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トランプ大統領(その39)(「トランプ的政治家」が世界で増殖中 「本家」は不動産開発業者だからFRBを批判?、冷泉彰彦氏:全てが不透明なアメリカの新年、スティグリッツ教授が警告 トランプ大統領のひどい経済政策と扇動政治の末路) [世界情勢]

昨日に続いて、トランプ大統領(その39)(「トランプ的政治家」が世界で増殖中 「本家」は不動産開発業者だからFRBを批判?、冷泉彰彦氏:全てが不透明なアメリカの新年、スティグリッツ教授が警告 トランプ大統領のひどい経済政策と扇動政治の末路)を取上げよう。

先ずは、みずほ証券チーフMエコノミストの上野 泰也氏が昨年11月13日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「トランプ的政治家」が世界で増殖中 「本家」は不動産開発業者だからFRBを批判?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/15/248790/110800165/?P=1
・『10月28日に行われた2つの選挙は、経済格差拡大の中で蓄積した不満がポピュリズムや保護主義などに結び付く「歴史のうねり」が続いていることを、如実に示した。 この日に投開票されたブラジル大統領選挙の決選投票では、極右のボルソナロ下院議員が左派のアダジ元教育相を破った。ボルソナロ氏はマイノリティーへの差別的な発言やSNSを多用する手法などから「ブラジルのトランプ」と呼ばれる。「(ブラジルの軍事)独裁政権の過ちは(反体制派を)拷問したが殺さなかったことだ」「警察は(サンパウロでの刑務所暴動で)111人ではなく、1000人殺しておくべきだった」「機関銃で(最大のスラム街)ホシーニャを一掃すべきだ」といった、過去の過激な発言が報じられている。ただし、トランプ米大統領とは異なり、ボルソナロ氏は自由貿易推進派とみられている。 治安対策に関連する過激な発言で知られているのが、フィリピンのドゥテルテ大統領である。既存政治への批判を展開し、16年5月の大統領選で勝利した。トランプ氏よりも国のリーダーになったのは早いが、「フィリピンのトランプ」と呼ばれることがある。 「チェコのトランプ」もいる。既成政治の打破を訴える新興政党「ANO2011」を率いて17年10月の下院選挙で第1党の座を勝ち取り、同年12月に少数与党政権を発足させた富豪、バビシュ氏である。首相就任にあたりバビシュ氏は「汚職と闘い、効率的な国家を目指す」と強調した。だが、自身が保有する企業群を通じたEU補助金横領の疑惑がくすぶり、18年1月には議会によって免責特権をはく奪された。 イタリアでは、ポピュリスト政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」の連立政権が発足。「イタリアのトランプ」とは言われていないようだが、同盟を率いるサルビーニ副首相・内相の動きが目立っている。 欧州では、イタリアのほか、フランス、ドイツ、オーストリア、スウェーデンなどでも極右政党が国政選挙で躍進しており、金融市場で政治的なリスクの「火種」とみなされている』、各国で次々とミニ・トランプが登場しているのは、本当に嘆かわしいことだ。昨日取上げたCA社による情報工作が功を奏したためなのだろうか。
・『世界に次々登場する「○○のトランプ」  そうした中、ブラジル大統領選と同じ10月28日にドイツ・ヘッセン州(金融都市フランクフルトを含む重要な州)で行われた州議会選挙で、メルケル首相が率いる与党キリスト教民主同盟(CDU)が大幅に議席を減らした。 第1党にはなったものの、伝統的な地盤での歴史的な敗北である。同首相は12月開催のCDU党大会で党首選への立候補を見送ると表明。首相職は21年の任期まで務めた上で、政界を引退する意向である。 だが、党大会で選出されるCDUの後継党首が反メルケルの人物になって早期退陣を迫られるケースや、CDU以上に党勢衰退に苦しんでいる社会民主党(SPD)が大連立を解消する結果、前倒し総選挙に突入するケースも考えられる。ドイツの政治情勢の不安定化は、為替市場におけるユーロの売り材料である。 欧州統合を推進する中心的な政治家としてドイツの首相を13年間も務めてきたメルケル氏は、保守政党の党首ながら、リベラルな路線をとってきた。自由貿易・国際協調を推進。地球温暖化対策にも積極的な姿勢をとってきた。米国のトランプ政権とは真逆である。 だが、人道主義に沿う寛容な難民政策(大量の難民受け入れ)がつまずきのもとになった。1つの時代を築いた人物がついに退場の道筋をつけざるを得なくなったわけであり、歴史の区切り目と言っても過言ではあるまい。 各国の国内政策だけでなく通商問題などでも価値観の対立が先鋭化し、世界の政治経済は先行き不透明感がかなり強くなっている。焦点になった2つの選挙が終わった後、週明け10月29日の米株式市場では、ニューヨークダウ工業株30種平均の日中値幅が918ドルという異例の大きさになった。市場の変動は今後も大きくなりやすいだろう』、ドイツでは、CDUの新党首がメルケル路線の後継者となったことは、僅かな好材料だ。
