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ロボット(その1)(東日本大震災で なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか、欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由、ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須、AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日) [科学技術]

今日は、ロボット(その1)(東日本大震災で なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか、欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由、ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須、AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日)を取上げよう。

先ずは、日本ロボット学会理事、和歌山大学システム工学部システム工学科教授の中嶋秀朗氏が2月13日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「東日本大震災で、なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/159405
・『ルンバやドローン、そしてpepper、再発売されたaibo。これらはすべてロボットです。AIの発達とともに、現在、注目されているロボティクス。工業分野だけでなく、サービスや介護、エンターテインメント、そして家庭でも、AIを搭載したロボットが登場しており、これらを使いこなし、そして新しいビジネスに結び付けることが期待されています。今回は、ロボティクスの専門家である著者が、わかりやすく書いた新刊『ロボットーそれは人類の敵か、味方か』の中から、エッセンスを抜粋して紹介します』、確かにロボットの応用は急速に広がっている。
・『東日本大震災で注目されたロボット  私が「ロボットを作っている」という話をすると、ヒューマノイドを作っていると勘違いされるケースが多々あります。私の専門は「移動ロボット」で、現在は階段を含めたあらゆる段差に対応するロボットを開発、研究しています。 それは、脚で歩くような機能も持つ車輪型ロボット、人が乗れるロボット車両なのですが、この一人乗り車両(PMV:Personal Mobility Vehicle)は、簡単に言えば「ロボット車椅子」であり、「人の移動手段」という一つの目的に絞った「単機能ロボット」です。 現在は、このような「単機能」という方向にもロボットの開発目的が広がっており、さらに、もう一つ大きな特徴をあげるとすると、それは「タフ」であること。 これらは特に2011年3月に起きた東日本大震災の反省から生まれたキーワードです。 複雑すぎて使えない、環境に依存する、すぐに動かなくなるといった、今までのロボットの弱点を克服するために、目的を明確化した「単機能」で、「タフ」なロボットが注目を浴びるようになってきたのです』、ロボットに求められるようになった「タフ」さを、みていこう。。
・『大震災で活躍したのはあの「ルンバ」の会社だった  2011年3月、東日本大震災が発生しました。当時私は千葉工業大学に勤務しており、仙台の実家へ連絡をしようとしましたがなかなか電話がつながらず、不安な気持ちでいたところに、福島第一原発の一報が入りました。 そして、その解決のために、ロボットに白羽の矢が立ったのです。しかし、そこで最初に原発に投入されたのは、残念ながら日本製のものではなく、アメリカ製のロボットでした。 最初に投入されたのは、上空からの目視調査のためのロボットである「T―Hawk」(Honeywell社)と、内部の状況確認、放射線測定を目的とした「Packbot」(iRobot社)です。その2ヵ月後には障害物除去のために「Warrior」(iRobot社)が用いられました。 iRobot社というと聞いたことがある人も多いかもしれません。そう、「ルンバ」の会社です。 iRobot社は、今は家電ロボットが中心事業ですが、実は軍事用ロボットも開発していたのです。 「Packbot」は、実際に戦地で使われていたもので、非常に頑強にできています。