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司法の歪み(その10)(弁護士が学校を支配する…? 「スクールロイヤー」の危うさ、日本版司法取引でえん罪は増える?不適切な法科学が用いられる危険性、検察も警察も権力に無力 カネの力で悪を討つしかない) [社会]

司法の歪みについては、8月4日に取上げた。今日は、(その10)(弁護士が学校を支配する…? 「スクールロイヤー」の危うさ、日本版司法取引でえん罪は増える?不適切な法科学が用いられる危険性、検察も警察も権力に無力 カネの力で悪を討つしかない)である。

先ずは、弁護士の大前 治氏が6月7日付け現代ビジネスに寄稿した「弁護士が学校を支配する…? 「スクールロイヤー」の危うさ 彼らがいじめ問題に関わることへの不安」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/55954
・『神木隆之介主演のNHKドラマ「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」(やけ弁)は、学校に常駐する弁護士(スクールロイヤー)が熱弁をふるって波風を立てる新形態の学園ドラマだった。主人公の極端な言動には賛否が分かれる。それが制作者の狙いであろう。 このスクールロイヤーの本格導入に向けて、文部科学省は2018年度予算で調査研究費約5000万円を確保した。しかし、弁護士が法律を使って一刀両断する手法は教育現場に相応しいのか。ドラマが投げかけた問題提起を重く受け止めるべきである』、なるほど。
・『「なんでも解決できる」という弁護士の傲慢  私は大阪で弁護士をしており、学校や教師から相談を受けることも数多くある。「それは体罰であり違法です。謝罪と再発防止策が必要です」という助言が、教師の姿勢を方向転換させて解決につながったケースもある。「その親のクレームに応じる義務はないですが、時間をかけて背景や真意を聴き取るべきです」という助言によって、教師が心理的な余裕をもって信頼関係を築けたケースもある。このように、弁護士による助言が教育現場によい効果をもたらすことはあり得る。 しかし、弁護士が「法律をタテにして正論を吐けば何でも解決できる」と思うのは傲慢であろう。 司法試験の科目には教育学も教育法規も含まれていない。弁護士は教育については素人である。そのことへの自覚と謙虚さが必要である。教師やスクールカウンセラーの専門知識や経験に敬意を払い、学びながら協力しあう必要がある。 これは、そう簡単なことではない。という思いとは裏腹に、大勢の弁護士を「スクールロイヤー」として学校教育に関与させる動きがある。本当に大丈夫だろうか』、弁護士がこういう謙虚な人ばかりであればよいが、傲慢で勘違いする人も多そうだ。
・『どんな弁護士でもスクールロイヤーになれるのか  文部科学省は、2018年度に5000万円の予算を組んで全国10地域でスクールロイヤー制度の調査研究を実施する。前年度予算は300万円(2地域)だったのと比べて、予算額も規模も一挙に拡大した。 制度の概要は次のとおりである。ドラマ「やけ弁」とは違って学校には常駐しない。法律事務所で日常業務をこなしながら、学校から相談や依頼があれば応じる形態である。 法律の専門家である弁護士が、その専門知識・経験に基づき、①法的側面からのいじめの予防教育、②学校における法的相談への対応、③法令に基づく対応の実施状況の検証、をおこなう(文科省平成30年度概算要求書より)。 弁護士は「法律の専門知識」を期待されている。しかし、教育学的知見の尊重や教師との連携が制度的に保障されていない点は問題である。 どんな弁護士でもよいのか、という問題もある。ドラマ「やけ弁」のスクールロイヤーは、法廷に立った経験のない新人弁護士であった。 難関大学に入学して司法試験にも合格できた弁護士は、成功体験に自信をもち、深刻な挫折を経験していないタイプも多い。 言語化できないストレスに苦しむ子どもや、学校に不満をもつ保護者の心情を理解できるだろうか。 そういえば、2011年6月にツイッターで「教育とは2万%、強制です」と発言した橋下徹・元大阪府知事も、2015年5月に教育委員(女性)への暴言の責任をとって辞職した中原徹・元大阪府教育長も、弁護士であった。 ともかく全国約4万人の弁護士は多種多様であり、考え方や人格のバラつきがある。 その中から誰をスクールロイヤーに選びだすのか。面接方法も採用基準も検討途上であるが、適切に人材を見極めることは極めて難しいはずである』、その通りだろう。
