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日本型経営・組織の問題点(その7)(トヨタが「終身雇用」を諦めてくれた方が日本の労働者の賃金は上がる、相次ぐ脱終身雇用宣言 信頼と責任築く経営哲学いずこに?、NECは新卒1000万 NTTは1億円 研究者待遇 世界基準に) [企業経営]

日本型経営・組織の問題点については、2月12日に取上げた。今日は、(その7)(トヨタが「終身雇用」を諦めてくれた方が日本の労働者の賃金は上がる、相次ぐ脱終身雇用宣言 信頼と責任築く経営哲学いずこに?、NECは新卒1000万 NTTは1億円 研究者待遇 世界基準に)である。

先ずは、ノンフィクションライターの窪田順生氏が5月16日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トヨタが「終身雇用」を諦めてくれた方が日本の労働者の賃金は上がる」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/202493
・『トヨタ社長が「終身雇用を守るのは難しい」と発言をしたことが、ネット上で大騒動になっている。若い世代ほど「終身雇用」への憧れを持っているのだ。しかし、実際には企業が終身雇用を放棄した方が、日本人の賃金は上がる』、本当だろうか。
・『若い世代が憧れる「終身雇用」を無残にも全否定したトヨタ社長  日本企業ではじめて売上高が30兆円を超えたトヨタ自動車が、ネット民からボロカスに叩かれている。  豊田章男・トヨタ自動車社長が、日本自動車工業会の会長という肩書きで臨んだ記者会見で、「終身雇用を守っていくというのは難しい局面に入ってきた」「雇用を続けている企業にインセンティブがあまりない」と述べたことに対して、以下のような批判の声が一部から寄せられているのだ。 「役員報酬を1人平均2億も払えるのなら社員を大事にしろ」「トヨタがそんなことを言い出したら、もう誰も働きたくなくなる」「こんなことを軽々しく言う会社には、もう優秀な新卒がこないだろ」 このご時世、「安定」を求めてトヨタを目指す若者を「優秀」と呼んでいいのかは甚だ疑問ではあるが、怒れる方たちの気持ちはわからんでもない。 オッサン世代は人数が多いだけで、死ぬまで会社にぶら下がって退職金もガッポリともらえているのに、なんでそんな「老害」の尻拭いを下の世代がやらなくてはいけないのだ、という「世代間格差」が露骨にあらわれるテーマであることに加えて、「終身雇用」というのは、多くの人々、特に若い世代にとっては「憧れ」なのだ。 独立行政法人労働政策研究所の「第7回勤労生活に関する調査」(平成28年)によれば、「終身雇用」「年功賃金」を支持する者の割合は、調査を開始した1999年以降、過去最高の87.9%となっている。 と、聞くと、会社に忠誠を誓う中高年リーマンたちの顔を思い浮かべるかもしれないが、この動きを牽引しているのは、意外にも若者だ。20~30代で「終身雇用」「年功賃金」を支持する割合が2007年頃から急激に伸びているという。 どんな会社でもいいから定年退職の日まで雇われたい――。なんて感じで若者たちが抱いた大志を、日本を代表する大企業トップが無情にも握りつぶしてしまったのだ』、「20~30代で「終身雇用」「年功賃金」を支持する割合が2007年頃から急激に伸びている」、というのは派遣など非正規雇用に苦しめられてきたことも背景にあるのだろう。
・『他の先進国の賃金が上昇する中 日本だけが減少した  ただ、気休めを言うわけではないが、若い世代の方たちは、そこまで悲観的になる必要はない。むしろ、トヨタ自動車のように日本社会に大きな影響を与える大企業が「終身雇用」をサッサとギブアップしてくれた方が、日本のためになる。 皆さんの「賃金」が上がっていくからだ。 ご存じのように、日本の労働者はこの20年、仕事は早くてうまくて、賃金はギリギリまで安くという「牛丼スタイル」でコキ使われてきた。 経済協力開発機構(OECD)が試算した働き手1人の1時間あたりの賃金は、この20年でイギリスは87%アップ、アメリカ76%、フランス66%、ドイツ55%と先進国は順調に増えている中で、日本はマイナス9%となっている。 「見たか!これがメイド・イン・ジャパンの底力だ!」と日本製の電化製品を海外に自慢している間に、外国人がドン引きするほどの「労働者軽視国家」になっていたというわけだ。 では、なぜこうなってしまうのか。