・『話は変わるが、足元の金融市場、上記のような政治イベント以外で大きな材料になっているのが、FRB(米連邦準備理事会)による利上げの動向と、トランプ大統領が中国などに対して仕掛けている「貿易戦争」の行方である。 米大統領は、保護主義的な政策を強引に打ち出すことによって株価下落材料を自ら作り出す一方で、FRBの利上げ路線に対しては公の場で繰り返し批判を行っている。 もっとも、人事権を用いた介入などは行っておらず、一定の自己抑制は効いているように思われる。この点については当コラム10月23日配信・・・で、すでにお伝えした。 そうしたトランプ大統領によるFRB批判の関連で、米経済紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)の寄稿・投書(オピニオン)欄が、興味深い視点を提供してくれている』、確かにトランプ大統領はFRBに対し「口先介入」に止める自制心は持っているようだ。
・『パウエル議長を激励したブラインダー氏  WSJは10月18日、アラン・ブラインダー元FRB副議長による「FRBは決してクレイジーではない(The Fed Is Anything but Crazy)」と題した寄稿を掲載した。トランプ大統領が「FRBはクレイジーなことをやったと私は思う(I think the Fed has gone crazy.)」と10日に述べたことに反論したものである。 ブラインダー氏によると、巨大な不確実性が存在する中で、中立金利(経済にとって引き締めにも緩和にもならない水準だと推計される金利)に向けて徐々に、非常に慎重に、いつでも止める用意はしながら利上げを行うという、現在とられている手法は合理的であり、決して大胆でもクレイジーでもない。心変わりしやすいトランプ氏ではなく、用心深い上に思慮深くて知的な人物であるパウエル氏がFRBを率いていることは、米国にとり幸運である。 そう断じたブラインダー氏は、パウエル氏は理論一辺倒ではなく頑固でもないことから、仮にFRBがミスをしてしまう場合でもそれは小さなものにとどまり、迅速に修正され得るだろうと結論付けた。要するに、パウエル議長への激励であり、トランプ大統領の言動への間接的な批判である。 もっとも、中立金利の水準を厳密に特定するのが事実上不可能であること(加えて言えば、日銀が以前に指摘した通り、イールドカーブの形状からくる経済へのインパクトの違いもおそらくある)、金融政策変更の影響が実体経済に出てくるまでには1年以上のラグ(時間差)があるとみられること(ずっと先の状況を的確に予測しながら「運転」するのは容易なことではない)など、上記のブラインダー氏の主張には弱点もある。 その後、10月29日のWSJ紙には、ブラインダー氏の寄稿への反響と位置付けられる投書が2つ掲載された。うち1つが面白い内容だった。 それは、もともと不動産の開発業者(デベロッパー)であるトランプ氏の度重なるFRB批判は、そうした業者特有の思考パターンに基づいているのではないかという投書である』、ブラインダー氏のパウエル議長擁護論は、ややオーバーで身びいきとの印象を与えかねないものだ。
・『長年の思考パターン故なのか  不動産デベロッパーが期待するFRBの役割は、金利をできるだけ低水準にとどめることである。デベロッパーは多額の資金を借り入れるので、借りる際の金利水準が収益の大小に直結する。完全雇用・大きな財政赤字の下でFRBが低金利を維持すると、許容すべきでない水準へのインフレ加速が避けられないが、デベロッパーはインフレを恐れない。なぜなら、インフレの下では不動産の市場価値は上がり、収益は上乗せされ、失敗した投資案件がインフレによる債務の目減りによって救われるかもしれないからである。 投書の主は最後に、米国の政府債務増加の問題にも思考を及ばせている。GDP比で大きく上昇した米国の連邦政府債務比率を引き下げるには、もし民主党が歳出削減をいやがり、共和党が増税をいやがるならば、第2次世界大戦後の米国のように、インフレによる債務の棒引きが残された唯一の手法だという(いわゆる調整インフレ)。 共和党は以前、マネーの面で健全な政党とみられていた。だが、「トランプの党」(大統領寄りになった現在の共和党)は決してそうではないと、この投書は結論付けた。 若いうちに身についた思考や行動のパターンは、年齢を重ねても(特に中高年では)、なかなか変わりにくいとされている。トランプ大統領による度重なるFRB批判トークにも、度合いは不明確だが、そうした面があるのかもしれない』、不動産業者という出自が影響しているというのは納得できる話だ。

