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松山刑務所逃走事件(日本の刑務所が抱える「受刑者引きこもり」という深刻な問題、「4時間でぼろ儲け企業」と塀なき刑務所の接点) [社会]

今日は、松山刑務所逃走事件(日本の刑務所が抱える「受刑者引きこもり」という深刻な問題、「4時間でぼろ儲け企業」と塀なき刑務所の接点)を取上げよう。

先ずは、筑波大学教授(臨床心理学、犯罪心理学)の原田 隆之氏が5月12日付け現代ビジネスに寄稿した「日本の刑務所が抱える「受刑者引きこもり」という深刻な問題 「松山刑務所逃走事件」から見えたこと」を紹介しよう(▽は小見出し、注は省略)。
・「塀のない刑務所」として、1961年から受刑者の開放処遇を行ってきた松山刑務所大井造船作業場から、4月8日に平尾龍磨受刑者が逃走した。 単純逃走容疑で逮捕されるまでの23日間、受刑者から容疑者となった平尾容疑者が潜伏しているとみられていた広島県尾道市の向島の住民は、不安な夜を過ごし、日常生活にも多大な影響が及んだ。平尾容疑者によるとみられる窃盗の被害も多数報告されている。
・上川陽子法務大臣は、容疑者逮捕後、すぐさま地元を訪れ住民に陳謝した。一方で、開放的施設の再犯防止効果の大きさを強調し、理解を求めている。法務省も開放的施設の更生効果を強調しつつ、再発防止策などに追われている。
▽そもそも「開放処遇」とは何か?
・全国にこのような開放処遇を実施している刑務所は複数ある。 大井造船作業場は、松山刑務所管轄の施設ではあるが、松山刑務所の本所とは地理的にも大きく離れた民間の造船会社の敷地内にあり、全国から選ばれた受刑者が会社の従業員とともに造船作業に従事している。つまり、民間会社の手厚い協力の下、更生と社会復帰に向けての処遇がなされているのである。
・選抜される条件はかなり厳しく、刑務所初入であること、犯罪傾向が進んでいないこと、心身に大きな障害がないこと、高い更生意欲が認められること、身元引受人がいること、犯罪組織加入歴がないこと、薬物使用歴や入れ墨がないこと、などである。
・また、処遇の内容は異なるが、千葉県の市原刑務所もわが国を代表する開放施設である。ここはいわゆる「交通刑務所」として知られ、交通死亡事故などを犯した受刑者を収容している。 いわば、刑務所のなかでも一番一般人に近い人々を収容する施設であり、その性格上、開放処遇になじみやすいと言える。 ここでは、居住棟の入り口は施錠されるが、受刑者の各居室には鍵がない造りになっていたり、面会も仕切り板のない部屋でできるようになっていたりする。
・意外なところでは、網走刑務所も開放処遇を行っている。網走刑務所と言えば、「網走番外地」など映画のイメージから、極道の入る恐ろしい施設だと思われがちであるが、選ばれた受刑者が施設内の農場で開放的な処遇を受けている。
・網走刑務所を訪れて驚くのは、その施設の広大さで、何と東京都新宿区と同じくらいの敷地面積がある。施設内の水路には、毎年何百匹もの鮭が遡上する。刑務所敷地のほとんどが農場や山林であり、そこで開放的な刑務作業に従事する受刑者がいる。
・網走刑務所で処遇されるのは、大井造船作業場や市原刑務所と異なり、累犯、つまり刑務所に入るのが2度目以上の受刑者であり、比較的犯罪傾向が進んだ者たちである。その中から、逃走のおそれがなく、更生意欲の高い者たちだけが開放処遇の対象となる。
・私自身、東京拘置所に心理技官として勤務していた時代、これら受刑者の分類に携わっていた。なかでも、大井や網走に移送する者たちの選抜には、とても苦労した記憶がある。
・そもそも、受刑者というのは、当然悪いことをして刑務所に入っている。日本では、毎年刑法犯が200万件、特別法犯が50万件弱起こっている。 そのうち、受刑に至るのは約2万人である。単純に計算すれば、刑務所に入るのは犯罪者のなかのわずか1%足らずであり、悪い意味で「選ばれた者たち」である。 したがって、開放処遇対象者の選抜とは、言葉は悪いが、「悪人のなかから善人を選ぶ」という矛盾した作業であるから、その困難さはご想像いただけるであろう。
▽容疑者はどんな人物なのか?