・『「弁護士の判断」が尊重されすぎる危険  弁護士から「これが法律的判断です」と言われたら、教師や保護者が反論をすることは難しくなる。 しかし、弁護士が学校で起きた出来事を正しく認識できるとは限らない。事実を誤解した弁護士が「あの教師の行為は体罰には該当しません」とお墨付きを与えてしまい、生徒や保護者に泣き寝入りをさせてしまう危険性もある。 スクールロイヤーの言動に対して、是正と監督の手段がない点も重大である。教師の問題行動に対しては、研修や懲戒処分による是正措置が存在する。もっとも重い免職処分を受ければ、教師は職を失ってしまう。 ところが、スクールロイヤーには本業の弁護士業務がある。スクールロイヤーを辞めても収入を失わない。だから、何も怖れることはなく、誰からも是正されずに辣腕を振るうことができる。 日常的に生徒と接することもなく、教育現場の実践と苦労を理解していない弁護士が「専門家」として招かれ、上から目線で「指導と助言」をする事態が目に浮かんでしまう』、良心的弁護士ならではの鋭い指摘だ。
・『弁護士が関わることで隠される事実  いじめ事案について、弁護士が関われば適切な対応ができるとは限らない。学校と生徒、どちらにとっての「適切な対応」を目指すかによって方向性や妥当性は変わってくる。 文部科学省が2017年3月に定めた「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」には、次のように書かれている。「学校の設置者及び学校の基本的姿勢」より 自らの対応にたとえ不都合なことがあったとしても、全てを明らかにして自らの対応を真摯に見つめ直し、被害児童生徒・保護者に対して調査の結果について適切に説明を行うこと このガイドラインが遵守されることを願いたい。いじめを早期発見できなかった教師や、いじめられた生徒をさらに傷つける言動をとった教師の問題点なども、隠さずに説明されるべきである。 しかし、そこにスクールロイヤーが関わることによって生じる困難がある。それは、学校側から依頼を受けた弁護士という立場に由来する。 もし学校側と生徒・保護者側に信頼関係があるならば、弁護士が中立的な観点から事実経過の説明や解決案の提示をしやすい。しかし、厳しい対立状況にある場合は、弁護士が完全に中立公平な第三者でいることはできない。 なぜなら、保護者が学校を相手どって裁判を起こした場合、その弁護士は被告側の代理人として法廷に立ち、学校を守る立場に立たされる可能性がある。それを、裁判を起こされる前から予期しておかなければならない。 これは弁護士の職業的習性である。後で不利にならないよう言葉に注意しなさいと関係者に指示することも、守秘義務を遵守することも、スクールロイヤーの仕事になる。 民事裁判では、被害者側が「学校・教師による違法行為」を証明しない限り、学校側が法的責任を負うことはない。学校側が事実を証明する責任はない。それどころか、勝つか負けるかの法廷闘争の場では、被害者側の証言を「事実と異なる。信用できない」と否定することも、弁護士の職務として正当化されうる。 実際に、これまでに弁護士が学校側の代理人をつとめた裁判で、「弁護士のおかげで事実が明らかにされた」といえる事例がどれだけあるだろうか。 むしろ、弁護士が事実を隠す側に立っている(ように見える)事案も散見されるのではないか。これは、依頼者を守る職責を負う弁護士にとって当然であっても、被害者側からみれば納得できない。 このように、生徒・保護者が学校と対立する場面において、スクールロイヤーが学校側を強く支えてしまい、事実の解明に否定的影響を与えることも危惧される。 もし学校での事件や事故について調査委員会が立ち上げられる場合には、スクールロイヤーの言動も調査対象となり検証されるべきである。 学校側の一員であるスクールロイヤーは、中立性が求められる調査委員会の構成員となるべきではない』、日本では「利益相反」の観念が定着しておたず、まあまあと曖昧にされることが多いだけに、筆者の指摘は正論である。
・『「いじめは犯罪だからダメ」と教えるべきか  文部科学省が掲げるスクールロイヤーの役割には、「いじめが刑事処罰の対象となることを教育する」ことも含まれている。 「いじめは犯罪だからダメです」と教えるのは、電車内で走り回る子どもに「怒られるからやめなさい」と言うのと同じである。なぜダメなのかという実質的な理由を教えていない。 大切なのは、処罰されるぞと威嚇することではない。いじめが人の心身をどう傷つけるのか、なぜ一人ひとりが大切にされるべきかを教えるべきである。 それに、いじめ行為には暴行罪や脅迫罪などの犯罪に該当しない行為もある。「みんなで無視をする」とか「机の上に花瓶を置く」などの嫌がらせは、刑事処罰の対象には該当しない。「法に触れる犯罪だからダメ」と教えることは、法に触れなければ許容されるかのようであり適切ではない』、文科省も一体何を考えているのだろうか。お粗末だ。