次に、在米作家の冷泉彰彦氏が1月5日付けメールマガジンJMMに投稿した「全てが不透明なアメリカの新年」 from911/USAレポートを紹介しよう。
・『前年の暮れの雰囲気は、十分なほどの不透明感に満ちていましたが、実際に年が明けてみるとその不透明感は、益々濃くなっているようです。不透明感といっても、濃霧の中に放り出されて、周囲は断崖絶壁だとか底なし沼だというような、「突然奈落の底に落ちる」恐怖感というのではありません。 例えば、瞬時に戦争が始まるとか、先進国間で国境が閉鎖されるとかというようなことはあり得ないでしょう。株に関しては、いくらでも暴落の可能性はありますが、かといって大暴落とか、一瞬のうちに恐慌と金融危機が訪れる可能性は薄いと思われます。だからこそ、消費は堅調であり、また雇用統計も十分に良いのですが、ではこのまま景気が改善し続ける保証はどこにもありません。 経済以上に視界が悪いのが、アメリカの政界です。通常であれば、一期目の大統領は再選を目指して活発に動く時期ですが、この大統領については、このまま4年の任期を全うするか全く不透明な状態です。それ以前の問題として、ホワイトハウスの主要なポジションについては、空席という状態で越年してしまいました。 越年ということでは、予算が成立しないことで政府閉鎖が起きています。実際に連邦政府職員の給与支払いは停止されたままであり、問題は大有りなのですが、予想に反してこの政府閉鎖は既に2週間続いており、トランプ大統領に言わせれば「数ヶ月いや数年でも続ける」というのですから深刻です』、連邦政府職員も飛んだ迷惑を被ったものだ。
・『そんなわけで、経済も政治も「全く方向性が見えない」という視界の悪さ、方向性の欠如の中に放り出されているわけですが、一体全体どうしてこのような事態に立ち至ったのでしょうか? まず、経済に関しては、トランプ政権によるグローバリズムの否定と通商戦争の弊害がハッキリと出てきているのだろうと思われます。 トランプ政権というのは、確かにグローバリズムの否定と経済ナショナリズムの実現を公約に掲げて登場し、またその公約に忠実な行動や政策を次々と繰り出してきました。自動車工場が国外移転しそうになると、一々首を突っ込んできて罵倒し、日欧を相手に関税戦争を仕掛け、また北米自由貿易協定については条件改定に漕ぎ着けています。 では、その結果として「置き去りにされた製造業」の復権が始まったのか、つまり空洞化にブレーキをかけることで、「錆びついたラストベルト」で製造業の雇用が回復しつつあるのかというと、その動きはまだ極めて限定的です。 例えば、昨年2018年11月の中間選挙では、その「ラストベルト」、具体的にはペンシルベニア、オハイオ、ミシガン、ウィスコンシンといった地域で、共和党は大苦戦を強いられました。これは、トランプ政権の政策によって製造業の雇用が回復したわけではなく、反対に養豚や養鶏、そしてGMといった中国向けビジネスが「通商戦争」のために大きくダメージを受けたからでした』、トランプの「化けの皮」が徐々に剥がれつつあるのかも知れない。
・『問題は、この対中国の通商戦争です。こちらも、最初はNAFTAとか日欧との通商を巡る舌戦などと同じように、政治ショーに仕立てても最終的には経済に壊滅的なダメージを与えることはなく、「俺様ディール」で何とかなるだろうという雰囲気がありました。 例えば、中国側でも一部の長老からは、習近平体制に対して「アメリカとは早期に手打ちをするべき」という主張があったようで、双方ともに問題が深刻化する前に、合意を形成するチャンスはいくらでもあったように見えます。 ですが、そうはなりませんでした。中国側では、各企業が猛烈なスピードで対米ビジネスの生産拠点を国内から東南アジアに移したり、米国から調達していた農産品をブラジルなど第三国からの調達に変えたり、素早い対応を進めたのです。当然の動きと言えますが、その結果として、アメリカでは豚肉や大豆などが余剰となり、農家はかなり苦しくなっています。また、GMの場合は「キャデラック」とか「ビュイック」といった旧世紀のアメリカン・ラクシュリーのブランドは、国内では見向きもされない中で中国が大得意先だったわけですが、これも大きなダメージを受けています。 そんなわけで、序盤戦は中国が巧妙に動く中で、アメリカは「短い潜伏期間で発症した重篤な副作用に苦しむ」という状態になったわけです。そこで出てきたのが、華為(ファーウェイ)の問題でした。この問題については、スパイ行為を狙った怪しいチップが組み込まれているという容疑が語られていますが、そんな仕掛けを見破られないように施すことはテクニカルに不可能であり、5G(第5世代)の移動体通信におけるイニシアティブを取られまいという、技術戦争というのが底流にあると思われます』、「短い潜伏期間で発症した重篤な副作用に苦しむ」挙句、ファーウェイ問題が出てきたとは、外敵に目を逸らせる戦術なのだろう。
