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日中関係(その2)(日中関係20年間の悪化を的中させた私が感じる「日中合作新時代」,「新冷戦」で追い込まれての日中連携へ トランプ主義が変えた力学、日本は対中「注文外交」をできるのか? 中国の対日微笑み外交は「米中関係の従属変数」) [外交]

日中関係については、2016年5月10日に取上げたままだった。2年以上経った今日は、(その2)(日中関係20年間の悪化を的中させた私が感じる「日中合作新時代」,「新冷戦」で追い込まれての日中連携へ トランプ主義が変えた力学、日本は対中「注文外交」をできるのか? 中国の対日微笑み外交は「米中関係の従属変数」)である。

先ずは、作家・ジャーナリストの莫 邦富氏が10月26日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日中関係20年間の悪化を的中させた私が感じる「日中合作新時代」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/183390
・『日中関係は20年間よくならないと20年前の1998年に予測  安倍晋三首相は10月25日、約7年ぶりの中国公式訪問のために羽田空港を飛び立った。 中国滞在中には、「日中平和友好条約締結40年」の記念レセプションに出席してスピーチを行うだけでなく、習近平国家主席や李克強首相などとも会談することになっている。この訪問を中国メディアは「中日合作新時代」、日本メディアは「新たな次元の協力」と受け止め、評価している。 20年前の1998年、私は講演や著書の中で初めて「これからの20年間、日中関係はよくならない」という予測を発表した。この予測は当時、中国国内の知日派の学者たちから「悲観的に見過ぎている」と批判されたほど異色だった。 2004年11月、参議院国際問題調査会で、日中関係に関する参考人として呼ばれた際も、「これからの20年間、日中関係はよくならず、いろいろな試練に直面するだろう」と述べた。 アジアでは長い間、1つの強大国が他の国々を引っ張っていくという時代が続いた。かつては中国が強大国だった。だが、近代に入ってからは日本が、国力の衰弱した中国に取って代わり“アジアの雄”となった。 1970年代以降、日本が主張していた「アジア雁行経済」が広く認められ、日本はアジアの覇者らしくその先頭を飛ぶ雁になった。一方、文化大革命で崩壊寸前の状態に陥った中国は、体こそ大きいものの最後尾を飛ぶ形になった』、20年前に「日中関係は20年間よくならない」と予言したとは、さすがだ。
・『中国が猛烈に追い上げてきて相互嫌悪のムードが定着  しかし改革・開放時代に入ってから、中国は猛烈に日本を追い上げてきた。1990年代半ば頃からは、日本に迫ってきた中国を“脅威”と捉えた石原慎太郎氏を始めとする一部の日本人が、「中国を封じ込めろ」と呼び掛け警戒感をあおった。その認識は日本社会に広く浸透、やがて日中両国には相互嫌悪のムードが広がり定着した。 2005年、拙著『日中はなぜわかり合えないのか』が出版されるとき、私はその前書きに、次のように書いた。「現在、日中間に現れたいろいろな衝突は、まさに時代の変わり目に出るべくして出てきた問題であり、特に驚くことではない。アジアは1強時代が終わり、これまで1度も経験したことのない2強時代を迎えようとしているのだ。その時代の変化は、『日中友好時代が終わった!』という形で現れたのである。(中略)日中友好時代は終わった!しかし、恐れることはない。日中両国の国民がともに力を合わせて、平和的な両国関係を築けばいい」 さらに、次のように呼び掛けた。「新しい日中関係を構築すべき時がやってきた。たとえ、日中両国が友好的な隣国同士という関係を維持できないにしても、少なくとも平和的な隣近所であることを日中両国が目標に求めるべきだ」 2012年9月、尖閣諸島(中国名は釣魚島)国有化問題が起きる直前に発売された月刊「世界」10月号に、私は論考「『中日関係』という建築物に耐震工事を」を発表し、築40年を迎えた日中関係という“建築物”に、新たな“耐震補強工事”を行うべきだと主張した。 