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金融業界(その2)(メガバンク3行の「人員削減計画」は甘すぎる AIで最も厳しい影響を受けるのは金融業界、メガバンクの採用抑制は 銀行・行員・日本経済の「三方一両得」だ) [金融]

金融業界については、昨年10月18日に取上げた。今日は、(その2)(メガバンク3行の「人員削減計画」は甘すぎる AIで最も厳しい影響を受けるのは金融業界、メガバンクの採用抑制は 銀行・行員・日本経済の「三方一両得」だ、)である。

先ずは、経営コンサルタント、経済アナリストの中原 圭介氏が1月31日付けで東洋経済オンラインに寄稿した「メガバンク3行の「人員削減計画」は甘すぎる AIで最も厳しい影響を受けるのは金融業界」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・人工知能(AI)が大きな注目を集めている背景には、コンピュータの性能が急速に発達したこと、インターネットの普及で膨大なビッグデータが取得しやすくなったこと、深層学習(ディープラーニング)などコンピュータの学習方法が飛躍的に進化したこと、などがあります。
▽メガバンクの窓口ではすでにロボット導入も
・AIは膨大な資料やデータを読み込み、分析や学習を繰り返しながら、日々進化を遂げています。非常に複雑な計算もあっという間にこなすことができます。それゆえにAIは、企業の活動はもちろん、私たちの雇用のあり方そのものを大きく変えてしまう可能性を秘めているのです。
・製造業の現場で自動化された工場のほかにも、AIはすでにさまざまな分野で活用され始めています。AIがとりわけ効率化を促すのは、事務などの単純作業の分野においてです。工場での作業を効率化するために、ロボットの導入が加速化しているのと同じように、日本企業のオフィスでも、作業を自動化するソフトの利用が広がり始めています。
・パソコンを使ったデータ入力などの繰り返し作業を担うのが、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)と呼ばれるソフトで、通称ロボットと呼ばれています。たとえば、さまざまなデータをインターネットなどから拾って集計・グラフ化するという反復作業がありますが、あらかじめロボットに作業の手順を覚えさせておけば、人が犯しがちなミスを防ぐことができ、作業速度は10倍、20倍といった具合に格段に速くなるのです。
・金融業や保険業では特に、AIが活躍できる余地が大きいといえます。メガバンクのなかには、すでに窓口の業務において、AIが来店客との会話の内容を分析し、適切な受け答えをするロボットを導入しているところもあります。
・銀行や保険会社のコールセンター業務においても、AIが顧客との会話を分析しながら、最適な回答を探し出すオペレーター支援システムが導入され始めているのです。顧客からの問い合わせ内容に応じて、AIは過去に学習した数万件の回答事例から最適な答えを瞬時に導き出すため、オペレーターは分厚いマニュアルを調べる必要がなくなり、従来よりも短時間で対応できるうえに、顧客の満足度も上げられるというわけです。
・金融業におけるAIの積極的な活用は、窓口やコールセンターといった業務だけでなく、与信や融資に関する業務、振り込み確認、クレジットカードの不正検知など、多岐にわたって進んでいくことが確実な情勢にあります。
▽アリババグループはすでに既存の銀行を凌駕している
・たとえば、金融業の中核業務である与信や融資においては、これまでは専門知識を持った金融マンがその金額によって数時間から数日以上かけて審査していましたが、AIがビッグデータを分析すれば1秒以内で判断することができるので、審査時間を極端というべきレベルまで短縮することが可能となります。金融業ではAIの導入が加速することによって、生産性(収益力)を大いに高めると同時に、大幅なコスト(人員)削減を進めることができるというわけです。
・AIによる与信や融資で先行する、中国のIT大手アリババのグループ銀行では、個人商店の運転資金の融資はすべてスマートフォンで完結する仕組みとなっています。スマートフォンから融資の申請をするのに必要な時間は数分程度、AIが融資の審査や融資可能額を1秒もかけずに判断し、審査が通った場合は希望融資額が、アリババグループが持つ世界最大の電子決済サービス「アリペイ」の口座に数分で振り込まれるというのです。
