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インフラ輸出(その8)(鹿島に1000億円請求  アルジェリア高速道めぐるJV内バトルの裏側、JR東日本 英国で鉄道運行「1年間の通信簿」 日本が誇る「鉄道力」はどこまで浸透したのか、幻に終わった「日中鉄道協力」 タイ高速鉄道計画に日本企業がそっぽを向いた理由) [インフラ輸出]

インフラ輸出は安倍政権が成長の柱の1つとして旗を振っている。これについては、昨年11月19日に取上げた。今日は、(その8)(鹿島に1000億円請求  アルジェリア高速道めぐるJV内バトルの裏側、JR東日本 英国で鉄道運行「1年間の通信簿」 日本が誇る「鉄道力」はどこまで浸透したのか、幻に終わった「日中鉄道協力」 タイ高速鉄道計画に日本企業がそっぽを向いた理由)である。

先ずは、12月4日付けダイヤモンド・オンライン「鹿島に1000億円請求、アルジェリア高速道めぐるJV内バトルの裏側」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/187344
・『鹿島を代表とする共同企業体(JV)が2006年に受注した総工費5400億円のアルジェリア高速道路工事は、代金の未払いをめぐって同国政府と対立し、16年に和解、決着したかに見えた。ところがこの11月、JVに参加した大成建設など3社が鹿島に賠償金約1000億円を請求。JV内バトルが始まった。 1000億円に上る“授業料”をめぐる決着はまだついていなかった。ゼネコン大手の大成建設と準大手の西松建設、安藤ハザマは11月、アルジェリア高速道路工事における損害賠償金1062億円相当の支払いを、大手の鹿島に求める仲裁を一般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA)に申し立てた。 鹿島と仲裁申立人の3社、伊藤忠商事から成る共同企業体(JV)「COJAAL」は2006年、アフリカでアルジェリア公共事業・交通省高速道路公団(ANA)から大型工事を受注。東西約2000キロメートルを横断する道路のうち、東工区(約400キロメートル)を総工費5400億円で受注した。その規模は日系ゼネコンの受注としては過去最大級の海外案件だった。 工事は06年に着工し、10年2月に完成する予定だったが、治安の悪化や、資材調達の遅滞に加え、トンネル崩落事故も発生。設計変更に伴う追加工事代金の回収もできないまま、約8割まで完成した状態で工事がストップした。 COJAALはANAと交渉を続けたが進展が見られず、14年6月に工事済み部分の代金の支払いを求めてフランスの国際仲裁裁判所に仲裁の申し立てを起こした。その結果、16年7月に和解契約を結び、未払い金の一部を受け取るとともに残り約2割の工事は解約することで合意。受注から10年を経て“大出血”を止めたが、代償に約800億円もの損失を抱えた。 損失分はすでに出資比率に合わせてJVに参加した各社が補填。ゼネコン各社は、17年度までに損失の会計処理を完了した。 鹿島、大成建設の17年度業績は好調な国内需要に引っ張られて最高益を更新。海外で被った損失が埋められて問題は一件落着したかに思われたが、仲裁申し立てにより第2ラウンドのゴングが鳴った。 「アルジェリアの案件はその実、鹿島の現場だった。大成建設など3社は社員を貸し出す立場だった」とゼネコン業界幹部。一般に、スポンサーが出資金額の差配や発注者との契約の交渉を担い、協力会社を選ぶ権利までを持つことが多い。入札時に「準備委員会」、工事進捗の区切りで「JV委員会」が複数回開催されるなど、民主主義的な仕組みはあるが、申し立て側はスポンサーに出資比率以上の損害負担を求めたのである。 第2ラウンドは、JV内の対立だ。JVの代表者である鹿島における「代表者(スポンサー)としての義務違反」が争点である。 対する鹿島の押味至一社長は、「仲裁の申し立てに対応するのみ」と多くを語らないが、鹿島側は「16年の和解はJVの総意」であるとし、出資比率に合わせて各社で損失を補填するのが筋と譲らない。申し立て側の主張が通れば、損失が上乗せされてしまう』、なにやらかつても銀行界での、協調融資が不良債権化した際に、メインバンクとその他銀行での責任の押し付け合いに似ている。現在のような貸手責任が明確化されたシンジケート・ローンと異なり、貸出額に応じて損失を負担するのか、メインバンクなどの負担を大きくするのかで大いにもめたことがある。今回の場合、国際仲裁裁判所で和解し、各社も損失処理を済ませたのに、第2ラウンドは始まったというのには違和感がある。