・『教育の力が試されている  文部科学省は、犯罪に該当するいじめ行為を早期に警察に通報する方針を掲げている。 2013年5月の通達は、「冷やかし、からかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言う」という行為は警察へ通報するべき脅迫罪や名誉棄損罪に該当すると例示している。 すると、冷やかし行為があった場合、スクールロイヤーは「警察へ通報するべき」と判断するべきことになる。しかし、これは教育的な解決とは程遠い。教師が生徒に向き合って積み重ねてきたことが、警察への通報によって崩れてしまう。 教師や学校への正当な不満が背景にあって、問題行動が生じていることもある。問題行動の原因を除去する努力が積み重ねられていたかも知れない。そうした事情を切り捨て、ただ生徒一人を悪者にして警察へ通報することは教育の場に相応しくない。 警察に通報されると、生徒は被疑者として扱われ、犯罪捜査として取り調べがおこなわれる。刑事政策的に処遇を決定する裁判手続が進むと、学校側が生徒に対して教育的に接する機会は失われてしまう。 そんな扱いを受けた生徒にとって、学校は再び戻って来れる場所、戻りたい場所になるだろうか。 このように、スクールロイヤーによって教育的配慮のない法律判断が下される危険性は否定できない。 本稿に対しては、実際にスクールロイヤーとして真摯に奮闘している弁護士の苦労を理解していないという批判があるかも知れない。 しかし、少数かつ先進的な弁護士が関与している現状と、大勢の弁護士が関与して全国的に推進される将来状況とでは、危惧される問題とその規模は異なる。 多数の非専門家が教育に関わることによって児童生徒に否定的影響が与えられる事態は避けるべきである。 スクールロイヤー制度に対しては、教育界からも法曹界からも賛否が積極的に議論されるべきである。今後の議論に期待したい』、いじめ問題がこれだけ深刻化しているのに、文科省がこの問題を表面的にしか捉えてないのに驚かされる。スクールロイヤー制度に関する今後の議論の盛り上がりに期待したい。

次に、立命館大学教授・えん罪救済センター代表の稲葉 光行氏が9月6日付け現代ビジネスに寄稿した「日本版司法取引でえん罪は増える?不適切な法科学が用いられる危険性 制度開始から3ヵ月、3つの課題がある」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56780
・『今年6月1日に、日本版の司法取引制度・・・の運用が開始された。7月にはすでに適用事例が生まれている。 この制度は、伝統的に米国で行われている、自らの犯罪を供述することで刑の減免を受ける「自己負罪型」ではなく、共犯者などの犯行に関する情報を提供すれば、その見返りに検察官が求刑を軽減したり、起訴を見送ったりすることなどが可能となる「捜査・訴追協力型」の司法取引を認めるものである。対象は組織犯罪や経済事件に限られている・・・。 この制度に関しては、衆議院法務委員会での審議も公開され、新聞・テレビ等で多数の報道がなされ、またネット上でもさまざまな議論が行われている。そこでは、虚偽の情報によって無実の第三者が巻き込まれ、新たなえん罪が生まれる危険性を危惧するものもある。逆に、弁護人が関与し、合意書が作成され、虚偽供述への処罰規定もあることから、そうはならないという主張もある。 筆者は司法の専門家ではなく技術畑の人間であるが、いくつかのえん罪事件の調査に関わり、「えん罪救済センター」代表としてえん罪を訴える方々からの声に触れてきた。また米国や台湾のイノセンス・プロジェクトを通じて、海外の司法制度改革の情報を得てきた。その経験・知識で考えれば、現在の日本の司法制度・文化が持つ、1)えん罪防止にむけた議論の場の欠如、2)証拠よりも自白を重視する取り調べ、3)不適切な法科学が用いられる危険性、という課題に対して十分な対策が取られない限り、日本版司法取引の導入によって新たなえん罪が増える可能性は十分にあると考えている。 以下では、日本版司法取引とえん罪と可能性について、この3つの課題から、筆者なりの考えを述べてみたい』、興味深そうだ。