・『いずれにしても、このファーウェイの「ナンバー2をカナダに逮捕させる」という事件以降は、通商戦争は第二幕として性格が異なる内容へと深化してしまいました。 今回のアップルショックは、その結果ということができると思います。1月3日のアップルの株価暴落は、クックCEOによれば「通商戦争による中国市場でのスローダウン懸念」ということでしたが、問題は「中国で売れなくなる」だけではなく、「中国で製造できなくなる」ことによるグローバルな生産体制への影響が懸念されることで、そうなると正に、通商戦争の「副作用本番」と言うことになってしまいました。 問題は実はそれほど複雑ではありません。今回の一連の「トランプ流の経済ナショナリズム」というのは、要するに政治ショーであり、本質論ではなかったはずのものです。そのルーツ自体がそうでした。つまり、2016年の大統領選での「ラストベルト」での圧倒的なトランプ人気というのは、「製造業が復権してくれないと、自分は職がなくて困る」という現役世代の切実なニーズを掘り起こしたのでは「ない」のです。 そうではなくて「自分は組合員として製造業でキャリアを全うして引退し、年金生活を送っている」という有権者に対して「自分がかつて属していた製造業が尊敬されない」ことへの怒りを引き出して見せた、つまり「現実のニーズ」ではなく「心理的な自尊心ニーズ」とでも言いますか、イリュージョンとしての「怒り」を引き出したものです』、最後の部分は極めてユニークな指摘で、大いに参考にる。
・『一番の例が「製炭業」です。「元炭鉱労働者」を相手に「俺様は製炭を再開してみせる」というのは、あくまで比喩であり、「炭鉱は閉鎖」とストレートに言ってしまったヒラリー・クリントンへのアンチとしての政治的レトリック以上でも以下でもないはずです。 ですから、公約にしても政策にしても「表面的なパフォーマンス」でよく、反対に本質的な部分からひっくり返すところまでは、考えていなかった「はず」でした。とにかく、なんでも「俺様の個人的なディール」で済ませる人ですから、多少の「条件上乗せ」でなんでも落ち着くところに落ち着かせるだろう、そんな風に誰もが思っていたわけです。 ですが、今回の通商戦争は違います。そうではなくて、実体経済そのもの、しかも基幹産業を含めた大きな影響のある話について、力勝負に引き込まれてしまったのです。つまり、政治的レトリックを使って「世論の中の感情論を手玉に取る」という部分と、それはそれとして「実体経済の部分では合理的に振る舞う」という部分、つまり本音と建前をうまく使い分けているはずのトランプ政権が、その使い分けができなくなってきているわけです。 現在の不透明感の一番の原因はそこにあるように思われます』、「本音と建前をうまく使い分けているはずのトランプ政権が、その使い分けができなくなってきているわけです」というのは、さすが深い読みだ。
・『外交もそうで、例えば歴代の共和党政治家がイランを敵視していたのは、サウジとの蜜月を維持するパワーバランスの問題もさることながら、イランに野放図に原油生産を許すと、原油価格のコントロールができなくなるという、極めて現実的な計算があったからでした。 一方で、オバマがイラン制裁を解除したのは、シェールの実用化を含むエネルギーの多様化と自給にメドをつけた中では、石油利権が安全保障上の喫緊の課題では「なくなった」ことが大きいわけです。 ですが、トランプの場合は、イランを敵視するのは「なぜならば敵だから」ということで、そこにリアルな理由はない一方で、それこそ空爆を命令しかねないような剣幕でもあるわけです。そのくせ「石油が安いのは消費者に喜ばれる」と歓迎しているのですから支離滅裂としか言いようがありません。 またサウジとの蜜月についても、リアリストとしての判断というよりも、家業の借金を保証してもらっているという疑惑を指摘されているという状態でもあります。ちなみに、この問題に加えて「ロシア疑惑」「女性への違法な口止め料支払い疑惑」などを含めた一連の疑惑に関しては、2月に「特別検察官レポート」が公表される予定であり、その内容が懸念されることから余計に「政権をめぐる不透明感」が増しているということもあります』、「特別検察官レポート」の公表が楽しみだ。