例えば誰か潜んでいそうな家や洞窟などに、外側から兵士が「Packbot」を思い切り投げ込みます。 それから、遠隔操作でその中を偵察させるのです。高いところから落ちても、水に濡れても、投げても壊れない。過酷な状況で使うことを前提に作られたロボットですから、原発にすぐに投入することができました。 実は、日本ではそもそも、大学などが軍事用のロボットを研究することができません。日本の各大学は、「日本学術会議」から出される方針に従っており、そこでは、ロボットの軍事研究をしないことが方針としてうたわれているからです。そのため、。戦場で使うという想定がありません。ですから、実戦を見据えた「タフさ」が、日本のロボットにはなかったのです』、原発事故の当初には日本製が使い物にならなかった理由が、ようやく理解できた。
・『無線LANが使えない場所ではロボットが使えなかった  原発事故の時に話題となったのが、無線LANが使えない、ということでした。日本のようにネットワーク環境がいいところで動かしているロボットは、無線LANなどのネットワーク環境を使うことが前提となっており、広範囲にわたる場所で有線のケーブルをつけたままからまずに使用できるようにすることが考えられていなかったのです。 原発事故の時には、無線LAN環境が失われる、原子炉の中まで電波が届かない、放射能が邪魔をするなど、日本のロボットを動かす環境は完全に失われていました。 そして地震発生から約3ヵ月後の2011年6月に、千葉工業大学のロボット「Quince」が投入されました。投入までの約3ヵ月間は、放射能がある中で壊れないようにする、あるいは、巻き取り器を持った長い有線ケーブルの追加など、対環境性能を向上させることに使われていたのです。ただ、この「Quince」が、他のロボットが上れなかった2階にも上ることができたのは、一つの成果でした。 このような経験から、現在のロボットが目指す方向性の一つが、確実に動く「タフさ」になったのです。現在、災害時にも使えるロボットを開発するために「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」で行われているプロジェクトが「タフ・ロボティクス・チャレンジ」です。2014年から5年間、35億円相当の予算を取って、東北大学の田所諭教授が中心となって行っています。 また、ヒューマノイド活用の可能性も再び議論されることとなりました。原発に限らず、あらゆる施設は人間が働くことを前提に作られています。そういった意味で、ヒューマノイドであれば人間と同じように働けるのではないかと考えられるからです』、原発事故現場で投入されているロボットは、ニュースなどで見る限り現在でも苦戦しているようだ。

次に、早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏が6月1日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/171391
・『働き方改革の「生産性向上」で注目浴びるロボット産業のいま  働き方改革法が衆院で可決した。安倍政権は働き方改革の柱として、生産性向上を重要な政策として位置づけている。AIやロボットへの設備投資により、これまで人的作業だったものを自動化することで、労働時間の削減や高齢化による人材不足を解決するのが狙いだ。 自動化における鍵となるのが、製造業における産業ロボットの導入だ。世界的な人手不足を背景に産業用ロボットの需要は拡大の一途をたどっており、富士経済は協働型ロボットの世界市場が2025年には2016年の8.7倍、2700億円になると予測している。 スイスの重工大手ABBと有力紙『エコノミスト』が今年4月に発表した「Automation Readiness Index」(自動化準備指数:筆者訳)によると、AIやロボット導入による自動化で最も準備が整っている国は、1位が韓国で2位がドイツ、3位がシンガポール、日本は4位に留まっている。 今後、ますます増えるであろうロボットとの協働・自動化の波で、日本は対応を強いられることになる。 産業用ロボットは、すでに様々な生産現場に溢れている。かつては人手によって溶接加工されていた自動車の生産などは、ほとんどのメーカーの工場で溶接ロボットに置き換わっている』、「自動化で最も準備が整っている国」のランキングで日本がやや低目に評価されたのは何故だろう、気になる。