・『JV内バトルは株主へのポーズとの見立てあり  もっとも、鹿島が損害賠償を要求されたと公表した11月19日の翌日以降の同社株価に大きな影響はなかった。業界関係者の中には「(申し立て側は賠償金を)取れないと分かっているが、自社株主へのポーズとして仲裁を申し立てているのではないか」という“出来レース”の見立てがあるのだ。 大成建設の首脳、西松建設、安藤ハザマは株主対策と賠償金の内訳について「係争中のためコメントは控える」と回答している。仲裁の過程は非公開だが、効力は裁判と同じ。控訴の仕組みはなく、一発勝負となる。1年以内には決着すると想定される。 仮に18年度内に決着し、鹿島が賠償金を一部でも支払うことになれば、鹿島の19年度の株主配当金の原資に影響しよう。長引いて19年度に決着すれば20年度の配当に響く。鹿島側が仲裁によって巨額の損失を被れば、今度は同社の株主が黙っていないだろう。まさに“泥仕合”となる。 幕引きがなお長引くほどに高い“授業料”となった原因の一つに、国内ゼネコンの海外での経験値不足がある。 過去の海外大型案件は、戦後賠償の一環やODA(政府開発援助)が多くを占めてきた。長期的には国内の新築案件の先細りが確実視される中でODAに頼らない独自受注を海外に求める流れが生まれるも、それをこなし切れる経験が足りなかったのである。 海外売上高比率を見ると、大手エンジニアリング会社に比べてゼネコン大手の数字は軒並み低い(下図参照)。エンジ関係者は「海外では分厚い契約書を作り、リスク管理を徹底するのが常識。ゼネコンは失敗のたびに担当者が飛ばされ、経験が引き継がれない」とゼネコンの甘さを指摘する。 損害負担をめぐる争いが出来レースなのか泥仕合なのか以上に重要なのは、高い“授業料”をただの失敗による損失で終わらせないことである』、「JV内バトルは株主へのポーズとの見立てあり」、「ゼネコンは失敗のたびに担当者が飛ばされ、経験が引き継がれない」などというのは、グローバル化の時代にお粗末の一言に尽きる。

次に、12月25日付け東洋経済オンライン「JR東日本、英国で鉄道運行「1年間の通信簿」 日本が誇る「鉄道力」はどこまで浸透したのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/256867
・『EU(欧州連合)離脱問題に揺れる英国だが、ロンドンやバーミンガムのターミナル駅は通勤客、観光客、さらにクリスマスの買い物客でごった返す。構内を見渡すと、「より多くの座席、より多くの運行本数」「“運行会社オブザイヤー”に選ばれましたが、うぬぼれません」「200万ポンド(2.8億円)かけて当駅の券売機を改修しました」といった鉄道会社の広告であふれている。 こういった鉄道広告は日本でも珍しくないが、英国の鉄道システムには日本との大きな違いがある。鉄道会社間の競争が日本とは比べものにならないほど厳しいという点だ。2017年12月、JR東日本(東日本旅客鉄道)は三井物産、オランダ国鉄系の鉄道会社アベリオと共同で英国の鉄道運行事業に参入、競争に自ら身を投じた。 JR東日本はインドネシア・ジャカルタやタイ・バンコクで車両メンテナンスや乗務員教育に関する技術支援を行ってきたが、今回のように現地に人材を投入する形での運行事業への本格参入事例は初めてだ』、鉄道システムの違いは極めて大きいが、共同で参入したオランダ国鉄系の鉄道会社アベリオに当面は教えてもらうしかないだろう。
