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自動運転(その3)(対談 自動運転業界:(第1回)無人で走るクルマ 結局いつ実現するの?、(第2回)日本は 自動運転大国になれる、(第3回)自動運転は 社会をどう変える? 4つの予言) [イノベーション]

自動運転については、昨年4月18日に取上げた。久しぶりの今日は、(その3)(対談 自動運転業界:(第1回)無人で走るクルマ 結局いつ実現するの?、(第2回)日本は 自動運転大国になれる、(第3回)自動運転は 社会をどう変える? 4つの予言)である。

先ずは、5月14日付け日経ビジネスオンラインが掲載した早稲田大学ビジネススクール教授の入山 章栄氏ら4名による座談会「[議論]無人で走るクルマ、結局いつ実現するの?File 3 「自動運転業界」(第1回)」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/forum/19/00012/042500012/?P=1
・『現在の議論のテーマ  File3のテーマは自動運転です。今回は技術面などの現状について議論しました。結局、ドライバー不在での自動運転はいつ実現するのでしょうか? 自動運転のメリット・デメリットなどについて、ご意見をコメント欄に自由に書き込んでください。 「あの業界、今、どうなの?」「競争環境が厳しくなるけれど、今後は大丈夫なの?」――。就活中の大学生やビジネスパーソン、経営者にとって、未知の業界の内情は大きな関心事だ。そこで、日経ビジネスが動画・ウェブ・本誌の多面展開で立ち上げたのが「入山章栄・安田洋祐の業界未来図鑑」だ。 経営学者の入山章栄氏と経済学者の安田洋祐氏が、それぞれの業界の関係者や業界をよく知るゲストを招き、都合のいい話も都合の悪い話も、ざっくばらんに議論し尽くす。読者からのコメントも積極的に取り入れ、業界を深掘りしていく。 第3回シリーズ(File 3)で取り上げるのは自動運転業界。世界中で実証実験が進むなど産業界の話題の中心だが、実際のところ、今、自動運転技術はどこまで進歩しているのか。自動運転技術の進化で未来の社会はどう変わるのか。入山氏と安田氏がゲストとともに熱く語り合う』、興味深そうだ。
・『入山:「入山・安田の業界未来図鑑」、第3回シリーズを始めていきます。 この連載は、経済学者の安田さん、経営学者の僕が、各業界で働く第一線の方にお話を伺い、その業界の現状と未来について我々なりの考えを整理していこうというものです。若い方には就職活動とか転職の参考にしてほしいし、年配の方には幅広い知識を得てほしいという狙いがあります。「日経ビジネス電子版」とユーザー参加型メディアの「Raise」を活用し、テキストと動画のどちらも楽しんでいただきます。 前回までお届けした第2回シリーズでは、VR(仮想現実)業界を取り上げましたが……。 安田:そう、VRでしたね。コンサルティングにVRを活用しているドイツのコンサルティング会社、ローランド・ベルガーの東京オフィスにお邪魔して、実際に我々もVRを体験させてもらって、世界観を思いっきり広げてもらいました。そして今回、我々がどこに来ているかというと……。 入山:はい、実はDeNAの本社に伺っています。会議室で動画の撮影までさせてもらおうという…。「日経ビジネス」どうなんですかね、毎回、訪問する会社の会議室を借りちゃって(笑)。 安田:なんとなく社会科見学みたいな感じですね。DeNAというと、IT企業でモバイルゲームが強くて……というイメージが強いかもしれませんけど、今日は別の事業の話ですね。 入山:そうです。今日取り上げるのは自動運転業界。DeNAは今、モビリティー事業に力を入れていますからね。何かと話題の自動運転業界の未来を聞いていこうと思います。 ゲストをご紹介します。まずはDeNAの常務執行役員でオートモーティブ事業の本部長を務めている中島宏さん。もう1人は自動車業界・自動運転業界に非常に詳しいアーサー・ディ・リトル・ジャパンのパートナーである鈴木裕人さんです。では、お2人、お願いします。 中島・鈴木:よろしくお願いします。 入山:初めまして。どうぞおかけください。早速ですが中島さん、今、自動運転業界でDeNAはとても注目されています。まずはどんなプロジェクトを進めているのかを簡単に説明していただけますか。 中島:はい。先ほどご紹介いただいたように、DeNAは今、モビリティー事業に力を入れています。タクシー配車サービス「MOV(モブ)」、個人間のカーシェアリングサービス「Anyca(エニカ)」、自動運転バスで地域の足をつくる「ロボットシャトル」などのプロジェクトを手掛けています。日産自動車とは、無人運転車両を使った新しい交通サービス「Easy Ride」の共同開発を進めています。 自動運転とシェアリングエコノミーは、変革のキードライバーになると思っているので、DeNAは今この2つの分野に力を注いでいます。 安田:自動運転の技術そのものを開発するのではなく、その技術を活用したサービスを提供していこうという立場ですね』、DeNAが自動運転にも注力しているとは初めて知った。
・『自動運転とシェアリングは変革のキードライバー  中島:そうです。自動運転業界は分業化していて、ハードウエアとしてのクルマをつくる企業と、自動運転キットをつくる企業と、サービスプラットフォームをつくる我々のような企業とがあって……。 入山:ああ、クルマ、キット、プラットフォームと。3層になっているんですね。 中島:さらに、その上にタクシー事業者とかバス事業者とか、実際にお客様を乗せてサービスする旅客運送事業者がいるので4層のレイヤー構造ですね。サービスプラットフォームをつくる我々は、ほかのレイヤーを侵食するつもりは全くありません。 安田:僕、早速、鈴木さんにお聞きしたいことがあるんですが。自動運転と一口に言っていますけど、新聞記事なんかを見ると、よく「レベルいくつ」っていうのが出てきますよね。それがいったい、どの程度のことなのかがよくわからなくて。そこからぜひ説明を聞きたいです。 鈴木:自動運転は大きくレベルを5つに分けて考えています。「レベル1」は運転支援機能といわれているものです。今、標準装備になり始めている自動ブレーキなどですね。「レベル2」はその高度なもの。レーン・キープ・アシストとか、前車追従のクルーズコントロールみたいなものを含みます。「レベル1」「レベル2」に関しては、運転操作の責任はドライバーにあります。 「レベル3」は条件付き自動運転、「レベル4」は高度自動運転、「レベル5」は完全自動運転というもの。最終段階の「レベル5」はどこでもドライバーなしで自動走行できる状態をいいます。「レベ3」から「レベル5」はシステムが運転の責任をとります。運行事業者やクルマをつくったメーカーにもかかわってきます。 安田:最近、高齢ドライバーが起こす事故がたびたびニュースになっています。自動運転が機能して、ブレーキとアクセルを踏み間違えるというような事故を完全に抑えられれば、高齢の方でも安全に運転できるはずですよね。それを可能にするには、どれぐらいのレベルが必要でしょうか。「レベル3」ぐらいでもいいのか、「レベル4」とか「レベル5」が必要なのか。 鈴木:標準装備されるようになれば、「レベル1」「レベル2」でもそれなりの効果はあると思います』、「自動運転業界」は4層のレイヤー構造ということはずいぶん広がりがありそうだ。
