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日本企業の海外M&Aブーム(その5)武田薬品7兆円巨額買収1(武田薬品の巨額買収について考える、武田薬品が高リスクでもシャイアー買収に手を出した理由) [企業経営]

日本企業の海外M&Aブームについては、2月10日に取り上げたが、今日は、(その5)武田薬品7兆円巨額買収1(武田薬品の巨額買収について考える、武田薬品が高リスクでもシャイアー買収に手を出した理由)である。

先ずは、闇株新聞が4月27日付けで掲載した「武田薬品の巨額買収について考える」を紹介しよう。
・武田薬品工業は4月25日、アイルランドの製薬大手であるシャイアーを総額460億ポンド(7兆円)で買収交渉していると発表しました。武田薬品が引き継ぐシャイアーの負債を含めると、総額8.5兆円の買収となります。 武田薬品とシャイアーは買収交渉をロンドン時間5月8日の午後まで延長して資産査定を行うようで、シャイアーも自社株主に武田薬品の提案を推奨しており、このまま買収決定となるような気がします。
・日本企業による過去最大の海外企業買収は、ソフトバンクが2016年9月に買収したARMの240億ポンド(当時の為替で3.7兆円)でしたが、買収金額だけの7兆円としてもその2倍近くの大型買収となります。
・世界の薬品業界の大手企業を単純に2017年(速報ベースです)の売り上げだけで比較してみると、第1位がロシュ(スイス)の543億ドル、第2位がファイザー(米国)の525億ドル、第3位がノバルティス(スイス)の491億ドル、第4位がメルク(米国)の401億ドル、第5位がサノフィ(仏)の396億ドルが上位5社となります。 武田薬品工業は国内最大ですが、2017年の売り上げ高は世界第18位の155億ドル、買収相手のシャイアーは第19位の151億ドルで、買収が完了すれば単純計算で売り上げが世界第8位あたりとなります。
・もちろん武田薬品も規模だけを追及しているわけではなく、シャイアーの持つバイオ薬や希少薬を手に入れることが目的ですが、シャイアーも主力薬品の特許が2020年代初めに切れると言われており、武田薬品にとってはまさに時間を巨額資金で買う大勝負」にでたことになります。
・ちなみに本日(4月26日)現在、武田薬品の時価総額は3兆6200億円で、噂が本格的に広がる前である4月16日の3兆9800億円から9%下落していますが、一方のシャイアーは同じ4月16日の356億ポンドが本日ロンドン時間昼頃の364億ポンド(5兆5500億円)まで2%強上昇しています。 もともと時価総額はシャイアーの方が大きかったわけですが、これはシャイアーの2017年通年の純利益が約43億ドル(4600億円)、武田薬品の2017年3月期は1149億円と、4倍もの開きがあるからです。
・さて武田薬品はシャイアーの株主に対し、買収金額の7兆円のうち3億9000億円は武田薬品株を新規発行して交付し、残る3兆1000億円は現金で支払うと申し入れているようです。 つまりシャイアー買収のために武田薬品は現在発行済み株数をこえる新株を発行することになりますが、その分は(少なくとも)純利益が4倍あるシャイアー株式と交換したことになるため、全体の1株当たり利益も約2倍になるので「全く問題ない」と説明しているようです。
・しかし日本の武田薬品の既存株主に対する説明はこれでよくても、逆にシャイアーの株主はその価値が4分の1(全体的には2分の1)の武田薬品株と交換されるため、確かに現金で支払われる分があるとしても「これでいいのかなあ?」と考えるような気がします。 また実際に日本の株式を使った海外企業の買収は確かに解禁となっていますが、実際問題として受け取った「よくわからない」日本の武田薬品株などすぐに売却されてしまうような気もするため、大丈夫かなあ?と思ってしまいます。
・武田薬品については、長谷川前社長時代の2008年に米バイオ医薬のミレニアムに約9000億円、2011年にナイコメッド(スイス)に1兆1000億円を投じて買収したものの、それほど利益に貢献していないはずです。 また2014年にウェバー社長(CEO)となってからも、2017年1月にアリアドを54億ドル(6200億円)で買収していますが、今度はけた違いの大物を買収することになります。
・もともとは無借金経営で知られた武田薬品ですが、長谷川社長時代のナイコメッド買収などで1兆円をこえる有利子負債をかかえており、それに今度も3兆円が加わるため4兆円をこえる有利子負債となってしまいます。
