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欧州(その4)(イタリア:「イタリア式狂騒曲」しかしEU離脱はない BREXITが反面教師に、イタリアは「ユーロ離脱」を問うべきでない 国債金利急騰という市場の審判に耐えられず、高まる懸念、イタリアが弾くユーロ離脱ドミノ 当面は残留も 長期的には離脱に向かう可能性) [世界情勢]

欧州についは、1月1日に取上げた。今日は、(その4)(イタリア:「イタリア式狂騒曲」しかしEU離脱はない BREXITが反面教師に、イタリアは「ユーロ離脱」を問うべきでない 国債金利急騰という市場の審判に耐えられず、高まる懸念、イタリアが弾くユーロ離脱ドミノ 当面は残留も 長期的には離脱に向かう可能性)である。

先ずは、元日経新聞論説主幹の岡部 直明氏が5月29日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「「イタリア式狂騒曲」しかしEU離脱はない BREXITが反面教師に」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ユーロ圏第3位の経済規模であるイタリアで政治混迷が収まらない。いったんポピュリスト(大衆迎合主義)政党の「五つ星運動」と極右「同盟」による連立で合意した。しかし首相に指名されたジュゼッペ・コンテ氏の閣僚名簿のなかでユーロ離脱派の財務相候補に、マッタレッラ大統領が拒否権を発動した。
・このためコンテ氏は組閣を断念、イタリアは実務者内閣への組み換えか再選挙に追い込まれることになった。イタリア政治の混迷は英国のEU離脱(BREXIT)や旧東欧圏のEU批判など難題を抱えるEUにとって、新たな火種である。しかし、2019年3月の離脱期限を前に、BREXITをめぐる混乱はEU諸国の反面教師になっている。どんなイタリア政権であれ、EU離脱は選択できないだろう。
▽政治混迷の戦後史
・戦後のイタリア政治といえば、混迷と短期政権が付き物だった。長期の安定政権は到底、期待できず、アングラ経済がはびこる要因とされてきた。今回の政治混乱もそんな「イタリア式狂騒曲」の一形態といえるだろう。
・もともと、ポピュリストの五つ星と極右の同盟は水と油で、連立はありえないとみられてきた。五つ星はコメディアンのグリッロ氏が立ち上げた草の根の政治運動で、初の女性ローマ市長を誕生させて注目された。環境保護を掲げるとともに、EU統合に懐疑的だ。
・一方で、同盟は北部同盟として出発した。フランスの「国民戦線」と組む極右政党である。ユーロ圏からの離脱や反移民、難民を掲げてきた。互いに批判し合ってきたが、中道の既成政党がいっせいに没落するなかで、極右・ポピュリスト連立が浮上した。
・極右ポピュリズムといえば、その元祖はイタリアが生んだ独裁者、ムッソリーニがあげられる。ヒトラーがその政治手法をお手本にした。戦後のイタリア政治は、独裁者・ムッソリーニの轍を踏まないよう、元老院や地方政府に権力を分散する政治制度を採用した。それが政治の「イタリア式狂騒曲」を生む結果になったのは歴史の皮肉である。
・そうしたイタリア政治の混迷を打開しようと、若きレンツィ首相は2016年12月、憲法改正の国民投票に打って出た。しかしそれは裏目に出る。国民投票は否決され、改革派のレンツィ首相は退陣に追い込まれる。それがいまのイタリア政治の混迷につながっている。「イタリア式狂騒曲」はなお続くと考えておかなければならないだろう。
▽「学者首相」の組閣断念