・『1つの路線で複数の鉄道会社が運行  日本同様、国鉄を分割民営化した英国では、かつて国鉄が運営していた路線の線路や架線などのインフラ管理を「ネットワークレール」という国営会社が一手に引き受けている。旅客列車の運行はエリア別に分割され、入札によって選ばれた運行会社が運行権を獲得する。需要の少ない路線には政府が補助金を出すので、閑散路線にもうま味はある。 入札制にすることで、各社の提案を競わせ、補助金の削減や旅客輸送サービスの改善が図られるという利点がある。需要の多い区間は5~6社が乗り入れることもある。 運行会社は英国、フランスなど欧州の交通事業者の出資により設立されていることが多い。音楽や航空で知られるヴァージングループや香港の鉄道会社・香港鉄路(MTR)も運行会社に出資する主要プレーヤーに名を連ねる。 運行権は期限付きであり、期限が到来すれば改めて入札で運行会社を募る。期限が切れた後は別の鉄道会社にすげ替えられるかもしれないため、緊張感を持った経営が必要となる』、「運行権は期限付き」とはなかなかいい仕組みだが、運行会社にとっては大変だろう。
・『JR東日本、三井物産、アベリオの3社連合が運行権を得たのは、ロンドンと英国第2の都市、バーミンガムを結ぶ「ロンドン・ノースウェスタン路線」と、バーミンガム近郊の路線網「ウェストミッドランズ路線」の2路線。バーミンガム・スノウヒル駅の管理業務なども含まれる。10年間にわたって両路線の運行を担ってきた、英仏大手交通事業者系のゴヴィア社から運行権を引き継ぎ、2026年3月まで運行を行う。 この2つの路線の総延長は約900kmに及び、2016年度に3.38億ポンド(約480億円)の運賃収入をもたらしている。2路線を比較すると長距離利用者の多いノースウェスタン路線のほうが運賃収入は多いが、利用者数ではウェストミッドランズ路線のほうが多いようだ。 実際の運行事業を担うのは3社が共同で設立したウェストミッドランズトレインズ(WM)社。出資比率はアベリオ70%、JR東日本と三井物産が各15%という構成だ。 WMが運行会社に選ばれた理由は非公表だが、アベリオはスコットランドやドイツでも鉄道運行を行っており、親会社のオランダ国鉄も含め、鉄道経験は豊富という事情がまず考えられる。さらに、運行会社に出資する企業の顔ぶれが固定化してマンネリ化をおそれた行政サイドが、競争原理を維持すべく新規企業の参入を歓迎するという事情もあったようだ。JR東日本が参入できる余地は大いにあったわけだ。 実際、WMが運行権を獲得したことを伝えるプレスリリースでも、JR東日本は東京において世界一混雑している駅を運営していると紹介している。その運行ノウハウの活用は現地でも期待されていた』、日本側は2社合わせて30%とは「小手調べ」には丁度よさそうだ。JR東日本も改めて運行ノウハウの活用がどこまで可能なのかを、冷静に見直してみるべきだろう。
・『日本流は導入されたのか  それから1年。JR東日本の参入によって英国の旅客鉄道事業に何らかの変化はあったのだろうか。 現在のところ、公約としている総額7億ポンド(994億円)の新車導入や既存車両の改修は手をつけた段階。これまでのところ、駅や列車に掲示されるロゴが変更された程度だ。運行会社が変わったことで、それまでの運行スタイルがガラリと変わったわけではない。 JR東日本の国際事業を担当する最明仁常務は、「きちんと機能している現地のやり方を、すぐに日本流に変えるつもりはない」と説明する。確かに、運営会社が変わったといっても、経営陣が変わっただけで、2500人を超える従業員はほぼそのままだ。役員を別にすれば、JR東日本は本社部門に1名を送り込んでいるにすぎない。 頭ごなしに日本流を押し付けても反発を買うだけだ。なぜ日本流にすべきなのか、現場で丁寧に説明して、根本思想から理解してもらう必要がある。それが定着するには長い時間を要するだろうが、まずは最初の一歩として、運行管理、車両メンテナンスなどの分野で日本流を導入できるか検討中という。 日本の鉄道輸送システムの安全性と正確性は、世界的にも定評がある。ただ、その安全で正確な運行がどのようにもたらされているかまでは、しっかり認知されているとはいえない。たとえば、日本ではおなじみの信号や標識の状態を声に出し、指で指して確認する「指差喚呼」は、単なる目視による確認と比べ安全性は格段に高まるが、世界の鉄道業界ではほとんど普及していない。