・『「レベル3」は自家用車、「レベル4」は商用車に向く  入山:我々は、自動運転という言葉を聞くと、すぐに「クルマが街中を自由自在に走る」というイメージを思い浮かべてしまいますが、それは「レベル5」の話であって、その前段階もあるということですね。 鈴木:そうです。「レベル3」「レベル4」も限定された条件の下では自動運転を実現できますが。 入山:「レベル3」と「レベル4」の違いはどう理解すればいいですか。 鈴木:「レベル3」まではドライバーが必要ですが、「レベル4」からは不要となります。「レベル3」は非常事態があった時には人間に責任を返すことが前提になっていて…。 入山:責任を人間に返す? 中島:たとえば、ドライバーが運転中に「ちょっと本を読みたいな」と思って自動運転ボタンを押したとします。なんらかの事態が起きてクルマのシステムだけでは処理しきれない時、「ピピピピッ」と音が鳴って、「人間のドライバーさん、ちょっと交代してください」と訴えてくる。「しょうがないな」と人間が運転を代わる。そんな感じです。「レベル3」は主に自家用車向けのものと私は理解しています。 「レベル4」は、「雪が降った時はムリ」とか、「暗い中では走れない」といった条件がある。これは「レベル3」と違って自家用車向きではないですね。それまでドライバーなしで自動走行していたのに、雪が降った途端に自動運転ができなくなるというのでは困りますから。でも商用車だったら、雪が降って運行できなくなった場合には人間が運転するタクシーがフォローすればいいわけです。 入山:なるほど。レベル感がよくわかりました。となると、知りたいのは自動運転業界が現在、どのレベルまで来ているのかっていうことです。 安田:読者の方からも質問が届いていますね。中小企業技術職人さんから、「単純に、現在どこまで進んでいるのか」という質問です。 鈴木:今、すでに「レベル2」までは市販されています。量産車で既に実現していますね。たとえばスバルの運転支援システム「アイサイト」は初期段階では「レベル1」でしたが、車線逸脱抑制、誤発進抑制、前車追従などの機能を盛り込んだ今は「レベル2」までいきつつあります。2018年、アウディは旗艦モデルの「A8」のモデルチェンジに合わせて、「レベル3」の自動運転機能を開発しました。ただ、法整備が追いついていないので、まだ実車への搭載はできていません。この辺になると法律的な壁も出てきます。 安田:さきほどの中小企業技術職人さん、「『レベル4』『レベル5』の実現はいつ頃になるのか知りたい」とも書き込んでいますが……。 鈴木:「レベル4」については、「来年出す」と言っている自動車メーカーもあります。2023年くらいまでには出さないと、ちょっと技術力を疑われてしまうだろうという感じになっていますね。 入山:もうそんなに進んでいるんですか。2023年というとあと4年? 4年後に出さないと、「あの会社、大丈夫か」っていう話になっちゃうと……。中島さんもそんなイメージですか。 中島:これまでは自動車メーカーや自動運転キットをつくるメーカーが「いつまでにこういうレベルのものを出します」と公表することってあまりなかったんです。ところが、このごろ、「2020年には出します」という具合に正式に発信し始める企業が出てきた。トップランナーの企業は2020年代の前半には出すと言い始めています。ひっくるめて考えると、「2023年までに出さないと遅い」というのはおっしゃる通りだと思います。 入山:これに関して、「日経ビジネス電子版」には詳しい読者の方から質問がきているので紹介します。ホッチーさん、サラリーマンの方です。「カリフォルニア州が提出を義務付けているデータから見ると、正直自動車メーカーのレベルはまだまだ。本気で『レベル3』が実現できると考えているのでしょうか」というものです。鈴木さん、いかがでしょうか』、「レベル4」については、「2023年までに出さないと遅い」というのは、予想以上に早く進んでいるようだ。ただ、「レベル3」では、「クルマのシステムだけでは処理しきれない時、「ピピピピッ」と音が鳴って、「人間のドライバーさん、ちょっと交代してください」と訴えてくる」とはいっても、それまでボンヤリしていたのに、急に運転せよと言われても、戸惑うドライバーも多いのではなかろうか。
・『2023年までに完全自動運転車が出てくる  中島:読者の方が指摘しているのは、カリフォルニア州車両管理局が自動運転技術を開発中の企業に対して提出を求めた、走行テストの実施状況などに関するデータのことですね。その中ではテスト中、自動運転モードを解除し、人間のドライバーが運転する「ディスエンゲージメント」の頻度も記録されています。つまり、自動運転でどれだけ走行できるかを測っている。それによると、トップはグーグル系のウェイモ。続いてゼネラル・モーターズ(GM)傘下のGMクルーズでした。 入山:確かにホッチーさんは、「日産ですらウェイモの2%、GMクルーズの4%しか解除なしで走れない。BMWやトヨタ、ホンダ、メルセデスにいたってはその日産の1/46~1/140、鳴り物入りで参画したアップルは2kmも走れない惨たんたる状況」と指摘しています。 鈴木:ただ、これはあくまでカリフォルニアでやったテストのデータ。自動車メーカーはグローバルでテストをしているので、すべてを含めた数字にすれば、それほど差はないだろうというのが我々の認識です。 入山:つまり、カリフォルニアのデータは何かの理由で際立って悪い結果が出ていると。 鈴木:そうですね。カリフォルニア州は自動運転の実証実験をしやすい環境を整備しているので、いろいろな会社がそこで実験を行っています。特にグーグルの本社はカリフォルニアですから、そこで集中的にテストしています。 安田:ウェイモもGMクルーズもアメリカに本社がある。カリフォルニアで積極的に実証実験を行っているのはアメリカの企業が多いと。 鈴木:カリフォルニアであまり良い数字が出ていないからといって、世界のトヨタや日産が自動運転開発競争で後じんを拝しているのかというと、そういうわけではありません。自動車メーカーの間での競争があるので、競合他社に今の自社の技術レベルを知られるわけにはいかないという面もあります。 入山:隠して出していないだけで、実は相当進んでいるはずだということですね。 中島:かなり進んでいると思っています。実証実験はしやすいけれど、カリフォルニアでやったらデータを開示しなくてはならない。敵に状況を知られたくないと考える会社はカリフォルニアでは走らない。カリフォルニア州が開示したデータでは、「あまり走れていないけれど大丈夫ですか」と見えちゃうということです。 入山:ホッチーさん、実は裏ではちゃんと進んでいますということのようです』、「ウェイモ」や「GMクルーズ」に比べ、日本メーカーは遅れているのではと心配していたが、「実は裏ではちゃんと進んでいます」というので安心した。