日中国交正常化の実現にこぎ着けた1972年、当時の建築基準に基づいて、“日中関係ビル”が竣工した。しかし、築年数が40年となった日中関係というビルは、これまで何度もの政治的な嵐と地震に見舞われ、壁のひび割れや基礎の動揺などの現象が見られた。ビルの安全性を脅かすこうした問題を取り除くために、耐震補強のための追加工事や修繕工事を行わなければならないというものだ。 「耐震補強工事」とは、具体的にいえば観光などを含む人的交流の強化に加え、ソフトの交流(例えば、国民皆保険に代表される日本の医療保険制度や税制、年金制度、義務教育制度、さらに省エネや環境保護など、多数の分野にわたるソフトパワーの交流)、そして「すべての紛争を平和的手段による解決する」という原則の貫徹だ。 2002年に発売された『これは私が愛した日本なのか──新華僑30年の履歴書』という本が2015年に文庫化された際・・・、その後書きに、私はそれから20年間の日中関係の展望を書いた。その内容の一部を紹介する。「1998年頃からすでに『日中関係はこれから20年間にわたって、よくならない』と予告した私から見れば、落ち葉が地面を敷きつめてから秋が来たと叫ぶように遅すぎた発見だ。日中関係に携わっている人間としては、これから20年先の日中関係がどうなるのか、そしてどうなるべきだと思うのか、さらにどうしていけばいいのか、をより力点を置いて考えるべきだ」と。 そして「互いに魅力を覚えられる、平和的に共存できる隣国同士。甘ったるい日中友好といった言葉がなくても全く問題のない健全な両国関係。それは私が描いた20年先の日中関係だ」と』、2015年に新たな日中関係を描いていたのも、さすがだ。
・『“日中関係20年間悪化説”に終止符 これからは“日中合作新時代”に  “日中関係20年間悪化説”を主張し始めてから、今年でちょうど20年。今回の安倍首相の中国訪問は、奇しくもそれに終止符を打ってくれた形だ。そして、これからの20年間は“日中合作新時代”になると思う。 これからの日中関係の特色の1つは、国益を重視しながらも、手を携えるところは積極的に協力し合うという付き合いになると思う。 安倍首相の訪中直前、日本側は中国向け政府開発援助(ODA)の終了方針を決めた。さらに、その1ヵ月前の9月13日には、海上自衛隊の複数の潜水艦および搭載航空機5機が南シナ海で中国をけん制する目的で、対潜水艦戦関連の訓練を実施した。しかも訓練は、中国が南シナ海で自国の領有権を主張するために設定した境界線「九段線」の内側で行われたという事実を、防衛省当局者は隠そうともしなかった。 一方、中国側も安倍首相の訪中が予定されていた10月にも、公船による尖閣諸島(釣魚島)海域のパトロールを続けている。釣魚島の接続水域への進入だけではなく、日本側から見た「領海侵入」も継続している。 本来、重要な外交日程が組まれている敏感な時期に、相手国の神経を逆なでするような行為は慎むべきなのに、日中双方は平気で継続している。しかも、互いに本気で相手国を怒る気配もない。 こうした行動こそ、日中合作新時代の特徴の1つといえる。つまり国益重視の原則を守りつつも、例えば首脳の訪問など、手を携えるべきところは積極的にその行動を起こすというものだ』、随分、大人の関係になったものだ。
・『是々非々の交流と付き合いが日中合作新時代のカラーに  5月に日本を訪れた中国の李克強首相と安倍首相は、首脳会談を通して日中両国が第三国での経済協力を積極的に進めるという方向を決めた。中国は一帯一路経済圏の構築に没頭しているが、海外への投資経験は乏しい。そこで先輩役の日本から投資ノウハウを学ぼうというもので、第三国での経済協力はまさに経済交流がハードからソフトへ転換する好例となる。 いまや力関係が変わった日中両国は、新たな隣国同士の関係を構築する時代を迎えようとしている。確かに、国益を求めての小競り合いはこれからも起きるだろう。しかし、互いの国益を守るために交流や協力、提携もどんどん始まると思う。 大切なのは、日中両国が互いに平和を求める気持ちで、新しい課題に手を携えて対処していくという原則の堅持だ。是々非々の交流と付き合いが、日中合作新時代のカラーになるだろうと思う』、なるほど。トランプとの関連は、ここでは触れられていないが、次の2つの記事にあるので、参考にされたい。