・『えん罪防止にむけた議論の場の欠如  米国や台湾では、DNAの再鑑定を求める権利が法律で保障されるなど、えん罪を繰り返さないための司法改革が進んでいる。その司法改革の原動力としてイノセンス・プロジェクトという活動が大きな影響力を持っている。イノセンス・プロジェクトは、DNA鑑定などの科学的証拠を元に、えん罪原因の究明、再検証やえん罪被害者の支援を無償で行う団体である。 1992年に、弁護士のB・シェックとP・ニューフェルドによってニューヨークに設立された。現在は全米の全州に同様のプロジェクトが設立されている。同プロジェクトのホームページによれば、米国では、DNA鑑定によって358人のえん罪が明らかにされた。そのうちの20人は死刑判決を受けた人、さらにDNA鑑定で155人の真犯人が見つかっている。 また、同プロジェクトのホームページでは、えん罪の原因として、動機付けられた情報提供者(つまり司法取引)、不適切な弁護、間違った法科学、虚偽自白、目撃証言などがあると紹介されている。プロジェクトの協力者B.ギャレット教授によれば、DNA検査で覆された有罪判決の15%は、司法取引による証言が原因である。 イノセンス・プロジェクトは現在、カナダ、英国、豪州、台湾などに広がっており、それらの連携組織のイノセンス・ネットワークという枠組みもある。 毎年開催される大会では、弁護士、検察官、裁判官、えん罪被害者、警察関係者などが集まり、立場を超えてえん罪防止にむけた司法のあり方について議論が行われている。 日本でも2016年4月に、筆者らが発起人となり、日本版イノセンス・プロジェクト「えん罪救済センター」が設立された。 現在、司法実務家、法科学者、法学者、心理学者、情報科学者など約30名の有志が集まり、全国から届く個別の相談について検討している。これまでに寄せられた相談は280件を超える。 残念ながら日本では、米国や台湾のように、えん罪原因の究明や司法改革について、法曹三者、えん罪被害者、警察関係者などが一同に介して議論する場が持たれる段階には至っていない。 私は学会で裁判官や検察官にお会いした際、日本でそのような場を持つ可能性について意見を伺うが、いつも「まだ難しい」という返事をいただく。 えん罪の再発防止にむけて、立場を超えてオープンに議論をする場がない日本で、えん罪原因の1つになりうる司法取引が導入されることには危惧を感じざるを得ない』、その通りだ。アメリカで「DNA検査で覆された有罪判決の15%は、司法取引による証言が原因」との指摘でその割合が高いのには驚かされた。
・『証拠よりも自白・供述を重視する取り調べ  司法取引に直接関わる事件ではないが、筆者が日本の刑事司法に疑問を持ち、えん罪救済センター設立を呼びかける契機となった事件の1つが、13人が公職選挙法違反に問われた「志布志事件」である。 筆者は、コンピュータで文書を分析する研究に取り組んでおり、同事件で膨大な取調べ調書があると聞いたことから、それらの分析を考えた。そして心理学者らとの現地調査に参加し元被疑者の方々にお会いした。 そこで伺った話は、技術屋としては驚く話ばかりであった。客観的証拠がないにもかかわらず、捜査側が被疑者に対して数ヵ月から1年に渡って、自分や他人の罪に関する虚偽の供述をするよう強制・誘導し続けた。 ある男性は連日の取調べに耐えられず自殺未遂を図った。そして救助した人に「取調べに耐えられない」と語ったが、供述調書では「悪いことをしたので死んでお詫びしようと思った」と記載された。 他の男性は、自分や他人の犯行について書かれた調書を読んで聞かされ、取調官に「自分の話と違う」と伝えたところ、「調書はそういうものだ」と言われた。客観的な証拠がなくても自白・供述を引き出そうとする取り調べに唖然とするばかりであった。 このような取り調べの特徴について、心理学者の浜田寿美男教授は、日本の取り調べが「謝罪追求型」であることに原因があるとする。 捜査官は被疑者を前にして、罪を反省させることが使命と考え、反省と自白・供述があるまで取り調べを止めない。その結果、日本の勾留期間が先進国の中で突出して長くなり、それに耐えられない被疑者は虚偽の供述をする。そして裁判では、自白や供述しかなくても有罪判決が下される場合がある。 いくつかの事件では、証拠を知っている取調官が、被疑者に証拠と合致する自白・供述を強要したという話も聞く。科学的な視点からすれば、全く本末転倒のことが行われている可能性がある。 このような日本の取り調べで、第三者に対する虚偽の供述が提供され、無実の被疑者が謝罪追求型の取り調べを受けたら、そこで新たな虚偽自白が生まれ、それが根拠となって有罪判決が出される可能性はある。 供述・自白ではなく、客観的証拠に根ざした捜査や判断をする司法文化が育たない限り、日本版司法取引が新たなえん罪を生み出す可能性を排除できないと考えている』、「志布志事件」は冤罪の代表例として有名だが、改めて読んでみると、司法当局の恐ろしさに慄然とする。「証拠よりも自白・供述を重視する取り調べ」の伝統の下での日本版司法取引の導入には問題があり過ぎる。
