てなくなっています。われわれが期待した「第3次ベビーブーム」が起きなかった原因はそこにあるんでしょうね。
▽氷河期世代に正当な賃金が払われるべき
・橋本 そうですね。実は、アンダークラスの主力部隊がこの氷河期世代です。近現代の日本で、初めて貧困であるが故に結婚して家族を構成して子どもを産み育てることができないという、構造的な位置に置かれた人が数百万単位で出現した事実は非常に重いです。
・しかも、上の世代がまだ50歳ですから、あと20年くらい働き続けるかもしれない。その下の世代まで含めると、最終的にはアンダークラスが1000万人を超えると思っています。そのとき、ようやく一番上の人が70歳になり生活保護を受けるようになって、定常状態に達するというのが私が予想する近未来の日本なんです。
・河野 一方で、氷河期世代は今や働き盛り。就業者全体の3割に上るボリュームゾーンです。労働経済学者がフォーカスしているのは、氷河期世代は人的資本の蓄積が十分ではなく、前の世代に比べると賃金が低いことです。 
・橋本 ただ、私はあまり人的資本の話を強調したくはないんです。大学を出たときから人的資本は増えていないかもしれない。だけど、基本的な労働力は持っているわけで、それに対する正当な賃金が払われていない。生活ができる賃金は与えられてしかるべきだし、これらの人々が退職したときに基本的な生活ができるだけの社会保障は与えられるべきですよね。そういう制度が整っていないことが一番大きな問題なのです。
▽【仮説(3)】 日本人の横並び意識が不毛な争いを生む
・河野 ちなみに、先進国では格差は拡大していますが、グローバルではむしろ格差は縮小しています。  結局、生産拠点の新興国への移転でいえば、この30年で一番メリットを受けた国は中国です。30年間で14億人の人口が中国が世界経済に組み込まれた。その過程で、農村にいた人々が豊かな都市に吸収され、中国では所得の格差が縮小してきている。
・今の先進国と新興国の違いって19世紀以降の話なんですね。19世紀に先進国が工業化で発展し始めることで、アジアとの所得格差が生まれた。これが「大いなる分岐」です。90年代くらいから新興国への生産拠点の移転で新興国が豊かになり始めてきたので、「大いなる収斂」が始まりました。
・19世紀以前には国の間の所得格差がないので、ある人が豊かであるかどうかは、「自国におけるどこの階層に属するか」で規定されていた。しかし、この200年くらいは「先進国の出身であるか、途上国の出身であるか」で規定された。
・そして、この調子で新興国が豊かになってくると19世紀以前と同様に、ある人が豊かであるかどうかは「先進国出身であるか、新興国出身であるか」ではなくて、「自国のどの階層に属しているか」によって決まる時代になる可能性があります。つまり、日本人は日本のどの階層に属しているかが決定的になるということです。
・橋本 日本では、同じ階層の中で横並び意識が働き、不毛な競争が起きることになります。 強調したいのが、アンダークラスの上の労働者階級が二つに分裂してきていること。労働者階級の中に比較的高賃金の層と低賃金の層がいる。互いに利害の異なる別々の集団になってきたという認識です。そして、アンダークラスは、人生の一時期だけではなく、恒常的にそこにとどまり続ける存在になっている。アンダークラスには子どもを生めない人も多いので、アンダークラスの子どもがアンダークラスになる構造が確立するのか……。上の階級にいる労働者階級や新中間階級の子どもがアンダークラスに転落し続けてこの規模が維持される可能性が高いと思います。
・河野 働いている人が税金を払い、社会保険料を払うから社会保障制度が成り立ちます。しかし、経済の大きな変化に社会保障制度を始め国のシステムが対応できていません。そのことで、晩婚化や非婚が進み、少子高齢化が助長され、社会保険料や税金を払う人自体が減って、益々、社会制度の持続可能性が低下している。極めて危機的な状況です。