次に、元日経新聞論説主幹の岡部 直明氏が10月30日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「「新冷戦」で追い込まれての日中連携へ トランプ主義が変えた力学」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/071400054/102900085/?P=1
・『安倍晋三首相と中国の習近平国家主席による日中首脳会談は、経済協力を最優先し連携することで合意した。トランプ米大統領が「経済冷戦」から「新冷戦」に踏み込むなかで、追い込まれての日中連携である。米中経済戦争で日本に期待せざるをえない中国と日米摩擦を前に中国の経済力を頼みとしたい日本の経済的利害が一致した。 しかし、日中平和友好条約締結から40年、新時代を迎えた割に日中の合意は小粒である。目先の防御的連携を超えて、環太平洋経済連携協定(TPP)と東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の結合などアジア太平洋の大戦略を打ち出し、米国をこの成長センターに引き戻すときである』、だいぶ壮大な構想を主張している。
・『経済最優先の連携  日中首脳会談では、新時代の関係構築で合意した。安倍首相は①競争から協調へ②互いにパートナーとして脅威にならない③自由で公正な貿易体制の発展―という3原則を提起した。 歴史認識のズレや尖閣諸島をめぐる対立など、これまでの日中のあつれきにはあえて深入りを避け、経済協力を最優先したのが特徴だ。第3国市場での連携は、中国が進める「一帯一路」構想を視野に入れたものだ。この構想をめぐっては、アジア各国から債務拡大などの不安が強まり、大きな壁に突き当たっているだけに、日本の協力は「中国第一主義」への懸念を払しょくするのが狙いだろう。 金融協力にも一定の進展はあった。危機時に日銀と中国人民銀行は円と人民元を交換するスワップ協定を再開する。融通額の上限は3兆4千億円(人民元の上限は2千億元)と10倍超になる。尖閣諸島をめぐるあつれきによって2013年に失効した通貨協定の復活で、日本企業が中国でビジネスを展開しやすくなることはたしかだ』、スワップ協定の上限が10倍超とは、中国にとっては有難い話だ。
・『遅すぎた対中ODAの終了  その一方で、日本が40年に渡り実施してきた中国に対する政府開発援助(ODA)は2018年度の新規案件を最後に打ち切ることになった。1990年代、筆者は日本の対中円借款の実施調査のため西安郊外のダム建設や北京郊外の浄水場などを訪問したことがある。驚いたのは円借款に関わる中国人の多さだった。 日本の円借款は空港建設など中国のインフラ整備に大きな貢献があった。固定資本投資に日本からの円借款は組み込まれていた。中国の改革開放路線を側面から支援したのは明らかだ。その割には中国からの感謝はそう大きくなかったようにみえる。戦後賠償を放棄する見返りとされた円借款だけに、当然視されていた面があったかもしれない。日本も他の先進国の支援に比べても、円借款の効果を積極的にはPRしてこなかったところがある。どちらにしろ、とっくに援助する側の先頭にある中国が援助される国を卒業するのは当然であり、対中ODAの終了は遅すぎたといえる』、「中国からの感謝はそう大きくなかったようにみえる」というのは、残念なことだ。
・『トランプ攻勢に守りの協調  日中があつれきを超えて協調したのは、トランプ大統領が経済冷戦から新冷戦に踏み込もうとするなかで、「守りの協調」に動かざるをえないという事情がある。とくに中国は、米中貿易戦争で大きな打撃を受けているだけに、日本との協調は欠かせない。 中国の7-9月期の経済成長率は6.5%に減速した。生産と投資の伸び悩みは大きい。経営破たんの増加など貿易戦争の影響は表面化している。米国製の自動車だけでなく、中国が制裁関税を課した化学品や紙製品などで値上げが相次ぎ、9月の消費者物価は2.5%上昇した。中国企業が抱えた過剰債務はますます大きな足かせになってきた。こうしたなかで、上海株式市場の動揺は著しく、世界同時株安を加速させている。 