・アリペイは、中国の人々の90%超があらゆる消費に使っているスマートフォン経由の電子決済サービスの中で、最大シェアを誇ります。ここでAIが融資判断に用いているのはアリペイから得られる膨大な決済データです。膨大なビッグデータから100以上の予測モデルを解析し、資金回収の確率を民間銀行よりも大幅に引き上げることに成功しているのです。
・日本の金融機関でも、AIが積極的に使われ、人員削減が進んでいくことになるでしょう。現に、みずほフィナンシャルグループは2024年度末までに500店舗のうち100店舗を削減し、2026年度末までに1万9000人の人員を削減すると発表しています。三菱UFJフィナンシャル・グループも2023年度末までに516店舗のうち最大100店舗を自動化し、6000人の人員を削減するといいます。三井住友フィナンシャルグループも、2019年度末までに全店舗の自動化を推進し、4000人分の業務量を削減するといいます。
・しかし、これらメガバンク3行はAIの普及がもたらす雇用への悪影響を過小評価している節があり、現行の人員削減計画は甘いといわざるをえません。日本の金融機関は欧米の金融機関に比べて人件費などのコストが高く、生産性の改善が課題となっているといわれて久しいですが、これからはAIを搭載したコンピュータやロボットが生産性を大幅に引き上げるのと裏腹に、賃金が高い金融機関の雇用を破壊していくことが避けられないでしょう。
・銀行などの金融機関と同じく、保険会社も人員削減の余地が大きいといえます。最近のアメリカでは、AIを活用して人手を必要としない保険会社の起業が増えています。生命保険にしても自動車保険にしても、加入手続きから保険金の支払いまで、スマートフォンのアプリを通したやり取りだけで完結するというサービスが広がり始めているのです。
・AIやビッグデータを駆使することで、保険料の見積もりや保険の支払いを迅速にするというのが最大のメリットであり、ことのほかスマートフォンで簡単な質問に答えるだけの数分で保険に加入できるという手軽さが受けています。賃金が伸びていない若い世代を中心に、人件費などのコストを徹底的に抑えた割安な保険商品への人気度は高まっているということです。
・そればかりか、顔を見れば寿命がわかるという技術を開発したベンチャー企業までが現れています。機械学習を重ねたAIがたった1枚の顔写真から、性別や年齢、かかりやすい病名、寿命までを割り出すことができるというのです。アメリカではすでにこのベンチャー企業のサービスを使い、顔写真から生命保険料の大まかな見積もりをする生命保険会社があるといいます。
・また別のベンチャー企業では、AIが初期診断と健康管理を行い、病気を防ぐというサービスを開発し、そのサービスの導入を考えている生命保険会社もあるといいます。これらの事例が示すように、AIの技術力でコストを抑えることによって、保険料を大幅に下げることができれば、より多くの人が保険に加入できるようになるでしょう。
▽アメリカでの流れが、いずれ日本にも波及する
・そのうえ、AIは手間がかかる自動車保険の保険金の支払い手続きでも活躍しています。スマートフォンのアプリで事故現場の写真を送信すると、保険金の支払額の見積もりが数分でできてしまうというのです。従来は1カ月程度かかっていた保険金の支払いが、1週間以内で完了できるまでになったといいます。
・アメリカの大手の保険会社でも、新しく起業した保険会社の手法やベンチャー企業の技術を貪欲に取り入れて、できるかぎりすべての業務を簡素化して、コスト削減につなげる取り組みを進め始めています。これからの保険会社の経営目標は、店頭の窓口や保険の勧誘、対面の手続きなどをできるだけ省き、業務にかかる人件費を抑えることになってくるでしょう。
・日本の保険会社では今のところ、AIの利用は単純な事務作業やコールセンター業務の一部にとどまっていますが、遅かれ早かれアメリカでの流れが日本にも波及し、AIやビッグデータ分析を駆使して業務を効率化し、保険料を下げていくという方向性が固まっていきそうです。保険料が下がる消費者にとっては好ましいことかもしれませんが、賃金が高い部類の雇用があまり必要なくなるという副作用は決して無視してはいけないでしょう。