要因は様々だが、そこには終身雇用システムの根幹をなす「年功賃金」の影響も大きい。 新卒の給料は安く、中堅はまあまあ、ベテランは高給取りという年功序列型給与の企業というのは、基本的に会社に長いこと勤め上げることを前提とした賃金設定となっている。つまり、日本の労働者は、定年まで雇ってくれるという「保障」と引き換えに、若いうちは低賃金でもガマンすることを強いられているのだ。 この傾向は昨日今日に始まったことではなく、戦後の大企業のサラリーマンはずっと「安定」というニンジンをブラ下げられながら、「賃金先送り」で働いてきた』、「働き手1人の1時間あたりの賃金は、この20年でイギリスは87%アップ、アメリカ76%、フランス66%、ドイツ55%と先進国は順調に増えている中で、日本はマイナス9%となっている」、とのOECD試算には驚かされた。ただ、要因として、「終身雇用システムの根幹をなす「年功賃金」の影響も大きい」との指摘はいささか乱暴だ。為替の影響などもっと多面的にみるべきだろう。もっとも、「戦後の大企業のサラリーマンはずっと「安定」というニンジンをブラ下げられながら、「賃金先送り」で働いてきた」、との指摘はその通りだ。
・『低賃金でもニコニコできたのは終身雇用を前提とした社会だから  わかりやすいのは1974年、不況が長引く中で、一部製造業で「中間管理職に減給旋風」(読売新聞1974年11月14日)が起きた時だ。 普通の国の労働者なら「なぜ俺らだけ」「経営者のクビをとれ」と大騒ぎになるのだが、当時、大企業の中間管理職の多くはこれを素直に受け入れた。それどころか、自主的に給料の10%を返上する“サラリーマンの鑑“も現れたという。この背景に、定年まで雇ってもらえるという「保障」があるのは明らかだ。 「終身雇用を建前にして、会社自身が“社会福祉団体”である日本では、なかなか荒療治がやりにくい。そこで失業者を出さないかわりに、ある程度の賃金カットは耐え忍んでもらいたいということになるわけで、帰属意識の強い管理職には、どの会社にも多かれ少なかれ、こうしたことを受け入れる下地があるようだ」(同上) では、日本人を低賃金でもニコニコさせてきた、この「保障」がなくなったらどうなるか?将来が不安だから、もっと給料を上げろという怒りの声が持ち上がるのは当然だ。優秀な人はどんどん条件のいい会社へ移ってしまうので、企業側も賃上げせざるを得なくなるのだ。 もしトヨタが、終身雇用をギブアップすれば当然、トヨタで働く人たちの賃金は上がっていく。横並びが基本の日本では、他の製造業も同じような動きが出る。大企業がそうなれば、優秀な人材の流出を食い止めるためにも、中小企業も賃上げをしなくてはいけない。そうなると、賃上げのできない経営能力の乏しい経営者や、ブラック企業は自然に淘汰されていくので、労働者の環境も改善されていくというわけだ。 という話をすると、「そんなにうまくいくわけがないだろ!終身雇用がなくなったら街に50~60代の失業者が溢れかえるし、将来を安心して働くことができないので日本企業の競争力も落ちるぞ!」と、まるでこの世の終わりのように大騒ぎをする人がいるが、そういうことには断じてならない。 実は日本の「終身雇用」というのは、実態とかけ離れて過大評価されている部分が多々あるからだ』、「優秀な人はどんどん条件のいい会社へ移ってしまう」、というほど日本の労働市場は流動化してないし、「終身雇用をギブアップすれば当然、トヨタで働く人たちの賃金は上がっていく」、」との見立ても乱暴過ぎる。豊田章男社長は、そこまで甘くない筈だ。
・実は終身雇用は単なるスローガン  内閣府の「日本経済2017-2018」で、学校卒業後に就職して会社に定年まで勤める、いわゆる「一企業キャリア」を歩む人がどれほどいるかを以下のように紹介している。 《就業経験のある男性の79%は初職が正規であるが、そのうち一度も退職することなく「終身雇用」パスを歩んでいる男性(退職回数0回)は、30代で48%、40代で38%、50代で34%である》 《正規で入職した女性のうち、「終身雇用」パスを歩んでいるのは50代で7%程度でしかなく、労働市場から退出した割合も高い》 50代まで1つの会社に勤め上げる日本人は大企業などのほんの一握りで、大多数は他の先進国の労働者と同様に、「定年まで雇ってくれる会社」という理想郷を追い求めながら、自助努力で転職を重ねているのが現実なのだ。つまり、9割近い日本人がもてはやす「終身雇用」だが、実は大多数の人は享受することはない制度であって、スローガンのようなものなのだ。 