そんな中国にとって、日本との協調はトランプ米政権へのけん制の狙いが込められているが、日本にとっても日中協調はトランプ政権への「中国カード」ともいえる。米国よりずっと貿易関係の深い中国との協力を強化することで、対日圧力を強めるトランプ政権をけん制する思惑がある。 来年始まる日米の物品貿易協定(TAG)をめぐる交渉では、米側は自動車関税の引き上げをちらつかせながら自動車輸入の「管理貿易」化をめざす可能性がある。さらにムニューシン財務長官は「為替条項」を要求する構えで、日米交渉は難航必至の情勢である。トランプ政権との関係を大きく崩さない範囲で「中国カード」を交渉の武器にしたいというのが安倍政権の本音だろう』、トランプ政権が日中関係の改善を促したとは、トランプ大統領がもたらした数少ない恩恵といえよう。
・『失敗した「中国包囲網」構想  日中が歩み寄った意味は大きいが、中国が米国と肩を並べようとするなかで、日中に不仲の時代が長く続いたツケは重い。安倍政権がめざした「地球儀を俯瞰する外交」は事実上の「中国包囲網」構想だった。しかしこの構想は失敗に終わった。 安倍政権は中国をアジアにおけるライバルと位置付けていたが、あっという間に「日中逆転」が進行していたのである。2010年に国内総生産(GDP)に抜かれ、中国に世界第2の経済大国の座を明け渡したと思えば、いまやその落差は2.5倍にも達した。 中国は経済を先導する世界的起業家を輩出してきたが、日本にはほとんど見当たらない。自由な資本主義国である日本より国家資本主義の中国の方が、起業家精神が旺盛とは大きな皮肉である。日本が圧倒的にリードしていたはずのハイテク分野でも、日本は逆に差をつけられた。フィンテックでは中国視察団への日本企業の参加が人気を集めるありさまだ。 習近平政権がめざす「中国製造2025」に、トランプ政権が警戒しているのは、中国が国家資本主義により、半導体製造などで米国追跡をめざしていると考えるからだ。ハイテク分野での米中間の覇権争いはし烈を極める。中国が照準を定めるのは米国であり、もはや日本ではない。 人民元の「国際通貨」化構想も、「ドル・ユーロ・人民元」の3大通貨を軸にしている。日本円はほとんど眼中にないといっていい。 そんな経済超大国になった中国に対して「包囲網」を築こうという発想そのものが時代錯誤だったといえる。「地球儀を俯瞰」して中国の周辺に足しげく外交を展開して、肝心の中国との直接対話を疎かにしてきたのではないか。この戦略そのものに大きな誤りがあった。その反省がないかぎり、日中は再び不幸な「不仲時代」に逆戻りしかねない』、安倍政権の「中国包囲網」構想は危なっかしい代物だったが、失敗に終わったのは喜ぶべきことだ。
・『日中はなぜ独仏に学べなかったか  中国駐在の経験はないが、駆け出し記者のころ日中国交回復前の日中貿易を担当して以来、ずっと中国を側面からみつめてきた。欧州駐在の経験を踏まえると、戦後72年になるのに、日中はなぜ独仏に学べないのかという命題に突き当たる。 国交回復前の日中関係を支えたひとりに、日中覚書貿易事務所の岡崎嘉平太代表がいた。戦中、日銀マンとして中国に駐在した経験から戦後は日中関係の正常化に尽力していた。それは右翼の攻撃対象にされた。夜回り取材で岡崎氏の自宅を訪問したときのことだ。岡崎氏の脇には大きなシェパードが座り、こちらをみつめていた。右翼への警戒を怠らず、命がけで日中関係の打開をめざしていたのである。 日中関係はニクソン米大統領訪中の後を受けた田中角栄首相の訪中で正常化に向かうが、周恩来首相が「井戸を掘った人」と讃えたのは、岡崎氏だった』、「井戸を掘った人」を讃えた周恩来首相はやはり傑出した人物だったのだろう。
・『戦後の日中関係が疎遠だったのは、中国に共産党政権が誕生し、冷戦下で西側の拠点になった日本との対立関係が生まれたためともいえる。しかし、第2次大戦後、欧州ではフランスの実業家、ジャン・モネの仲介で独仏和解が実現し、それが欧州統合に結実している。欧州連合(EU)はいま様々な難題を抱えているが、独仏和解を軸に平和が保たれている。 この独仏和解に日中はなぜ学べなかったのか。第2次大戦のような悲惨を防ぐために、政治体制の違いを超えた平和構築は可能だったはずだ。日中関係の「井戸を掘った人」岡崎氏は日中関係の長い冬の時代を嘆いていた』、当時の東西冷戦、対米追随外交が影響していたのだろう。