最明常務は「指差喚呼をぜひとも英国で浸透させたい」と語る。 混雑の解消も日本の知見が期待されている課題の1つだ。ロンドンからミルトン・ケインズ(ロンドンから約80km離れたベッドタウン)に至る区間は4つの運行会社が競合するが、とりわけWMが運行する列車は夕刻時に混雑率187%に達し、2018年夏に運輸省が作成した混雑率ランキングで第5位にランクされた。 「今後、新車両投入、増発、車内レイアウトの工夫などによる輸送力向上で解決していきたい」と、JR東日本・英国フランチャイズグループリーダーの小島泰威氏は話す。2019年5月のダイヤ改正を皮切りに、2020年、2021年と段階的に輸送量を高めていく構えだ。 英国の通勤列車の座席は日本のように横に長いロングシートではなく、向かい合って座るクロスシートが採用されていることが多い。通路が狭いからかもしれないが、混雑区間に実際に乗車してみると、ドア付近に多くの乗客が固まっていることに気づく。細かく車内アナウンスをして、奥に詰めてもらえれば、多少なりとも車内は快適になる。こういうちょっとしたことでも、今後、JR東日本のノウハウが役立つかもしれない』、「指差喚呼」はプライドが高い英国人からは抵抗を受けるかも知れない。「正確性」は多くの要素から成り立っているので、時間がかかるのではなかろうか。
・『目指すはJR東日本が主導する運行  アベリオ、JR東日本、三井物産の3社は、「サウスイースタン路線」の運行権獲得にも名乗りを上げている。ロンドンとアシュフォードを結ぶ、日立製作所が製造した高速列車が走っていることで日本でも知られている路線だ。利用者数も運賃収入もウェストミッドランズを大きく上回る。 首尾よく運行権獲得に成功し、ここでも実績を重ねれば、JR東日本はもはや新参者ではない。現在は15%出資にとどまるが、将来、別の案件が出てくれば、今度は主導的な立場で英国の鉄道運行に携わる可能性があるかもしれない。 そのためには「日本とは仕組みがまったく違う国で交渉できる力を身に付ける必要がある」と小島氏は話す。運行会社は運輸省、ネットワークレール、車両リース会社、車両保守会社などさまざまな立場の当事者と折衝を行い、ベストの解決策を探っていく。「欧州で豊富な経験を持つアベリオの仕事のやり方は、見ていてたいへん参考になる」(同)。 活躍の場は英国だけとは限らない。外国企業にも運行業務の門戸を開いている国は世界中にある。MTRは英国の運営会社に出資しているほか、スウェーデンの都市間鉄道やメルボルンの都市鉄道の運行も行うなど、世界中で鉄道事業を行っている。規模でMTRを上回るJR東日本が同様に海外展開できないはずはない。 「HITACHI」ブランドで英国を走る高速列車、アメリカ・ニューヨーク市の地下鉄車両でシェア首位の川崎重工業のように、日本の鉄道産業における海外展開例の多くは車両メーカーだった。鉄道会社ではJR東海(東海旅客鉄道)による台湾高速鉄道への技術コンサルティング、東京メトロ(東京地下鉄)によるベトナム・ホーチミンの都市鉄道プロジェクトへの運営支援、JR西日本によるブラジルの都市鉄道事業への出資などがにとどまる。日本の鉄道力を支える鉄道会社が世界における運行事業に乗り出さないのは、あまりにももったいない』、ずいぶん前のめりだが。台湾高速鉄道では、事故原因は未確定ではあるが、何らかの責任を問われる懸念もある。鉄道事業はリスクがある以上、政府のスローガンに惑わされることなく、一歩一歩、着実に前進してもらいたいものだ。

第三に、12月30日付けのYahoo!ニュースがThe Asahi Shimbun Globe記事を転載した「幻に終わった「日中鉄道協力」 タイ高速鉄道計画に日本企業がそっぽを向いた理由、現地で見えた」を紹介しよう。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181230-00010000-globeplus-int&p=1
・『タイと中国が建設へ  タイの新たな高速鉄道計画が動き始めた。大詰めを迎えた国際入札は、地元大手財閥と中国国有企業を中心とした企業連合の落札が濃厚だ。日本政府は中国との外交関係の改善の象徴として、日中両国の企業が協力して参画する案にこだわっていたが、幻に終わった。その背景を、新線の区間とほぼ重なる在来線に揺られながら考えた』、興味深い内容のようだ。