この傾向はバブル期もそんなに変わっていないし、それ以前も然りである。松下幸之助だ、大家族主義だという一部大企業の特徴的な雇用制度が、マスコミで喧伝されるうちに1人歩きして、何やら日本社会全体の代名詞のようにミスリードされてしまっただけの話なのだ。 もっと言ってしまうと、これは日本人の発明ではない。 終身雇用のルーツは大正あたりだといわれているが、今のような完成形に近づいたのは、1938年に制定された「国家総動員法」である。その前後の「会社利益配当及資金融通令」や「会社経理統制令」で株主や役員の力が剥奪され、とにかく生産力を上げるために企業という共同体に国民を縛り付けておくひとつの手段として、終身雇用も始まった。 では、これは日本オリジナルの発想かというと、そうではない。ソ連の計画経済をドイツ経由でまんまパクったものだ。国が経済発展を計画的に進める中、国民は国が規制をする企業に身を投じて一生涯、同じ仕事をする、というソ連モデルを、時の日本の権力者たちが採用した。それが、集団主義が大好きな日本人にピタッとハマったのである。 要するに、「終身雇用」は日本式経営でもなんでもなく、単に戦時体制時に導入した社会主義的システムをいまだにズルズルとひきずっているだけなのだ。そして、実際には形骸化している終身雇用に安心感を持ち、低賃金も喜んで受け入れてきた、というのが日本人の正しい姿なのである。 よく最近の日本は右傾化しているという指摘があるが、先ほど紹介したように、最近の若者は死ぬまで雇われたいという思いが年々強くなっている。愛国だ、日本は世界一と叫びながら、経済に対する考え方はどんどん左傾化しているのだ。 「最も成功した社会主義」なんて揶揄される日本が、果たして終身雇用という、実態から乖離したイデオロギーから脱却できるのか。注目したい』、「終身雇用は単なるスローガン」、というのはむしろ共同幻想に近いと思う。「経済に対する考え方はどんどん左傾化している」、というのは、前述の「非正規雇用に苦しめられてきたこと」の裏返しなのではなかろうか。いずれにしても、変化には年月がかかるだろうが、最終的な着地点がどうなるかは要注目だ。

次に、健康社会学者(Ph.D.)の河合 薫氏が5月21日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「相次ぐ脱終身雇用宣言、信頼と責任築く経営哲学いずこに?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00024/?P=1
・『今回は「信頼と責任」について、あれこれ考えてみようと思う。 トヨタ自動車の豊田章男社長の「終身雇用決別宣言」が、物議をかもしている。日本自動車工業会の会長として行った記者会見で、「今の日本(の労働環境)を見ていると雇用をずっと続けている企業へのインセンティブがあまりない」と指摘し、「現状のままでは終身雇用の継続が難しい」との見解を明かしたのだ。 トヨタ自動車といえば、3月期の連結決算(米国会計基準)での売上高が前年比2.9%増の30兆2256億円となり、日本企業として初めて30兆円を超えた名実ともに日本を代表する企業である。 が、実際には日本の企業であって日本の企業ではない。国内生産のうち半分以上は輸出だし、トヨタ本体の社員数はすでに日本人よりも外国人のほうが多い。 つまり、トヨタは「MADE BY TOYOTA」というフレーズが象徴するように、グローバル企業であり、先の豊田社長の言葉を私なりに翻訳すると、「あのね、グローバル的には“終身雇用”という概念はないの。日本人だけ雇用し続けるっておかしいでしょ? だからさ、日本人の社員も、“〇〇歳まで会社にいられるし〜”とか思わないでね」ということなのだろう』、河合氏の「翻訳」は、見事に本音を言い当てている。