・『では、エンタテインメントロボットはどうか。AIBOは最近出荷台数が1万台を超えたそうだ。ソフトバンクのPepperは、小売店の店頭やショールームなどでよく見かけるようになった。ロボットが接客するホテルも話題になった。 だが、こうしたエンタテインメントロボットはまだまだ身近になったとは言えない。特にグローバルな視点で見ると、こうしたエンタテインメントロボットがもてはやされるのはほとんど日本だけのようである』、なるほど。
・『「AIBO」や「Pepper」が海外で評価されないのは「ドラえもん型」だから?  産業用ロボットでは日本の安川電機が市場シェア1位、次いでスイスのABB社が2位と日欧のメーカーがトップを走っているが、ソニーのAIBOやホンダのASIMO、ソフトバンクのPepperのようなエンタテインメントロボットは、先に述べたように日本市場が中心であり、供給企業もほとんどが日本企業だ。なぜ、エンタテイメントロボットブームは日本以外では起こらないのだろうか。 どうやらロボットを愛らしいもの、可愛がる対象として見るということ自体が、欧米の人にとってはやや異質のようである。 ハーバードビジネススクールのビジネスケース教材に過去のソニーのAIBOの事例があるのだが、そこでAIBOは失敗事例として描かれ、なぜロボットを愛玩動物に見立てるのかと疑問を呈している。いまだに古いAIBOの修理ビジネスが成り立っていたり、壊れたAIBOのお葬式まで出してしまったりする日本の状況とは、大きく異なる。 この違いは、日本と欧米とのロボットに対する感覚の違いによるものかもしれない。日本では古くから『鉄腕アトム』や『ドラえもん』に代表されるように、ロボットは独立した個性であり、ある種人間と対等な存在として、人間の相棒や友達になっている。 一方欧米では、『ロボコップ』や『アイ,ロボット』などの映画で描かれているように、ロボットは人間に服従させるべき対象であり、時に人間に反抗する危険性をはらみ、人間とは対等ではない、というロボット観が一般的である。そもそもロボットに、相棒や友達としての役割を求めていないのだ。 SF作家のアイザック・アシモフが映画『アイ,ロボット』の原作でもある小説の中で示したロボット三原則も、人間の安全確保と人間の命令への服従が規定されている。ドラえもんやアトムの世界観とは相容れない、日本的でないロボットの在り方である。 むしろ産業用ロボットでは、アシモフ的なロボットと人間の関係を具現化していると言えよう。生産の現場において、産業用ロボットは人間の安全性が何よりも優先され、人間の命令に絶対服従をしていて予想外の反応をすることはない。同じロボットという名前がついていても、エンタテインメントロボットとは大きく異なるポイントだ。 エンタテインメントロボットに人間が驚いたり感動したりするのは、ロボットが自律的に判断し、人間の予想外の反応をしてくれるときである』、ロボットと人間の関係は、欧米と日本では確かに大きく異なっているようだ。
・『産業用ロボットも今や単なる「ロボコップ型」ではダメ  しかし最新の産業用ロボットは、従来のように、ただ命令に服従するだけのロボットではなくなってきたようだ。スイスに本社を置くABBは、発電所設備や産業用ロボット、最近では、電気自動車の充電設備などの開発製造を手がける大手産業用機器メーカーである。ABBは、世界初の商業用ロボットを発売した産業用ロボットの草分け的企業であるが、同社は協働型双腕ロボットという新しい産業用ロボットを開発している。 人間と同じ2本の腕を持つこのロボットは、人間の手作業との協働を前提に設計されている。単純な反復作業であればロボットだけで行えばいいが、臨機応変な対応、人間の認知能力や洞察力が求められる場合には、人間の手を借り、協働するというものだ。 双腕協働型ロボットが人間に似ているのは、2本の腕だけではない。作業現場の状況を自ら臨機応変に判断する高度なAIが搭載されている。機械だけが存在する現場では、単に正確に素早く作業をこなすだけでいいが、同じ現場に人間の手が入るということは、その人間の身体の安全を確保しなければならないということである。 人間の手の動きは必ずしも規則的ではないから、ロボットの方が人間の動きに合わせて、危険がないように動く必要がある。協働型ロボットにAI技術が求められる所以だ。 産業用ロボットもただ命令に従うのではなく、自律して臨機応変に判断をする能力を持つということは、ロボットを人間の相棒、仲間として認識するというロボット観の大きな転機になるのかもしれない。その意味で、産業用ロボットも欧米的ロボット観から、日本的ロボット観にシフトしてきていると言えるかもしれない。 先述のABBは、同じ協働型ロボットを推進している川崎重工業と昨秋、協働型ロボット分野における協業を発表しているが、これも欧米的ロボット観と日本的ロボット観の新たな出合いなのかもしれない』、「新たな出合い」でどんなものが生み出されるのか、楽しみだ。