・極右・ポピュリスト連立政権構想で首相に指名されたのは、五つ星のディ・マイオ党首でも同盟のサルビーニ党首でもなかった。政治経験のまったくない民法学者のコンテ氏だった。もちろん混迷のイタリア政治では、学者が首相になるのは珍しくない。最近では2011年、財政危機打開のため、経済学者のマリオ・モンティ氏が首相に担ぎ出されている。モンティ氏はブリュッセルのシンクタンク、ブリューゲルの所長をつとめるなど、熱心な欧州統合論者として知られていた。イタリア再生とEU再生にとって期待の星だったのである。
・モンティ首相の経済政策は改革と成長の両立をめざすもので、ユーロ危機後のEU改革のモデルになったほどだ。事実、メルケル独首相は、影の薄かったオランド仏大統領よりもモンティ首相を頼みにしていた。EU首脳会議の取材でこんな光景を見たことがある。メルケル首相が会議場の片隅で最も長く話し込んでいたのはモンティ首相だった。まるでモンティ教授に教えを乞うように見えた。
・これに対して、無名のコンテ氏は組閣断念に追い込まれる。ユーロ離脱を主張してきたエコノミストのサボナ氏を財務相に起用することに、EUの原加盟国でユーロの創設メンバーであるイタリアの将来を揺るがすとマッタレッラ大統領が強い危機感を示し、拒否したからだ。コンテ氏の挫折が最初にあったことは、イタリアの将来にとっては不幸中の幸いというべきかもしれない。
▽財政バラマキなら危機増幅の恐れ
・なにしろ極右・ポピュリスト連合が打ち出したのは、最低所得保障制度の導入や大幅減税など、無責任な財政バラマキ策である。失業者一人当たり月780ユーロ(約10万円)の最低所得保障を実施する。合わせて、法人・所得税を20%、15%の2段階に簡素化し、減税する。これらの財政負担は少なくとも年650億ユーロかかる計算だ。
・いったんは、欧州中央銀行(ECB)が保有するイタリア国債の債務免除(2500億ユーロ)まで検討したが、批判が集中すると、今度は、このイタリア国債を財政赤字とみなさないよう求める構えだった。イタリア財務省出身のドラギECB総裁のメンツをつぶすような無理難題だといえる。
・極右・ポピュリスト連立合意では、EUの基本である財政基準の緩和も求めていた。財政赤字の国内総生産(GDP)比を3%以内にする基準である。イタリアの財政赤字のGDP比は2017年に2・3%と基準内にあるが、財政バラマキが実施されば、基準を突破しかねない状況だ。政府債務残高のGDP比は130%とギリシャの180%に次ぐ高水準にある。ユーロ基準の60%の倍以上にあたる。
・イタリアの放漫財政懸念からイタリア国債は売られ、30年物国債の利回りは3%台に上昇している。EU内では、フランスのメール財務相が連立政権の放漫財政に警告を発している。マクロン仏大統領が主導しようとしているユーロ改革に冷水を浴びせる恐れがあるからだ。
・このまま、放漫路線を突き進めば、イタリアがEU内で孤立する可能性が強い。それどころか、イタリア国債の利回り急騰など市場の反乱から、ただでさえ停滞するイタリア経済が危機に逆戻りする危険がある。
▽英国との類似点と相違点
・政治混迷を経てイタリアは、EU離脱で英国の後を追うことになるのか。世界の市場はそこを注視している。たしかに英国とイタリアには、類似点がある。その一方で相違点も多い。
・1992年、欧州通貨危機で英ポンドとイタリア・リラはともにユーロの前身である欧州通貨制度(EMS)の為替相場メカニズム(ERM)から離脱を余儀なくされる。ヘッジ・ファンドの帝王であるジョージ・ソロス氏から売り投機を浴びせられたからだった。ERM離脱は同じだったが、その後が違った。英国はそのままERMには復帰せず、ユーロにも加盟しないまま現在に至っている。そしてBREXITである。その一方で、イタリアは1996年にはERMに復帰する。そしてユーロの創設メンバーになる。
・EUの原加盟国のなかで「イタリアはずし」を進めようという構想である。これに怒ったイタリア政府はドイツが求める国連安全保障理事会の常任理事国入りに反対する方針を示したほどだ。そんな経緯を経て、イタリアはやっとユーロの創設メンバーになれたのである。