・『米国巻き込む日中連携の大戦略を  日本は米中両大国の間でどううまく泳ぎ切るか、と考える政策当局者もいる。これは大きな間違いだ。いま日本に求められるのは、アジア太平洋の繁栄と安定のために、扇の要(かなめ)として大戦略を打ち出すことである。 第1に、TPPとRCEPの結合である。11カ国によるTPP11はたしかに先進的な自由貿易圏だが、その範囲は狭い。これに対して、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に日中韓、そしてインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えたRCEPにはアジア太平洋の主要国がほぼすべて含まれる。問題は自由化度合がTPPに比べて低いことだが、交渉次第で自由化率を上げられる。TPPとRCEPでともに核にあるのは日本である。TPPとRCEPを結合して、米国を呼び戻すのは日中の共同戦略になる。それは、米中貿易戦争を打開する道でもあるだろう。 第2に、中国主導で成立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)とアジア開発銀行の統合である。AIIBにはアジア各国や欧州各国などが参加しているが、日米はあえて参加していない。中国は日米にも参加を求めているが、日米は慎重だ。このためAIIBの運営は必ずしも軌道に乗っていない。日本人が歴代総裁をつとめるアジア開発銀行はインフラ投資などをめぐってAIIBと協力しているが、両行が統合すれば、旺盛な需要に対して資金不足にあるアジアのインフラ投資が進む可能性がある。 日中首脳会談による日中連携は、冬の時代が長かった戦後の日中関係からみると一歩前進ではある。しかし、それはトランプ旋風に対応した防御的な連携にすぎない。日中両国に求められるのは、世界の成長センターであるアジア太平洋を結びつけるより広範な連携である。この本格的な多国間主義こそ、トランプ流の2国間主義を突き崩すことになるはずだ』、誠に格調が高い主張で、大賛成である。

第三に、元経産省米州課長で中部大学特任教授の細川 昌彦氏が10月31日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「日本は対中「注文外交」をできるのか? 中国の対日微笑み外交は「米中関係の従属変数」」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/062500226/103000008/
・『10月26日に北京で開かれた日中首脳会談。米中の「貿易戦争」を背景に「微笑み外交」で日本に迫る中国に対し、日本の対応はどうだったのか。安易な「日中関係改善」では不十分で、知財問題や一帯一路に関して「注文外交」を展開する必要がある。 これほど思惑がわかりやすい首脳会談もない。10月26日、安倍総理が北京を訪問し、習近平国家主席との日中首脳会談が開催された。この首脳会談に対する中国側の意気込みはやはり米中対立の裏返しであった。 2017年半ばから習主席は日本との関係改善に動き始め、昨秋の共産党大会を終えて以降、対日外交は「微笑み外交」に明確に転じた。習近平体制の権力基盤の強化もあるが、基本的には米中関係の悪化が大きく影響している。 米中関係が厳しさを増してくると、日本との関係は改善しておき、日米の対中共闘を揺さぶる、といういつもながらの思考パターンだ。 これまでの歴史を振り返ってもそうだが、「日中関係は米中関係の従属変数」という要素が大きい』、「日中関係は米中関係の従属変数」とは言い得て妙だ。
・『もちろん日中の関係改善は歓迎すべきことで、これを機に建設的な対話をするチャンスだろう。しかし、これを永続的なものと楽観視すると中国の思うつぼだ。あくまでも中国側の事情、打算による関係改善である。将来、仮に米中融和に向かえば、どうなるかわからない脆い基盤だ。残念ながらそれが日中関係の現実だ。日本政府も「従属変数としての日中関係」を頭に置いた対応が求められる。 日本企業にとっても注意を要する。 米中間の関税合戦もあって、外国企業の対中投資が見直しの機運で、現に中国での生産拠点を他国に移転する動きも出てきた。これに中国は強い危機感を持ちだした。そこで、日本企業を引き留めるだけでなく、更には対中投資に向けさせたいとの思惑が働いている。 最近、中国は共産党指導部の意向を受けて、各地の地方政府が熱心に日本企業に対する投資誘致に奔走しているのは、そうした背景による急接近だ。これは中国側の状況次第でいつでも風向きが変わるリスクがあることを忘れてはならない』、さすが対米交渉を取り仕切った通商問題のプロだけあって、冷徹で鋭い指摘だ。