・橋本 今の世代が低賃金で長時間働いて燃え尽きる。次の世代の労働力が出てこない。社会学のアプローチでいうと、「社会の再生産、労働力の再生産の危機」だと思いますね。
http://diamond.jp/articles/-/165884

次に、立命館大教授の高橋伸彰氏が4月17日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「企業や富裕層が金利ゼロでも繁栄するのは「残り99%」が貧困化しているからだ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「金利ゼロ」は資本主義の危機なのか。 確かに、利子を支払えるほど企業が利潤を上げられない状況を金利ゼロが表しているなら、資本主義は危機かもしれない。しかし、少なくとも日本の企業は1990年代後半以降の金利ゼロが続く中でも利益を上げ、内部留保を積み増してきた。 また、富裕層と呼ばれる資産家の金融資産も膨らみ続け、「持てる者」ほどより多くの所得を稼いでいる。
・それでは、なぜ金利ゼロが生じているのか。 簡単に言えば利子を支払えるだけの利潤を上げられる企業が借金をせず、収益は人件費削減などで上げ、利潤は内部留保や株主などへの配当に回してきたからだ。一方で働き手は所得が伸びないうえ、低金利で預貯金の利子所得が激減した。 「金利ゼロ」のもとでも資本主義が“繁栄”しているのは、普通の人々の代償によるものなのだ。
▽投資減らし無借金経営 「アニマルスピリット」失った経営者
・なぜ、このような事態に陥ったのだろうか。 バブル崩壊までの日本企業は、家計の預金を銀行経由で借り入れ、自己資金(キャッシュフロー)を上回る投資を行うことで得た収入を、賃金や利子の形で家計に還元し経済の好循環をリードしてきた。
・しかし、バブルが崩壊して以降は非正規雇用を拡大し、正社員の賃金を抑制して人件費を削ると共に、キャッシュフロー以下に投資を減らして借金返済に奔走するようになった。 一方で利潤を目的としない公的サービスの供給を担う政府が借金をして、事業を拡大し同時に財政赤字を累増させている。
・その結果、日本の企業部門は1998年以降フローベースで資金不足から貯蓄超過に転じ、日本政策投資銀行の中村純一氏(『無借金企業の謎』)によれば実質無借金(有利子負債を上回る現預金を保有)を含めると、日本の上場企業主要5業種(製造業、建設業、不動産業、商業、サービス業)の40%強がいまや「無借金経営」だという。
・経済学史家のハイルブローナーは無借金を誇るような経営者を「現代の地主」にすぎないと喝破する。 ケインズの言う「血気(アニマルスピリット)」をもって不確実な投資に挑むわけでも、またシュンペーターの言う「企業家精神(アントレプレナーシップ)」を発揮して技術革新にチャレンジするわけでもなく、ひたすら人件費を削減して利益を上げ、内部留保の蓄積に血道を上げるような経営者など、経営者としては失格なのだ。  企業が借金を減らしたことで銀行は預金の運用に苦しみ、やむを得ず低い利回りしか期待できない公債を購入するようになった。
・実際、銀行の総資金利回りは全国銀行ベースで2016年度決算では0.91%にまで低下し、人件費などの経費率0.84%を差し引くと、利鞘はわずか0.07%にすぎず、預金に利子を付けるのはほとんど難しい状況に陥っている。 借入金利を上回る利益率を期待して設備投資を行っていたかつての企業と異なり、最初から利益を目的としない政府に家計の預金が回れば金利ゼロになるのは当然である。
・その一方で、企業は積み上げた内部留保を海外への投融資に回して高い利益を上げており、その利益は株式の配当や株価の上昇あるいは高額な経営者報酬という形で富裕層に還元されている。
▽苦しんでいるのは「普通の人びと」  家計の利子所得は激減