・『不適切な法科学が用いられる危険性  筆者は別の事件の検証に関わり、科学者であっても正しい科学的な手続きを貫くことが難しい場合があることを知った。 それは「鹿児島・強姦事件」などと呼ばれる事件である。その事件では、17歳の少女が20歳の男性に暴行されたと訴えた。 科捜研のDNA鑑定で「体液は判別不能」とされたが、男性の犯行を否定できないという判定がなされ、第1審では4年の実刑判決が下された。 控訴審での法医学者のDNA再鑑定では、科捜研と同じ手法でありながら第三者のDNAが出てきた。その結果元被告には無罪が言い渡されたが、裁判官は判決文で、証拠に対する不適切な管理や鑑定をした科捜研・検察の姿勢を強く批判した。 イノセンス・プロジェクトの協力者S.カシン教授は、人間が持つバイアスが法科学の場でも働く可能性を指摘する。彼はこれを「フォレンジック確証バイアス」と名付けた。 鑑定人が被疑者に有罪心証を持てば、それが鑑定結果に影響を与える。例えば鹿児島の事件では、少女が勇気を持って強姦被害を訴え、容疑者を特定したことで、その男性が犯人だというバイアスを捜査側・鑑定側が持った可能性が高い。 そして少女の勇気に報いることが使命と考え、結果として間違った形で法科学が使われた可能性がある。 心理的なバイアスを完全に排除するのは不可能であり、それによって何らかのミスをしてしまうことは避けられない。しかし人命や人生に関わる判断では、バイアスを可能な限り防ぐ対策が取られるべきである。 この深刻さは、無実の男性が20歳からの貴重な数年間を奪われてしまっただけでなく、法科学が間違って使われた原因が十分に究明されず、それに対する根本的な対策も取られていないことである。 フォレンジック確証バイアスに対し十分な対策が取られてない現状では、司法取引から被疑者が作り出され、間違った形で法科学が使われたら、無実の人間が有罪とされていく可能性は十分にある』、「鹿児島・強姦事件」での誤った科捜研のDNA鑑定には、どのような責任・処分が行われたのだろう。おそらく、何らお咎めなしだったのだろう。フォレンジック確証バイアスとは、確かにありそうな話だ。
・『同じ間違いを繰り返さない司法へ  本稿では、米国や台湾のイノセンス・プロジェクトの活動と、筆者が関わった2つの事件を取り上げ、日本の司法文化の課題を論じてきた。 そしてそれらの課題を抱えたままの日本の司法では、司法取引でえん罪が生まれる可能性が十分にあることを指摘した。 結局、司法取引という制度が持つ問題よりも、日本の司法文化自体が内包する課題によって、新たなえん罪が起きる可能性があると考えている。 また本稿では、バイアスなどによって起きる間違いを完全に防ぐことはできないとしても、間違いが起きたらそれを検証し、少なくとも同じ間違いをしない対策を取るという技術屋の発想を、司法に取り入れることの必要性を訴えたつもりである。それによって、えん罪・誤審・誤判を減らしていくことは可能だと考える。 筆者はよく飛行機事故のたとえを使う。飛行機事故が起きたら、その原因が徹底的に究明され、少なくとも同じ原因で事故が起きないよう対策が取られる。そのような技術屋的な発想が、日本の司法にも根付いていくことを期待している。 そして、イノセンス・プロジェクトをモデルとしたえん罪救済センターの活動が、日本の司法改革におけるそのような議論の方向性にはずみをつけるきっかけとなれば幸いである』、冤罪事件があった場合には、第三者委員会での検証を義務付けたらどうだろうか。

第三に、9月12日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した『特捜投資家』の著者・永瀬隼介氏と編集者・加藤晴之氏の対談「検察も警察も権力に無力。カネの力で悪を討つしかない」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/179337