・『更に、ホワイトハウスの重要なポジションが空席になったままという状態は、年明けになっても解消されていません。例えばマティス国防長官に関しては、今になっても大統領は「あれは辞任ではなく事実上の解雇」だという発言を繰り返しており、よほど恨んでいるというのは分かるのですが、その分だけ後任探しは難航しそうです。 そんなわけで、大統領の周辺はガタガタという状態なのですが、では、これを追及する側の民主党はというと、決して一枚岩ではなく、中道派(リベラル)と左派(プログレッシブ)の抗争は激しくなっています。 例えば、1月3日には昨年11月に選出されたメンバーを含む第116議会が発足しました。その中で注目されたのは、民主党で「初のパレスチナ系下院議員」として登院したラシダ・トライブ議員(ミシガン州13区)でした。彼女は就任の宣誓をイスラム教徒として行ったのですが、その際に使用したコーランは、合衆国建国の父の一員であるトマス・ジェファーソンのものだったとして話題になりました。 その一方で、支持者を集めたミニ集会で「トランプという mother****er を弾劾せよ」と放送禁止用語を叫んだとして、ごく内輪の会合の内容であるにも関わらず動画をアップされるという攻撃を受けています。 また、同じように新人議員として注目されているアレクサンドリア・オカシオコルテス氏(民主党、ニューヨーク州14区選出)の場合は、初登院に合わせて「大学時代に校舎の屋根に登ってダンスしていた」という「スキャンダル動画」を公開されるという洗礼を受けています。これに対してオカシオコルテス議員は、「共和党では女がダンスをするのはスキャンダルなんでしょ?」という挑発的なツイートで、わざわざ議員会館の廊下で踊ってみせた動画を公開して対抗していました。 また、彼女らが「師匠」と仰ぐ左派のリーダー格、バーニー・サンダース議員の場合は、「2016年の選挙運動の際に運動員やボランティアにおいて女性差別があった」という長文の告発記事がNYタイムスに出ていました。こうした一連の「民主党左派への攻撃」の背後には、オカシオコルテス議員の言うような共和党支持者の影だけでなく、民主党内の抗争の匂いもするのです』、本来、1つにまとまってトランプを追求すべき民主党も、これでは救いようがない。
・『どうして民主党内がまとまらないのかというと、政策が大きく乖離しているのが原因です。例えば、1月4日には、そのオカシオコルテス議員は「富裕層への所得税は税率70%まで増税する。これを財源に、徹底した温暖化対策を行う」という「政策」をブチ上げました。トランプの富裕層減税を元に戻すのならまだ分かります。またトランプのカットした温暖化対策を復活するというのも必要なことでしょう。 ですが、そこで「70%」と言ってしまうというのは、共和党支持者だけでなく、民主党の中道派にも喧嘩を売っているに等しいわけです。ご本人や仲間の左派は計算ずくで、「左派のポピュリズム」を煽るだけの政治ゲームをやっているのかもしれませんが、こうなると「分断」を政治的手段にするという手法としては、トランプと何が変わらないのかという話になります。 いずれにしても、これから2020年に向けて民主党内では、大統領候補選びが本格化します。それが、1992年や2008年のように、対立が党内を活性化して最終的には大きなエネルギーになればいいのですが、2016年のように対立のしこりが本選まで残るようでは、ホワイトハウス奪還は難しくなるかもしれません。 また、大統領選の前に大きなテーマとして、大統領弾劾という問題があります。この問題では、左派は「昨年11月の選挙戦で公約して勝ってきた」議員が多い中で、それこそトライブ議員のように「ブリング(いじめ)体質を持ったトランプは即座に弾劾すべき」という主張があります。一方で、中道派は「弾劾を進めると膨大な政治的エネルギーを消耗する」として決して積極的ではありません』、中道派が積極的でない理由はあと1つ釈然としない。
・『では、共和党の方はどうかというと、昨年11月の中間選挙では、福音派もトランプ支持に回ってあれだけ「団結」を見せたわけです。ですが、ここへ来て「2020年には予備選でトランプ降ろしを」という動きもあります。具体的には、ユタ州から上院議員に選出されて今回登院して来たミット・ロムニー氏は、公然と「トランプ批判」の宣言を公開して話題になりました。そこに、「巧妙にトランプ政権を見限る」ことに成功したニッキ・ヘイリー前国連大使なども絡んでくるなどという「予想」も連日話題になっています。 いずれにしても、トランプ政権周辺も、党内が分裂状態の民主党も、そしてトランプに「どこまでついて行くのか?」ハッキリしない共和党も、アメリカの政界ではゲームに参加している全員が「大局観や揺るぎない方向性」を持てていないと言うことが分かります。