第三に、6月25日付け東洋経済オンライン「ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/226498
・『ロボットアームが空揚げや梅干しといった具材を器用につまみ上げ、弁当のトレーに正確に盛り付けていく――。6月中旬に東京ビッグサイトで開催された食品機械展示会で注目を集めたのが、このロボットによる盛り付けデモだ。 今、弁当や総菜などの食品製造業で人手不足が深刻だ。主戦力であるパート職員が足りず、厚生労働省によれば、業界の欠員率は製造業全体の倍以上。加えて食品工場の7割は中小企業が占める。展示会のブースでロボットの営業にあたっていたソフトウエア会社関係者は、「地方の中小企業からの引き合いが非常に強い。各社とも東京では想像がつかないほど、人手不足が深刻な様子」と語る。 こうした中小企業の大半は小規模ラインで日々さまざまな品目を生産するため、既存の「寿司マシン」のような専用機だけでは心もとない。そこで人手に代わる存在として期待されるのが、多様な動作を柔軟に設定できる産業用ロボットだ』、中小食品業のような多品種少量生産に応用できれば、確かに画期的だろう。
・『食品工場でロボット導入が進まない  幅広い業界で自動化需要が高まり、ロボットの国内出荷台数は近年右肩上がりだ。2017年は約4万9000台となり、この10年で最多を記録。だが食品業界向けは全体のわずか1.6%で、ここ数年は伸び悩む。人手不足の解消は喫緊の課題なのに、なぜ導入が進まないのか。 要因の一つには、そもそも食品製造がロボットより人間の得意な領域ということがある。中小食品工場となると生産品目は多岐にわたり、入れ替わりも激しい。人間なら「まずは漬物の梱包、次に弁当の盛り付け。明日からはケーキを作る」と指示すればよい。 これをロボットに任せようとすると、短期間であらゆる品目に合わせてプログラミングや生産ラインの設計変更などを繰り返さなければならない。さらに、物体を認識したりモノをつかんだりする技術は、形状がバラバラで、滑りやすかったり軟らかかったりする食品を扱うには不十分だ。 北海道で中小総菜工場を営むコスモジャパンでは、焼き鳥の具材である鶏肉やネギを串刺しにする手前で整列させる工程にロボットを導入した。しかし、試行段階では具材の形状にばらつきがあり、画像認識が難しかった。そこで、前工程で具材を均一な形状にそろえるよう心がけた結果、ようやく導入に至ったという。 しかし、このようにうまくいくケースばかりではなく、思うように活用できず「生産性が導入前を下回ることもある」(経済産業省ロボット政策室の小林寛係長)。実際、展示会で従来つかみにくいとされてきた肉片をピッキングするロボットを見つけ、記者がカメラのシャッターを切ろうとすると、ロボットハンドから肉片の模型が床に滑り落ちてしまうこともあった。 さらに、食品工場側のノウハウ不足も要因だ。安川電機・髙宮浩一営業本部長は、「(産業用ロボットを使いこなす)自動車会社は購入したロボットを工場のシステムに組み込む技術部隊を持つ」と話す。一方、中小食品工場にはそうした要員がおらず、自力のプログラミングは至難の業。先述したコスモジャパンの小林惣代表は「大企業ならロボットを容易に設置できても、中小には難しい」と嘆く』、確かに弁当のように、狭いな狭いスペースに様々な食材を芸術的に入れていく作業をロボットにさせるのは、素人が考えても難しそうだ。
・『ロボット導入の“指南役”育成が急務  そんな食品業界の突破口として関係者の多くが挙げるのが、「ロボットシステムインテグレーター(SIer)」と呼ばれる企業の存在だ。SIerは“ロボット初心者”の代わりに、工場のラインに最適な自動化機器を選別・統合する役割を担う。 だが現状はロボットSIerが足りず、食品工場の特殊性を理解する事業者はさらに少ない。食品製造業の自動化を手掛けるあるSIerによると「知識のない食品工場の多くは、ロボット導入というと工程の全自動化(無人化)をイメージしてしまう」という。しかし、現状の技術では自動化できない工程が存在する。見かねた経産省は、SIerの業界団体設立に向け動きだした。食品などの未開拓領域に関する情報共有のほか、関連業種からの新規参入も促したい考えだ。 さまざまなロボットを備えるSIer育成施設も増えつつある。栃木県で「スマラボ」という施設を運営するFAプロダクツの天野眞也会長は、「メーカー側からも需要があり、いずれは全国展開したい」と話す。 最も強い危機感を抱くのは、食品業界とかかわりの深い農林水産省だ。