・『高速鉄道始動 一日一往復から乗客激増を期待  この高速鉄道は、バンコク首都圏のスワンナプーム、ドンムアン、ウタパオの3空港をつなぐ。総延長は約220キロ。名古屋―新神戸間とほぼ同じ距離だ。最高時速は250キロを予定し、約1時間で結ぶ。プラユット暫定首相が率いる軍事政権が、経済振興策の目玉とする「東部経済回廊(EEC)開発構想」のひとつで、日本企業が多く進出する地域を走り抜ける。費用は2471億ドル(約8000億円)とされる。 12月21日に明らかにされた国際入札の結果によると、地元の最大財閥チャロン・ポカパン(CP)グループと中国国有の鉄道建設会社である中国鉄建(CRCC)が出資する企業連合が優先交渉権を獲得した。問題がなければ、年明け1月中に正式に決まる。 新線の沿線にエビ養殖の土地などを持つCPは早くから意欲を示してきた。タイの高架鉄道を運営するBTSグループが主導する企業連合も入札には参加したものの、当初からCPが本命視されていた。軍事クーデターで2014年に生まれた現政権は、初めての総選挙を2月に予定している。その直前に確定させるのは、大型の利権を有力財閥に分配すると同時に、経済的な成果として有権者にアピールする狙いもあるはずだ』、なるほど。
・『この路線、どんなところを走るのだろう。新線とほぼ重なる在来線に乗ってみることにした。 地図を見ると、海岸線に沿ってひたすら南下する。ビーチリゾートで有名なパタヤを通る。海の景色が楽しめるかもしれない。終点はバーンプルータールアンという聞き慣れない地名だ。よほどお客が少ないのか、1日1往復しか走っていない。平日はエアコンなしの3等車、土日はエアコンつきの2等車だ。しかも、今春まで週末は運行していなかったそうだ。 師走の日曜日、23日早朝。バンコクの中央駅にあたるフアランポーン駅へと急いだ。ほとんどの路線が乗り入れるタイ鉄道網の中心だ。東京駅と上野駅を足したような存在とも言える。私の列車「997番」も、この駅が始発だ。 クリーム色のドーム形の駅舎は、ドイツのフランクフルト駅をモデルに1916年に造られた。100年余りの歴史がある。プラットホームへの出入り口には、ラーマ5世(チュラロンコーン、1853~1910年)の肖像画がどーんと掲げられている。タイの近代化を進めた名君として誉れ高く、鉄道の父とも言われる存在である。 駅に改札はない。切符を買っていなくてもプラットホームに自由に入れる。駅の気配が恋しくなるとき、列車に乗る予定がなくても足が向く。この日は切符を携えて、久しぶりのタイ列車旅だ。 つややかな青に赤と白のラインが施された車両が、8番ホームで待っていた。3両しかない。6時45分に出発し、終点には9時50分に着く。200キロ弱の道のりを約3時間かけて走る。料金は170バーツ、約600円である。 車体にスプリンターと英語でも書いてある。これだったか。90年代に飛行機に対抗する切り札として投入されたと聞くディーゼル機関車だ。100キロ台の最高時速を考えると、いくらなんでも無理があるが、エース級の位置づけを思わせる物語である。 以前、北部の最大都市チェンマイへ行ったときは2時間以上も発車が遅れた。心配していたが、定刻より1分半、早く出発した。この差を気にしていたのは、私だけかもしれないが…。 1車両72人乗りにもかかわらず、お客は私を含めて6人だけ。なぜか制服姿の職員が数人車両に乗っている。ほどなく茶色の制服の車掌さんが検札にやってきた。食堂車も車内販売もないことが分かった。がっかりしたが、3時間余りなら仕方ない。「コップクンクラップ(タイ語でありがとう)」。にこやかに去っていった』、在来線ではあるが、「1車両72人乗りにもかかわらず、お客は私を含めて6人だ」というのではまるでローカル鉄道だ。目論見通りに、高速化で客が激増するのだろうか。