年明けの不透明感の核にあるのは、その問題です。そして大局観と方向性に欠けているというのは、市場関係者も同じと言わざるを得ません。 別の言い方をするならば、今のアメリカは、トランプという異分子にあまりにも引っ掻き回されたために、目先のことしか見えないし、国外のことも見えなくなっているのです。極端なまでに政治的であり、極端なまでに内向きという言い方もできるでしょう。そして、引っ掻き回し続けたトランプ自身も、その収拾ができなくなっているわけで、そのような混乱状態が先行きの不安を作り出しているように思われます』、世界のリーダーたるべきアメリカの混乱も「出口」が見えない迷路にあるのは、困ったことだ。

第三に、ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・E・スティグリッツ氏が1月7日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「スティグリッツ教授が警告、トランプ大統領のひどい経済政策と扇動政治の末路」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/189801
・『ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授は、2019年はトランプ米政権のひどい経済政策と扇動的な政治姿勢の結果がよりはっきりと見える年だと指摘する。 ドナルド・トランプ米大統領の政権と与党・共和党は2017年末、法人税を1兆ドル減税する法案を強引に議会で通過させた。 この減税による歳入減少分は、所得分布の中位にいる大多数の米国人への増税によって一部相殺される。当初、米国のビジネス界はこの施しに大喜びしたが、2018年には、その喜びはトランプ氏と彼の政策に対する不安に取って代わられるようになった。 1年前、米国のビジネス・金融界のリーダーたちは、際限のない欲望から巨額の財政赤字に対する自身の嫌悪感にフタをした。しかし、今では、2017年の税制改革パッケージが史上最も逆進的で、時宜を得ない税制法案だったということを理解しつつある。 先進国の中で最も格差の大きい国である米国において、何百万もの貧困世帯や未来の世代が、億万長者のための減税のツケを払っていくのである。 また、米国の平均寿命は先進国の中で最も短いのに、この税制法案は健康保険の加入者が1300万人減少するように設計されていた。 この立法措置の結果として、2019年会計年度(2018年10月~2019年9月)の財政赤字は1兆ドルになると米財務省は予測している。これは、景気後退期を除く平時の単年度としては、どの国も経験したことがない巨額の赤字である。 おまけに、約束された設備投資の増加は実現していない。企業は労働者にスズメの涙ほど還元した後、利益のほとんどを自社株の買い戻しと配当に回してきた。 だが、これは格別意外ではない。設備投資が確実性から効果を得るのに対し、トランプ氏は混乱を栄養源にしているのである』、財界もトランプ政策の誤りに気付きつつあるというのは、遅そ過ぎる。「トランプ氏は混乱を栄養源にしている」というのは言い得て妙だ。
・『1兆ドル減税の効果に持続力なし 逆に損失を招く可能性  その上、この税制法案は大急ぎで可決されたため、誤りや矛盾、それに人目を盗んでこっそり盛り込まれた特別の利益に関する抜け穴をたくさん含んでいる。幅広い国民の支持が得られていないため、政治の風向きが変わったらかなりの部分が破棄されるのはほぼ確実で、このことは経営者たちも認識している。 われわれの多くが当時指摘したように、この税制法案は、経済に持続的な推進力を与えることではなく、軍事費の一時的な増額とともに、「シュガーハイ(糖分を多く取った後の興奮状態)」のような一時的な活気を経済に与えることを意図したものだった。 設備投資の即時償却は、その年に支払う税額を減少させるが、次の年からはその効果は剥がれ落ちてしまう。それに、この法律は支払利子の控除額を事実上引き下げるので、最終的には税引き後の資本コストを増大させる。従って、投資を妨げる。なぜなら投資の多くは借金で賄われるからだ。 その一方で、米国の巨額の赤字は何とかして補填しなければならない。米国の貯蓄率の低さからすると、補填資金のほとんどが必然的に外国の貸し手から調達されることになる。これは米国が債務返済のために多額の資金を海外に送るようになるということだ。 今から10年後の米国の国民総所得は、この法律がなかった場合に達成されていたと思われる金額をおそらく下回っているだろう。 大きな損失を招く税制改革法に加えて、トランプ政権の貿易政策も市場を動揺させ、サプライチェーンを混乱させている。