・以前に書いたこともありますが、日本企業による大型買収が行われると、その直後に株式市場全体が下落することがよくあります。これは本来なら買収されるつもりがなかった海外企業の経営陣や主要株主が、「こんな高い価格で日本企業が買ってくれるならもう売却してしまおう」と考えるからで、結果的に日本企業が大型買収をするとその後で大いに苦労することがあります。 まあそうならないように願うしかないようです。
http://yamikabu.blog136.fc2.com/blog-entry-2212.html

次に、元銀行員で法政大学大学院教授の真壁昭夫氏が5月15日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「武田薬品が高リスクでもシャイアー買収に手を出した理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽武田薬品はリスクが高いのに なぜ巨額な海外企業買収にこだわったのか
・約7兆円の海外企業買収はリスクが大きすぎる。なぜ買収にこだわるのか」――。 約460億ポンド(1ポンド=148円として約6.8兆円)で武田薬品工業(武田)がアイルランド製薬大手シャイアーを買収することについて、首をかしげたくなる人は多いだろう。 今回の買収については買収資金だけではなく、シャイアーの負債も引き継ぐことになる。昨年末の時点で、シャイアーの長期債務残高は約1.8兆円だ。株式と負債を合わせ総額約8.6兆円の買収規模は、わが国企業による海外企業の買収劇の中で突出している。買収のため武田は約3.3兆円の借り入れを行う予定と言われている。財務悪化への懸念が高まるのも無理はない。
・ただ、グローバル市場で成長を目指す大手製薬企業にとって、企業買収は常に頭に入れておかなければならない成長戦略の一つであることも間違いない。世界市場ではロシュやファイザーなど大手製薬会社が買収によって体力を拡充し、積極的な新薬開発や市場開拓を通じて着実にシェアを拡大している。
・そうした大手製薬会社がマーケットシェアの多くを占有する、いわゆる“市場の寡占化”が進んでいる。そうした変化に対応できないと、武田であっても世界市場の中で競争力を失いかねない。買収などを通じて自ら組織内に変革を起こし、環境に適応していかなければならない一種の“宿命”を持つ。
・製薬産業の特徴として、新薬開発のためには多額の研究開発費がかかると同時に、新薬開発の努力が実るとは限らない大きなリスクも抱える。 実際、新薬を開発し販売に漕ぎ着けるには、かなりの時間とコストがかかる。そのリスクを考えると、すでに実績がある、あるいは、収益の見通しを立てやすい企業を買収し、成長=新薬開発にかかる時間とコストを節約する意義は大きい。
▽グローバル企業を目指す武田
・世界の製薬業界を俯瞰すると、その経営スタイルは二つに分けると分かりやすい。 一つは、世界市場を狙うのではなく、ニッチな市場で独自の製品を開発して消費者のニーズをつかむスタイルだ。 もう一つは、世界市場を狙ってグローバル化を進め、企業の体力を拡大することで、世界の主要製薬会社に伍して競争を展開するスタイルだ。
・もともと、武田は「アリナミン」などの栄養剤や感染予防を軸に、国内でのシェアを高めてきた。しかし、わが国で人口減少・少子高齢化が進む中、縮小が見込まれる国内市場を中心に、従来の事業で成長を追求することは難しい。今後、さらなる成長を目指すためには、より高い付加価値が見込まれる分野に進出したり、期待収益率の高い海外市場を開拓することが求められる。
・それに加えて、わが国では国民皆保険制度の下、政府が医療サービスや薬価の価格を決定している。高齢化に伴い、医療を中心に社会保障関係費は増加している。それを抑えるために、政府は薬価の引き下げを重視している。それも、製薬企業が海外を目指す一因だ。
・そうした企業戦略を実行に移したのが、創業家出身の武田国男氏だった。同氏は、人員削減などの“リストラ”を進めた。それは、武田を国内の大手製薬企業から、“世界の武田”に飛躍させるための経営資源を確保するための取り組みだった。それと同時に、武田氏は糖尿病や高血圧治療の分野に進出し、高付加価値商品の事業育成にも取り組んだ。