・『移動のサービス化は力強いトレンド  安田:自動車業界では今、「MaaS」というコンセプトが提唱されていますね。「モビリティー・アズ・ア・サービス(Mobility as a Service)」の略ですが、鈴木さんか中島さん、このキーワードについても解説をしていただけますか。 中島:細かくいうと、「MaaS」には今、3つの意味があります。第1はクルマを含むモビリティーをサービス化すること。DeNAさんが手掛けているようなカーシェアリング、配車アプリなどが代表的なものですね。 入山:それ、我々が漠然と考えていた「MaaS」です。 中島:第2に、複数の交通サービスを組み合わせる「マルチモーダル」という意味でも使われています。たとえば、電車とカーシェアリング、バス、タクシーなど複数の交通手段を組み合わせて、快適なユーザーエクスペリエンスを提供しようということです。日本には「乗換案内」というアプリがありますが、さらに進んで、そのまま予約や決済まで統合しようという動きが出ています。 安田:今、スマートフォンで「Google マップ」を立ち上げて目的地を設定すると、複数の交通手段を使った経路がいくつか出てきますね。将来はそのまま予約ができたり、お金を払ったりもできると。 中島:おっしゃる通りです。「Google マップ」は第1段階。ヨーロッパで最近出てきたのは、そこで予約をして決済までできるという第2段階のものです。さらに、サブスクリプションの形で、月額固定で乗り放題のサービスなども出てきています。最近はこちらの意味で「MaaS」という言葉を使うことが一般的になってきていますね。 第3は「ビヨンドMaaS」ともいわれ始めていますが、交通と生活サービスとか、交通と不動産などを統合していくというもの。1960年代のモータリゼーションみたいな動きです。 この3つの意味で分けて考えると、第1のサービス化としての「MaaS」は当然、これから起きてくると考えられています。力強いトレンドになっています。一方、第2の複数の交通手段を統合する意味での「MaaS」はちょっと怪しい。ものすごく注目され、もてはやされたヨーロッパの「MaaS」のスタートアップもユーザーが定着しなかったり、事業者があまり乗ってこなかったりとうまくいっていません。「1つのアプリで全部できる」ことにそんなに価値はないんじゃないかといわれ始めているというのが業界の最新の状況ですね。第3の「ビヨンドMaaS」といわれるものについては、可能性は十分あるんじゃないかとみられています。 入山:今、鈴木さんに説明していただいた「MaaS」の3つの定義でいうと、DeNAはどこに注目しているのでしょうか。 中島:第1のサービス化、「モノからコト」については、まさに今、取り組んでいる最中です。積極的に投資をしています。第2の複数の交通手段の統合は鉄道会社などがやりたいという意向をお持ちなので、我々は「協力します」という立場です。主体的にはやっていません。第3の「ビヨンドMaaS」にはものすごく興味があって、調査や研究開発をどんどん進めているというところです。 安田:最先端のところに切り込んでいるわけですね。 鈴木:アジアでは、グラブやゴジェックが配車サービスを手掛けていますが、彼らはまさにモビリティーを中心に買い物や宅配など周辺の生活サービスを統合する方向で今、ものすごく成長しています。先進国ではなく新興国からそういう最先端のものが出てきているというのが、この領域の面白いところだと思います。 中島:「イノベーションのスキップ」ですよね。たとえば、スマートフォン決済って中国で真っ先に浸透しました。クレジットカードがあまり普及しなかったためにイノベーションが起きた。 入山:アメリカはいまだにクレジットカードが主流ですもんね』、確かに、この分野でも「イノベーションのスキップ」が起こりつつあるというのは、興味深い。
・『新興国でモビリティーの「カエル跳び」起きるか  中島:新興国はこれからマイカーが大衆層に普及していこうというタイミングです。そこに「MaaS」が浸透すると、マイカーを買う文化が醸成される前に、サービスとしてモビリティーを使うようになるかもしれない。 安田:「モノ」をスキップして、いきなり「コト」から入っていくっていうことですね。 入山:経営学ではそれを「リープフロッギング」というんですけれど。カエル跳びですね。新興国の方が既存のものがないから跳び上がって我々の先に行く。それが自動車の世界でもあると。 中島:そういうことが起きる可能性があると思います。 入山:なるほど。自動運転業界の現状が見えてきました。ありがとうございます。この後は、この業界の課題についてお話を伺いたいと思います』、続きが楽しみだ。

次に、この続き、5月28日付け日経ビジネスオンライン「[議論]日本は、自動運転大国になれる?File3 「自動運転業界」(第2回)」を紹介しよう。
・・・・今回の議題は「自動運転業界の課題」。ドライバーなしのクルマが街中を走るとなれば、技術の成熟が不可欠な上に、制度や法律などの仕組み整備も必要となる。果たしてその準備は進んでいるのか……。世界中で過熱する「自動運転化競争」で日本はどんなポジションにあるのか。議論からは日本の“意外な強さ”が浮き彫りになった。 安田:このシリーズでは自動運転業界について、ゲストのお2人と議論を進めています。今回は自動運転業界の課題について、お聞きしていこうと思います。 前回、自動運転業界の現状についてお話しいただき、業界で注目されるキーコンセプトの「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」についても説明をしていただきました。モビリティーの領域で「モノからコト」へのサービス化が進むならば、法律やシステムなどの環境整備は欠かせませんね。 入山:そうなんですよ。