・『知的財産権での注文外交とは  こうした中国の「微笑み外交」に対して、日本は中国に対して「注文外交」ができるかが問われている。 具体的に日中首脳会談の経済面での成果を見てみよう。 その一つが、先端技術分野での連携のための新たな枠組みとして「イノベーション協力対話」を作ったことだ。これも米国との技術覇権争いを背景として、中国がハイテク技術で日本に接近する思惑が見え隠れする。 5月、李克強首相が訪日した際、安倍総理に投げたボールが、イノベーション分野での対話・協力であった。日本は中国の思惑にそのまま乗るわけにもいかない。中国の知的財産権の扱いについては欧米とともに日本企業も懸念を有している。そこで、これを知的財産権問題とパッケージにして扱う場に仕立て上げた。 米国は中国への技術流出を止めようとしている矢先に日本が抜け穴になることは看過できない。日本政府も米国政府に懸念払拭のために事前説明したようだ。 今後、この対話の場をどう動かしていくか、まだ決まっていない。だが、日本としては中国にお付き合いしている姿勢を示しつつも、具体的な案件ごとに安全保障上の懸念がないか慎重にチェックすることが必要だ。 日本企業も恐る恐る対応することになる。協力案件が米国から問題にされることがないよう、企業にとって保険になるような、政府ベースでの仕掛けづくりが大事だ』、なるほど、その通りなのだろう。
・『習主席訪日を「人質」に取られ、日本はWTOに提訴できず  またこの対話を進める前提として、中国の知的財産権のあり方に注文をつけることが不可欠だ。中国の不公正な知的財産権のあり方については、欧米が歩調を合わせて世界貿易機関(WTO)への提訴を行っている。ところが日本は今回の安倍総理の北京訪問、来年の習主席の訪日を人質に取られて、中国へのWTO提訴をしていない。 先月の日米首脳会談での共同声明にあるように、中国の知的財産の収奪、強制的な技術移転などの不公正さには日米欧で共同対処するとなっている。にもかかわらず、日本が中国に対してWTO提訴できないでいるのだ。これには欧米からは冷ややかな目で見られていることは重大だ。 特に日本政府はルール重視と口では言っていても、中国のルール違反に対しては甘い姿勢でいることに、言行不一致との指摘もささやかれている。これではこれからの国際秩序作りに日本が主導して日米欧が共同歩調を取ることを期待できないだろう。 日本も中国に対してWTO提訴を行ったうえで、こうした対話の場を活用して、中国に対して民間企業が直面している懸念をぶつけて、改善のための協議をすることが、イノベーションの協力を進めるための政府の役割だろう。日本企業もこれまで知財での不公正な扱いに対して、中国政府に睨まれないよう、目をつぶっていた体質を変える必要があるが、それも日本政府の対応がしっかりしていることが前提だ』、今回は、日本側が有利な立場にいた筈なのに、日本だけWTOに提訴できなかった、とは情けない話だ。
・『一帯一路への「注文外交」を  そしてもう一つの柱が、日中の「第三国市場でのインフラ協力」だ。 中国の思惑は、日本をいかにして一帯一路への協力に引き込むかにあるのは明白だ。一帯一路も相手国を「借金漬け」にする手法に、欧米だけでなくアジア諸国からも警戒感が高まり、一時の勢いが見られない。パキスタン、ミャンマー、マレーシアなど事業の縮小、見直しが相次いでいる。そうした中で、日本の協力を得ることは、一帯一路の信頼性を高めるうえで大きい。 他方、日本は「量より質」で勝負しようと、相手国のニーズと案件を精査して「質の高いインフラ整備」で対抗しようとしている。米国とともに提唱している「インド太平洋戦略」がそれだ。 しかし単に対抗するだけではなく、圧倒的な資金量を誇る中国とは協調も必要ではないかとのスタンスに徐々に舵を切り始めたのだ。