・『終身雇用はもう限界  いずれにせよ、終身雇用を巡っては、経団連の中西宏明会長も(日立製作所会長)も7日の定例会見で、「企業からみると(従業員を)一生雇い続ける保証書を持っているわけではない。制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが限界になっている」と発言。 経済同友会の桜田謙悟代表幹事も14日の記者会見で、「昭和の時代は、大変よく機能したと思う。ただ、経済そのものが大きく変革してしまった中で、終身雇用という制度をとらえるとすれば、やはり『制度疲労』を起こしている可能性があるので、もたないと、わたしは思っている」と述べるなど、今月に入って立て続けに終身雇用決別宣言が頻発している。 相次ぐ経済界のトップ中のトップの重鎮たちのコメントに、 「その前に賃金を上げろよ!」「役員報酬減らせばいいだけだろ!」「この人たちみんな終身雇用の恩恵を受けた人たちだろ!」「結局は安い賃金で、若くて、使い勝手のいい社員が欲しいだけだろ!」と批判が殺到している。 残念ながら終身雇用は“絶滅危惧種”から“絶滅種”になる。 10年以上前から企業は「希望退職」という名のリストラを行い、定年前に役職定年という「予期的期間」を設け、「セカンドキャリア研修」という名の肩たたき研修を行い、終身雇用脱却を狙ってきたけど、今回の発言で明治時代に起源をもち、昭和期に甘美な香りを漂わせてきた「終身雇用」は死滅するのだ。 私はこれまで「長期雇用」の重要性を何度も指摘してきた。理由は何度も書いてきたとおり、それが人間の生きる力の土台となり、すべての人が秘めるたくましさを引き出すからに他ならない。 であるからして、今回の「終身雇用決別宣言」には、ある種の絶望感なるものを感じている。 そして、働く人たちとの信頼関係で成立してきた長期雇用(終身雇用)という心理的契約を語るのに、 「雇用をずっと続けている企業へのインセンティブがない」(by 豊田社長) 「一生雇い続ける保証書を持っているわけではない」(by 中西会長) などと、インセンティブ、保証書というワードを用いたことに、心がひどくきしんでいる。 いずれの方たちも、トヨタ自動車、日立製作所、SOMPOホールディングスといった日本を代表する企業のトップに上りつめた人たちで、色々な角度から経営を考え、チャンレジし、未来を見据えた上での発言だとは思う』、同感だ。
・『長期雇用は雇用制度ではなく「経営哲学」  だが、なぜ、ひとこと「ただし、戦力となる社員は65歳だろうと、70歳だろうと年齢に関係なく雇用し続ける」と断言してくれなかったのか? なぜ「50代だろうと60代だろうと、我が社が求めるスキルを持っている人は年齢に関係なく新規採用する」と明言してくれなかったのか? それが残念でしかたがないのである。 失礼ついでに言わせていただけば、経済界のトップの方たちは、長期雇用(終身雇用)を制度と考えているようだが、長期雇用は雇用制度ではなく「経営哲学」である。 働く人たちが安全に暮らせるようにすることを企業の最大の目的と考えた経営者が、「人」の可能性を信じた。それは社員と家族が路頭に迷わないようにすることであり、その経営者の思いが従業員の「この会社でがんばって働こう。この会社の戦力になりたい!」という前向きな力を引き出し、企業としての存続を可能にしていたのではないか。 人間は、相手との関係性の中で行動を決める厄介な動物である。 「自分を信頼してくれている」と感じる相手には信頼に値する行動を示し、「自分を大切にしてくれている」と感じる相手には精いっぱいの誠意を尽くす。信頼の上に信頼は生まれるのであって、不信が信頼を生み出すことはない。 トヨタの会長だった奥田碩氏が、機会ある度に「解雇は企業家にとって最悪の選択。株価のために雇用を犠牲にしてはならない」と語り、経団連会長として「人間の顔をした市場経済」という言葉を掲げたのも、「長期雇用は日本株式会社の背骨」という経営哲学があったからではないのか。 そもそも「終身雇用」という言葉の生みの親とされる米国の経営学者ジェームズ・C・アベグレン博士は、Lifetime commitment という言葉を用い、「企業は単なる市場労働の場ではなく、社会組織であり、共同体であり、そこで働く人たちが安全に暮らせるようにすることを最大の目的としている」と説いた(『日本の経営』1958年)。それは働く人を、非人格化していた米国の企業への警鐘でもあった。 そもそも、会社=COMPANYは、「ともに(COM)パン(Pains)を食べる仲間(Y)」であり、一緒に行動する集団である。その集団の機能を発揮するには「つながり」が必要不可欠だ。 Lifetime commitment(=長期雇用) は、いわば企業に内在する“目に見えない力”であるつながりを育むための時間と空間への投資であり、つながりが育まれることで、自分のプライベートな目的の達成を気にかける個人の集団ではなく、協働する組織が誕生する。 私がこれまで講演会や取材でお邪魔した1000社を優に超える企業でも、高い生産性をキープし続けている長寿企業は、例外なく長期雇用を前提としていた』、奥田碩元経団連会長が「長期雇用」を重視していたとはさすがだ。アベグレン博士の指摘も適格だ。