・ところで、この事件の報道を受けて、私が疑問に思った点は、なぜ平尾容疑者が開放処遇の対象者として選ばれたのか、という点である。 報道によれば、容疑者は、これまで120件を超える多くの窃盗事犯を起こしていたとのことで、職業的な犯罪者であると言っても過言ではない。
・脱走後も検問をかいくぐって長期間にわたり逃走を続け、その間、報道によれば、窃盗を繰り返している。 本土に泳いで逃げてからは、盗んだバイクで移動したり、他人名義の身分証でネットカフェに入店したりと、相当手慣れた様子で犯罪を繰り返している。また、以前の犯罪で逮捕された際にも逃走したというエピソードが報じられている。
・おそらく、一見素直で従順な性格だったのだろう。更生意欲についても、言葉巧みに述べていたのかもしれない。しかし、彼の従前の犯行の態様や逮捕時の逃走のエピソードを知れば、開放処遇には不適格であると考えざるを得ない。
・また、これもあくまでも報道されたことに過ぎないが、逃走の直前に仲の良い妹が大ケガをしたという内容の手紙を受け取って、心情不安定になっていたという。これが事実ならば、一時的に開放施設から引き揚げて、松山刑務所の本所に戻して収容することもできたかもしれない。
▽昨今の刑務所事情:受刑者人口の減少
・ここで想像するに、最近の受刑者人口減少の折、開放処遇の条件にぴったりと当てはまる適格者が少なくなっているのではないかということである。 わが国では、かれこれ10年以上、犯罪発生件数が減少の一途をたどり、刑務所収容人員もそれにつれて減少している。先ほど、刑務所に入るのは2万人と述べたが、10年前は3万人を超えていた。 犯罪発生件数や刑務所人口の減少は、望ましいことであるが、一方で「再犯者率」が増えているという問題もある。
・これは、メディアでたびたび報じられ、警鐘が鳴らされることがある。ただその場合、「再犯者率」を「再犯率」と混同していることが非常に多い。 これらは、言葉は似ていてもまったく異なった概念である。「再犯者率」とは、事件を犯した者のうち、再犯者が占める割合のことである。一方の「再犯率」は、かつて事件を犯した者が、再び事件を犯す割合のことである。
・再犯率が高くなっているのであれば、それは刑事司法制度が機能していないことの証拠であり、憂慮すべき事態である。しかし、データを見る限り刑務所出所者の再犯率は横ばいか微減傾向にあり、決して増加はしていない。
・一方、再犯者率は増加の一途であるが、現在の日本の状況に照らせば、当たり前であり、望ましい数字であるとも言える。 世の中には、どの社会にも、どの時代にも、犯罪を繰り返す者が一定数いる。海外の研究で繰り返し報告されている知見によれば,世の中の犯罪の過半数は,人口で言うと数%程度の慢性的犯罪者によるものだということがわかっている。彼らはいわば,「コアな犯罪者」である。
・一方、経済状況が悪化したときや、社会の混乱時などには、そのような社会状況に影響を受けた機会的、偶発的な犯罪者が増加する。わが国の場合、終戦直後、高度成長期、バブル崩壊時などが、これに当たる。
・先述したとおり、ここ10年以上犯罪は減少傾向にあり、このような機会的犯罪者が減少している。すると、社会情勢がどうであれ常に犯罪を行う「コアな犯罪者」が残り、彼らが犯罪を繰り返しているのであるから、再犯者率は増加する。
・このような状況のなか、当然、開放処遇に適する受刑者は減少しているはずである。そのため、少々無理をして、あるいはハードルを下げて、今回の容疑者のような者を選ばざるを得なくなっているのであれば、再度基準を厳格にとらえ直すべきであろう。
▽もう1つの刑務所事情:刑務所内引きこもり
・平尾容疑者が逮捕後、明らかにした点として、刑務所でのいじめなど対人関係上の問題が逃走の原因であるという。 実はここしばらく日本の刑務所が頭を抱える問題は、逃走や暴動など、欧米の刑務所を悩ませている問題とは大きく異なっている。
・日本の刑務所特有の問題は、「刑務所内引きこもり」とも言える現象である。受刑者同士の対人関係のいざこざや、他の受刑者からのいじめなどから、刑務作業を拒否して、「自室」に引きこもってしまう受刑者が数多くいる。