だって2023年までには、無人の自動運転車が出てくるだろう、それが実現できない会社は「遅れている」と思われるだろうっていう話ですから。正直、「すげえな」と思いましたけれど。一方で僕は、自動運転車がきちんと走るための制度や仕組みはまだ整っていないんじゃないかという気がして、そんな中で出てきちゃって大丈夫なのかとも感じます。 安田:「日経ビジネス電子版」の読者の方からもその辺の質問をいただいています。機械系設計者の方で「延長被雇用のおじさん」から。「今までは道路環境などの外因があっても、全てをドライバーの責任として済ませてきた。自動運転でも責任の所在問題が残る」とあります。運転操作が人間から機械に変われば、全体として安全性は高まるのでしょうけれど、万一の事故が起きた時に誰が責任を取るのか。根本的な問題がありますね。 入山:よく出る話ですね。自動運転の判断に誰が責任を取るのかと。 中島:これはもし間違っていたらぜひ補足していただきたいのですが……。よく日本は自動運転の法改正が遅れているという指摘があります。 入山:僕、自動運転業界の素人ですけれど、完全にそういうイメージを持ってます。 中島:実は日本って結構進んでいると私は思っているんです。2015年ごろは確かに遅れていた。けれど2016年、2017年と、「世界に後れをとってはならない。2020年までに完全自動運転車が走れるよう、法改正を終えなくては」と政府がリーダーシップを発揮してきた。 入山:そうなんですか。2020年というともう来年ですが……。 中島:民間事業者を困らせるわけにはいかない、必要な法改正をやろうと、関連省庁に横ぐしを刺して徹底的に法改正の準備をしているところだと認識しています。 入山:鈴木さんも同じ意見ですか。 鈴木:はい。そういう意味でも、自動運転はDeNAのような事業者がクルマを使ってサービスするところから普及するだろうと思います。たとえば、今、タクシードライバーが事故を起こしたら、タクシー会社が責任を取りますよね。それが自動運転車になるだけですから。タクシー会社のビジネス構造からすると変わらない。 自家用車の場合はどうかというと、今は事故を起こせばほとんどがドライバーの責任です。それが、自動運転ではクルマのメーカーが責任を持つというようなことになったら自動車会社も困ってしまう』、自動運転の事故ではタクシー会社の方がビジネス構造上、馴染み易いというのは、言われてみればその通りだ。
・『完全自動運転化は商用車から始まる  入山:そうか。自動車を自家用車と商用車に分けて考えると、タクシーやバスなどの商用車の方が、根本的なビジネス構造を変えずに自動運転を活用しやすいんですね。 中島:おっしゃる通りです。なので自家用車の自動運転化は商用車の後だといわれています。商用車から先に完全自動運転化が始まる。「レベル4」の商用車から普及が進むとみられています。 安田:責任の所在に関して、別の読者の方からも質問をいただいています。NKさんから、「自動運転のカテゴリーで、一部車両側で運転責任を負う『レベル3』は本当に必要なのか」という内容です。「レベル4」「レベル5」ならばドライバーはいないので、ドライバーの責任なのか、技術・機械の責任なのかという問題はなくなります。「レベル3」をスキップして一気に「レベル4」「レベル5」を目指してもいいのではないかというご意見です。 専門のお2人のご意見はどうでしょう。せっかくなので、お手元にある○×棒を出して回答していただきましょう。今後、自動運転が普及していく上で、「レベル3」をスキップしてもいいと思う場合は「○」を、いやいや、やっぱり段階を追うべきだと思う場合は「×」を出してください。 入山:ええと、これ僕も挙げるんですか。 安田:ええ、ぜひ。 入山:何も分かってないのに。 安田:はい。僕は司会進行に徹するので、挙げませんけれど。 入山:ずるいな(笑)。 安田:準備はいいですか。では一斉に……はい、どうぞ。ほう、なるほど。これは素晴らしいですね。専門家のお2人は「×」。つまり、「レベル3」をスキップすべきではないと。入山さんは「○」で、スキップしていい。 入山:今までのお話を聞いていると、本当にこの「レベル3」、難しい気がするんですよ。倫理的な部分とか、法律的な部分とか……。 安田:「レベル3」さえなければ法的な問題は発生せず、スムーズにいきそうな感じは確かにしますね。 入山:ここが一番面倒くさい。つまり自動運転に任せて、自分は本を読んでいる。けれどそのクルマが事故を起こして、たとえば歩行者をひいてしまったら、それってクルマのせいなのか、本を読んでいたドライバーのせいなのか。結構難しい問題だなと今までの話を聞いていて思ったんですよね。 グレーゾーンが多くなりそうなのが「レベル3」。飛ばしちゃった方がいいんじゃないのと思ったんですけれど。ぜひ教えてください。「×」の理由を』、私も「飛ばしちゃった方がいいんじゃないのと思った」口だが、プロの2人は必要と考えているようだ。
・『「『レベル3』が必要な理由、教えてください」  安田:じゃあ、鈴木さんからお願いします。 鈴木:「レベル3」とか「レベル4」って、極端なことを言うと自動車メーカーのスタンス次第なんです。たとえばトヨタ自動車は慎重だから、「レベル3」ができたとしても、「今できるのは『レベル2』まで」と言うでしょう。 トヨタのように慎重な姿勢だと「レベル4」までできるようにならないと、「『レベル3』ができる」とは言わない。一方で、イメージ戦略として「『レベル3』をやります」と発表するメーカーもあるかもしれない。あいまいな責任問題が存在することを含めて、「レベル3」をやると言うか言わないかの問題になる。ブランドをどう位置づけるかにもかかわるので、一概に「レベル3はスキップした方がいい」といえる問題でもないと思います。 入山:中島さんはどうですか。 中島:私はちょっとアプローチが違うのですが。「レベル1」「レベル2」と来たら、その先は「レベル3」と「レベル4」がパラレルで進むと思っているんです。 入山:なるほど。それは自家用車と商用車の違いということですか。 中島:そうです。自動運転キットを開発する会社の技術者の方とかOEMメーカーの技術者の方々と話していると、「『レベル3』と『レベル4』は別物です」と言うんですね。「レベル3」ができないと「レベル4」ができないわけではない。ただ技術はかなり相互連関があって、どちらかが発展するともう片方にもいい影響がある。「両方パラレルで進むべきです」という話なんです。 「レベル2」の延長線上にあるのは「レベル3」です。なので、「レベル3」がじわじわっと始まるかもしれない。そこである日突然、全く違う文脈で「レベル4」がポンと出てくるという感じになるのではないでしょうか。確かに、実は技術的にも難しいのは「レベル3」みたいですね。人というあいまいなものを検知しながらになるので』、「人というあいまいなものを検知しながらになるので」、「技術的にも難しいのは「レベル3」」、というのはその通りなのかも知れない。