・そのイタリアが、ギリシャに端を発するユーロ危機ではPIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)と呼ばれる弱い輪の一角になってしまう。さらに、イタリアが放漫財政に傾斜する事態になれば、イタリアの危機がユーロ圏の危機、さらにはEUの危機に連鎖する危険も出かねない。
▽EUの新たな波乱要因に
・EUはただでさえ難題に直面している。英国のEU離脱だけではない。EU主要国のなかでもフランスの「国民戦線」、ドイツの「ドイツ人のための選択肢」、オランダの自由党など極右勢力が政権を脅かす存在になり、オーストリアでは2017年12月に右派連立政権が発足している。 さらにポーランド、ハンガリーなど旧東欧圏には、EU批判が公然化している。EU離脱論は聞かれないが、難民受け入れなどをめぐって、ドイツなど主要国との食い違いは大きくなっている。
・それだけに、ユーロ圏経済第3位のイタリアの政治混乱の衝撃は大きい。ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領の独仏連携がEU再生にどこまで指導力を発揮できるかが試されることになる。
▽BREXITの混乱で離脱ドミノ起きず
・しかし、どんなイタリア政権であれ、EU批判の声を高めても、EU離脱やユーロ離脱に動く可能性はないだろう。五つ星運動が3月の総選挙で第1党になったのは、当初主張していたユーロ離脱を引っ込めて有権者に安心感が広がったことも大きかった。EUからイタリアが受ける大きな恩恵を考えれば、EU批判とEU離脱は別物であるのはすぐわかる。
・なにより、BREXITをめぐる混乱が反面教師になるだろう。2019年3月の離脱期限に向けてBREXITは難交渉が続く。北アイルランドとアイルランドの国境問題はまだ解決していない。離脱後のEUとの自由貿易協定(FTA)も金融を含めるかどうかなど不透明な要素が大きい。
・イタリアの極右・ポピュリズム政権の誕生で、EUは英国に対してますます「いいとこ取りは許さない」(メルケル独首相)という強い態度を取るしかなくなる。離脱交渉はこれまで以上に難航すると考えておかなければならない。
・すでに、金融機関を中心に英国から欧州大陸への機能分散が相次いでいる。このままでは金融センターとしてのロンドン・シティーの座も危うくなりかねない。EUと外資に依存してきた英国にとって、離脱に伴う外資流出は致命的である。ポンド安を超えてポンド危機に陥り、新「英国病」を招きかねない。
・EUのなかでインサイダーとして生きてきたイタリアにとって、EU離脱・ユーロ離脱への道はない。もし、誤った道を歩もうとすれば、その政権は崩壊するしかないだろう。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/071400054/052800065/

次に、ニッセイ基礎研究所 主席研究員の伊藤 さゆり 氏が6月1日付け東洋経済オンラインに寄稿した「イタリアは「ユーロ離脱」を問うべきでない 国債金利急騰という市場の審判に耐えられず」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・5月28~29日(欧州時間)に加速した政局不安に端を発するイタリア売りは30日にいったん落ち着いた。セルジョ・マッタレッラ大統領が反対したユーロ懐疑派の財務相候補の人事を見直すことで、「五つ星運動」と「同盟」による連立政権樹立の可能性が再浮上したことが背景だ。
・五つ星運動と同盟の連立は、欧州連合(EU)懐疑主義政権として、さまざまな連立の組み合わせの中で、イタリアの信用力にとって「最悪」とされてきたはずだ。ところが、その両党による政権樹立の動きを、市場はマッタレッラ大統領により首相に指名されたカルロ・コッタレリ元国際通貨基金(IMF)財政局長による実務家内閣よりも好感した形だ。