・その原因としてはいくつか考えられるが、第1に、問題を「内面化」して、内にため込みやすい国民性が挙げられるだろう。ケンカや暴動に発展しない反面、問題をため込んで引きこもってしまうのである。
・第2に、わが国の刑務所は、他国の刑務所と比べて、受刑者同士、職員と受刑者の対人関係が密接であることが考えられる。 例えば、わが国の刑務所には俗に「雑居房」と呼ばれる集団室が多く、集団生活の場が格段に多い。また、刑務作業として、毎日の大半を共同作業に従事している。
・ハリウッド映画などに出てくる海外の刑務所を見てもわかるように、受刑者は個室で生活しているし、昼間も特段の作業に従事せず、グランドでキャッチボールや雑談に興じたりしている。 これも国民性の違いであるが、海外の刑務所関係者が一様に驚嘆の声を上げるほど、わが国の刑務所処遇は、諸外国とは大きく異なっている。
・第3に、わが国の刑務所は「規律維持」に大きな力が傾注され、ともすれば受刑者の一挙手一逃走を細かく規定するような非人間的な処遇にもつながってしまう。 集団生活が多く、受刑者同士の接触が多いという特色上、ケンカや暴動などに発展しないように、規律の維持は重要であるが、厳しい締めつけは、不適応者を生む土壌ともなってしまう。
・このような背景は、もちろん良い面もあるし、海外の刑務所が見習うべき点も少なくないが、一方で、それらが裏目に出たり、行き過ぎたりして、集団生活になじめず、個室に閉じこもってしまう者が出てくるわけである。 刑務所ではこれを「作業拒否」と呼んでおり、規律違反行為である。私も刑務所での勤務時に、多くの作業拒否受刑者と面接をしたことがある。
・最初は、刑務所処遇に反抗して、作業を拒否しているのかと思ったものだが、面接してわかったことは、彼らは繊細で小心な者ばかりで、刑務所内での対人関係に耐えかねて、引きこもってしまっていたのである。
・通常の刑務所であれば、引きこもることもできたかもしれないが、皮肉なことに開放処遇の施設では、それもできない。平尾容疑者は、内に逃げることができずに、外に逃げるしかなかったのであろう。 一般の社会以上に人間関係が濃密になる刑務所、しかもそこで共同生活しているのは皆、犯罪者であるから、一筋縄ではいかない人々である。受刑者同士の人間関係のケアや「刑務所内引きこもり」対策は、非常に重要な課題である。
▽開放処遇をやめるべきでない理由
・平尾容疑者の事件を受けて、開放処遇を疑問視する意見が少なくない。しかし、理由はこのあと述べるが、私はその意見には反対である。また、GPS装置を装着させ、監視をしたうえで開放処遇をすればよいという意見もあるが、これにも賛成できない。
・「監視されているから逃げない」「罰を受けるから逃げない」という認知は、いかにも犯罪者的な認知であるし、単なる罰による脅しでしかない。 刑務所で教育すべきことは、犯罪者的認知を改め、「ルールを重視し、自主的にルールを守ること」であり、「逃げてはいけないから逃げない」「やってはならないことは、やらない」という規範の内面化を促進することである。 さらに、信頼関係や自律性を育むこととも重要であり、これらが開放処遇の真髄であるはずだ。
・では、開放処遇をなぜやめるべきでないか、その理由と意義は次のとおりである。 事件後、法務省が繰り返し強調したように、開放処遇は受刑者処遇のなかでも重要な意義がある。それは、再犯抑制効果の大きさである。 開放施設を退所した受刑者の刑務所再入率をみたとき、法務省発表のデータによれば、大井造船作業場は10%、市原刑務所は8%であり、全国平均の43%を大きく下回っている。
・もちろん、そもそも開放処遇適格者として選ばれた者の数字であるから、処遇如何を問わず、元々犯罪傾向が低かったためという見方もできるが、それでもこの数字は際立っている。 最近の犯罪心理学の研究データを見れば、最も再犯抑制効果が高いのは、刑務所などの施設処遇や刑罰のみに頼った場合ではなく、社会内で心理療法などの治療的介入を実施した場合であることがわかっている。