中国からの原材料に頼っている米国の多くの輸出企業が、生産施設を海外に移転しても何の不思議もない。 トランプ氏の貿易戦争のコストを計算するのは時期尚早だが、この戦争の結果、誰もがより貧しくなると考えて間違いないだろう。 その上、トランプ氏の反移民政策は、エンジニアなどの高技能労働者に依存している企業が研究・生産施設を海外に移転するのを促進している。米国各地で労働力不足が目立つようになるのは、時間の問題だ。 トランプ氏は、グローバル化や金融化、トリクルダウン理論(大企業や富裕層がさらに豊かになれば中小企業や低所得者層にもその恩恵が滴り落ちて波及するという考え方)が約束していたことは実現されていないという事実を利用して、権力の座に就いた。グローバル金融危機と10年にわたる弱々しい成長の後、エリートたちは信用を失っていた。そこで、トランプ氏が登場して責任の所在を指摘したのである。 だが、彼が政治的利益のために利用してきた経済問題は、もちろんそのほとんどが移民や輸入のせいで生じたわけではない。例えば工業分野の雇用喪失は、主として技術の変化によるものだ。ある意味で、われわれは自身の成功の被害者になっているのである。 それでも、政策決定者はこうした変化をもっとうまく管理して、国民所得の伸びが少数の人のものではなく、多くの人のものになるようにできたはずだ。 ビジネスリーダーや資本家は欲に目がくらんでおり、特に共和党は、そんな彼らに望みのものを何でも喜んで与えてきた。その結果、実質賃金(インフレ調整後)は伸び悩んでおり、自動化やグローバル化によって職を追われた人々は置き去りにされてきた』、さすがリベラル系経済学者らしい鋭い指摘だ。
・『ブラジルやハンガリー、イタリアにも伝播 トランプ・ブランドの「フランチャイズ」  トランプ氏の政策の経済的側面はこのようにひどいものだが、彼の政治姿勢はさらにひどい。しかも、残念なことに、人種差別や女性蔑視、ナショナリスト的扇動という「トランプ・ブランド」は、ブラジルやハンガリー、イタリア、トルコなどの国々で「フランチャイズ」を確立している。 これらの国は全て、米国と同様の、もしくはさらにひどい経済問題に見舞われるだろう。 そして、これらの国はすでに、ポピュリスト(大衆迎合主義者)のリーダーたちが栄養源にしている、無礼さが招く現実に直面している。米国では、トランプ氏の発言や行動が邪悪で暴力的な力を解き放っており、その力はすでに制御不能になり始めている。 社会が機能するのは、市民が政府や制度を信頼し、また互いを信頼しているときだけだ。それなのに、トランプ氏の政治姿勢は、信頼を損ない、不和を拡大することを基盤にしている。これはどこまで行ったら終わるのだろう? 米ピッツバーグのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)で11人のユダヤ教徒が殺害された事件は、米国における「水晶の夜」(1938年11月にドイツで起こったユダヤ人迫害事件)の前触れなのだろうか? こうした問いに対する答えは分かりようがない。現在の政治の動きがどのように展開するかに多くのことが左右されるだろう。 今日のポピュリストのリーダーたちは、彼らの経済政策の必然的な失敗に支持者たちが幻滅したら、極右の方向にさらにかじを切るかもしれない。 より楽観的なシナリオでは、彼らは自由民主主義の枠の中に連れ戻されるかもしれない。少なくとも、彼ら自身が失望することで強硬姿勢を緩める可能性はあるだろう。 確実に分かっているのは、経済的結果と政治的結果は絡まり合い、互いに補強しているということだ。2019年には、過去2年のひどい経済政策とさらにひどい政治姿勢の結果が、よりはっきりと見えるようになるだろう』、「ピッツバーグのシナゴーグで11人のユダヤ教徒が殺害された事件」には、社会の不和拡大策が背景にあるとの示唆や、2019年の見通しは恐ろしいことだ。我々も覚悟した方がよさそうだ。
タグ:トランプ大統領 (その39)(「トランプ的政治家」が世界で増殖中 「本家」は不動産開発業者だからFRBを批判?、冷泉彰彦氏:全てが不透明なアメリカの新年、スティグリッツ教授が警告 トランプ大統領のひどい経済政策と扇動政治の末路) 上野 泰也 日経ビジネスオンライン 「「トランプ的政治家」が世界で増殖中 「本家」は不動産開発業者だからFRBを批判?」 ブラジル大統領選挙の決選投票 極右のボルソナロ下院議員が左派のアダジ元教育相を破った。 