・『##3→4は、「レベルアップ」ではない  入山:そうか。「レベル4」は完全に機械だからむしろシンプルでやりやすい。 中島:はい。ただ「レベル4」を実現するための基礎技術は「レベル1」「レベル2」「レベル3」にも活用されるので、1~3も積極的にやっていきましょうというところですね。 入山:「レベル」という言葉を使っちゃっているから、どうしても段階を経ていくイメージがあるけど、そうじゃないんですね。 安田:ロールプレイングゲームみたいに、技術力が上がって1つずつレベルアップしていくっていうのではない。「レベル3」と「レベル4」は分岐する。 中島:はい、技術とか法整備という観点でいうと、「レベル3」と「レベル4」は別物で、横に並べた方が分かりやすいと思います。 入山:日本は他の国に比べて法整備も進んできているというお話でしたけど、これから「レベル3」や「レベル4」にも対応するような法律ができてくるんですか。 中島:そう思っています。「レベル4」の方が法整備的にはジャンプがありますけれど。 入山:ジャンプがあるというのは?』、「技術とか法整備という観点でいうと、「レベル3」と「レベル4」は別物で、横に並べた方が分かりやすい」、言われてみれば、納得できる。
・『ドライバーのいないクルマ、法律はどうとらえるか  中島:これまで運転席がないクルマっていう概念が、日本の法律の中にはなかったので。 入山:そうか。「レベル4」からはドライバーがいない。つまり運転席がないわけですからね。 中島:数十年間、「ドライバーがいる」という大原則の下で法律がつくられてきましたが、その根本のところが変わっちゃう。法改正議論としては複雑な話です。 安田:今、ふっと思いついたんですけれど。経済学者の岩井克人さんが研究していることですが、法人って偉大な発明で。株式会社の場合は所有される客体としての性質を持つ一方、法人格として所有することもできる存在です。 運転の場合も同じようにできるかもしれない。従来だったら人が運転手をやらなきゃいけないけれど、運転する主体として認め得るものを法的に整えれば、一義的にその主体が責任を負うという形にできるかもしれない。 入山:いやー、安田さんが初めて経済学者らしいことを言ったな(笑)。 中島:おっしゃる通り、そういうアプローチで法改正をしようという方もいます。または今の法律の延長線上で解釈を変えるというアプローチでやろうという方もいる。全く別物なので新しい法律をつくりましょうという方もいます。 入山:そこはまだ分からないんですね。法改正で行くのか新法をつくるのか。 中島:国際的な議論では、今おっしゃったような運転手の概念を拡張する方向での検討が主軸だと言われていますね。たとえば、AI(人工知能)が担うとか、サービサーが担うというような形で。 安田:ほかにも読者の方からのご意見、ご質問としてたくさんいただいているのがルール整備についてです。自動運転の安全性や交通の効率性を追求するならば、人間の運転を禁止した方がいいのではないかとか、人間のドライバーが運転できるレーンを制限した方がいいんじゃないかといった内容です。どう考えますか』、「「レベル4」からはドライバーがいない」ことを前提とした法整備は、確かに一筋縄ではいかないようだ。
・『クルマが出た時も「馬車は使用禁止」とはならなかった  中島:私はわりと現実的な路線を考えています。かつて馬車があった時代にクルマが発明されましたが、じゃあ、「クルマの方が便利だから馬車は使用禁止」となったかといえばなっていない。しばらくの間は馬車とクルマが併存していたわけです。クルマの方が便利なので馬車は自然となくなっていきましたが。 今の時代も、自動運転という便利なものが出てきたからといって、人間が運転するクルマをなくそうなんていう強引なことは絶対に起きないでしょう。専用レーンっていうのも、日本の道路を考えたらできるわけがない。混在環境になると思います。そして、じわじわと自動運転の比率が高まっていくというのが現実的な路線だと思います。 安田:今のお話から考えると、混在している環境できちんと自動運転ができるならば、そこで生まれた日本のサービスやシステムは世界のどこに出しても使えるということですね。難しい環境で成功したものだから輸出もしやすい。 中島:そう思います。ただ、意外と交通サービスって地域特性が出るんです。たとえば、インターネットではグーグルの検索エンジンが世界を席巻しましたけど、ひとつの配車サービスだけが世界を席巻してはいない。世界各地でウーバー、グラブ、オラ、ディディなど様々な企業が活躍しています。自動運転のサービスやシステムもローカルの特性が出るはずです。 安田:今、「ローカル」というキーワードが出てきましたけど、ローカルといえば、この『フラグメント化する世界』という本の中で、鈴木さんはGAFAに代表されるグローバルプラットフォーマーが独占的地位を得ていた時代から転換し、これからはローカライゼーション、カスタマイゼーションが起きてくるということを指摘していますね。このフラグメント化の文脈で見ると、自動運転はどういう形になるのでしょう。 鈴木:町の構造や人口密度は本当に様々です。一口に自動運転と言っても、状況によって必要な技術も全く変わります。それぞれの町に最適な自動運転の形が出てくると思います。低速の自動運転車が走る町が出てくるかもしれないし、高速道路の専用レーンに自動運転車が走る町が出てくるかもしれない。 中島:そういう点からも、自動運転車を活用した「ロボットタクシー」のサービスは、どこかの都市で早めに磨き込みを掛けないと国際競争に勝てないと思っています。ロボットタクシーって新幹線のアナロジーに似ていると思うので。 入山:どういうことですか』、「それぞれの町に最適な自動運転の形が出てくる」というのは面白い指摘だ。