▽薄氷踏む、「同盟」と「五つ星」の連携
・なぜ、市場は五つ星運動・同盟の連立政権の方がマシと判断したのか。 おそらく、実務家内閣が発足した場合は、以下の3段階の展開が起きることが強く意識されたからだろう。 第1段階は、上下両院で五つ星運動と同盟が過半数を占める状況では、実務家内閣が信認を得ることは困難なため、早ければ7月にも再選挙になるという展開だ。第2段階は、再選挙でも、五つ星運動・同盟が合計で過半数の議席を獲得、さらに議席を上積みするという展開だ。第3段階は、再選挙は、事実上「ユーロ離脱」の是非を問う国民投票の様相を呈し、五つ星運動と同盟の勝利が、ユーロ離脱への布石となるという展開だ。
・本稿執筆時点では、このまま五つ星運動と同盟の連立政権樹立に至るのか、実務家内閣の暫定政権を経て再選挙に至るのかなど、なお流動的な情勢だ。
・直近の世論調査は、五つ星運動が第1位の座を守りつつも、やや支持を低下させる一方、同盟の支持率はうなぎのぼりで五つ星運動との差がつまりつつある。マッタレッラ大統領の弾劾を安易に口にするなど、時に政治家としての未熟さを露呈する五つ星運動のルイジ・ディマイオ党首に対し、同盟のマッテオ・サルヴィーニ書記長は信頼できる政治家としてのイメージの定着に成功しつつある。同盟は、再選挙ではいっそうの票の上積みを期待でき、中道右派連合の中核政党としての政権掌握というシナリオも思い描ける。このまま五つ星運動と歩調を合わせ続けるとは限らない。
・市場は、しばらくイタリアの政治情勢に一喜一憂させられそうだ。 現在のイタリアでは、国際条約の是非を問う国民投票の制度はないが、仮に、「ユーロ離脱」の是非を問うた場合、イタリア国民は離脱を選ぶのだろうか。
・イタリアは、EU(欧州連合)の創設メンバーであり、ユーロにも発足当初から参加している国だが、ユーロの人気は低い。EUの欧州委員会の世論調査「ユーロバロメーター」でも、イタリアのユーロへの支持はユーロを導入する19カ国で最も低い。
・2017年時点でも、家計の1人当たり実質可処分所得は、1999年のユーロ導入時の水準を下回っている。「物価水準が上がった」、「通貨切り下げという競争力回復のルートを奪われた」という不満は根強い。政治家が長年にわたって不人気な緊縮財政や労働市場などの改革の受け入れを「ユーロ導入国の義務」として国民に求めてきた結果ともいえるかもしれない。
・イタリアのユーロへの支持は、圏内で最も低いとはいえ、59%あり、国民投票があれば残留という結果が予想されるのだが、僅差となる可能性はある。フランス大統領選挙の決選投票で、親EUのマクロン大統領が、EU懐疑主義のルペン候補に勝利した決め手の1つは、ルペン候補が示唆するユーロ離脱は資産価値の低下を招き、フランスは貧しくなると、呼びかけたことだった。
・イタリアでも、人口のおよそ45%を占める豊かな北部では同様の訴えが響くだろう。しかし、人口のおよそ35%を占める南部は所得水準が低く、失業率が高止まる。繁栄から取り残されたという思いを抱く人々には、「ユーロから離脱すれば貧しくなる」という呼びかけは響きにくい。既存の体制に不満を持つ人々の意思表明として離脱票が多数を占める可能性は十分にある。
▽EUやユーロを標的にすれば市場から撃たれる
・英国のEU離脱の是非を問う国民投票で、移民にスポットがあたり、離脱の意味が十分に吟味されなかったように、ユーロ離脱のコストとベネフィットが十分検証されないまま離脱を選ぶリスクも、国民投票にはつきまとう。
・そもそも、国民投票の結果以前に、逆戻りできない通貨として導入されたユーロ離脱の是非を国民投票で問おうとする試み自体が、EU、ユーロばかりでなく、イタリアの信用を大きく傷つける。