https://toyokeizai.net/articles/-/206598

次に、メガバンク出身で久留米大学商学部教授の塚崎公義氏が4月13日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「メガバンクの採用抑制は、銀行・行員・日本経済の「三方一両得」だ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・メガバンクが採用を抑制すると報道されている。メガバンク3行合計の来春の新卒採用数2300人程度と、今春を3割下回り、リーマンショック前の3分の1となる模様だ。 新卒市場の“ガリバー”だったメガバンクの変化は、多方面に影響を与えると注目されているが、筆者はこの動きを「メガバンク、従業員、日本企業の三方それぞれにとって一両の得である」として歓迎したい。
▽メガバンクの採用抑制は収益改善に資する
・昨今、メガバンクを取り巻く情勢は、厳しいものがある。 まず、ゼロ金利の長期化により、預金部門のコストの持ち出しが長引いている。ゼロ金利なのだから、必要な資金はいつでも他行から借りることができ、預金部門は不要といえる。にもかかわらず、各行が預金部門を持ち続けているのは、ゼロ金利が解除されて高金利時代が到来したときに備えているわけで、長期化すればするほど銀行の収益にとっては大きな重荷となっている。
・加えて、ゼロ成長も重荷だ。ゼロ成長だと、普通の会社は売り上げも利益も前年並みだが、銀行はそうではない。企業が設備投資をしない(更新投資はするが、その資金は減価償却で賄える)ので、利益のうちで配当されなかった部分は借り入れの返済に回されてしまう。つまり、ゼロ成長だと融資残高は減り、銀行の収益も減少していくのだ。
・こうした状況を補うために、貸出金利の引き下げ競争が繰り広げらているわけだが、これもまた銀行の収益を悪化させている。
・このような短期的な収益圧迫に対して、新卒採用の絞り込みの効果は限定的との見方もあるが、そうとは言い切れない。新入社員の給料は安いが、採用コストや教育コスト、それからミスをして銀行に迷惑をかけるリスクなどを考えれば、新人を雇うコストは決して小さくないからだ。
・加えて、今のような売り手市場の就職戦線においては、従来のような大量の優秀な人材を集めるのは容易ではないから、人数をしぼって優秀な学生だけを採用するということも大いに意味がある。 加えて銀行は、長期的にはフィンテックなどにより、必要な労働力が減っていくと言われている。そうであれば、早めに手を打って新卒採用をしぼっていくことが、長期的な銀行経営にも重要だ。新卒を採用してしまうと、長期にわたって余剰人員を抱え込むことにもなりかねないからだ。
▽機械化や合理化対応の実現で現在の行員もリストラされず助かる
・短期的には銀行の収益悪化が予想され、長期的には必要労働力の減少が予想されるならば、現在、銀行で働いている現役行員が懸念するのは、「リストラ」だろう。その点、早めに新卒採用をしぼってもらえば、「余剰人員」が発生する可能性が減り、リストラが行われる可能性も減る。
・一方で、新卒採用をしぼることで、短期的に現場の労働力不足が深刻化すれば、現役行員が長時間の残業を強いられるといった事態も懸念される。フィンテックなどにより、銀行員が余るようになるのは将来の話で、短期的には銀行ビジネスの仕事量は減らないからだ。 もっとも、報道によれば、幸いなことに機械化や合理化対応することで人員減が実現できそうだ。それなら、現役行員は過重労働もしいられず、リストラもされないということになろう。
▽他産業も優秀な学生を獲得でき日本経済にとって素晴らしいこと
・不況期、特に就職氷河期には、採用を減らすというのは悪いニュースだった。しかし、採用難の今、就活市場の“ガリバー”が採用を減らすのは、他産業の企業にとっても、日本経済にとっても大きな“グッドニュース”だろう。 人数だけではない。質の面でも銀行は優秀な学生を大量に採用してきたので、それが減ることは、他企業にとって喜ばしいだろう。
・ちなみに、「銀行は難関大学の学生ばかり採用したがるが、難関大学の学生が就職したからといって優秀なサラリーマンになるとは限らない」といった批判を耳にする。 だが、本稿における「優秀な学生」の定義は、「各社の採用担当者が採用したいと考える学生」という意味であり、そうした学生を銀行が獲得することで、「内定を出した学生が、銀行に行ってしまって残念だ」と嘆いている非銀行企業の人事担当者が多い、という意味だ。そうしたことがなくなるということは、いいことだろう。