・同じ治療でも、閉じ込めて塀のなかで実施する場合と、社会内で実施する場合とでは、効果が大きく異なってくる3。 いくら自業自得とはいえ、刑務所に収容され、家族から見放されたり、仕事を解雇されたりすれば、釈放後、元の生活に戻ることはきわめて困難になる。そして、それがまた再犯に追いやってしまうことになる。
・法治国家である以上、犯罪者に対する刑罰の必要性を軽視するわけにはいかないが、社会から切り離してしまえば切り離してしまうほど、再犯リスクが増え、かえって社会への脅威となることを、われわれは知っておくべきであろう。 開放処遇は、施設処遇と社会内処遇の中間的な性格であり、いわばその両者のよいところを取った先進的な処遇であると言える。
・松山刑務所大井造船作業場の場合、50年余の歴史のなかで、逃走事件が20件に及ぶという。逃走があってはならないものであると考えると、この数は多いと言わざるを得ないし、一旦逃走が起きると今回のように周辺住民に多大な迷惑が及ぶことは事実である。
・一方、再犯の抑制というベネフィットを考慮したとき、このリスクをどれだけ許容できるか。そして、開放処遇の良さを生かしつつも、効果的な逃走防止策はあるか。それを今一度冷静に考えるべきであろう。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55621

次に、健康社会学者の河合 薫氏が5月8日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「4時間でぼろ儲け企業」と塀なき刑務所の接点 低い再入率を支える刑務官の優しさと厳しさ」を紹介しよう’▽は小見出し)。
・今回のテーマは「自首」、いや「自主」。 しょっぱなから、ギャグにもならないオヤジギャグ(オババギャグ? 笑)で申し訳ない。が、連休のリフレッシュな気持ちもつかの間、現実の“塀の中”で萎えそうになっている気持ちに喝を入れるべく、自主的に動く、ことについてアレコレ考えてみようと思った次第だ。
・「人間関係がイヤだった」との理由(本人説明)から、22日間の逃亡劇を演じた男が収容されていた松山刑務所大井造船作業場(愛媛県今治市)は、ご承知のとおり「塀のない刑務所」の異名をもつ開放的矯正施設である。
・その開設に尽力したのが、一代で造船・海洋を中心とした来島グループ(来島ドックグループ、180社を超える巨大企業群)を作り上げた坪内寿夫氏(故人)だ。坪内氏は誰もが匙(さじ)を投げるような倒産寸前の企業を、ことごとく引き受け、蘇らせた。 その手腕を強引すぎると批判する人もいるが、そこには「現場の従業員たちを路頭に迷わせたくない」との強い信念があった。
・1961年、坪内氏は来島ドックの大西工場(現:新来島どっく大西工場)を新設する際、松山刑務所の構外に泊まりこみ作業場として、木造平屋建ての大井作業場を開設。この更生保護事業が、現在の松山刑務所大井造船作業場の原点である。
・受刑者が収容されている鉄筋5階建ての寮舎(友愛寮)は出入り自由。部屋には鍵がなく、窓の鉄格子もない。刑務所の作業員は大西工場で一般従業員と一緒に働き、区別されているのはヘルメットの色のみ。作業のスキルアップに必要な資格取得の際には、一般従業員の上司から指導を受ける。
・休日には地域の海岸や神社、駅の周辺の溝、標識などの清掃活動にも積極的に参加し、受刑者たちで自治会を組織し受刑者を管理するシステムを取るなど、受刑者として厳しい規律を課せられる以外は、当人たちの自主性に任されている。
・61年の開設から2011年までに3547人の受刑者が就業し、そのうちおよそ7割の2517人が仮釈放され、8割が鉄工の仕事、2割は飲食等の仕事に就いているそうだ(アムネスティ・インターナショナル日本より)。
・大井作業場で刑期を終えた全受刑者が再び刑務所に入る「再入率」は6.9%で、全国平均の41.4%と比べると大幅に低い。また、仕事に就いている人の再犯率が7.6%であるのに対し、無職者は28.1%と4倍も多いことから、法務省では積極的に受刑者たちのキャリア支援に取り組んでいる(平成21~25年度「保護統計年報」)。