・『日本は“自動運転大国”になるポテンシャルが高い  中島:新幹線って、車両自体は重工メーカーがつくっていますね。電線整備などインフラを構築するのは電力会社。世界最高の1分の狂いもない車両マネジメントシステムは日立製作所がつくっている。オペレーションを含めてそれらをラッピングしているのがJR。水平分業で、いろいろな領域を担う人たちが1つの社会交通システムである新幹線というものを共同でつくり上げています。 自動運転もそれに近くて、OEMメーカー、キットメーカー、サービサー、旅客運送事業者が一緒になってロボットタクシーというパッケージをつくっている。新幹線は今、国際展開していて、中国やフランスと競合しています。 自動運転時代のロボットタクシーも同じような競争が都市ごとに起こっていくだろうと。今、いろんな企業が世界各地で開発を進めていますが、たぶんどこかの都市で先に磨きを掛けたところがそれを輸出するでしょう。 鈴木:実は公共交通にこんなに民間企業がかかわっている国って日本以外にはあんまりないんです。ヨーロッパではほとんど都市の交通局みたいなところが取り仕切っているので。日本には私鉄もあるし、大きなタクシー会社もある。民間ベースでそういう企業が成り立っているというところは日本の強みになり得ると思います。 中島:それにトヨタ自動車、日産自動車、ホンダとグローバルでもトップクラスのOEMメーカーがこの狭い国土の中に集中しています。周辺技術を持った会社もたくさんある。さらに政府も強力に推進しようとしている。意外と日本はいろんな条件がそろっています。 入山:実は日本って自動運転大国、自動運転先進国になるポテンシャルがめちゃめちゃ高いんですね。 中島:チャンスは大きいと思います。 安田:国内競争が激烈な業界で勝ち残ると海外でも十分に競争力を持つことができる。これはどんな分野でもそうですからね。 入山:DeNAはそういう中で新しいプレーヤーとして入って、ゆくゆくはグローバル展開も考えているということですね。 中島:そうですね。水平分業の1レイヤーを担いたいです。ラッピングするのは我々じゃなくてもいい。でも、「ラッピングします」という企業が現れないのであれば我々がやりましょう、と思っているところです。 安田:世界展開できたら、「トヨタのクルマに乗ろう」「日産のクルマに乗ろう」ではなく、「DeNAを使おう」となるわけですね。 入山:現に今、新幹線はどの重工メーカーがつくった車両かは気にせず、JRのサービスとして利用していますからね。同じことが自動運転の世界でも起きるようになると。 安田:ちょうど今後の話が出ましたので、第2回はここで終わりにして、次に未来の話をお聞きしていきましょう』、「日本って自動運転大国、自動運転先進国になるポテンシャルがめちゃめちゃ高い」、というのは嬉しくなるような話だ。続きも興味深そうだ。

第三に、この続きを、6月11日付け日経ビジネスオンライン「[議論]自動運転は、社会をどう変える? 4つの予言 File3 「自動運転業界」(第3回)」を紹介しよう。
・『・・・3回目の議題は「自動運転が社会を変える」。自動運転やMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)の進行で新しいサービスが次々に登場する中、社会はどう変わっていくのか。ホテルはつぶれ、住宅革命が起きるのか……。 議論の中で飛び出した斬新な予想から、クルマを起点に様変わりする未来が垣間見えた。 入山:引き続き、自動運転業界について、ゲストのお2人にお話をお聞きしていきます。今回は自動運転の未来を伺いたいと思います。ここまでの議論をおさらいすると、自動運転には「レベル1」~「レベル5」まであり、既に「レベル2」までは実現している。 これから「レベル3」~「レベル5」が出てくるけれども、主にタクシーやバスなどの商用車については、ドライバーなしで勝手に走り回るという状況が2023年ぐらいまでには部分的にでも起きるだろうと。 安田:あと4年ですね。2025年には私の勤める大阪大学の地元で万博も開かれますが、その頃には結構自動運転車が浸透しているってことです。 入山:そこでお聞きしたいのは、その後の2025年から2030年ぐらいまでの間に、自動運転によって我々の社会には何が起きるかということです。お2人には、既にホワイトボードに予想する未来を書いていただきました。実は僕も書きました。順番に説明していきましょう。 まず僕からいっていいですか。僕が予想する未来はこれです。ジャン。(スケッチブックを見せる) 安田:えーと、入山さん。「ホテルがつぶれる」と……』、確かに「自動運転によって我々の社会」には大きな変化が起きそうだ。
・『自動運転車がホテルを駆逐する?  入山:ええ。「レベル4」なんかが出てくると、間違いなくこれが起きると思ってます。ある駐車場会社の調査結果によると、駐車場にクルマを止めてドライバーがしていることのトップ5に、昼寝とか仕事が入っています。クルマって閉ざされた空間なので、自分のしたいことが自由にできる。つまり、究極のプライベート空間なんですよ。 自分で運転しなくてはいけない今は駐車場に止める必要がありますが、完全自動運転が実現すれば、勝手に運転してくれるから、移動しながら好きなことができる。完全自動化したクルマなら、ホテル代わりにも使えます。ほら、大阪大の先生である安田さんは、住んでいる大阪から出張で全国各地に移動することも多いでしょう? 自動運転のクルマがあれば、移動しながら宿泊もできますよ。夜の11時ぐらいにクルマに乗って後はガーッと寝ていればいい。朝起きたら、出張先に着いています。ビジネスホテルは自動運転に取って代わられる可能性があると僕は思っています』、私は若い頃はクルマで寝たこともあるが、疲れが取れず、コリゴリだ。
・『移動と宿泊のセットには価値がある  安田:なるほど。僕、ときどき船の旅に行くんですけれど、それに近い世界観ですね。船の旅って全部船の中でサービスが完結するので、子供連れには楽でいいんです。それと同じようなことが、クルマの世界でもっと広範に、低価格で起きるということですね。 中島:すごく鋭い指摘だと思います。現に鉄道では豪華な宿泊設備が付いた列車がブームになっています。寝台列車の「ななつ星in九州」とか。 安田:ああ、「ななつ星」は大変な人気ですよね。 中島:移動と宿泊のセットに価値があるということの実証であって、同じことはクルマでも起き得ると思います。ただ、クルマの場合も、あるのは高級路線かなと。 大衆路線のビジネスホテルの代替というのはなかなか難しいと思います。みんなが移動するクルマの中で寝始めたら、夜中の道路が渋滞しちゃいますから。都市空間を効率よく使うためには、大きなビルの中でたくさんの人に寝てもらった方がいい。貴重な道路を使いながら宿泊する場合には、たくさんのお金を払える人を対象にした高級路線にする方がいいのではないでしょうか。 入山:なるほど。北海道一周を自動運転でやっちゃうというようなことですね。 中島:そうです。そんな旅行が今後はどんどん出てくると思います。 安田:ホテルの場合は一度つくったら、そこでしか楽しめないけれど、クルマなら、ベストビューのところまで移動していけますしね。電車と違って線路の制限もない。 中島:朝日が美しい場所まで行って起こしてくれるとか、いろいろなサービスが可能となります』、「貴重な道路を使いながら宿泊する場合には、たくさんのお金を払える人を対象にした高級路線にする方がいい」、というのはその通りだろう。