もちろん民間企業のビジネスチャンスへの要望もあるだろう。 むしろ日本に優位性のあるプロジェクト・マネジメントやリスク管理のノウハウを活用して、一帯一路を軌道修正させていこうとの思惑だ。日本のメガバンクはこうした面での強みを特にアジアにおいては有している。中国企業の安価な製品、サービスと結びつけば補完関係にある。 ただし、一帯一路への協力となると、米国も黙ってはいない。神経をとがらせて当然だ。日本もそれを意識して、「一帯一路への協力」とは一言も言っていないのだ。しかし当然のことながら、中国側は早速、「一帯一路に日本の協力を取り付けた」と宣伝している。 日本は本来、米国とともに主導している「インド太平洋戦略」でインフラ整備を進めていることになっているはずだ。日本も中国同様、「インド太平洋戦略に中国の協力を取り付けた」と宣伝するぐらいの厚かましさがあってもよい。 日中首脳会談直後に来日したインドのモディ首相にもその協力で合意している。今回の中国との第三国市場でのインフラ協力は、こうしたインド太平洋戦略との関係をどう整理して国際的に説明するのか不透明なのが問題だ。それはそもそも、インド太平洋戦略の中身が明確になっていないことにも起因している』、中国包囲網を意識していたインド太平洋戦略を如何に見直していくかは、重大な課題だ。米国やインドの思惑はともかく、日本側だけでも青写真を描いておくべきだろう。
・『「危険な案件」の見極めが必要  言葉がどうであれ、今後、大事なことは具体的なプロジェクトの進め方で中国に注文をつけていくことができるかどうかだ。日本も米国政府に事前にそう説明して、米国の批判、誤解を招かないように手を打ったようだ。そうでなければ、中国の思うつぼであり、米国からも厳しい目で見られるだろう。2018年4月には欧州もハンガリーを除くEU大使が連名で一帯一路への警戒感から中国に改善を申し入れている。日本も安易な対応は国際的に許されない状況にある。 問題はこれからだ。 今回の首脳会談の際には、民間ベースでも52件の案件を合意して、成果に仕立て上げた。日中間の協力と言っても、具体的なビジネスは様々なパターンがある。 例えば、日中企業が共同で太陽光発電事業を受注して運営するケース。日本企業が発電所建設を受注して、中国企業から安価な機器を調達するケース。日中の合弁企業が中国で発電機器を製造して第三国の発電所に納入するケース。日本企業が基幹部品を供給して中国企業が組み立てた機械を輸出するケース。日本企業が中国と欧州を結ぶ鉄道を活用して物流事業を展開するケース。日中企業が協力してヘルスケアなどのサービス市場の展開をするケースなど、さまざまな形態が含まれている。 政府は高速鉄道案件のような象徴的な大プロジェクトに飛びつきがちだが、最近の中国側のずさんな対応を見ると、それはリスクが高い。むしろ地道なプロジェクトを積み上げていくべきだろう。 日本企業の中にはビジネスチャンスと捉える向きもあるが、事はそう単純ではない。今後、協力案件を慎重に見定めなければ、中国の影響力拡大の戦略を利することにもなりかねない。また、民間企業にとっても中国側の国有企業特有の甘いリスク判断は受け入れがたい。そうした“危険な”案件の見極めも必要だ。 今後、日中間では官民合同の委員会で議論して進めることになっているが、官民ともに甘い見通しを持つことは禁物だ。今回、日中間で開放性、透明性、経済性、対象国の財政健全性といった国際スタンダードに沿ってプロジェクトを進めていくことが合意されたと言うが、こうした原則の合意だけで安心していてはいけない。原則の美辞麗句だけでなく、これらが具体的にどう適用されるかを注意深く見ていく必要がある』、安倍政権はインフラ輸出などを推進するとしているが、懸念されるのは、案件獲得を焦る余り、「危険な案件」の見極めがおろそかになることだ。