・一方で「普通の人びと」はどうか。 ほとんどの個人や家計は、雇用や生活の不安がある中では、長期的には収益が期待できても、価格が変動する株式や投資信託などのリスク資産を避け、元本が保証された金利ゼロの預貯金で資産を運用している。 実際、リスク資産を保有する家計の割合は、日本銀行の調査(『日米家計のリスク資産保有に関する論点整理』)によれば日本で1割程度、アメリカでも15%程度にすぎない。 
・それでも、デフレが続く間は、金利ゼロでも預貯金の価値は減価せず、零細な資産保有者の利益も守られるから、人々は預貯金から離れようとはしなかったのだ。 この結果、家計が得る利子所得は、『国民経済計算』によれば1991年度の37.5兆円をピークに2016年度では6.1兆円に減少している。
・同期間に家計が保有する現預金が511兆円から938兆円に増加していることを考えれば、家計の預金利回りはバブル崩壊後の長期停滞の中で7.3%から0.65%へと10分の1以下に減った計算になる。 企業が生みだす付加価値、つまり売り上げから原材料などの中間投入費を差し引いた価値の中には、人件費や営業利益と並んで借入に対する支払い利息も含まれている。 お金を借りて投資を行い、利益を挙げて利息を払うことは付加価値の創造でもあるからだ。
・この支払い利息の推移を『法人企業統計』で見ると、91年度の34.6兆円から2016年度には6.2兆円に減少している。これが普通の家計が得る利子所得減少の主因である。 借金を減らして無借金を目指す企業経営によって失われた家計の利子所得は、ピーク時との差額として試算すると92年度から2016年度までの累計で650兆円近くに及ぶ。
・このように見てくると、企業の収益機会が枯渇し、資本の増殖が限界に達しているから金利ゼロが生じているわけではない。 企業が借金をせずに利潤を上げ、その利潤を内部留保として積み上げ、再投資に回していないから金利ゼロが生じていることがわかる。
・それだけではない。企業や富裕層は稼いだ利潤や所得から税金を支払うことも巧みに逃れている。 日本の財政が歳出に見合う税収を確保できずに赤字を累増させているのは、高齢化による社会保障費の増加よりも、むしろ持てる企業や富裕層から支払い能力に応じた税金を徴収しない(できない?)からである。
・このようにゼロ金利で苦しんでいるのは「普通の人びと」であり、企業と富裕層を主役とする資本主義は健在である。 しかも日本の企業はゼロ金利の下で、一貫して労働分配率を引き下げてきた。
・かつての日本的な経営者であれば、経営が苦しいときには損失を、また経営が改善したときには収益を従業員と分け合ったものだが、バブル崩壊以降は損失を押しつけるだけで、収益を(公平に!)分け合うという発想はほとんど見られない。 いまや経営者にとって賃金は「上げる余裕がないから上げない」のではなく、余裕はあっても「上げなくて済むのなら上げない」という発想が支配的だ。
・働き手も消費者の立場になったなら、一杯300円払ってもいいと思う牛丼が一杯200円で食べられるなら、あえて300円は払わず200円で済ますのは合理的だと思うかもしれない。 しかし、経営者が働き手に対して月30万円払ってもいいと思う賃金を、月20万円で雇えるなら20万円しか払おうとしなければ、賃金はぎりぎりの水準まで引き下げられてしまう。
▽“繁栄”を支えているのは不平等の拡大
・「ゼロ金利」で自然に消滅するほど資本主義は脆弱な経済体制ではない。 実際、資本主義の中心に位置する企業や富裕層はゼロ金利の下でも繁栄を謳歌している。 ただ、その内情は、かつてのようには市場が伸びなくなり、マクロ的な成長率が停滞する中で、その“繁栄”を支えているのは、1%が裕福になり99%が貧しくなる不平等の拡大であることを見落としてはならない。