・『入山:なるほど。じゃあ、次は安田君、いってみようか。 安田:僕はこれです。 入山:カプコン……? 安田:ええと、ゲーム会社の話ではなくて、「カプセルコンテナ」の略。未来には移動手段とは別に「マイカプセル」みたいなものをおのおのが持つようになるだろうという予想です。移動したい時には、コンテナのように移動手段にカプコンごとポコッと乗る。 イメージ的には「ドラゴンボール」の宇宙船。プライベートなスペースとしての「マイカプセル」は変わらないけれど、乗っかるクルマは場面によって変わるというものです。1人で乗る場合もあるし、複数人で乗る場合もある。クルマに限定されないモビリティーですね。 鈴木:トヨタ自動車が提案している「イーパレット」は、このコンセプトに近いですよね。移動、物流、物販と幅広い用途を想定し、パレットのように姿を変えるというものです。 安田:そうですか! じゃあ、僕は独自にトヨタと同じところにたどり着いたんだ(笑)』、「プライベートなスペースとしての「マイカプセル」は変わらないけれど、乗っかるクルマは場面によって変わる」、というのは面白い夢物語ではある。
・『「トヨタの方、いつでもプレゼンします」  入山:自己評価高過ぎないですか(笑)。 中島:トヨタよりも先を行っている感じはします! 入山:おお、トヨタの先を行っているのか! 中島:クルマと一体化していないのがポイントですよね。移動主体と分離できるということは、都市空間を効率的に使えます。 安田:個人的には「マイカプセル」にするのがポイントだと思っているんです。シェアリングサービスが進んだときに、ほかの人が使ったスペースに入るのを嫌がる人もいるでしょうから。トヨタさんの関係者の方、見ていらっしゃいますか。いつでもプレゼンしに行きますよ(笑)。 入山:我々の露払いはこの辺にしておいて、お2人に自動運転の未来をお伺いしましょう。では鈴木さんから。 鈴木:若干、現実的過ぎるかもしれないんですけれど……。 入山:我々はかなりいいかげんなので、そういうのがかえってありがたいです(笑)。 鈴木:「地方のタクシーからロボタクシー」と書きました。2025年になると団塊の世代が75歳を過ぎて後期高齢者になってきます。運転免許を返納する人が増える。一方で実はタクシーのドライバーが減っていくんですよね』、なるほど。
・『自動運転は地方のタクシー事業者を救う  入山:そうですよね。特に地方でね。 鈴木:今はタクシー業界が反対して、自動運転化が進まないという面もあるんですが、これからの時代には自動運転を入れていかないとサービスを維持できなくなる。切実な問題です。 入山:実際、地方へ行くと、年配のタクシードライバーが多いですよね。 鈴木:そうなんです。先日もある地方都市へ行ったら、いつもはすぐ来たタクシーが全然来ない。話を聞くと、3月で数人退職者が出たそうなんです。そうしたら、もうタクシーが全然つかまらないっていう状況で』、「自動運転は地方のタクシー事業者を救う」というのはその通りなのかも知れない。
・『「移動弱者」をどうするか  中島:地方では行きたいところに行けない「移動弱者」が出てしまうという課題が深刻ですね。一方、事業者の方の悩みも深くて、「乗務員を募集しても全然集まりません」とか、「利益が出ません」という声をよく聞きます。公共交通サービスなので簡単にやめるわけにもいきません。ロボタクシーのようなものが地方から進んでいくというのは確かにあるでしょうね。 安田:ただ気になるのは、自動運転車の価格です。自動運転車自体がものすごく高額だったら、多少人件費がかさんでも、人でまかなった方がいいっていうことになります。将来出る製品の価格を予測するのって難しいとは思うんですが、その辺りはどうなのでしょうか』、確かに問題だ。
・『ロボタクシー、車両価格10倍でも利益が出る  鈴木:我々の試算では、本当にドライバーレスにできるなら、車両価格が今の10倍になったとしても、利益が出ます。 入山:そうなんですか。 鈴木:はい。それぐらいやはり人件費って高いんですね。高いだけでなく、そもそも人がいないという問題が深刻なのですが。 中島:タクシー業界のコスト分析をしてみると、人件費はコスト全体の7割を占めています。車両は数%です。 安田:数%か……。それだったら10倍になっても大したことないですね。 中島:自家用車だと1000万円、2000万円となったら、いくら完全自動運転だといってもなかなか買える方はいませんけれどね。商用車であれば車両価格は誤差の範囲です。 入山:なるほど。そういう意味でも、やはり自家用車よりも先に商用車で自動運転は進む可能性が高いですね。我々、自動運転というとやはりテスラのイメージが強くて、「高級車で乗り回すのがステータス」っていう感覚が残っているんですけれど、実態はずいぶん違うということですね。分かりました。 では最後に中島さん、お願いします』、「ロボタクシー、車両価格10倍でも利益が出る」のであれば、大いに期待できそうだ。
・『中島:ちょっと私は路線が違うんですが。「住宅革命」が起こるとみています。 入山:自動運転が普及すると住宅革命が起きると。どういうことですか。 中島:今、日本の都市は駅前中心に経済が成り立っています。マンションでも一軒家でも、駅近の物件価値が高く、駅から同心円状に価格が下がっていきますね。でも自動運転が浸透したら、鉄道を利用しなくてもいい。駅から遠い物件でも、住宅を安い価格で買った分、自動運転のクルマを1000万円で買えばいいっていうことになります。 1960年代にモータリゼーションが起き、マイカーが浸透したら、交通の便が悪かったところにも住宅がたくさんできて地価が上がりました。同じように、自動運転時代になって交通の便が変わると、価値がなかった駅遠の物件価値が上がると思います。ロードサイドに土地をお持ちの方は、そのまま持っていた方がいいんじゃないかと。 入山:なるほど。めっちゃ面白いですね。田舎の辺ぴなところでも、むしろ「景観がいい」とか、別の価値が評価されるようになるかもしれませんね』、「自動運転時代になって交通の便が変わると」、地価のあり方が変わるというのもありそうだ。