食品製造課の横島直彦課長は、「日本全体が一層の人口減少を控え、移民政策の急進展は期待できない。現時点で多少生産性が落ちるからと自動化をためらえば、近い将来にそもそも何も作れなくなる」と言う。横島氏は、戦後初となる経産省からの出向課長。農水・経産両省のロボット関連の取り組みをつなげ、脱縦割りで政策の加速を狙う。 ロボットメーカー側は新規分野として食品業界に注目してきたが、売れ行きは鈍かった。食品工場は生き残れるか。SIer育成の本気度が問われている』、役所が旗を振っても、食品工場の特殊性を理解するSIerの育成が簡単には進まないのは、やはりロボットに任せるには、コスト的、技術的な難問があるからなのかも知れない。

第四に、ジャーナリストで浄土宗僧侶の鵜飼 秀徳氏が11月26日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/061100222/110900014/?P=1
・『それは今まで見たことのない、奇妙なペット葬だった。100匹以上の動かなくなった「犬」が本堂に設けられた祭壇にずらりと祀られている。住職の読経が始まると、喪服を着た参列者が神妙な表情で焼香をしていく。 千葉県いすみ市の日蓮宗光福寺で執り行われたのは、「AIBO(アイボ)」の葬式だ。AIBOとはソニーが生んだ犬型のロボットである。AIBOの葬式は2015年から始まり、私が訪れた2018年4月26日で6回目を数えた。ペット葬もここに極まれり、という印象である。 2年前、初めての葬式の時に弔われたAIBOは17台だけだった。だが、回数を重ねる度に供養されるAIBOの数は増えていった。2017年6月の5回目の葬式では100台を超え、今回は114台に「引導」が渡された。袈裟を着た2体のAIBOが「南無妙法蓮華経」と、お題目を唱えるパフォーマンスも行われた。 しかし、生命体ではないロボットにたいして、葬式をあげるとはどういうことか。話は初代AIBOが誕生した20年ほど前に遡る。 AIBOが国内で初めて販売されたのは1999年6月のことだ。定価25万円と高額であったが、発売わずか20分で国内受注分3000台が売り切れる盛況ぶりであった。AIBOは「ウォークマン」以来の、実にソニーらしい独創性あふれる商品として話題になった。 AIBOは頭部にカメラを内蔵した未来的なデザインが特徴で、あえてメカニカルな感じを出したところに斬新さがあった。見た目は「犬版ターミネーター」のよう。実際の犬に比べ、動きはぎこちないし、俊敏さもない。しかし、尻尾を振り、愛くるしくつきまとう姿は、瞬く間に「飼い主」の心を掴んだ。 AIBOはプログラミングによって「学習」して「成長」する。飼い主は本物の子犬を育てているような感覚にさえなった。 一般消費者向けのロボットが人間のパートナーになる時代————。ロボット史上、極めて大きなエポックとも言えるのがこのAIBOの登場なのである。 AIBOは5つのシリーズを出し、累計15万台を販売したヒット作となった。だが、ソニーの業績悪化によって2006年、製造・販売が中止となる。7年後の2014年3月には、ソニーの修理対応も打ち切られてしまった』、AIBOの製造・販売中止は、ソニーがそこまで追い込まれたのかと、私も再認識させられた。
・『ロボット犬に突きつけられた「死」の宣告  寿命がないはずのロボット犬に「死」の宣告が突きつけられたのである。AIBOを治療する「病院」がなくなってしまったのだから。故障あるいは充電池の消耗によって、AIBOはいずれ動かなくなる運命にあった。 「亡くなった親が“飼っていた”AIBOが動かなくなった。何とか修理してほしい」 折しも、飼い主の悲痛な願いが、ソニーの元技術者たちで立ち上げた電化製品の修理工房「ア・ファン」(千葉県習志野市)に寄せられた。ア・ファンは2015年からAIBOの修理を手がけ始める。しかし、修理のための新しい部品はすでに生産中止になっていた。 そこで用いた手法が、「献体」と「臓器移植」である。ア・ファンではドナーとなるAIBOを寄贈などで手に入れる。そして必要な部品を取り出し、依頼者のAIBOに移し替えるのだ。 ドナーとなるAIBOは「死んで」しまう。そこで葬式の概念が生まれた、というわけだ。 葬式の導師を務める光福寺住職の大井文彦さんとは、ア・ファンの技術者がひょんなことで知り合いになったのがきっかけだという。住職も、古いラジオなどの愛好家であり、メカが大好きであった。ア・ファンの試みにたいし、「それは面白い」と賛同してくれた。そして、世界でもおそらく初めてとなる「ペットロボット葬」が行われたのである。 社長の乗松伸幸さんは言う。「1体1体のAIBOには、これまで一緒に暮らしてこられたオーナーさんの心が入っている。そこで宗教的儀式が必要になってくるのです。葬式を通じてAIBOに入っていた『魂』を抜かせていただくことで、AIBOは純然たる部品としての存在になる。葬式を終えて初めてバラさせていただくことができるという考え方です」』、宗教心のない私には、半ば呆れる他ない。