・それでも資本主義の増殖が止まらない一因は、人々の欲望を刺激するように工夫された商品が不断に創出され、それをを人びとが競うようにして求めるからだ。 しかも、人びとは際限のない購買欲を満たすために少しでも多くの所得を稼ごうとして「勤労意欲をますます高め、たとえ給料が変わらず、むしろ下がることになっても、現在の労働市場と労働環境の厳しい要求に従うようになる」(W・シュトレーク『資本主義はどう終わるのか』)。
・この結果、生き延び繁栄するのは資本主義であり、失われるのは人びとの生活と精神の豊かさである。  アルジェリアのフランスからの独立を目指し植民地主義と激しく闘った思想家、フランツ・ファノンは「ひとつの橋の建設がもしそこに働く人びとの意識を豊かにしないものならば、橋は建設されぬがよい。市民は従前どおり、泳ぐか渡し船に乗るかして、川を渡っていればよい」(『地に呪われたる者』)と述べた。
・橋の建設が支配者にもたらす利益や橋の通行者が得られる便宜よりも、その建設のために駆り出され働く人びとの精神的な豊かさを優先しなければ、宗主国に支配された植民地の人びとは永遠に解放されないというわけだ。
・ファノンが言う「橋」を、現代の資本主義の下で次々と創出される新製品や新サービスと、その生産と販売のために劣悪な条件と環境の下で労働を強いられる人びとの精神に置き換えてみれば、同じことが言えるのではないか。
▽「打倒」しなければ生きる基盤が破壊される
・拡大する不平等や際限ない欲望と人びとが闘わずに、耐えて待つだけでは資本主義はいつまでも終わらない。 そのための第一歩は、月並みだが「適度な必需品による豊かな生活や安定した『善き生』」(D・ハーヴェイ『資本主義の終焉』)に真の幸福を見いだすことだろう。 そうでなければ、どんな手段を使っても増殖を続け生き延びようとする資本主義の猛威によって、人びとが生きる社会的、自然的な基盤までが破壊されてしまうのである。
http://diamond.jp/articles/-/166945

第一の記事で、 『経済活動を自由にすれば格差は広がるので、自由化を進めた上で、所得分配で対応すべきだったところを逆にその機能を弱めてしまった。実際、どこの国も80年代以降、潜在成長率は上がらず経済格差だけが拡大しました』、 『非正規は雇用の調整弁といわれてきましたが・・・雇用の調整弁ではなくて、企業が収益を上げるために、構造的に組み込まれた要素になっていると思います』、 『正規雇用に対しOJT(職場内訓練)やOff-JT(職場外研修)の機会が減ってきている。人的資本が蓄積されないから生産性が高まらず、長期的に賃金が上がらないという悪循環にある。 経営者も従業員もベアは固定費が上がり、終身雇用が持続できなくなるので、経営者が渋いだけでなく、組合も従業員もベアを望んでいない』、などは的確に現在の問題をえぐり出している。  『就職氷河期に当たった団塊ジュニアは、就職が非常に厳しく、非正規になった人が多かった。正社員になれても不況期に就業すると、望んだ職種や企業に勤められないから、すぐに転職して就業期間も短くなり、人的資本の蓄積も進まない。だから所得が増えません。 その結果、結婚が遅れたり、できなかったりする・・・その下の世代まで含めると、最終的にはアンダークラスが1000万人を超えると思っています。そのとき、ようやく一番上の人が70歳になり生活保護を受けるようになって、定常状態に達するというのが私が予想する近未来の日本なんです』、 『労働者階級の中に比較的高賃金の層と低賃金の層がいる・・・アンダークラスは、人生の一時期だけではなく、恒常的にそこにとどまり続ける存在になっている。アンダークラスには子どもを生めない人も多いので、アンダークラスの子どもがアンダークラスになる構造が確立するのか……。上の階級にいる労働者階級や新中間階級の子どもがアンダークラスに転落し続けてこの規模が維持される可能性が高いと思います』、という悲惨な現実を、安部政権も正面から捉えるべきだ。  『晩婚化や非婚が進み、少子高齢化が助長され、社会保険料や税金を払う人自体が減って、益々、社会制度の持続可能性が低下している。極めて危機的な状況です』、いまや時間的余裕もなくなってきているようだ。