・巨額の政府債務残高を抱えるイタリアの場合、5月28~29日に見られたように信用低下で利回りが上昇すれば、財政の余裕度は乏しくなる。五つ星運動と同盟が「政権協議」に盛り込んだ大規模な財政拡張は、EUの財政ルールに抵触することでEUとの対立が先鋭化する以前に、市場によって阻止されるだろう。
・EUでは、6月28~29日にEU首脳会議を控え、ユーロ制度改革の議論が大詰めを迎える。イタリアが強い不満を持つEUの財政ルールの見直しも課題の1つだ。イタリアの新政権は、どのような経緯で成立し、どのような組み合わせになるにせよ、EUやユーロを、有権者の不満のはけ口や支持獲得の材料とするのではなく、よりよい制度への改革に貢献し、イタリア経済の活性化に生かすことに力を注いで欲しい。
https://toyokeizai.net/articles/-/223222

第三に、ニューヨーク大学スターンビジネススクール教授のノリエル・ルービニ氏が6月6日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「高まる懸念、イタリアが弾くユーロ離脱ドミノ 当面は残留も、長期的には離脱に向かう可能性」を紹介しよう(▽は小見出し)なお、同氏は経済分析を専門とするRGEモニターの会長も務める。米住宅バブルの崩壊や金融危機の到来を数年前から予測したことで知られる。
・イタリアで欧州懐疑派の政権が誕生した。イタリア国民は現在の経済的苦境の原因がユーロにあると考えている。経済学者ノリエル・ルービニ氏は、イタリアがただちにユーロ圏から離脱することはないだろうが、長期的には離脱に傾いていくだろうと予想する。
・イタリアの株式市場も、リスクの指標となる国内銀行株を中心に株価を下げた。国債デフォルトに対する保証料率も上昇した。 さらに、イタリアが新たな国際金融危機の引き金を引くのではとの懸念さえ浮上する。特に、再び総選挙が行われ、それが事実上、通貨ユーロに対する信任投票となった場合が危険だ。
・イタリアでは今年3月に総選挙が行われ、ポピュリズム政党の「五つ星運動」と極右 の「同盟」が合わせて議会の過半数となる議席を獲得した。我々は総選挙前から既に、市場がこの国の危機にあまりにも無頓着だと警告していた。現在のイタリアの政治危機は一時的なものではない。この国はこれから、抜き差しならないジレンマに国を挙げて直面せざるを得ないのだ。それは、ユーロに縛られ続けるか、それとも経済的、政治的、制度的主権を取り戻すべく努力を始めるか、というジレンマである。
・我々は、短期的には、イタリアは妥協しユーロ圏に留まる道を選ぶと見ている。完全な離脱がもたらすであろう損害を避けるためだ。しかし、長期的には、単一通貨を捨てる誘惑に取りつかれる可能性がある。
▽責任を外圧に転嫁
・イタリアは1992年に欧州為替相場メカニズム(ERM)をいちど脱退し、96年に復帰した。それ以降、イタリアの通貨政策を決定する権限は欧州中央銀行(ECB)に委ねている。それと引き換えにイタリアは、非常に低いインフレ率と低金利の恩恵に浴してきた。巨額の公的債務に対する利払いは、GDP(国内総生産)の12%から5%へと劇的に縮小した。
・それでもイタリア国民は長く、独自の通貨政策を行使できないことに不満を抱き続けてきた。その不満がしだいに、ユーロの加盟国であることの利点を覆い隠すまでに膨らんできた。 ユーロの採用はイタリアの数多くの中小企業にとり重大な意味合いを持った。中小企業はかつて、イタリアが定期的に行う通貨切り下げに頼っていた。それにより経済システムの効率の悪さが打ち消され、競争力が維持できたのである。
・イタリア経済が非効率であることはよく知られている。硬直した労働市場、官民共に研究開発への投資が少ないこと、蔓延する腐敗、広がる脱税や課税逃れ、法制度や役所に無駄が多いこと、などだ。