・金融は経済の“血液”であり、銀行が日本経済にとって重要な仕事をしていることは疑いないが、それにしてもあれだけ大量に優秀な人材を囲い込むのは日本経済にとって好ましいことではない。それが「適切な人数の囲い込み」になるのだから歓迎すべきことだ。
▽銀行が衰退産業だとの印象には一抹の不安も
・ただ、銀行が採用人数をしぼったことで、「銀行は衰退産業だ」との印象を学生に与えてしまうことについては、一抹の不安もある。 既存の銀行ビジネスは、少しずつフィンテックなどに代替されていくだろうが、銀行自身がフィンテックの担い手になる可能性も十分あるし、そうでなくとも既存の銀行業務が完全に衰退してしまうわけではない。
・そうした中で、銀行志望者が急減すれば、銀行として「採用人数をしぼった以上に銀行志望の優秀な学生が減ってしまう」といったことにもなりかねない。実際には、20年後に栄えている産業や企業など誰にも分からないのだから、銀行の人気が高すぎるのも、低すぎるのも望ましいことではない。適度な人気となることを期待したいと思う。
・余談になるが、バブル崩壊前で銀行の給料が高かった頃、「銀行は、右の金を左に動かしているだけの虚業であるから、銀行員が高い給料をもらうべきではない」という批判を耳にした。今は、銀行員の給料も昔ほど高くなさそうだが、「銀行は虚業であるから、優秀な人材を囲い込むべきでない」といった批判はあるだろう。
・ただ、こうした批判は的外れだ。「物を作っている製造業は偉いが、物を作っていない金融業は偉くない」という価値観から出ている発言だとすると、日本中の労働者の76%を敵に回すことになりかねない。労働力調査によると、製造業と建設業で働く人は全体の24%に過ぎないからだ。
▽優秀な人材が各産業に分散されることが望ましい
・金を預けたい人と、金を借りたい人が世の中に大勢いるときに、金融業がなければ金を借りたい人は借りることができず、預けたい人も預けることができない。そんなときに「借りたい人と、預けたい人は銀行へきてください」と言えば、両方をつなぐことができて皆が助かるのだ。つまり、銀行は必要なのだ。
・例えば、金融危機で銀行が貸し渋りをすると、資金繰りに困って倒産する中小企業が多発する。こうしたことからも分かるように、「心臓は普段は特に感謝されないが、止まってみるとありがたみが分かる」といったイメージだろう。
・もっとも、銀行の方が他の産業より優秀な人材を必要としているか、というと、そこは疑問だ。優秀な人材が適度に各産業に分散されるならば、それは望ましいことだ。
http://diamond.jp/articles/-/167043

第一の記事で、 『メガバンク3行はAIの普及がもたらす雇用への悪影響を過小評価している節があり、現行の人員削減計画は甘いといわざるをえません』、というのは、現行の人員削減計画が採用抑制による人員の「自然減」を前提にしていることもあるのかも知れない。 『中国のIT大手アリババのグループ銀行では、個人商店の運転資金の融資はすべてスマートフォンで完結する仕組みとなっています。スマートフォンから融資の申請をするのに必要な時間は数分程度、AIが融資の審査や融資可能額を1秒もかけずに判断し、審査が通った場合は希望融資額が、アリババグループが持つ世界最大の電子決済サービス「アリペイ」の口座に数分で振り込まれる』、というのはフィンテックの代表例としてよく挙げられるものだ。

第二の記事は、 『メガバンクの採用抑制は、銀行・行員・日本経済の「三方一両得」だ』、というのは、悲観的見方が多数を占めるなかで、珍しい楽観的見方で、確かにその通りだ。銀行実務から経済全般に精通している塚崎氏らしい記事だ。 『銀行が衰退産業だとの印象には一抹の不安も・・・銀行の人気が高すぎるのも、低すぎるのも望ましいことではない。適度な人気となることを期待したいと思う』、というのは同感だ。銀行の必要性を、 『「心臓は普段は特に感謝されないが、止まってみるとありがたみが分かる」といったイメージだろう』、というのは巧みな比喩だ。さすがである。
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