▽“塀”の高さにショック
・以前、私が刑務所を訪問した時のことはこちらに書いた(“塀の中”で見えた「依存なき自立」観の罪深さ)。 受刑者たちにキャリア教育を行なっている支援者の方から、「刑務所内でのキャリア支援は、再犯を防ぐためにとても重要です。もっと受刑者に効果的な授業をやりたい。そのために力を借りたい」といった内容のメールをいただいたのがきっかけだった。
・刑務所を初めて訪問したとき、私は“塀”の高さにショックを受けた。外からみるとただの物理的な塀が、中に入ると正に“壁”として存在し、その高さに圧倒されたのだ。 受刑者たちの作業、キャリア教育の講義、塀の外の人(=刑務官や支援者)と受刑者の関係、そのすべての間にとてつもない高い塀(=壁)が立ちはだかり、私の感情は複雑に揺れた。「塀のない刑務所」脱走犯が「刑務官との人間関係がイヤだった」と言うような人間関係は、私が見た塀の中にはなかった。
・クリーニング、民芸品の作製、洋服の縫合などの刑務作業は、刑務官の監視する中で行われ、受刑者は決められた姿勢で、規律正しく、言葉を発することも許されず、ひたすら手を動かす。 キャリア教育の60分間の講義中も、受刑者たちは足をそろえ、背筋を伸ばして、視線をそらすこともなく、講師の先生の話を聴く。時折、意見を求められ発言の機会を与えられるが、答えにも無駄がない。
・独特の空気感への極度の緊張から、私が受刑者に「仕事をしたいですか?」などと愚問を投げかけてしまったときもそうだった。「仕事をしてお金を稼がないと、生活できない」「仕事をして、自立したい」「仕事をして、普通の生活をしたい」「仕事をして、人を喜ばせたい」と、回答の内容そのものは極めて普通だが、そのやり取りは良く言えば洗練、悪く言えば冷淡。私たちが日常経験する「関係性」とか「交流」というものとは明らかに異なる。
・……温度感。そう、人と人の温度感。徹底的に“監視”されている塀の中では、日常私たちが人間関係を築くときに生じる「温度感」とは異質のものが漂っていたのである。 それだけに今回の脱走犯が収容されていた「塀のない刑務所」には、再犯率の低さだけでは語りきれない、人が生きるための大切なモノが存在していると私は確信している。
・ところが法務省は今回の事件を受け、GPS端末で受刑者を監視する案の検討をスタート。松山刑務所の吉田博志所長も会見し、「今後の作業場の運営について、収容者の面接やカウンセリングの仕方、自治会のあり方、刑務官の指導方法をはじめ、施設のハード面まで総合的に見直し、再発防止策を検討していく(参考記事)」とした。
▽問題が起こる→厳罰、は解決の手立てになるのか
・目撃情報のあった向島に投入した捜査員は延べ6000人超。住民の方たちの不安とストレスを鑑みれば、なんらかの対策を施すことは必要だろう。 だが、問題が起こる→監視、問題が起こる→厳罰、という方向性は、果たして問題を解決する手立てになるのか。
・メディアは「厳し過ぎる作業所」「刑務官のイジメ」「脱走犯の多さ」といったネガティブな面だけを取り上げ、「刑務官批判」ともいえる報道を繰り返しているけど、私が塀の中で感じたのは、刑務官たちの愚直なまでの優しさと厳しさだった。
・彼らは「少しでも受刑者たちの励みになれば」と正月に餅つきをしたり、クリスマスには小さなケーキを振る舞ったり、日常の食事も決められた予算の中で少しでも美味しいものをと、知恵を絞っていた。出所後にサポートしたくても、接点をもってはいけないという規則があるので「無事」を願うしかない。
・偶然スーパーなどで出会い、向こうから「がんばってます!」と声をかけてくれたときが唯一、「自分たちのやっていたことは無駄じゃなかった」と思える瞬間で、「二度と戻ってきません」と出所するときに断言していた受刑者が、再び戻ってきたときの空しさなどを話してくれた。 大井造船作業場の刑務官の方たちも、同じだと思う(人事院のホームページから)。