・『列車よりバス、飛行機のお国柄  グウーン、グウーンとディーゼルエンジンの音が響く。7時15分ごろ、オレンジの太陽がのぼった。しばらくバンコクの市街地を走る。高層ビルとトタン屋根のバラックがごちゃまぜに目に入る。線路に迫る距離で、Tシャツなど衣類を売る屋台が店開きしている。 平日は通勤通学で使うお客がいる区間だ。スワンナプーム空港へ向かうエアポートレールリンクや地下鉄と乗り換えできるマッカサン駅も通る。この駅周辺は、高速鉄道とセットで開発される。鉄道で赤字が出ても、不動産や商業施設から利益を上げられるとして、タイ政府は事業の運営者となる企業連合への財政補助を渋ってきた。 ビュン。対向車両とすれ違った。このあたりは複線だ。 出発して1時間もたたないうち、外の景色は緑になってきた。水を張った田んぼも見える。気がつくと単線になっている。うとうとしているうち、シーラチャ駅に着いた。ビルが見える。この地域は、タイ政府が開発に力を入れる東部経済回廊(EEC)の中核でもある。自動車関連など日本企業も多く工場を構えている。十年前にはタイでは二つめの日本人学校も開校した。 パタヤ駅に着いた。国王の大きな写真を飾っている。海岸線からは離れているらしく、道中、海はまったく見えなかった。残念だ。 9時40分。終点のバーンプルータールアン駅に着いた。予定より10分ほど早い。私の車両は、もっとも多いときで地元のお客さんを中心に30人ぐらい。半分も埋まっていなかった。タイの鉄道で常に目に入る世界中からやって来るバックパッカーが、ほとんどいなかったことには驚いた。 ホームに降りて、見渡すと向かいの草むらに朽ちかけた古い車両が転がっている。トイレやホームは清潔に手入れされていたが、小さな駅には食堂もない。戻りの列車は、15時50分発…。駅でバナナチップスや総菜を売っていた女性が、パタヤまでミニバスで行って、バスでバンコクに戻れると教えてくれた。合計168バーツ。列車の運賃とほぼ同じである。バスは20分おきに往来している。空港へも直行便がある。家や職場などが駅に近いか、よほどの愛好家でないと鉄道は利用しないだろう。バックパッカーの目線でいえば、リゾート地や工場地帯を走る路線は刺激に乏しい。 だから、1日1往復なんだな。 終点の駅の近くにウタパオ空港がある。60年代から75年まで続いたベトナム戦争中は、米軍が東南アジアの重要な基地とした空港である。B52爆撃機が飛び立っていった。終点の駅から近いサタヒップ港にも米艦隊が寄港した。タイは見返りに巨額の援助を受け取った。そもそもパタヤは米軍兵士の休暇のために両国合意のもとに開発された。歓楽街は米兵でにぎわった。この付近は当時、米国の後方基地だったのだ。 ミニバスが、タイ海軍の広い基地を囲む塀のわきを通り過ぎた。ウタパオ空港はその後、中国やアジアから民間機も乗り入れる軍民共用の空港になった。タイ政府はさらなる開発を目指して、高速鉄道を延伸させる構えだ。 タイの鉄道の歴史をさらにひもとくと、開業は1890年代。主に英独の企業が建設に関わった。当初は標準軌(1435ミリ)だったが、その後、基本的に狭軌(メーターゲージ、1000ミリ)で整備された。現在の営業距離は4000キロを上回る。 ただ、バンコクの知人たちは、市街地を走る高架鉄道と地下鉄を除けば、ほとんど列車を使わないと言う。パタヤに行くにもバスやマイカー、もっと離れた場所なら飛行機。近年は格安航空会社が国内もぶんぶん飛んでいる。鉄道は、安いが便数が限られ、遅れもめずらしくない。とりわけ長距離になると、世界のバックパッカーや鉄道ファンから愛されるほどには頼りにされていないようにみえる。 タイ政府は、高速鉄道の開通で乗客の激増を期待する。確かに、1時間といえば通勤圏にもなりうる。とはいえ、高速鉄道は高くつく。公共輸送として運賃の設定は制限される。そもそもバスなどと競争できない値段では、お客にそっぽを向かれる。民間が経営したところで、採算という関門はつきまとう。 着工から5年後の完成が目標とされる。私が見た風景は、どんなふうに変わっていくのだろうか』、不便な鉄道から離れた人々が、高速鉄道の開通で戻ってくるのかは1つの社会実験だ。