・2003年、社長のバトンは長谷川閑史氏に引き継がれた。長谷川氏はリストラを進めつつ、グローバル企業としての成長に向けた戦略を実行した。それが海外企業の買収だった。 2008年、武田は米バイオ医薬品のミレニアム・ファーマシューティカルズを88億ドル(当時の為替レートで約9000億円)で、2011年にはスイス製薬企業ナイコメッドを96億ユーロ(約1.1兆円)で買収した。
・2013年にはグラクソ・スミスクライン出身のクリストフ・ウェバー氏がCEOに招かれ、グローバル化を推進するための経営体制が整備された。加えて昨年1月に武田は米アリアド・ファーマシューティカルズの買収に6000億円超を投じた。
▽古典的M&Aによる事業展開とリスクの分散
・グローバル市場で競争に勝ち残るには、治療効果の高い新薬を開発することが欠かせない。世界最大の医薬品市場である米国では、民間企業が薬価を設定している。効果が高まれば、薬価も上昇する。収益を得るために、製薬企業は単一の医薬品を開発するのではなく、複数の治療分野で新薬候補(パイプライン)を拡充しようとしている。
・そのための主な取り組み策として、(1)自前での新薬開発を進める、(2)他企業の一部の事業を買い取る(カーブアウト)、(3)部分的な事業提携(アライアンス)や他社製品のライセンスを手に入れる、(4)M&A(合併と買収)の四つがある。
・実際に新薬を開発し、販売を行うには、最大市場である米国でFDA(食品医薬品局)などの認可を受けることが必要になる。そのためにはさまざまな臨床試験なども経なければならず、多くの労力と時間が必要だ。開発できたとしても、販売できるとは限らない。その環境の中、自前での新薬開発だけで競争に対応することは難しい。
・実際、一部事業の買い取りやライセンス取得を行うにしても、潜在的な治癒効果が見込まれる創薬技術を持つ企業は、ベンチャーの段階から買収されていることが多い。適当な出物は極端に少ない。そうした事情を考えると、今日の主流となりつつある対象企業の必要な事業だけを買収するのではなく、実績ある企業全体を丸ごと買う“古典的買収”によって事業規模の拡大と成長を目指す発想にはそれなりの合理性がある。
・買収のメリットは、新薬開発の時間を節約するだけでなく、被買収企業の強みを丸ごと吸収できることもある。シェアの拡大、ブランドの取得もある。この発想に基づいて、欧米の製薬企業は買収を繰り返し市場の寡占化が進んできた。そうした動きに対応するためには、自前での新薬開発だけに固執してはいられない。
・一方、買収には大きなデメリットもある。何と言っても、企業買収には多額の資金が必要になる。それに伴って、借り入れにより財務内容が悪化するケースが多い。それは、多くのアナリストらが懸念するポイントだ。また、買収した企業の主力薬が特許切れなどによって競争力が低下し、想定されたシナジー(相乗)効果が発現しないこともある。そうしたリスクがあるにせよ、グローバル企業として世界の医薬品市場で成長を目指すために、買収は現実的かつ効果的な戦略の一つと考えられる。
▽シャイアー買収は武田にとってのスタートライン
・武田がグローバル企業を志向した時点で、買収を通じた成長の追求は、戦略上の最重要分野の一つに位置づけられた。 それぞれの買収を振り返ると、目的は明確だ。生活習慣病分野を事業の柱としてきた武田にとって、ミレニアムとアリアドの買収はがん治療分野の強化に必要だった。それは事業ポートフォリオの拡充だ。ナイコメッドの買収には、新興国市場の開拓という目的があった。
・米国で売上高の65%を稼ぐシャイアーの買収により、武田は米国での事業基盤を手に入れることができる。臨床試験を行うための医療機関や患者との関係性、規制当局との交渉力などは一朝一夕に確立できるものではない。買収によって同社の海外売上比率は約80%に上昇する。それは、事業領域と地域展開の両面で、欧米の大手製薬企業と競争するスタートラインに立つことといえる。
・シャイアー買収から、同社の世界戦略を読み取ることができる。武田とすると、欧米大手と異なった分野で勝負する意図が見られる。例えば、新薬開発というと、まずがん治療薬が思い浮かぶ。確かに、がん治療新薬の価格は高騰している。当たれば大きい市場であることは間違いない。 しかし、この分野では欧米企業の存在感が圧倒的だ。世界最大手ロシュの売上高(約6兆円)の60%ががん治療薬である。がん治療薬の分野で欧米勢に真っ向勝負を挑むのは現実的ではないだろう。