・これは「人事院総裁賞」職域部門賞を受賞したときのもので、
 +「民間従業員の方々が受刑者の謙虚な態度に感嘆し、部下として、あるいは同僚として受刑者を温かく見守ってくれている」ということ
 +「開設当時は、地域には懲役受刑者に対する忌避感があったが、今は町内清掃奉仕の際、『おはようございます。ご苦労さま』と声を掛けてくれる」こと
 +「受刑者の活動を発表する文化祭には、地域から多数の方々に御来場いただき、彼らの活動に温かいまなざしを向けていただいている」 といったことが、刑務官がインタビューに答える形で掲載されている。
・刑務官たちのはにかんだ笑顔は、自分たちの思いが届き、数字として現れていることへの誇りだ。 冒頭で紹介した坪内氏は53年に「町の唯一の産業である来島船渠を再建してほしい」と、波止浜町(現今治市)の今井五郎町長に拝み倒され、来島船渠(せんきょ、後の来島どっく)の社長になった。再建に失敗すれば何もかも失ってしまう。妻のスミコには「一文無しになってもいいか」と問うほどの覚悟で挑んだそうだ(「向学新聞」より)。
・最初の仕事は工場内の雑草抜きと機械のさび落とし。工場は蘇るも一向に注文が来ない。そこで坪内は「海を走るトラック」と呼ばれる貨物船を作り、船主たち販売。これが成功し、来島船渠は生き返った。坪内氏は85年に円高不況で、来島どっくグループが6000億円超の負債額を抱え窮地に追い込まれた時も、個人資産の全てを投げ出し、最後まで資金繰りに苦悩する船主たちを守り続けた。
・そんな「現場の人たち」に寄り添い続けた坪内氏が、亡くなる瞬間まで尽力したのが、囚人の更生保護事業だ。「金もいらん、名誉もいらん、わしがあの世に行く時は、手紙で一杯になっている段ボール箱一つ担いでいくんだ」 坪内氏は晩年、受刑者から届いた感謝の手紙を身辺から離さず、折にふれ、側近に読ませていたという。
・坪内氏は逃亡犯に、何と声をかけるだろうか? 坪内氏は、監視を強めようとする動きに、どう意見するだろうか。 残念ながらその答えはわからない。 だが、坪内氏が「人の力」を信じる気持ちが、3000人もの受刑者の「再入率」は6.9%という数字に反映されているのではないか。 再入率の低さは「模範囚だけが収容されていることによる」との指摘もあるが、刑務官や関係者に意見を聞くと、「それを加味しても低い。一般の人たちに交じって就業経験する意義は大きい」と口をそろえる。
▽物理的な壁をなくすことが、心の壁をなくす
・塀のない刑務所とは、「自分で決められる自由」があるとき、人は自主的に行動するという信念に基づいた刑務所。どんなに信頼しても裏切り、恩を仇で返すような人がいるかもしれない。それでも物理的な壁をなくすことが、心の壁をなくすと、坪内氏、刑務官、支援者、そして地域の人たちが信じ、その信念への答えが段ボールに詰まっているのだ。
・「刑務所は社会の縮図」と、刑務官たちは言う。監視と管理を進めようとする今回の動きは、私たちの社会の動きそのものなのでは? と思ったりもする。 それを考える上で参考になる、ある企業を、最後に紹介する。
・「ebm パプスト社」。従業員1万4000人が働く、ドイツ南部の工業用通気システムを製造する世界的企業だ。 パプスト社は、「一日いつでも、最低4時間だけ出社すれば、あとの労働時間は好きにふりわけていい」という夢のような労働条件で、生産性を上げた。 今から4年前、人手不足に悩んでいたパプスト社は、「働き方を変えよう。出社から、結果の文化に変えよう。若い世代を呼び込むには、もっと自由が必要だ」と、シフト制を廃止。一日のうち最低4時間出社していれば、日中の労働時間は好きなように振り分け、残業した場合は「時間口座」に貯めることができるようにしたのだ(時間口座は、働く人たちは必要なとき自分の口座から残業時間をおろし、有給休暇として使うことができる制度)。
・ところが、自由を与えられた社員たちは「上司がいるのに帰れない」とトップに直訴。それでもトップは「結果さえ出せばいいんだ。みんなで文化を変えよう!」と、何度も何度も社員に言い続けた。「僕は社員を信じている」