・それでも、イタリアの歴代政権は、ユーロ加盟国であるために求められる構造改革を推進するにあたり、その必要性を国内状況から説くのではなく、「外的制約」を理由に挙げてきた。それがまた、改革を強要されているという感覚を強める結果となった。
▽イタリアに存在する2つの指揮系統
・通貨政策の決定権を失った結果、イタリアには実質的に2つの政治的指揮系統が出来上がった。1つはドイツ政府を起点に、欧州委員会とECBを経由してイタリアの大統領、財務省、中央銀行へと至る系統だ。この「制度的」指揮系統は、イタリアが、国内の政局とは無関係に国際的に必要な責任を果たし、EUの財政規則を遵守し続けるよう働く。
・もう1つはイタリア首相を起点に、国内問題を担当する各省庁に向かう指揮系統だ。たいていの場合、両者の足並みは揃う。 しかし、両者が相容れないときには衝突せざるを得ない。現在の危機はその一例だ。指名を受けた首相候補者が、もう一方の指揮系統に諮ることなく、新内閣の経済相に欧州懐疑派のエコノミスト、パオロ・サボナ氏を起用しようとしたことで矛盾が表面化した。大統領は当然、サボナ氏の経済相起用を拒否した。
▽差しあたりは残留、だが……
・イタリアは果たしてユーロのくびきから逃れる道を選ぶのか、という問題に戻ろう。ユーロは、利点があったとはいえ、イタリア経済に期待通りの結果をもたらさなかった。現在の1人当たりの実質(インフレ調整後)GDPは、ユーロの実験が始まった1998年当時よりも低い。ギリシャでさえ、2009年以後、不況に見舞われているにもかかわらずなんとか経済を成長に転じているのだが。
・イタリア経済が伸び悩む理由として、ユーロ圏が通貨同盟として不完全で、ドイツなど「中核」国がイタリアのような「周辺国」から雇用と資本を吸い上げていることを挙げる議論がある。これに対して、イタリアが規則や基準を守れず、通貨同盟が成功するための前提となる国内改革を実施しないことを指摘する意見もあるだろう。
・しかし今となっては本当の理由などもはや関係がない。イタリア国内には、この不況はユーロのせいであるとする説明が流布している。議会では現在、ユーロ圏からの離脱をあからさまに、あるいは密かに求めてきた政党が過半数を握る。今年または19年早々に再び総選挙を行ったとしても、ユーロ離脱派が過半数を維持する可能性が高い。
・世論調査から推測する限り、単一通貨を維持するか放棄するかの選択を迫られた場合、イタリア国民は差しあたりユーロ圏への残留を選ぶものと思われる。ギリシャが12~15年に経験した、銀行への取り付け騒ぎや公的債務の負担を恐れてのことだ。
・しかし、残留がもたらす長期的な負担を考えると、国民は離脱に傾いていくかもしれない。ユーロ圏は、ドイツが定めた必然的にデフレ圧力がかかる規則が支配しているからだ。その決断は、新たな国際金融危機か景気後退、あるいは非対称的なショックに襲われている中で下される可能性がある。そうなると、脆弱な数カ国がユーロ圏から同時に離脱することになる。
・イタリア国民は、英国のEU離脱派と同じく、世界経済の中で独力で成功を収めるために必要なものを自分たちは持ち合わせていると確信しているかもしれない。何にせよ、イタリアには世界に輸出する能力を持つ大きな産業がある。輸出業者にとって、通貨は弱いほうが利益になる。「これらの産業が潰れたり外国の手に渡ったりする前にユーロ圏から離脱しよう。既にその徴候が見られるではないか」と考えたくなっても不思議はない。
▽通貨リラの復活で貯蓄の価値は激減