・『「そもそも人間に移動は必要ですか?」  中島:こういう変化が起こると、たぶん流通業も飲食業も変わってきます。駅前の一等立地でなくてもいい。自動運転車がデリバリーするのならまさに立地フリーです。「Uber Eats」はそのはしりといえると思います。 安田:今、東京だと駅から15分以上離れた戸建てって、ものすごく不動産価値が落ちてしまいますが、そういうところが逆転する可能性がありますね。 入山:逆に駅の横にあるタワーマンションなんかは、もしかしたら価値があまり高くなくなるかもしれない。今は駅前に物件が集中していますが、もうちょっとフラット化するかもしれないですね。 鈴木:私が住んでいるマンションも駅から遠くて、今は送迎用のバスが出ているんです。管理組合が管理しているんですが、これが大赤字なんですよ。けれど、自動運転ならばコストを下げられて、かつ、もっと本数を増やして利便性を向上できる。おっしゃるように、自動運転との掛け算で不動産の価値って大きく変わってくると思います。 安田:さすが鈴木さん、そこまで先読みされてマンションを購入されたと。 鈴木:いやいや、結果論で(笑)。 入山:今のお話に関連するので、ちょっと読者の方の質問を議論してみたいのですが。情報処理従事者のK.Gotouさんからです。非常に深い質問で、「そもそも移動は必要か」という問題提起です。「人間の脳が満足する事であれば、『仮想の移動体験』で物事は済みそうです」と。「移動することの意味」を問うていらっしゃるんですね。 ちょうどこの「業界未来図鑑」でも、前回シリーズでVR(仮想現実)業界を取り上げました。VRとかAR(拡張現実)が実用化されると、自分が移動しなくてもアバターなんかを使って仮想上でいろいろな交流もできるようになります。こういう便利なものがどんどん出ている中で、移動って本当に我々にとって必要なものなのか。いかがでしょうか。 中島:先日OEMメーカーの技術者の方にお聞きした話なんですが、国家のGDP(国内総生産)が増えると、その国に住む人たちの総移動距離が比例して上がるという相関関係が明確にあるそうなんです。国が発展すると、みんなワサワサ移動するっていうことですね。 ところが最近、GDPが高い国では、GDPが拡大しても総移動距離が増えなくなってきている。おそらく人が移動するまでもなく、例えばアマゾン・ドット・コムでモノを注文できたり、VRで疑似体験できたりするからだろうと』、「最近、GDPが高い国では、GDPが拡大しても総移動距離が増えなくなってきている」、というのは初めて知った。
・『感性に訴える店だけがEコマースに勝つ  入山:人間ではなく、モノや情報の方が移動しているんですね。 中島:そうです。モノとか情報の移動をグラフに足せば、GDPの上昇に比例して伸びていくのだろうと予想できます。では、そもそもなぜ人は移動するのかという目的を考えると、仕事のためだったり、遊びのためだったり、誰かとつながってインタラクションを求めるからですよね。 そのインタラクティブな関係性そのものがGDPに比例して増えるのかもしれません。それがリアルな移動を伴わずにリモートで働けたり、ネット上の交流で満たされたりすると、人の移動は頭打ちになる。 鈴木:そういう側面は確かにあります。ただ人間って生身の生物なので、動かないと、どんどん不健康になります。特に高齢者はそれでなくても家に引きこもりがち。寝たきりになってしまって健康寿命がどんどん短くなってしまうというのは困ります。いかに外に出していくかという意味で、交通弱者の問題はクリティカルですね。 入山:人が動かなくなるからこそ動かす必要があると。 鈴木:そう思います。 中島:私は機能的な移動はどんどんバーチャルになっていくけれど、逆に感性的な移動はどんどん価値を増すと思っています。 入山:なるほど。必要に迫られてする、面倒だけど渋々する移動というのは、バーチャルが代替してくれる。 中島:私たちは地方都市の交通課題を分析するために、実際に現地に行って地元のおじいちゃん、おばあちゃんにお話を伺っています。「買い物、困るんだよね」という話が出るので、「じゃあ、ネットスーパーがあったらいいですか」と話を深掘りすると、「いや、そうじゃない」と。 スーパーまで買い物に行って、ショッピングするのがひとつの楽しみだっていうんです。私もそうですけれど、大きなスーパーに行くとちょっとワクワクしますからね。生身の自分が移動して買い物をしたいという気持ちがある。機能的な移動は効率化され、そういう感性的な移動の価値はどんどん増していくと思います。 安田:逆に言うと、リアル店舗はそういう感性に訴えられるようなお店以外は、eコマース(電子商取引)に徹底的に淘汰されていってしまうかもしれないですね。 入山:確かにそうですね。面白い未来のお話が伺えました。ありがとうございます』、「機能的な移動は効率化され、そういう感性的な移動の価値はどんどん増していく」、というのは面白い指摘だ。そうであれば、運動不足を懸念しなくて済むのかも知れない。いずれにしろ、自動運転の問題はかなり幅広く深い問題のようだ。
タグ:(その3)(対談 自動運転業界:(第1回)無人で走るクルマ 結局いつ実現するの?、(第2回)日本は 自動運転大国になれる、(第3回)自動運転は 社会をどう変える? 4つの予言) 自動運転 「自動運転業界」は4層のレイヤー構造 自動運転とシェアリングは変革のキードライバー 「[議論]日本は、自動運転大国になれる?File3 「自動運転業界」(第2回)」 新興国でモビリティーの「カエル跳び」起きるか MAAS 「[議論]無人で走るクルマ、結局いつ実現するの?File 3 「自動運転業界」(第1回)」 移動のサービス化は力強いトレンド 「レベル3」は自家用車、「レベル4」は商用車に向く 機能的な移動はどんどんバーチャルになっていくけれど、逆に感性的な移動はどんどん価値を増すと思っています ##3→4は、「レベルアップ」ではない 入山 章栄氏ら4名による座談会 『レベル3』が必要な理由、教えてください 完全自動運転化は商用車から始まる タクシードライバーが事故を起こしたら、タクシー会社が責任を取りますよね。それが自動運転車になるだけですから。タクシー会社のビジネス構造からすると変わらない 最近、GDPが高い国では、GDPが拡大しても総移動距離が増えなくなってきている 「そもそも人間に移動は必要ですか?」 自動運転が浸透したら、鉄道を利用しなくてもいい 「住宅革命」が起こる ロボタクシー、車両価格10倍でも利益が出る 「移動弱者」をどうするか 日経ビジネスオンライン 自動運転は地方のタクシー事業者を救う 移動と宿泊のセットには価値がある 自動運転車がホテルを駆逐する? 「[議論]自動運転は、社会をどう変える? 4つの予言 File3 「自動運転業界」(第3回)」 日本は“自動運転大国”になるポテンシャルが高い クルマが出た時も「馬車は使用禁止」とはならなかった ドライバーのいないクルマ、法律はどうとらえるか 技術とか法整備という観点でいうと、「レベル3」と「レベル4」は別物で、横に並べた方が分かりやすいと思います 技術的にも難しいのは「レベル3」みたいですね。人というあいまいなものを検知しながらになるので 2023年までに完全自動運転車が出てくる
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