・『雇用を生む仕事を作るのが経営者の仕事  経済界で「終身雇用制度をやめるべし」という議論が出はじめた1990年代初頭にOECD(経済協力開発機構)が行った労働市場の調査でも、米国や英国では流動的な労働市場が成立している一方で、ドイツやフランスは、日本と同じように企業定着率の高い長期雇用慣行が形成されていることがわかっている。 私の尊敬する経済学者であり、トヨタの研究でも知られる東京大学大学院経済学研究科の藤本隆宏先生も、「カネ、カネ、カネの経営は古い。経済の最先端は人だ」と断言し、「現場の人を大切にする、経営者は従業員を絶対に切らないように走り回る。仕事が無けりゃ、仕事を作るのが経営者の仕事だ」と、世界中の現場を見て回った経験を交え、明言する。 つまるところ、問題は「長期雇用」にあるのではなく、長期雇用の利点を引き出すリソースを働く人たちに与えていないことが原因になっているのではないか。そう思えてならないのである。 たとえば、日本企業は「意思決定をしない」あるいは「意思決定が遅い」と酷評されることが多い。 「現地で検討されていることでも、日本は本社の役員会議のタイミングが優先され、検討は後回しになる。段々とこちら側もやる気をなくして、盛り上がっていた現場が沈滞する。裁量権を与えられてないマネジャーの存在意義がわからない。もっとリーダーとしての権限を与えないと日本企業は生き残れない」 こういった話を、海外に赴任している人や、海外の日本法人に勤める人たちから、何度も聞かされてきた。 現場に責任は負わせるけど、現場に裁量権は与えない。そんな組織風土も長期雇用の利点を相殺しているのではないか。 あるいは日本企業は「ラインの決定事項ばかりが優先され、現場のプロフェッショナルの意見に耳を傾けない。専門スタッフと経営スタッフはパートナーなのに日本企業では上下関係。日本にはプロという概念がないのか」というボヤキも幾度となく聞いた。 また、外資系は確かに業績が悪化すると「〇%リストラせよ」という指示が、トップから出されることがあるが、人事制度は日本の企業よりはるかに柔軟で、周りとの人間関係や信頼関係なども評価するケースが多い。働く人が「やりたい」と手を上げれば、それを徹底的にフォローし、教育に投資する制度もある。 マネジメントに進むか、専門職に進むかの選択も早い時期に行われ、それぞれにきちんとした教育を行い、評価し、その成果を発揮する機会もある。定年制は年齢差別になるので存在しないが、長期雇用を前提としている企業は2000年以降、確実に増えた』、「仕事が無けりゃ、仕事を作るのが経営者の仕事だ」との藤本隆宏先生の指摘や、「問題は「長期雇用」にあるのではなく、長期雇用の利点を引き出すリソースを働く人たちに与えていないことが原因になっているのではないか」、というのには諸手を上げて賛成だ。
・『人材重視の経営が収益を生み出す  長期雇用を悪の根源と考えるよりも、社員の能力形成への努力をしてほしい。なぜならどんなに先行研究を探しても「長期雇用が会社の生産性を下げる」エビデンスは見当たらないし、人材重視の経営が結果的に企業の収益を生み出す最良の選択であることは明白だからである。 ただ、本当にただ、終身雇用廃止宣言に踏み切ったトップたちの気持ちも少しだけわかる。というか、経営側だけを責める気になれないという、正直な気持ちがある。 将来が混沌とする社会状況を鑑み、定年まで「死んだふり」をする会社員は増殖しているし、「終身雇用を前提とした会社の正社員になりたい」という若者も増えた。会社にい続けること、会社員でいること自体を目的とする「会社員という病」にかかっている人たちがこの数年で増えたとも感じるからである。 独立行政法人労働政策研究・研修機構の「第7回勤労生活に関する調査」(平成28年)によれば、「終身雇用」「年功賃金」を支持する者の割合は、調査を開始した1999年以降、過去最高の87.9%に達している。「組織との一体感」「年功賃金」を支持する割合もそれぞれ、88.9%、76.3%と過去最高で、特に20~30歳代で、「終身雇用」「年功賃金」の支持割合が2007年から急激に伸びた。 また、1つの企業に長く勤めて管理的な地位や専門家になるキャリアを望む者(「一企業キャリア」)の割合は 50.9%。2007 年調査では年齢階層別でもっとも支持率が低かった 20歳代が、半数を超え54.8% と、もっとも高い支持率となった。 時系列に見ると、「一企業キャリア」を選択する割合が ゆるやかな上昇傾向を示す一方、「複数企業キャリア」「独立自営キャリア」を望む割合は低下傾向を示していた。 長期雇用を望む人が増えること自体に問題はないが、長く雇用されるには自らにも「責任」を果たす必要があることをわかっているのか? とちょっとばかり疑問なのだ』、確かに、正社員たちが既得権益の確保だけに目を向けるのは問題だ。