・『「政熱経冷」政治と現実の距離  高速鉄道計画のなかでも、現政権がもっとも力を入れる路線の建設を、地元最大の財閥であるCPグループを核とした企業連合がてがける方向で進んでいることは想定通りの展開とも言える。 だが、途中、ひと波乱あった。 日本政府が、日中両国の企業が協力してタイで高速鉄道の建設に取り組む案に熱をあげたのだ。世界各地で受注に火花を散らしてきた日中の協力は、外交関係の改善の象徴になると考えたからだ。中国政府も、のった。米国のトランプ政権との衝突が強まるなかで、隣国日本との関係強化を示すには好都合な案件だった。 タイ政府も最終的には歓迎した。タイのお家芸は、安全保障を含めて競い合う日中を両てんびんにかけて、自国の利益を最大化しながら八方美人的にバランスをとること。地図にもあるバンコクから北へ向かう高速鉄道の場合、東は中国、西は日本へ委ねてバランスをとった。今回の路線も、本音では日中が張りあって良い条件を出してくることを期待していたかもしれない。だが、80年代から浮いては消えてきた大事業だ。日中そろえば、事業の具体化をより裏打ちできると踏んだ。 日本政府は、安倍晋三首相の10月の訪中時にあわせて「第三国での日中協力」の目玉として合意を発表できるように、日本企業の背中をおしていた。6月の時点では伊藤忠商事や日立製作所、フジタなどが入札に参加する条件となる資料を購入した。とりわけ、伊藤忠商事はCPグループ、中国国有の巨大企業集団である中国中信集団(CITIC)と提携関係にあるだけに、この案件にも参加が期待されていた。だが、日本勢は結局、動かなかった。 なぜか。 タイ政府は財政負担を嫌い、土地の収用や既存の鉄道施設の修繕にかかる費用以外は、補助しないと譲らなかった。一等地の駅前開発を抱き合わせるのだから、民間でうまくやってくれ、という理屈だ。巨額の投資が必要となる公共事業にもかかわらず、タイ政府が利益の保証をしないため、日本企業は消極的な姿勢を変えなかった。 「大赤字になりうるリスクを抱える路線に、政治の要請とはいえ、民間企業がのれるわけがない。誰も手をあげないと思う」。日本の大手商社の幹部は早くから断言していた。「新幹線」の輸出に必要なJR各社は当初から関心を示さなかった。インドで受注した高速鉄道の建設で手いっぱいでもある。日立製作所はイタリアの子会社で製造した車両の販売には関心を示しても、事業のリスクを背負う出資者になるつもりはなかった。 あちこちで頓挫している原発輸出と同様に、政治と経済の現実にはしばしば乖離(かいり)が生じるものだ。日本の民間企業は、国家との関係も利益構造も中国の国有企業とは異なる。当然の選択といえよう。 政熱経冷―。日中協力は幻に終わった』、鉄道だけでは採算が取れないので、駅前開発を抱き合わせるというのでは、日本企業が乗れないのは当然だろう。安倍政権も肝心の日本企業がついてこないとは、とんだ恥をさらしたものだ。
・『バンコクでは高速鉄道だけではなく、レッドラインと呼ばれる高架鉄道をはじめ、数々の新線が計画されている。中央駅の役割を担っているフアランポーン駅は老朽化しているうえ、都心にあるため、対応ができないという。そこで、バンスー駅のそばに、新しい巨大な駅舎を建設している。 東南アジア最大の駅舎とうたわれる新駅は、レッドラインの開業にあわせて2020年にもオープンする予定だ。巨大なアーチ状の屋根が特徴で、24のホームが設けられる。 フアランポーン駅は基本的に、旅客の輸送の拠点としての使命を終えるが、駅舎を保存して博物館にする計画が公表されている。ただ、ホテルやショッピングモールなど商業施設も併設する構想が語られており、具体的な内容は固まっていないようだ。 現在の駅にも小さい「鉄道博物館」がある。古い切符やプレート、信号やタイプライターなどを展示している。ただ、お土産品や関係ない置物といっしょくたにして並べてあり、日本人が思い浮かべる「鉄博」には遠い。車両の展示ができるスペースもない。 博物館構想にかかわるタイ国鉄のシリッポン・プルチパンさんは「議論の途中ではあるが、伝統のある建物を保存し、うまく活用したい」と話す。かつてバンコクには、民間の鉄道ファンがつくった鉄道博物館が中心部の公園にあったが、訪れる客が減って12年末に閉館してしまったそうだ。 興味深い話をきいた。駐タイ台北経済文化事務所が6月、台湾で鉄道文化の保存に携わる専門家をバンコクに呼んでセミナーを開くなど、協力する意向を示しているそうだ。