・『AIBOに宿る魂とは  メカとはいえ、きちんと弔いをした上で部品を取り出す。乗松さんによればAIBOに宿る魂とは、「メカそのものの霊魂」ではなく、AIBOに乗り移った「飼い主の気持ちや念」だという。 AIBO発売当初は、ロボットと人間との関係性が、ここまで親密になるとは誰も想像がつかないことだったという。しかし、発売からかれこれ20年が経過し、日本におけるAIBOはすでに「家族そのもの」であり、「うちの子」になっている。 AIBOが家族になり得たのは、与えられた仕事を完璧にこなす産業用ロボットと違い、“不完全に”作られているからだと、乗松さんは言う。 「まず、主人の言うことを聞かない。『お手』と言っても、無視される。『可愛いね』と言っても反応してくれない。そうしたわがままな仕草を主人はむしろ、AIBOに心があるかごとく感じてしまうのです。今の核家族社会にあってAIBOは完全にオーナーの心の隙間を埋める存在になっています」』、「AIBOが家族になり得たのは・・・“不完全に”作られているからだ」というのはなかなか興味深い指摘だ。
・『乗松さんは、工業技術の発達とともに人間とロボットとの間に、新しい関係性が生まれつつあると指摘する。 たとえば、掃除ロボットの「ルンバ」に愛情を抱き、愛玩する人もいる。ルンバは円盤型のボディにセンサーとコンピューターが内蔵されて、自律的に部屋の清掃を行ってくれる。健気に部屋を掃除して動き回る姿は、どこか有機的である。 「今後はルンバなどの葬式も十分考えられるでしょう。ユーザーの心が入る余地があるものはすべて供養の対象になると思います。人間とロボットとの関係性は、時代の流行などに影響を受けながら、常に変化しているのです」 例えば2016年には、シャープからモバイル型ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」が発売された。ロボホンは二足歩行の人間型ロボットである。クリクリとした目が実に可愛い。 箱を開封し、ロボホンを床に置くと自分で立ち上がり、「あ、君が僕を箱から出してくれたんだね。はじめまして、僕、ロボホン。ポケットやカバンに入れて一緒に連れていってね」 などと話かけてくるのである。若い女性のみならず、ユーザーになった者は瞬時にロボホンに心を奪われることだろう』、AIBOはまだ理解できるとしても、ルンバやロボホンになると、えーと唸ってしまう。
・『「うちの子」になったロボット  そんな時勢を追いかけるように、AIBOも2018年、「aibo」とアルファベット小文字に名称を変えて復活した。初代AIBO同様、1月11日の発売開始直後に完売する人気ぶりであった。 外見は初代AIBOとはかなり異なり、メカニカルな感じはほとんどなくなった。実際の子犬にかなり似ている。最新のAIを搭載し、目に映った飼い主の表情を読み取る。 「こうすればご主人が喜んでくれる」「これをやったら怒られる」などと学習しながら、成長していく。つまり、ロボットに「自我」の芽生えが起きている。そうなると、家庭内に入ったロボットは「うちの子」になってしまうのだ。 現在60代後半から70歳までの団塊世代がペットロボットを愛玩するケースは少なくない。彼らは集団就職で東京に出てきて、核家族を形成した。彼らは子供がすでに独立し、夫婦2人、あるいは独居世帯になっている。 体力的にも精神的にも衰えが増していく中、本当の犬を飼い始めるのはリスクが大きい。そこで、ペットロボットを飼うという選択肢が生まれているのだ。 高齢者施設などでもペットロボットの導入が進む。それは「セラピーロボット」とも呼ばれている。 高齢者施設では感染症やアレルギーなどの衛生上の問題もあり、本物のペットを飼うことができない。そこで、施設はぬいぐるみに似たペットロボットを導入し、入居者を癒しているのだ。 先ほどのRoBoHoNにしても、最新型aiboにしても、セラピーロボットも、ただの「可愛い存在」ではなく、「役割」が与えられている。人間社会の中での役割を果たすことで、双方の心のつながりはより強固なものになっていく。彼らがいずれ、葬式や供養の対象になっていくのは必然である。 そう考えれば、現代社会において生物と無生物との境界はないように思える。 住職の大井さんは、このように話してくれた。「生物か無生物かはその人の心持ち次第ではないでしょうか。自分の心次第で、ロボットも血の通ったペットになるし、ただの物体と思えばただの物体でしかない。生物と無生物の間は、実は断絶しておらず、繋がっているのです。断絶しているように見えるのは、人間の観察力が浅いからでしょうね。ロボットの葬式は『万物とのつながり』に気づかせてくれる意味があります」』、セラピーロボットはよくTV番組でも紹介されるが、確かに重要な役割を果たしているようだ。ただ、「断絶しているように見えるのは、人間の観察力が浅いからでしょうね」は、グサリとくる一撃だった。