・イタリアが最終的に離脱の道を選んだ場合、差し当たって負担を担うのは国内に貯蓄を持つ人々だ。その蓄えは価値の下がったリラに置き換わる。離脱により新たな金融危機が生じて銀行が業務を停止したり、資本規制が行われたりすれば、その負担は一層重くのしかかる。そうした可能性を目前にすれば、イタリア国民も15年のギリシャ国民と同じようにたじろいで残留を選ぶかもしれない。その一方で、目をつむり、思い切って離脱に踏み切ることも考えられる。
・イタリアはユーロ圏に残り、相応の改革を進めるほうがよい結果が得られるだろう。しかし、長期的には離脱する可能性のほうが高くなるのではないかと我々は懸念する。イタリアは、機関車が脱線した列車のようなものだ。つながった客車が脱線していくのは時間の問題だろう。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/226422/060500001/?P=1

第一の記事で、 『戦後のイタリア政治といえば、混迷と短期政権が付き物だった。長期の安定政権は到底、期待できず、アングラ経済がはびこる要因とされてきた。今回の政治混乱もそんな「イタリア式狂騒曲」の一形態といえるだろう』、『極右ポピュリズムといえば、その元祖はイタリアが生んだ独裁者、ムッソリーニがあげられる。ヒトラーがその政治手法をお手本にした。戦後のイタリア政治は、独裁者・ムッソリーニの轍を踏まないよう、元老院や地方政府に権力を分散する政治制度を採用した。それが政治の「イタリア式狂騒曲」を生む結果になったのは歴史の皮肉である』、『このまま、放漫路線を突き進めば、イタリアがEU内で孤立する可能性が強い。それどころか、イタリア国債の利回り急騰など市場の反乱から、ただでさえ停滞するイタリア経済が危機に逆戻りする危険がある』、などというのはさすがに的確な指摘だ。ただ、『EUのなかでインサイダーとして生きてきたイタリアにとって、EU離脱・ユーロ離脱への道はない。もし、誤った道を歩もうとすれば、その政権は崩壊するしかないだろう』、との指摘は第三の記事と比較すると、楽観的過ぎるのかも知れない。
第二の記事で、『本稿執筆時点では、このまま五つ星運動と同盟の連立政権樹立に至るのか、実務家内閣の暫定政権を経て再選挙に至るのかなど、なお流動的な情勢だ』、については、6月2日付け日経新聞は、経済・財務相に研究者出身のジョバンニ・トリア氏を就かせることで、内閣はかろうじて成立したようだ。『人口のおよそ35%を占める南部は所得水準が低く、失業率が高止まる。繁栄から取り残されたという思いを抱く人々には、「ユーロから離脱すれば貧しくなる」という呼びかけは響きにくい。既存の体制に不満を持つ人々の意思表明として離脱票が多数を占める可能性は十分にある』、『五つ星運動と同盟が「政権協議」に盛り込んだ大規模な財政拡張は、EUの財政ルールに抵触することでEUとの対立が先鋭化する以前に、市場によって阻止されるだろう』、というのは参考になる見方だ。
第三の記事で、 『現在のイタリアの政治危機は一時的なものではない。この国はこれから、抜き差しならないジレンマに国を挙げて直面せざるを得ないのだ。それは、ユーロに縛られ続けるか、それとも経済的、政治的、制度的主権を取り戻すべく努力を始めるか、というジレンマである。 我々は、短期的には、イタリアは妥協しユーロ圏に留まる道を選ぶと見ている。完全な離脱がもたらすであろう損害を避けるためだ。しかし、長期的には、単一通貨を捨てる誘惑に取りつかれる可能性がある』、という指摘は説得力がある。 『イタリアの歴代政権は、ユーロ加盟国であるために求められる構造改革を推進するにあたり、その必要性を国内状況から説くのではなく、「外的制約」を理由に挙げてきた。それがまた、改革を強要されているという感覚を強める結果となった』、つまり右派・ポピュリズム政権を誕生させた背景に、歴代政権の無責任な姿勢があるようだ。ただ、 『イタリアが最終的に離脱の道を選んだ場合、差し当たって負担を担うのは国内に貯蓄を持つ人々だ。その蓄えは価値の下がったリラに置き換わる。離脱により新たな金融危機が生じて銀行が業務を停止したり、資本規制が行われたりすれば、その負担は一層重くのしかかる。そうした可能性を目前にすれば、イタリア国民も15年のギリシャ国民と同じようにたじろいで残留を選ぶかもしれない』、というのは興味深い指摘だ。