第二の記事で、 『企業の収益機会が枯渇し、資本の増殖が限界に達しているから金利ゼロが生じているわけではない。 企業が借金をせずに利潤を上げ、その利潤を内部留保として積み上げ、再投資に回していないから金利ゼロが生じていることがわかる』、 『ゼロ金利で苦しんでいるのは「普通の人びと」であり、企業と富裕層を主役とする資本主義は健在である。 しかも日本の企業はゼロ金利の下で、一貫して労働分配率を引き下げてきた』、 『それでも資本主義の増殖が止まらない一因は、人々の欲望を刺激するように工夫された商品が不断に創出され、それをを人びとが競うようにして求めるからだ。 しかも、人びとは際限のない購買欲を満たすために少しでも多くの所得を稼ごうとして「勤労意欲をますます高め、たとえ給料が変わらず、むしろ下がることになっても、現在の労働市場と労働環境の厳しい要求に従うようになる」』、などの指摘は説得力がある。ただ、 『拡大する不平等や際限ない欲望と人びとが闘わずに、耐えて待つだけでは資本主義はいつまでも終わらない。 そのための第一歩は、月並みだが「適度な必需品による豊かな生活や安定した『善き生』」・・・に真の幸福を見いだすことだろう』、という結論は、いささか飛躍気味でついていけなかった。
タグ:“繁栄”を支えているのは不平等の拡大 超人手不足なのに賃金が上がらない 外国人労働が凄まじく増えていて、この5年間で倍増 企業の収益機会が枯渇し、資本の増殖が限界に達しているから金利ゼロが生じているわけではない。 企業が借金をせずに利潤を上げ、その利潤を内部留保として積み上げ、再投資に回していないから金利ゼロが生じていることがわかる 苦しんでいるのは「普通の人びと」  家計の利子所得は激減 ハイルブローナーは無借金を誇るような経営者を「現代の地主」にすぎないと喝破 ダイヤモンド・オンライン 「「階級社会」に突入した日本、格差を拡大させた3つの仮説 【対談】橋本健二(早稲田大学人間科学学術院教授)×河野龍太郎(BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミスト)」 中間的な賃金の仕事がなくなり、結果的に、比較的高い賃金の仕事と比較的安い賃金の仕事が増えている 一方で働き手は所得が伸びないうえ、低金利で預貯金の利子所得が激減した。 「金利ゼロ」のもとでも資本主義が“繁栄”しているのは、普通の人々の代償によるものなのだ 経済活動を自由にすれば格差は広がるので、自由化を進めた上で、所得分配で対応すべきだったところを逆にその機能を弱めてしまった。実際、どこの国も80年代以降、潜在成長率は上がらず経済格差だけが拡大 「新・階級社会」の誕生 氷河期世代に正当な賃金が払われるべき なぜ金利ゼロが生じているのか。 簡単に言えば利子を支払えるだけの利潤を上げられる企業が借金をせず、収益は人件費削減などで上げ、利潤は内部留保や株主などへの配当に回してきたからだ 「企業や富裕層が金利ゼロでも繁栄するのは「残り99%」が貧困化しているからだ」 高橋伸彰 格差問題 (その3)(「階級社会」に突入した日本 格差を拡大させた3つの仮説 【対談】、企業や富裕層が金利ゼロでも繁栄するのは「残り99%」が貧困化しているからだ) 就職氷河期世代が社会のコストになる 日本人の横並び意識が不毛な争いを生む 正規雇用に対しOJT(職場内訓練)やOff-JT(職場外研修)の機会が減ってきている。人的資本が蓄積されないから生産性が高まらず、長期的に賃金が上がらないという悪循環にある
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