・『今回の安倍総理の北京訪問を受けて、来年には習近平主席の来日を求めて、日中首脳の相互訪問を実現したいというシナリオだ。しかし、だからと言って、友好だけを謳っていればいい時代ではない。知的財産権にしろ、インフラ整備にしろ、中国に対して注文すべきことは注文するのが重要だ。前述したように、中国に対するWTO提訴を躊躇しているようではいけない。それでは国際秩序を担う資格はない。 米中関係が長期的な経済冷戦の様相を呈している中、中国に対して、かつての冷戦モードのような「封じ込め政策」でもなく、「関与政策」でもない第3のアプローチを模索する時期に来ているのだろう。日本も米国の中国に対するアプローチとは違って、「注文外交」をきちっとすることによって、時間をかけて中国の変化を促すような、腰を据えた中国との間合いの取り方が必要になっている』、説得力のある主張で、その通りだと思う。
タグ:新たな次元の協力 中日合作新時代 李克強首相などとも会談 日中関係 日中平和友好条約締結40年 (その2)(日中関係20年間の悪化を的中させた私が感じる「日中合作新時代」,「新冷戦」で追い込まれての日中連携へ トランプ主義が変えた力学、日本は対中「注文外交」をできるのか? 中国の対日微笑み外交は「米中関係の従属変数」) 習近平国家主席 ダイヤモンド・オンライン 「日中関係20年間の悪化を的中させた私が感じる「日中合作新時代」」 莫 邦富 日中関係は20年間よくならないと20年前の1998年に予測 中国が猛烈に追い上げてきて相互嫌悪のムードが定着 “日中関係20年間悪化説”に終止符 国益重視の原則を守りつつも、例えば首脳の訪問など、手を携えるべきところは積極的にその行動を起こすというものだ 是々非々の交流と付き合いが日中合作新時代のカラーに 岡部 直明 日経ビジネスオンライン 「「新冷戦」で追い込まれての日中連携へ トランプ主義が変えた力学」 日中首脳会談は、経済協力を最優先し連携することで合意 新時代を迎えた割に日中の合意は小粒 目先の防御的連携を超えて、環太平洋経済連携協定(TPP)と東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の結合などアジア太平洋の大戦略を打ち出し、米国をこの成長センターに引き戻すときである 経済最優先の連携 スワップ協定を再開 融通額の上限は3兆4千億円(人民元の上限は2千億元)と10倍超に 遅すぎた対中ODAの終了 中国からの感謝はそう大きくなかったようにみえる トランプ攻勢に守りの協調 中国にとって、日本との協調はトランプ米政権へのけん制の狙い 日本にとっても日中協調はトランプ政権への「中国カード」 失敗した「中国包囲網」構想 地球儀を俯瞰する外交」は事実上の「中国包囲網」構想 あっという間に「日中逆転」が進行 「包囲網」を築こうという発想そのものが時代錯誤 日中はなぜ独仏に学べなかったか 周恩来首相が「井戸を掘った人」と讃えたのは、岡崎氏だった 米国巻き込む日中連携の大戦略を TPPとRCEPを結合して、米国を呼び戻すのは日中の共同戦略になる アジアインフラ投資銀行(AIIB)とアジア開発銀行の統合 本格的な多国間主義こそ、トランプ流の2国間主義を突き崩すことになるはずだ 細川 昌彦 「日本は対中「注文外交」をできるのか? 中国の対日微笑み外交は「米中関係の従属変数」」 これほど思惑がわかりやすい首脳会談もない この首脳会談に対する中国側の意気込みはやはり米中対立の裏返しであった 米中関係が厳しさを増してくると、日本との関係は改善しておき、日米の対中共闘を揺さぶる、といういつもながらの思考パターン これを永続的なものと楽観視すると中国の思うつぼだ。あくまでも中国側の事情、打算による関係改善である 中国側の状況次第でいつでも風向きが変わるリスク 知的財産権での注文外交とは イノベーション協力対話 中国の知的財産権の扱い これを知的財産権問題とパッケージにして扱う場に仕立て上げた 習主席訪日を「人質」に取られ、日本はWTOに提訴できず 欧米からは冷ややかな目で見られている 日本企業もこれまで知財での不公正な扱いに対して、中国政府に睨まれないよう、目をつぶっていた体質を変える必要がある 一帯一路への「注文外交」を インド太平洋戦略 「危険な案件」の見極めが必要 欧州もハンガリーを除くEU大使が連名で一帯一路への警戒感から中国に改善を申し入れている 「注文外交」をきちっとすることによって、時間をかけて中国の変化を促すような、腰を据えた中国との間合いの取り方が必要
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