・『雇用される側にも「責任」が生じる  長期雇用は健康社会学的には「職務保証(=job security)」と呼ばれ、職務保証とは、 第1に、「会社のルールに違反しない限り、解雇されない、という落ち着いた確信をもてる」 第2に、「その働く人の職種や事業部門が、対案の予知も計画もないままに消滅することはない、と確信をもてる」 と働く人が感じることで成立する。 真の職務保証とは、「今日と同じ明日がある」という安心であり、自分も「ルールに違反しない」という責任を全うすることが必要不可欠。 にもかかわらず、責任を放棄し「〇〇歳まで会社にいられる」と“かりそめの安心”に身を委ね、働き方改革を逆手にちょっとでもプレッシャーをかけられようものなら、パワハラだの、ブラック企業だのと企業側を批判する輩も存在する。 今の日本企業に本当に必要なのは、企業と働く人が「信頼と責任」でつながること。そのためにも、企業側は働く人に「あなたは我が社にとって大切な人」というメッセージを送り続けてほしい。 職務保証は、経営者が働く人を尊重し、「人」と接することで機能する心理的契約である。 今回の経済界たちの重鎮の「終身雇用決別宣言」が、企業と働く人たちがもう一度「真の職務保証とは何か? それを実現するには何をすればいいのか?」という問題意識につながればいいなぁと、切に願っている』、前向きないい提言だ。

第三に、7月12日付け日経ビジネスオンライン「NECは新卒1000万、NTTは1億円 研究者待遇、世界基準に」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00019/071100074/?P=1
・『日本企業が最先端のエンジニアや研究者の待遇改善に乗り出している。日本では給料や昇進の面では文系優位と言われる。一方、米シリコンバレーなど世界の潮流は理系やエンジニア優位だ。 こうした中、NTTがスター研究者に年1億円の報酬を出すことが明らかになり、話題となっている。7月8日、NTTはシリコンバレーの3つの研究所で先端研究に乗り出すことを披露する式典を開催した。それに先だってインタビューに応じたNTTの澤田純社長は「研究者の報酬は米国現地の水準に合わせていく。日本ではエキスパートでも年収2000万円程度だが、その5倍を超えるケースも出てくるだろう」と明かした。つまりスター研究者には、1億円以上の報酬を出す用意があると言うのだ。 日本の会社員にとっては夢のような金額かもしれない。だが、シリコンバレーのスター中のスターのエンジニアにとって1億円は十分な報酬ではない。 例えば、GAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)などでは、人工知能(AI)分野で著名なエンジニアであれば、1年あたり株式も含めて200万ドル(約2億2000万円)程度の報酬も普通とされている。米オラクルが人工知能(AI)のトップエンジニアに年600万ドル(約6億6000万円)を提示したことが話題になった。 NTTはこれまでシリコンバレーの研究開発拠点でクラウドコンピューティングやセキュリティー、AIの一分野である機械学習やIoTなど、まさにGAFAと真っ向勝負の分野を手掛けてきた。新しい研究所では対象とする分野や実用化までの時期を変え、シリコンバレーで新たな人材エコシステムの構築を図る。 澤田社長は「量子コンピューター、暗号情報理論、生体情報処理の3分野で10年後以降の将来を見据えた理論的な部分を対象とした基礎研究に取り組んでいく。社員になってもらう方もいるかもしれないが、人的ネットワークをつくってアライアンスもしていく。研究者がいるところには研究所のブランチもつくっていきたい」と説明する。 シリコンバレーに駐在し、3研究所を束ねるNTT Researchの五味和洋社長兼CEO(最高経営責任者)は「各研究所長などを起点に、人が人を呼ぶ循環を作っていきたいと考えている。