・『あいまいになる人間とロボットとの境界  AIBOの葬式には、海外から複数の文化人類学者が調査に訪れていた。国立ベルリン自由大学歴史・文化学部東アジア研究所のダニエル・ホワイト上級研究員は興味深げにAIBOの葬式を観察していたひとりだ。ホワイトさんは米国出身で、日本にも10年間住んでいたことがある。感想をこう述べた。 「とても興味深い儀式でした。私はアメリカ出身でドイツに住んでおりますが、両国ともこうしたロボットの葬式はない。日本人が心からロボットを愛し、完全に家庭内で受け入れているのとは違い欧米人はどこか、ペットロボットにたいして一線を引いているところがあるように思います。一見可愛くても、そこはやはりモノ。モノがあたかも人間と同じように振舞うことへの不気味さ、という漠然としたイメージを心の奥底に持っている。そこが日本人のモノについての意識とは大きく異なるところです。日本人はモノについて、感覚的な美学としてとらえますね。何に利用できるか、といった実用面は二の次といった印象です。こうした感性は欧米人にはあまりありません。私は日本に住んでいたから今日のAIBOの葬式を『とても日本的だな』と思いますが、初めて見る欧米人なら顔をしかめるかもしれません」 しかし、日本のようにペットロボットに気持ちが乗り移る時代も遠からずやってくるかもしれない、とホワイトさんは指摘する。 例えば、それは欧米で大流行している人工知能を搭載したスマートスピーカーの存在だという。欧米の多くの家庭の中に入り込み、「コミュニケーション」を取り始めた。スマートスピーカーとはユーザーの呼びかけにたいして、天気やニュースを読み上げてくれるなどの反応を示してくれるものだ。AmazonのEchoなど今、爆発的に増えている。見た目の形状がスピーカーなので、心理的に「怖い」と感じることもないようだ。 人間とロボットとの境界が世界的にも、あいまいになりつつあるのだ。ホワイトさんは言う。「日本人は“気づく能力”が高い。見えないものにたいする気づき。我々も学ばなければならないね」』、「AIBOの葬式には、海外から複数の文化人類学者が調査に訪れていた」というのには驚いた。「人間とロボットとの境界が世界的にも、あいまいになりつつある」、なるほど、改めて考え直してみたい。
タグ:中嶋秀朗 AIBOを治療する「病院」がなくなってしまった セラピーロボット ロボット導入の“指南役”育成が急務 最初に原発に投入されたのは、残念ながら日本製のものではなく、アメリカ製のロボット 無線LANが使えない場所ではロボットが使えなかった AIBOは5つのシリーズを出し、累計15万台を販売したヒット作 エンタテインメントロボット ロボットを愛らしいもの、可愛がる対象として見るということ自体が、欧米の人にとってはやや異質のようである 欧米では、『ロボコップ』や『アイ,ロボット』などの映画で描かれているように、ロボットは人間に服従させるべき対象であり、時に人間に反抗する危険性をはらみ、人間とは対等ではない、というロボット観が一般的である 産業用ロボットも今や単なる「ロボコップ型」ではダメ 産業用ロボットも欧米的ロボット観から、日本的ロボット観にシフトしてきていると言えるかもしれない 食品工場でロボット導入が進まない 食品業界向けは全体のわずか1.6%で、ここ数年は伸び悩む 一般消費者向けのロボットが人間のパートナーになる時代 「ロボットシステムインテグレーター(SIer)」 AIBOはプログラミングによって「学習」して「成長」する。飼い主は本物の子犬を育てているような感覚にさえなった 2006年、製造・販売が中止 ロボット犬に突きつけられた「死」の宣告 ドナーとなるAIBOは「死んで」しまう。