・一方、シャイアーは消化器、中枢神経の疾患や免疫分野に強みを持つ。武田は、中枢神経分野の売り上げを伸ばしたい。今回の買収には、強みを伸ばしつつ、手薄な分野を補完する意味がある。 そう考えると、少し長い目で見ると、今回の買収がフリーキャッシュフローの増加につながり、株主価値の増大につながるという考えには相応の説得力がある。問題は、今後それをいかに実現するかだ。
・具体的には、米国を中心に免疫や神経関連事業の収益を増やす必要がある。同時に、買収した企業組織との融合を進め、研究開発体制も強化しなければならない。それが、財務内容の安定と、今後の買収戦略の実施に不可欠だ。
・同社の経営陣が思い描くような成果が実現できれば、恐らく、武田は世界市場の主要プレーヤーの一人として生き残ることができるだろう。今回のケースが成功例の一つとなることを期待したい。
http://diamond.jp/articles/-/169899

第一の記事で、負債を含めると、総額8.5兆円の買収をしても、世界18位から8位とは、彼我の格差は極めて大きかったということに、改めて驚かされた。『シャイアー買収のために武田薬品は現在発行済み株数をこえる新株を発行することになりますが・・・実際に日本の株式を使った海外企業の買収は確かに解禁となっていますが、実際問題として受け取った「よくわからない」日本の武田薬品株などすぐに売却されてしまうような気もするため、大丈夫かなあ?と思ってしまいます・・・日本企業による大型買収が行われると、その直後に株式市場全体が下落することがよくあります』、というのは株安材料として要注意だ。 『ミレニアムに約9000億円、2011年にナイコメッド(スイス)に1兆1000億円を投じて買収したものの、それほど利益に貢献していないはずです』、というのも懸念材料だ。なお、武田薬品の株価は、1月5日の6568円から、5月15日には4695円へと29%下落している。
https://www.google.com/search?source=hp&ei=7qD6WrKANYKm8AXY5YaQDA&q=%E6%AD%A6%E7%94%B0%E8%96%AC%E5%93%81%E6%A0%AA%E4%BE%A1&oq=%E6%AD%A6%E7%94%B0%E8%96%AC%E5%93%81&gs_l=psy-ab.1.1.0i131k1l3j0l5.7343686.7343686.0.7345810.1.1.0.0.0.0.403.403.4-1.1.0....0...1c..64.psy-ab..0.1.402....0.umMo_UFuoZs

第二の記事は、武田薬品の戦略を事業分野別に分析した上で、総じて前向きの結論を出しているが、闇株新聞が指摘したこれまでの買収の成果については、触れていないのが若干物足りない気がする。
タグ:古典的M&Aによる事業展開とリスクの分散 武田国男氏 成長=新薬開発にかかる時間とコストを節約する意義は大 市場の寡占化 「武田薬品が高リスクでもシャイアー買収に手を出した理由」 ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫 日本企業による大型買収が行われると、その直後に株式市場全体が下落することがよくあります。これは本来なら買収されるつもりがなかった海外企業の経営陣や主要株主が、「こんな高い価格で日本企業が買ってくれるならもう売却してしまおう」と考えるからで、結果的に日本企業が大型買収をするとその後で大いに苦労することがあります アリアド ナイコメッド ミレニアム 実際問題として受け取った「よくわからない」日本の武田薬品株などすぐに売却されてしまうような気もするため、大丈夫かなあ?と思ってしまいます 全体の1株当たり利益も約2倍になるので「全く問題ない」と説明 シャイアー買収のために武田薬品は現在発行済み株数をこえる新株を発行することになりますが 時間を巨額資金で買う大勝負 買収が完了すれば単純計算で売り上げが世界第8位あたりとなります 負債を含めると、総額8.5兆円の買収 アイルランドの製薬大手であるシャイアーを総額460億ポンド(7兆円)で買収交渉 「武田薬品の巨額買収について考える」 闇株新聞 (その5)武田薬品7兆円巨額買収1(武田薬品の巨額買収について考える、武田薬品が高リスクでもシャイアー買収に手を出した理由) 日本企業の海外M&Aブーム
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