・その気持ちが社員にも伝わったのだろう。社員たちは次第に自分のペースで、自分がもっとも結果を出せる働き方を工夫するようになり、生産性は右肩上がりで向上。現在の売上高は19億ユーロ、日本円で約2520億円。現地知人によると、本社のエンジニアの売上高は一人あたり2億円近くとの情報もある。
・「僕は社員を信じている」と、パプスト社のトップは断言する。そして、「自由に慣れ、堕落した働き方をする社員も出てくるかもしれない。大切なのはそのリスクを経営者が常に考え、働く人たちと向き合うことだ」と。
・現在、同社は「一日の最低出社時間」も廃止し、「最低週38時間は必ず働いてくれればいい。ただし、一日働いた時間は必ず記録して欲しい」と、労働者の健康を守るために時間管理義務(企業)の協力をしてもらっている。
・信頼の上に信頼は築かれ、期待の先に結果がある。そのシンプルな「人」の摂理を私たちは忘れているのかもしれない。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/050700158/?P=1

第一の記事で、『意外なところでは、網走刑務所も開放処遇を行っている・・・網走刑務所を訪れて驚くのは、その施設の広大さで、何と東京都新宿区と同じくらいの敷地面積がある。施設内の水路には、毎年何百匹もの鮭が遡上する』、というのには驚かされた。 『私自身、東京拘置所に心理技官として勤務していた時代、これら受刑者の分類に携わっていた。なかでも、大井や網走に移送する者たちの選抜には、とても苦労した記憶がある』、この問題を語るには最適任者といえよう。 『単純に計算すれば、刑務所に入るのは犯罪者のなかのわずか1%足らずであり、悪い意味で「選ばれた者たち」である。したがって、開放処遇対象者の選抜とは、言葉は悪いが、「悪人のなかから善人を選ぶ」という矛盾した作業であるから、その困難さはご想像いただけるであろう』、なるほど。 『彼の従前の犯行の態様や逮捕時の逃走のエピソードを知れば、開放処遇には不適格であると考えざるを得ない』、その背景を、『世の中の犯罪の過半数は,人口で言うと数%程度の慢性的犯罪者によるものだということがわかっている。彼らはいわば,「コアな犯罪者」である・・・ここ10年以上犯罪は減少傾向にあり、このような機会的犯罪者が減少している・・・このような状況のなか、当然、開放処遇に適する受刑者は減少しているはずである。そのため、少々無理をして、あるいはハードルを下げて、今回の容疑者のような者を選ばざるを得なくなっているのであれば、再度基準を厳格にとらえ直すべきであろう』、と深く分析したのはさすがである。 『日本の刑務所特有の問題は、「刑務所内引きこもり」とも言える現象である。受刑者同士の対人関係のいざこざや、他の受刑者からのいじめなどから、刑務作業を拒否して、「自室」に引きこもってしまう受刑者が数多くいる・・・通常の刑務所であれば、引きこもることもできたかもしれないが、皮肉なことに開放処遇の施設では、それもできない。平尾容疑者は、内に逃げることができずに、外に逃げるしかなかったのであろう』、というのは皮肉なことだ。 『再犯の抑制というベネフィットを考慮したとき、この(逃走)リスクをどれだけ許容できるか。そして、開放処遇の良さを生かしつつも、効果的な逃走防止策はあるか。それを今一度冷静に考えるべきであろ』、という結論には大賛成だ。
上記記事だけでも十分かと思ったが、第二の記事を紹介したのは、現在の松山刑務所大井造船作業場の原点が、『1961年、坪内氏は来島ドックの大西工場(現:新来島どっく大西工場)を新設する際、松山刑務所の構外に泊まりこみ作業場として、木造平屋建ての大井作業場を開設。この更生保護事業』、にあることを紹介したかったからである。坪内氏は佐世保重工の再建でも世の中を賑わせた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9D%AA%E5%86%85%E5%AF%BF%E5%A4%AB