いずれにしろ、欧州連合(EU)は、米国との貿易戦争、英国離脱と並んで難題を抱え込んだものだ。
タグ:欧州 残留がもたらす長期的な負担を考えると、国民は離脱に傾いていくかもしれない 英国との類似点と相違点 薄氷踏む、「同盟」と「五つ星」の連携 連立で合意 イタリアの歴代政権は、ユーロ加盟国であるために求められる構造改革を推進するにあたり、その必要性を国内状況から説くのではなく、「外的制約」を理由に挙げてきた。それがまた、改革を強要されているという感覚を強める結果となった 責任を外圧に転嫁 岡部 直明 「高まる懸念、イタリアが弾くユーロ離脱ドミノ 当面は残留も、長期的には離脱に向かう可能性」 伊藤 さゆり 極右「同盟」 EUのなかでインサイダーとして生きてきたイタリアにとって、EU離脱・ユーロ離脱への道はない。もし、誤った道を歩もうとすれば、その政権は崩壊するしかないだろう 人口のおよそ35%を占める南部は所得水準が低く、失業率が高止まる。繁栄から取り残されたという思いを抱く人々には、「ユーロから離脱すれば貧しくなる」という呼びかけは響きにくい。既存の体制に不満を持つ人々の意思表明として離脱票が多数を占める可能性は十分にある 「「イタリア式狂騒曲」しかしEU離脱はない BREXITが反面教師に」 しかし、長期的には、単一通貨を捨てる誘惑に取りつかれる可能性がある ポピュリスト(大衆迎合主義)政党の「五つ星運動」 政治混迷の戦後史 日経ビジネスオンライン BREXITの混乱で離脱ドミノ起きず ・イタリアは、EU(欧州連合)の創設メンバーであり、ユーロにも発足当初から参加している国だが、ユーロの人気は低い もともと、ポピュリストの五つ星と極右の同盟は水と油で、連立はありえないとみられてきた 短期的には、イタリアは妥協しユーロ圏に留まる道を選ぶと見ている。完全な離脱がもたらすであろう損害を避けるためだ このまま、放漫路線を突き進めば、イタリアがEU内で孤立する可能性が強い。それどころか、イタリア国債の利回り急騰など市場の反乱から、ただでさえ停滞するイタリア経済が危機に逆戻りする危険がある 「イタリアは「ユーロ離脱」を問うべきでない 国債金利急騰という市場の審判に耐えられず」 戦後のイタリア政治は、独裁者・ムッソリーニの轍を踏まないよう、元老院や地方政府に権力を分散する政治制度を採用した。それが政治の「イタリア式狂騒曲」を生む結果になったのは歴史の皮肉である 硬直した労働市場、官民共に研究開発への投資が少ないこと、蔓延する腐敗、広がる脱税や課税逃れ、法制度や役所に無駄が多いこと、などだ。 (その4)(イタリア:「イタリア式狂騒曲」しかしEU離脱はない BREXITが反面教師に、イタリアは「ユーロ離脱」を問うべきでない 国債金利急騰という市場の審判に耐えられず、高まる懸念、イタリアが弾くユーロ離脱ドミノ 当面は残留も 長期的には離脱に向かう可能性) 閣僚名簿のなかでユーロ離脱派の財務相候補に、マッタレッラ大統領が拒否権を発動 ノリエル・ルービニ EUはただでさえ難題に直面 東洋経済オンライン 通貨リラの復活で貯蓄の価値は激減 財政バラマキなら危機増幅の恐れ 極右ポピュリズムといえば、その元祖はイタリアが生んだ独裁者、ムッソリーニがあげられる。ヒトラーがその政治手法をお手本にした ・イタリア経済が非効率 EUやユーロを標的にすれば市場から撃たれる
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