治安対策に関連する過激な発言で知られているのが、フィリピンのドゥテルテ大統領 フィリピンのトランプ チェコのトランプ 少数与党政権を発足させた富豪、バビシュ氏 イタリアでは、ポピュリスト政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」の連立政権が発足 フランス、ドイツ、オーストリア、スウェーデンなどでも極右政党が国政選挙で躍進 世界に次々登場する「○○のトランプ」 メルケル首相 CDU党大会で党首選への立候補を見送る FRBの利上げ路線に対しては公の場で繰り返し批判 パウエル議長を激励したブラインダー氏 「FRBは決してクレイジーではない(The Fed Is Anything but Crazy)」と題した寄稿 不動産デベロッパーが期待するFRBの役割は、金利をできるだけ低水準にとどめること 冷泉彰彦 JMM 「全てが不透明なアメリカの新年」 from911/USAレポート 経済以上に視界が悪いのが、アメリカの政界です このまま4年の任期を全うするか全く不透明な状態 予算が成立しないことで政府閉鎖 実際に連邦政府職員の給与支払いは停止されたまま 経済に関しては、トランプ政権によるグローバリズムの否定と通商戦争の弊害がハッキリと出てきている 「錆びついたラストベルト」で製造業の雇用が回復しつつあるのかというと、その動きはまだ極めて限定的 トランプ政権の政策によって製造業の雇用が回復したわけではなく、反対に養豚や養鶏、そしてGMといった中国向けビジネスが「通商戦争」のために大きくダメージを受けた 問題は、この対中国の通商戦争 双方ともに問題が深刻化する前に、合意を形成するチャンスはいくらでもあったように見えます 序盤戦は中国が巧妙に動く中で、アメリカは「短い潜伏期間で発症した重篤な副作用に苦しむ」という状態になったわけです 華為(ファーウェイ)の問題 5G(第5世代)の移動体通信におけるイニシアティブを取られまいという、技術戦争というのが底流にある 通商戦争は第二幕として性格が異なる内容へと深化してしまいました 問題は「中国で売れなくなる」だけではなく、「中国で製造できなくなる」ことによるグローバルな生産体制への影響が懸念 アップルの株価暴落 通商戦争の「副作用本番」 今回の一連の「トランプ流の経済ナショナリズム」というのは、要するに政治ショーであり、本質論ではなかったはずのものです 「現実のニーズ」ではなく「心理的な自尊心ニーズ」とでも言いますか、イリュージョンとしての「怒り」を引き出したものです 本音と建前をうまく使い分けているはずのトランプ政権が、その使い分けができなくなってきているわけです 外交もそう トランプの場合は、イランを敵視するのは「なぜならば敵だから」ということで、そこにリアルな理由はない一方で、それこそ空爆を命令しかねないような剣幕でもあるわけです サウジとの蜜月についても、リアリストとしての判断というよりも、家業の借金を保証してもらっているという疑惑を指摘 「ロシア疑惑」「女性への違法な口止め料支払い疑惑」などを含めた一連の疑惑に関しては、2月に「特別検察官レポート」が公表される予定 ホワイトハウスの重要なポジションが空席になったままという状態 大統領の周辺はガタガタという状態 民主党はというと、決して一枚岩ではなく、中道派(リベラル)と左派(プログレッシブ)の抗争は激しくなっています どうして民主党内がまとまらないのかというと、政策が大きく乖離しているのが原因 共和党 ここへ来て「2020年には予備選でトランプ降ろしを」という動きもあります 今のアメリカは、トランプという異分子にあまりにも引っ掻き回されたために、目先のことしか見えないし、国外のことも見えなくなっているのです 引っ掻き回し続けたトランプ自身も、その収拾ができなくなっているわけで、そのような混乱状態が先行きの不安を作り出しているように思われます ジョセフ・E・スティグリッツ ダイヤモンド・オンライン 「スティグリッツ教授が警告、トランプ大統領のひどい経済政策と扇動政治の末路」 トランプ氏は混乱を栄養源にしている 1兆ドル減税の効果に持続力なし 逆に損失を招く可能性 ビジネスリーダーや資本家は欲に目がくらんでおり、特に共和党は、そんな彼らに望みのものを何でも喜んで与えてきた。その結果、実質賃金(インフレ調整後)は伸び悩んでおり、自動化やグローバル化によって職を追われた人々は置き去りにされてきた ブラジルやハンガリー、イタリアにも伝播 トランプ・ブランドの「フランチャイズ」 2019年には、過去2年のひどい経済政策とさらにひどい政治姿勢の結果が、よりはっきりと見えるようになるだろう ピッツバーグのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)で11人のユダヤ教徒が殺害された事件 トランプ氏の政治姿勢は、信頼を損ない、不和を拡大することを基盤に
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