・「カネのない人間は一生、他人の奴隷になるしかない」──気がつけば、忖度独裁国家と化していた日本。そこには、権力に食い込んで甘い汁を吸うカネの亡者があふれている。そんなヤツらに鉄槌を下す痛快無比の投資エンターテインメント小説が誕生! その名も『特捜投資家』。そこで著者の永瀬隼介氏に同作の読みどころ、執筆秘話などを語って頂きました。話を聞くのは『特捜投資家』の編集者・・・加藤晴之氏。第3回は『特捜投資家』の読みどころと、独特のタイトルに込めた狙いを語っていただきました』、面白そうだ。
・『徹底的に取材をして小説に昇華させる(加藤晴之(以下、加藤) 僕が『特捜投資家』で永瀬さんに挑戦してほしかったのは、新しい経済小説。つまり、新しいヒーローたちが、これまでにない悪と戦う物語です。これまでにない、というのは小説の世界のことで、現実には、存在しているけれど、ジャーナリズムが追い切れていない、書いていない悪。エンターテインメントな部分はしっかりキープしつつ、ノンフィクション・ノベル的な作品でもあるという感じ。もともと週刊誌記者として事件を取材して書くのが本能のようになっている永瀬さんなら必ずできると思ったんです。いま現実に起きている問題をテーマに据えて、丁寧に取材してフィクションとして昇華させるような。 永瀬隼介(以下、永瀬) その点はしっかり意識しました。というか僕にはそれしかできないわけです。現実に起きている問題としては、権力への忖度や追従、超金融緩和によるカネ余り、アラフォー・クライシス、広がる格差問題、切り捨てられる社会的弱者、既存メディアの凋落などを作中に盛り込んでいます。 加藤 そうした問題を描くため、相当な取材をされましたよね。 永瀬 そうですね。いまってネットで何でも分かるような気がするじゃないですか。でも、ネットでは絶対に分からないことは確実にあります。実際に歩き回って人に会って話をすることで見えてくるものがある。その点も本作で伝えたかったことなので、作中でも主人公の一人である有馬浩介を取材で飛び回らせました。 加藤 舞台となった町もかなり歩かれたとか。 永瀬 すべて歩きましたよ。板橋区大山、錦糸町、小松川、越中島、六本木、南青山など。それをやると登場人物たちが動き始めるんです。 加藤 事件は足でかせぐ、ですね。 永瀬 作品の冒頭でIT長者たちのパーティのシーンが出てきますが、その描写も取材でお会いした投資ファンドの方たちの話を参考にしています。アロハを着たような若い起業家たちから、普通に数十億円のマネーの話がポンポン出てくるとか』、作品のPRの記事であるとはいえ、読んでみたくなるようなイントロだ。
・『EVははたしてバブルなのか?  永瀬 あと今回の作品では、EVつまり電気自動車を重要な素材として扱っています。EVについてもかなり取材をしたんですが、その印象でいうと、日本のメーカーは本音ではあまりEVに向かいたくない感じです。やはりガソリン車のサプライチェーンを崩したくないんでしょう。先日、深センに行ったんですが、中国はガソリン車では絶対に自動車先進国にかなわないから、国家をあげてEVに取り組んでいます。それは凄いですよ。世界的にもいまや明らかにEVシフトですし。 加藤 僕は以前『トヨトミの野望』という小説を担当したことがあります。日本の某自動車会社がモデルだろうと言われるんですが(笑)、まぁそれはよいとして、その作品でも大きなテーマなのがEVシフトです。それと自動運転。これらの取り組みに日本が出遅れたことを、メディアはあまり大きく報じてない気がする。『トヨトミの野望』のモデルになったといわれる会社などへの忖度があるのかな(笑)。 永瀬 それゆえ、世界の流れが見えにくくなっている面があるかもしれませんね。 加藤 ただ、EVの寵児とも言えるテスラが最近かなり大変な状況じゃないですか。テスラは新型EV「モデル3」を世界中に普及させるとぶち上げ、40万台も予約を取ったものの量産体制の構築にものすごく苦しんでいます。赤字続きで市場の声も厳しいなか、突如イーロン・マスクが非上場化を言い出してすぐに撤回するとか、迷走してますよね。バッテリーの性能もボトルネックです。一方で、ハイブリッド車の性能が向上しているし、マツダが高性能の次世代ガソリンエンジンを開発するといった状況もある。だから本当にEVが広がるのか、実体のないバブルなのかまだまだわからないような。 永瀬 そうですね。僕も取材するなかでバブル的な部分は感じていて、そのあたりを作品で書いたんですが、小説としてはかなり面白くなったと自負しています。 加藤 EV開発をめぐって登場するベンチャー企業や人物には、存在感がありますよね。超異次元金融緩和の日銀が株をいっぱい買うので、株高だし、円安。