そこで葬式の概念が生まれた ペットロボット葬 AIBOに宿る魂とは、「メカそのものの霊魂」ではなく、AIBOに乗り移った「飼い主の気持ちや念」だという AIBOが家族になり得たのは、与えられた仕事を完璧にこなす産業用ロボットと違い、“不完全に”作られているからだ ロボホン ルンバ 長内 厚 「Automation Readiness Index」(自動化準備指数:筆者訳) 「欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由」 製造業における産業ロボットの導入 食品工場となると生産品目は多岐にわたり、入れ替わりも激しい そもそも食品製造がロボットより人間の得意な領域 ロボットに任せようとすると、短期間であらゆる品目に合わせてプログラミングや生産ラインの設計変更などを繰り返さなければならない。さらに、物体を認識したりモノをつかんだりする技術は、形状がバラバラで、滑りやすかったり軟らかかったりする食品を扱うには不十分だ 中小食品工場にはそうした要員がおらず、自力のプログラミングは至難の業 AIやロボット導入による自動化で最も準備が整っている国は、1位が韓国で2位がドイツ、3位がシンガポール、日本は4位に留まっている ロボット三原則 アイザック・アシモフ ロボット 日本の各大学は、「日本学術会議」から出される方針に従っており、そこでは、ロボットの軍事研究をしないことが方針としてうたわれている 「単機能」という方向にもロボットの開発目的が広がっており 「タフ」であること 産業用ロボットでは、アシモフ的なロボットと人間の関係を具現化している 「Packbot」は、実際に戦地で使われていたもので、非常に頑強にできています ロボットーそれは人類の敵か、味方か 日本では古くから『鉄腕アトム』や『ドラえもん』に代表されるように、ロボットは独立した個性であり、ある種人間と対等な存在として、人間の相棒や友達になっている 臨機応変な対応、人間の認知能力や洞察力が求められる場合には、人間の手を借り、協働するというもの エンタテインメントロボットがもてはやされるのはほとんど日本だけのようである iRobot社は、今は家電ロボットが中心事業ですが、実は軍事用ロボットも開発 東日本大震災で注目されたロボット バードビジネススクールのビジネスケース教材に過去のソニーのAIBOの事例があるのだが、そこでAIBOは失敗事例として描かれ、なぜロボットを愛玩動物に見立てるのかと疑問を呈している 産業用ロボットもただ命令に従うのではなく、自律して臨機応変に判断をする能力を持つということは、ロボットを人間の相棒、仲間として認識するというロボット観の大きな転機になるのかもしれない 「ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須」 RoBoHoNにしても、最新型aiboにしても、セラピーロボットも、ただの「可愛い存在」ではなく、「役割」が与えられている 「AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日」 日経ビジネスオンライン 東洋経済オンライン 「東日本大震災で、なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか」 ダイヤモンド・オンライン 2017年6月の5回目の葬式では100台を超え、今回は114台に「引導」が渡された 千葉県いすみ市の日蓮宗光福寺 「AIBO(アイボ)」の葬式 ドナーとなるAIBOを寄贈などで手に入れる。そして必要な部品を取り出し、依頼者のAIBOに移し替えるのだ 1体1体のAIBOには、これまで一緒に暮らしてこられたオーナーさんの心が入っている。そこで宗教的儀式が必要になってくる (その1)(東日本大震災で なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか、欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由、ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須、AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日) 生物と無生物の間は、実は断絶しておらず、繋がっているのです。断絶しているように見えるのは、人間の観察力が浅いからでしょうね 鵜飼 秀徳 ソニーの元技術者たちで立ち上げた電化製品の修理工房「ア・ファン」(千葉県習志野市)に寄せられた。ア・ファンは2015年からAIBOの修理を手がけ始める 人間とロボットとの間に、新しい関係性が生まれつつある 「うちの子」になったロボット
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