『塀のない刑務所とは、「自分で決められる自由」があるとき、人は自主的に行動するという信念に基づいた刑務所』、を安易に厳しくすべきでないとの主張には賛成だ。ただ、『ebm パプスト社』の事例は確かに素晴らしいが、果たして一般化できるかという疑問も残る。
記事からは、離れるが、私は、開放型施設での逃走事件に備えた訓練が不十分だったのではないか、との疑念を拭うことが出来ない。マスコミの報道も遠慮がちで、捜査員の投入も当初は人数が少ない逐次投入で、警察犬の投入も遅かった印象を受けた。法務省の見直しでは、警察も含めてほしいものだ。
タグ:日経ビジネスオンライン 現代ビジネス 河合 薫 松山刑務所 原田 隆之 逃走事件 (日本の刑務所が抱える「受刑者引きこもり」という深刻な問題、「4時間でぼろ儲け企業」と塀なき刑務所の接点) 「日本の刑務所が抱える「受刑者引きこもり」という深刻な問題 「松山刑務所逃走事件」から見えたこと」 塀のない刑務所 大井造船作業場 平尾龍磨受刑者が逃走 逮捕されるまでの23日間 開放処遇 民間会社の手厚い協力の下、更生と社会復帰に向けての処遇がなされている 選抜される条件はかなり厳しく 市原刑務所 交通刑務所 網走刑務所も開放処遇を行っている その施設の広大さで、何と東京都新宿区と同じくらいの敷地面積がある。施設内の水路には、毎年何百匹もの鮭が遡上する 私自身、東京拘置所に心理技官として勤務 受刑者の分類に携わっていた 刑務所に入るのは犯罪者のなかのわずか1%足らずであり、悪い意味で「選ばれた者たち」である 開放処遇対象者の選抜とは、言葉は悪いが、「悪人のなかから善人を選ぶ」という矛盾した作業であるから、その困難さはご想像いただけるであろう 彼の従前の犯行の態様や逮捕時の逃走のエピソードを知れば、開放処遇には不適格であると考えざるを得ない 世の中の犯罪の過半数は,人口で言うと数%程度の慢性的犯罪者によるものだということがわかっている。彼らはいわば,「コアな犯罪者」 ここ10年以上犯罪は減少傾向にあり、このような機会的犯罪者が減少している。すると、社会情勢がどうであれ常に犯罪を行う「コアな犯罪者」が残り、彼らが犯罪を繰り返している 当然、開放処遇に適する受刑者は減少しているはずである。そのため、少々無理をして、あるいはハードルを下げて、今回の容疑者のような者を選ばざるを得なくなっているのであれば、再度基準を厳格にとらえ直すべきであろう もう1つの刑務所事情:刑務所内引きこもり 通常の刑務所であれば、引きこもることもできたかもしれないが、皮肉なことに開放処遇の施設では、それもできない。平尾容疑者は、内に逃げることができずに、外に逃げるしかなかったのであろう 開放処遇をやめるべきでない理由 開放処遇は受刑者処遇のなかでも重要な意義がある。それは、再犯抑制効果の大きさである 再犯の抑制というベネフィットを考慮したとき、このリスクをどれだけ許容できるか。そして、開放処遇の良さを生かしつつも、効果的な逃走防止策はあるか。それを今一度冷静に考えるべきであろう 「「4時間でぼろ儲け企業」と塀なき刑務所の接点 低い再入率を支える刑務官の優しさと厳しさ」 開設に尽力したのが、一代で造船・海洋を中心とした来島グループ(来島ドックグループ、180社を超える巨大企業群)を作り上げた坪内寿夫氏(故人)だ 坪内氏は来島ドックの大西工場(現:新来島どっく大西工場)を新設する際、松山刑務所の構外に泊まりこみ作業場として、木造平屋建ての大井作業場を開設。この更生保護事業が、現在の松山刑務所大井造船作業場の原点 題が起こる→厳罰、は解決の手立てになるのか 塀のない刑務所とは、「自分で決められる自由」があるとき、人は自主的に行動するという信念に基づいた刑務所 ebm パプスト社 ドイツ南部の工業用通気システムを製造する世界的企業 一日いつでも、最低4時間だけ出社すれば、あとの労働時間は好きにふりわけていい」という夢のような労働条件で、生産性を上げ
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