大企業にカネがだぶつき、そのカネが、いろんなあやしげなベンチャーに流れ込んでいる。たとえば先日、東大発のバイオベンチャーの株が大暴落しましたが、このあたりの新聞やテレビではわからない日本の裏側の実態に小説的な手法で斬り込んでいます。 永瀬 ベンチャー企業についてもいろいろ調べました。かつての暴力団・稲川会の石井会長の株買い占め事件などのように「反社」との癒着が問題になることもあるようです。いまはさすがにベンチャーの上場に当たっては審査が厳しいのですが、問題は、上場した後。上場さえすればこっちのもので、案外ザルなんだそうですね。 加藤 天下の東芝が、あんな粉飾決算していたのに司直の手が入らない国ですから(笑)。 永瀬 ベンチャー投資が年間18兆円と盛んなアメリカでも、まるで小説みたいな詐欺がありました。作中でも言及した「セラノス事件」です。血液1滴で何百種類もの疾病検査ができると謳い、シリコンバレーでユニコーン(評価額10億ドル以上で未上場の新興・ベンチャー企業)となった医療ベンチャー「セラノス」。同社の創業者であるエリザベス・ホームズは、スタンフォード大学を中退した美人起業家で、一流雑誌の表紙を飾り、テレビで特集番組が組まれ、莫大な投資を呼び込んで、世界最年少のビリオネアになりました。しかしそれもつかの間、米証券取引委員会(SEC)が、詐欺と判断して一巻の終わりでした。 加藤 リーマンショックの原因となった、金融工学を駆使したサブプライムローンを組み込んだ金融商品なんてのも、いまから考えたら詐欺みたいなもんです(笑)。 永瀬 それから、この作品にはミステリーの要素も盛り込みました。その点もぜひ楽しんでいただきたいですね。最初は単なる企業調査だったはずが、最終的には巨大な闇を暴くことになっていく。フリージャーナリストの有馬が必死に取材するうち、徐々に真相に迫っていくわけです。 加藤 いったいストーリーがどこに連れて行ってくれるのか、ワクワクしながら読ませるのはすごい。やっぱり謎解きがあるというのは小説にとって非常に魅力的ですよね』、確かに、上場後のベンチャー企業のなかには反社会的勢力の影がちらつくところもあるようだ。
・『タイトルに込めた思い  永瀬 今回の作品ではタイトルにも非常に苦労しました。 加藤 決めるまでに100本ノックのようなミーティングもやりましたね。永瀬さん、ダイヤモンド社で担当していただいている今泉さん、僕の3人それぞれ何十本も案を持ち寄って。でも、それらの案っていま見るとかなり面白いですよ(笑)。 永瀬 いや苦労しました。でも、『特捜投資家』いいタイトルでしょ。不正企業を取り締まるべき地検特捜部や警察捜査二課は、悲しいかな開店休業の状態。本作では、「その当局に替わりて不義を討つ」のが強欲な投資家なんですが、その手法は、読んでのお楽しみということで。 加藤 今年6月に大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞(旧・大宅壮一ノンフィクション賞)の授賞パーティに出席したんですが、そのとき受賞者である森功さんと清武英利さんが、奇しくも同じようなことをスピーチでおっしゃってました。森さんの受賞作は『悪だくみ──「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』、清武さんは『石つぶて──警視庁 二課刑事の残したもの』で、いずれも公権力の闇に迫った力作です。おふたりは異口同音に、一国の首相の疑惑や官僚の不正、大企業犯罪に挑むべき捜査機関が今やほとんど機能していない、と述べられていました。 永瀬 なるほど。 加藤 かつて、厚生省(現・厚労省)のトップ、厚生次官の汚職を摘発した警視庁捜査二課は、年々、汚職事件(官僚や政治家の贈収賄事件)の検挙数が激減していき、安倍政権下の2014年には年間摘発ゼロになったと』、「一国の首相の疑惑や官僚の不正、大企業犯罪に挑むべき捜査機関が今やほとんど機能していない」というのはその通りだ。