日本も、「文化的な側面から、機会があればかかわっていきたい」と国際交流基金バンコク日本文化センター所長の吉岡憲彦さんは話す。 フアランポーン駅は通称で、正式にはクルンテープ駅、あるいはバンコク駅と言う。タイ語で「天使の都」を意味するクルンテープは、まさに「バンコク」のことだ。列車が去ったあと、タイ鉄道の歴史をとどめる博物館が生まれることを願っている』、安倍政権の掲げる「インフラ輸出」は、英国の鉄道を除き難航気味だ。原発輸出も難航しており、経産省が描いたシナリオは馬脚を現しつつある。
タグ:インフラ輸出 (その8)(鹿島に1000億円請求  アルジェリア高速道めぐるJV内バトルの裏側、JR東日本 英国で鉄道運行「1年間の通信簿」 日本が誇る「鉄道力」はどこまで浸透したのか、幻に終わった「日中鉄道協力」 タイ高速鉄道計画に日本企業がそっぽを向いた理由) ダイヤモンド・オンライン 「鹿島に1000億円請求、アルジェリア高速道めぐるJV内バトルの裏側」 鹿島を代表とする共同企業体(JV)が2006年に受注した総工費5400億円のアルジェリア高速道路工事 JVに参加した大成建設など3社が鹿島に賠償金約1000億円を請求。JV内バトルが始まった 代金の未払いをめぐって同国政府と対立し、16年に和解、決着したかに見えた 東工区(約400キロメートル)を総工費5400億円で受注した。その規模は日系ゼネコンの受注としては過去最大級の海外案件 治安の悪化や、資材調達の遅滞に加え、トンネル崩落事故も発生。設計変更に伴う追加工事代金の回収もできないまま、約8割まで完成した状態で工事がストップ フランスの国際仲裁裁判所に仲裁の申し立て 和解契約を結び、未払い金の一部を受け取るとともに残り約2割の工事は解約することで合意 代償に約800億円もの損失 17年度までに損失の会計処理を完了 アルジェリアの案件はその実、鹿島の現場だった。大成建設など3社は社員を貸し出す立場だった 申し立て側はスポンサーに出資比率以上の損害負担を求めた 第2ラウンドは、JV内の対立 JV内バトルは株主へのポーズとの見立てあり 東洋経済オンライン 「JR東日本、英国で鉄道運行「1年間の通信簿」 日本が誇る「鉄道力」はどこまで浸透したのか」 JR東日本(東日本旅客鉄道)は三井物産、オランダ国鉄系の鉄道会社アベリオと共同で英国の鉄道運行事業に参入 1つの路線で複数の鉄道会社が運行 運行権は期限付きであり、期限が到来すれば改めて入札で運行会社を募る 2つの路線の総延長は約900kmに及び、2016年度に3.38億ポンド(約480億円)の運賃収入 出資比率はアベリオ70%、JR東日本と三井物産が各15% 運行ノウハウの活用 日本流は導入されたのか なぜ日本流にすべきなのか、現場で丁寧に説明して、根本思想から理解してもらう必要がある 日本の鉄道輸送システムの安全性と正確性 指差喚呼 目指すはJR東日本が主導する運行 Yahoo!ニュース The Asahi Shimbun Globe 「幻に終わった「日中鉄道協力」 タイ高速鉄道計画に日本企業がそっぽを向いた理由、現地で見えた」 タイの新たな高速鉄道計画 国際入札は、地元大手財閥と中国国有企業を中心とした企業連合の落札が濃厚 日本政府は中国との外交関係の改善の象徴として、日中両国の企業が協力して参画する案にこだわっていたが、幻に終わった 高速鉄道始動 一日一往復から乗客激増を期待 地元の最大財閥チャロン・ポカパン(CP)グループ 中国鉄建(CRCC)が出資する企業連合が優先交渉権を獲得 列車よりバス、飛行機のお国柄 「政熱経冷」政治と現実の距離 日本政府が、日中両国の企業が協力してタイで高速鉄道の建設に取り組む案に熱をあげた 中国政府も、のった 巨額の投資が必要となる公共事業にもかかわらず、タイ政府が利益の保証をしないため、日本企業は消極的な姿勢を変えなかった 一等地の駅前開発を抱き合わせるのだから、民間でうまくやってくれ 安倍政権の掲げる「インフラ輸出」 難航気味
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