NTTが築いてきたR&D(研究開発)の歴史も説明することで、共感した方が何人か来てくれている」と言う。 例えば、量子コンピューターなど次世代のコンピューティングに欠かせない物理学と情報学の基礎技術を研究する「Φ Laboratories」の所長には、内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)プログラム・マネージャーの山本喜久氏を招へいした。スタンフォード大学の応用物理学科・電気工学科の教授も務めた経歴を持ち、量子分野で有名な賞を複数受賞している。 GAFAのような派手な買収戦略はとらないという。「大学の研究室を人材ごと買収してしまうケースもあるが、その時点で大学との関係が切れてしまう。大学に在籍したまま連携していただくこともあるだろう」(NTTの川添雄彦・取締役研究企画部門長)。買収には資金も必要な上、買収後のマネジメントにも労力がかかる』、NTTのようにシリコンバレーで最先端研究をするのであれば、給与は現地事情に合わせるのは当然だ。ただ、現地のマネジャーが、彼らを上手くマネージできるのかには疑問も残る。
・『NECの最年少主席研究員はシリコンバレーで独立  一方、NTTとほぼ時を同じくして、NECが今年10月に人事制度を改定し、新入社員でも1000万円以上の年収を得られるようにすることが明らかになった。 NECは2018年にシリコンバレーの研究所で大きな出来事があった。機械学習で世界的にも有名なエンジニアである藤巻遼平氏とそのチームが研究所からごっそりと抜けたのだ。藤巻氏が新会社のドットデータ(dotData)をカーブアウト(事業の一部などを切り離して独立させること)で立ち上げた。詳細は非公開だがNECは株主として関係を保っている。 NECは藤巻氏を同社では史上最年少となる33歳で研究員の最高位である主席研究員に据えて、報酬面でも役員と同等レベルで処遇していた。ただ「AI・機械学習の分野でシリコンバレーの大手やスタートアップと渡り合っていくには、日本の大企業の組織では難しい面がある。一方で日本のスタートアップがシリコンバレーで新規に顧客を開拓するのも難しい」(藤巻氏)として、NECとの関係を保ちつつ、シリコンバレーで世界に打って出る道を選んだ。 滑り出しは好調のようだ。「シリコンバレーや米国内からもエンジニアなどが応募してくれるようになってきた」(藤巻氏)。2019年6月末には米調査会社フォレスター・リサーチのリポートで、自動化機械学習ソリューション分野のマーケットでリーダー的なポジションにある3社のうちの1社であると評価された。別の1社はこの分野で世界的にも有名になった米データロボットだ。 藤巻氏は「NECには第2の藤巻が出てくる流れをつくってほしい」と常々発言している。NECの1000万円スター新入社員はそのきっかけになるかもしれない。GAFAは大卒で1500万円以上の収入があるとされる。500万~600万円程度の日本の大手企業の新卒給与とのギャップはかなり埋まる。 NECがスター新入社員に1000万円を提示する以上、社内の優秀なエンジニアの賃金水準の見直しも必至だろう。実際、今回の制度改定は新入社員だけでなく、若手を対象にしたものだという。また、国内での優秀な人材の獲得競争を受けて、他社が追随していく可能性もありそうだ。 日本の伝統的な大企業であるNTTとNECが賃金水準だけでなく研究内容で世界基準をクリアできるか。それは日本全体の競争力にもつながる課題である。 まずは世界的に著名な学会でのプレゼンスを上げていくべきだろう。AIの学会ではGAFAや中国のテックジャイアントであるBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)が幅をきかせている。既にNTTが掲げる大学との連携も実現している。 量子コンピューターなどはグーグルも研究開発に取り組んでいる。NTTは基礎研究とはいえ重なる分野も出てくるだろう。それまでに世界的な地位を確立できているか。残された時間は意外と少ない』、「NECがスター新入社員に1000万円を提示する以上、社内の優秀なエンジニアの賃金水準の見直しも必至だろう」、と簡単に書いているが、これは実は難題の筈だ。無論、スター新入社員は終身雇用の対象外だろうが、どのような職種、事業部門まで対象を広げるのか、お手並み拝見といきたい。
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