・『永瀬 東京地検特捜部も東京医大の裏口入学を追ってはいるものの、本当に追及すべきは森友・加計問題とか東芝粉飾決算のような事案でしょう。そうした重要な事件にメスを入れないのは政権への忖度を感じますよね。そもそも裏口入学の件だって、政権に弓を引いた文科省前事務次官への意趣返しと見る向きも多いですし。 加藤 モリカケ問題に加えて、安倍氏と親しい記者にレイプされたと女性が被害を訴え、刑事告訴したのに検察が不起訴にしました。海外メディアは最近、安倍政権のことを、「クローニズム(縁故主義)」と言って批判しています。 永瀬 この小説は、地検特捜や警察捜査二課といった捜査機関もメディアもメスを入れない不正に、投資家たちが立ち向かう話ですからね。『特捜投資家』というタイトルは、悪いヤツらをボコボコにできるのはもはや、カネの力しかない、という強烈な皮肉でもあります。 加藤 小説のなかでも政権とクローニーな関係にある企業の描写が出てきます。戦後、焦土から立ち上がった起業家たちは、政治家や官僚にすり寄ることはしなかった。ソニーやホンダが自らの努力と技術によって、あるいはクロネコヤマトの小倉昌男さんにいたっては、国と戦って、宅配便という新たなサービスを開拓した。政治家・官僚は自分たちの権益のため、優れた新興企業に難癖にも等しい規制を二重、三重にかけて足を引っ張ってきた勢力です。世界に羽ばたこうとする勇敢な起業家を後ろから鉄砲で撃つようなことを散々やってきた。そういうことを知っている、日々真面目に働いている人たちからすれば、政治家や役人にすり寄り甘い汁を吸っているヤツらなんて、ありえません。そういう意味では、読者の方にしっかり溜飲を下げていただける作品になりましたね。 永瀬 ありがとうございます。しかし、加藤さんも『週刊現代』や『フライデー』の編集長をされていて、世の不正を暴くスクープを数多く放っていたわけですけど、それは義憤に駆られてやってたんですか? 加藤 いやいや僕は週刊誌が売れればいいと思ってただけで(笑)。 永瀬 え? だとすれば、まさに強欲な「特捜編集長」(笑)。 加藤 ……(苦笑)。 永瀬 ともあれ、タイトルも内容も充実した面白い作品になったと自負しています。是非一人でも多くの方に読んでいただきたいと思います』、「捜査機関もメディアもメスを入れない不正に、投資家たちが立ち向かう」とは夢物語的な気もするが、私も是非読んでみたくなった。 
タグ:司法の歪み (その10)(弁護士が学校を支配する…? 「スクールロイヤー」の危うさ、日本版司法取引でえん罪は増える?不適切な法科学が用いられる危険性、検察も警察も権力に無力 カネの力で悪を討つしかない) 大前 治 現代ビジネス 「弁護士が学校を支配する…? 「スクールロイヤー」の危うさ 彼らがいじめ問題に関わることへの不安」 「なんでも解決できる」という弁護士の傲慢 弁護士は教育については素人である。そのことへの自覚と謙虚さが必要 どんな弁護士でもスクールロイヤーになれるのか 「弁護士の判断」が尊重されすぎる危険 弁護士が関わることで隠される事実 「いじめは犯罪だからダメ」と教えるべきか 教育の力が試されている 稲葉 光行 「日本版司法取引でえん罪は増える?不適切な法科学が用いられる危険性 制度開始から3ヵ月、3つの課題がある」 「自己負罪型」ではなく 「捜査・訴追協力型」の司法取引を認める 対象は組織犯罪や経済事件に限られている えん罪防止にむけた議論の場の欠如 DNA検査で覆された有罪判決の15%は、司法取引による証言が原因 証拠よりも自白・供述を重視する取り調べ 「志布志事件」 日本の取り調べが「謝罪追求型」であることに原因 不適切な法科学が用いられる危険性 「鹿児島・強姦事件」 控訴審での法医学者のDNA再鑑定では、科捜研と同じ手法でありながら第三者のDNAが出てきた。その結果元被告には無罪が言い渡された 「フォレンジック確証バイアス」 同じ間違いを繰り返さない司法へ ダイヤモンド・オンライン 永瀬隼介 加藤晴之 対談「検察も警察も権力に無力。カネの力で悪を討つしかない」 忖度独裁国家と化していた日本。そこには、権力に食い込んで甘い汁を吸うカネの亡者があふれている EVははたしてバブルなのか? 大企業にカネがだぶつき、そのカネが、いろんなあやしげなベンチャーに流れ込んでいる 問題は、上場した後。上場さえすればこっちのもので、案外ザルなんだそうですね 医療ベンチャー「セラノス」 米証券取引委員会(SEC)が、詐欺と判断して一巻の終わり 一国の首相の疑惑や官僚の不正、大企業犯罪に挑むべき捜査機関が今やほとんど機能していない一国の首相の疑惑や官僚の不正、大企業犯罪に挑むべき捜査機関が今やほとんど機能していない 警視庁捜査二課は 安倍政権下の2014年には年間摘発ゼロになったと モリカケ問題に加えて、安倍氏と親しい記者にレイプされたと女性が被害を訴え、刑事告訴したのに検察が不起訴に 海外メディアは最近、安倍政権のことを、「クローニズム(縁故主義)」と言って批判
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